特許第5930726号(P5930726)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5930726
(24)【登録日】2016年5月13日
(45)【発行日】2016年6月8日
(54)【発明の名称】精錬剤
(51)【国際特許分類】
   C21C 1/02 20060101AFI20160526BHJP
   C21C 7/04 20060101ALI20160526BHJP
   C21C 7/064 20060101ALI20160526BHJP
   C21C 7/076 20060101ALI20160526BHJP
【FI】
   C21C1/02 102
   C21C7/04 B
   C21C7/04 C
   C21C7/04 L
   C21C7/04 F
   C21C7/064 Z
   C21C7/076 A
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-8088(P2012-8088)
(22)【出願日】2012年1月18日
(65)【公開番号】特開2013-147693(P2013-147693A)
(43)【公開日】2013年8月1日
【審査請求日】2014年12月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】591166710
【氏名又は名称】大阪鋼灰株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】594054818
【氏名又は名称】日本マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100084593
【弁理士】
【氏名又は名称】吉村 勝俊
(72)【発明者】
【氏名】但馬 律雄
(72)【発明者】
【氏名】岩見 暁
【審査官】 深草 祐一
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭64−047808(JP,A)
【文献】 特開平02−185908(JP,A)
【文献】 特開平07−207316(JP,A)
【文献】 特開昭59−159909(JP,A)
【文献】 特開2001−355013(JP,A)
【文献】 特開2012−012680(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21C 1/00−3/00,5/02−5/06,5/52−5/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶鉄に含まれる硫黄分を除去する精錬剤において、
脱硫剤としての金属元素をコアとし、該コアには脱硫助剤を含む被覆層が形成され、
前記コアと被覆層とからなる重構造は、粘稠液状態から固化したバインダーにより保持されており、
前記金属元素はMgであって、3.5ミリメートルまでの粒体であり、
前記脱硫助剤はカーボン粉またはアルミ含有物粉であったものであり、
前記被覆層には、粉体であったカルシウムアルミネートソーダCaO・Al23 ・Na2 0が含められ、
前記バインダーは松脂、テレビン油、粗トール油、トールロジン、ガムロジンのいずれかであることを特徴とする精錬剤。
【請求項2】
前記被覆層は内外層で形成され、内層が脱硫助剤であり、外層がカルシウムアルミネートソーダであって、
脱硫助剤粉を前記コアにバインダーによって付着させ、
脱硫助剤粉がコア外面に固着した後に、カルシウムアルミネートソーダ粉をバインダーにより内層外面に付着させたことを特徴とする請求項1に記載された精錬剤。
【請求項3】
前記カルシウムアルミネートソーダに代えて、カルシウムアルミネートCaO・Al23 とされ、
前記被覆層は内外層で形成され、内層が脱硫助剤であり、外層がカルシウムアルミネートであって、
脱硫助剤粉を前記コアにバインダーによって付着させ、
脱硫助剤粉がコア外面に固着した後に、カルシウムアルミネート粉をバインダーにより内層外面に付着させたことを特徴とする請求項1に記載された精錬剤。
【請求項4】
前記金属元素はMgに代えてCaとされていることを特徴とする請求項1に記載された精錬剤。
【請求項5】
前記被覆層は内外層で形成され、内層が脱硫助剤であり、外層がカルシウムアルミネートソーダであって、
脱硫助剤粉を前記コアにバインダーによって付着させ、
