【実施例1】
【0021】
第1実施例を、
図1〜
図7B、
図15、及び、数式(1)〜(28)を用いて説明する。第1実施例は、相対位置を固定した2つの3DUTセンサを用いて3DUTを行うものである。
【0022】
先ず、
図15に本実施例において用いられる3DUTセンサの構成図を示す。この3DUTセンサは他の実施例でも同じものが用いられている。本実施例で用いられる超音波探傷センサ1は、例えば、特許文献1などに記載されたものと同様であり、直方体の超音波素子31を2方向に配列し、保護ケース34に収納したものである。超音波センサ1を構成する個々の超音波素子31は、検査対象に対面する底面に設けられた電極32と、各超音波素子31の上面に設けられた電極32Bに電圧を印加する信号線(図示せず)と、電極32B上に設けられ、発振した超音波のエネルギーを吸収するダンパー33を備えている。ダンパー33は、超音波発振時の残振を減らしてS/N比を向上させる。
【0023】
本実施例の超音波探傷方法では、上述の構成を有する2つの3DUTセンサ1a、1bを、
図3に示すように、センサ固定ジグ3を用いて相対位置を固定し、そして、検査対象4上に設置して3DUTを行うようにしている。このセンサ固定ジグ3は、
図3の上面図に示すように、検査対象の2つの角部5と一致する形状としている。また、検査対象の2つの直方体の空洞6が基準形状信号発生源となる。
【0024】
本実施例では、センサ固定ジグ3の形状を検査対象の形状の一部と合致させることにより、センサ設置位置の誤差を低減している。即ち、このように設置することにより、センサを適正な位置に設置しやすくなる。
【0025】
本実施例の超音波探傷方法における走査方法を説明する。
図3の左側面図は、この設置状況における検査対象の左側面からみたセンサ1a(センサNo.1)の超音波走査状況を示すもので、屈折角を走査するセクタ走査を実施している。
図3の右側面図は、検査対象の右側面からみたセンサ1b(センサNo.2)の超音波走査状況を示すもので、センサNo.1と同様にセクタ走査を実施している。そして、
図3の上面図に示すとおり、センサNo.1、センサNo.2ともセクタ走査を回転走査し、超音波を3次元走査する。
【0026】
次に、センサ設置位置が適正位置からずれたときの、形状信号発生源までの超音波伝播距離とセクタ走査面の回転角の変化を説明する。
図4A〜
図4Bは、本発明の第1実施例におけるセンサ設置角度・位置の回転角・探傷距離への影響の説明する図である。
【0027】
図4Aは適正位置にセンサを設置した場合の上面図で、検査対象右端の形状信号が検出されるセンサNo.1の回転角θ1と超音波伝播距離L1、検査対象左端の形状信号が検出されるセンサNo.2の回転角θ2と超音波伝播距離L2は数式(1)〜(4)で記述される。これらの回転角θ1、超音波伝播距離L1、回転角θ2、超音波伝播距離L2は、事前に適性位置において超音波探傷を行うことにより求めておくか、センサ固定ジグ3とセンサ1a、1bとの位置関係や、適性位置における検査対象4の形状信号発生源との位置関係から計算して求めておく。
【0028】
θ1=90+φ1−tan
-1((sy1−y02)÷(x0−sx1)) 数式(1)
θ2=90+φ2−tan
-1((sy2−y01)÷(sx2)) 数式(2)
L1=√{(x0−sx1)
2+(sy1−y02)
2+(h)
2} 数式(3)
L2=√{(sx2)
2+(sy2−y01)
2+(h)
2} 数式(4)
ここで、
x0 :検査対象の幅 [m]
y01:検査対象左端の形状信号発生源のy座標 [m]
y02:検査対象右端の形状信号発生源のy座標 [m]
sx1:センサNo.1の超音波走査中心点のx座標 [m]
