(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来、先行する車両や前方にある障害物(物標)、或いは後方からの接近車両等の物標と自分が運転する車両(自車)との間の距離と方向を常時測定し、衝突を防止したり自動走行を行うレーダ装置がある。このようなレーダ装置では、自車に設置したアンテナから電波を送信し、物標に当たって反射した反射波をアンテナで受信し、受信して得られた信号に対して信号処理を行い、反射波の到来方向を推定して物標を検出していた。反射波の到来方向を推定する方法には、DBF法、Capon法、線形予測(LP)法、最小ノルム法、MUSIC法、ESPRIT法、及びPRISM法が知られている。
DBF:Digital Beam Forming
LP: Linear Prediction
MUSIC:Multiple Signal Classification
ESPRIT:Estimation of Signal Parameters via Rotational Invariance Techniques
PRISM:Propagator method based on an Improved Spatial-smoothing Matrix
【0003】
車載レーダ装置では、送信した電波(ビーム)に広がりがある場合は、検知対象領域外の物標をも検知してしまう。例えば、検知対象領域を自車両が走行する走行車線に設定した場合、当該走行車線外にある障害物までも検知するため、検知された障害物が走行車線上の障害物か否かを区別する必要があ
る。このため、特許文献1に記載された車載用障害物検知装置では、電波を送信して対象物までの距離を測定する測距手段と、対象物で反射した電波の受信電波強度を検出する受信電波強度検出手段とを備え、計測された距離に応じて受信した電波の強度の変化から、検知された対象物が本来検知すべき車両なのかそれとも走行車線外にある障害物なのかを判断している。
【0004】
特許文献1に開示の車載レーダ装置は、障害物によって反射された電波を単一のアンテナで受信する方式のものである。これに対して、自車の前方に送信した送信電波と、物標に当たって反射した電波を複数のアンテナで受信し、得られた複数の受信電波間の位相差から物標の角度(自車の進行方向からどれだけずれているかの角度)を算出する電子スキャンレーダ(例えば特許文献2)がある。電子スキャンレーダでは、複数の受信アンテナを用いて行う位相差の検出は、±180[deg]で行って物標検出を行っている。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を用いて本出願の実施の形態を、具体的な実施例に基づいて詳細に説明する。
図1に本発明の一実施形態のレーダ装置100の構成を示す。この実施形態のレーダ装置100は、送信部S、受信部R及び信号処理装置Pから構成されている。信号処理装置Pは、詳細な構成の図示は省略するが、マイクロコンピュータを備えて構成されており、フーリエ変換部9、ピーク抽出部10、方位演算部15、距離・相対速度演算部30及び送受信制御部20がある。
【0015】
送信部Sは、発振器5、信号生成部25、2本の送信アンテナ1A,1B及び切換スイッチSWを備えている。信号生成部25は信号処理装置Pにある送受信制御部20によって制御される。信号生成部25は三角波状の変調信号(三角波)を送信信号として発振器5に供給して周波数変調を行う。発振器5からの送信信号は、切換スイッチSWの切り換えにより送信アンテナ1A,1Bの何れか一方から送信されて電波(送信波WA,WB)として送信される。切換スイッチSWは、信号生成部25で生成される三角波の1周期毎に送受信制御部20からの信号によって切り換えられるようになっており、発振器5において生成されて送信アンテナ1A,1Bから送信される電波のビームパターンは後述するように異なるものとなっている。この実施形態では、FMCW方式が用いられており、発振器5は、信号生成部25の三角波により一定の繰り返し周期で変化する送信波Wを発生する。したがって、送信波Wは発振器5の無変調時の発信周波数を中心として所定の繰り返し周期で周波数が上下するFMCW波である。この送信波Wは、図示しない送信機で電力増幅された後に送信アンテナ1から目標に向けられて送信(放射)されることもある。
