(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1の救急車用防振架台は、振動吸収による乗り心地の改善等を図ることができるものであるが、主として上下方向の振動抑制機能を果たす振動吸収機構と主として前後方向の振動抑制機能を果たす振動吸収機構とがそれぞれ別々に設けられた構造であると共に、いずれも複雑な構造のものを用いており、重量増加の原因ともなっている。本出願人はこの点に鑑み、特願2011−125805号として、四節回転連鎖の運動軌跡に従って上部フレームが揺動し、片振り子運動に変換して上下又は前後の入力振動を吸収する救急車防振架台を提案している。この救急車防振架台は、その運動軌跡の中で略水平姿勢をとる位置を有する一方、その位置以外では前方側が後方側よりも上方に位置する傾斜姿勢となるように揺動する構造であり、振動入吸収性が高いと共に、ノーズダイブの抑制効果も高いものである。
【0005】
特許文献2に開示のロック機構は、上部フレームが常に略水平姿勢を保持したまま、上下及び前後に揺動する救急車用防振架台に適用するものであるため、上部フレームを適宜の位置でロックさせることができればよい。しかし、特願2011−125805号では、略水平姿勢になっているセントロードの上死点を除いた位置では、常に傾斜姿勢である。従って、心臓マッサージ等を施す際の上部フレームの揺動を止めるための操作を適宜の揺動位置で行うと、上部フレームがベースフレームに対して傾斜状態のままロックされる場合が生じ得る。一方、ストレッチャ自体は、上部フレームに載置された後、ストレッチャ固定手段によって該上部フレームに固定されている。そのため、仮に、上部フレームの揺動を止めるための操作が傾斜状態のままで行われ、そのまま、救急車が病院等に到着してリヤハッチを開けてストレッチャ固定手段の解除操作を行ってしまうと、上部フレームが傾斜したままなので、ストレッチャが傾斜方向に沿って飛び出てしまう可能性がある。また、ストレッチャの積み卸し時は、上部フレームが傾斜姿勢で固定されているよりも、略水平姿勢で固定されている方が作業を行いやすい。
【0006】
本発明は上記に鑑みなされたものであり、傾斜姿勢と略水平姿勢となる四節回転連鎖の運動軌跡に沿って揺動可能な上部フレームを、必要な場合に簡易な操作で、略水平姿勢で保持することができる
上部フレーム位置保持構造を備えた救急車用防振架台を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明の上部フレーム位置保持構造は、ベースフレームに対して、前方側に位置する前部リンク機構と後方側に位置する後部リンク機構とを備えてなるリンク機構を介して取り付けられ、前記リンク機構により、四節回転連鎖の運動軌跡に沿って揺動可能であり、その運動軌跡の中で略水平姿勢をとる位置を有する一方、その位置以外では前方側が後方側よりも上方に位置する傾斜姿勢となるストレッチャ支持用の上部フレームを有する救急車防振架台に用いられる上部フレーム位置保持構造であって、前記上部フレームの前記運動軌跡中の位置に拘わらず、前記上部フレームを略水平姿勢に変位させた状態で前記リンク機構をロックする救急車防振架台に用いられる。
【0008】
本発明の上部フレーム位置保持構造は、外力が付与されることにより、前記上部フレームの前方側を下降させながら後方に変位させて略水平姿勢にする操作部材を有すると共に、略水平姿勢になった状態で前記前部リンク機構をロックし、前記上部フレームを略水平姿勢で保持する前部リンク機構制御手段を有してなることが好ましい。前記前部リンク機構制御手段は、前記操作部材に、押し下げる方向への外力が付与されると、前記上部フレームの前方側を下降させながら後方に変位させる構成であることが好ましい。
【0009】
前記前部リンク機構として、前記ベースフレームに上方に向かって突設されたベース側前部ブラケットと、前記上部フレームに下方に向かって突設された上部側前部ブラケットとを有し、かつ、前記上部側前部ブラケットはその下部が可動範囲において前記ベース側前部ブラケットの上部よりも下方に位置するように配置され、前記上部側前部ブラケットの下部と前記ベース側前部ブラケットの上部との間に軸支され、略水平姿勢となる方向に変位するに従って、前記ベース側前部ブラケットの上部との軸支位置を中心として、前記上部側前部ブラケットの下部との軸支位置が後方に回動して起立方向に変位する前部リンク部材を有してなるものが用いられ、前記後部リンク機構として、前記ベースフレームに下端が軸支され、前記上部フレームに上端が軸支され、略水平姿勢となる方向に変位するに従って、下端を中心として上端側が後方に回動して起立方向に変位する後部リンク部材を有してなるものが用いられ、前記前部リンク機構制御手段が、前記前部リンク部材を前記上部側前部ブラケットの下部に軸支させる支軸に取り付けられ、前方に回動することにより、前記支軸を介して、前記前部リンク部材を、前記ベース側前部ブラケットの上部との軸支位置を中心として起立方向に回動させる被係合部と、前記被係合部の前方への回動により前記被係合部に係合する係合部を備えたロック部材とを有し、前記操作部材に、押し下げる方向への外力が付与されると前記ロック部材の前記係合部を前記被係合部に係合させるように動作する構成であることが好ましい。
【0010】
前記被係合部が、前記支軸に固定されたローラ用ブラケットと、前記ローラ用ブラケットに回転可能に支持されるローラとを有して構成され、前記ロック部材が、前記係合部としての溝部を有すると共に、この溝部に隣接して設けられ、前記被係合部の前記ローラに当接可能なガイド面を有して構成され、前記操作部材が押し下げられることにより、前記前部リンク部材が起立方向に回動して前記上部フレームを略水平姿勢に変位させていくと共に、前記ロック部材が上方向から後方下方向に回転し、前記ローラに前記ガイド面が当接し、前記ローラが前記ガイド面に沿って相対的に変位して前記溝部に係合する構成であることが好ましい。
【0011】
本発明の上部フレーム位置保持構造は、外力が付与されることにより、前記上部フレームの後方側を上昇させながら後方に変位させて略水平姿勢にする操作部材を有すると共に、略水平姿勢になった状態で前記後部リンク機構をロックし、前記上部フレームを略水平姿勢で保持する後部リンク機構制御手段を有してなる構成とすることがまた好ましい。前記後部リンク機構制御手段は、前記操作部材に、後方に引き出す方向への外力が付与されると、前記上部フレームの後方側を上昇させながら後方に変位させる構成であることが好ましい。