sy1:センサNo.1の超音波走査中心点のy座標 [m]
φ1 :センサNo.1と検査対象幅方向のなす角度 [°]
sx2:センサNo.2の超音波走査中心点のx座標 [m]
sy2:センサNo.2の超音波走査中心点のy座標 [m]
φ2 :センサNo.2と検査対象幅方向のなす角度 [°]
h :図面と垂線方向の検査対象の厚さ [m]
を表す。また、sx1、sx2は適正位置における検査対象左端を基準とした距離であり、sy1、sy2は適正位置におけるセンサ固定ジグ下端を基準とした距離である。また、図中、y1はセンサ固定ジグのy方向幅[m]を示す。
【0029】
図4Bにセンサ固定ジグ3がα°回転した場合を示す。このときのセンサNo.1の超音波走査中心点の検査対象左端からの距離sx1’、センサNo.1の超音波走査中心点の適正位置におけるセンサ固定ジグ下端からの距離sy1’、センサNo.2の超音波走査中心点の検査対象左端からの距離sx2’、センサNo.2の超音波走査中心点の適正位置におけるセンサ固定ジグ下端からの距離sy2’は数式(5)〜(8)で記述される。
【0030】
sx1’=cos(α)×sx1−sin(α)×sy1 数式(5)
sy1’=sin(α)×sx1+cos(α)×sy1 数式(6)
sx2’=cos(α)×sx2−sin(α)×sy2 数式(7)
sy2’=sin(α)×sx2+cos(α)×sy2 数式(8)
これらのsx1’、sy1’、sx2’、sy2’を使って、角度変化後のセンサNo.1の回転角θ1’と超音波伝播距離L1’、角度変化後のセンサNo.2の回転角θ2’と超音波伝播距離L2’は数式(9)〜(12)で記述される。
【0031】
θ1’=90+φ1−tan
-1((sy1’−y02)÷(x0−sx1’)) 数式(9)
θ2’=90+φ2−tan
-1((sy2’−y01)÷(sx2’)) 数式(10)
L1’=√{(x0−sx1’)
2+(sy1’−y02)
2+(h)
2} 数式(11)
L2’=√{(sx2’)
2+(sy2’−y01)
2+(h)
2} 数式(12)
適正位置の回転角度及び超音波伝播距離と、実際に測定された回転角度及び超音波伝播距離との偏差は、
α>0の場合、
θ1’−θ1>0、L1’−L1>0
θ2’−θ2<0、L2’−L2>0
となり、
α<0の場合、
θ1’−θ1<0、L1’−L1<0
θ2’−θ2>0、L2’−L2<0
となる。適正位置の回転角度及び超音波伝播距離と、実際に測定された回転角度及び超音波伝播距離との偏差の正負からセンサの回転方向が判る。また、数式(1)〜(12)の関係に基づき、この偏差の絶対値からセンサ設置位置の誤差量が許容可能か否かを判別することが可能であり、許容範囲を超える場合には偏差の大小関係から設置角度の修正方向が判る。また、超音波の波長が空間分解能となるのでそれ以上の距離精度は得られないため、センサ設置位置の許容範囲の最小値は超音波の波長となる。また、センサ設置位置の誤差の許容値は、超音波探傷装置に対して要求される検出精度を考慮して適宜設定される。
【0032】
図4Cにセンサ固定ジグ3が(dx、dy)ずれた場合(角度変化しないで平行移動した場合)を示す。このときのセンサNo.1の超音波走査中心点の検査対象左端からの距離sx1’’、センサNo.1の超音波走査中心点の適正位置におけるセンサ固定ジグ下端からの距離sy1’’、センサNo.2の超音波走査中心点の検査対象左端からの距離sx2’’、センサNo.2の超音波走査中心点の適正位置におけるセンサ固定ジグ下端からの距離sy2’’は数式(13)〜(16)で記述される。
【0033】
sx1’’=sx1+dx 数式(13)
sy1’’=sy1+dy 数式(14)
sx2’’=sx2+dx 数式(15)