【0016】
この実施形態のレーダ装置100は、車両に搭載されたものであり、送信波Wはレーダ装置100を搭載した車両の前方又は後方に向けて送信される。送信アンテナ1から前方に送信された送信波Wは、図示せぬ物標、例えば先行車両や静止物等で反射され、反射波RWが車両に向かって戻り、レーダ装置100の受信部Rで受信される。
【0017】
受信部Rは、n個の受信アンテナA1〜Anを備えたアレーアンテナ3とこれに接続する個別受信部R1〜Rnとから構成される。個別受信部R1〜Rnの各個には、ミキサM1〜Mn及びA/D変換器(図にはA/Dと記載)C1〜Cnがある。アレーアンテナ3によって受信された反射波RW1〜RWnから得られた受信信号は、図示しないローノイズアンプで増幅された後にミキサM1〜Mnに送られる。ミキサM1〜Mnには送信部Sの発振器5からの送信信号が入力されており、ミキサM1〜Mnにおいて送信信号と受信信号とがそれぞれミキシングされ、送信信号の周波数と受信信号の周波数との差を周波数として持つビート信号が得られる。ミキサM1〜Mnからのビート信号はA/D変換器C1〜Cnでデジタル受信信号X1〜Xnに変換された後に、フーリエ変換部9の高速フーリエ変換器に供給され、ここでデジタル受信信号X1〜Xn毎に高速フーリエ変換による周波数分析(FFT処理)が行われる。
【0018】
この実施形態のレーダ装置100では、物標が移動している場合、反射波RWの周波数には、物標と自車との相対速度に比例するドップラー周波数成分が含まれる。また、本実施形態では変調方式としてFMCWを採用しているので、この周波数推移がリニアチャープである場合、反射波RWの周波数にはドップラー成分に加え、送信波が物標と自車との相対距離を伝搬する事によって付加される遅延時間を反映した周波数成分も含まれる。前述した如く、送信信号はリニアチャープ信号であるから、送信波Wの周波数は、
図2(a)の波形図に実線で示されるように、周波数が直線的に上昇する期間(上昇区間)と、下降する期間(下降区間)とを繰り返す。具体的には、上昇区間と下降区間からなる送信1周期の区間は送信アンテナ1Aによる送信波WAを送信し、次の1周期の区間は送信アンテナ1Bによる送信波WBを送信する。以後も送信アンテナ1Aと1Bを1周期毎に交互に切り換えて送信する。そして、反射波RWは、
図2(a)の波形図に破線で示されるように、送信波Wに比べ、相対速度によるドップラー周波数推移とともに相対距離による時間遅延との双方の影響を同時に受けるので、送信波Wと反射波RWとの間の周波数の差は、一般に上昇区間と下降区間で異なる値を取る。
【0019】
即ち、送信波Wと反射波RWの周波数の差の周波数は、上昇区間はfup、下降区間はfdownとなる。従って、各ミキサM1〜Mnにおいては、遅延時間に基づく周波数にドップラー周波数が重畳された
図2(b)の波形図に示されるビート信号が得られる。上昇区間におけるビート信号はUPビート、下降区間におけるビート信号はDOWNビートと呼ばれる。なお、
図2(a)、(b)の場合には、UPビートの周波数fupよりもDOWNビートの周波数fdownの方が大きくなっており、物標との相対距離が小さくなる方向(接近方向)の相対速度を示している。
【0020】
各ミキサM1〜Mnにおいて得られたUPビートとDOWNビートのビート信号は、前述のようにA/D変換器C1〜Cnでデジタル受信信号X1〜Xnに変換された後に、フーリエ変換部9に供給される。フーリエ変換部9では、各ミキサM1〜MnからのUPビート周波数fup成分とDOWNビート周波数fdown成分がそれぞれ高速フーリエ変換器に供給され、ここでデジタル受信信号X1〜Xn毎に、高速フーリエ変換による周波数分析(FFT処理)が行われる。ここで、受信アンテナA1のFFT処理の結果を
図2(c)に示す。
図2(c)の上側の波形図は、UPビート周波数fup成分から得られる周波数スペクトラムを示しており、
図2(c)の下側の波形図は、DOWNビート周波数fdown成分から得られる周波数スペクトラムを示している。