【0012】
前記前部リンク機構として、前記ベースフレームに上方に向かって突設されたベース側前部ブラケットと、前記上部フレームに下方に向かって突設された上部側前部ブラケットとを有し、かつ、前記上部側前部ブラケットはその下部が可動範囲において前記ベース側前部ブラケットの上部よりも下方に位置するように配置され、前記上部側前部ブラケットの下部と前記ベース側前部ブラケットの上部との間に軸支され、略水平姿勢となる方向に変位するに従って、前記ベース側前部ブラケットの上部との軸支位置を中心として、前記上部側前部ブラケットの下部との軸支位置が後方に回動して起立方向に変位する前部リンク部材を有してなるものが用いられ、前記後部リンク機構として、前記ベースフレームに下端が軸支され、前記上部フレームに上端が軸支され、略水平姿勢となる方向に変位するに従って、下端を中心として上端側が後方に回動して起立方向に変位する後部リンク部材を有してなるものが用いられ、前記後部リンク機構制御手段が、前記後部リンク部材の上端と共に前記上部フレームに上端が軸支され、下端寄りの中途部が前記後部リンク部材の支軸に当接可能な回動部材と、前記上部フレームの後部側において、起立位置から後方に傾倒可能に設けられた前記操作部材としてのスロープと、前記スロープにおける前記上部フレームとの軸支位置に一端が軸支されると共に、他端が前記スロープの起立位置で下方に延びる姿勢で設けられ、前記スロープの動きに伴って起立位置と傾倒位置との間で変位するプレート部材と、一端が前記回動部材の下端に軸支され、他端が前記プレート部材の他端に軸支されたロッド部材とを有し、前記スロープを傾倒させて前記上部フレームを後方に引き出す外力が付与されることにより、前記プレート部材が回動し、前記ロッド部材に対して略垂直となる起立位置から、前記ロッド部材と略一直線上となる傾倒位置へと変位させると共に、前記後部リンク部材を起立させる方向に変位させ、前記回動部材の前記中途部を前記支軸に当接させることにより、前記上部フレームを略水平姿勢で保持する構成であることが好ましい。
【0013】
本発明の救急車用防振架台は、ベースフレームと、前記ベースフレームにリンク機構を介して取り付けられ、前記ベースフレームに対して上下及び前後に揺動可能な上部フレームとを備え、前記上部フレーム上でストレッチャを支持する救急車用防振架台であって、前記リンク機構は、前記ベースフレームと前記上部フレームの各前方側に位置する前部リンク機構と各後方側に位置する後部リンク機構とを備え、前記上部フレームは、前記リンク機構により、四節回転連鎖の運動軌跡に沿って揺動可能であり、その運動軌跡の中で略水平姿勢をとる位置を有する一方、その位置以外では前方側が後方側よりも上方に位置する傾斜姿勢となり、上下又は前後の入力振動を、前記四節回転連鎖の運動軌跡に沿った片振り子運動に変換して吸収する構成であり、かつ、前記いずれかの上部フレーム位置保持構造を有することを特徴とする。
【0014】
前記四節回転連鎖のセントロードが、上死点から下死点まで前記上部フレームの重心を通る仮想線に略一致するように設定されていることが好ましい。前記下死点における傾斜姿勢は、水平に対し、前方側が3〜10度の範囲で上方に傾斜した傾斜角度となるように設定されていることが好ましい。
【0015】
前記前部リンク機構は、前記ベースフレームに上方に向かって突設されたベース側前部ブラケットと、前記上部フレームに下方に向かって突設された上部側前部ブラケットとを有し、かつ、前記上部側前部ブラケットはその下部が可動範囲において前記ベース側前部ブラケットの上部よりも下方に位置するように配置され、前記上部側前部ブラケットの下部と前記ベース側前部ブラケットの上部との間に軸支され、略水平姿勢となる方向に変位するに従って、前記ベース側前部ブラケットの上部との軸支位置を中心として、前記上部側前部ブラケットの下部との軸支位置が後方に回動して起立方向に変位する前部リンク部材を有してなり、前記後部リンク機構は、前記ベースフレームに下端が軸支され、前記上部フレームに上端が軸支され、略水平姿勢となる方向に変位するに従って、下端を中心として上端側が後方に回動して起立方向に変位する後部リンク部材を有してなることが好ましい。
【0016】
前記ベースフレーム又は上部フレームの一方に連結され、所定間隔おいて配置される永久磁石と、前記永久磁石間を摺動可能であり、前記ベースフレーム又は上部フレームの他方に連結される可動側永久磁石とを備えてなる磁気バネを有する構成とすることが好ましい。
【0017】
前記ベースフレーム及び上部フレーム間の振動を吸収する振動吸収機構がさらに設けられ、前記振動吸収機構は、次のa)〜c)のダンパ:
a) 前記ベースフレーム又は上部フレームの一方に連結され、所定間隔おいて配置される永久磁石と、前記永久磁石間を摺動可能であり、前記ベースフレーム又は上部フレームの他方に連結される導体とを備えてなる鎖交磁界型磁気ダンパ、
b) 前記ベースフレーム又は上部フレームの一方に連結されるシリンダと、前記シリンダ内を軸方向に往復動可能に挿入され、前記ベースフレーム又は上部フレームの他方に連結されるピストンとを備えてなり、前記シリンダは、筒状の導体と、前記導体の外周面を被覆するヨークとを備えてなり、前記ピストンは、前記シリンダの軸方向に沿って同極同士を対向させて配置した複数の永久磁石と、隣接する前記永久磁石間に配設されるヨークとを備えてなる磁束集束型磁気ダンパ、又は、
c) 前記ベースフレーム又は上部フレームの一方に連結されるシリンダと、前記シリンダ内を軸方向に往復動可能に挿入され、前記ベースフレーム又は上部フレームの他方に連結されるピストンとを備えてなるオイルダンパ
のうち、いずれか少なくとも一つのダンパを有してなることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の上部フレーム位置保持構造によれば、傾斜姿勢と略水平姿勢との間で、四節回転連鎖の運動軌跡に沿って揺動可能な上部フレームを、強制的に略水平姿勢に変位させて保持することができる。このため、心臓マッサージ等の所定の処置を行う場合、ストレッチャの積み卸しを行う場合等、必要な場合に、上部フレームが四節回転連鎖の運動軌跡中のいずれの位置にあっても、容易に上部フレームを略水平姿勢にすることができる。