脱硫助剤粉がコア外面に固着した後に、カルシウムアルミネートソーダ粉をバインダーにより内層外面に付着させたことを特徴とする請求項4に記載された精錬剤。
【請求項6】
前記カルシウムアルミネートソーダに代えて、カルシウムアルミネートCaO・Al23 とされ、
前記被覆層は内外層で形成され、内層が脱硫助剤であり、外層がカルシウムアルミネートであって、
脱硫助剤粉を前記コアにバインダーによって付着させ、
脱硫助剤粉がコア外面に固着した後に、カルシウムアルミネート粉をバインダーにより内層外面に付着させたことを特徴とする請求項4に記載された精錬剤。
【請求項7】
前記金属元素はMgのみならずCaも加えて一体化されていることを特徴とする請求項1に記載された精錬剤。
【請求項8】
前記被覆層には、カルシウムアルミネートCaO・Al23 も含まれていることを特徴とする請求項1、請求項4、請求項7のいずれか一項に記載された精錬剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は精錬剤に係り、詳しくは、溶鉄に含まれる硫黄分と反応して脱硫する金属元素を副原料の主剤にした精錬剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
溶製には、溶鉄に含まれる硫黄分を除去すべく反応して脱硫する精錬剤が副原料として使用される。主原料である鉄鉱石に含まれている硫黄分を溶鉄に残存させておくと、鋼質が低下して鉄の強度向上が阻害され、また展性・延性を損なって加工性を損なうからである。その精錬剤として、現在では生石灰CaOが主剤となっている。
【0003】
精錬剤として、かっては炭酸ソーダNa2 CO3 が使用されていた。これは脱硫のみならず脱燐作用も発揮するからであるが、精錬中に分解して白煙が湯面を覆い、操業中の目視観察を阻害する。Na2 CO3 からは脱硫・脱燐に寄与するNa2 Oが生成されるものの、溶湯から離脱して脱硫・脱燐反応への寄与率を低下させる。それのみならず、Na2 Oが炉壁や炉蓋に付着するなどして設備の劣化を早めたり、スラグが肥料に転化できなくなるなどの問題を抱え、現在では上記したように生石灰が精錬剤の大部分を占めている。
【0004】
ところで、生石灰CaOの溶融温度は2,750℃であり、精錬中の溶湯の1,300ないし1,600℃に比べて高く、その反応性を改善する努力がなされてきた。少なくなってきているが、蛍石CaF2 の投入はその一つである。これは、CaOの融解を促し、溶湯面での分散を助成して溶鉄との接触の機会を高める。しかし、蛍石にはフッ素分が含まれて人体に有害であり、生成スラグを再利用するにしても廃棄するにしても問題を多く含む。最近では、その使用を避ける傾向にある。
【0005】
上記したNa2 Oは脱硫・脱燐作用があるので、その使用が見直されつつある。しかしながら、副原料の主剤としてでなく、スラグの利用や廃棄が可能となる範囲でCaOに添加するに留められる。このNa2 OをCaOに添加する試みが特開2003−253315に紹介されている。これはFe23 やAl23 とともに添加され、特にKR法(機械攪拌式脱硫装置)に適用して脱硫を目指そうとするものである。
【0006】
Na2 OがCaOに添加されるかどうかにかかわらず、金属Mgや金属CaがCaOに添加され、脱硫作用の強化を図る例が、特開2003−231908などで提案されている。また、脱硫は還元性雰囲気において進行が捗るが、そのために脱酸作用の高いカーボンやアルミ化合物が添加されたりもする。その例が特開2008−95136や特開2008−184667に開示されている。さらに、カルシウム・アルミネートを使用することも、例えば特開平8−325628号公報に開示されている。
【0007】
いずれも、副原料としての精錬剤の主剤はCaOであり、上記添加剤はCaOに単に混合された状態にある。Sとの反応性の極めて強い金属Mgや金属Caは脱硫作用に大きく寄与するとはいえ、融点は前者で649℃、後者で839℃であるから、溶湯に投入されると直ちに融解する。その結果、KR方式に適用しても、比重が溶湯よりも極めて小さいので湯面近くで浮遊するにとどまる。溶湯深く進入する量は極めて少ないから、湯面近くでの脱硫に寄与しても全体として脱硫効果は高くを望めない。沸点が1,090℃の金属Mgのみならず1,480℃の金属Caでさえ、気化して消散することが脱硫作用に大きく期待できない原因でもある。なお、インジェクション方式ではサブランスによる湯中から、底吹きでは炉底からの浮上による脱硫効果が期待されるものの、粉体での供給となるため浮上速度が高くて脱硫に必要な滞留時間を確保しがたい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−253315
