特許第5930458号(P5930458)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5930458果汁含有アルコール飲料及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5930458
(24)【登録日】2016年5月13日
(45)【発行日】2016年6月8日
(54)【発明の名称】果汁含有アルコール飲料及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12G 3/00 20060101AFI20160526BHJP
【FI】
   C12G3/00
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2011-277053(P2011-277053)
(22)【出願日】2011年12月19日
(65)【公開番号】特開2013-126393(P2013-126393A)
(43)【公開日】2013年6月27日
【審査請求日】2014年12月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】303040183
【氏名又は名称】サッポロビール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064414
【弁理士】
【氏名又は名称】磯野 道造
(74)【代理人】
【識別番号】100111545
【弁理士】
【氏名又は名称】多田 悦夫
(72)【発明者】
【氏名】松田 豊
【審査官】 長谷川 茜
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−117063(JP,A)
【文献】 特開2009−225740(JP,A)
【文献】 特開2012−228193(JP,A)
【文献】 特開2011−142850(JP,A)
【文献】 特開2009−195123(JP,A)
【文献】 特開2002−142747(JP,A)
【文献】 特開平10−295365(JP,A)
【文献】 特開昭63−052864(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12G
A23L 2/02
DWPI(Thomson Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リンゴ酸とクエン酸の配合比率が10:90〜40:60である香味改善用組成物と、
果汁と、を含
前記果汁の果汁使用率が50%を超え150%未満であり、
前記香味改善用組成物の添加量が0.01〜0.70w/v%であることを特徴とする、果汁含有アルコール飲料。
【請求項2】
前記果汁が、リンゴ属又はミカン属由来であることを特徴とする、請求項記載の果汁含有アルコール飲料。
【請求項3】
前記果汁含有アルコール飲料が発泡性であることを特徴とする、請求項1又は2記載の果汁含有アルコール飲料。
【請求項4】
前記果汁含有アルコール飲料のアルコール度数が1〜8度であることを特徴とする、請求項からのいずれか1項に記載の果汁含有アルコール飲料。
【請求項5】
果汁含有アルコール飲料の製造方法であって、
香味改善用組成物として、リンゴ酸とクエン酸を10:90〜40:60の配合比率で含ませると共に、前記香味改善用組成物を0.01〜0.70w/v%の添加量で含ませ、さらに、果汁の果汁使用率が50%を超え150%未満となるように前記果汁を添加することを特徴とする、果汁含有アルコール飲料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、果汁を含有する果汁含有アルコール飲料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