【0021】
図2(c)に示すように、アンテナA1のUPビートのFFT結果の周波数スペクトラムには、UP周波数fu1、fu2、fu3にそれぞれピークPu11,Pu12,Pu13がある。受信アンテナA2〜Anについても同じピーク周波数を持つ同様なFFT結果が得られる。例えば、アンテナA2ではUP周波数fu1、fu2、fu3にそれぞれピークPu21,Pu22,Pu23があるFFT結果が得られる。また、アンテナA1のDOWNビートのFFT結果の周波数スペクトラムには、DOWN周波数fd1、fd2にそれぞれピークPd11,Pd12がある。受信アンテナA2〜Anについても同じピーク周波数を持つ同様なFFT結果が得られる。例えば、アンテナA2ではDOWN周波数fd1、fd2にそれぞれピークPd21,Pd22があるFFT結果が得られる。
【0022】
すなわち、各受信アンテナA1〜Anは同じ物標からの反射波RWを受信するため、FFT処理では同じピーク周波数を有する同じ形状の周波数スペクトラムが得られる。ただし、受信アンテナに応じて反射波の位相が異なるため、同じ周波数のピークを持つ位相情報は受信アンテナ毎に異なる。
【0023】
図1に戻って、フーリエ変換部9の出力は、ピーク抽出部10に供給される。ピーク抽出部10では、受信アンテナA1〜An毎に、FFT処理で得られた周波数スペクトラムにおいて、UPビート、DOWNビートのそれぞれで所定パワー以上のピークを抽出し、抽出したピークの周波数、パワー、位相情報(以下、ピーク周波数情報という)を抽出する。ピーク抽出部10において抽出されたピーク周波数情報は、方位演算部15に供給される。
【0024】
周波数スペクトラムにおける1つのピークには通常複数の物標の情報が含まれるため、1つのピークから物標を分離し、分離した物標の角度を推定する必要がある。そのため、方位演算部15では、全受信アンテナA1〜AnでUP側、DOWN側それぞれで同じ周波数を有するピークのピーク周波数情報(例えば、UPビートの場合は、Pu11,Pu21,・・・Pun1、DOWNビートの場合は、Pd11,Pd21、・・・Pdn1)を基に、
図3に示すような角度スペクトラムが演算により求められる。角度スペクトラムの求め方としては、Capon法、DBF法等の方式を用いることができる。
図3における実線がUPピーク周波数fu1(Pu11,Pu21,・・・Pun1)の角度スペクトラムを示し、破線がDOWNピーク周波数fd1(Pd11,Pd21、・・・Pdn1)の角度スペクトラムを示している。
【0025】
方位演算部15では、
図3に示される角度スペクトラムにおいて、閾値以上のパワーを持つピーク、ここではピークP1,P2を物標と判断し、その角度、パワーを抽出する。更に詳しく述べると、角度スペクトラムはFFT処理のピーク周波数毎に求める。
図2(c)に示した例では、5つの周波数fu1、fu2、fu3、fd1、fd2における5つの角度スペクトラムを算出する。
図3はUPピーク周波数fu1のピークから求めた角度スペクトラムとDOWNピーク周波数fd1のピークから求めた角度スペクトラムを併記したものであり、UPピーク周波数fu1とDOWNピーク周波数fd1には共に2つの物標P1(角度0[Deg])とP2(角度約3[Deg])が存在していることを示している。方位演算部15で得られた結果は、
図4に示すようになる。
【0026】
距離・相対速度演算部30では、
図4に示されるデータを基に、UPビート側の物標情報とDOWNビート側の物標情報とで近い角度、パワーを持つもの同士のペアリングを行う。
図4では、UPビート側の周波数fu1の角度θu1の物標U1と、DOWNビート側の周波数fd1の角度θd2の物標D2とがペアリングされたことを示し、5つの物標が検出されたことを示す。ペアリングして得られたUP周波数とDOWN周波数とで距離、相対速度を演算する。その物標の角度はUPビート側とDOWNビート側の角度の平均値が取られる。距離・相対速度はUPピーク周波数fu1とDOWNピーク周波数fd1とから求め、角度は(θu1+θd2)/2で求める。
【0027】