【特許文献2】特開2003−231908
【特許文献3】特開2008−95136
【特許文献4】特開2008−184667
【特許文献5】特開平8−325628号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記の問題に鑑みなされたもので、その目的は、脱硫作用の強い金属元素が溶湯中で本来の脱硫能力を発揮できるようにすること、金属元素の早期融解・早期気化を抑えかつ脱硫環境を整えておくことができること、高価な金属元素の消費量を抑えて精錬コストの低減が図られることを実現する精錬剤を提供することである。これは、脱硫効果が元来顕著であるものの消散の激しい金属Mgや金属Caといった金属元素の脱硫剤を、CaOの添加剤とすることなしに、溶湯中での沈降性を高めて溶解度を上げようとするものでもある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、溶鉄に含まれる硫黄分を除去する精錬剤に適用される。その特徴とするところは、図1の(a)を参照して、脱硫剤としての金属元素をコア1とし、そのコアには脱硫助剤が含まれる被覆層2が形成される。コア1と被覆層2とからなる重構造は、粘稠液状態から固化したバインダー3により保持される。金属元素はMgであって、3.5ミリメートルまでの粒体であり、被覆層2には脱硫剤としてのカルシウムアルミネートソーダCaO・Al23 ・Na2 0も含まれる。脱硫助剤はカーボンCまたはアルミ含有物とし、いずれも被覆層を形成するに十分な粉体であったものである。バインダー3は松脂、テレビン油、粗トール油、トールロジン、ガムロジンのいずれかとされる。
【0011】
図2の(a)に示すように被覆層2は内外層で形成され、内層2Aが脱硫助剤であり、外層2Bはカルシウムアルミネートソーダとされる。図2の(b)ないし(d)のように脱硫助剤粉をコア1にバインダー3により付着させ、脱硫助剤粉がコア外面に固着した後に、カルシウムアルミネートソーダ粉をバインダー3によって内層外面に付着させればよい。
【0012】
カルシウムアルミネートソーダに代えて、図4の(a)に示すように、カルシウムアルミネートCaO・Al23 とすることもできる。この場合、(b)のように被覆層2を内外層で形成し、内層2Aが脱硫助剤、外層2Bがカルシウムアルミネートとする。脱硫助剤粉をコア1にバインダー3により付着させ、脱硫助剤粉がコア外面に固着した後に、カルシウムアルミネート粉をバインダーにより内層外面に付着させる。
【0013】
図5の(a)に示すように、金属元素をMgに代えてCaとすることができる。図6の(a)に示すように被覆層2は内外層で形成され、内層2Aが脱硫助剤であり、外層2Bをカルシウムアルミネートソーダとしておく。図6の(b)ないし(d)のように、脱硫助剤粉をコア1にバインダー3によって付着させ、脱硫助剤粉がコア外面に固着した後、カルシウムアルミネートソーダ粉をバインダー3により内層外面に付着させればよい。
【0014】
カルシウムアルミネートソーダに代えて、図4の(c)に示すように、カルシウムアルミネートCaO・Al23 とすることもできる。この場合も、図4の(d)のように被覆層2を内外層で形成し、内層2Aが脱硫助剤、外層2Bがカルシウムアルミネートとする。脱硫助剤粉をコア1にバインダー3により付着させ、脱硫助剤粉がコア外面に固着した後に、カルシウムアルミネート粉をバインダーにより内層外面に付着させる。
【0015】
図9に示すように、金属元素はMgのみならずCaも使用し、一体化してコアを形成することもできる。この場合、被覆層にはカルシウムアルミネートソーダを含める。コアが金属Mg、金属Ca、その両方のいずれの場合においても、図8図9のごとく、被覆層にカルシウムアルミネートソーダのみならずカルシウムアルミネートも含ませておくことができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、金属元素をMgとし、それをコアにして脱硫助剤とともに被覆するのが粉状であったカルシウムアルミネートソーダとしているので、溶湯に触れたカルシウムアルミネートソーダは、その脱硫反応を進行させる。カルシウムアルミネートソーダは被覆する程度の量にとどまるから、Na2 Oに起因する設備の劣化、スラグの肥料化回避といった問題を引き起こすことはない。このカルシウムアルミネートソーダによる脱硫に次いで金属Mgが溶鉄中のSと反応する。被覆層を構成するカーボンまたはアルミ含有物の脱酸作用により生じた還元性雰囲気はMgSの復硫を抑制するため、別途投入されるなどしたCaOとの反応によりCaSの生成が助長される。