【0019】
上部フレーム位置保持構造として、前部リンク機構制御手段を有する場合、その操作部材を押し下げる外力を付与することで、上部フレームの前方側を下降させながら上部フレームを後方に変位させるように前部リンク機構を制御する構成とすることが好ましい。また、後部リンク機構制御手段を有する場合、操作部材としてのスロープを起立位置から傾倒させて上部フレームを後方に引き出す外力を付与することで、上部フレームの後方側を上昇させながら上部フレームが後方に変位するように後部リンク機構を制御する構成とすることが好ましい。これらにより、上部フレームを略水平姿勢にするための変位方向と、操作部材の操作によって前部リンク機構又は後部リンク機構をロックするための操作方向とが略同方向となるため、操作部材に対して所定方向に外力を付与するという操作だけで、上部フレームの略水平姿勢への変位動作と、その姿勢でのロック動作という2つの動作を共に行うことができる。
【0020】
また、本発明の救急車用防振架台によれば、セントロードの下死点においては、上部フレームはその前方側が後方側よりも上方に位置する傾斜姿勢となり、上死点においては、上部フレームが略水平姿勢となる四節回転連鎖の運動軌跡に沿って揺動可能であり、走行中に入力される上下又は前後の入力振動を、四節回転連鎖の運動軌跡に沿った片振り子運動に変換して吸収できる。すなわち、走行中の加減速によって与えられる前後方向の振動をトリガーにして回転運動が生じるため、この回転運動により、上下方向に入力される振動も回転運動に変換され、効果的に軽減される。また、前方側が上方に位置する傾斜姿勢と略水平姿勢との間での四節回転連鎖の運動軌跡に沿った揺動であるため、傷病者の頭部が水平より下になることがなく、また、減速時においては、前部リンク機構における前部リンク部材の回転中心が、ベース側前部ブラケットの上部との軸支位置であるため、上部フレームの前方側(頭部側)が上方となるように傾斜する。従って、ノーズダイブの防止効果も高い。
【0021】
本発明の救急車用防振架台は、このように傾斜姿勢をとることができる構成として片振り子運動を利用することで、高い除振性能を発揮すると共に、ノーズダイブの抑制効果も高いものであるが、この構成に加えて、上記した上部フレーム位置保持構造を有しているため、必要な場合に容易に上部フレームを略水平姿勢にすることができ、心臓マッサージ等の処置、ストレッチャの積み卸し作業等を円滑に行えるという利点を有する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1は、本発明の一の実施形態に係る救急車用防振架台の骨格を示した斜視図である。
【
図4】
図4は第1の振動吸収機構を示した図であり、(a)は底面図、(b)は側面図、(c)は正面図である。
【
図5】
図5は、第2の振動吸収機構を構成する磁気ダンパを説明するための図である。
【
図6】
図6は上部フレーム及びリンク機構のセントロードを示した図であり、(a)は下死点の安定状態を示し、(b)は上死点を示す。(c)は上死点及び下死点の状態を合わせて示した図である。
【
図7】
図7(a)は、鎖交磁界型(Interlinkage flux type)磁気ダンパの磁束分布を示した解析図であり、
図7(b)は、磁束集束型(Flux-concentration type)磁気ダンパの磁束分布を示した解析図である。
【
図8】
図8は、
図7の解析に使用したヨークのB−H曲線を示した図である。
【
図9】
図9は、銅の移動速度を0.05m/s、0.1m/s、0.3m/sとした場合の鎖交磁界型と磁束集束型の各ダンパに発生する速度に対応する電磁力の解析結果を示した図である。
【
図10】
図10(a)は、鎖交磁界型(Interlinkage flux type)磁気ダンパの荷重−変位特性を示した図であり、
図10(b)は、磁束集束型(Flux-concentration type)磁気ダンパの荷重−変位特性を示した図である。
【
図11】
図11(a)は、鎖交磁界型(Interlinkage flux type)磁気ダンパの荷重−速度特性を示した図であり、
図11(b)は、磁束集束型(Flux-concentration type)磁気ダンパの荷重−速度特性を示した図である。
【
図12】
図12は、実験例で用いた各モデルの減衰係数の解析値と実験値を示した図である。
【
図13】
図13は、ベースフレーム、上部フレーム、前部リンク機構、後部リンク機構を抽出して示した救急車用防振架台の図であり、(a)は、セントロードの上死点に位置する略水平姿勢の状態を示し、(b)は、下死点に位置する傾斜姿勢の状態を示した図である。
【
図14】
図14は、前部リンク機構制御手段の構造を示した図であり、(a)は前部リンク機構制御手段を救急車用防振架台に組み付けた図であり、(b)は救急車用防振架台に組み付ける前の前部リンク機構制御手段を示した図である。
【
図15】
図15(a)〜(d)は、前部リンク機構制御手段を用いて上部フレームを略水平姿勢に変位させて保持する過程の動きを示した図である。
【
図16】
図16(a)〜(d)は、前部リンク機構制御手段の上部フレームを略水平姿勢に変位させて保持する過程の動きを、解除レバーを除いて示した図である。
【
図17】
図17(a)〜(d)は、前部リンク機構制御手段の上部フレームを略水平姿勢に変位させて保持する過程における解除レバーの動きを示した図である。
【
図18】
図18は、後部リンク機構制御手段の構造を示した図であり、(a)は後部リンク機構制御手段を救急車用防振架台に組み付けた図であり、(b)は救急車用防振架台に組み付ける前の後部リンク機構制御手段を示した図である。
【
図19】
図19(a)〜(c)は、後部リンク機構制御手段を用いて上部フレームを略水平姿勢に変位させて保持する過程の動きを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面に示した実施の形態に基づき本発明をさらに詳細に説明する。まず、
図1〜
図6に基づき、本発明の上部フレーム位置保持構造が適用される救急車用防振架台1の基本構造及びその動きを説明する。救急車用防振架台1は、ベースフレーム10と上部フレーム20とを有して構成される。
