特許第5930855号(P5930855)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5930855
(24)【登録日】2016年5月13日
(45)【発行日】2016年6月8日
(54)【発明の名称】植物栽培槽
(51)【国際特許分類】
   A01G 9/02 20060101AFI20160526BHJP
【FI】
   A01G9/02 103U
   A01G9/02 103G
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-129234(P2012-129234)
(22)【出願日】2012年6月6日
(65)【公開番号】特開2013-252088(P2013-252088A)
(43)【公開日】2013年12月19日
【審査請求日】2015年5月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】508171893
【氏名又は名称】小 林 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100063185
【弁理士】
【氏名又は名称】若林 擴
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】特許業務法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 洋
【審査官】 本村 眞也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−157064(JP,A)
【文献】 実開平02−092758(JP,U)
【文献】 実開平02−111252(JP,U)
【文献】 特開2006−304629(JP,A)
【文献】 特開2008−074431(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 9/00−9/10
B65D 5/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
段ボール板を組み立て、上面を開放し、底部に孔部を設けた箱体から成り、該箱体の4つの側面板の上辺にこれらの側面板よりも高さの高い斜面板をそれぞれ上方に向けて延在し、これらの斜面板を前記箱体の内側に先端が前記箱体の底部に至るまでそれぞれ傾斜するように折曲することにより、前記箱体の内部に土壌を入れるための逆台形状の凹部を形成し、前記箱体の全周に対し防水対策を施したことを特徴とする植物栽培槽。
【請求項2】
前記防水対策として、前記箱体の全周を合成樹脂シートにより覆うことを特徴とする請求項1に記載の植物栽培槽。
【請求項3】
前記側面板と前記斜面板と底面板とにより空間部を形成したことを特徴とする請求項1又は2に記載の植物栽培槽。
【請求項4】
前記底部に設けた孔部の周囲を前記合成樹脂シートにより密封し、前記合成樹脂シートによる排水用の孔を形成したことを特徴とする請求項2に記載の植物栽培槽。
【請求項5】
前記段ボール板の波状部の方向は前記側面板、斜面板の高さ方向としたことを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の植物栽培槽。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、野菜、果物等の植物を栽培し運搬可能な植物栽培槽に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、野菜や果物を栽培するには、大きく分けて露地栽培と、例えばビニールハウス、ガラスハウス等の栽培室を用いた温室栽培により栽培されている。露地栽培においては、地面に直接、苗を植えたり、種を播くことにより野菜や果物を栽培している。
【0003】
これに対してビニールハウス等の温室栽培では、温度や水量を制御する必要のある植物や、出荷時期をずらしたり、天候不順等のリスクを回避して栽培する場合に行われている。この温室栽培においても、一般には栽培室内の地面に直接、苗を植えたり、種を播くことにより野菜や果物を栽培している。
【0004】
しかし、温室栽培をする場合においても、必ずしも植物の発芽時期、育成時期、収穫時期の全ての過程において、栽培室内で行う必要がない場合もある。
【0005】
例えば、発芽・幼苗の時期のみ栽培室内で栽培すればよい植物、収穫期までを栽培室内で栽培すればよい植物、開花時期のみ栽培室内で管理すればよい植物、冬季のみ栽培室内で管理すればよい植物もある。
【0006】
ビニールハウス、ガラスハウス内における温室栽培でも、直接、地面で栽培すると、少なくとも植え付けから収穫までの長い期間、栽培室内を1種の植物で占有してしまう。
【0007】
農家は収穫を行って初めて収入となるため、栽培室の内外に運搬可能な栽培槽を用いて栽培することにより、栽培室内での管理が不要な時期には、栽培室外に搬出して管理し、その空いた栽培室内で他の植物を栽培することも行われている。
【0008】
栽培室の内外に運搬可能なものとして、合成樹脂製のプランタが広く知られており、特許文献1においては、植物を栽培する植物栽培槽として段ボール製のプランタが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002−223641号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、通常の植物栽培槽を用いた栽培法は、地面に直接、植えて栽培している栽培法と比較すると、土壌の量が限られて、また土壌表面以外の栽培槽の側面にも日光が当たる。従って、周囲の温度や直射日光の影響を受け易く、土壌の温度が高温になり過ぎたり、冷え過ぎたりすると云う問題を有している。
