(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
周知の切削工具(切削インサート)のひとつに、超硬合金、セラミックス、サーメット、焼結合金などからなる多角形台金のコーナ部にcBN焼結体の小片を接合するなどして設け、切れ刃をそのcBN焼結体で構成したcBN切削工具がある。
【0003】
かかるcBN切削工具は、ブレーカ突起やブレーカ溝を設けない形態のものについては、台金の上面とcBN焼結体に形成されるすくい面を面一に仕上げている。cBN工具での切削には様々なアプリケーションがあり、それぞれに合った刃先処理が要求される。切れ味が必要な場合はシャープエッジやホーニング処理のみを施したものが使用される。強度が必要とされる場合にはcBN焼結体は硬くて脆いことから、そのcBN焼結体に形成される切れ刃にネガランドを付してその切れ刃を強化する方法が多用されている。
【0004】
通常、すくい面の研削は、多数の切削工具を平面研削盤に装着して単一の砥石で研削する方法が採られており、その方法では台金と台金のコーナ部に設けられたcBN焼結体が一緒に研削(いわゆる共削り)され、そのために、台金の上面とcBN焼結体のすくい面が面一になっている。また、台金のみすくい面のみ研削して仕上げた後、CBNブランクをロー付けし、逃げ面のみ共削りする方法も考えられる。
【0005】
なお、台金の上面とcBN焼結体のすくい面が面一になっているcBN切削工具は、例えば、下記特許文献1などに開示されている。また、工具メーカ各社(例えば、住友電工ハードメタル社、タンガロイ社、三菱マテリアル社、サンドビック社など)がインターネットで開示しているカタログにも記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
cBN焼結体のすくい面と台金の上面を共削りする方法では、硬さの異なる材料が同時に加工され、研削面積も大きくなるため、砥石の目詰まりや揺動による砥石の片当り(不均一当り)が避けられず、それが原因で研削した面にいわゆるダレが生じて刃先近傍のすくい面の平面性が悪化する。台金のみ削る場合でも面積が広いため平面性を出すことは難しい。
【0008】
一般的な旋削工具の真の芯高(工具の加工点)は、工具本体の厚み公差(最も厳しい場合で±25μm)によってばらつき、さらに、切れ刃部にネガランドが設けられている旋削工具では、そのネガランドの傾斜角、幅、加工精度によってばらつきが大きくなる。
【0009】
小径棒材の外周加工や小径穴の加工では特に、芯高は加工精度を左右することからその精度を高めることがきわめて重要とされる。従来のcBN切削工具は、その要求に真に応えられるものではなかった。
【0010】
例えば、仕上げ加工に用いられるcBN切削工具は、切れ味を重視してネガランドの傾斜角を小さくし、ネガランドの幅も小さくすることが要求される。さらに切れ味が必要な場合はネガランドを設けないシャープエッジやホーニングのみつけた刃先処理が要求される。
【0011】
この要求に対し、cBN焼結体のすくい面と台金の上面を共削りして作る従来のcBN切削工具は、すくい面のダレの影響などがあって、同一仕様の工具でも、ネガランドの幅のばらつきは、ネガランドの傾斜角が例えば15°の場合で±25μm、ネガランドの傾斜角が10°の場合は±40μmにもなっている。
【0012】
ネガランドの幅がばらつけば、工具の芯高もばらつく。そのために、芯高の調整は、ワークの試し削りを実施して補正を加える方法で行っており、工具を使用する者にとって極めて面倒な作業となっていた。
【0013】
また、ネガランドの幅や高さを研削時の精度誤差の範囲よりも大きくする必要があり、そのために、ネガランドが必要以上に大きくなり、ネガランドの傾斜角をより小さくすることも難しくて切れ味にも影響が出ていた。
【0014】
前記のように、用途に応じてネガランドサイズを大きくする場合もあるが、その他に、従来は、cBN焼結体のすくい面と台金の上面を共削りした後に逃げ面を研削しているが、その逃げ面の加工時に刃先のチッピングが起こることがあり、ネガランドのサイズを大きくすることでそのチッピングを除去する必要があったのである。
【0015】