【0024】
ベースフレーム10は、平面視で略長方形に形成された外枠部材11を有している。この外枠部材11のサイドフレーム11aの前方側(ストレッチャに乗っている人の頭部側)において上方に向かって突出するベース側前部ブラケット12を有している。サイドフレーム11aの後方側(ストレッチャに乗っている人の足側)には、ベース側前部ブラケット12よりも高さの低いベース側後部ブラケット13が設けられている。
【0025】
上部フレーム20は、平面視で略長方形に形成された外枠部材21を有し、サイドフレーム21aの前方側には、下方に向かって突出する上部側前部ブラケット22が設けられている。ベース側前部ブラケット12と上部側前部ブラケット22とは、ベース側前部ブラケット12の上部が、上部側前部ブラケット22の下部よりも上方に位置するような位置関係で設けられる。また、上部フレーム20の後部側には、ストレッチャを搬入しやすくするため、後端側ほど下方に湾曲するガイド部21cが形成されている。
【0026】
リンク機構は、ベースフレーム10と上部フレーム20の各前方側に位置する前部リンク機構30と各後方側に位置する後部リンク機構40とを備えてなる。前部リンク機構30は、ベース側前部ブラケット12の上部に上端が軸支され、上部側前部ブラケット22の下部に下端が軸支される前部リンク部材31を有して構成される。後部リンク機構40は、幅方向に対向する一対のベース側後部ブラケット13間に軸支される支軸42と、この支軸42に下端が溶接等により固定されており、その上端が上部フレーム20の設けた上部側後部ブラケット23に軸支されている後部リンク部材41とを有して構成される。
【0027】
振動吸収機構は、本実施形態では、第1の振動吸収機構50と第2の振動吸収機構60とを備えて構成される。第1の振動吸収機構50は、磁気ダンパ部510と磁気バネ部520とを備えた機構である。ベースフレーム10の長手方向中央付近において、略山形に曲成して設けた山形フレーム15には、
図1及び
図4(a)〜(c)に示したように、第1,第2、第3永久磁石51a,51b,51cを所定間隔をおいて異極同士を対面させると共に、異極同士を隣接させた吸引系の磁石ユニット51が支持されている。この山形フレーム15に対応する位置において上部フレーム20に設けた中央ブラケット25には、銅などの導体52aと可動側永久磁石52bとが支持されている。そして、導体52aは、例えば、第1及び第2永久磁石51a,51b間に位置し、可動側永久磁石52bは、例えば、第2及び第3永久磁石51b,51c間に位置するように設けられる。これにより、第1及び第2永久磁石51a,51bと導体52aにより磁気ダンパ部(鎖交磁束型磁気ダンパ)510が形成され、第2及び第3永久磁石51b,51cと可動側永久磁石52bにより磁気バネ部520が形成される。
【0028】
従って、上部フレーム20がベースフレーム10に対して相対的に前後運動した場合、磁気ダンパ部510の減衰係数と磁気バネ部520のバネ定数とにより所定の減衰比が得られることになる。
【0029】
第2の振動吸収機構60は、
図1〜
図3に示すように、シリンダ61とシリンダ61内を摺動するピストン62を備えた磁束集束型(Flux-concentration type)磁気ダンパから構成され、シリンダ61の底部は、ベースフレーム10のシリンダ用ブラケット16に軸支され、ピストン62が連結されたピストンロッド63の突出端部は、上部フレーム20のピストン用ブラケット26に軸支され、主に上下方向振動を吸収する。
【0030】
具体的には、
図5に示したように、シリンダ61は、筒状好ましくは円筒状に形成された銅等の導体61aと、その外周面を被覆する筒状好ましくは円筒状の鉄製のヨーク(シリンダ側ヨーク)61bとの2重筒構造で形成されている。
【0031】
ピストン62は、本実施形態では環状の複数の永久磁石62aと、環状の鉄製のヨーク(ピストン側ヨーク)62bとを有して構成される。永久磁石62a及びピストン側ヨーク62bは、非磁性ステンレス等の非磁性体からなるピストンロッド63の先端部側が挿通されることにより支持される。
【0032】
磁束集束型(Flux-concentration type)磁気ダンパでは、永久磁石62aは、隣接配置されたものが同極同士を対向させて配置される。
図5の例では、2つの永久磁石62a,62aは、N極同士を対向させている。そして、隣接配置される永久磁石62a,62aのそれぞれの間にピストン側ヨーク62bが配置される。また、各永久磁石62a,62aの外側端部(対向側の反対面)にもピストン側ヨーク62bが積層されることが好ましい。なお、このピストン側ヨーク62bのさらに外側には摺動抵抗を減らすための摺動部材62cが設けられている。
【0033】
第2の振動吸収機構60を構成する磁気ダンパは、上下振動が入力されると、例えば、シリンダ61内をピストン62bが軸方向に沿って往復動する。このとき、永久磁石62aの磁束がピストン側ヨーク62bによって集束されてその多くが導体61aを貫き、貫いた磁束はさらにシリンダ側ヨーク61bを通過するため、その外方に漏れる磁束が極めて少ない。従って、往復動作に伴って高い減衰力が働く。なお、第2の振動吸収機構60として磁束集束型磁気ダンパに代えてオイルダンパを用いることもできる。
【0034】
但し、実験によれば、オイルダンパを用いた場合と、磁束集束型磁気ダンパを用いた場合とでは、上下方向の振動に対する振動伝達率の低減効果はいずれも大きいが、前後方向の振動に対する振動伝達率については、磁束集束型磁気ダンパを用いた救急車用防振架台1の方が優れていた。これは、オイルダンパの場合、減衰力が大きく、低速域で固い特性を有するのに対し、磁束集束型磁気ダンパの場合には、動き始めの減衰力が小さく、速度の増加に伴い減衰力が大きくなる特性を有することによる。従って、磁束集束型磁気ダンパを第2の振動吸収機構60として採用したものが、オイルダンパを採用したものよりも好ましい。但し、オイルダンパとして、より減衰力の小さなものを用いることで、前後方向の振動に対する振動伝達率を、磁束集束型磁気ダンパを採用したものにより近づけることもできる。
【0035】
本実施形態では、第1の振動吸収機構50の磁気ダンパ部510及び磁気バネ部520のバネ定数及び減衰係数の調整及び上部フレーム20のガイド部21cの重量の調整により、
