特許第5930852号(P5930852)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5930852
(24)【登録日】2016年5月13日
(45)【発行日】2016年6月8日
(54)【発明の名称】強誘電体結晶膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/316 20060101AFI20160526BHJP
   H01L 21/8246 20060101ALI20160526BHJP
   H01L 27/105 20060101ALI20160526BHJP
【FI】
   H01L21/316 M
   H01L21/316 G
   H01L21/316 Y
   H01L27/10 444C
【請求項の数】1
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2012-127046(P2012-127046)
(22)【出願日】2012年6月4日
(65)【公開番号】特開2013-251490(P2013-251490A)
(43)【公開日】2013年12月12日
【審査請求日】2012年10月31日
【審判番号】不服2014-13242(P2014-13242/J1)
【審判請求日】2014年7月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】595152438
【氏名又は名称】株式会社ユーテック
(73)【特許権者】
【識別番号】500393893
【氏名又は名称】新科實業有限公司
【氏名又は名称原語表記】SAE Magnetics(H.K.)Ltd.
(74)【代理人】
【識別番号】100110858
【弁理士】
【氏名又は名称】柳瀬 睦肇
(72)【発明者】
【氏名】木島 健
(72)【発明者】
【氏名】本多 祐二
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 大助
(72)【発明者】
【氏名】秦 健次郎
【合議体】
【審判長】 小野田 誠
【審判官】 綿引 隆
【審判官】 加藤 浩一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−335437(JP,A)
【文献】 特開2001−139329(JP,A)
【文献】 特開2005−272294(JP,A)
【文献】 特開2001−072417(JP,A)
【文献】 特開2000−077616(JP,A)
【文献】 特開2000−067650(JP,A)
【文献】 特開2011−029394(JP,A)
【文献】 特開2010−050388(JP,A)
【文献】 特開2009−064859(JP,A)
【文献】 特開2004−214282(JP,A)
【文献】 特開2005−210004(JP,A)
【文献】 特開平06−089986(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/31-316
H01L 21/8239-8247
H01L 27/105-115
H01L 41/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に(100)に配向したPt膜を形成し、
前記Pt膜上に膜厚50nmの強誘電体種結晶膜をスパッタリング法によりエピタキシャル成長させて形成し、
前記強誘電体種結晶膜上に該強誘電体種結晶膜の成分金属を全て或いは一部含む金属化合物と、その部分重縮合物を有機溶媒中に含有する溶液を塗布する方法により、非結晶性前駆体膜として形成し、
前記強誘電体種結晶膜及び非結晶性前駆体膜を酸素雰囲気で加熱することにより、前記非結晶性前駆体膜を酸化して結晶化することで強誘電体塗布焼結結晶膜を形成し、
前記強誘電体種結晶膜は、(Pb,A)(Zr,Ti)O膜であり、Aは、Li、Na、K及びRbからなる群から選択される少なくとも1種からなり、
前記(Pb,A)(Zr,Ti)O膜の各元素数比率が下記式(3)を満たし、
前記(Pb,A)(Zr,Ti)O膜は、Zr/Ti元素数比率が下記式(1)を満たし、
前記強誘電体種結晶膜は(001)に配向され、
前記強誘電体塗布焼結結晶膜は(001)に配向されることを特徴とする強誘電体結晶膜の製造方法。
60/40≧Zr/Ti>52/48 ・・・(1)
(Pb+A)/(Zr+Ti)≦1.35 ・・・(3)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、種結晶膜を用いた強誘電体結晶膜、電子部品、強誘電体結晶膜の製造方法及び強誘電体結晶膜の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
<エピタキシャル成長を用いた強誘電体結晶膜の製造方法>
図12は、従来の強誘電体結晶膜の製造方法を説明するための断面図である。
4インチウエハなどの基板101上に(100)に配向したPt膜102を形成する。次いで、このPt膜102上にスパッタリング法によりPb(Zr,Ti)O膜(以下、「PZT膜」という。)103をエピタキシャル成長させる。この際のスパッタ条件の一例は以下のとおりである。
【0003】
[スパッタ条件]
装置 : RFマグネトロンスパッタリング装置
パワー : 1500W
ガス : Ar/O
圧力 : 0.14Pa
温度 : 600℃
成膜速度 : 0.63nm/秒
成膜時間 : 53分
【0004】
