特許第5930906号(P5930906)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5930906銅および鉛の溶出を抑制した摺動材料の潤滑方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5930906
(24)【登録日】2016年5月13日
(45)【発行日】2016年6月8日
(54)【発明の名称】銅および鉛の溶出を抑制した摺動材料の潤滑方法
(51)【国際特許分類】
   C10M 141/12 20060101AFI20160526BHJP
   C10M 133/40 20060101ALN20160526BHJP
   C10M 139/00 20060101ALN20160526BHJP
   C10M 129/10 20060101ALN20160526BHJP
   C10M 133/12 20060101ALN20160526BHJP
   C10M 137/10 20060101ALN20160526BHJP
   C10M 133/04 20060101ALN20160526BHJP
   C10M 133/06 20060101ALN20160526BHJP
   C10N 10/04 20060101ALN20160526BHJP
   C10N 10/12 20060101ALN20160526BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20160526BHJP
   C10N 30/04 20060101ALN20160526BHJP
   C10N 30/10 20060101ALN20160526BHJP
   C10N 30/12 20060101ALN20160526BHJP
   C10N 40/25 20060101ALN20160526BHJP
【FI】
   C10M141/12
   !C10M133/40
   !C10M139/00 Z
   !C10M129/10
   !C10M133/12
   !C10M137/10 A
   !C10M133/04
   !C10M133/06
   C10N10:04
   C10N10:12
   C10N30:00 Z
   C10N30:04
   C10N30:10
   C10N30:12
   C10N40:25
【請求項の数】4
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2012-167688(P2012-167688)
(22)【出願日】2012年7月27日
(65)【公開番号】特開2014-25005(P2014-25005A)
(43)【公開日】2014年2月6日
【審査請求日】2014年10月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】JXエネルギー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103285
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 順之
(72)【発明者】
【氏名】八木下 和宏
【審査官】 松原 宜史
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2008/109523(WO,A1)
【文献】 国際公開第2008/109502(WO,A1)
【文献】 国際公開第2006/043606(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 101/00−177/00
C10N 10/00− 80/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅および/または鉛含有摺動材料に、潤滑油基油に(A)下記で示されるHALS1および/またはHALS2からなる2,2,6,6テトラアルキルピペリジン誘導体、(B)有機モリブデン化合物をモリブデン金属量として30〜300質量ppm、および(C)ヒンダードフェノール系酸化防止剤及び/または芳香族アミン系酸化防止剤を含有する潤滑油組成物を接触させることを特徴する銅および/または鉛の溶出が抑制された摺動材料の潤滑方法。
【化1】
【請求項2】
前記潤滑油組成物が、さらに(D)一般式(1)で表されるリン化合物、及びそれらの金属塩又はアミン塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物をリン元素換算量で0.005〜0.5質量%を含有することを特徴とする請求項1に記載の潤滑方法。
【化2】
[一般式(1)において、X、X、X及びXは、それぞれ個別に酸素原子又は硫黄原子を示し、かつこれらのうちの少なくとも2つは酸素原子であり、R、R及びRは、それぞれ個別に水素原子又は炭素数1〜30の炭化水素基を示す。]
【請求項3】
前記(D)成分が、一般式(2)及び/または一般式(3)で示される硫黄を含有しないリン酸エステル金属塩であることを特徴とする請求項2記載の潤滑方法。
【化3】