図6(a)に示した四節回転連鎖の運動軌跡の下死点と上死点との間で揺動変位する。すなわち、運動軌跡の上死点では、
図6(b)に示したように略水平姿勢となり、それ以外の位置では前方側が後方側よりも上方に位置する傾斜姿勢となり、下死点においてその傾斜角度が最大となる。また、
図6(b)に示した上死点の略水平姿勢において、例えば、磁気バネ部520の可動側永久磁石52bが中立状態となるように設定する。
【0036】
例えば、救急車が走行し始めると、後方への加速度により、前部リンク機構30の前部リンク部材31は、ベース側前部ブラケット12の上部との軸支位置を中心として、上部側前部ブラケット22の下部との軸支位置が後方に回動して起立する方向に変位し、後部リンク機構40の後部リンク部材41は、支軸42を介してベース側後部ブラケット13との軸支位置を中心として、上部側後部ブラケット23に軸支されている上端側が後方に回動して起立する方向に変位しようとする。これにより、上部フレーム20は略水平姿勢となる方向に変位しようとする。従って、走行中に上下又は前後の振動が入力されたり、走行と停止を繰り返したりすると、前部リンク機構30及び後部リンク機構40により、この傾斜姿勢と略水平姿勢との間でにおける四節回転連鎖の運動軌跡に沿って揺動し、振動を吸収する。また、
図6(a)に示したように、セントロードが上部フレーム20の重心にほぼ一致するように設定されており、下死点の傾斜姿勢に近づくほど前後運動しにくい構成である。このため、上死点側から下死点側への動く際に減衰力が発揮される。入力振動は、この四節回転連鎖自身による減衰力により吸収されると共に、第1の振動吸収機構50及び第2の振動吸収機構60の減衰力によっても吸収される。また、
図6(a)に上死点及び下死点間のセントロードが上部フレーム20の重心を通る仮想線にほぼ一致するように設定しているため、ストレッチャ及び人の重心位置もその仮想線上になり、人の安定感を向上させることができる。
【0037】
一方、急ブレーキにより前方への大きな加速度が入力された場合には、前部リンク機構30の前部リンク部材31は、ベース側前部ブラケット12の上部との軸支位置を中心として、上部側前部ブラケット22の下部との軸支位置が前方に回動する方向に変位し、後部リンク機構40の後部リンク部材41は、支軸42を介してベース側後部ブラケット13との軸支位置を中心として、上部側後部ブラケット23に軸支されている上端側が前方に回動して傾倒する方向に変位しようとする。これにより、上部フレーム20は傾斜姿勢となる方向に変位しようとするため、頭部が高くなる方向に変位し、ノーズダイブを抑制できる。なお、走行中は、上記のように上下及び前後の振動入力により揺動するが、基本的には、略水平姿勢よりも若干頭部側(前方側)が高い傾斜姿勢で安定していることが好ましい。
【0038】
急ブレーキ時における車体の前方側の下降は通常約5度であるため、傾斜姿勢における上部フレーム20のベースフレーム10に対する最大傾斜角度(セントロードの下死点における傾斜角度)は、水平に対して3〜8度の範囲に設定することが好ましく、4〜6度の範囲に設定することがより好ましい。また、本明細書において略水平姿勢とは、ベースフレーム10に対して上部フレーム20が水平(0度)の位置関係である場合を含むことはもちろんのこと、3度前後まで前方側が後方側よりも高い僅かな傾斜がついている場合も含む。
【0039】
なお、上記したように、振動吸収機構は、磁気バネ部520に、上記した2種類の磁気ダンパ(第1の振動吸収機構50の磁気ダンパ部510である鎖交磁界型磁気ダンパと、第2の振動吸収機構60の磁束集束型磁気ダンパ)とを組み合わせたタイプが好ましい。次いで、第2の振動吸収機構60として、オイルダンパを組み合わせたタイプが好ましい。但し、本発明はこれに限定されるものではなく、第1の振動吸収機構50の磁気バネ部520に対し、次のa)〜c)のダンパ:
a) 前記ベースフレーム又は上部フレームの一方に連結され、所定間隔おいて配置される永久磁石と、前記永久磁石間を摺動可能であり、前記ベースフレーム又は上部フレームの他方に連結される導体とを備えてなる鎖交磁界型磁気ダンパ、
b) 前記ベースフレーム又は上部フレームの一方に連結されるシリンダと、前記シリンダ内を軸方向に往復動可能に挿入され、前記ベースフレーム又は上部フレームの他方に連結されるピストンとを備えてなり、前記シリンダは、筒状の導体と、前記導体の外周面を被覆するヨークとを備えてなり、前記ピストンは、前記シリンダの軸方向に沿って同極同士を対向させて配置した複数の永久磁石と、隣接する前記永久磁石間に配設されるヨークとを備えてなる磁束集束型磁気ダンパ、又は、
c) 前記ベースフレーム又は上部フレームの一方に連結されるシリンダと、前記シリンダ内を軸方向に往復動可能に挿入され、前記ベースフレーム又は上部フレームの他方に連結されるピストンとを備えてなるオイルダンパ
のうち、いずれか一つのダンパを有してなる構造とすることもできるし、あるいは、これらのうちの上記で例示した以外の任意の2つ以上の組み合わせを有する構造とすることもできる。
【0040】
なお、第1の振動吸収機構50の磁気ダンパ部510のように動作方向に永久磁石を吸引配置した鎖交磁界型(Interlinkage flux type)磁気ダンパと、第2の振動吸収機構60の磁気ダンパのように反発磁界で配置した磁束集束型(Flux-concentration type)磁気ダンパについての減衰力を検討したところ、
図7〜
図12で示したような結果が得られた。まず、両者の磁束分布の解析結果は、
図7(a),(b)に示したとおりである。解析条件は、磁石の残留磁束密度を1.26T、銅の電気伝導率を56×10
6S/mとした。
図8はヨークのB−H曲線を示したものであり、磁場0〜図中Aまではニュートンラプソン法を用いた非線形解析を行い、以降は磁束密度が飽和しているものとした。
図9は銅の移動速度を0.05m/s、0.1m/s、0.3m/sとした場合の鎖交磁界型と磁束集束型の各ダンパに発生する速度に対応する電磁力の解析結果を示したものであり、磁気集束型磁気ダンパは、鎖交磁界型磁気ダンパの約3倍の減衰力を有していることがわかる。
【0041】
