(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ダイパッドの上面に半導体素子を接合する搭載工程と、前記半導体素子とリードとを接続部材によって電気接続する接続工程と、前記ダイパッド、前記半導体素子、前記接続部材および前記リードの表面をシランカップリング剤によって表面処理する表面処理工程と、前記ダイパッド、前記半導体素子、前記接続部材および前記リードを封止樹脂で封止する封止工程と、をこの順に含み、
前記半導体素子の表面のうち前記接続部材が接合される前記半導体素子の第一の面は、有機物が露出した第一の領域と、無機物が露出した第二の領域と、を含み、
前記第一の領域と前記封止樹脂との接合強度は、前記第二の領域と前記封止樹脂との接合強度よりも弱い
半導体パッケージの製造方法。
前記表面処理工程は、前記ダイパッド、前記半導体素子、前記接続部材および前記リードの表面に前記シランカップリング剤を含む溶液を噴霧する噴霧工程と、前記溶液を加熱する加熱工程と、をこの順に含む
請求項1から3のいずれか1項に記載の半導体パッケージの製造方法。
ダイパッドと、前記ダイパッドの上面に接合された半導体素子と、リードと、前記半導体素子と前記リードとを接続する接続部材と、前記ダイパッド、前記半導体素子、前記接続部材および前記リードを封止する封止樹脂と、を含み、
前記ダイパッド、前記半導体素子、前記接続部材および前記リードの表面は、シランカップリング剤によって表面処理され、
前記半導体素子の表面のうち前記接続部材が接合される前記半導体素子の前記第一の面は、有機物が露出した第一の領域と、無機物が露出した第二の領域と、を含み、
前記第一の領域と前記封止樹脂との接合強度は、前記第二の領域と前記封止樹脂との接合強度よりも弱い
半導体パッケージ。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ダイパッドは、金属によって形成されており、封止樹脂との密着力は低い。そのため、ダイパッドと封止樹脂との間には剥離が生じやすい。ダイパッドと封止樹脂とが剥離した状態で、半導体パッケージの信頼性試験(温度サイクル試験、断続動作試験等の環境試験)を行うと、ダイパッドおよび封止樹脂などは、外部からの熱や半導体素子の自己発熱により熱膨張する。このため、ダイパッドと封止樹脂との熱膨張係数の相違に基づいて、ダイパッドと封止樹脂とが相対移動し、半導体素子とダイパッドを接合する接合部材にクラックが発生する惧れがある。接合部材にクラックが生じると、半導体素子とダイパッドとの間の電気抵抗が高くなる。また、半導体素子の放熱性も悪くなる。
【0005】
特許文献1では、ダイパッドの上面に粗面化処理を施し、ダイパッドと封止樹脂との密着力を高めることで、上記の問題を抑制している。特許文献1では、ダイパッドの上面に粗面化処理を施した後、ダイパッドの上面に半導体素子を接合する。そして、半導体素子とリードとを接続部材によって接続した後、封止樹脂で封止を行う。この方法では、封止樹脂がダイパッドの上面の凹凸部に充填され、封止樹脂と凹凸部とが物理的に係合する。そのため、ダイパッドと封止樹脂との相対移動が抑制される。
【0006】
しかし、この方法では、ダイパッドと封止樹脂との密着力が、ダイパッドと封止樹脂との係合という物理的な作用によってのみ生じるため、密着力は必ずしも十分ではない。また、特許文献1では、封止樹脂と半導体素子との密着力については言及されていない。一般に、半導体素子の表面は、半導体の酸化膜や電極等の無機物からなるため、封止樹脂と半導体素子との密着力が弱い。このため、半導体パッケージに対して前述した信頼性試験を行うと、半導体素子と封止樹脂との熱膨張係数の相違に基づいて、封止樹脂と半導体素子とが相対移動し、半導体素子とダイパッドとを接合する接合部材にクラックが発生する惧れがある。
【0007】
一方、無機物(金属)と有機物(樹脂)との密着力を高める技術として、シランカップリング剤が知られている。シランカップリング剤は、金属と樹脂とを化学的に接合することにより、金属と樹脂との密着力を高める技術である。特許文献2では、半導体パッケージが搭載される樹脂基板と、金属で形成された放熱基板とを接合する際に、放熱基板の表面にシランカップリング剤を塗布し、両者の密着力を高めている。特許文献3〜5には、表面をシランカップリング剤で処理したリードフレームに半導体素子を実装した後、半導体素子およびリードを封止樹脂で封止する技術が開示されている。
