特許第5930821号(P5930821)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5930821
(24)【登録日】2016年5月13日
(45)【発行日】2016年6月8日
(54)【発明の名称】水車発電システム
(51)【国際特許分類】
   H02P 9/04 20060101AFI20160526BHJP
   F03B 15/18 20060101ALI20160526BHJP
【FI】
   H02P9/04 C
   F03B15/18 A
   F03B15/18 B
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-93051(P2012-93051)
(22)【出願日】2012年4月16日
(65)【公開番号】特開2013-223324(P2013-223324A)
(43)【公開日】2013年10月28日
【審査請求日】2014年11月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000152170
【氏名又は名称】株式会社酉島製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100084146
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100081422
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 光雄
(74)【代理人】
【識別番号】100111039
【弁理士】
【氏名又は名称】前堀 義之
(72)【発明者】
【氏名】村田 仁志
【審査官】 宮崎 基樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−244155(JP,A)
【文献】 特開2005−312289(JP,A)
【文献】 特開2005−287095(JP,A)
【文献】 特開2001−197788(JP,A)
【文献】 特開2005−295686(JP,A)
【文献】 特開2010−077971(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 9/00− 9/48
F03B 15/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水路に配設された水車と、
前記水車によって駆動される永久磁石式同期発電機と、
前記永久磁石式同期発電機の出力を直流に変換して直流電路に出力する発電側変換器と、
前記直流電路の直流を交流に変換して電力系統に出力する系統側変換器と、
前記直流電路の電圧を検出する電圧検出器と、前記直流電路に、電路を開閉する抵抗チョッパを介して接続された制動抵抗と、
前記水車の入口を遮断できるように前記水路に配設された入口弁と、
前記電力系統の停電時には、前記電圧検出器の検出値に基づいて、前記抵抗チョッパの開閉、前記発電側変換器の周波数、および前記入口弁の開閉を制御する制御装置とを有し、
前記制御装置は、前記永久磁石式同期発電機を介して前記水車の回転数が徐々に上昇するように前記発電側変換器の周波数を制御することを特徴とする水車発電システム。
【請求項2】
前記制御装置は、前記電圧検出器の検出値を一定の値に保つように、前記抵抗チョッパを制御することを特徴とする請求項1に記載の水車発電システム。
【請求項3】
前記直流電路に、電路を開閉する蓄電チョッパを介して接続された蓄電器をさらに有し、
前記制御装置は、前記直流電路の電圧に基づいて、前記蓄電チョッパを制御することを特徴とする請求項1または2に記載の水車発電システム。
【請求項4】
前記発電側変換器は、前記直流電路に前記蓄電器から供給された直流を任意の周波数の交流に変換して前記永久磁石式同期発電機に出力できることを特徴とする請求項3に記載の水車発電システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水車発電システムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、水車で発電機を駆動する水車発電システムでは、例えば特許文献1に記載されたガバナのように、水車の回転速度を制御する調速機構を有する。しかしながら、揚水発電等に使用されるポンプ逆転水車を用いた水車発電システムでは、水車自体に回転速度を制御する調速機構を設けることが容易ではない。そのような水車発電システムにおいて、電力系統が停電した場合に発電機からの電力送出を停止すると、発電機の負荷トルクが消失して、水車の回転数が急上昇する。すると、水車を通過する水量が急減し、水撃圧、つまり、水車入口配管内の圧力が急激に上昇する現象が生じる。