磁場解析により求めた減衰力を実験で確認するために、島津製作所製サーボパルサーを用いて減衰力の計測を行った。サーバパルサーに入力される波形は、1〜4Hzで片振幅10mmのサイン波を振幅一定の条件で1Hz刻みで与え、各磁気ダンパの荷重−変位特性を求め、
図10(a),(b)に示した。また、
図11には各磁気ダンパの荷重−速度特性を示し、
図12には各モデルの減衰係数の解析値と実験値を示した。解析値と実験値の誤差は10%以下であった。
図12から、鎖交磁界型(Interlinkage flux type)磁気ダンパに対し、磁束集束型(Flux-concentration type)磁気ダンパは、実験値で約2.9倍の減衰力が得られることがわかる。鎖交磁界型磁気ダンパは、吸引系の磁石配置であり、吸引系の磁石間方向を中心に渦電流がループ状に発生するため減衰力に寄与しない方向の電磁力が少なからず発生する。一方、磁束集束型磁気ダンパは、運動方向である軸方向を中心にループ状に渦電流が発生するため、減衰力として有効な方向に多くの電磁力が発生する。また、
図7の磁束分布から、磁束集束型磁気ダンパでは、反発型の磁石配置により、磁石ギャップ部に磁束が集束し、さらに磁石間、磁石両端部、導体外側へのヨーク配置により軸中心部を通る磁束が減少している。また、軸対象であるため、導体から外れる磁束が鎖交磁界型磁気ダンパよりも大幅に減少しており、これらのことから減衰係数が増加したと考えられる。
【0042】
次に、上記した救急車用防振架台1用の上部フレーム位置保持構造について、
図13〜
図19に基づき説明する。
図13は、救急車用防振架台1の上記した四節回転連鎖の運動軌跡に従った変位をわかりやすくするため、ベースフレーム10、上部フレーム20、前部リンク機構30、後部リンク機構40を抽出して示した図であり、(a)は、セントロードの上死点に位置する略水平姿勢の状態を示し、(b)は、下死点に位置する傾斜姿勢の状態を示す。上部フレーム20は、この略水平姿勢と前方側が高い傾斜姿勢との間に変位するが、心臓マッサージ等の処置を行う場合に、上部フレーム20が揺動可能な状態になっていると適切な処置を行うことができない。そのため、揺動しないように上部フレーム20を所定の位置で保持する必要があるが、上記したように、位置保持した際には、上部フレーム20は略水平姿勢になっていなければならない。また、ストレッチャの積み卸しの際も、上部フレームが揺動するようでは作業を行いにくいし、また、前方側が上方に位置するように傾斜した状態で固定したのでは、積み込む際に大きな力を要することになる。上部フレーム位置保持構造は、このような場合に、上部フレーム20を略水平姿勢とした状態でその姿勢を保持する機構である。
【0043】
本実施形態では、上部フレーム位置保持構造として、前部リンク機構制御手段100及び後部リンク機構制御手段200を有している。前部リンク機構制御手段100は、ストレッチャを搭載した状態で、救急車内において、前方側で作業する際に用いられる上部フレーム位置保持構造であり、後部リンク機構制御手段200はストレッチャの積み卸しを行う際に後方側で作業する際に用いられる上部フレーム位置保持構造である。いずれか一方であってもよいが、ストレッチャの積み卸し時には、後方側で作業が行いやすく、搭載後は前方側で作業を行いやすいため、両方の手段を設けることが好ましい。
【0044】
ここで、本実施形態においては、上記した前部リンク部材31は、
図14(a),(b)に示したように、上部フレーム20の幅方向に離間して一対設けられているが、それらは、同じく幅方向に離間して一対設けられた上部側前部ブラケット22の下部22a間に掛け渡された支軸311により連結されている。支軸311の各端部311aが上部側前部ブラケット22の下部22aにそれぞれ回転可能に軸支されるが、各前部リンク部材31は、支軸311の各端部311aよりも若干内側寄りに配置され、該支軸311に固定される。通常の使用状態では、振動入力による上部フレーム20の相対変位に伴って、一対の前部リンク部材31は支軸311の回転に伴って同期して変位するが、この動きと関係なく、支軸311を回転させる外力が働くと、前部リンク部材31は、支軸311の回転に伴って所定方向に回動することになる。
【0045】
前部リンク機構制御手段100は、まず、支軸311における一対の前部リンク部材31間において、上方に向かって突出するように所定間隔をおいて固定される2枚の板状部材からなるローラ用ブラケット101と、このローラ用ブラケット101の2枚の板状部材間に掛け渡されるローラ102とを有して構成される被係合部が設けられている。なお、ローラ用ブラケット101は、
図15に示したように、支軸311からの突出方向が、前部リンク部材31よりも側面からみてより前方寄りとなるように設けられる。
【0046】
前部リンク機構制御手段100は、さらに、上記した被係合部であるローラ用ブラケット101に支持されたローラ102に係合する係合部を備えたロック部材110と、このロック部材110を操作する操作部材120とを有している。この操作部材120を操作することで、支軸311を強制的に回転させるための外力が付与される。
【0047】
ロック部材110は、板状部材からなり、回転中心となる軸ピン111が上部フレーム20の幅方向略中央部において下方に突出するように設けた中央取り付け板20aに軸支され、軸ピン111に対して略後方側に突出する後方突出片112と、略前方側に突出する前方突出片113と、略下方側に突出する下方突出片114を有している。後方突出片112は、略く字状に形成され、先端側の内面は若干湾曲するように形成され、上記ローラ102に当接可能なガイド面112aになっている。ガイド面112aよりも軸ピン111寄りにおける略く字状の屈曲部付近には、内面から刻設された溝部112bが形成されており、この溝部112bにローラ102が係合する
【0048】