【0011】
また、特許文献1による段ボール製のプランタも、安価、軽量ではあるが、植物の育成においては、土壌温度も大きく影響を及ぼし、この土壌温度によっては、根が焼けて枯れてしまったり、生育不良となることもある。
【0012】
本発明の目的は、上述の問題点を解消し、土壌の温度が高温になり過ぎず、また冷え過ぎない保温効果を有し、段ボール板を用いた安価で軽量で扱い易い植物栽培槽を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するための本発明に係る植物栽培槽は、段ボール板を組み立て、上面を開放し、底部に孔部を設けた箱体から成り、該箱体の4つの側面板の上辺にこれらの側面板よりも高さの高い斜面板をそれぞれ上方に向けて延在し、これらの斜面板を前記箱体の内側に先端が前記箱体の底部に至るまでそれぞれ傾斜するように折曲することにより、前記箱体の内部に土壌を入れるための逆台形状の凹部を形成し、前記箱体の全周に対し防水対策を施したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る植物栽培槽は、段ボール板の保温効果により、土壌温度が急激に変化することを防止し、安価で使い捨てが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】組立前の段ボール板の展開図である。
図2】組み立てた箱体の斜視図である。
図3】平面図である。
図4図3のA−A線に沿った断面図である。
図5図3のB−B線に沿った断面図である。
図6】合成樹脂シートにより覆った状態の植物栽培槽の斜視図である。
図7】底面の孔の断面図である。
図8】植物栽培槽を載置する架台の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明を図示の実施例に基づいて詳細に説明する。
図1は植物栽培槽として使用する箱体1の組立前の段ボール板2の展開平面図を示している。この箱体1の素材は段ボール板2とされ、段ボール板2には箱体1に組立てるために所定の形状に切断され、点線で示す谷折り線が形成されている。
【0017】
段ボール板2は4つの側面板2a〜2dが横方向に連接され、各側面板2a〜2dの下辺にはそれぞれ底面板2e〜2hが延在されている。また、各側面板2a〜2dの上辺にはそれぞれ斜面板2i〜2lが上方に向けて延在され、斜面板2i〜2lの高さは側面板2a〜2dの高さよりも大きくされている。更に、底面板2e、2gにはそれぞれ例えば3個ずつの直径3cm程度の孔部2mが設けられている。
【0018】
側面板2aには組立時に隣接する側面板2dに接着するための接着片2nが付設され、斜面板2i〜2lには、組立時に隣接する斜面板2i〜2lに係止する係止片2o〜2vが付設されている。
【0019】
なお、段ボール板2は波型形状の紙を上下の別体の紙で挟んでいることから、段ボール板2の断面は波状部を有しており、この波状部の向きが側面板2a〜2d、斜面板2i〜2lの高さ方向とすることが、箱体1の強度が増すために好ましい。
【0020】
箱体1を商品として流通させる際には、製造業者は側面板2aと2dとを接着片2nを用いて接着剤により接着し、側面板2a〜2dを連結したループ状にし、折り畳んだ状態で出荷する。
【0021】
使用者はこの折り畳んである状態の段ボール板を図1の点線に示す谷折り線に沿って折り曲げ、図2図5に示すように箱体1の形状に組立てる。
【0022】
図2は組立てた状態の箱体1の斜視図を示し、箱体1の外形は上面が開放された直方体形状であり、例えば外形の長辺が約60cm、短辺が約30cm、深さが約15cmである。図3は平面図、図4図3のA−A線に沿った断面図、図5はB−B線に沿った断面図を示している。なお、箱体1は立方体であってもよいことは勿論である。
【0023】
箱体1に組み立てる際には、折り畳まれた段ボール板のループ状に連結された側面板2a〜2dを四角形に拡げ、底面板2e〜2hを折曲して、底面板2e〜2h同士を突き合わせ又は重ねて底面を形成し、この突き合わせ部に接着テープを貼付して保形する。
【0024】
次に、側面板2a〜2dの上辺から斜面板2i〜2lをその先端が底面板2e〜2hに至るまでそれぞれ内側に折り返して斜めに傾斜させる。これにより、箱体1の内側は斜面板2i〜2l、底面板2e〜2hにより逆台形状の凹部S1とされている。この組立の過程で、係止片2o〜2vは斜面板2i〜2l間に折り込まれて、斜面板2i〜2l同士を係止し、箱体1の形状が保持される。なお、底面には計6個の孔部2mが位置している。
【0025】
この箱体1は上述のように段ボール板2を組み立てることにより形成しているため、実際に凹部S1に土壌を入れるに際しては、段ボール板2に対して防水対策を施す必要がある。例えば、開口部を有するポリエチレン等の防水性を有する袋状とした樹脂シート袋3に箱体1を挿入した後に、樹脂シート袋3を箱体1の外形に密着させてから開口部をテープ等で封止する。これにより、図6に示すような全周が樹脂シート袋3により覆われた植物栽培槽4が得られる。
【0026】