【0008】
しかし、この方法では、シランカップリング剤が、ダイパッドと接合部材との密着力を阻害しないように、半導体素子の搭載される領域にマスキングを施すなどの工夫が必要となる。また、ダイパッドと封止樹脂との密着力は高まるが、封止樹脂と半導体素子との密着力については、依然として改善の余地がある。
【0009】
一方、封止樹脂と半導体素子との密着力を高めることは、半導体パッケージの電気的特性を高める上で、必ずしも好ましい効果を生まない場合がある。例えば、半導体素子と封止樹脂とが強固に密着していると、信頼性試験を行ったときに、半導体素子と封止樹脂との熱膨張係数の相違に基づいて、半導体素子と封止樹脂との界面に大きな応力が発生する。半導体素子には、電気回路を形成するための複数の層が形成されているが、半導体素子と封止樹脂との界面に大きな応力が発生すると、各層にクラックが発生したり、各層の間に剥離が生じたりして、半導体素子の電気的特性に影響を及ぼす惧れがある。
【0010】
本発明の目的は、ダイパッドおよび半導体素子と封止樹脂との密着力が高く、半導体素子の電気的特性にも優れた半導体パッケージの製造方法および半導体パッケージを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様に係る半導体パッケージの製造方法は、ダイパッドの上面に半導体素子を接合する搭載工程と、前記半導体素子とリードとを接続部材によって電気接続する接続工程と、前記ダイパッド、前記半導体素子、前記接続部材および前記リードの表面をシランカップリング剤によって表面処理する表面処理工程と、前記ダイパッド、前記半導体素子、前記接続部材および前記リードを封止樹脂で封止する封止工程と、をこの順に含み、前記半導体素子の表面のうち前記接続部材が接合される前記半導体素子の第一の面は、有機物が露出した第一の領域と、無機物が露出した第二の領域と、を含み、前記第一の領域と前記封止樹脂との接合強度は、前記第二の領域と前記封止樹脂との接合強度よりも弱い。
【0012】
本発明の一態様に係る半導体パッケージは、ダイパッドと、前記ダイパッドの上面に接合された半導体素子と、リードと、前記半導体素子と前記リードとを接続する接続部材と、前記ダイパッド、前記半導体素子、前記接続部材および前記リードを封止する封止樹脂と、を含み、前記ダイパッド、前記半導体素子、前記接続部材および前記リードの表面は、シランカップリング剤によって表面処理され、前記半導体素子の表面のうち前記接続部材が接合される前記半導体素子の前記第一の面は、有機物が露出した第一の領域と、無機物が露出した第二の領域と、を含み、前記第一の領域および前記第二の領域の表面は、シランカップリング剤によって表面処理されており、前記第一の領域と前記封止樹脂との接合強度は、前記第二の領域と前記封止樹脂との接合強度よりも弱い。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、半導体素子の実装やリードとの接続が終了してからシランカップリング剤を用いた表面処理を行うので、ダイパッドと封止樹脂との接合強度だけでなく、半導体素子と封止樹脂との接合強度も向上する。また、有機物が露出した第一の領域には、無機物が露出した第二の領域と比べて、シランカップリング剤の水酸基末端が結合しにくいため、封止樹脂と第一の領域との接合強度は、封止樹脂と第二の領域との接合強度に比べて弱い。このため、半導体素子外部からの加熱または半導体素子自身の発熱に起因する熱膨張が起きたとき、半導体素子と封止樹脂との熱膨張係数の相違に基づいて半導体素子の第二の領域と封止樹脂との界面において生ずる応力を、第一の領域に対応する半導体素子や封止樹脂の部分において緩和することができる。その結果、半導体素子の第一の面側に形成される電気回路形成用の各層にクラックが発生したり、各層の間に剥離が生じたりすることを抑え、半導体素子の電気的特性に影響を及ぼすことを抑制できる。したがって、ダイパッドおよび半導体素子と封止樹脂との密着力が高く、半導体素子の電気的特性にも優れた半導体パッケージの製造方法および半導体パッケージを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