この発明は、台金のコーナにcBN焼結体を設けたcBN切削工具について、芯高の精度を大きく高めることができ、また、刃先処理の自由度を高めること(ネガランドの傾斜角や幅も十分に小さくし得るようにすること)を課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記の課題を解決するため、この発明においては、下記の製造方法を提供する。
その製造方法は、cBN切削工具の台金を、位置と姿勢の制御が可能な研削盤のチャックで厚み方向に挟みつけて保持し、この状態で研削盤の回転する砥石の端面に前記台金のコーナに設けられているcBN焼結体を押し付けてそのcBN焼結体に形成される逃げ面とすくい面を研削する。
【0017】
そしてその研削を、実質的な研削対象が前記cBN焼結体となるように行う。
また、その逃げ面とすくい面の研削を、逃げ面については、その逃げ面に工具厚み方向と垂直な研摩筋が形成され、すくい面については、工具のcBN焼結体を設けたコーナの2等分線に対して垂直に近い研摩筋が形成されるように行う。そしてさらに、すくい面の研削ではcBN焼結体のすくい面を前記台金の上面から落ち込ませ、もしくは台金すくい面より飛び出した
cBN焼結体のみを研削し、以上の作業を、前記チャックの姿勢と位置を調整することでチャックによる工具の保持状態を解かずに実施する。
【0018】
なお、「実質的な研削対象が前記cBN焼結体となるように行う」の表現は、共削りの弊害がでなくて平坦度が出しやすい十分に小さい広さであればすくい面の研削領域が台金の一部にかかっても問題はなく、そのような状況で研削される台金の一部は研削領域と考えない。そのような意味で使用した。
【発明の効果】
【0019】
この発明の方法における研削では、逃げ面、すくい面、及びネガランドの研削をワンチャックで実施するので、工具の持ち替えによる位置ずれが起こらない。また、すくい面の研削を実質的な研削対象がcBN焼結体となるように行うので、台金が共削りされる場合の加工面のダレが発生しない。加工面積が小さいため平面度が出やすい。
【0020】
このために、cBN切削工具の芯高精度を大きく高めることができ、さらに、刃先処理の自由度が高まり、ネガランドが無い場合やネガランドを設ける場合のネガランドの傾斜角や幅も十分に小さくすることが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、この発明のcBN切削工具の製造方法の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0023】
研削対象のcBN切削工具の一例を
図1A、
図2Aに示す。
図1AのcBN切削工具1は、超硬台金製の台金2の上面2aの鋭角コーナ部にcBN焼結体3の小片を接合した菱形切削インサートである。この菱形切削インサートは、2箇所の対角位置の鋭角コーナ部にcBN焼結体3の小片を設けたものも存在する。
【0024】
図2AのcBN切削工具1は、超硬台金製の台金2の上面2aの各コーナ部にcBN焼結体3の小片を接合した三角形切削インサートである。1コーナのみにcBN焼結体を設けた切削インサートや例示の形状とは異なる形状(コーナ角の異なる菱形やコーナ数が4あるいはそれ以上ある多角形)の切削インサート、或いは、ネガティブ型で台金の上下面のコーナ部にcBN焼結体を接合したものなども本発明の方法での加工対象となる。
【0025】
cBN焼結体3は、cBN切削工具1のcBN焼結体を設けたコーナの2等分線CLに対して垂直な接合面3aを有しており、その接合面3aで切削背分圧を受けるものになっている。
【0026】
このcBN焼結体3と超硬合金の台金2は、切削工具にできるものであればよく、cBNやタングステンなどの含有量などは特に問わない。
【0027】
以下の説明は、
図1AのcBN切削工具(菱形切削インサート)の研削加工を例に挙げて行う。
【0028】
この発明では、NC研削盤を使用して研削加工を行う。使用する研削盤は、位置と姿勢の数値制御がなされる
図3に示すようなチャック11と、定位置で回転する砥石12を有
する。
【0029】
この研削盤に対するワーク(cBN切削工具)の搬入・搬出と、チャック11に対するワークの受け渡しは、位置制御がなされるロボットハンド(図示せず)を用いて行われる。
【0030】
なお、図示の砥石12はカップ砥石であるが、円盤状砥石による研削も可能である。その砥石12は、#600番以上のきめの細かなものが適している。