図5(a)は、アレーアンテナ3の上にある2つの隣接するアンテナAA,ABによって受信された電波(到来方向の角度(到来角)はアレーアンテナ3の正面を0[deg]として、共にθA[deg]とする)に、実際には360[deg]を越える位相差RPがある場合を示している。このような場合、レーダ装置が認識することができる受信波の位相差EPは±180[deg]未満の値であるので、レーダ装置が認識する受信波の位相差EPは、実際の位相差RPから360[deg]を引いた値となる。この結果、レーダ装置が認識した受信波の位相差EPに基づいて到来波の方向を推定すると、
図5(b)に示すように、アレイアンテナ3に対する到来角がθB[deg](<到来角θA[deg])となり、
図5(a)に示す実際の電波の到来方向とは異なったものとなってしまう。
【0028】
そこで、
図1に示した実施形態では、前述のように構成されたレーダ装置100において、発振器5で生成された送信信号を、送信アンテナ1A,1Bから交互に、かつ各アンテナのパターン形状を変えることにより、ビームパターンを変えて送信するように構成した。
図6(a)は送信アンテナ1A,1Bから送信される2つの電波の一実施例のビームパターンBP1とBP2を示している。送信アンテナ1Aから送信される電波のビームパターンBP1と送信アンテナ1Bから送信される電波のビームパターンBP2とは、送信方向に対するパターン形状は同じで送信方向に対してほぼ左右対称(線対称)になっており、送信方向(送信軸)のみが異なっている。
【0029】
即ち、送信アンテナ1Aから送信されるビームパターンBP1の電波は、レーダ装置100の中心軸CLに対して右側に所定角度θRだけ傾けた送信方向SRに送信され、逆に、送信アンテナ1Bから送信されるビームパターンBP2の電波は、レーダ装置100の中心軸CLに対して左側に所定角度θL(=θR)だけ傾けた送信方向SLに送信される。この結果、ビームパターンBP1とビームパターンBP2とは、中心軸CLに対して線対称なパターンとなっている。
【0030】
ここで、レーダ装置の正面の所定範囲の領域であって、レーダ装置が認識することができる受信波の位相差が±180[deg]未満の領域をCゾーンとし、Cゾーンの右側(+側)の領域をAゾーンとし、Cゾーンの左側(−側)の領域をBゾーンとして説明する。AゾーンとBゾーンは、電波の到来方向には実際には物標がない領域である。また、受信した電波の到来方向には実際には物標がない電波を、以後は位相折り返しゴーストと呼ぶこととする。
【0031】
したがって、レーダ装置100の正面のAゾーンにある物標からの反射波の受信レベルは、送信アンテナ1AからビームパターンBP1の電波を送信した時に大きく、逆に、Bゾーンにある物標からの反射波の受信レベルは、送信アンテナ1BからビームパターンBP2の電波を送信した時に大きい。
図6(b)は
図6(a)に示した2つのビームパターンBP1、BP2による反射波の方位に対する受信レベルを示すものである。本実施形態のレーダ装置100では、演算で求めた物標の方位はCゾーンにあったとしても、この受信レベルの電力差からCゾーンにある正しい物標の方位であるか、あるいはA、Bゾーンにある位相折り返しによる間違った物標の方位であるかを判定して、本来の反射波の到来方向を算出することができる。
【0032】
即ち、AゾーンではビームパターンBP2による反射波の受信レベル(受信電力に同じ)に比べて、ビームパターンBP1による反射波の受信レベルの方が大きく、その差も大きい。また、BゾーンではビームパターンBP1による反射波の受信レベルに比べて、ビームパターンBP2による反射波の受信レベルの方が大きく、その差も大きい。そして、CゾーンではビームパターンBP1による反射波の受信レベルと、ビームパターンBP2による反射波の受信レベルの差が小さい。ここでは、AゾーンとCゾーンの境界部、及びBゾーンとCゾーンの境界部におけるビームパターンBP1とビームパターンBP2による反射波の受信レベルの差は等しいものとし、共にレベル差をPDとする。
【0033】