【0017】
脱硫反応性の極めて高い金属Mg粒が3.5ミリメートルまでのサイズとされるので、被覆層の厚みを含めても脱硫剤としては4ミリメートル程度までとなり、KR法用精錬剤やワイヤーフィーダー法用精錬剤として適用することも可能である。1.0ミリメートル程度までの粒体とするなら、被覆後も溶鉄中にインジェクションできるサイズにとどめておくことができる。いずれもコアの金属Mgは粒体であるから、添加剤とする場合に粉体とされることに比べれば溶湯への混入性・沈降性は向上し、滞留性の改善で溶解度が上がり、脱硫作用の持続化・活性化が図られる。
【0018】
バインダーは松脂もしくはその成分に相当するもので、固化前は粘稠液状態にあり、コアと被覆層とからなる重構造の形成が容易である。これは空気に触れると酸化して粘性が増す樹脂質であるから、被覆層のコアからの剥落は可及的に少なくなる。水練りによる付着とは異なって蒸発することがなく、その固化後の被覆層の保形性は高く、輸送のみならず、溶湯投入時に粉化をきたすことも極めて少なくなる。
【0019】
内層を脱硫助剤とし、外層がカルシウムアルミネートソーダとした内外層で形成の被覆層としておけば、外層の反応を優先させることができる。内層の脱硫助剤による還元性雰囲気の醸成は、コアによる脱硫反応を助長する。被覆層の形成手順は、脱硫助剤粉をコアにバインダーによって付着させ、脱硫助剤粉がコア外面に固着した後に、カルシウムアルミネートソーダ粉をバインダーにより内層外面に付着させればよく、これによって精錬剤の重構造が実現される。
【0020】
内層を脱硫助剤とし、外層をカルシウムアルミネートソーダに代えたカルシウムアルミネートとする内外層の被覆層としておけば、カルシウムアルミネートは融点の高い別途投入されたCaOの融解を促し、生成されたCaSの滓化が促される。金属Mgの脱硫反応前に脱硫助剤による還元性雰囲気が醸成されるようにしておくことができる。なお、内外層の形成は上記の例と変わるところがない。
【0021】
金属元素をCaとしても、高反応脱硫剤として挙動させることができる。被覆層に脱硫助剤が存在することもあって、副原料の主剤であるCaOと溶鋼中のSとの反応のみならず、金属CaとSとの結合も進行してCaSの生成が促される。被覆層にカルシウムアルミネートソーダを含ませ、脱硫助剤をカーボンまたはアルミ含有物としていることによる効果も、被覆層の外層にカルシウムアルミネートソーダもしくはカルシウムアルミネートを含ませ、内層にカーボンまたはアルミ含有物の脱硫助剤としていることによる効果も、それらによる脱硫作用はMgの場合と異なるところがない。
【0022】
ちなみに、コアを金属Mgと金属Caで形成させても、それぞれによる脱硫反応は確保される。被覆層に、カルシウムアルミネートソーダやカルシウムアルミネートを含めてもそれぞれによる反応や挙動が阻害されることもない。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】金属Mgをコアとし、カルシウムアルミネートソーダと脱硫助剤により被覆層を形成させた精錬剤の模式図。
図2】被覆層を内外層により形成した精錬剤の模式図およびその重層形成説明図。
図3】コアを被覆する処理工程一例図。
図4】(a),(b)は金属Mgコアの被覆層にカルシウムアルミネートを含ませた模式図。(c),(d)は金属Caコアの被覆層にカルシウムアルミネートを含ませた模式図。
図5】金属Caをコアとし、カルシウムアルミネートソーダと脱硫助剤により被覆層を形成させた精錬剤の模式図。
図6】被覆層を内外層により形成した精錬剤の模式図およびその重層形成説明図。
図7】金属Caのコアを被覆する処理工程一例図。
図8】被覆層にカルシウムアルミネートソーダとカルシウムアルミネートを含ませた場合の模式図。