上記のエピタキシャル成長によってPt膜102上には膜厚2μmのPZT膜103が形成される。このPZT膜103は、図13に示すように(001)に優先配向しており、非常に良好な結晶性を有している。
【0005】
上記従来の強誘電体結晶膜の製造方法では、スパッタリングによるエピタキシャル成長の成膜速度が遅いため、成膜時間が長くなり、量産に適していない。
また、スパッタリングの際の温度が600℃と高温であるため、装置の真空チャンバーを長時間高温にするため、装置に負荷がかかる。
また、一般的にはエピタキシャル成長によって成膜されたPZT膜は、リーク電流密度が大きいため、耐電圧が低いことが知られている。
【0006】
<前駆体溶液を用いたスピンコート塗布法を用いた強誘電体結晶膜の製造方法>
次に、他の従来の強誘電体結晶膜の製造方法について説明する(例えば特許文献1参照)。この他の従来の強誘電体結晶膜の製造方法は、図12に示すPZT結晶膜103を、スパッタリング法ではなく、スピンコート塗布法により形成するものである。詳細を以下に説明する。
【0007】
Pt膜102上にスピンコータによってPZT前駆体溶液を回転塗布する。この際、500rpmで5秒回転させた後に1500rpmで20秒回転させる。PZT前駆体溶液は、該PZT結晶の成分金属を全て或いは一部含む金属化合物と、その部分重縮合物を有機溶媒中に含有する前駆体溶液であり、濃度が25重量%のPZT(Zr/Ti=52/48)でPbが20%過剰な溶液である。
【0008】
次いで、この塗布されたPZT前駆体溶液をホットプレート上で250℃に加熱しつつ30秒間保持して乾燥させ、水分を除去した後、さらに高温に保持したホットプレート上で450℃に加熱しつつ60秒間保持して仮焼成を行う。
【0009】
上記の回転塗布、乾燥、仮焼成を5回繰り返し、5層のPZTアモルファス膜を生成する。
【0010】
次いで、仮焼成を行った後のPZTアモルファス膜に加圧式ランプアニール装置(RTA: rapidly thermal anneal)を用いて酸素雰囲気の10atmで700℃の温度に3分間保持してアニール処理を行い、PZT結晶化を行う。この結晶化されたPZT膜はペロブスカイト構造からなり、前駆体溶液のスピン塗布から結晶化までを含めた成膜速度は2.65nm/秒であり、成膜時間は13分である。
【0011】
上記の前駆体溶液を用いたスピンコート塗布法によってPt膜上には膜厚2μmのPZT結晶膜が形成され、このPZT結晶膜は、図14に示すように(001)及び(110)に配向している。
【0012】
上記の法を用いて製造されたPZT結晶膜は、(001)配向と(110)配向が検出されるため、下地のPt膜の(100)配向が完全に転写されるわけではないものの、スピンコート塗布法の利点は塗布能力が基本的にウェハサイズに余り左右されず塗布条件の若干の変更で大面積塗布に対応し易く、量産に適した塗布方法である。一方、前記のエピタキシャル成長によるPZT結晶膜は、下地のPt膜の(100)配向が完全に転写される利点を有するが、該スピンコート塗布法に比べて成膜速度が非常に遅いため、量産に課題を残している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】WO2006/087777
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の一態様は、種結晶膜の配向が良好に転写された強誘電体結晶膜またはその強誘電体結晶膜を有する電子部品を提供することを課題とする。
また、本発明の一態様は、量産に適した成膜速度を有する強誘電体結晶膜の製造方法及び強誘電体結晶膜の製造装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
以下に、本発明の種々の態様について説明する。
[1]基板上にスパッタリング法により形成され、所定の面に配向された強誘電体種結晶膜と、
前記強誘電体種結晶膜上に形成された強誘電体塗布焼結結晶膜と、
を具備し、
前記強誘電体塗布焼結結晶膜は、該強誘電体塗布焼結結晶膜の成分金属を全て或いは一部含む金属化合物と、その部分重縮合物(前駆体)を有機溶媒中に含有する溶液を塗布し、加熱して結晶化されたものであることを特徴とする強誘電体結晶膜。
【0016】
[2]上記[1]において、
前記強誘電体塗布焼結結晶膜は、前記所定の面と同じ面に配向されていることを特徴とする強誘電体結晶膜。
【0017】
[3]上記[1]または[2]において、
前記強誘電体種結晶膜及び前記強誘電体塗布焼結結晶膜それぞれは、Pb(Zr,Ti)O膜または(Pb,A)(Zr,Ti)O膜であり、Aは、Li、Na、K、Rb、Ca、Sr、Ba、Bi及びLaからなる群から選択される少なくとも1種からなることを特徴とする強誘電体結晶膜。
【0018】
[4]上記[3]において、
前記Pb(Zr,Ti)O膜または(Pb,A)(Zr,Ti)O膜は、Zr/Ti元素数比率が下記式(1)を満たすことを特徴とする強誘電体結晶膜。
60/40Zr/Ti40/60 ・・・(1)
【0019】
[5]上記[3]または[4]において、
前記Pb(Zr,Ti)O膜の各元素数比率が下記式(2)を満たし、前記(Pb,A)(Zr,Ti)O膜の各元素数比率が下記式(3)を満たすことを特徴とする強誘電体結晶膜。
Pb/(Zr+Ti)<1.06 ・・・(2)
(Pb+A)/(Zr+Ti)≦1.35 ・・・(3)
【0020】
[6]上記[3]乃至[5]のいずれか一項において、
前記強誘電体種結晶膜は(001)に配向され、
前記強誘電体塗布焼結結晶膜は(001)に配向されることを特徴とする強誘電体結晶膜。
【0021】
[7]上記[3]乃至[5]のいずれか一項において、