【0031】
この発明の方法の評価に使用した研削盤は、
図4、
図5に示す4軸制御、即ち、X軸、Y軸方向へのチャック移動、チャック11の軸心Oを中心にした回転及び
図5のb軸方向回転の各機能(Z軸方向には動かない)を有するものであり、その4軸制御機能の研削盤でこの発明の製造方法での研削を問題なく実施することができた。
【0032】
チャック11は、対向一対のサイズ交換が可能な栓ゲージ11a,11aを有しており、加工するcBN切削工具の型番にあった栓ゲージを使用してロボットハンドが定位位置に搬入したcBN切削工具1をその工具の台金2を厚み方向に挟みつけて保持する。
【0033】
そして、チャック11の位置と姿勢を制御することで台金2のコーナに接合されているcBN焼結体3を回転する砥石12の端面に押し付け、そのcBN焼結体に形成される逃げ面5とすくい面4を研削する。
【0034】
研削の順序は、逃げ面5を先に研削し、その後にすくい面4を研削する方が、すくい面、逃げ面の順に研削する場合よりも両面間に形成される稜線部のチッピングの抑制効果が高くて好ましい。
【0035】
逃げ面5の研削では砥石が加工する面の一部に接触してその接触域が変動していく。これに対し、すくい面4の研削では砥石の端面が研削領域の全域に平行に当る。このことがチッピングの抑制に有効に働くのではないかと考えられる。
【0036】
逃げ面5の研削は、
図4に示すように、チャック11で掴んだcBN切削工具1の逃げ面5を砥石12の端面に押しつけ、チャック11を軸心Oを中心にして回転させながら加工領域を変動させていく。
【0037】
これにより、逃げ面5に工具厚み方向と垂直な研摩筋7(
図6参照)が形成される。こ
こで言う工具厚み方向と垂直な研摩筋とは、完全に垂直な方向のみを指すのではなく、経済性や作業容易性を損なわない範囲で工具厚み方向と垂直な線に対して多少傾いた方向の研摩筋も含む。
【0038】
逃げ面、すくい面の研磨筋を垂直にする理由は量産時のコストが安くできるためである。作用効果の得られる範囲で斜めの研磨筋をつくることも構わない。
【0039】
このときに、cBN焼結体3の逃げ面5が台金2の側面と面一になっていれば台金2の側面も同時に研削されるが、cBN焼結体3は厚みがさほど厚くないので、この加工で逃げ面に無視できないほどのダレが生じることはない。なお、逃げ面5が台金2の側面よりも突出していれば、この工程では逃げ面5のみが加工されることになる。
【0040】
次に、すくい面4を研削する。その加工は、チャック11によるcBN切削工具1の持ち替えを行わずに実施する。cBN切削工具1を掴んだチャック11を
図5のb軸方向に回転させ、
図7に示すように、cBN焼結体3のすくい面を砥石12の端面に平行に押し
つける。
【0041】
このとき、砥石12に対する切削工具の押しつけは、cBN焼結体3のみが研削されるようにすると、硬さの異なる2種の材料の共削りが起こらず、研削面積の小さくなって適宜ドレッシングを施した切れ味の良い砥面を使用することができる。これに加えて、仕上がった工具が体裁のよいものになる。cBN焼結体3の上面が台金2の上面(台金すくい面)よりも突出している場合には、cBN焼結体3のみを研削しやすい。
【0042】
ただし、共削りの弊害がでない広さであれば台金の一部がcBN焼結体のすくい面と一緒に研削されても構わない。研削面の縁が例えば、2mmぐらい台金2側に入り込む状況であれば、共削りの弊害は生じず、すくい面の平面性は損なわれない。
【0043】
すくい面4の研削は、
図8に示すように、工具のcBN焼結体3を設けたコーナの2等分線CLに対して垂直に近い研摩筋8が形成されるように行う。
【0044】
なお、回転する砥石の端面にすくい面を押しつけるとすくい面に形成される研摩筋は厳密には直線ではなく円弧状になる。そのために、「コーナの2等分線に対して垂直に近い研摩筋」と称した。
【0045】
図9に示すように、コーナの2等分線CLが砥石12の回転中心から放射状に延びだす仮想直線上に置かれる姿勢にして研削を行えば、砥石12の回転中心を中心にした円弧状の研摩筋8がすくい面4に形成される。
【0046】
砥石12は、半径50mm〜300mm程度のものが一般的に使用されており、今、半径300mmの砥石を使用したとすると、研摩筋8は300mm近くのR半径をもつ筋となる。cBN切削工具はさほど大きくないので、その研摩筋8は直線に近い筋に見える。