果汁含有アルコール飲料は、アルコール飲料中に果汁を含有させることによってその香りと味(以下、香味という。)を付与しておいしさを向上させている。果汁含有アルコール飲料としては、例えば、グレープフルーツ、レモン、ライム、オレンジなどの柑橘類の果汁を含有させた商品や、林檎や葡萄、苺などの果汁を含有させた商品が多く市販されている。
【0003】
これらの果汁を含有させた果汁含有アルコール飲料は、果汁使用率を高くすると、果実由来の甘味、果汁感、味のふくらみ等を楽しむことができる。そのため、果汁使用率の高い果汁含有アルコール飲料はユーザからの要望も高いが、味が後を引くように残り、香味にべたつき感が生じることがあった。
【0004】
果汁含有アルコール飲料の香味のべたつき感を解消し得る技術が、例えば、特許文献1に記載されている。この特許文献1は、アルコール飲料の後味の悪さ(特に、高甘味度甘味料の後味の悪さ)を改善し、香味が良好で、爽快なスッキリ感を有するアルコール飲料を提供することを目的としたものである。かかる目的を解決するため、特許文献1では、(a)リン酸又はその塩と、(b)クエン酸、リンゴ酸、アスコルビン酸、酒石酸、こはく酸、乳酸、グルコン酸、フマル酸、酢酸及びこれらの塩からなる群から選択される1以上とを、酸味料として配合したアルコール飲料であって、酸味料の5〜55w/w%が前記(a)のリン酸であることとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−117063号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、リン酸には渋みがあるので、特許文献1に記載の技術を適用して高果汁含有アルコール飲料の香味のべたつき感を解消しようとすると、リン酸による渋みを感じる場合があった。そのため、特許文献1に記載の技術では、果汁感があっても香味のべたつき感のない(つまり、味が後を引かない)果汁含有アルコール飲料を得ることができないという問題があった。また、果汁感を出すためには果汁の含有量を高くする必要があるが、特許文献1に記載の技術では、果汁の含有量が40w/v%を超えると原料自体の香味が強すぎてアルコール飲料としての味わいのバランスに欠けるものとなるという問題もあった。
【0007】
本発明は、前記状況に鑑みてなされたものであり、果汁感はあっても香味のべたつき感のない果汁含有アルコール飲料及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題は、以下の手段により解決することができる
(1リンゴ酸とクエン酸の配合比率が10:90〜40:60である香味改善用組成物と、果汁と、を含前記果汁の果汁使用率が50%を超え150%未満であり、前記香味改善用組成物の添加量が0.01〜0.70w/v%であることを特徴とする、果汁含有アルコール飲料
(2)前記果汁が、リンゴ属又はミカン属由来であることを特徴とする、前記(1)記載の果汁含有アルコール飲料。
)前記果汁含有アルコール飲料が発泡性であることを特徴とする、前記(又は2)に記載の果汁含有アルコール飲料。
)前記果汁含有アルコール飲料のアルコール度数が1〜8度であることを特徴とする、前記()から()のいずれか1つに記載の果汁含有アルコール飲料。
果汁含有アルコール飲料の製造方法であって、香味改善用組成物として、リンゴ酸とクエン酸を10:90〜40:60の配合比率で含ませると共に、前記香味改善用組成物を0.01〜0.70w/v%の添加量で含ませ、さらに、果汁の果汁使用率が50%を超え150%未満となるように前記果汁を添加することを特徴とする、果汁含有アルコール飲料の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、果汁感はあっても香味のべたつき感のない果汁含有アルコール飲料及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】クエン酸とリンゴ酸の呈味時間と酸味度の関係を示したグラフである。図中、横軸は呈味時間を表し、縦軸は酸味度を表す。