〔第一実施形態〕
(半導体パッケージ)
以下、
図1から
図4を参照して、本実施形態に係る半導体パッケージ30について説明する。本実施形態に係る半導体パッケージ30は、
図1および
図2に示すように、ダイパッド11と、半導体素子31と、リード12と、吊りリード部15と、接続部材32と、封止樹脂33と、を含む。
【0016】
ダイパッド11は、半導体素子31を搭載するための平板状の部材である。ダイパッド11は、
図2に示すように、第一の主面1101と、第一の主面1101と反対側の第二の主面(上面)1102と、を有する。半導体素子31は、はんだや銀ペースト等の接合部材41を用いて、ダイパッド11の第二の主面1102に接合される。
【0017】
半導体素子31は、基材部311を含む。基材部311は、平面視矩形の板状の半導体である。基材部311は、例えば、シリコンで形成される。基材部311の表面には、無機物である半導体の酸化膜、例えばシリコン酸化膜(SiO
2)が形成される。
図4に示すように、基材部311は、第一の主面3111と、第一の主面3111と反対側の第二の主面3112と、を含む。第二の主面3112は、ダイパッド11の第二の主面1102と対向する。
【0018】
図3および
図4に示すように、半導体素子31は、ガードリング341を含む。ガードリング341は、ループ状に形成されている。ガードリング341は、例えば、アルミニウムで形成される。ガードリング341は、基材部311の第一の主面3111に設けられる。ガードリング341は、半導体素子31をスクライビングの際に生じるクラックから保護するために設けられる。ガードリング341の表面には、絶縁層342が形成される。絶縁層342は、例えば、ガードリング341の表面にTEOS(テトラエトキシシラン)の層を形成した後、TEOSの層の上に有機物の層を積層することによって作製される。有機物は、例えばポリイミドである。絶縁層342の表面は、有機物によって構成されている。
【0019】
半導体素子31は、電極部312を含む。電極部312は、半導体素子31とリード12とを電気接続するために設けられる、板状の金属部材である。電極部312は、基材部311の第一の主面3111のうち、平面視でガードリング341に囲まれた部分に設けられる。
【0020】
電極部312は、金属で形成される。電極部312は、例えば、アルミニウムで形成される。電極部312の表面には、金属酸化物、例えば酸化アルミニウム(Al
2O
3)の膜が形成されている。電極部312は、例えば、第一の電極3121と、第二の電極3122と、を含む。
【0021】
以下、半導体素子31の表面のうち、接続部材32が接合される半導体素子31の面を、第一の面3101と称する。第一の面3101は、半導体素子31における第一の主面3111側の最表面にある。第一の面3101には、基材部311の第一の主面3111、絶縁層342の表面および電極部312の表面が含まれる。基材部311の表面は、半導体や半導体の酸化膜等の無機物によって構成され、絶縁層342の表面はポリイミドなどの有機物からなる有機膜によって構成され、電極部312の表面は金属や金属酸化物等の無機物で構成されている。よって、第一の面3101は、有機物が露出した第一の領域34と、無機物が露出した第二の領域35と、を含む。
【0022】
第一の領域34は、絶縁層342の表面を含む。第二の領域35は、電極部312の表面と、基材部311の第一の主面3111を含む。なお、電極部312の表面に有機膜が形成された部分があってもよい。この場合、第一の領域34は、電極部312上に設けられた有機物の表面を含む。電極部312の表面の少なくとも一部は、第二の領域35に含まれる。
【0023】
接続部材32は、例えば、
図1および
図2に示すように、ボンディングワイヤーである。ボンディングワイヤーは、電極部312と同じ無機物、例えば、アルミニウムで形成される。接続部材32は、第一の接続部材321aと、第二の接続部材322aと、を含む。
【0024】