前記強誘電体種結晶膜は(111)に配向され、
前記強誘電体塗布焼結結晶膜は(111)に配向されることを特徴とする強誘電体結晶膜。
【0022】
[8]上記[1]乃至[7]のいずれか一項に記載の強誘電体結晶膜を有することを特徴とする電子部品。
【0023】
[9]基板上に強誘電体種結晶膜をスパッタリング法によりエピタキシャル成長させて形成し、
前記強誘電体種結晶膜上に該強誘電体種結晶膜の成分金属を全て或いは一部含む金属化合物と、その部分重縮合物を有機溶媒中に含有する溶液を塗布する方法により、非結晶性(アモルファス)前駆体膜として形成し、
前記強誘電体種結晶膜及び非結晶性前駆体膜を酸素雰囲気で加熱することにより、前記非結晶性前駆体膜を酸化して結晶化することで強誘電体塗布焼結結晶膜を形成することを特徴とする強誘電体結晶膜の製造方法。
【0024】
[10]上記[9]において、
前記強誘電体塗布焼結結晶膜は、前記所定の面と同じ面に配向されていることを特徴とする強誘電体結晶膜の製造方法。
【0025】
[11]上記[9]または[10]において、
前記強誘電体種結晶膜及び前記強誘電体塗布焼結結晶膜それぞれは、Pb(Zr,Ti)O膜または(Pb,A)(Zr,Ti)O膜であり、Aは、Li、Na、K、Rb、Ca、Sr、Ba、Bi及びLaからなる群から選択される少なくとも1種からなることを特徴とする強誘電体結晶膜の製造方法。
【0026】
[12]上記[11]において、
前記Pb(Zr,Ti)O膜または(Pb,A)(Zr,Ti)O膜は、Zr/Ti元素数比率が下記式(1)を満たすことを特徴とする強誘電体結晶膜の製造方法。
60/40Zr/Ti40/60 ・・・(1)
【0027】
[13]上記[11]または[12]において、
前記Pb(Zr,Ti)O膜の各元素数比率が下記式(2)を満たし、前記(Pb,A)(Zr,Ti)O膜の各元素数比率が下記式(3)を満たすことを特徴とする強誘電体結晶膜の製造方法。
Pb/(Zr+Ti)<1.06 ・・・(2)
(Pb+A)/(Zr+Ti)≦1.35 ・・・(3)
【0028】
[14]上記[11]乃至[13]のいずれか一項において、
前記強誘電体種結晶膜は(001)に配向され、
前記強誘電体塗布焼結結晶膜は(001)に配向されることを特徴とする強誘電体結晶膜の製造方法。
【0029】
[15]上記[11]乃至[13]のいずれか一項において、
前記強誘電体種結晶膜は(111)に配向され、
前記強誘電体塗布焼結結晶膜は(111)に配向されることを特徴とする強誘電体結晶膜の製造方法。
【0030】
[16]基板上に強誘電体種結晶膜をスパッタリング法によりエピタキシャル成長させて形成する第1の装置と、
前記強誘電体種結晶膜上にスピンコート塗布法により強誘電体材料を含むアモルファス膜を塗布形成する第2の装置と、
前記強誘電体種結晶膜及び前記アモルファス膜を酸素雰囲気で加熱することにより、前記アモルファス膜を酸化して結晶化することで強誘電体塗布焼結結晶膜を形成する第3の装置と、
を具備することを特徴とする強誘電体結晶膜の製造装置。
【0031】
[17]上記[16]において、
前記強誘電体塗布焼結結晶膜は、前記所定の面と同じ面に配向されていることを特徴とする強誘電体結晶膜の製造装置。
【0032】
[18]上記[16]または[17]において、
前記強誘電体種結晶膜及び前記強誘電体塗布焼結結晶膜それぞれは、Pb(Zr,Ti)O膜または(Pb,A)(Zr,Ti)O膜であり、Aは、Li、Na、K、Rb、Ca、Sr、Ba、Bi及びLaからなる群から選択される少なくとも1種からなることを特徴とする強誘電体結晶膜の製造装置。
【0033】
[19]上記[18]において、
前記Pb(Zr,Ti)O膜または(Pb,A)(Zr,Ti)O膜は、Zr/Ti元素数比率が下記式(1)を満たすことを特徴とする強誘電体結晶膜の製造装置。
60/40Zr/Ti40/60 ・・・(1)
【0034】
[20]上記[18]または[19]において、
前記Pb(Zr,Ti)O膜の各元素数比率が下記式(2)を満たし、前記(Pb,A)(Zr,Ti)O膜の各元素数比率が下記式(3)を満たすことを特徴とする強誘電体結晶膜の製造装置。
Pb/(Zr+Ti)<1.06 ・・・(2)
(Pb+A)/(Zr+Ti)≦1.35 ・・・(3)
【0035】
[21]上記[18]乃至[20]のいずれか一項において、
前記強誘電体種結晶膜は(001)に配向され、
前記強誘電体塗布焼結結晶膜は(001)に配向されることを特徴とする強誘電体結晶膜の製造装置。
【0036】
[22]上記[18]乃至[20]のいずれか一項において、
前記強誘電体種結晶膜は(111)に配向され、
前記強誘電体塗布焼結結晶膜は(111)に配向されることを特徴とする強誘電体結晶膜の製造装置。
【発明の効果】
【0037】
本発明の一態様を適用することで、種結晶膜の配向が良好に転写された強誘電体結晶膜またはその強誘電体結晶膜を有する電子部品を提供することができる。
また、本発明の一態様を適用することで、量産に適した成膜速度を有する強誘電体結晶膜の製造方法及び強誘電体結晶膜の製造装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1】本発明の一態様に係る強誘電体結晶膜の製造方法を説明するための断面図である。
図2】本発明の一態様に係る強誘電体結晶膜の製造装置を模式的に示す構成図である。
図3図1に示すスピンコート塗布法によって形成されたPZT膜15をXRD回折で結晶性を評価した結果を示す図である。
図4】実施例2のサンプル断面を示すFIB−SEM像である。
図5】実施例2をXRD回折で結晶性を評価した結果を示す図である。