[一般式(2)および(3)において、Rは炭素数1〜30のアルキル基あるいはアリール基であり、同一でも異なっていてもよい。Yはアルカリ金属を除く金属元素を示し、mおよびnはそれぞれ個別に1〜4の整数を示す。]
【請求項4】
銅および/または鉛含有摺動材料が使用されている内燃機関に用いることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の潤滑方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅および鉛の溶出を抑制した摺動材料の潤滑方法に関する。詳しくは、銅および鉛の溶出を抑制して、銅および鉛の腐食を防止する銅および/または鉛含有摺動材料の潤滑方法に関し、特に銅および/または鉛含有摺動材料を有する内燃機関に好適な潤滑方法に関する。
【背景技術】
【0002】
摺動材料は鉄系材料、アルミニウム系材料等が主として使用されているが、例えば内燃機関のメインベアリングやコンロッドベアリングなどには、アルミニウム、すず、銅及び/または鉛含有金属材料等が使用されることがある。中でも、鉛含有金属材料は、疲労現象が少ないという優れた特長を有しているが、一方では、腐食摩耗が大きいという欠点がある。これら腐食の原因としては、オイルの劣化による過酸化物の蓄積や空気中の分子状の酸素による直接酸化、その他、キノン、ジアセチル、酸化窒素、ニトロ化合物のような酸化生成物も酸と共存すると腐食を促進することが知られている。
実際の腐食は、これら多くの因子によって支配されているため複雑であるが、腐食の抑制には、一般的には、潤滑油の酸化防止、酸化性物質の破壊、腐食性酸化生成物の生成抑制、酸性物質の不活性化、金属表面における防食被膜の形成が重要である。より具体的な腐食抑制方法としては、潤滑油へのジチオリン酸亜鉛や硫化物のような過酸化物分解剤兼防食被膜形成剤、アミン系やフェノール系の連鎖停止型酸化防止剤、ベンゾトリアゾールのような防食被膜形成剤、清浄分散剤のような酸中和剤の添加が知られており、また上記4種類の成分の大部分が併用されている。
特に、鉛含有摺動材料の腐食摩耗防止に対しては、ジチオリン酸亜鉛等の硫黄含有摩耗防止剤が極めて有効であり、例えば、ジチオリン酸亜鉛が配合された従来のエンジン油では、過酸化物分解効果と共に鉛表面の不活性化により、優れた鉛腐食摩耗防止効果が発揮される(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平07−268379号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方で、ジチオリン酸亜鉛等の硫黄含有化合物は、鉛以外の非鉄卑金属含有摺動材(例えば銅、すず、銀等)に対し硫化腐食を起こし易く、また、ベンゾトリアゾール等の腐食防止剤は銅の腐食防止には有効であるが、鉛の腐食防止には十分な効果を示さないこともわかってきた。つまり、従来技術では銅及び/または鉛の溶出を同時に抑制することは不可能であった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題について鋭意研究した結果、銅および/または鉛含有摺動材料に特定の潤滑油組成物を適用することにより、銅および/または鉛の溶出が抑制されることを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0006】
すなわち、本発明は、銅および/または鉛含有摺動材料に、潤滑油基油に(A)2,2,6,6テトラアルキルピペリジン誘導体、(B)有機モリブデン化合物をモリブデン金属量として30〜300質量ppm、および(C)ヒンダードフェノール系酸化防止剤及び/または芳香族アミン系酸化防止剤を含有する潤滑油組成物を接触させることを特徴する銅および/または鉛の溶出が抑制された摺動材料の潤滑方法である。
【0007】
また本発明は、前記潤滑油組成物が、さらに(D)一般式(1)で表されるリン化合物、及びそれらの金属塩又はアミン塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物をリン元素換算量で0.005〜0.5質量%を含有することを特徴とする前記の潤滑方法である。
【化1】
[一般式(1)において、X、X、X及びXは、それぞれ個別に酸素原子又は硫黄原子を示し、かつこれらのうちの少なくとも2つは酸素原子であり、R、R及びRは、それぞれ個別に水素原子又は炭素数1〜30の炭化水素基を示す。]
【0008】
また本発明は、前記(D)成分が、一般式(2)及び/または一般式(3)で示される硫黄を含有しないリン酸エステル金属塩であることを特徴とする前記の潤滑方法である。
【化2】
[一般式(2)および(3)において、Rは炭素数1〜30のアルキル基あるいはアリール基であり、同一でも異なっていてもよい。Yはアルカリ金属を除く金属元素を示し、mおよびnはそれぞれ個別に1〜4の整数を示す。]
【0009】
また、本発明は、銅および/または鉛含有摺動材料が使用されている内燃機関に用いることを特徴とする前記の潤滑方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の潤滑方法により、銅および鉛の溶出を同時に抑制することができるため、特に銅および/または鉛含有摺動材料を有する内燃機関に好適に用いられる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について説明する。