その後に、底面板2e、2gの孔部2mが位置する樹脂シート袋3の部分を、ヒートガン等で加熱することにより、図7に示すように孔部2mの両側の樹脂シート袋3が溶けて結合する。これにより、両側の樹脂シート袋3同士が連結し、底面板2e、2gに対し密封された例えば直径1.5cm程度の排水用の孔3aが形成される。
【0027】
このように、樹脂シート袋3による密閉により防水処理を行うことで、箱体1には外部から水が浸入することはなくなる。
【0028】
なお、樹脂シート袋3の色は比較的涼しい土壌温度を好む植物の場合には熱を吸収し難い白色系、暖かい土壌温度を好む植物の場合には熱を吸収し易い黒色系とすることが好適である。
【0029】
このような植物栽培槽4に対し、4面の斜面板2i〜2lに囲まれた逆台形状の凹部S1に土壌を充填して、野菜や果実等を栽培する。なお、土壌を充填する前に、孔3aから土壌が流出することを防止するために、例えば合成樹脂製のネットを底面上に敷くことが好ましい。
【0030】
土壌に潅水した水分のうち、余分な水分は斜面板2i〜2l、孔3aを介して植物栽培槽4外に排出されるため水はけが良い。
【0031】
また、植物栽培槽4は、側面板2a〜2d、底面板2e〜2h、斜面板2i〜2lにより囲まれ、更に樹脂シート袋3により覆われた4つのほぼ密閉された空間部S2を備えており、周囲の温度が上昇したり、側面板2a〜2dに直射日光が照射されると空間部S2内の空気が暖められる。このとき、空間部S2内には外部からの空気が直接入り込むことはなく、例えば周囲温度が上昇すると側面板2a〜2dに加えられた熱が、空間部S2内に存在する空気に熱伝導により伝達して空間部S2内が徐々に暖まる。
【0032】
しかし、空気の熱伝導率は低いため、空間部S2に相当する空間を有しない従来の単なる合成樹脂製のプランタや特許文献1の段ボール板製のプランタと比較すると、空間部S2内の空気が断熱材の役割を果たすので、土壌への急激な熱伝導は少ない。植物栽培槽4の上部から土壌に外気の熱が直接伝熱することは避けられないが、側面板2a〜2dにより暖まった空間部S2内の空気は、斜面板2i〜2lを介して徐々に土壌に伝達されることになる。
【0033】
また、逆に夜になって周囲の空気温度が低下した際には、この空間部S2内の空気が保温材の役割を果たすので、土壌の熱が斜面板2i〜2l、側面板2a〜2d介して外部に熱が伝導し難くなる。このように、空間部S2による断熱、保温作用により、土壌の急激な温度変化を制御するので、植物の根への悪影響をより低減でき、植物の良好な育成を促すことができる。
【0034】
また、本実施例における植物栽培槽4は段ボール板2及び樹脂シート袋3から構成されているため、安価で軽量であることから、栽培する野菜、果物の特性に合わせて、頻繁にビニールハウスやガラスハウス等の栽培室への搬入、栽培室から搬出することができる。また、場合によっては調理場までそのまま運搬可能となる。
【0035】
これにより、栽培する植物にとって最適な時期及び状態で植物栽培槽4を栽培室に搬入、搬出することができ、また同時に複数種の植物を容易に栽培することも可能となり、収益を向上させることができる。更に、植物栽培槽4を持ち上げたりする際に、合成樹脂製の植物栽培槽と比較すると柔軟性を有する感触があり、運搬等の作業も楽に行うことができる。
【0036】
また、この植物栽培槽4の使用は農家のみでなく、一般家庭におけるベランダ、ガーデニングにおける野菜や花の栽培にも適用できる。
【0037】
なお本実施例において、植物栽培槽4は樹脂シート袋3により覆うことにより防水性を得ているが、樹脂シート袋3の代りに箱体1の外面に防水シートを貼り合わせたり、防水剤等を塗布することにより防水対策を施すこともできる。
【0038】
また、この植物栽培槽4の使用が終わった場合には、樹脂シート袋3を破って箱体1を取り出して、そのまま廃棄しても自然分解するので環境への悪影響もない。
【0039】
図8は栽培室内でこの植物栽培槽4を使用して、植物を栽培する際に好適に使用することができる架台の構成図である。栽培室内に段ボール板から成り、内部空間が大きな複数の筐体11を並べ、これらの筐体11上に2本の合成樹脂発泡材による軽量な柱状体12を平行に載置し、これらの上をビニールシート13により覆っている。
【0040】
このような架台の上に、植物栽培槽4を底部の孔3aが2本の柱状体12間に位置するよう並べる。これにより、孔3aを介して植物栽培槽4から流出した水は、柱状体12間に落下し、ビニールシート13上を流れ出すので、複数の植物栽培槽4からの水を1個所にまとめて排水をすることができる。
【0041】
また、筐体11は内部空間が大きく、栽培室内を暖房する場合に、多数の筐体11を使用すると、栽培室内はこれらの筐体11の容積分だけ熱負荷が小さくなるので、徐々に筐体11内の温度が上昇するとしても、暖房費等を節約することができる。また、柱状体12間も断熱、保温効果を有する空間として機能する。
【0042】
また、栽培中の植物栽培槽4を架台の上に載置することにより、設備費が安価となる上に、地面からの湿気を防止できる。植物栽培槽4は柱状体12上を滑らせて移動することにより、植物栽培槽4を栽培室の内外への運搬が容易で、栽培室内での作業を中腰の姿勢で行うこともなくなり、疲労も少ない。
【符号の説明】
【0043】
1 箱体
2 段ボール板
2a〜2d 側面板
2e〜2h 底面板
2i〜2l 斜面板
2m 孔部
2n 接着片
2o〜2v 係止片
3 樹脂シート袋
3a 孔
4 植物栽培槽
11 筐体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8