sy2’’=sy2+dy 数式(16)
これらのsx1’’、sy1’’、sx2’’、sy2’’を用いて、平行移動後のセンサNo.1の回転角θ1’’と超音波伝播距離L1’’、平行移動後のセンサNo.2の回転角θ2’’と超音波伝播距離L2’’は数式(17)〜(20)で記述される。
【0034】
θ1’’=90+φ1−tan
-1((sy1’’−y02)÷(x0−sx1’’)) 数式(17)
θ2’’=90+φ2−tan
-1((sy2’’−y01)÷(sx2’’)) 数式(18)
L1’’=√{(x0−sx1’’)
2+(sy1’’−y02)
2+(h)
2} 数式(19)
L2’’=√{(sx2’’)
2+(sy2’’−y01)
2+(h)
2} 数式(20)
図4Dにセンサ固定ジグ3が(dx、dy)ずれてα°回転した場合を示す。このときのセンサNo.1の超音波走査中心点の検査対象左端からの距離sx1’’’、センサNo.1の超音波走査中心点の適正位置におけるセンサ固定ジグ下端からの距離sy1’’’、センサNo.2の超音波走査中心点の検査対象左端からの距離sx2’’’、センサNo.2の超音波走査中心点の適正位置におけるセンサ固定ジグ下端からの距離sy2’’’は数式(21)〜(24)で記述される。
【0035】
sx1’’’=cos(α)×(sx1+dx)−sin(α)×(sy1+dy) 数式(21)
sy1’’’=sin(α)×(sx1+dx)+cos(α)×(sy1+dy) 数式(22)
sx2’’’=cos(α)×(sx2+dx)−sin(α)×(sy2+dy) 数式(23)
sy2’’’=−sin(α)×(sx2+dx)+cos(α)×(sy2+dy) 数式(24)
これらのsx1’’’、sy1’’’、sx2’’’、sy2’’’を用いて、平行・回転移動後のセンサNo.1の回転角θ1’’’と超音波伝播距離L1’’’、角度変化後のセンサNo.2の回転角θ2’’’と超音波伝播距離L2’’’は数式(25)〜(28)で記述される。
【0036】
θ1’’’=90+φ1−tan
-1((sy1’’’−y02)÷(x0−sx1’’’)) 数式(25)
θ2’’’=90+φ2−tan
-1((sy2’’’−y01)÷(sx2’’’)) 数式(26)
L1’’’=√{(x0−sx1’’’)
2+(sy1’’’−y02)
2+(h)
2} 数式(27)
L2’’’=√{(sx2’’’)
2+(sy2’’’−y01)
2+(h)
2} 数式(28)
ここで、不明な変数はdx、dy、αの3つであるのに対して、それらの関係を記述する数式は25〜28の4つあるため、それらの数式に基づきdx、dy、αを評価可能である。
【0037】
この評価の具体例として、
sx1=30mm、sy1=20mm、φ1=45°、sx2=70mm、sy2=20mm、φ2=45°、y01=−50mm、y02=−50mm、x0=100mm、h=50mmの場合の、
−5mm<dx<5mm、
−5mm<dy<5mm、
−10°<α<10° における、
dL1≡L1#−L1、
dθ1≡θ1#−θ1、
dL2≡L2#−L2、
dθ2≡θ2#−θ2 を評価した。
【0038】
ここで、
L1#:角度・位置変化後のセンサNo.1から形状信号源への超音波伝播距離
θ1#:角度・位置変化後のセンサNo.1での形状信号検出回転角度
L2#:角度・位置変化後のセンサNo.2から形状信号源への超音波伝播距離
θ2#:角度・位置変化後のセンサNo.2での形状信号検出回転角度
を表す。
【0039】
図5Aにセンサ設置角度αを変化させたときの形状信号が検出されるセクタ走査面の回転角度の偏差dθの変化を示し、