図6】強誘電体種結晶膜が無い点以外は実施例2と同一条件で作製した従来の強誘電体塗布焼結結晶膜をXRD回折で結晶性を評価した結果を示す図である。
図7】実施例2のヒステリシス評価を行った結果を示す図である。
図8】実施例2のリーク電流密度を測定した結果を示す図である。
図9】実施例2の比誘電率を測定した結果を示す図である。
図10】実施例2の圧電特性d31を評価した結果を示す図である。
図11】実施例3のPZT強誘電体結晶膜をXRD回折で結晶性を評価した結果を示す図である。
図12】従来の強誘電体結晶膜の製造方法を説明するための断面図である。
図13図12に示すPZT膜103をXRD回折で結晶性を評価した結果を示す図である。
図14】スピンコート塗布法によって形成されたPZT結晶膜をXRD回折で結晶性を評価した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下では、本発明の実施形態について図面を用いて詳細に説明する。ただし、本発明は以下の説明に限定されず、本発明の趣旨及びその範囲から逸脱することなくその形態及び詳細を様々に変更し得ることは、当業者であれば容易に理解される。従って、本発明は以下に示す実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。
【0040】
図1は、本発明の一態様に係る強誘電体結晶膜の製造方法を説明するための断面図である。図2は、本発明の一態様に係る強誘電体結晶膜の製造装置を模式的に示す構成図である。この強誘電体結晶膜の製造装置は、強誘電体キャパシタを形成するための複合成膜装置である。
【0041】
まず、基板10を用意する。
詳細には、図2に示すロード/アンロード室23に装置外部からシリコンウエハ11を導入し、ロード/アンロード室23のシリコンウエハ11を、搬送室17を通ってストッカー16に搬送ロボット18によって搬送する。次いで、ストッカー16内のシリコンウエハ11を、搬送室17を通って電子ビーム蒸着装置21に搬送ロボット18によって搬送する。次に、電子ビーム蒸着装置21によってシリコンウエハ11上に酸化膜を成膜する。引き続き(100)に配向したPt膜を成膜して膜12を得る。次いで、電子ビーム蒸着装置21内のシリコンウエハ11を、搬送室17を通って第1のスパッタリング装置20に搬送ロボット18によって搬送する。次に、第1のスパッタリング装置20によってPt膜上に(100)配向したPt膜13aを成膜する。次いで、第1のスパッタリング装置20内のシリコンウエハ11を、搬送室17を通って第2のスパッタリング装置19に搬送ロボット18によって搬送する。次に第2のスパッタリング装置19によって(100)配向したPt膜13a上に(001)配向したSrRuO膜13bを成膜する。
【0042】
次に、第2のスパッタリング装置19内の基板10を、搬送室17を通って第3のスパッタリング装置22に搬送ロボット18によって搬送する。次に、第3のスパッタリング装置22によって基板10のSrRuO膜13b上に強誘電体種結晶膜14をスパッタリングによりエピタキシャル成長させて形成する。
【0043】
強誘電体種結晶膜14の具体例としては、例えばZr/Ti元素数比率が下記式(1)を満たすPb(Zr,Ti)O膜または(Pb,A)(Zr,Ti)O膜を用いるとよい。Aは、Li、Na、K、Rb、Ca、Sr、Ba、Bi及びLaからなる群から選択される少なくとも1種からなるとよい。
60/40Zr/Ti40/60 ・・・(1)
【0044】
Pb(Zr,Ti)O膜の各元素数比率は、下記式(2)を満たし、好ましくは下記式(2')を満たす。
Pb/(Zr+Ti)<1.06 ・・・(2)
1≦Pb/(Zr+Ti)<1.06 ・・・(2')
【0045】
(Pb,A)(Zr,Ti)O膜の各元素数比率は、下記式(3)を満たし、好ましくは下記式(3')満たす。
(Pb+A)/(Zr+Ti)≦1.35 ・・・(3)
1≦(Pb+A)/(Zr+Ti)≦1.35 ・・・(3')
【0046】
上記のエピタキシャル成長によるPb(Zr,Ti)O膜または(Pb,A)(Zr,Ti)O膜を用いることにより、(001)または(111)のいずれかに単一配向または優先配向し、かつ非常に良好な結晶性を有する強誘電体種結晶膜14を形成することができる。
【0047】
この後、強誘電体種結晶膜14上に強誘電体材料を含むアモルファス膜を、前駆体溶液を用いたスピンコート塗布法により形成し、強誘電体種結晶膜14及びアモルファス膜を酸素雰囲気で加熱することにより、アモルファス膜を酸化して結晶化することで強誘電体塗布焼結結晶膜15を形成する。
【0048】
以下に、詳細に説明する。
第3のスパッタリング装置22内の基板10を、搬送室17を通って受渡室24に搬送ロボット18によって搬送する。次いで、受渡室24の基板10を搬送ロボット25によってストッカー26に搬送する。
【0049】
次いで、ストッカー26内の基板10を搬送ロボット25によってアライナー27に搬送し、アライナー27によって基板10の表面の中心位置を検出する処理を行う。この処理を行うのは、基板表面の中心位置を検出しておき、スピンコート処理を行う際に基板表面の中心位置と基板の回転中心を一致させるためである。
【0050】
この後、アライナー27内の基板10をスピンコート室28に搬送ロボット25によって搬送する。次いで、スピンコート室28内で基板10の強誘電体種結晶膜14上にスピンコートにより膜を塗布する工程を行う。
【0051】
この工程を以下に詳細に説明する。