操作部材120は、操作レバー121と、操作レバー121とロック部材110とを接続する接続部材122とを有してなる。接続部材122は、上端同士がピン122cにより連結された2枚のリンク板122a,122bからなる。後方側のリンク板122aの下端はロック部材110の前方突出片113の端部にピン113aを介して連結され、前方側のリンク板122bの下端は操作レバー121の後方側端部121aに固定された軸部材123に固定される。この軸部材123は、一端が幅方向略中央部に位置する上記の中央取り付け板20aに軸支され、他端が上部フレーム20の前方端付近であって中央取り付け板20aよりも一方のサイドフレーム21a側に所定距離離間させて設けた操作レバー用取り付け板20bに軸支され回転可能になっている。操作レバー121は、この軸部材123が厚み方向に貫通して固定されており、前方側操作部121bが上部フレーム20の前方端よりも前方に突出するように配置され、前方側操作部121bが押し下げられる外力が付与されると、軸部材123が回転する。
【0049】
本実施形態の前部リンク機構制御手段100における操作を次のように行う。まず、
図15(a)及び
図16(a)に示したように、上部フレーム20が前方側が上方に位置する傾斜状態であったとする。この状態で、上部フレーム20を略水平姿勢にする必要がある場合、操作レバー121の前方側操作部121bを矢印A方向に踏み込む。前方側操作部121bを踏み込むと、
図15(b)及び
図16(b)に示したように、軸部材123が踏み込み量に従って回転し、それに伴って前方側のリンク板122bの上端が若干前上方(矢印B方向)に回動する方向に引き上げられる。これにより、後方側のリンク板122aの下端が同方向に引き上げられ、ロック部材110は、軸ピン111を中心として若干後方側(矢印C方向)に回動し、ガイド面112aがローラ102に当接する。
【0050】
操作レバー121の前方側操作部121bをさらに踏む込むと、前部リンク機構30の前部リンク部材31が、
図15(b)及び
図16(b)の位置から
図15(c)及び
図16(c)の位置へと矢印D方向に変位し、すなわち、ベース側前部ブラケット12の上部に軸支された上端を中心として下端側が後方に回動して次第に起立する姿勢となるように変位しようとして、それに伴って、上部フレーム20は、前方側が下降しつつ後方にせり出すように変位するため、略水平姿勢になっていく。前部リンク部材31がこのように起立方向に変位していくと、それに伴って支軸311が前方側に回転するため、その分、ローラ用ブラケット101が
図15(b)及び
図16(b)の位置から
図15(c)及び
図16(c)の位置へと回動する。その際、ロック部材110のガイド面112aが湾曲しているため、ローラ102はこの湾曲したガイド面112aに沿って転動し、溝部112b付近に至る。
【0051】
上部フレーム20が略水平姿勢になる位置は、四節回転連鎖の運動軌跡の上死点であるため、操作レバー121の前方側操作部121bをさらに踏む込むと、ロック部材110は軸ピン111を中心としてさらに後方側(矢印C方向)に回動し、
図15(d)及び図
16(d)に示したように、溝部112bがローラ102に係合する。これによりロックがなされ、上部フレームが水平姿勢で保持されることになる。このように、操作レバー121を操作してロックさせていく方向(ロック部材110の溝部112bにローラ102を係合させる方向)と、上部フレーム20を略水平姿勢に変位させる方向が略一致しているため、すなわち、操作方向が、上部フレームの前方側を下降させつつ後方に押し出す方向に変位させる方向であるため、操作レバー121を押し下げる操作だけで上部フレーム20を略水平姿勢に変位させかつ保持することができる。
【0052】
一方、上部フレーム20を略水平姿勢でロックした状態から、ロックを解除する場合には、上記した操作レバー121を引き上げる方向に操作して解除することも可能であるが、本実施形態では、より簡易に操作できるように解除レバー125を別途設けている。解除レバー125は、
図14及び
図17に示したように、一端が幅方向略中央部に位置する上記の中央取り付け板20aに軸支され、他端が上部フレーム20の前方端付近であって中央取り付け板20aよりも他方のサイドフレーム21a側に所定距離離間させて設けた解除レバー用取り付け板20cに軸支された軸部材124に連結されている。そして、この軸部材124に上端が連結される解除用の前方側リンク板126bと、ピン127を介してこの前方側リンク板126bに前端が連結された解除用の後方側リンク板126aを有し、この解除用の後方側リンク板126aは、略水平に伸びて、その後端がロック部材110の下方突出片114の下端にピン114aに接続されている。上記した操作レバー121を操作して、上部フレーム20を略水平姿勢に制御すると、解除レバー125及び前方側リンク板126b及び後方側リンク板126aは、ロック部材110の動きに伴って下方突出片114が回動するため、
図15(a)〜(d)及び
図17(a)〜(d)に示したように変位している。従って、上部フレーム20が略水平姿勢の際には、
図17(d)に示したように、解除レバー125が略水平に前方に突出している。そして、解除レバー125を踏む込むと、
図17(c)に示したように、ロック部材110が軸ピン111を中心として前方側に回動し、溝部112bからローラ102が離脱する。ローラ102が離脱すれば、傾斜姿勢が安定姿勢となるように調整されているため、
図17(b)及び
図17(a)に示したように、前部リンク部材31が起立位置からベース側前部ブラケット12の上部に軸支された上端を中心として下端側が前方に回動して上部フレーム20の前方側が上昇していき、傾斜姿勢となる。
【0053】
後部リンク機構制御手段200は、
図18に示したように、回動部材210、プレート部材220、ロッド部材230及び操作部材としてのスロープ240を有している。回動部材210は、その上端210aが、後部リンク部材41の上端が軸支されている上部フレーム20の上部側後部ブラケット23に、ピン23aを介して軸支され、後部リンク部材41の後方側に配置される。回動部材210は、後部リンク部材41の後端面及び側面の一部を被覆して重なり合うことができるような幅で断面略コ字状に形成されている。また、回動部材210は、後部リンク部材41よりも上下方向の長さが長く、中途部210bが、後部リンク部材41の下端が固定され、一対のベース側後部ブラケット13間に軸支された支軸42の側面に当接する。なお、中途部210bの当接面側は、支軸42の側面にフィットするように円弧状に切り欠いているが、この形状は必須ではなく、当接することにより、回動部材41の回動が停止するストッパ機能を果たせばよい。
【0054】