図2】本発明の一実施形態に係る果汁含有アルコール飲料の製造方法の内容を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
・ 以下、本発明に係る香味改善用組成物及びこれを含む果汁含有アルコール飲料を実施するための形態(実施形態)について詳細に説明する。
【0012】
(香味改善用組成物)
一実施形態に係る香味改善用組成物は、果汁を含有する果汁含有アルコール飲料に添加してこれの香味を改善するものであり、リンゴ酸とクエン酸の配合比率が10:90〜40:60となっている。
【0013】
クエン酸は穏やかで爽快な酸味を有し、リンゴ酸はやや刺激と収斂味のある爽快な酸味を有する。クエン酸はリンゴ酸よりも酸味の立ち上がりは早いものの、酸味を呈する時間が短いという特徴を有する。
リンゴ酸はその逆で、クエン酸よりも酸味の立ち上がりは遅いものの、酸味を呈する時間が長いという特徴を有する。しかも、クエン酸とリンゴ酸は、図1に示すように、クエン酸の酸味度のピークが過ぎ、その酸味度が低下しはじめたときに、リンゴ酸の酸味度がこれに追随するように上昇してピークを迎えるという関係にある(参照:「最新ソフトドリンクス」、出版社 株式会社光琳、監修 社団法人全国清涼飲料工業会 財団法人日本炭酸飲料検査協会、2003年10月発行、第115頁)。
【0014】
従って、これらをバランスよく配合、つまり、本発明で特定する配合比率内で配合させることによって、果汁含有アルコール飲料を口に含んだ直後から一定時間はクエン酸により香味のべたつき感をなくし、当該一定時間を経過した後は、リンゴ酸により香味のべたつき感をなくすことが可能となる。
【0015】
なお、本発明による、果汁感はあっても香味のべたつき感がないという香味特徴は、代表的には、香味のべたつき感、果汁感、味のふくらみという三つの要素によって総合的に得られる。従って、これらのうちの一つ又は二つの要素が優れていても、他の要素が劣っているような場合は、前記した香味特徴を得ることはできない。三つの要素がバランスよく配合されてはじめて、果汁感はあっても香味のべたつき感がないという香味特徴を得ることができる。
【0016】
香味改善用組成物を構成するリンゴ酸とクエン酸の配合比率が10:90未満となると、つまり、リンゴ酸の配合比率がこれよりも小さくなり、クエン酸の配合比率がこれよりも大きくなると、果汁感はあるものの、香味のべたつき感と味のふくらみが低下する。その結果、果汁感はあっても香味のべたつき感のない果汁含有アルコール飲料とすることができない。
一方、香味改善用組成物を構成するリンゴ酸とクエン酸の配合比率が40:60を超えると、つまり、リンゴ酸の配合比率がこれよりも大きくなり、クエン酸の配合比率がこれよりも小さくなると、香味のべたつき感はなくなるものの、それと同時に果汁感や味のふくらみも低下する。その結果、果汁感はあっても香味のべたつき感のない果汁含有アルコール飲料とすることはできない。
従って、香味改善用組成物を構成するリンゴ酸とクエン酸の配合比率は10:90〜40:60とする。なお、リンゴ酸とクエン酸の配合比率は15:85〜35:65とするのが好ましく、20:80〜30:70とするのがより好ましい。
【0017】
香味改善用組成物は、リンゴ酸とクエン酸の配合比率が10:90〜40:60であれば、その形態はどのようなものであってもよい。すなわち、これらを予め混合しておいてもよいし、別々に保存しておき、果汁含有アルコール飲料の製造時にそれぞれを所定の配合比率で添加するようにしてもよい。また、香味改善用組成物は、例えば、リンゴ酸とクエン酸を前記した配合比率で混合した粉剤や顆粒剤としたり、これらをカプセルに詰めてカプセル剤としたり、ペレット化して錠剤や丸剤などとしたりすることもできる。また、滅菌水等に溶解して液剤などとすることもできる。
【0018】