図5Bにセンサ設置角度αを変化させたときの形状信号源への超音波伝播距離の偏差dLの変化を示す。図中の実線はセンサNo.1、破線はセンサNo.2の変化量を表す。数式(5)〜(12)の説明で述べたとおり、
α>0の場合、
θ1’−θ1<0、L1’−L1>0
θ2’−θ2>0、L2’−L2>0
となり、
α<0の場合、
θ1’−θ1>0、L1’−L1<0
θ2’−θ2<0、L2’−L2<0
となる。従って、適正位置の回転角度及び超音波伝播距離と、実際に測定された回転角度及び超音波伝播距離の偏差の正負からセンサの回転方向が判る。また、dL1、dθ1、dL2、dθ2の値、あるいは数式(1)〜(20)から許容可能な偏差か否かを判別することが可能である。
【0040】
図6Aにdyを変化させたときの形状信号が検出されるセクタ走査面の回転角度の偏差dθ1の変化を示し、
図6Bにdyを変化させたときの形状信号源への超音波伝播距離の偏差dL1の変化を示す。図中の破線はdx=5、1点破線はdx=−5における値を表す。
【0041】
また、dθ1とdθ2、dL1とdL2はdxに対して奇対称に変化するため、
dθ1(dx=5)=dθ2(dx=−5)、
dL1(dx=5)=dL2(dx=−5)、
となる。
【0042】
この場合、dL1とdL2、dθ1とdθ2の大小関係から、センサのずれている方向は以下のように評価される。
dL1>dL2の場合、dx<0
dL1<dL2の場合、dx>0
dθ1>dθ2>0の場合、dy>0
dθ1<dθ2<0の場合、dy<0
dL1=dL2でdθ1=dθ2の場合、dx=0
さらにdL1>0の場合、dy>0
あるいはdL1<0の場合、dy<0
と評価される。
【0043】
図7Aにdx、dy及びαを変化させたときの形状信号が検出されるセクタ走査面の回転角度の偏差dθの変化を示し、
図7Bに形状信号源への超音波伝播距離の偏差dLの変化を示す。図中の実線は(dx,dy)=(0,0)、太破線は(dx,dy)=(5,5)、細破線は(dx,dy)=(−5,5)、1点破線は(dx,dy)=(−5,−5)、2点破線は(dx,dy)=(5,−5)の値を表す。dθ1は単調減少し、dθ2は単調増加する。また、αの変化に対するdL1の変化率はdL2の変化率よりも大きい。表1にα、dx、dyの増減に対応したdL1、dθ1、dL2、dθ2及びdL1−dL2、dθ1−dθ2の正負を纏めて示す。
【0044】
【表1】
【0045】
この表のハッチングの部分の正負を評価することで、α、dx、dyの正負を判別可能である。そして、この正負に基づいてセンサの設置位置と回転角度の修正方向を判断可能である。また、dL1、dθ1、dL2、dθ2の値、あるいは数式(1)〜(28)から許容可能な偏差か否かを判別することが可能である。
【0046】
次に、
図1及び
図2を用いて、本発明の実施例に用いられる超音波探傷システムと、超音波探傷手法を実行する手順を説明する。
【0047】
図2は、本発明の実施例のアルゴリズムにおいて採用し得る超音波探傷システムの構成図である。本実施例における超音波探傷システムは、超音波探傷センサ1、フェーズドアレイ超音波探傷装置(以下、超音波探傷装置と称す)8、データ処理兼超音波探傷条件決定用のパソコン9より構成される。この
図2に示す超音波探傷システムを用いて、
図1に示す超音波探傷方法のフローチャートに従い超音波探傷手法を実行する。また、超音波探傷手順には上述した数式(1)〜(28)が用いられている。
【0048】
まず、フローチャートの概略について説明する。このフローは、探傷情報入力ステップS100、超音波探傷ステップS101、超音波伝播距離・回転角計算ステップS102、収録可否判断ステップS103、センサ設置位置・角度調整ステップS104、超音波探傷データ収録ステップS105に大別される。以下、これらステップを順次実行するフローについて説明する。