【0012】
本発明において用いられる潤滑油組成物の潤滑油基油(以下、「本発明に係る潤滑油基油」という。)としては、鉱油系基油および/または合成油系基油が挙げられる。
【0013】
鉱油系基油としては、例えば、原油を常圧蒸留及び/又は減圧蒸留して得られた潤滑油留分を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、水素化異性化、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化精製、硫酸洗浄、白土処理等の精製処理のうちの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて精製したパラフィン系鉱油、あるいはノルマルパラフィン系基油、イソパラフィン系基油などが挙げられる。
【0014】
鉱油系基油の好ましい例としては、以下に示す基油(1)〜(7)及び/又はこの基油(1)〜(7)から回収された潤滑油留分を、所定の精製方法によって精製し、潤滑油留分を回収することによって得られる基油を挙げることができる。
【0015】
(1)パラフィン基系原油及び/又は混合基系原油の常圧蒸留残渣油の減圧蒸留による留出油(WVGO)
(2)潤滑油脱ろう工程により得られるワックス(スラックワックス等)及び/又はガストゥリキッド(GTL)プロセス等により得られる合成ワックス(フィッシャートロプシュワックス、GTLワックス等)
(3)基油(1)〜(2)から選ばれる1種又は2種以上の混合油及び/又は当該混合油のマイルドハイドロクラッキング処理油
(4)基油(1)〜(3)から選ばれる2種以上の混合油
(5)パラフィン基系原油及び/又は混合基系原油の常圧蒸留残渣油の減圧蒸残渣油の脱れき油(DAO)
(6)基油(5)のマイルドハイドロクラッキング処理油(MHC)
(7)基油(1)〜(6)から選ばれる2種以上の混合油。
【0016】
なお、上記所定の精製方法としては、水素化分解、水素化仕上げなどの水素化精製;フルフラール溶剤抽出などの溶剤精製;溶剤脱ろうや接触脱ろうなどの脱ろう;酸性白土や活性白土などによる白土精製;硫酸洗浄、苛性ソーダ洗浄などの薬品(酸又はアルカリ)洗浄などが好ましい。本発明では、これらの精製方法のうちの1種を単独で行ってもよく、2種以上を組み合わせて行ってもよい。また、2種以上の精製方法を組み合わせる場合、その順序は特に制限されず、適宜選定することができる。
【0017】
鉱油系基油としては、下記で示される基油(8)が特に好ましい。
(8)上記基油(1)〜(7)から選ばれる基油又は当該基油から回収された潤滑油留分を水素化分解し、その生成物又はその生成物から蒸留等により回収される潤滑油留分について溶剤脱ろうや接触脱ろうなどの脱ろう処理を行い、又は当該脱ろう処理をした後に蒸留することによって得られる水素化分解鉱油。
なお、上記(8)の潤滑油基油を得るに際して、好都合なステップで、必要に応じて溶剤精製処理及び/又は水素化仕上げ処理工程を更に設けてもよい。
【0018】
また、鉱油系基油における硫黄分の含有量については特に制限はないが、熱・酸化安定性の更なる向上および低硫黄化の点から、硫黄分の含有量が100質量ppm以下であることが好ましく、50質量ppm以下であることがより好ましく、10質量ppm以下であることが更に好ましく、5質量ppm以下であることが特に好ましい。
【0019】
また、鉱油系基油の%Cは2以下であることが好ましく、より好ましくは1以下、更に好ましくは0.8以下、特に好ましくは0.5以下であり、最も好ましくは0である。%Cが2を超えると、粘度−温度特性、熱・酸化安定性および省燃費性が低下する傾向にある。
【0020】
本発明に係る潤滑油基油として合成系基油を用いても良い。合成系基油としては、ポリα−オレフィン又はその水素化物、イソブテンオリゴマー又はその水素化物、イソパラフィン、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、ジエステル(ジトリデシルグルタレート、ジ−2−エチルヘキシルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジ−2−エチルヘキシルセバケート等)、ポリオールエステル(トリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、ペンタエリスリトール2−エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールペラルゴネート等)、ポリオキシアルキレングリコール、ジアルキルジフェニルエーテル、ポリフェニルエーテル等が挙げられ、中でも、ポリα−オレフィンが好ましい。ポリα−オレフィンとしては、典型的には、炭素数2〜32、好ましくは6〜16のα−オレフィンのオリゴマー又はコオリゴマー(1−オクテンオリゴマー、デセンオリゴマー、エチレン−プロピレンコオリゴマー等)及びそれらの水素化物が挙げられる。
【0021】
本発明に係る潤滑油基油の粘度指数は、100以上であることが好ましい。より好ましくは110以上、さらに好ましくは120以上である。また100以下であることが好ましい。粘度指数が110未満であると、粘度−温度特性及び熱・酸化安定性、揮発防止性が悪化するだけでなく、摩擦係数が上昇する傾向にあり、また、摩耗防止性が低下する傾向にある。また、粘度指数が160を超えると、低温粘度特性が低下する傾向にある。