この受信レベルの差を用いて、反射波の到来方向を推定する方法としては、次の2つの方法がある。第1の方法は、アンテナ1A、1Bから送信したビームパターンによる反射波の受信レベルの実測値(または設計値)からAゾーン、Bゾーン、Cゾーンの受信レベルの電力差の範囲を各ゾーン毎に予め定めておき、実測した反射波の受信レベルの差がどのゾーンのレベル差に該当するのかを判定するものである。実測した反射波の受信レベルの差がAゾーンとBゾーンにあるときは位相折り返しゴーストと判定することができる。
【0034】
第2の方法は、まず、アンテナ1A、1Bから送信した送信ビームパターンによる反射波の受信レベルを予め測定して、反射波の受信角度と電力差のマップを予め作成してレーダ装置に予め記憶させておき、レーダ装置が通常制御モードで受信した反射波の受信レベルから算出した物標の角度に対して位相折り返しゴーストを含めた候補角度を求め、最後に、算出された角度の電力差を求めて、候補角度の電力差のマップ値に最も近い値を持つ角度を反射波の到来方向とするものである。
【0035】
例えば、実測で求めた角度が0[deg]であるとすれば、候補角度は、0[deg]、および(−)方向からの折り返しゴーストに対応する−47.68[deg]、(+)方向からの折り返しゴーストに対応する+47.68[deg]のように求めることができる。そして、実測した電力差がこの3つの候補角度の電力差のマップ値のどれに一番近いかを判定する。その結果、0[deg]のマップ値が一番近ければ、算出した角度(0[deg])は正しい物標の角度と判定できる。−47.68[deg]のマップ値が一番近ければ、算出した角度(0[deg])は実は−47.68[deg]からの折り返しゴーストであり、正しい物標の角度を示していないと判定できる。処理負荷は第1の方法が第2の方法より小さいが、精度は第2の方法の方が高い。どちらの方法を採用するかは、処理負荷と精度を考慮して決定すれば良い。
【0036】
図7は、以上説明した第1の実施例のビームパターンBP1,BP2を使用した場合の位相折り返しゴースト判定の手順の一例を示すフローチャートである。この判定は
図1に示した信号処理装置Pにある方位演算部15により、ビームパターンBP1,BP2それぞれの方位を検出した後に行われる。なお、以後の説明ではアンテナからの送信出力が大きいことをアンテナの送信パワーが大きいと表記し、アンテナの受信レベルの大きさのことを受信パワーと表記している。
【0037】
ステップ601ではビームパターンBP1による反射波の受信パワーTx1と、ビームパターンBP2による同じ方向からの反射波の受信パワーTx2を算出し、続くステップ602では受信パワーTx1とTx2の受信パワーの差(Tx1−Tx2)を算出する。
【0038】
続くステップ603では受信パワーTx1とTx2の受信パワーの差の絶対値|Tx1−Tx2|が、レベル差PDよりも大きいか否かを判定する。そして、受信パワーTx1とTx2の受信パワーの差の絶対値|Tx1−Tx2|がレベル差PDよりも大きい場合はステップ604に進む。ステップ604は受信パワーTx1とTx2の受信パワーの差(Tx1−Tx2)が正であるか否かを判定する。そして、(Tx1−Tx2)>0の場合(YES)はステップ605に進み、反射波がAゾーンからの折り返しゴースト(図には単にゴースト判定と記載してある)であると判定し、そうでない場合は(NO)はステップ606に進んで、反射波がBゾーンからの折り返しゴーストであると判定してこのルーチンを終了する。
【0039】
一方、ステップ603の判定で、受信パワーTx1とTx2の受信パワーの差の絶対値|Tx1−Tx2|が、レベル差PDよりも小さいと判定された場合はステップ607に進み、反射波がCゾーンにあって物標が実在すると判定する実在判定を行ってこのルーチンを終了する。尚、本実施形態では、ステップ602で受信パワーの差をとり、ステップ603でその差をレベル差PDと比較したが、差をとることなく、一方の受信パワー+PDと他方の受信パワーとの大小比較を行うことで、実在かゴーストかの判定を行うようにしても良い。
【0040】
図8(a)は従来のレーダ装置において折り返しゴーストが発生している状態を示すシミュレーション結果を示すものであり、
図8(b)は