以上に説明した香味改善用組成物は、果汁含有アルコール飲料を果汁感はあっても香味のべたつき感のないものとすることができる添加剤、つまり香味改善剤として用いることができる。
【0019】
(果汁含有アルコール飲料)
次に、本発明の一実施形態に係る果汁含有アルコール飲料について説明する。
一実施形態に係る果汁含有アルコール飲料は、前記した香味改善用組成物を含んでなる。
【0020】
果汁含有アルコール飲料に含有される果汁は、透明果汁及び混濁果汁のうちから選択される少なくとも一方を用いることができる。
透明果汁とは、果物の搾汁を清澄化処理した果汁をいい、半透明果汁もこれに含まれる。透明果汁は香りが良いため、果汁含有アルコール飲料における果汁の香りを優れたものとすることができる。清澄化処理の方法としては、精密濾過法、酵素処理法、限外濾過法などを挙げることできる。
また、混濁果汁とは、果物の搾汁を清澄化処理していない果汁をいう。混濁果汁は味が良いため、果汁含有アルコール飲料における果汁の味を優れたものとすることができる。果汁感、濃厚感、ボディ感、奥行き等の味わいを高めたいのであれば、混濁果汁の比率を高めにするか、混濁果汁のみを用いるのが好ましい。透明果汁と混濁果汁の使用量は、ニーズに合わせてそれぞれ任意に設定することができる。
透明果汁と混濁果汁を得るための搾汁手段としては、市販の搾汁機を挙げることができるがこれに限定されない。
【0021】
果汁は、前記した香味特徴を備える観点から、非加熱殺菌のものを用いるのが好ましいがこれに限定されるものではなく、加熱殺菌したものを用いることもできる。なお、非加熱殺菌としては、例えば、メンブレンフィルターや中空糸を用いたろ過滅菌、紫外線殺菌などが挙げられる。また、加熱殺菌としては、例えば、100℃以上で行う高温殺菌、100℃未満で行う低温殺菌などが挙げられる。
【0022】
なお、用いる果汁は、ストレート果汁、ストレート果汁を希釈した果汁、濃縮果汁及び濃縮還元果汁のいずれを用いて調製したものであってもよい。なお、ストレート果汁とは、後記する果実の搾汁に対し、濃縮や希釈などを行っていない果汁をいう。また、濃縮果汁とは、ストレート果汁に対し、加熱濃縮法や冷凍濃縮法などによって果汁中の水分を取り除き、果汁の濃度を高めたものをいう。また、濃縮還元果汁とは、濃縮果汁に対し、計算上、ストレート果汁と同等の濃度となるように水等で希釈した果汁をいう。
【0023】
本発明においては、果汁は、当該果汁の果汁使用率が50%を超え150%未満とするのが好ましい。
なお、果汁使用率とは、任意の混合比率で混合した透明果汁と混濁果汁の果汁使用率の総和をいう。
果汁使用率が前記した範囲であると、果汁感はあっても香味のべたつき感のない果汁含有アルコール飲料をより確実に提供することができる。
【0024】
これに対し、果汁の果汁使用率が50%以下になると、香味のべたつき感がほとんどなく良好である反面、果汁感と味のふくらみが低下する。その結果、果汁感はあっても香味のべたつき感のない果汁含有アルコール飲料を得ることはできない。
また、果汁の果汁使用率が150%以上になると、果汁感と味のふくらみは良好である反面、クエン酸とリンゴ酸の混合比率を本発明で規定する特定数値範囲内としても、香味のべたつき感をなくすことができない。
よって、果汁の果汁使用率は、前述のとおり50%を超え150%未満とするのが好ましく、60%以上140%以下とするのがより好ましく、70%以上120%以下とするのがさらに好ましい。
【0025】
果汁含有アルコール飲料は、非発泡性とすることもできるが、発泡性とすることもできる。ここで、本発明における非発泡性とは、20℃におけるガス圧が0.5kg/cm2未満であることをいい、発泡性とは、20℃におけるガス圧が0.5kg/cm2以上であることをいう。なお、発泡性とする場合、ガス圧の上限は2.4kg/cm2程度とするのが好ましい。これよりもガス圧が高くなると炭酸の刺激が強くなり過ぎてしまうので好ましくない。
【0026】