洗浄ノズルによって基板10上に洗浄液を供給しつつ基板10を回転させる。これにより、基板10の表面が洗浄される。次に、洗浄液の供給を停止し、基板10を回転させることで、基板10上の洗浄液を除去する。
次に、滴下ノズルによって基板10上にケミカル材料を滴下しつつ基板10を回転させる。これとともに、エッヂリンスノズルによって基板10表面の端部に洗浄液を滴下する。これにより、基板10上にはセラミックス前駆体膜が塗布される。基板表面の端部に洗浄液を滴下する理由は、基板10上にスピンコートにより膜を塗布すると基板10の端部の膜厚が基板10の中央より厚く形成されるので、基板10の端部の膜を洗浄液で除去しながら塗布するためである。従って、エッヂリンスノズルを基板10の端部から中央側に少しずつ移動させることで、洗浄液を滴下する位置を基板10の端部から中央側に少しずつ移動させることが好ましい。
【0052】
次いで、スピンコート室28内の基板10を搬送ロボット25によってアニール装置29に搬送し、アニール装置29によって基板10上のセラミックス前駆体膜に乾燥処理を施す工程を行う。
この工程を以下に詳細に説明する。
排気機構によって基板10上に塗布された膜の表面上の空気を排気しながら、ホットプレートによって基板を例えば200〜250℃に加熱する。これにより、セラミックス前駆体膜中の水分等を除去する。
【0053】
この後、アニール装置29内の基板10を搬送ロボット25によってアニール装置30内に搬送し、アニール装置30内で基板10上のセラミックス前駆体膜に仮焼成を施す工程を行う。
詳細には、排気系によってアニール装置30の仮焼成処理室内を真空排気した後に、ガス導入機構によって仮焼成処理室内を真空雰囲気中または窒素雰囲気または不活性ガス雰囲気で常圧とし、ランプヒータによって基板10上のセラミックス前駆体膜を所望の温度(例えば300℃〜600℃)に加熱することで仮焼成を行う。
【0054】
この後、搬送ロボット25によってアニール装置30の仮焼成処理室内の基板10を冷却装置31に搬送し、冷却装置31内で基板10を所定の温度まで冷却する。
【0055】
この後、搬送ロボット25によって冷却装置31内の基板10をアライナー27に搬送し、アライナー27で基板10の表面の中心位置を検出する処理を行う。
【0056】
この後、搬送ロボット25によってアライナー27内の基板10をスピンコート室28に搬送する。
【0057】
この後、上述した方法と同様にスピンコート処理、乾燥処理、仮焼成処理の工程を複数回(例えば30回)繰り返すことにより、基板10の強誘電体種結晶膜14上に複数のセラミックス前駆体膜を積層して形成する。このように繰り返す回数が多いほど強誘電体種結晶膜14上に厚い膜(例えば膜厚が1μm以上)を形成することができる。この場合に図2に示す強誘電体結晶膜の製造装置を用いることにより生産性を向上させることができる。詳細には、強誘電体結晶膜の製造装置を制御部(図示せず)によって上述したように動作せることにより、スパッタ成膜処理、電子ビーム蒸着処理、スピンコート処理、乾燥処理、仮焼成処理を自動で行うことができる。このため、それぞれの処理を個別に行い、オペレータが手で基板10を搬送すると手がしびれたり処理の順序を間違えたり搬送中に基板10を落としたりすることも考えられるが、このようなことが起こらないという利点がある。従って、大量生産する際に生産性を向上させることができ、歩留りを高めることができる。
【0058】
この後、アニール装置30の仮焼成処理室内の基板10を搬送ロボット25によって加圧式ランプアニール装置32に搬送する。なお、仮焼成処理室内から加圧式ランプアニール装置32内に基板10を搬送する搬送時間が10秒以下であることが好ましい。
【0059】
このように搬送時間を短くする理由は次のとおりである。搬送時間が長くなると強誘電体結晶膜の特性に大きく影響を与える。詳細には、仮焼成後は、セラミックス前駆体膜の酸素活性が非常に高く酸素欠乏状態であるため、大気中の酸素と結合してしまい、膜の特性が劣化する。従って、搬送時間を短くすることが好ましい。
【0060】
この後、加圧式ランプアニール装置32によって基板10上の複数層のケミカル材料膜にランプアニール処理を施す工程を行う。
詳細には、強誘電体種結晶膜14及びセラミックス前駆体膜であるアモルファス膜を酸素雰囲気で加熱する。これにより、アモルファス膜を酸化して結晶化することで強誘電体塗布焼結結晶膜15を形成することができる。なお、強誘電体種結晶膜14及びアモルファス膜を加圧酸素雰囲気で加熱してもよく、好ましくは4atm以上の加圧酸素雰囲気で加熱するとよい。これにより、より単一配向性が強い強誘電体結晶膜を得ることができる。
【0061】
この後、搬送ロボット25によって加圧式ランプアニール装置32のアニール処理室内の基板10をロード/アンロード室33に搬送し、ロード/アンロード室33から基板10を装置外部へ取り出す。
【0062】
なお、本実施の形態では、シリコンウエハ11上のSrRuO膜及びPt膜などを介してアモルファス膜を形成しているが、シリコンウエハ11上の他の導電膜または絶縁膜を介してアモルファス膜を形成してもよい。
【0063】
また、上記のアモルファス膜と強誘電体種結晶膜14が完全に面接触しているため、強誘電体種結晶膜14の単一配向性の強い結晶がアモルファス膜に良好に転写され、それによってアモルファス膜に単一配向性が強い結晶が形成される。
【0064】
上記の強誘電体塗布結晶膜15は、強誘電体種結晶膜14の配向と同一の配向を有している。例えば、強誘電体種結晶膜14が(001)に配向されている場合は、強誘電体塗布結晶膜15も(001)に配向されることになり、強誘電体種結晶膜14が(111)に配向されている場合は、強誘電体塗布結晶膜15も(111)に配向されることになる。