【0047】
逃げ面5とすくい面4の研削を共に同一砥石の端面で行った場合、その逃げ面5とすくい面4は、面粗度の比が1に近いものになる。
【0048】
なお、すくい面4の研削は、研削する前の台金上面(台金すくい面)とcBN焼結体の上面が面一である場合には、
図10のように、すくい面4が台金の上面2a(ネガティブ型の切削工具で上下面が同一構造になっているものは下面も上面と考える)から落ち込んで台金の上面2aとすくい面4との間に好ましくは0.1mm以下の段差hが形成されるように行う。
【0049】
台金の上面を研削した後にcBNブランクをロー付けした(台金のすくい面とcBNブランクが面一でない)工具を研削加工の対象とする場合も本発明の対象となる。研削する前のcBN焼結体上面が台金上面よりも突出している場合には、飛び出したCBN焼結体のみを研削するとよい。
【0050】
逃げ面5とすくい面4の研削を共に同一砥石の端面で行った場合、その逃げ面5とすくい面4は、面粗度比が1に近いものになる。
【0051】
その段差hができると、台金2の研削面との境界部に
図10に鎖線で示したようなエッジeができる。そのエッジeは無用なものであるので、面取り部9(
図10参照)を施して除去するのがよい。
図7の状態からチャック11を同図の矢印方向(図は時計回り方向)に回転させることですくい面の加工に引き続いて面取り部9を形成することができる。
【0052】
切れ刃のネガランドが必要とされる場合には、逃げ面5とすくい面4の研削を終えたら
、次に、その逃げ面5とすくい面4の交差した稜線で形成される切れ刃6に沿ってネガランド10(
図11参照)を付与する。
図5の鎖線のように、チャック11の軸心Oを傾け、この状態でネガランドを形成する部分を砥石12の端面に接触させ、チャック11を動かして接触点を切れ刃の長手方向に移動させていくことでネガランド10を付与することができる。
【0053】
以上の研削は、この発明ではチャック11による工具の保持状態を解かずにいわゆるワンチャックで実施する。なお、上記の実施例では、ネガランドの付与をすくい面の研削の後としたが、すくい面の研削の前に行っても良い。この場合、チッピングの抑制効果を高めることができる。
【0054】
これにより、工具の持ち替えによる位置ずれが防止され、また、すくい面を台金が共削りされない状況下で行うことによってすくい面のダレも防止され、芯高H(
図12参照。工具が支持される座面から加工点までの高さ)の精度が大きく高められる。
【0055】
また、すくい面のダレが抑制されることでネガランド10の傾斜角θと呼び幅W(
図11参照)を従来工具よりも小さくすること(仕上げ用工具などでのネガランドサイズを適正化すること)が可能になり、それにより呼び幅Wのばらつきが小さくなって、芯高精度の更なる向上や切れ味の向上を図ることが可能になる。
【0056】
#1400番のカップ砥石を使用して研削加工を行った量産品の試作工具については、芯高Hの公差を±10μm以下に収め、さらに、ネガランド傾斜角θ=15°以下、ネガランド呼び幅W=0.1mm(100μm)での呼び幅公差も±10μmに収めることができた。また、従来、不可能であった傾斜角θ=5°のネガランドの加工も可能であった。
【0057】
例示の方法によれば、上述したように、芯高精度の高いcBN切削工具を製造することができ、これにより、量産工具を使用するときにも芯高調整のための試し削りが不要になり、工具の使用者にとって多大な恩恵がもたらされる。例示の方法は、一般的な外周研磨の設備を用いて簡単に作る方法であり、本作用効果をもつものなら加工法は限定されない。
【0058】
なお、上記の説明は、逃げ面、すくい面の手順で研削することを例に挙げて行ったが、すくい面を先に研削し、その後に逃げ面を研削する手順でも、各研削加工をワンチャックで行うこと、及びすくい面の研削を実質的な研削対象がcBN焼結体となるように行うことが有効に働くため、従来品に比べると芯高の精度やネガランドの精度が高まる。
【0059】
なお、本発明は、台金の上面を研削した後にcBNブランクをロー付けした(台金のすくい面とcBNブランクが面一でない)工具を研削加工の対象とする場合も適用対象となる。