果汁含有アルコール飲料は、アルコール度数が1〜8度(v/v%)であるのが好ましい。なお、アルコール度数はこの範囲に限定されるものではなく、1度未満とすることも、8度超とすることもできる。
【0027】
なお、果汁含有アルコール飲料に用いる果汁は、リンゴ属又はミカン属由来であるのが好ましい。
【0028】
リンゴ属由来の果汁は、例えば、セイヨウリンゴ(いわゆるリンゴ)、エゾノコリンゴ、カイドウズミ、ハナカイドウ、イヌリンゴ(ヒメリンゴ)、マルバカイドウ、ノカイドウ、ズミ(コリンゴ、コナシ)、オオウラジロノキなどから選択される1種又は複数種の果実を搾汁したものを使用することができる。
【0029】
また、ミカン属由来の果汁は、例えば、グレープフルーツ、オレンジ、レモン、ライム、イヨカン、ウンシュウミカン、カボス、キシュウミカン、キノット、コウジ、サンボウカン、シトロン、ジャバラ、スダチ、ダイダイ、タチバナ、タンゴール、ナツミカン、ハッサク、ハナユズ、ヒュウガナツ、ヒラミレモン(シークヮーサー)、ブンタン、ポンカン(マンダリンオレンジ)、ユズなどのいわゆる柑橘類から選択される1種又は複数種の果実を搾汁したものを使用することができる。
【0030】
なお、果汁含有アルコール飲料に用いることのできる果汁は前記した果実を搾汁したものに限定されない。例えば、ブドウ、イチゴ、モモ、メロン、パイナップル、グァバ、バナナ、マンゴー、アセロラ、パパイヤ、パッションフルーツ、ウメ、ナシ、アンズ、スモモ、キウイフルーツ、カシス、ブルーベリー、ラズベリーなどから選択される1種又は複数種の果実を搾汁したものを使用することもできる。
また、果汁含有アルコール飲料に用いることのできる果汁は、前記した果実から選択したものを単独で又は複数用いたものであってもよいことはいうまでもない。
【0031】
果汁含有アルコール飲料に用いることのできるアルコールは飲用アルコールであればよく、種類、製法、原料などに限定されない。例えば、焼酎、ブランデー、ウォッカ、スピリッツ、原料用アルコールなどを1種又は複数組み合わせて用いることができる。
【0032】
なお、果汁含有アルコール飲料には、アルコール飲料として通常配合される着色料、酸味料、糖類、高甘味度甘味料、酸化防止剤などを添加することもできる。着色料としては、例えば、カラメル色素、クチナシ色素、合成色素などを用いることができる。酸味料としては、例えば、乳酸、リン酸などを用いることができる。糖類としては、例えば、果糖ぶどう糖液糖、ショ糖、オリゴ糖、多糖類などを用いることができる。高甘味度甘味料としては、例えば、アセスルファムK、スクラロース、アスパルテームなどを用いることができる。酸化防止剤としては、例えば、ビタミンC、ビタミンEなどを用いることができる。
これらの添加剤、果汁、飲用アルコールは一般に市販されているものを使用することができる。
【0033】
果汁含有アルコール飲料に含まれる香味改善用組成物の配合比率や添加量は、製品の分析値から香味改善用組成物を添加しない場合の理論値を減じることで求めることができる。
なお、製品の分析値は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)などの分析装置で分析することによって得ることができる。HPLCとしては、例えば、SHIMADZU社製LC−20シリーズを例示することができる。また、分析の際に用いるカラムとしては、例えば、Shodex社製RSpak KC−811を例示することができる。
また、香味改善用組成物を添加しない場合の理論値は、製品表記の果汁使用率と、果汁の種類と、果汁ごとの有機酸組成から求めることができる。
【0034】
果汁含有アルコール飲料に対する香味改善用組成物の添加量は、0.01〜0.70w/v%とするのが好ましい。香味改善用組成物の添加量が0.01w/v%未満であると、香味改善用組成物の添加量が少ないために、果汁感はあっても香味のべたつき感のない果汁含有アルコール飲料とすることができない場合がある。また、香味改善用組成物の添加量が0.70w/v%を超えると、香味改善用組成物の添加量、つまりリンゴ酸とクエン酸の添加量が多いために、酸味が強く感じられてしまう場合がある。なお、香味改善用組成物の添加量は、0.02〜0.50w/v%とするのが好ましく、0.05〜0.30w/v%とするのがより好ましい。