【0049】
探傷情報入力ステップS100では、パソコン9のキーボード26あるいは記録メディア27から、検査対象の形状情報(検査対象の幅・厚さや形状信号発生源の座標など)、センサ設置位置(sx1、sy1、φ1、sx2、sy2、φ2の座標や角度など)、超音波走査条件、伝播距離と回転角の偏差の許容値を入力する。
【0050】
超音波探傷ステップS101では、最初にセンサ固定ジグに固定されたセンサを検査対象上に設置する。次に、
図2の示すシステムのパソコン9のキーボード26から超音波探傷開始信号を入力する。超音波探傷開始信号は、パソコンのI/Oポート25を介してCPU21に伝達される。探傷開始信号入力後、探傷開始前に解析しておきパソコンのハードディスクドライブ(HDD)22、ランダムアクセスメモリ(RAM)23のうちの1つ以上の記憶装置に記録しておいた遅延時間を、探傷開始信号の入力に伴いCPUで読み出し、パソコンのI/Oポート、超音波探傷装置のI/Oポート25、D/Aコンバータ30を介して超音波探傷センサに電圧を印加して超音波を送信する。検査対象内の凹凸からの反射波はセンサで電圧に変換してA/Dコンバータ29、超音波探傷装置のI/Oポート、パソコンのI/Oポートを介してCPUに伝達される。CPUは反射波の検出距離、検出角度、検出強度をHDD、RAMのうちの1つ以上の記憶装置に記録する。
【0051】
探傷結果表示ステップS102ではHDD、RAM、ROM1つ以上の記憶装置に数式(1)〜(28)を計算するプログラムを格納しておき、適性位置における超音波伝播距離及び回転角と、センサを検査対象上に設置して測定した超音波伝播距離及び回転角の偏差を計算する。この計算結果は、HDD、RAMのうちの1つ以上の記憶装置に記録する。また、計算結果をパソコンのI/Oポートを介してモニタ28に表示する。表示は、dL、dθあるいはdL、dθに基づいて評価されるセンサ設置位置・角度の修正方向のうち1つ以上の情報とする。また、この情報は超音波探傷結果と共に表示しても良い。
【0052】
また、ずれ量(偏差)が許容値以下の場合、
図1中の点線で示したようにステップS103とステップS104を省略して探傷データ収録・表示ステップS105を実施してもよい。
【0053】
収録可否判断ステップS103において、ステップS102のモニタ28への表示に基づき、収録可否を判断する。即ち、dL、dθの値、あるいは数式(1)〜(28)から許容可能な偏差か否かを判別する。収録可の場合にはセンサ設置位置・角度調整ステップS104を省略して超音波探傷データ収録ステップS105を実施する。偏差が許容範囲を超える場合、センサ設置位置・角度調整ステップS104を実施する。この偏差の許容値は数式(1)〜(28)を用いてあらかじめ求めておき、HDD、RAM、ROMのうち1つ以上の記憶装置に記憶させておき、伝播距離と回転角の偏差と共にモニタに表示しても良い。
【0054】
センサ設置位置・角度調整ステップS104において、ステップS102で表示されたdL、dθに基づきセンサ設置位置・角度を調整する。位置調整後S101、S102を再度実施して、超音波伝播距離と回転角の偏差が許容範囲となるまで探傷、偏差計算、センサ位置・角度調整を繰り返す。また、センサ設置位置・角度を調整中にもS101、S102を実施し、偏差をリアルタイム表示することでセンサ設置位置・角度の調整時間を短縮しても良い。
【0055】
最後に、ステップS105で、超音波探傷データを収録する。収録した超音波探傷データはパソコンのHDD、RAMのうちの1つ以上の記憶装置に記録するとともに、パソコンのI/Oポートを介してモニタに表示する。モニタの表示結果に基づき超音波探傷データの取得を確認後、探傷終了信号をキーボードから入力し、パソコンのI/Oポートを介してCPUに伝達し、超音波探傷を終了する。