【0065】
また、前述したように、強誘電体種結晶膜14に、Pb(Zr,Ti)O膜または(Pb,A)(Zr,Ti)O膜を用いた場合、Zr/Ti比が下記式(5)を満たすことで、強誘電体種結晶膜14が(001)に配向され易くすることができる。
52/48Zr/Ti40/60 ・・・(5)
【0066】
また、前述したように、強誘電体種結晶膜14に、Pb(Zr,Ti)O膜または(Pb,A)(Zr,Ti)O膜を用いた場合、Zr/Ti比が下記式(6)を満たすことで、強誘電体種結晶膜14が(111)に配向され易くすることができる。
60/40Zr/Ti52/48 ・・・(6)
【0067】
強誘電体種結晶膜14は、アモルファス膜を結晶化する際の初期核としての役割を果たすものである。
【0068】
強誘電体塗布焼結結晶膜15の具体例としては、Zr/Ti元素数比率が下記式(4)を満たすPb(Zr,Ti)O膜または(Pb,A)(Zr,Ti)O膜がある。Aは、Li、Na、K、Rb、Ca、Sr、Ba、Bi及びLaからなる群から選択される少なくとも1種からなるとよい。
60/40Zr/Ti40/60 ・・・(4)


【0069】
本実施の形態によれば、スピンコート塗布法を用いて作製した強誘電体塗布焼結結晶膜15であっても単一配向性または優先配向性を高くすることができる。詳細には、単一配向または優先配向し、かつ非常に良好な結晶性を有する強誘電体種結晶膜14をアモルファス膜の初期核として利用しながら酸素雰囲気で加熱して結晶化することにより、強誘電体種結晶膜14の配向と同一の配向を有する強誘電体塗布焼結結晶膜15を形成することができる。
【0070】
言い換えると、エピタキシャル成長による非常に良好な結晶性を有する強誘電体種結晶膜14の優先配向を、スピンコート塗布法を用いた強誘電体塗布焼結結晶膜15に忠実に転写することができる。その結果、単一配向または優先配向し、かつ結晶性の良い強誘電体塗布焼結結晶膜15を得ることができる。
【0071】
つまり、スパッタリング法でエピタキシャル成長させた強誘電体種結晶膜14上に成膜されたスピンコート塗布法を用いた強誘電体塗布焼結結晶膜15は、強誘電体種結晶膜14と同じ結晶構造となる。また、強誘電体塗布焼結結晶膜15を結晶構造が決められた強誘電体種結晶膜14上に成膜することによって、強誘電体塗布焼結結晶膜15の結晶構造を制御できる。
【0072】
また、スピンコート塗布法を用いる強誘電体塗布焼結結晶膜15の成膜速度は、従来技術のスパッタリング法によりエピタキシャル成長させる強誘電体結晶膜の成膜速度に比べて非常に速い。このため、強誘電体種結晶膜14上にスピンコート塗布法を用いて強誘電体塗布焼結結晶膜15を形成する本発明の一態様に係る強誘電体結晶膜の製造方法は、量産に適した成膜速度を有するものになる。
【0073】
また、本発明の一態様は、上述した強誘電体結晶膜を有する電子部品に適用することができる。
【実施例1】
【0074】
以下、本実施例について図1及び図3を参照しつつ説明する。
【0075】
4インチSiウエハ11上に電子ビーム蒸着装置によって酸化膜およびPt膜を成膜し(100)に配向した膜12を得る。
【0076】
次に、膜12上に(100)に配向した約100nmのPt膜13aをスパッタリング法により成膜する。
【0077】
次に、Pt膜13a上に(001)に配向したSrRuO膜13bをスパッタリング法により成膜する。
【0078】
次いで、このSrRuO膜13b上にスパッタリング法によりPb(Zr,Ti)O膜からなる種結晶膜14をエピタキシャル成長させる。この際のスパッタリング条件は以下のとおりである。
【0079】
[スパッタ条件]
装置 : RFマグネトロンスパッタリング装置
パワー : 1500W
ガス : Ar/O
圧力 : 0.14Pa
温度 : 600℃
成膜速度 : 0.63nm/秒
成膜時間 : 1.3分
【0080】
上記のエピタキシャル成長によって膜13b上には膜厚50nmのPb(Zr,Ti)O膜からなる種結晶膜14が形成される。この種結晶膜14は、(001)に優先配向しており、非常に良好な結晶性を有している。
【0081】
次に、PZT前駆体溶液を用意する。PZT前駆体溶液は、PZT結晶の成分金属を全て或いは一部含む金属化合物と、その部分重縮合物を有機溶媒中に含有する前駆体溶液であり、濃度が25重量%のPZT(Zr/Ti=52/48)でPbが20%過剰な溶液である。
【0082】
次に、種結晶膜14上にPZT前駆体溶液をスピンコート法により塗布することにより、この種結晶膜14上に1層目の塗布膜が重ねて形成される。詳細には、500μLのPZT前駆体溶液を種結晶膜14上に塗布し、0〜500rpmまで3secで上昇させ、500rpmで5sec保持した後、1500rpmで20sec回転後、停止させた。
【0083】
次いで、この塗布されたPZT前駆体溶液をホットプレート上で250℃に加熱しつつ30秒間保持して乾燥させ、水分を除去した後、さらに高温に保持したホットプレート上で450℃に加熱しつつ60秒間保持して仮焼成を行う。
【0084】
上記の回転塗布、乾燥、仮焼成を5回繰り返し、強誘電体材料を含む5層のPZTアモルファス膜を生成する。
【0085】
次いで、仮焼成を行った後のPZTアモルファス膜に加圧式ランプアニール装置(RTA: rapidly thermal anneal)を用いて酸素雰囲気の10atmで700℃の温度に3分間保持してアニール処理を行い、PZT結晶化を行う。この結晶化されたPZT膜は、強誘電体塗布焼結結晶膜であり、ペロブスカイト構造からなり、膜厚が1.5μmであり、ゾルゲル溶液の回転塗布から結晶化までを含めた成膜速度は2.65nm/秒であり、成膜時間は11分である。