第一の電極3121の第二の領域35に含まれる部分の表面には、ワイヤーボンディングによって、第一の接続部材321aが接合される。第二の電極3122の第二の領域35に含まれる部分の表面には、ワイヤーボンディングによって、第二の接続部材322aが接合される。
【0025】
第一の電極3121の第二の領域35に含まれる部分の表面には、ワイヤーボンディングによって、第一の接続部材321aが接合される。第二の電極3122の第二の領域35に含まれる部分の表面には、ワイヤーボンディングによって、第二の接続部材322aが接合される。
【0026】
半導体素子31は、
図2および
図4に示すように、第三の電極313を含む。第三の電極313は、基材部311の第二の主面3112に形成される。半導体素子31は、例えば、バイポーラトランジスタであり、第一の電極3121はゲート電極、第二の電極3122はソース電極、第三の電極313はドレイン電極である。
【0027】
リード12は、第一の端部17と、第二の端部18を含む。第一の端部17には、接続部材32が接続される。リード12の第一の端部17には、例えばニッケルめっきが施されている。
【0028】
リード12は、平面視したダイパッド11の一端側に間隔をあけて配されている。リード12は、ダイパッド11の主面1101,1102に沿ってダイパッド11の一端から離れる方向に延びて形成されている。リード12の長手方向の両端部のうち、ダイパッド11に隣り合う端部は、第一の端部17である。ダイパッド11から離れて位置する端部は、第二の端部18である。
【0029】
リード12は、平面視したダイパッド11の一端側に間隔をあけて配されている。リード12は、ダイパッド11の主面1101,1102に沿ってダイパッド11の一端から離れる方向に延びて形成されている。リード12の長手方向の両端部のうち、ダイパッド11に隣り合う端部は、第一の端部17である。ダイパッド11から離れて位置する端部は、第二の端部18である。
【0030】
図1に戻って、吊りリード部15は、ダイパッド11の一端からリード12の長手方向に延びる。吊りリード部15は、例えば、ドレイン線である。吊りリード部15は、ダイパッド11を介して、第三の電極313と電気接続されている。
【0031】
ダイパッド11、リード12、吊りリード部15は、封止樹脂33によって封止される。リード12の第一の端部17は、封止樹脂33により封止されている。リード12の第二の端部18は、封止樹脂33から延出している。また、ダイパッド11の第一の主面1101は、封止樹脂33の外部に露出している。
【0032】
封止樹脂33には、シランカップリング剤が含まれている。封止樹脂33に含まれるシランカップリング剤は、例えば、封止樹脂33を硬化する際の硬化促進剤や、封止樹脂33とダイパッド11および半導体素子31との密着性を高める密着性向上剤として機能する。なお、封止樹脂33が含むシランカップリング剤は、例えば、後述する表面処理で用いられるシランカップリング剤とは異なるシランカップリング剤が用いられるが、表面処理で用いられるシランカップリング剤と同じシランカップリング剤であってもよい。
【0033】
ダイパッド11、半導体素子31、接続部材32、リード12および吊りリード部15の表面は、半導体素子がダイパッドに接合されると共に半導体素子及びリードが接続部材によって接続された状態でシランカップリング剤によって表面処理され、封止樹脂33との接合強度が高められている。シランカップリング剤の分子は、末端が有機材料と化学結合する第一の官能基、および、末端が無機材料と化学結合する第二の官能基の、二種類の官能基が、シリコン原子に結合した構造を有する。第二の官能基は、例えば、加水分解によって無機材料表面の水酸基と脱水縮合することにより、無機材料と結合する。よって、シランカップリング剤を用いて、有機材料である封止樹脂33と、無機材料であるダイパッド11等とを結合させることが可能である。シランカップリング剤としては、3−メルカプトプロピルトリメトキシシランや3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン等、公知のものを用いることができる。
【0034】
(製造方法)
以下、主に
図5および
図6を参照して、本実施形態に係る製造方法について説明する。
【0035】
半導体パッケージ30を製造する際には、