図9】コアに金属Mg粒および金属Ca粒を一体化させた場合の模式図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、本発明に係る精錬剤を、その実施の形態に基づいて詳細に説明する。これは、主原料である鉄鉱石などを溶製した溶銑・溶鋼などの溶鉄(溶湯)に含まれる硫黄分と反応して、スラグの生成を促す「副原料」である。本発明における精錬剤においては、その主たる脱硫作用をするのが金属元素としてのMgとCaである。これらは副原料として現在主剤をなすCaO脱硫剤に混入させたかたちで溶湯に投入してもよいが、CaOの投入とは独立したタイミングで投入することができる点で、従来の添加型とは区別される。
【0025】
いずれにしても金属Mg(金属マグネシウム)や金属Ca(金属カルシウム)は以下に述べるように粒体のかたちで供され、他の脱硫剤、造滓剤、脱硫助剤などによって被覆されたものとなっている。本発明における全ての形態は、その特別な技術的特徴が、すでに述べたとおりの精錬剤の先行技術に存在しない「金属元素の粒体をコアとし、それと粉状の脱硫助剤等で被覆層を形成する」というものであり、副原料の主剤である生石灰CaOの添加剤的に予め混入しておくという思想のものでない。
【0026】
本発明の一つは、図1に示すように、脱硫剤としての金属元素をコア(核)1とし、このコアに他種の脱硫剤および脱硫助剤からなる被覆層2が形成され、このコアと被覆層とからなる重構造が、粘稠液状態から固化したバインダー3により保持されたものである。なお、脱硫助剤とは、溶鉄中の酸素あるいは溶鉄上に浮かぶスラグ中の酸素と優先的に反応して、溶鉄やスラグそれぞれの酸素ポテンシャルを低減させ、脱硫剤の反応を促進させるためのものである。ちなみに、脱硫は高温、高塩基度、還元性雰囲気下で進行の捗ることが知られている。
【0027】
金属元素はMgとされ、3.5ミリメートルまでの粒体である。これはマグネシウムインゴットを削るなどし、その後に必要に応じて角を落とし、粒状となるように整形されたものである。したがって、図1に示したごとくの丸い粒ばかりでないことは言うまでもない。粒とするのは粉体の場合のように一気に反応したり溶解して消失するのを防ぐためであるが、粒サイズは0.5ミリメートルを下らないように配慮される。なお、これより小さい粒になれば被覆層を均一もしくは一様に形成させるのが容易でない。一方、3.5ミリメートルを超える粒であると被覆層を形成した後の粒径が4ミリメートルを超える場合があり、被覆層の変形や表面破損をきたすおそれが高くなる。溶湯への分散供給を図るうえで小粒化は望ましく、投入量が抑えられれば高価なマグネシウムの節減も図りやすくなる。
【0028】
被覆層には脱硫助剤のほかに、脱硫剤としてのカルシウムアルミネートソーダCaO・Al23 ・Na2 0が含められる。これは石灰石とアルミナもしくはアルミ精錬灰と炭酸ソーダを溶融炉に投入して溶融させ、生成された混成溶融体を冷却して得た固溶体を破砕・粉砕して例えば150メッシュ(約0.1ミリメートル)以下としたものであり、CaOよりも高い脱硫性を示す。なお、石灰石とアルミナもしくはアルミ精錬灰を水練り可能な状態に粉砕しておき、これに粉状の炭酸ソーダを加え、水と粘着助成用の水酸化カルシウムを添加して混練し、混練物をブロックに成形し、そのブロックを非回転式のトンネルキルンなどを通過させることにより焼成品とし、その焼成品を破砕・粉砕したものでもよい。カルシウムアルミネートとしては通常12CaO・7Al23 の形態のものがある。いずれも細かいのは差し支えないが、100メッシュ(約0.15ミリメートル)を超えたサイズとなると、金属元素粒外面での緻密な被覆層の形成が容易でなく、好ましくない。このカルシウムアルミネートソーダは、金属Mgによる脱硫に先立って、溶鉄との接触により脱硫作用を発揮する。
【0029】
脱硫助剤はカーボンCまたはアルミ含有物とし、カルシウムアルミネートソーダと同じ理由で例えば150メッシュ(約0.1ミリメートル)までの粉体で使用される。アルミ含有物としては、金属アルミAl、アルミナAl23 (これは脱硫作用も持ち合わせている)、アルミドロス粉、アルミ合金の研磨粉・切削粉といったものを挙げることができる。カーボンにしてもアルミ含有物にしても、溶鉄中あるいはスラグ中の酸素と反応して溶鉄やスラグそれぞれの酸素ポテンシャルを低減させ、脱硫反応を促進させる還元性雰囲気を作る。
【0030】