【0086】
上記のスパッタリング法によるエピタキシャル成長によって形成された0.5μmの種結晶膜14と、スピンコート塗布法によって形成された1.5μmのPZT結晶膜15の合計の成膜時間は、24分である。この合計時間は、スピンコート塗布法の速い成膜速度によって、スパッタリング法のみで成膜する場合に比べて、短縮することができる。
【0087】
図3は、図1に示すスピンコート塗布法によって形成されたPZT結晶膜15をXRD回折で結晶性を評価した結果を示す図である。PZT結晶膜の組成比は、Zr/Ti=52/48である。
図3に示すように、スピンコート塗布法によって形成したPZT結晶膜15であっても、(001)に優先配向しており、非常に良好な結晶性を有することが確認された。
【0088】
なお、本明細書において、前駆体溶液には、ゾルゲル溶液、MOD(金属有機化合物分解法)溶液、及びゾルゲル溶液とMOD溶液の混合溶液のいずれかを意味する。
【0089】
以下に詳細に説明する。
ゾルゲル溶液は、金属アルコキシド等を加水分解、重合させ、コロイド状にしたものをアルコール等の有機溶媒溶液中に分散させたものである。主成分そのものがセラミックスの前駆体を形成している溶液を特にゾルゲル溶液と言う。
一方で、金属の有機酸塩を有機溶剤に溶解した溶液を一般にMOD溶液と呼ぶ。一般に、酢酸、オクチル酸、ヘキサン酸、吉草酸、カルボン酸、酪酸、トリフルオロ酸等が有機酸として用いられる。
また本発明の一態様のように、ゾルゲル溶液及びMOD溶液を混合して用いる場合も多く、その場合、主成分がどちらか等で呼び名が決定されている。
既述のように、本発明の一態様の場合、両者の混合からなる溶液を用いているが、大半がアルコキシドの重縮合物(セラミックスの前駆体)からなっていることから、成分金属を全て或いは一部含む金属化合物と、その部分重縮合物(前駆体)を有機溶媒中に含有する溶液のことを前駆体溶液と呼んでいる。
【実施例2】
【0090】
以下、本実施例について説明する。本実施例による強誘電体結晶膜は、図2に示す複合成膜装置を用いて成膜した。
【0091】
4インチSiウエハ上に実施例1と同じ手法で強誘電体種結晶膜をエピタキシャル成長させる。このようにして形成された膜厚50nmの強誘電体種結晶膜は、(001)に単一配向しており、非常に良好な結晶性を有している。
【0092】
次に、強誘電体種結晶膜上にスピンコート塗布及び結晶化により総膜厚3.5μmのPZT厚膜からなる強誘電体塗布焼結結晶膜を下記の条件によって重ねて形成する。これにより、第1層から第3層の3種類の異なる組成の膜から構成される強誘電体塗布焼結結晶膜のサンプルが作製される。
【0093】
[溶液塗布条件]
・使用溶液の組成比
第1層 : Pb/Bi/Zr/Ti/Nb=103/12/53/47/0
第2層 : Pb/Bi/Zr/Ti/Nb=103/0/53/47/0
第3層 : Pb/Bi/Zr/Ti/Nb=103/12/47/41/12
・塗布回数
第1層 : 3回
第2層 : 6回
第3層 : 1回
・膜厚
第1層 : 900nm
第2層 : 1800nm
第3層 : 300nm
・総処理時間(min)
第1層 : スピン 7.5 + RTA 2
第2層 : スピン 15 + RTA 10
第3層 : スピン 2.5 + RTA 3
・1回の塗布時間
第1層〜第3層 : 回転塗布1min+乾燥(ホットプレート250℃)0.5min+仮焼成(ホットプレート450℃)1min=2.5min
【0094】
[結晶化条件]
第1層 : RTAの昇温速度100℃/sec,O圧力1atm,温度600℃,焼成時間1min
第2層 : RTAの昇温速度100℃/sec,O圧力5atm,温度600℃,焼成時間10min
第3層 : RTAの昇温速度100℃/sec,O圧力10atm,温度650℃,焼成時間3min
【0095】
[総処理時間]
第1層 : 9.5min
第2層 : 25min
第3層 : 5.5min
【0096】
本実施例によれば、強誘電体種結晶膜が初期核として存在するため、強誘電体塗布焼結結晶膜の結晶化温度を比較的低い600℃程度とすることができる。
【0097】
また、溶液塗布法の場合、溶液として原料が用意できれば塗布は可能である。本実施例は、過剰Pbを3%とし、代わりに添加剤として対Pb相対濃度12%のBiを添加した。なお、スパッタリング法の場合、焼結体でないとスパッタリングターゲットを用意できないという課題は溶液にはない。
【0098】
また、PZT膜の形成には、原料溶液中に10%以上の過剰なPbを必要とすることが通常であるが、本実施例により最終的に得られた強誘電体塗布焼結結晶膜であるPZT膜の総膜厚に対する鉛過剰量は6%以下である。
【0099】
図4は、実施例2のサンプル断面を示すFIB−SEM像である。最上部膜の組成比は、Zr/Ti/Nb=51/45/4である。図4により、最上部に上記組成のPZTN薄膜のキャップ層を持つ緻密で平滑な高品質なPZT膜が得られたことを確認できた。
【0100】
図5は、実施例2をXRD回折で結晶性を評価した結果を示す図である。図6は、強誘電体種結晶膜が無い点以外は実施例2と同一条件で作製した従来の強誘電体塗布焼結結晶膜をXRD回折で結晶性を評価した結果を示す図である。
【0101】
図5図6のXRDパターンを比較すると、図6の従来の強誘電体塗布焼結結晶膜では、溶液塗布条件を同一にしても図6のようなXRDパターンしか得られず、ピーク強度が図5の本実施例のものに比べて1/1000以下となり、(001)配向成分が一番多いものの単一配向性は示さないことが確認された。