【0056】
本実施例では、以上説明したように構成されているため、毎回2回探傷を行っていた従来の探傷方法に対し、1回でも探傷可能となるため、3DUTの高速化がはかられる。即ち、本実施例では、センサ設置位置の適正位置を予め定めて、適性位置における複数の形状信号発生源の検出角度及び伝搬距離を求めておき、適性位置における伝播距離及び回転角とセンサを検査対象上に設置して測定した伝播距離及び回転角との偏差に基づき、探傷データ収録可否を決め、許容を超える偏差があるときのみ位置調整を行うようにしているので、必要以上の範囲で探傷を行う必要がなく、また、1回の探傷でも探傷データを収録できるため、3DUTの高速化がはかられる。
【実施例2】
【0057】
本実施例は、単一の3DUTセンサを用い、第1実施例と同様のアルゴリズムで探傷を行うものである。本実施例を、
図2、
図8〜15および数式(29)〜(34)を用いて説明する。
【0058】
3DUTセンサは、第1実施例と同様に
図15の構成を有するものが用いられている。また、超音波探傷システムは、第1実施例と同様に
図2の構成を有するものが用いられている。
【0059】
本実施例は、測定部位ごとに3DUTセンサ内における使用する超音波素子を変更するものである。使用するセンサは1個であるが、この探傷は複数個のセンサで複数箇所の形状信号を検出することと等価である。この探傷法方は2つのセンサで2つの形状信号を検出する第1実施例を一般化した方式である。
【0060】
図9に本実施例の探傷方法の概要を示す。本実施例では、
図9に示すように、超音波探傷センサ(アレイセンサ)1をn個の領域に分け、それぞれの領域を1つのセンサとして取り扱い、対応する形状信号源7が測定されるセクタ走査面回転角の超音波伝播距離を求める。この測定方法では領域2に例示したように形状信号を測定しない場合や、領域nに例示したように1つの領域で複数個の形状信号を測定する場合も想定される。
【0061】
この探傷におけるアレイセンサの領域iでi’番目の形状信号発生源7を検出するときのセクタ走査面の回転角θ(i’)と、形状信号の検出距離L(i’)は数式(29)〜(30)で記述される。ここで、回転角θはアレイセンサの各領域の超音波走査中心点からの垂線と形状信号が検出されるセクタ走査面とがなす角度であり、検出距離Lはアレイセンサの各領域の超音波走査中心点から形状信号発生源までの距離である。
【0062】
θ(i’)=tan
―1{(ky(i’)-sy(i))÷(kx(i’)-sx(i))} 数式(29)
L(i’)=√{(ky(i’)-sy(i))
2+(kx(i’)-sx(i))
2+kz(i’)
2} 数式(30)
ここで、
sx(i):アレイセンサの領域iの超音波走査中心点のx座標 [m]
sy(i):アレイセンサの領域iの超音波走査中心点のy座標 [m]
kx(i’):i’ 番目の形状信号発生源のx座標 [m]
ky(i’):i’ 番目の形状信号発生源のy座標 [m]
kz(i’):i’ 番目の形状信号発生源のz座標 [m]
を表す。
【0063】
図10Aにセンサ設置角度・位置が適正位置にある場合の上面図を、
図10Bにセンサ設置角度・位置が適正位置から角度変化した場合の上面図を、
図10Cにセンサ設置角度・位置が適正位置から角度変化しないで位置変化(平行移動)した場合の上面図を、
図10Dにセンサ設置角度・位置が適正位置から角度も含めて位置変化した場合の上面図をそれぞれ示す。
図10Dに基づき本実施例におけるセンサ設置角度・位置の変動の回転角度・伝搬距離への影響を説明する。
【0064】