図1に示したダイパッド11、リード12および吊りリード部15を有するリードフレームを準備する。リードフレームは、ダイパッド11および複数のリード12を一体に連結する連結フレーム部(図示略)をさらに含む。リードフレームは、例えば銅板のように導電性を有する板材にプレス加工を施すことで得られる。
【0036】
本実施形態の製造方法では、吊りリード部15を折り曲げて、リード12に対してダイパッド11をその厚さ方向にずらす。これにより、リード12はダイパッド11の第二の主面1102よりも上方に位置する(
図2参照)。
【0037】
(搭載工程S1)
図5に示すように、本実施形態の半導体パッケージ30の製造方法では、まず、ダイパッド11の第二の主面(上面)1102に、半導体素子31を搭載する(
図1および
図2参照)。
【0038】
搭載工程S1においては、
図1および
図2に示すように、半導体素子31をダイパッド11の第二の主面(上面)1102の上に載置する。半導体素子31は、基材部311の第二の主面3112がダイパッド11の第二の主面1102と対向するように載置される。半導体素子31の第一の面3101の反対側の面である第二の面3102に形成された第三の電極313を、はんだや銀ペースト等の接合部材41によって、ダイパッド11の第二の主面1102に接合する。はんだを用いた接合は、例えば、リフロー方式により行われる。接合部材により、第三の電極313は、ダイパッド11と電気接続される。
【0039】
(接続工程S2)
次に、
図5に示すように、半導体素子31とリード12とを、接続部材32によって電気的に接続する。接続工程では、接続部材32の両端を、半導体素子31及びリード12に接続する(
図1および
図2参照)。
【0040】
接続工程S2においては、
図1および
図2に示すように、第一のボンディングワイヤー321aによって、半導体素子31の第一の電極3121と第一のリード121とを接続する。また、第二のボンディングワイヤー322aによって、半導体素子31の第二の電極3122と第二のリード122とを接続する。
【0041】
(表面処理工程S3)
次に、
図5に示すように、ダイパッド11、半導体素子31、接続部材32、リード12および吊りリード部15の表面をシランカップリング剤によって表面処理する(
図1および
図2参照)。表面処理工程S3は、例えば、噴霧工程S31と、加熱工程S32と、をこの順に含む。
【0042】
噴霧工程S31においては、シランカップリング剤をエタノール、メタノール、イソプロピルアルコール等で希釈して得られる溶液を、例えばダイパッド11の第二の主面1102側から、ダイパッド11、半導体素子31、接続部材32、リード12、および吊りリード部15の表面に噴霧する。噴霧する領域は、
図6(a)に点線で示すように、封止樹脂33(
図1参照)で封止される面全域が含まれる領域Aである。その結果、
図6(b)中に太線で示すように、ダイパッド11の表面、半導体素子31の基材部311の表面および電極部312の表面、接続部材32の上側表面、リード12の第一の端部17、吊りリード部15の上側表面に、シランカップリング剤が塗布される。この方法により、ダイパッド11、半導体素子31、接続部材32およびリード12の表面を無駄なく効率的に表面処理することができる。
【0043】
本実施形態では、基材部311は、シリコンで形成される。このため、基材部311の表面は、酸化シリコン(SiO
2)の膜が形成されている。また、電極部312は、アルミニウムで形成される。このため、電極部312の表面には、酸化アルミニウム(Al
2O
3)の膜が形成されている。
【0044】
本実施形態の半導体モジュールによれば、第二実施形態と同様の効果を奏する。
【0045】
他方、有機物が表面に露出した第一の領域34には、基材部311や電極部312を含む第二の領域35と比べて、水酸基の末端の露出する本数が少ない。このため、第一の領域34には、シランカップリング剤の第二の官能基が結合しにくい。したがって、封止樹脂33と第一の領域34との接合強度は、封止樹脂33と第二の領域35との接合強度に比べて弱い。
【0046】