なお、本発明でいう粘度指数とは、JIS K 2283−1993に準拠して測定された粘度指数を意味する。
【0022】
本発明に係る潤滑油基油の100℃における動粘度は10mm/s以下であることが好ましく、より好ましくは6mm/s以下、さらに好ましく5.0mm/s以下、特に好ましくは4.5mm/s以下、最も好ましくは4.2mm/s以下である。一方、当該動粘度は、1mm/s以上であることが好ましく、1.5mm/s以上であることがより好ましく、さらに好ましくは2mm/s以上、特に好ましくは2.5mm/s以上、最も好ましくは3mm/s以上である。ここでいう100℃における動粘度とは、ASTM D−445に規定される100℃での動粘度を示す。潤滑油基油成分の100℃動粘度が10mm/sを超える場合には、低温粘度特性が悪化し、また十分な省燃費性が得られないおそれがあり、1mm/s未満の場合は潤滑箇所での油膜形成が不十分であるため潤滑性に劣り、また潤滑油組成物の蒸発損失が大きくなるおそれがあるため好ましくない。
【0023】
本発明において用いられる潤滑油組成物としては、上記本発明に係る潤滑油基油を単独で用いてもよく、また、本発明に係る潤滑油基油を他の基油の1種又は2種以上と併用してもよい。なお、本発明に係る潤滑油基油と他の基油とを併用する場合、それらの混合基油中に占める本発明に係る潤滑油基油の割合は、30質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることが更に好ましい。
【0024】
本発明に係る潤滑油基油と併用される他の基油については特に制限されるものではないが、鉱油系基油としては、例えば100℃における動粘度が10mm/sを超え200mm/s以下の、溶剤精製鉱油、水素化分解鉱油、水素化精製鉱油、溶剤脱ろう鉱油などが挙げられる。また、合成系基油としては、100℃における動粘度が1〜10mm/sの範囲外となる合成系基油が挙げられる。
【0025】
本発明において用いられる潤滑油組成物は(A)成分として、4−位に置換基を有する2,2,6,6テトラアルキルピペリジン誘導体を含有する。
【0026】
その4−位の置換基としては、例えばカルボン酸残基、アルコキシ基、アルキルアミノ基等が挙げられ、また、N−位には炭素数1〜4のアルキル基が置換していても良い。具体的には、下記一般式(a)〜(f)で示す化合物を例示することができる。
【0027】
本発明では特にカルボン酸残基が好ましい。カルボン酸基としてはイソアルキル基をもつものが特に好ましい。このイソアルキル基としては炭素数6から30のアルキル基が好ましく、好ましくは10以上、さらに好ましくは16以上である。また24以下が好ましくさらに20以下が好ましい。
炭素数が5以下では分子量が小さすぎ、高温で蒸発する可能性があり、また炭素数が30を超えると、組成物の低温粘度特性が悪化するため好ましくない。
【0028】
【化3】
【0029】
上記一般式(a)〜(f)において、Rはメチル基、Rは水素または炭素数1〜4のアルキル基、Rは炭素数4以上の油溶性基、Rは炭素数4以上の油溶性基を示し、m、n、o、p、qは、それぞれ個別に、1〜30の整数を示す。
【0030】
本発明に用いられる潤滑油組成物において、(A)成分の含有量の下限値は、組成物全量基準で、窒素元素換算量として0.005質量%以上であり、好ましくは0.01質量%以上、特に好ましくは0.02質量%以上である。一方、(A)成分の含有量の上限値は、組成物全量基準で、窒素元素換算量として0.2質量%以下であり、好ましくは0.1質量%以下である。(A)成分の含有量が0.005質量%未満の場合には、高温清浄性の維持性能が乏しい。一方、(A)成分の含有量が0.2質量%を超える場合には、酸化劣化によるスラッジの発生により、高温清浄性能をむしろ悪化させる恐れがある。
【0031】
本発明において用いられる潤滑油組成物は(B)成分として、有機モリブデン化合物を含有する。
本発明で用いる有機モリブデン化合物としては、硫黄を含有する有機モリブデン化合物、または構成元素として硫黄を含まない有機モリブデン化合物等の各種有機モリブデン化合物が挙げられる。
【0032】
まず、硫黄を含有する有機モリブデン化合物としてモリブデンジチオホスフェート、モリブデンジチオカーバメート等が挙げられる。
モリブデンジチオホスフェートとしては、例えば、下記一般式(4)で表される化合物が挙げられる。
【0033】
【化4】
【0034】
上記一般式(4)中、R、R、R及びR4は、それぞれ同一でも異なっていてもよく、炭素数2〜30、好ましくは炭素数5〜18、より好ましくは炭素数5〜12のアルキル基、又は炭素数6〜18、好ましくは炭素数10〜15の(アルキル)アリール基等の炭化水素基を示す。またY、Y、Y及びYは、それぞれ個別に、硫黄原子または酸素原子を示す。
【0035】
モリブデンジチオカーバメートとしては、具体的には、下記一般式(5)で表される化合物を用いることができる。
【0036】
【化5】
【0037】