図10Dに示すように、このセンサが原点を中心にβ°回転し、x方向にdx、y方向にdy平行移動した場合の、アレイセンサの領域iの超音波走査中心点のx座標sx’(i)とアレイセンサの領域iの超音波走査中心点のy座標sy’(i)、形状信号が検出されるセクタ走査面の回転角θ’(i’)と形状信号の検出距離はL’(i’)は数式(31)〜(34)で記述される。
【0065】
sx’(i)=cos(β)×(sx(i)+dx)−sin(β)×(sy(i)+dy) 数式(31)
sy’(i)=sin(β)×(sx(i)+dx)+cos(β)×(sy(i)+dy) 数式(32)
θ(i’)=tan
―1{(ky(i’)-sy’(i))÷(kx(i’)-sx’(i))} 数式(33)
L(i’)=√{(ky(i’)-sy’(i))
2+(kx(i’)-sx’(i))
2+kz(i’)
2} 数式(34)
ここで、不明な変数はβ、dx、dyの3つであるため、2つ以上の形状信号源を検出することにより、それらの変数間の関係を記述する数式を4つ以上として、β、dx、dyを評価可能である。
【0066】
この評価の具体例として、sx(1)=5mm、sy(1)=0mm、sx(3)=25mm、sy(3)=0mm、kx(1)=10mm、ky(1)=−30mm、kz(1)=−20mm、kx(2)=20mm、ky(2)=−20mm、kz(2)=−10mm、kx(3)=30mm、ky(3)=−20mm、kz(3)=−10mmの場合の、
−5mm<dx<5mm、
−5mm<dy<5mm、
−10°<β<10° における、
dL1≡L1#−L1
dθ1≡θ1#−θ1
dL2≡L2#−L2
dθ2≡θ2#−θ2
dL3≡L3#−L3
dθ3≡θ3#−θ3 を評価した。
【0067】
ここで、
L1#:角度・位置変化後の領域1と形状信号1の超音波伝播距離
θ1#:角度・位置変化後の領域1での形状信号1検出の回転角度
L2#:角度・位置変化後の領域3と形状信号2の超音波伝播距離
θ2#:角度・位置変化後の領域3での形状信号2検出の回転角度
L3#:角度・位置変化後の領域3と形状信号3の超音波伝播距離
θ3#:角度・位置変化後の領域3での形状信号3検出の回転角度
を表す。
【0068】
この探傷はアレイセンサを3つ以上の領域に分け、領域1で1個、領域3で2個の形状信号を測定する場合である。
【0069】
図11Aにβを変化させたときの形状信号が検出されるセクタ走査面の回転角度の偏差の変化、
図11Bにβを変化させたときの形状信号の超音波伝播距離の偏差の変化を示す。図中の実線は形状信号源1、破線は形状信号源2、一点破線は形状信号源3の変化量を表す。
【0070】
β>0の場合、
0>dθ3>dθ2>dθ1
dL1>0>dL3>dL2
β<0の場合、
dθ2>dθ1>dθ3>0
dL3>dL2>0>dL1
となり、適正位置で検出されるべき回転角度と超音波伝播距離と、実際に測定された回転角度と超音波伝播距離の大小関係からセンサの回転方向が判る。また、dL1、dθ1、dL2、dθ2、dL3、dθ3の値と、あるいは数式(1)〜(4)、数式(29)〜(34)から、センサ設置位置の誤差が許容範囲内か否かを判別可能である。
【0071】
図12Aにdyを変化させたときのdθ、
図12Bにdyを変化させたときのdLを示す。図中の実線はdx=5、1点破線はdx=−5における値を表す。また、dθ3とdθ2、dL3とdL2はdxに対して奇対称に変化するため、
dθ2(dx=5)=dθ3(dx=−5)、
dL2(dx=5)=dL3(dx=−5)、
dθ2(dx=−5)=dθ3(dx=5)、
dL2(dx=−5)=dL3(dx=5)、
となる。この場合、dL1、dL2、dL3の正負及び大小関係は表2のとおりとなる。また、dθ1、dθ2、dθ3の正負及び大小関係は表3のとおりとなる。