温度サイクル試験、断続動作試験等の信頼性試験を行ったときに、半導体素子31は外部から加熱され、あるいは自ら発熱する。発生した熱により、半導体素子31や封止樹脂33は熱膨張するが、熱膨張係数の差によって、電極部312や基材部311を含む第二の領域35と、第二の領域35と強固に結合した封止樹脂33との界面で、大きな応力が発生する。
【0047】
他方、封止樹脂33と第一の領域34との接合強度は、封止樹脂33と第二の領域35との接合強度に比べて弱いため、第一の領域34と封止樹脂33との界面では、大きな応力は発生しない。このため、半導体素子31の第二の領域35と封止樹脂33との界面で発生した応力は、第一の領域34に対応する半導体素子や封止樹脂の部分において緩和される。その結果、第二の領域35に応力が強く作用することを抑制することができる。
【0048】
第一の領域34を形成することによって、半導体素子31と封止樹脂33との界面で発生する応力が緩和される機構は、以下の通りである。
【0049】
半導体素子31と封止樹脂33とに熱が加わると、半導体素子31と封止樹脂33とはそれぞれ熱膨張する。熱膨張により、半導体素子31と封止樹脂33とは、それぞれ前記界面に平行な方向へ膨張する。半導体素子31と封止樹脂33とは異なる熱膨張係数を有する。このため、膨張する長さは、半導体素子31と封止樹脂33とで異なる。以下、半導体素子31は封止樹脂33よりも大きな熱膨張係数を有すると仮定する。封止樹脂33の熱膨張係数の方が大きい場合も、同様である。
【0050】
半導体素子31と封止樹脂33との接合強度が強い場合、膨張する長さがより小さい封止樹脂33は、膨張する長さがより大きい半導体素子31に追随して、前記界面に平行な方向に変位する。このため、前記界面近傍で、封止樹脂33は、封止樹脂33の変位量に比例した弾性力を受ける。変位量は、半導体素子31と封止樹脂33との、膨張する長さの差に比例する。その結果、前記界面近傍で応力が発生すると考えられる。
【0051】
半導体素子31と封止樹脂33とが膨張する長さは、熱が加わる前における半導体素子31と封止樹脂33とが接合する面の長さに比例する。したがって、半導体素子31と封止樹脂33とが接合する面が長ければ長いほど、前記界面近傍で発生する応力は大きくなる。
【0052】
熱が加わる前の状態で、半導体素子31と封止樹脂33とが接合する面の一部に、第一の領域34を形成する。第一の領域34では、半導体素子31と封止樹脂33との接合強度が弱いため、封止樹脂33が半導体素子31に追随して変位し難くなる。このため、半導体素子31と封止樹脂33とが接合する面の長さは、実質的に短くなる。その結果、前記界面近傍で発生する応力を、より小さくすることができる。
【0053】
以上が、第一の領域34を形成することによって応力が緩和される機構である。
【0054】
また、基材部311および電極部312は、封止樹脂との結合力が強いので、基材部311と電極部312が全て封止樹脂33から剥離する惧れは少ない。よって、半導体素子31と封止樹脂33との密着力を大きく損なわずに、半導体素子31の電気的特性を高めることができる。
【0055】
また、第一の領域34と封止樹脂33との接合強度は、電気接続部の表面と封止樹脂33との接合強度よりも弱い。これにより、電極部312に接合する接続部材32を、剥離しないように保護することができる。これにより、半導体素子31と接続部材32との接続信頼性を高めることができる。
【0056】
また、本実施形態では、第一の領域34はループ状に形成されている。この構成により、半導体素子31と封止樹脂33との熱膨張係数の相違に基づいて生じた応力が、第一の面3101面内のいずれの方向に向かっていても、生じた応力を第一の領域34に対応する半導体素子や封止樹脂の部分において緩和することができる。
【0057】
また、接合部材41には、無機物が表面に露出した第二の領域35やダイパッド11の上面と比べて、水酸基の末端の露出する本数が少ないため、シランカップリング剤の水酸基末端が結合し難い。このため、封止樹脂33と接合部材41との接合強度は、封止樹脂33と第二の領域35との接合強度や、封止樹脂33とダイパッド11との接合強度に比べて弱い。このため、半導体素子31やダイパッド11と封止樹脂33との熱膨張係数の差に起因して、半導体素子31とダイパッド11との間で生ずる応力を、接合部材41の表面において緩和することができる。これにより、半導体素子31やダイパッド11と封止樹脂33との密着力を大きく損なわずに、接合部材41におけるクラックの発生を抑制することができる。その結果、半導体素子31の電気的特性を高めることができる。