【0003】
このため、従来のポンプ逆転水車を用いた水車発電システムでは、フライホイールを設けて回転数の上昇を遅らせたり、サージタンクを設置して圧力上昇を吸収したり、系統停電時に開放されるバイパス逃がし弁を設けて水圧管路の流量減少を減らして圧力上昇を低減したりしている。しかしながら、従来の技術では、水撃の発生を十分に抑制できず、水車や配管に過剰な耐圧性が要求されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−153600号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記問題点に鑑みて、本発明は、電力系統の停電時に、水車入口に発生する水撃圧を十分に抑制できる水車発電システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、本発明による水車発電システムは、水路に配設された水車と、前記水車によって駆動される永久磁石式同期発電機と、前記永久磁石式同期発電機の出力を直流に変換して直流電路に出力する発電側変換器と、前記直流電路の直流を交流に変換して電力系統に出力する系統側変換器と、前記直流電路の電圧を検出する電圧検出器と、前記直流電路に、電路を開閉する抵抗チョッパを介して接続された制動抵抗と、前記水車の入口を遮断できるように前記水路に配設された入口弁と、前記電力系統の停電時には、前記電圧検出器の検出値に基づいて、前記抵抗チョッパの開閉、前記発電側変換器の周波数、および前記入口弁の開閉を制御する制御装置とを有し、前記制御装置は、前記永久磁石式同期発電機を介して前記水車の回転数が徐々に上昇するように前記発電側変換器の周波数を制御するものとする。
【0007】
この構成によれば、電力系統の停電時に、電力系統に電力を出力する代わりに、制動抵抗によって電力を消費させ、その消費電力を抵抗チョッパで調節することによって直流電路の電圧を確保できる。また、発電側変換器の周波数を制御して永久磁石式同期発電機を介して水車の回転数を徐々に上昇させて無拘束速度に近づけることで、水車の回転数の急上昇を抑制し、水撃の発生を防止または水撃圧を抑制できる。
【0008】
また、本発明の水車発電システムは、前記直流電路に、電路を開閉する蓄電チョッパを介して接続された蓄電器をさらに有し、前記制御装置は、前記直流電路の電圧に基づいて、前記蓄電チョッパを制御してもよい。
【0009】
この構成によれば、永久磁石式同期発電機によって発電側変換器が動作するために必要な電力を供給する構成としながら、水車の速度を無拘束速度まで上昇させられる。
【0010】
また、前記電側変換器は、前記直流電路に前記蓄電器から供給された直流を任意の周波数の交流に変換して前記永久磁石式同期発電機に出力できることが好ましい。
【0011】
この構成によれば、永久磁石式同期発電機を電動機として駆動することができる。
【発明の効果】
【0012】
以上のように、本発明によれば、電力系統の停電時に、抵抗チョッパで管理された量の電力を制動抵抗に消費させることで、直流電路の電圧を確保する。また、発電側変換器の周波数を制御して永久磁石式同期発電機を介して水車の回転数を制御することで、水車の急激な回転数上昇による水撃を防止する。



【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の1つの実施形態の水車発電システムの概略構成図である。
図2図1の水車発電システムのシステムカーブと水車特性を示す図である。
図3図1の水車発電システムにおける制御の流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
これより、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。先ず、図1に、本発明の1つの実施形態である水車発電システムの構成を示す。この水車発電システムは、水圧管路1に配設されたポンプ逆転水車2と、ポンプ逆転水車2によって駆動される永久磁石式同期発電機3と、永久磁石式同期発電機3の出力を直流に変換する発電側変換器4と、発電側変換器4の直流出力を交流に再変換する系統側変換器5とを有する。
【0015】
発電側変換器4と系統側変換器5との間の電路である直流電路6には、その電圧を検出する電圧検出器7が設けられている。また、直流電路6には、スイッチング素子からなる抵抗チョッパ8を介して抵抗器からなる制動抵抗9が接続され、さらに、スイッチング素子からなる蓄電チョッパ10を介して蓄電器11が接続されている。系統側変換器5の出力は、電力系統12に接続されている。