【0035】
(果汁含有アルコール飲料の製造方法)
次に、前記した果汁含有アルコール飲料を製造する製造方法の一実施形態について説明する。
一実施形態に係る果汁含有アルコール飲料の製造方法は、その製造工程中のいずれかの段階で、前記した香味改善用組成物を含ませる。例えば、原料を混合する混合タンクに添加することができる。当該混合タンクには、香味改善用組成物の添加前、添加と同時及び添加後のいずれかのタイミングで所定量の水、アルコール、着色料、酸味料、糖類、高甘味度甘味料、酸化防止剤などを添加することができる。これらの添加の有無及び添加量は、ニーズ等に合わせて任意に設定することができる。
【0036】
図2を参照して一実施形態に係る果汁含有アルコール飲料の製造方法について説明する。本製造方法は、リンゴ酸とクエン酸を10:90〜40:60の混合比率で混合した香味改善用組成物と、水、アルコール、着色料、酸味料、糖類、高甘味度甘味料及び酸化防止剤などを混合する混合ステップS1と、混合ステップS1で混合した混合液をろ過するろ過ステップS2と、ろ過ステップS2でろ過したろ過液を殺菌する殺菌ステップS3と、殺菌ステップS3で殺菌した殺菌済みのろ過液をビンや缶、ペットボトルなどの容器に充填する充填ステップS4とを含む。
【0037】
なお、混合ステップS1は、各成分がよく混ざるよう、撹拌機などにより撹拌しながら混合するのが好ましい。また、ろ過ステップS2は、一般的なフィルター又はストレーナーによって行うことができる。殺菌ステップS3は、処理速度等の観点から、プレート殺菌によって行うのが好ましいが、同様の処理を行うことができるのであればこれに限定されることなく適用可能である。充填ステップS4は、飲料品の製造において通常行われる程度にクリーン度を保ったクリーンルームにて充填するのが好ましい。
また、発泡性の果汁含有アルコール飲料とする場合は、例えば、殺菌ステップS3と充填ステップS4の間でカーボネーションを行うとよい。
【実施例】
【0038】
次に、実施例により本発明について具体的に説明する。
<実施例1>
実施例1では、リンゴの果汁を用いた果汁含有アルコール飲料について検討した。
表1のNo.1〜9に示す組成で、リンゴ酸及びクエン酸のうちの少なくとも一方と、果糖ブドウ糖液糖と、65.5%アルコールとを混合して果汁含有アルコール飲料を製造した。なお、これらの原料はいずれも市販品を使用した。No.1〜9に係る果汁含有アルコール飲料中の果汁使用率は、リンゴの濃縮混濁果汁を用いて70%となるようにした。No.1〜9のそれぞれにおいて、リンゴ酸とクエン酸の添加量の合計が0.10w/v%となるようにした。
【0039】
そして、製造したNo.1〜9に係る果汁含有アルコール飲料について官能試験を行った。官能試験は、香味のべたつき感、果汁感、味のふくらみ、及び果汁感はあっても香味のべたつき感のないという総合評価の4つの評価項目について、よく訓練された専門のパネル6名が行った。評価は下記評価基準に則って各パネルが独立点数付けした。
表1には果汁含有アルコール飲料の組成とともに、評価項目ごとに6名のパネルの平均を算出し、記載した。
【0040】
(香味のべたつき感)
5点:香味のべたつき感が、感じられない。
4点:香味のべたつき感が、ほとんど感じられない。
3点:香味のべたつき感が、あまり感じられない。
2点:香味のべたつき感が、弱く感じられる。
1点:香味のべたつき感が、強く感じられる。
【0041】
(果汁感)
5点:果汁感が、非常に優れている。
4点:果汁感が、かなり優れている。
3点:果汁感が、優れている。
2点:果汁感が、やや劣る。
1点:果汁感が、劣る。
【0042】
(味のふくらみ)
5点:味のふくらみが、非常に優れている。