上記一般式(5)中、R、R、R及びRは、それぞれ同一でも異なっていてもよく、炭素数2〜24、好ましくは炭素数4〜13のアルキル基、又は炭素数6〜24、好ましくは炭素数10〜15の(アルキル)アリール基等の炭化水素基を示す。またY、Y、Y及びYは、それぞれ個別に、硫黄原子または酸素原子を示す。
【0038】
また、これら以外の硫黄を含有する有機モリブデン化合物としては、モリブデン化合物(例えば、二酸化モリブデン、三酸化モリブデン等の酸化モリブデン、オルトモリブデン酸、パラモリブデン酸、(ポリ)硫化モリブデン酸等のモリブデン酸、これらモリブデン酸の金属塩、アンモニウム塩等のモリブデン酸塩、二硫化モリブデン、三硫化モリブデン、五硫化モリブデン、ポリ硫化モリブデン等の硫化モリブデン、硫化モリブデン酸、硫化モリブデン酸の金属塩又はアミン塩、塩化モリブデン等のハロゲン化モリブデン等)と、硫黄含有有機化合物(例えば、アルキル(チオ)キサンテート、チアジアゾール、メルカプトチアジアゾール、チオカーボネート、テトラハイドロカルビルチウラムジスルフィド、ビス(ジ(チオ)ハイドロカルビルジチオホスホネート)ジスルフィド、有機(ポリ)サルファイド、硫化エステル等)あるいはその他の有機化合物との錯体等、あるいは、上記硫化モリブデン、硫化モリブデン酸等の硫黄含有モリブデン化合物と、後述する、構成元素として硫黄を含まない有機モリブデン化合物の項で説明するアミン化合物、コハク酸イミド、有機酸、アルコール等との錯体等、あるいは、元素イオウ、硫化水素、五硫化リン、酸化硫黄、無機硫化物、ヒドロカルビル(ポリ)スルフィド、硫化オレフィン、硫化エステル、硫化ワックス、硫化カルボン酸、硫化アルキルフェノール、チオアセトアミド、チオ尿素等の硫黄源と、後述する構成元素として硫黄を含まない有機モリブデン化合物の項で説明する、構成元素として硫黄を含まないモリブデン化合物と、後述する構成元素として硫黄を含まない有機モリブデン化合物の項で説明する、アミン化合物、コハク酸イミド、有機酸、アルコール等の硫黄を含まない有機化合物とを反応させた硫黄含有有機モリブデン化合物等様々なものを挙げることができる。具体的には、特開昭56−10591号公報や米国特許第4263152号等に記載されているような有機モリブデン化合物を例示することができる。
【0039】
また、有機モリブデン化合物としては、構成元素として硫黄を含まない有機モリブデン化合物を用いることができる。
構成元素として硫黄を含まない有機モリブデン化合物としては、具体的には、モリブデン−アミン錯体、モリブデン−コハク酸イミド錯体、有機酸のモリブデン塩、アルコールのモリブデン塩などが挙げられ、中でも、モリブデン−アミン錯体、有機酸のモリブデン塩及びアルコールのモリブデン塩が好ましい。
【0040】
上記モリブデン−アミン錯体を構成するモリブデン化合物としては、三酸化モリブデン又はその水和物(MoO・nHO)、モリブデン酸(HMoO)、モリブデン酸アルカリ金属塩(MMoO;Mはアルカリ金属を示す)、モリブデン酸アンモニウム((NHMoO又は(NH[Mo24]・4HO)、MoCl、MoOCl、MoOCl、MoOBr、MoCl等の硫黄を含まないモリブデン化合物が挙げられる。これらのモリブデン化合物の中でも、モリブデン−アミン錯体の収率の点から、6価のモリブデン化合物が好ましい。更に、入手性の点から、6価のモリブデン化合物の中でも、三酸化モリブデン又はその水和物、モリブデン酸、モリブデン酸アルカリ金属塩、及びモリブデン酸アンモニウムが好ましい。
【0041】
また、モリブデン−アミン錯体を構成するアミン化合物としては、特に制限されないが、窒素化合物としては、モノアミン、ジアミン、ポリアミンに炭素数8〜20のアルキル基又はアルケニル基を有する化合物やイミダゾリン等の複素環化合物;これらの化合物のアルキレンオキシド付加物;及びこれらの混合物等が例示できる。これらのアミン化合物の中でも、第1級アミン、第2級アミン及びアルカノールアミンが好ましい。
【0042】
モリブデン−アミン錯体を構成するアミン化合物が有する炭化水素基の炭素数は、好ましくは4以上であり、より好ましくは4〜30であり、特に好ましくは8〜18である。アミン化合物の炭化水素基の炭素数が4未満であると、溶解性が悪化する傾向にある。また、アミン化合物の炭素数を30以下とすることにより、モリブデン−アミン錯体におけるモリブデン含量を相対的に高めることができ、少量の配合で本発明の効果をより高めることができる。
【0043】
また、モリブデン−コハク酸イミド錯体としては、上記モリブデン−アミン錯体の説明において例示されたような硫黄を含まないモリブデン化合物と、炭素数4以上のアルキル基又はアルケニル基を有するコハク酸イミドとの錯体が挙げられる。コハク酸イミドとしては、無灰分散剤の項で述べる炭素数40〜400のアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するコハク酸イミドあるいはその誘導体や、炭素数4〜39、好ましくは炭素数8〜18のアルキル基又はアルケニル基を有するコハク酸イミド等が挙げられる。コハク酸イミドにおけるアルキル基又はアルケニル基の炭素数が4未満であると溶解性が悪化する傾向にある。また、炭素数30を超え400以下のアルキル基又はアルケニル基を有するコハク酸イミドを使用することもできるが、当該アルキル基又はアルケニル基の炭素数を30以下とすることにより、モリブデン−コハク酸イミド錯体におけるモリブデン含有量を相対的に高めることができ、少量の配合で本発明の効果をより高めることができる。