【0016】
通常の、永久磁石式同期発電機3から発電側変換器4および系統側変換器5を介して電源系統12に電力を供給している状態において、抵抗チョッパ8は、常時開放されて制動抵抗9を直流電路6から切り離し、蓄電チョッパ10は、常時閉鎖されて蓄電器11を約50%の充電状態に保つ。
【0017】
また、水圧管路1には、ポンプ逆転水車2に供給される水量を検出する流量計13と、ポンプ逆転水車2の入口を遮断可能な入口弁14と、ポンプ逆転水車2の入口側の圧力を検出する入口圧力検出器15と、ポンプ逆転水車2の出口側の圧力を検出する出口圧力検出器16とが設けられている。
【0018】
また、本水車発電システムは、電力系統12に接続された無停電電源(UPS)17から電力供給される制御装置18を有する。制御装置18は、例えば、プログラマブルロジックコントローラ(PLC)からなり、電圧検出器7、流量計13、入口圧力検出器15および出口圧力検出器16の検出値が入力される。また、電力系統の停電には、制御装置18に、無停電電源17から電力系統の停電を示す信号が入力されるようになっている。制御装置18は、これらの入力信号に基づいて、発電側変換器4および系統側変換器5の周波数、抵抗チョッパ8および蓄電チョッパ10の開閉、並びに、入口弁14の開閉を制御する。
【0019】
図2に、ポンプ逆転水車2の特性と、本水車発電システムのシステムカーブ(水圧管路1が提供可能な落差)とを示す。本水車発電システムを定常運転しているとき、ポンプ逆転水車2の運転点、つまり、水量と有効落差(ポンプ逆転水車2が動力に変換できる水頭)とで定まる位置は、システムカーブ上に存在する。したがって、通常運転時、制御装置18は、流量計13の検出値に基づいて、現在の運転点(A点)、つまり、システムカーブ上の位置を把握する。例えば、本水車発電システムが電力系統12に電力を安定して供給しているときに、流量計13の検出値が0.16m/sであるとすると、そのときのポンプ逆転水車2の有効落差は、43.6mである。
【0020】
ポンプ逆転水車2の有効落差は、回転数によって異なるが、この定常状態では、実線で示すように流量−有効落差特性がA点を通る回転数で運転される。ちなみに、本水車発電システムは、この定常状態において二点鎖線で示すこの回転数におけるポンプ逆転水車2の効率が略最大となるように設計されている。また、図には、一点鎖線で、この回転数におけるポンプ逆転水車2の出力も示されている。
【0021】
本水車発電システムにおいて、電力系統12が停電した場合、永久磁石式同期発電機3から電力系統12へ電力を出力できない。このため、ポンプ逆転水車2がトルクを発生しない条件を示す流量−無拘束特性線上に運転点を移動する必要がある。このとき、ポンプ逆転水車2の入口部分に水撃が生じないようにするには、運転点をシステムカーブに沿ってゆっくりと移動させる必要がある。
【0022】
しかしながら、A点において運転している状態で、単純に永久磁石式同期発電機3の出力を停止すると、破線で示すように、運転点がシステムカーブから外れる。また、その移動は、急峻であるため、ポンプ逆転水車2の回転数が急上昇して、流量が急激に減少することにより、ポンプ逆転水車2の入口部分に水撃圧が作用する。
【0023】
本実施形態の水車発電システムにおいて、ポンプ逆転水車2の有効落差特性線がシステムカーブと無拘束特性線とが交差する点(B点)を通過することになるポンプ逆転水車2の回転数は、1322rpmである。図には、この回転数に対応するポンプ逆転水車2の有効落差特性を細い実線で、出力特性を細い一点鎖線で、効率特性を細い二点鎖線で示している。
【0024】
したがって、本水車発電システムの制御装置18は、電力系統12が停電したときには、水撃が生じない程度の加速度αで、例えばα=37.2rpm/mで、ポンプ逆転水車2の回転数を1322rpmまでゆっくりと上昇させることで、ポンプ逆転水車2の出力を0に、ひいては、永久磁石式同期発電機3が発電する電力を0にする。
【0025】
図3に、本水車発電システムにおける電力系統12の停電時の動作、つまり、制御装置18による制御の流れを示す。制御装置18は、ステップS01において、無停電電源17から電力系統12の停電を示す信号が入力されると、ステップS02において、ポンプ逆転水車2および永久磁石式同期発電機3の急激な回転数上昇を回避する水車発電制動を開始する。
【0026】
ステップS03において、制御装置18は、蓄電チョッパ10を開放すると共に、電圧検出器7が検出した直流電路6の電圧が電力系統12が停電する前の電圧と変わらない一定の範囲内に留まるように、抵抗チョッパ8を開閉する。具体例としては、直流電路6の電圧の基準値を700Vとして±20Vの範囲内に保つように、電圧検出器7の検出値が720Vまで上昇すると抵抗チョッパ8を閉鎖し、電圧検出器7の検出値が680Vまで低下すると抵抗チョッパ8を開放する。