4点:味のふくらみが、かなり優れている。
3点:味のふくらみが、優れている。
2点:味のふくらみが、やや劣る。
1点:味のふくらみが、劣る。
【0043】
(総合評価)
5点:総合評価が、非常に優れている。
4点:総合評価が、かなり優れている。
3点:総合評価が、優れている。
2点:総合評価が、やや劣る。
1点:総合評価が、劣る。
なお、本発明においては、総合評価の平均が3.00以上のものを優れている、つまり、果汁感はあっても香味のべたつき感のない果汁含有アルコール飲料であると評価した。
【0044】
【表1】
【0045】
表1に示すように、No.3〜6に係る果汁含有アルコール飲料が、総合評価の平均が3.00以上となり、優れていると評価された。これらのリンゴ酸とクエン酸の混合比率は10:90〜40:60であった。中でも、No.4、5に係る果汁含有アルコール飲料は、総合評価の平均が4.00以上となり、かなり優れていると評価された。これらのリンゴ酸とクエン酸の混合比率は20:80〜30:70であった。
【0046】
これに対し、No.1、2、7〜9に係る果汁含有アルコール飲料は、総合評価の平均が3.00未満となり、劣っていると評価された。これらはいずれもリンゴ酸とクエン酸の混合比率が10:90〜40:60の範囲を外れていた。
【0047】
<実施例2>
次いで、高評価を得たNo.5の混合比率(リンゴ酸とクエン酸の混合比率が30:70(果汁使用率70%))を保ちつつ、果汁使用率を変更した場合について検討した。果汁使用率は、表2のNo.10〜14に示すように、50〜150%で調製した。なお、表2のNo.11は、表1のNo.5と同じものである。
リンゴ酸、クエン酸、リンゴの濃縮混濁果汁、果糖ブドウ糖液糖、65.5%アルコールは実施例1と同じものを用いた。
そして、No.10〜14に係る果汁含有アルコール飲料について実施例1と同じ官能試験を行った。
表2に、果汁使用率、果汁含有アルコール飲料の組成とともに、香味のべたつき感、果汁感、味のふくらみ及び総合評価の評価項目ごとに6名のパネルの平均を算出し、記載した。
【0048】
【表2】
【0049】
表2に示すように、No.11(No.5)〜14に係る果汁含有アルコール飲料が、総合評価の平均が3.00以上となり、優れていると評価された。これらの果汁使用率は70〜150%であった。ただし、果汁使用率が150%であるNo.14に係る果汁含有アルコール飲料については、果汁感と味のふくらみはそれぞれ高評価であったが、味が濃過ぎる、もったりする、甘味が残るなどのコメントがあり、嗜好によっては歓迎されない場合もあり得ることがわかった。つまり、果汁使用率は150%未満とするのが好ましいことがわかった。
【0050】
これに対し、No.10に係る果汁含有アルコール飲料は、総合評価の平均が3.00未満となり、総合評価が劣っていると評価された。これは果汁使用率が50%であった。
【0051】
<実施例3>
実施例3では、グレープフルーツの果汁を用いた果汁含有アルコール飲料について検討した。
表3のNo.15〜23に示す組成で、リンゴ酸及びクエン酸のうちの少なくとも一方と、果糖ブドウ糖液糖と、65.5%アルコールとを混合して果汁含有アルコール飲料を製造した。なお、これらの原料はいずれも市販品を使用した。No.15〜23に係る果汁含有アルコール飲料の果汁使用率は、グレープフルーツの濃縮混濁果汁を用いて70%となるようにした。No.15〜23のそれぞれにおいて、リンゴ酸とクエン酸の添加量の合計が0.10w/v%となるようにした。
【0052】
製造したNo.15〜23に係る果汁含有アルコール飲料について実施例1と同じ官能試験を行った。
表3に、果汁含有アルコール飲料の組成とともに、香味のべたつき感、果汁感、味のふくらみ及び総合評価の評価項目ごとに6名のパネルの平均を算出し、記載した。
【0053】
【表3】
【0054】