図1のように構成したレーダ装置において物標位置を求めるシミュレーションを行った結果を示すものである。従来のレーダ装置では±21.7[deg]が限界であり、それを越えた範囲では角度の異なる値が出力されて位相折り返しTが発生していた。これに対して、本発明のレーダ装置では、本来は±21.7[deg]の範囲でしか検出できないはずのものが、±21.7[deg]の範囲外の角度も検出できるようになった。
【0041】
このように、本実施形態のレーダ装置では、位相折り返しゴーストの対策ができ、位相折り返しゴーストの減少によるレーダ装置の不要作動がなくなると共に、従来よりも広角域の反射波の到来方向の検出が可能になる。このように、電力差、即ち、受信パワーの差を用いて、誤判定の防止を行うことができる。なお、ここで言う受信パワーは、角度の測定方式がモノパルス方式ではFFTの出力であり、角度推定部がある場合は抽出された角度のスペクトラム値になる。また、角度推定部がある場合は、ビーム走査系の方式(DBF法、Capon法等)を用いて抽出された角度のスペクトラム値を算出すると精度が向上する。
【0042】
次に、
図1に示したレーダ装置100の2本の送信アンテナ1A,1Bから交互に異なるビームパターンで送信する本発明の第2の実施例を説明する。
図9(a)は送信アンテナから送信される2つの電波の第2の実施例のビームパターンBPSとBPWを示している。ここでも第1の実施例と同様に、レーダ装置100の正面の所定範囲の領域でレーダ装置が認識することができる受信波の位相差が±180[deg]未満の領域をCゾーンとし、Cゾーンの右側(+側)の領域をAゾーンとし、Cゾーンの左側(−側)の領域をBゾーンとする。また、
図9(b)は
図9(a)に示した2つのビームパターンBPSとBPWによる反射波の方位に対する受信レベル(受信パワー)を示すものである。
【0043】
第2の実施例では、
図1に示した送信アンテナ1Aから送信される電波のビームパターンBPSは、レーダ装置100の中心軸CLに対する放射範囲が狭いが、出力(送信パワー)が大きいビームパターンとし、送信アンテナ1Bから送信される電波のビームパターンBPWは、中心軸CLに対する放射範囲が広いがパワーが小さいビームパターンとしている。
【0044】
このような2種類のビームパターンBPS,BPWを送信する場合の方位に対する受信レベルを
図9(b)に示す。ビームパターンBPSの電波を送信した時は、Cゾーンにある物標からの反射波の受信パワーが大きく、AゾーンとBゾーンにある物標からの反射波の受信パワーが小さい。逆に、ビームパターンBPWの電波を送信した時は、Cゾーンにある物標からの反射波の受信レベルは、AゾーンとBゾーンにある物標からの反射波の受信パワーよりも大きいが、ビームパターンBPSの電波を送信した時のCゾーンにある物標からの反射波の受信パワーよりも小さい。また、AゾーンとBゾーンにある物標からの反射波の受信パワーは、Cゾーンにある物標からの反射波の受信パワーよりも小さいが、ビームパターンBPSの電波を送信した時のAゾーンとBゾーンにある物標からの反射波の受信パワーよりも大きい。
【0045】
第2の実施例でも方位に対する受信レベルの電力差、即ち受信パワーの差から位相の折り返しゴーストの状態を判定して、本来の反射波の到来方向を算出することができる。即ち、演算により求めた物標の角度はCゾーンに位置することになるが、実際の物標が折り返しゴースト領域であるAゾーンまたはBゾーンに存在する場合は、ビームパターンBPWによる反射波の受信パワーTxWの方がビームパターンBPSによる反射波の受信パワーTxSより大きい。また、実際の物標がCゾーンに存在する場合(即ち、位相折り返しゴーストなし)は受信パワーTxSの方が、受信パワーTxWより大きい。従って、演算で求めた角度の方向からの反射波の受信パワーTxSと受信パワーTxWを比較することで、前者の方が後者より大きい場合は折り返しゴーストのない正しい反射波の到来方向であると判定できる。また前者の方が後者より小さい場合は、折り返しゴーストが発生しており、正しい反射波の到来方向ではないと判定できる。
【0046】