【0044】
また、有機酸のモリブデン塩としては、上記モリブデン−アミン錯体の説明において例示されたモリブデン酸化物あるいはモリブデン水酸化物、モリブデン炭酸塩又はモリブデン塩化物等のモリブデン塩基と、有機酸との塩が挙げられる。有機酸としては、リン含有酸及びカルボン酸が好ましい。
【0045】
また、カルボン酸のモリブデン塩を構成するカルボン酸としては、一塩基酸又は多塩基酸のいずれであってもよい。
【0046】
一塩基酸としては、炭素数が通常2〜30、好ましくは4〜24、さらに好ましくは4〜12の脂肪酸が用いられ、その脂肪酸は直鎖のものでも分岐のものでもよく、また飽和のものでも不飽和のものでもよい。
【0047】
また、一塩基酸としては、上記脂肪酸の他に、単環又は多環カルボン酸(水酸基を有していてもよい)を用いてもよく、その炭素数は、好ましくは4〜30、より好ましくは7〜30である。単環又は多環カルボン酸としては、炭素数1〜30、好ましくは炭素数1〜20の直鎖状又は分岐状のアルキル基を0〜3個、好ましくは1〜2個有する芳香族カルボン酸又はシクロアルキルカルボン酸等が挙げられ、より具体的には、(アルキル)ベンゼンカルボン酸、(アルキル)ナフタレンカルボン酸、(アルキル)シクロアルキルカルボン酸等が例示できる。単環又は多環カルボン酸の好ましい例としては、安息香酸、サリチル酸、アルキル安息香酸、アルキルサリチル酸、シクロヘキサンカルボン酸等が挙げられる。
【0048】
また、多塩基酸としては、二塩基酸、三塩基酸、四塩基酸等が挙げられる。多塩基酸は鎖状多塩基酸、環状多塩基酸のいずれであってもよい。また、鎖状多塩基酸の場合、直鎖状、分岐状のいずれであってもよく、また、飽和、不飽和のいずれであってもよい。鎖状多塩基酸としては、炭素数2〜16の鎖状二塩基酸が好ましい。
【0049】
また、アルコールのモリブデン塩としては、上記モリブデン−アミン錯体の説明において例示されたような硫黄を含まないモリブデン化合物と、アルコールとの塩が挙げられ、アルコールは1価アルコール、多価アルコール、多価アルコールの部分エステルもしくは部分エーテル化合物、水酸基を有する窒素化合物(アルカノールアミン等)などのいずれであってもよい。なお、モリブデン酸は強酸であり、アルコールとの反応によりエステルを形成するが、当該モリブデン酸とアルコールとのエステルも本発明でいうアルコールのモリブデン塩に包含される。
【0050】
一価アルコールとしては、通常炭素数1〜24、好ましくは1〜12、より好ましくは1〜8のものが用いられ、このようなアルコールとしては直鎖のものでも分岐のものでもよく、また飽和のものであっても不飽和のものであってもよい。
また、多価アルコールとしては、通常2〜10価、好ましくは2〜6価のものが用いられる。
【0051】
また、多価アルコールの部分エステルとしては、上記多価アルコールの説明において例示された多価アルコールが有する水酸基の一部がヒドロカルビルエステル化された化合物等が挙げられ、中でもグリセリンモノオレート、グリセリンジオレート、ソルビタンモノオレート、ソルビタンジオレート、ペンタエリスリトールモノオレート、ポリエチレングリコールモノオレート、ポリグリセリンモノオレート等が好ましい。
【0052】
また、多価アルコールの部分エーテルとしては、上記多価アルコールの説明において例示された多価アルコールが有する水酸基の一部がヒドロカルビルエーテル化された化合物、多価アルコール同士の縮合によりエーテル結合が形成された化合物(ソルビタン縮合物等)などが挙げられ、中でも3−オクタデシルオキシ−1,2−プロパンジオール、3−オクタデセニルオキシ−1,2−プロパンジオール、ポリエチレングリコールアルキルエーテル等が好ましい。
【0053】
また、水酸基を有する窒素化合物としては、上記モリブデン−アミン錯体の説明において例示されたアルカノールアミン、並びに当該アルカノールのアミノ基がアミド化されたアルカノールアミド(ジエタノールアミド等)などが挙げられ、中でもステアリルジエタノールアミン、ポリエチレングリコールステアリルアミン、ポリエチレングリコールジオレイルアミン、ヒドロキシエチルラウリルアミン、オレイン酸ジエタノールアミド等が好ましい。
【0054】
本発明における硫黄含有有機モリブデン化合物としては、摩擦低減効果に優れる点で、モリブデンジチオカーバメート、モリブデンジチオホスフェートが好ましく、酸化防止性向上効果に優れるとともに、ディーゼルエンジンのトップリング溝の堆積物をより低減できる点で、上記した、硫黄源と、構成元素として硫黄を含まないモリブデン化合物と、硫黄を含まない有機化合物(コハク酸イミド等)との反応物、あるいは、上記した、構成元素として硫黄を含有しない有機モリブデン化合物を使用することが望ましい。
【0055】
本発明に用いられる潤滑油組成物において、(B)成分の有機モリブデン化合物の含有量は、組成物全量を基準として、モリブデン金属量として30〜300質量ppmであり、好ましくは50質量ppm以上、より好ましくは100質量ppm以上、更に好ましくは120質量ppm以上である。また、好ましくは200質量ppm以下、より好ましくは250質量ppm以下、さらに好ましくは300質量ppm以下、特に好ましくは200質量ppm以下である。その含有量が30質量ppm未満の場合、銅および鉛の溶出を抑制する効果が不足する。一方、含有量が300質量ppmを超える場合、含有量に見合う効果が得られず、また、潤滑油組成物の、特に高温下での安定性が低下する傾向にあるため好ましくない。