【0058】
なお、基材部311を形成する材料、および電極部312を形成する材料は、上述の組み合わせに限られない。半導体材料および金属材料は適宜選択可能であり、また、材料の特性に応じて適宜表面処理を行うことで、表面の水酸基の個数を制御することも可能である。このため、様々な材料の組み合わせに対して、電極部312と封止樹脂33との接合強度を、基材部311と封止樹脂33との接合強度より弱くすることが可能である。
【0059】
加熱工程S32においては、前記溶液噴霧後のリードフレームを加熱する。加熱工程S32では、例えば、25℃〜250℃(より好ましくは50℃〜150℃)の温度で前記溶液噴霧後のリードフレームを加熱する。加熱温度が比較的低いため、電極部においてシランカップリング剤の脱水縮合反応が進行し難くなる。そのため、電極部312と封止樹脂33との密着力が過度に強くなることが抑制される。
【0060】
(封止工程S4)
次に、
図5に示すように、ダイパッド11、半導体素子31、接続部材32、リード12および吊りリード部15を、封止樹脂33で封止する。封止工程を行う際には、あらかじめ、半導体パッケージ30の外側の形状にあわせて作製されたモールド金型(図示略)を準備する。封止工程S4においては、ダイパッド11、半導体素子31、接続部材32、リード12および吊りリード部15を、モールド金型に設置する。その上で、モールド金型に、封止樹脂33を流し込み硬化させる。
【0061】
本実施形態では、封止樹脂33には、シランカップリング剤が含まれる。この構成によれば、封止樹脂33に含まれるシランカップリング剤が密着付与剤としての機能を有するので、封止樹脂33とダイパッド11および半導体素子31との密着力が大きくなる。また、封止樹脂33に含まれるシランカップリング剤は、封止樹脂33を硬化する際の硬化促進剤等として利用される場合があり、表面処理工程S3で用いられるシランカップリング剤とは、必ずしも求められる機能は一致しない。封止樹脂33に含まれるシランカップリング剤と表面処理工程S3で用いられるシランカップリング剤とが異なれば、それぞれに求められる機能に応じて適切なシランカップリング剤を選択することができる。
【0062】
以上の封止工程S4により、吊りリード部15のダイパッド側の一端を除く連結フレーム部(図示略)、および、リード12の第二の端部18が、封止樹脂33の外側に配される。
【0063】
封止工程S4の後には、吊りリード部15の一端部を除く連結フレーム部を切り落とす。また、必要に応じて、各リード12の第二の端部18に折り曲げ加工を施す。これにより、
図1および
図2に示す半導体パッケージ30が得られる。なお、図示例では、第一の主面1101が露出するように封止樹脂33が形成されているが、第一の主面1101が封止樹脂33に埋没するようにリードフレームおよびモールド金型を設計してもよい。
【0064】
以上、本発明の第一の実施形態について説明した。本実施形態では、ダイパッド11と半導体素子31の表面がシランカップリング剤によって表面処理されるので、ダイパッド11と封止樹脂33との密着力だけでなく、半導体素子31と封止樹脂33との密着力も高まる。よって、温度サイクル試験等を行っても、半導体素子31と封止樹脂33との間に剥離が生じ難くなり、半導体素子31とダイパッド11とを接続する接合部材41においてクラックの発生を抑制できる。
【0065】
また、第一の領域34と封止樹脂33との密着力が、電極部312や基材部311と封止樹脂33との密着力よりも弱いので、信頼性試験を行ったときに、半導体素子31の第二の領域35と封止樹脂33との界面で生じた応力は、第一の領域34に対応する半導体素子や封止樹脂の部分で緩和される。よって、封止樹脂33の内部に発生した応力が電極部312に強く作用することを抑制できる。一方、基材部311および電極部312は、封止樹脂33との結合力が強いので、基材部311と電極部312が全て封止樹脂33から剥離する惧れは少ない。よって、半導体素子31と封止樹脂33との密着力を大きく損なわずに、半導体素子31の電気的特性を高めることができる。