【0027】
続いて、ステップS04において、圧力検出器15の検出値を監視しながら、ポンプ逆転水車2の回転速度αを、例えば毎分37.2rpmだけ加速させるように、発電側変換器4の動作周波数を変化させる。
【0028】
これと同時に、制御装置18は、ステップS05からステップS07において、水圧管路1の上流における条件の変化、つまり、他系統の送水量の変動等による圧力変動のような外乱による影響を防止する制御を行う。具体的には、入口圧力検出器15の検出値を監視して、ポンプ逆転水車2の入口圧力の短期的な圧力変化ΔPが許容値を超えるような変動が発生した場合、圧力の上昇変化に合わせPID制御により、例えば、圧力変化ΔPが2mの場合に速度変化率αを−10%し、圧力変化ΔPが4mでの場合に速度変化率αを−20%するような微調整を行うことで、外乱による影響を防止する。
【0029】
ステップS08において、直流電路6の電圧が、ポンプ逆転水車2の無拘束速度に近い所定の回転数に対応する基準値以下となれば、ステップS09において抵抗チョッパ9の制御を停止して直流電路6から制動抵抗10を切り離す。これは、永久磁石式同期発電機3の出力がポンプ逆転水車2の出力を電力に変換したものであることから、運転点を無拘束特性カーブ上のB点まで移動させてしまうと、発電側変換器4および抵抗チョッパ8の動作に必要な電圧を維持できないからである。したがって、この基準値は、それらの動作に必要な最低電圧以上の電圧、例えば、約2%トルク値に相当する値に設定する。
【0030】
そして、ステップS10において蓄電チョッパ10を閉じることにより、蓄電器11から供給される電力によって発電側変換器4の動作に必要な電力を確保し、永久磁石式同期発電機3を電動機として駆動する力行制御を行う。そして、ステップS11において永久磁石式同期発電機3のトルクが0になったなら、運転点がB点に移動したものと判断して、ステップS12において発電側変換器4を停止する。
【0031】
さらに、制御装置18は、ステップS13において、入口弁14の閉鎖を開始する。入口弁14の閉鎖は、例えば、入口弁14の閉鎖動作を1秒間行い、30秒停止することを繰り返す。このような入口弁14の閉鎖に際し、ステップS14で圧力偏差制御を行い、ステップS15において入口弁14の開閉速度制御を行うことにより、圧力変動を抑制する。具体的には、圧力変化ΔPに応じて入口弁14の閉鎖動作を微調整することで、圧力変化ΔPが所望の値、例えば2mになるようにする。このようにして、入口弁14の開度を複数の段階に分けて減少させることで、水撃を複数に分散させて生じさせ、その水撃圧を小さくする。入口弁14の動作時間は、水撃圧が高くならない十分に短い時間とし、入口弁14の停止時間は、それぞれの水撃が収まるのに十分長い時間とする。これにより、運転点をB点から、無拘束特性カーブに沿って、ゆっくりと原点まで移動させる。こうして、ステップS15において入口弁14が全閉となり、且つ、ステップS16においてポンプ逆転水車2の流量が0になるため、ステップS17においてポンプ逆転水車2が停止する。
【0032】
以上のように、本実施形態の水車発電システムでは、電力系統が停電したとき、運転点をシステムカーブに沿って無拘束特性線までゆっくりと移動させて発電量をゼロにし、さらに、運転点を無拘束特性線に沿って水車の回転を停止させることにより、ポンプ逆転水車2の流量の急変による水撃の発生を防止できる。厳密には、システムカーブと無拘束特性線とが交差するB点において発電側変換器4を停止することは困難であるが、十分にB点に近づけることで、水撃圧を、単純に永久磁石式同期発電機3の出力を停止する場合の数%以下に抑制できる。
【0033】
尚、上記実施形態では、発電側変換器4および抵抗チョッパ8の制御電力確保のため、運転点が無拘束特性線に達する前に抵抗チョッパ8による制御を停止しているが、他に制御電源が確保できる場合は、運転点が厳密にB点に達したときに発電側変換器4を停止するようにしてもよく、その場合、蓄電チョッパ10および蓄電器11、並びに、蓄電チョッパ10にかかる制御を省略してもよい。
【符号の説明】
【0034】
1…水圧管路
2…ポンプ逆転水車
3…永久磁石式同期発電機
4…発電側変換器
5…系統側変換器
6…直流電路
7…電圧検出器
8…抵抗チョッパ
9…制動抵抗
10…蓄電チョッパ
11…蓄電器
12…電力系統
13…流量計
14…入口弁
15…入口圧力検出器
16…出口圧力検出器
17…無停電電源
18…制御装置
図1
図2
図3