バインダーとしては、松脂、テレビン油(松精油:およそC1016)、粗トール油、トールロジン、ガムロジンのいずれかが使用される。これは空気に触れて酸化すると粘性が増す樹脂質である。このバインダーは粘稠液状態から固化してコアと被覆層とを重構造に保持する。このようにしているので、被覆層がコアから剥がれることはほとんどない。そして、水練りによる付着とは異なって蒸発することがなく、その固化後の被覆層の保形性は高く、輸送のみならず、溶湯投入時に粉化させてしまうこともほとんどない。
【0031】
精錬剤を上記のような構成としたので、図1の(a)のように被覆層2が厚いときや粒径の大きいときでも、コアが3.5ミリメートルを超えない粒であると被覆層を形成した後の粒径は4ミリメートル程度までにおさまり、KR法用精錬剤やワイヤーフィーダー法用精錬剤として使用することができる。(b)のように被覆層2を薄くしておくこともできるが、(c)に示すようにコア自体を1ミリメートル前後の粒体とするなら、被覆後も溶鉄中にインジェクションできる1.5ミリメートルくらいまでに抑えておくことができる。いずれにしても金属Mgは粒体であるから、副原料の主剤の添加剤とする場合に粉体とされることに比べれば溶湯での沈降性・混入性は格段に向上し、滞留の長期化で溶湯への溶解度が上がって脱硫性が改善される。以下、詳しく挙動を述べる。
【0032】
金属元素はMgであり、それをコアにして被覆する脱硫剤をカルシウムアルミネートソーダCaO・Al23 ・Na2 0としているから、被覆層のカルシウムアルミネートソーダが溶鉄との接触により脱硫作用する。すなわち、溶湯に触れてバインダーの分解により被覆層から離脱した状態では粉サイズであり、特に固溶体であったものの場合融解が早く、脱硫反応はおおいに進行する。このカルシウムアルミネートソーダは当初金属Mgを被覆しているので、金属Mgの溶鉄接触を僅かであっても遅らせることができる。被覆層を保形しているバインダーは溶鉄との接触により分解してガス化する。金属Mgと溶鉄中のSとの以後の接触の機会を増やしてMgSの生成が促進される。一方、カーボンまたはアルミ含有物の脱酸作用により還元性雰囲気が醸成されるのでMgSの復硫が抑制され、別途投入されるなどしたCaOとの以下の反応によりCaSの生成が助長される。
Mg+→MgS
MgS+CaO→CaS+MgO
下線の元素は溶鉄中に存在するものであることを表している。生成されたCaSはスラグに固定される。なお、この金属Mgをコアとする場合、溶銑においても溶鋼においても脱硫効果は顕著である。
【0033】
被覆層を占める脱硫剤のカルシウムアルミネートソーダCaO・Al23 ・Na2 0は被覆層を形成するに留まることから消費量は多くならず、精錬剤中の脱硫剤として占める割合も高くない。Na2 Oに起因する設備の劣化、スラグの肥料化回避といった問題はほとんど生じない。
【0034】
図1の例では、被覆層におけるカルシウムアルミネートソーダと脱硫助剤粉は混成状態にあるが、図2の(a)は被覆層を内外層で形成させたもので、内層2Aが例えばカーボンC、外層2BがカルシウムアルミネートソーダCaO・Al2 03 ・Na2 0とされている。これは、図2の(b)のようにバインダー3をコアに付着させ、(c)のように散布したカーボン粉で覆い、カーボン粉がコア外面に固着された後に、(d)のようにカルシウムアルミネートソーダ粉をバインダー3により内層外面に付着させたものである。このようにしておけば、外層2BであるCaO・Al23 ・Na2 0の脱硫反応を優先させることができる。内層2Aのカーボンによる還元性雰囲気の醸成はその後に露出する金属Mgの脱硫反応に先立つタイミングとなる。
【0035】
この図2の(b)から(d)のプロセスを可能にする一例を図3に示す。まず、(a)に示すように、回転パン4に脱硫助剤としてのカーボン粉を敷き、液状のバインダー3を散布する。これに(b)のようにMg粒を落としてパンを水平回転し必要に応じて上下振動も加え、(c)のように脱硫助剤粉付着Mg粒5とする。これに(d)に示すごとくバインダー3を散布し、(e)のようにカルシウムアルミネートソーダ粉を供給してパンを水平回転し必要に応じて上下振動を加えると、(f)のようにカーボンとカルシウムアルミネートソーダの内外層構造の被覆層付きMg粒6、すなわち重構造の精錬剤となる。
【0036】
以上の構成はカルシウムアルミネートソーダを被覆層における脱硫剤としたものであるが、それに代えて、図4の(a),(b)のように、カルシウムアルミネートCaO・Al23 とすることができる。これは造滓剤であって副原料の主剤であるCaOの融解を助成し、活性化を促す。石灰石とアルミナもしくはアルミ精錬灰を溶融炉に投入して溶融させ、生成された混成溶融体を冷却し、固溶体化した後に破砕・粉砕して得ることができる。