【0056】
本発明に用いられる潤滑油組成物は(C)成分としてヒンダードフェノール系酸化防止剤及び/または芳香族アミン系酸化防止剤を含有する。かかる(C)成分を含有させることにより、(A)2,2,6,6テトラアルキルピペリジン誘導体と(B)有機モリブデン化合物の存在とともに酸化安定性を向上させるために極めて有効である。
【0057】
ヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、具体的には、例えば、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ビス(2−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−イソプロピリデンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−ノニルフェノール)、2,2’−イソブチリデンビス(4,6−ジメチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−シクロヘキシルフェノール)、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、2,6−ジ−tert−ブチル−4−エチルフェノール、2,4−ジメチル−6−tert−ブチルフェノール、2,6−ジ−tert−α−ジメチルアミノ−p−クレゾール、2,6−ジ−tert−ブチル−4(N,N’−ジメチルアミノメチルフェノール)、4,4’−チオビス(2−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2’−チオビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、ビス(3−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルベンジル)スルフィド、ビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)スルフィド、2,2’−チオ−ジエチレンビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクチル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、トリデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ペンタエリスリチル−テトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、及びこれらの混合物等が挙げられる。また、これらの中でも分子量が240以上のフェノール系化合物は、分解温度が高く、より高温条件においてもその酸化防止効果が発揮されるため、より好ましく用いられる。
【0058】
ヒンダードフェノール系酸化防止剤を含有させる場合の含有量は、組成物全量基準で、0.1質量%以上が好ましく、より好ましくは0.3質量%以上、特に好ましくは0.4質量%以上である。一方、その上限値は、3質量%以下が好ましく、より好ましくは2質量%以下、特に好ましくは1.0質量%以下である。その含有量を0.1質量%以上とすることで本発明の組成物が長期間に渡って優れた清浄性を維持しやすく、一方、含有量が3質量%を超える場合、組成物の貯蔵安定性が悪化するため好ましくない。
【0059】
芳香族アミン系酸化防止剤としては、具体的には、フェニル−α−ナフチルアミン、アルキルフェニル−α−ナフチルアミン、ジアルキルジフェニルアミン、N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン及びこれらの混合物が挙げられる。ここでアルキル基としては炭素数1〜20の直鎖又は分岐のアルキル基が挙げられる。
【0060】
芳香族アミン系酸化防止剤を含有させる場合の含有量は、組成物全量基準で、0.1質量%以上が好ましく、より好ましくは0.3質量%以上、特に好ましくは0.4質量%以上である。一方、その上限値は、5質量%以下が好ましく、より好ましくは2.5質量%以下、特に好ましくは2.0質量%以下である。その含有量を0.1質量%以上とすることで本発明の組成物が長期間に渡って優れた清浄性を維持しやすく、一方、含有量が5質量%を超える場合、組成物の貯蔵安定性が悪化するため好ましくない。
【0061】
本発明において用いられる潤滑油組成物は(D)成分として一般式(1)で表されるリン化合物、及びそれらの金属塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物(リン含有摩耗防止剤)を含有することが好ましい。
【0062】
【化6】
【0063】
一般式(1)において、X、X、X及びXは、それぞれ個別に酸素原子又は硫黄原子を示す。そしてこれらのうちの少なくとも2つは酸素原子である。R、R及びRは、それぞれ個別に水素原子又は炭素数1〜30の炭化水素基を示す。