スロープ240は、上部フレーム20の後部側のガイド部21cに設けられる。具体的には、スロープ240は、ガイド部21cに対して一端がシャフト241を介して軸支され、
図18(a)及び
図19(a)に示した起立位置から後方側に傾倒し、ガイド部21cのほぼ延長上になるように引き倒されて使用する。
図19(c)に示したように、ガイド部21cの側部にはストッパ部材21dが設けられており、スロープ240の側部がこのストッパ部材21dと当接するまで傾倒する。スロープ240は、ストレッチャの積み卸しの際に後方に引き倒されて使用され、ストレッチャの車輪を円滑に上部フレーム20上にガイドするために設けられ、ストレッチャ搭載後は起立位置にセットされる。
【0055】
プレート部材220は、所定の長さを有し、スロープ240が軸支されているシャフト241に一端が軸支され、他端がロッド部材230の他端230bに軸支されている。ロッド部材230の一端230aは回動部材210の下端210cに軸支される。なお、シャフト241はスロープ240の回動動作に伴って回転し、プレート部材220は該シャフト241の回転に伴って回動するように設けられており、スロープ240の傾倒動作に伴って回動部材210、プレート部材220、ロッド部材230が動作する構成であるため、スロープ240は後部リンク機構制御手段200において操作部材としての機能を果たす。
【0056】
本実施形態によれば、スロープ240の起立状態では、
図19(a)に示したように、ロッド部材230が略水平で、プレート部材220がロッド部材230に対して略垂直の位置関係となっており、回動部材210は下端210cが後方側に変位して中途部210bが支軸42から離間している。この状態では、上部フレーム20が四節回転連鎖の運動軌跡によっていずれの姿勢に変位しても、回動部材210、プレート部材220、ロッド部材230の位置関係は変動しない。
【0057】
ストレッチャの積み卸し作業を行う際には、救急車のリヤハッチを開け、スロープ240を引き倒して使用するが、この際、作業者は、リヤハッチの外方に位置していて、スロープ240を手前側(
図19の右側)に引き出すように操作する。スロープ240が傾倒し始めると、
図19(b)に示したように、回動部材210の中途部210bが支軸42に当接する。この状態でさらにスロープ70を手前に引き出すと、その力によって、後部リンク部材41は支軸42を中心として、上端側が後方に時計回りに回動し、起立方向に変位していき、
図19(c)に示したように、上部フレーム20は略水平姿勢となる。その間、すなわち、
図19(b)から
図19(c)の状態になる間、スロープ240はストッパ部材21dに当接するまで引き倒されていくが、プレート部材220はシャフト241を中心として他端が下向きの位置から前方側に時計回りに回動していく。そのため、プレート部材220の変位により、ロッド部材230の他端230bが上方に変位していき、
図19(c)の上部フレーム20が略水平姿勢になった時点では、ロッド部材230とプレート部材220とがほぼ一直線上になる。これにより、回動部材210の中途部210bが支軸42に押しつけられた状態になり、上部フレーム20に下死点方向への力が働いても動かずにロックされ、略水平姿勢が保持される。
【0058】
ロックを解除する場合は、スロープ240を起立方向に戻しながら、前方に押圧すれば、
図19(c)の状態から、
図19(b)、
図19(a)の状態へと変化し、容易にロック解除できる。
【0059】
なお、本実施形態の救急車用防振架台1は、上記したように、四節回転連鎖のセントロードが、上死点から下死点まで上部フレームの重心を通る仮想線にほぼ一致するようになっていることが好ましい。それにより、下死点ほど前後運動及び上下運動が合成された回転運動を生じにくくなるからであり、下死点方向に移動するに従い、四節回転連鎖は運動しにくくなって、減衰力を発揮できる構成となる。すなわち、通常、下死点では底付きが生じ、衝撃性振動が人側に入力されるが、下死点ほどバネ力と減衰力及び質量で安定するようになり、さらに、リンクの作動効率が低下することに伴う減衰作用が機能するため、底付きを抑制でき、下死点で剛体に近い特性となる。
【0060】
本実施形態の救急車用防振架台1は、このように、四節回転連鎖の運動軌跡に沿った片振り子運動に変換して吸収する構成であるため、上下方向の振動に対しては剛体に近い特性となり、その特性を生かして、上下方向の振動抑制機能を果たす振動吸収機構と前後方向の振動抑制機能を果たす振動吸収機構とがそれぞれ別々に設けられた従来のものと比較し、上下及び前後の入力振動に対する共振点の振動伝達率を低減することができる。これは、下死点で傾斜安定姿勢をとらせ、その下死点で微小振動を繰り返することで、構造減衰で生じる逆位相にならない位相遅れ(例えば、90度前後の位相遅れ)を、好ましくは160度〜180度の位相遅れに変換させて、低周波帯域で逆位相を作ることができ、また、略水平となる不安定な上死点での折り返し速度を上げることで達成される。近年、車両のタイヤの大径化、幅広化に伴いバネ下質量が増加し、積載重量も増えてきて、足回りがしっかりとしたバネで作られるようになってきているが、固いバネは振動乗り心地を低下させる。そのため、ダンパにより振動乗り心地を調整する必要があるが、車両のサスペンションと防振架台のサスペンション機構とのマッチングが難しい。しかしながら、本実施形態の救急車用防振架台1によれば、剛体の特性により上下方向の共振点の振動伝達率が小さくなって(共振領域が狭くなって)、両者のマッチングを図り易くなる。その一方、上下方向入力により発生する振動エネルギーは、剛体の特性で振動伝達率1のところを、微小振動を繰り返す下死点近傍の平衡状態の中で前後方向に変換することにより、上下方向の振動伝達率が1を下回って減衰域となり、上下方向の振動エネルギーを減衰させる。また、頭部を上げた状態が基準位置となるため、人の体重も利用して振動を減衰させることもでき、かつ、たえず安定状態に復帰しようとするため、頭部の揺動感が低減される構造である。
【0061】
また、振動吸収機構として、鎖交磁束型磁気ダンパ、磁気集束型磁気ダンパ及び磁気バネを併用した構成とすることにより、より高い振動吸収特性を発揮できる。特に、反発系の磁石配列であると共に、永久磁石の回りに導体を配置した円柱型の磁束集束型磁気ダンパを用いていると、高い減衰力を発揮することができる。