この電力差、即ち、受信パワーの差を用いて、誤判定の防止を行うことができる。なお、ここで言う受信パワーは、角度の測定方式がモノパルス方式ではFFTの出力であり、角度推定部がある場合は抽出された角度のスペクトラム値になる。なお、角度推定部がある場合は、ビーム走査系の方式(DBF法、Capon法等)を用いて抽出された角度のスペクトラム値を算出すると精度が向上する。
【0047】
図10(a)は、以上説明した第2の実施例のビームパターンBPS,BPWを使用した場合の位相折り返しゴースト判定の手順の一例を示すフローチャートである。この判定は
図1に示した信号処理装置Pにある方位演算部15により、ビームパターンBPS,BPWそれぞれの方位を検出した後に行われる。ステップ901ではビームパターンBPSによる反射波の受信パワーTxSと、ビームパターンBPWによる同じ方位からの反射波の受信パワーTxWを算出し、続くステップ902では受信パワーTxSとTxWの受信パワーの差(TxS−TxW)を算出する。
【0048】
続くステップ903では受信パワーTxSとTxWの受信パワーの差(TxS−TxW)が正であるか否かを判定する。そして、受信パワーTxSとTxWの受信パワーの差が正である場合(YES)はステップ904に進み、反射波がCゾーンにあって物標が実在する実在判定を行ってこのルーチンを終了する。一方、受信パワーTxSとTxWの受信パワーの差が正でない場合(NO)はステップ905に進み、反射波がAゾーンまたはBゾーンからの折り返しゴースト(図には単にゴースト判定と記載してある)であると判定してこのルーチンを終了する。
【0049】
なお、変形例として、ステップ902の処理を無くし、ステップ903で受信パワーTxSとTxWの大小比較を行うことにより、実在かゴーストかの判定を行うことも可能である。この変形例の場合においても受信パワーの差を算出していることは同じである。
【0050】
ここで、
図11(a)に示すように、2つの送信アンテナ1A、1Bを備えたレーダ装置100の前方に、レーダ装置100に対して0[deg]の方位に物標として反射レベルが10[dB]相当のコーナリフレクタCR1を所定距離離して置き、33.4[deg]の方位に物標として反射レベルが50[dB]相当のコーナリフレクタCR2を所定距離離して置いて構成した評価装置80を用いたシミュレーションについて説明する。33.4[deg]の方位は位相折り返しで0[deg]の方位に位相折り返しゴーストが出現する方位であり、コーナリフレクタCR2をコーナリフレクタCR1より大きくしたのは、受信結果を見やすくするためである。この時に、アンテナ1aから送信する電波のビームパターンBPAと、アンテナ1bから送信する電波のビームパターンBPBを
図11(b)に示す。ここでは、物標を検出したい範囲におけるビームパターンBPAのパワーの方を、ビームパターンBPBのパワーよりも大きくしてある。
【0051】
図12(a)は、
図11(a)に示した評価装置80において、
図11(b)に示したビームパターンBPAとBPBをそれぞれアンテナ1A、1Bから送信してシミュレーションを行った場合の、0[deg]の方位に置いたコーナリフレクタCR1からの反射波の方位に対する受信レベル、即ち、角度スペクトラムを示すものである。ビームパターンBPAを送信して得られた0[deg]の方位における受信レベルは63[dB]であり、ビームパターンBPBを送信して得られた0[deg]の方位における受信レベルは41[dB]であった。この場合は、ビームパターンBPAを送信した時の受信レベルの方が、ビームパターンBPBを送信した時の受信レベルよりも大きいので正しい物標(検知対象物標)と判定し受信レベルを出力させる。
【0052】
図12(b)は、
図11(a)に示した評価装置80において、
図11(b)に示したビームパターンBPAとBPBをそれぞれアンテナ1A、1Bから送信してシミュレーションを行った場合の、33.34[deg]の方位に置いたコーナリフレクタCR2からの反射波の方位に対する受信レベルを示すものである。ビームパターンBPAを送信して得られた0[deg]の方位における受信レベルは24[dB]であり、ビームパターンBPBを送信して得られた0[deg]の方位における受信レベルは31[dB]であった。この場合は、ビームパターンBPAを送信した時の受信レベルの方が、ビームパターンBPBを送信した時の受信レベルよりも小さいので位相折り返しゴースト(検知対象物外物標)と判定し、受信レベルは出力しない。以上のような判定を行うことにより、位相折り返しゴーストを出力することが防止される。