表3に示すように、No.17〜20に係る果汁含有アルコール飲料が、総合評価の平均が3.00以上となり、優れていると評価された。これらのリンゴ酸とクエン酸の混合比率は10:90〜40:60であった。中でも、No.18、19に係る果汁含有アルコール飲料は、総合評価の平均が4.00以上となり、かなり優れていると評価された。これらのリンゴ酸とクエン酸の混合比率は20:80〜30:70であった。
【0055】
これに対し、No.15、16、21〜23に係る果汁含有アルコール飲料は、総合評価の平均が3.00未満となり、劣っていると評価された。これらはいずれもリンゴ酸とクエン酸の混合比率が10:90〜40:60の範囲を外れていた。
【0056】
<実施例4>
次いで、高評価を得たNo.19の混合比率(リンゴ酸とクエン酸の混合比率が30:70(果汁使用率70%))を保ちつつ、果汁使用率を変更した場合について検討した。果汁使用率は、表4のNo.24〜28に示すように、50〜150%で調製した。なお、表4のNo.25は、表3のNo.19と同じものである。
リンゴ酸、クエン酸、リンゴの濃縮混濁果汁、果糖ブドウ糖液糖、65.5%アルコールは実施例3と同じものを用いた。
そして、No.24〜28に係る果汁含有アルコール飲料について実施例1と同じ官能試験を行った。
表4に、果汁使用率、果汁含有アルコール飲料の組成とともに、香味のべたつき感、果汁感、味のふくらみ及び総合評価の評価項目ごとに6名のパネルの平均を算出し、記載した。
【0057】
【表4】
【0058】
表4に示すように、No.25(No.19)〜28に係る果汁含有アルコール飲料が、総合評価の平均が3.00以上となり、優れていると評価された。これらの果汁使用率は70〜150%であった。ただし、果汁使用率が150%であるNo.28に係る果汁含有アルコール飲料については、果汁感と味のふくらみはそれぞれ高評価であったが、味が濃過ぎる、もったりする、甘味が残るなどのコメントがあり、嗜好によっては歓迎されない場合もあり得ることがわかった。つまり、果汁使用率は150%未満とするのが好ましいことがわかった。
【0059】
これに対し、No.24に係る果汁含有アルコール飲料は、総合評価の平均が3.00未満となり、総合評価が劣っていると評価された。これは果汁使用率が50%であった。
【0060】
<まとめ>
以上に示した実施例1〜4から明らかなように、リンゴ酸とクエン酸を10:90〜40:60の混合比率で含ませると、果汁感はあっても香味のべたつき感のない果汁含有アルコール飲料にできることが確認された。つまり、リンゴ酸とクエン酸の混合比率が当該範囲である組成物は、果汁含有アルコール飲料の香味を改善する香味改善剤として用いることができることがわかった。また、リンゴ酸とクエン酸の混合比率の好ましい範囲は15:85〜35:65であり、特に好ましくは、20:80〜30:70であることも確認された。さらに、果汁の果汁使用率は50%を超え150%未満とするのが好ましいが、70%以上とするのがより好ましく、120%以下とするのがさらに好ましいことも確認された。
【0061】
また、No.14、28に係る果汁含有アルコール飲料のように、果汁感と味のふくらみが高評価(いずれもパネルの評価の平均が4.00以上)であっても、総合評価が必ずしも高いものになるとは限らないことが確認された。
さらに、例えば、No.3、17に係る果汁含有アルコール飲料のように、香味のべたつき感、果汁感及び味のふくらみのうちの少なくとも一つが3.00未満の評価となった場合であっても、総合的に評価すると優れていると評価されることも確認された。
つまり、香味のべたつき感、果汁感及び味のふくらみは、これらのうちの一つ又は二つが優れていたとしても総合評価が良くなるとは限らず、果汁感はあっても香味のべたつき感がないという香味特徴を得るためには、リンゴ酸とクエン酸の混合比率を前記した特定範囲内となるように混合させる必要があることが確認された。
【符号の説明】
【0062】
S1 混合ステップ
S2 ろ過ステップ
S3 殺菌ステップ
S4 充填ステップ
図1
図2