【0037】
このカルシウムアルミネートは、石灰石とアルミナもしくはアルミ精錬灰を水練り可能な状態に粉砕しておき、これに水と粘着助成用の水酸化カルシウムを添加して混練し、混練物をブロックに成形し、そのブロックを台車に静置した状態で焼成炉を通過させるようにして焼成品とし、その焼成品を破砕・粉砕して例えば150メッシュ(約0.1ミリメートル)以下としたものとしておけばよい。細かいことは差し支えないが、100メッシュ(約0.15ミリメートル)を超えたサイズとなると、金属元素粒外面での緻密な被覆層の形成が阻害されやすく、好ましいとは言えない。
【0038】
図4の(b)のごとく、内層をカーボンとし、外層がカルシウムアルミネートとした内外層で形成された被覆層とした場合は、外層の造滓作用を優先させることができる。内層のカーボンによる還元性雰囲気の醸成は、その後に露出する金属Mgの脱硫反応に先立って都合がよい。内外層の形成はすでに述べたところと変わりがない。ちなみに、図示しないが、脱硫助剤を外層とする内外層構造とすることもできる。
【0039】
金属元素をCaにしても、高反応脱硫剤として挙動させることができる。図1から図3までのMgとした場合の全てがそのままCaにも当てはまる。図5図1と同じ趣旨のものであるが、図2および図3に対応するものを、念のため図6および図7に掲げる。副原料の主剤である別途投入されたCaOと溶銑中のSとの反応のみならず、金属CaとSとの結合も進行して、CaSの生成が促進される。その脱硫反応は、
Ca + → CaS
+CaO+→CaS+CO
で表される。下線の元素は溶鉄中に存在するカーボンと硫黄である。なお、金属Caをコアとする場合は、溶鋼において脱硫効果が顕著である。図4の(c),(d)は、図4の(a),(b)と同じく、被覆層にカルシウムアルミネートCaO・Al23 を含ませたCa粒を表している。
【0040】
図8の(a),(b)はコアをMgとし、被覆層には脱硫剤のカルシウムアルミネートソーダCaO・Al23 ・Na2 0、造滓剤のカルシウムアルミネートCaO・Al23 、それに脱硫助剤を含めた例である。(a)はそれらが混在するが、(b)は脱硫助剤を内層としている。なお、図示しないが、脱硫助剤を外層とする内外層構造としてもよい。溶鉄上に浮かぶスラグをいち早く還元性雰囲気におくことができる。したがって、脱硫助剤が内層を形成するものを先に投入し、時間をずらせて外層を形成するものを投入するといったように、使い分けすることもできる。図8の(c),(d)はコアをCaとした場合であり、その説明はMgの場合と同じである。被覆層における脱硫剤、造滓剤、脱硫助剤の内中外層を適宜組み替えることができる。
【0041】
ところで、金属元素はMgとしながらも、金属Caをバインダーによって一体化させたコアとすることもできる。図9の(a)では例えば金属Mgがコアの内部に配置され、Mgよりも小粒の金属Caを外殻にしてMgを覆う。また、(b)では金属Caをコアの内部に配置し、Caよりも小粒の金属Mgを外殻にしてCaを覆う。このようなコアを被覆するにあたり、カルシウムアルミネートソーダまたはカルシウムアルミネート、もしくはその両方を含ませることも差し支えない。
【0042】
以上の説明から分かるように、脱硫作用の活発な金属元素であるMgやCaをコアにして、カルシウムアルミネートソーダCaO・Al23 ・Na2 0やカルシウムアルミネートCaO・Al23 を被覆層に含ませ、その被覆層にカーボン粉またはアルミ含有物といった脱硫助剤も含めた種々な形態を提案した。脱硫にあたっては金属元素の使用量を多くするに越したことはないが、本発明においては、精錬剤としての価格を大きく押し上げるそれらを小粒のコアにとどめ、他種の脱硫剤や造滓剤でもって被覆層を形成して、金属元素の消費を抑えるとともに、金属元素と溶湯の接触に時間遅れを持たせることができるようにしている。しかも、被覆層には還元性雰囲気を生成する脱硫助剤が含められているから、金属元素による脱硫環境が予め整えられ、金属精錬剤の粒化により溶湯への混入性を高めたこととあいまって、脱硫作用の増強が図られる。
【符号の説明】
【0043】
1…コア、2…被覆層、2A…内層、2B…外層、3…バインダー。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9