【0053】
なお、以上説明した第2の実施例では、送信アンテナ1Aから送信される電波のビームパターンBPSはパワーが大きく、送信アンテナ1Bから送信される電波のビームパターンBPWはパワーが小さいビームパターンとなっていた。一方、
図9(c)に示す第2の実施例の変形例では、送信アンテナ1Aから送信される電波のビームパターンBPSと送信アンテナ1Bから送信される電波のビームパターンBPWのパワーを同じにしてあり、レーダ装置100の中心軸CLに対する放射範囲のみ異ならせてある。第2の実施例の変形例では、送信アンテナ1Aから送信される電波のビームパターンBPSは放射範囲を狭くしてあり、送信アンテナ1Bから送信される電波のビームパターンBPWは放射範囲を広くしてある。
【0054】
このような2種類のビームパターンBPS,BPWを送信する場合の方位に対する受信レベルを
図9(d)に示す。ビームパターンBPSの電波を送信アンテナ1Aから送信した時は、Cゾーンにある物標からの反射波の受信パワーが大きく、AゾーンとBゾーンにある物標からの反射波の受信パワーが小さい。逆に、ビームパターンBPWの電波を送信した時は、Cゾーンにある物標からの反射波の受信パワーが最も大きいが、AゾーンとBゾーンにある物標からの反射波の受信パワーも大きい。Cゾーンにおいては、ビームパターンBPSの電波を送信した時のCゾーンにある物標からの反射波の受信パワーよりも大きい部分がある。
【0055】
ここでもAゾーンとCゾーンの境界部、及びBゾーンとCゾーンの境界部におけるビームパターンBPSとビームパターンBPWによる反射波の受信レベルの差は等しいものとし、共にレベル差をPDとする。すると、第2の実施例の変形例では、
図9(d)に示す2種類のビームパターンBPSとビームパターンBPWのゾーン境界部におけるレベル差(受信パワー差)PDを基準値として、反射波の受信パワー差が基準値以上かどうかで物標の実在判定と位相折り返しゴーストの判定を行うことができる。
【0056】
即ち、AゾーンとBゾーンでは、ビームパターンBPWによる反射波の受信パワーとビームパターンBPSによる反射波の受信パワーとの差が基準値PDよりも大きい。また、CゾーンではビームパターンBPSによる反射波の受信パワーと、ビームパターンBPWによる反射波の受信パワーの差は基準値PDより小さい。従って、受信パワーの差が基準値PDより小さければ正しい物標であると判定でき、受信パワーの差が基準値PD以上であれば位相折り返しゴーストであると判定できる。
【0057】
図10(b)は第2の実施例の変形例のビームパターンを使用した場合の折り返しゴースト判定の手順の一例を示すフローチャートである。ステップ901とステップ902の手順は同じであるので図示は省略する。
【0058】
ステップ902において反射波の受信パワーTxSと受信パワーTxWのパワー差が算出されると、次のステップ906ではこのパワー差を(TxW−TxS)として、この差が基準値PDより小さいかを判定する。そして、(TxW−TxS)<PDであった時(YES)はステップ907に進んで物標の実在判定を行い、そうでない場合(NO)はステップ908において物標がAゾーンまたはBゾーンからの位相折り返しゴーストであると判定する。即ち、Cゾーンにおいて、受信パワーTxSと受信パワーTxWの差が小さく両者が同等の時に、正しい物標(検知対象物標)と判定し、受信パワーTxWの方が受信パワーTxSより基準値PD所定より大きかった時に位相折り返しゴースト(検知対象物外物標)と判定する。以上のような判定を行うことにより、第2の実施例の変形例においても位相折り返しゴーストを出力することが防止される。
【0059】
尚、第2の実施例の変形例においても、ステップ902で受信パワーの差をとることなく、一方の受信パワー+PDと他方の受信パワーとの大小比較を行うことで、実在かゴーストかの判定を行うようにしても良い。