【0072】
【表2】
【0073】
【表3】
【0074】
この場合にはdθの正負からdxの正負が判るが、dyの正負はdL、dθの正負からは不定となるため、数式(29)〜(34)を用いて求める。
【0075】
図13Aにβを変化させたときの回転角度の偏差の変化、
図13Bにβを変化させたときの超音波伝播距離の偏差の変化を示す。図中の実線は(dx,dy)=(0,0)、太破線は(dx,dy)=(5,5)、細破線は(dx,dy)=(−5,5)、1点破線は(dx,dy)=(−5,−5)、2点破線は(dx,dy)=(5,−5)の値を表す。
【0076】
表4にβ、dx、dyの増減に対応したdθ1、dθ2、dθ3の正負及びそれらの大小関係をまとめて示す。また、表5にβ、dx、dyの増減に対応したdL1、dL2、dL3の正負及びそれらの大小関係をまとめて示す。
【0077】
【表4】
【0078】
【表5】
【0079】
表4と表5のハッチングの部分の正負を評価することでdxの正負は判別可能であるが、βとdyの正負はdyの正負はdL、dθの正負からは不定となるため、数式(29)〜(34)を用いて求める。
【0080】
次に、
図8を用いて本実施例における超音波探傷を実行する手順について説明する。本実施例においても
図2に示す超音波探傷システムが用いられ、そして、
図8に示す超音波探傷方法のフローチャートに従い超音波探傷手法を実行する。また、超音波探傷手順には上述した数式(1)〜(4)、(29)〜(34)が用いられている。
【0081】
まず、フローチャートの概略について説明する。このフローは、探傷情報入力ステップS200、超音波探傷ステップS201、超音波伝播距離・回転角計算ステップS202、収録可否判断ステップS203、センサ位置・角度調整ステップS204、超音波探傷データ収録ステップS205に大別される。
【0082】
これらのステップのうちS200は第1実施例のS100、S201は第1実施例のS101、S203は第1実施例のS103、S204は第1実施例のS104、S205は第1実施例のS105と同様である。以下、第1実施例と異なるS202について説明する。
【0083】
センサ位置・角度調整ステップS202がステップS102と異なるのは、ステップS202で求めた超音波伝播距離と回転角度の偏差に基づいて、探傷に使用する超音波素子と回転角度を電子的に変更することにある。
【0084】
図14を用いて電子的な使用素子と超音波走査条件変更のアルゴリズムを説明する。図中の1点破線が適正なセンサ設置位置、太実線が探傷に用いる超音波素子位置を表す。これに対し実線の位置にセンサが設置された場合、太実線内の超音波素子を用いることによって適正位置からの探傷が可能となる。S202で求めたセンサの平行移動量と回転角から、探傷に使用する超音波素子、即ち適正位置に配置されている素子の位置がわかる。また、セクタ走査面の回転角度がβ°増加しているため、回転角度をβ°減少させて探傷する必要がある。電子的な走査で探傷可能な場合はS203とS204を省略し、S205を実施して探傷結果を収録してもよい。
【0085】
また、使用素子の電子的な変更では探傷が不可能な場合、ステップS102と同様にセンサ設置位置と設置角度の修正方向の情報を表示し、第1実施例のS104と同様にS204でセンサの設置位置と設置角度を調整し、S201の探傷を再実施する。
【0086】
本実施例においても、毎回2回探傷を行っていた従来の探傷方法に対し、1回でも探傷可能となるため、3DUTの高速化がはかられる。また、電子的に超音波走査位置を変更する場合、センサ設置位置と角度を物理的に変更する第1の実施例に対し、さらなる高速化がはかられる。