【0102】
図5によれば、良好な(001)単一配向のエピタキシャル膜が得られたことが確認できる。
【0103】
図7は、実施例2のヒステリシス評価を行った結果を示す図である。
図7のPE−ヒステリシスループによれば、非常に角形の良いヒステリシス特性が得られ、残留分極値がPr=〜28μmC/cmであり、抗電圧Vc=〜15Vであることが確認された。
【0104】
図8は、実施例2のリーク電流密度を測定した結果を示す図である。
図8によれば、非常に耐圧の高いリーク電流密度特性を示し、破壊電圧が135Vであることが確認された。
【0105】
図9は、実施例2の比誘電率を下記の測定条件で測定した結果を示す図であり、C-Vカーブ評価によりキャパシタンス値を誘電率に換算したものである。
[測定条件]
周波数 : 1kHz
Level : 1V
Bias : 0〜100V
【0106】
図9によれば、実施例2の比誘電率εが1200という非常に大きな数値を示すことが確認された。
【0107】
図10は、実施例2の圧電特性d31を評価した結果を示す図である。
【0108】
ここでは、簡易的に室温下0〜120V、5Vステップ、各1secの電圧を加え、各印加時のd31変位を測定したものである。
一般的に圧電体のポーリングには温度、電圧、時間のパラメータにより、最適化することで、より高いd31定数を得ることが出来ている。ここでは評価の効率のために簡易的なポーリング条件による評価とした。
この様な条件下においてd31>80pm/Vの圧電特性を得たのは、良好と言える。
【実施例3】
【0109】
成膜装置にDCスパッタリング装置を用いて、5nm−TiOx/Si(100)基板上にPt下部電極を作製した。この際のスパッタ条件は下記のとおりである。
基板温度 : 600℃
成長圧力 : 0.3Pa
DC Power : 200W
スパッタガス : Ar
成膜時間 : 4min
【0110】
上記の成膜したPt下部電極は(111)にのみ強く配向した膜であり、これは、Ptの強い自己配向性のためである。
【0111】
この後、このPt下部電極上にスパッタリング法によりPb(Zr,Ti)O膜からなる種結晶膜をエピタキシャル成長させる。この際のスパッタリング条件は以下のとおりである。
【0112】
[スパッタ条件]
装置 : RFマグネトロンスパッタリング装置
パワー : 1500W
ガス : Ar/O
圧力 : 0.14Pa
温度 : 600℃
成膜速度 : 0.63nm/秒
成膜時間 : 1.3分
【0113】
上記のエピタキシャル成長によってPt下部電極上には膜厚50nmのPb(Zr,Ti)O膜からなる種結晶膜が形成される。この種結晶膜は、(111)に優先配向しており、非常に良好な結晶性を有している。
【0114】
次に、PZT前駆体溶液を用意する。PZT前駆体溶液は、PZT結晶の成分金属を全て或いは一部含む金属化合物と、その部分重縮合物を有機溶媒中に含有する前駆体溶液であり、濃度が25重量%のPZT(Zr/Ti=50/50)でPbが20%過剰な溶液である。
【0115】
次に、種結晶膜上にPZT前駆体溶液をスピンコート法により塗布することにより、この種結晶膜上に1層目の塗布膜が重ねて形成される。詳細には、500μLのPZT前駆体溶液を種結晶膜上に塗布し、0〜500rpmまで3secで上昇させ、500rpmで5sec保持した後、1500rpmで20sec回転後、停止させた。
【0116】
次いで、この塗布されたPZT前駆体溶液をホットプレート上で250℃に加熱しつつ30秒間保持して乾燥させ、水分を除去した後、さらに高温に保持したホットプレート上で450℃に加熱しつつ60秒間保持して仮焼成を行う。
【0117】
上記の回転塗布、乾燥、仮焼成を5回繰り返し、強誘電体材料を含む5層のPZTアモルファス膜を生成する。
【0118】
次いで、仮焼成を行った後のPZTアモルファス膜に加圧式ランプアニール装置を用いて酸素雰囲気の10atmで700℃の温度に3分間保持してアニール処理を行い、PZT結晶化を行う。この結晶化されたPZT強誘電体結晶膜は、強誘電体塗布焼結結晶膜であり、ペロブスカイト構造からなり、膜厚が1.5μmである。
【0119】
図11は、上記のPZT強誘電体結晶膜をXRD回折で結晶性を評価した結果であるXRDパターンを示す図である。図11に示すように、PZT強誘電体結晶膜は(111)に優先配向しており、非常に良好な結晶性を有することが確認された。
【0120】
上記のPZT強誘電体結晶膜の組成を調べたところ、Pb/Zr/Ti=1.000/0.443/0.443であった。つまりPb/Zr/Ti=1.14/0.5/0.5であり、膜組成は、殆ど塗布溶液(PZT前駆体溶液)の組成で決まっていることが分かった。
【符号の説明】
【0121】
10 基板
11 シリコンウエハ
12 膜
13a Pt膜
13b SrRuO
14 強誘電体種結晶膜
15 強誘電体塗布焼結結晶膜
16 ストッカー
17 搬送室
18 搬送ロボット
19 第2のスパッタリング装置
20 第1のスパッタリング装置
21 電子ビーム蒸着装置
22 第3のスパッタリング装置
23 ロード/アンロード室
24 受渡室
25 搬送ロボット
26 ストッカー
27 アライナー
28 スピンコート室
29 アニール装置
30 アニール装置
31 冷却装置
32 加圧式ランプアニール装置
33 ロード/アンロード室
101 基板
102 Pt
103 PZT結晶膜
図1
図2
図3
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図4