【0066】
以上より、本実施形態によれば、ダイパッド11および半導体素子31と封止樹脂33との密着力が高く、半導体素子31の電気的特性にも優れた半導体パッケージ30を提供することができる。
【0067】
〔第二実施形態〕
以下、
図7を参照して、本実施形態に係る半導体パッケージ30bについて説明する。以下、
図1から
図6までと同じ構成要素には同じ符号を付し、説明を省略する。
【0068】
図7に示すように、本実施形態では、接続部材32はボンディングワイヤーではなく、クリップ接続子である。この点において、第一の実施形態と異なる。
【0069】
クリップ接続子は、帯板状の接続部材であり、導電性の板材を折り曲げて形成される。クリップ接続子の一端の面は、はんだや銀ペースト等の接合部材を介してリード12の第一の端部17の面と接合する。クリップ接続子の他端の面は、はんだや銀ペースト等の接合部材を介して電極部312の面と接合する。
【0070】
クリップ接続子は、例えば、第一のクリップ接続子(図示略)と、第二のクリップ接続子322bと、を含む。第一の電極3121(
図1および
図2参照)は、第一のクリップ接続子と接続される。第二の電極3122は、第二のクリップ接続子322bと接続される。
【0071】
本実施形態の半導体パッケージ30bは、第一の実施形態と同様の製造方法によって製造される。本実施形態によれば、第一の実施形態と同様の効果を奏する。
【0072】
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施の形態例について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。上述した例において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【実施例】
【0073】
以下、実施例を用いて、本発明についてより詳細に説明する。ただし本発明は、以下に示す実施例によって何ら限定されるものではない。
【0074】
〔実施例〕
封止樹脂(エポキシ樹脂)を用いて、半導体パッケージを製造した。製造過程で、上述の表面処理工程を行った。噴霧するシランカップリング剤として、3−メルカプトプロピルトリメトキシシランを用いた。
【0075】
上述のように製造した半導体パッケージのサンプルに対し、前処理を行った後に、温度サイクル試験を行った。前処理は、以下の3つの処理を、この順に行った。
(前処理1)Ta(周囲温度)=125℃、24時間
(前処理2)Ta=85℃、RH(相対湿度)=85%、168時間
(前処理3)IRリフロー(260℃、2サイクル)
【0076】
温度サイクル試験は、以下の条件で行った。
(条件)最低保存温度=−55℃、最高保存温度=150℃、1000サイクル
【0077】
上記の条件で、それぞれ同数のサンプルに対して温度サイクル試験を行い、半導体パッケージの熱抵抗特性の変動を評価した。
【0078】
〔比較例〕
半導体パッケージを、上記表面処理を行わずに製造した。その他の製造条件は、実施例と同じである。比較例についても、実施例と同じ温度サイクル試験を行い、熱抵抗特性の変動を評価した。
【0079】
〔試験結果〕
表面処理を行った実施例では、1000サイクル終了時点まで不良品が発生しなかった。これに対し、表面処理を行わなかった比較例では、300サイクル終了時点で既に不良品が発生し、1000サイクル終了時点において、比較例で発生した不良品は全サンプルの77%であった。
【0080】
以上に示したように、表面処理を行った実施例では、不良品が発生せず、表面処理を行わなかった比較例は、不良品が発生した。これらの結果から、本発明を用いて、ダイパッドおよび半導体素子と封止樹脂との密着力を高めるとともに、半導体素子と接続部材との間の接続信頼性も向上することができることが示唆される。
半導体パッケージにおいて、ダイパッド、半導体素子、接続部材およびリードの表面は、シランカップリング剤によって表面処理され、半導体素子の表面のうち接続部材が接合される半導体素子の第一の面は、有機物が露出した第一の領域と、無機物が露出した第二の領域と、を含み、第一の領域と封止樹脂との接合強度は、第二の領域と封止樹脂との接合強度よりも弱い。