【0064】
上記R〜Rで表される炭素数1〜30の炭化水素基としては、具体的には、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキル置換シクロアルキル基、アリール基、アルキル置換アリール基、及びアリールアルキル基を挙げることができる。
上記R〜Rで表される炭素数1〜30の炭化水素基は、炭素数1〜30のアルキル基又は炭素数6〜24のアリール基であることが好ましく、更に好ましくは炭素数3〜18、更に好ましくは炭素数4〜12のアルキル基である。
【0065】
一般式(1)で表されるリン化合物としては、例えば、以下のリン化合物を挙げることができる。
リン酸、モノチオリン酸;上記炭素数1〜30の炭化水素基を1つ有するリン酸モノエステル、モノチオリン酸モノエステル、;上記炭素数1〜30の炭化水素基を2つ有するリン酸ジエステル、モノチオリン酸ジエステル、;上記炭素数1〜30の炭化水素基を3つ有するリン酸トリエステル、モノチオリン酸トリエステル;及びこれらの混合物。
【0066】
一般式(1)で表されるリン化合物の塩としては、リン化合物に金属酸化物、金属水酸化物、金属炭酸塩、金属塩化物等の金属塩基を作用させて、残存する酸性水素の一部又は全部を中和した塩を挙げることができる。
【0067】
上記金属塩基における金属としては、具体的には、カルシウム、マグネシウム、バリウム等のアルカリ土類金属、亜鉛、銅、鉄、鉛、ニッケル、銀、マンガン、タングステン等の重金属等が挙げられる。これらの中ではカルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属及び亜鉛が好ましい。特に亜鉛が好ましい。
【0068】
一般式(1)で表されるリン化合物の塩としては、特にアルキルジチオリン酸亜鉛が好ましくセカンダリーアルキルジチオリン酸亜鉛が好ましい。アルキル基は炭素数3から6のものが好ましい。
【0069】
これらの(D)成分の中では、炭素数3〜18のアルキル基又はアリール基を2個有する亜リン酸ジエステルと亜鉛又はカルシウムとの塩、炭素数3〜18のアルキル基又はアリール基、好ましくは炭素数6〜12のアルキル基を3個有する亜リン酸トリエステル、炭素数3〜18のアルキル基又はアリール基を1個有するリン酸のモノエステルと亜鉛又はカルシウムとの塩、炭素数3〜18のアルキル基又はアリール基を2個有するリン酸のジエステルと亜鉛又はカルシウムとの塩、あるいは炭素数3〜18のアルキル基又はアリール基、好ましくは炭素数6〜12のアルキル基を3個有するリン酸トリエステルであることが好ましい。
これらの(D)成分は、1種類あるいは2種類以上を任意に配合することができる。
【0070】
本発明においては、上記一般式(1)の金属塩が好ましく、さらにXがすべて酸素原子であることが好ましい。この化合物の金属塩は、アルカリ金属を除く金属塩であることが好ましい。
この場合、金属の価数やリン化合物のOH基の数に応じその構造が異なり、一般式(2)や一般式(3)の構造が好ましい。特に亜鉛の金属塩が好ましい。
【0071】
【化7】
【0072】
一般式(2)および(3)において、Rは炭素数1〜30のアルキル基あるいはアリール基であり、同一でも異なっていてもよい。Yはアルカリ金属を除く金属元素を示し、m、nはそれぞれ個別に1〜4の整数を示す。
【0073】
本発明に用いられる潤滑油組成物において(D)成分の含有量は、組成物全量基準でリン元素換算量として0.005質量%以上であり、好ましくは0.01質量%以上、特に好ましくは0.02質量%以上であり、一方、その含有量は、0.5質量%以下であり、好ましくは0.2質量%以下であり、より好ましくは0.1質量%以下、さらに好ましくは0.08質量%以下である。(A)成分の含有量が、リン元素として0.005質量%未満の場合は、耐摩耗性に対して効果がなく、0.5質量%を超える場合は、内燃機関用に使用する場合、リンによる排ガス後処理装置への悪影響が懸念されるため、それぞれ好ましくない。(A)成分の含有量が、リン元素として0.08質量%以下、特に0.05質量%以下の場合、排ガス後処理装置への影響も顕著に低減することができるため、特に好ましい。
【0074】
本発明において用いられる潤滑油組成物は(E)成分として金属比3以下の金属系清浄剤を含有することが好ましい。
なお、ここでいう金属比とは、金属元素の価数×金属元素含有量(mol)/せっけん基(含有量(mol)である。即ち、金属比はアルカリ金属又はアルカリ土類金属系清浄剤中のアルキルサリチル酸基、アルキルフェノール基、アルキルスルホン酸基含有量に対するアルカリ金属又はアルカリ土類金属含有量を示す。
【0075】
金属系清浄剤としては、例えば、アルカリ金属スルホネート又はアルカリ土類金属スルホネート、アルカリ金属フェネート又はアルカリ土類金属フェネート、及びアルカリ金属サリシレート又はアルカリ土類金属サリシレート、アルカリ金属カルボキシレート又はアルカリ土類金属カルボキシレート等が挙げられる。本発明では、これらからなる群より選ばれる1種又は2種以上のアルカリ金属又はアルカリ土類金属系清浄剤、特にアルカリ土類金属系清浄剤を好ましく使用することができる。
【0076】
アルカリ金属又はアルカリ土類金属スルホネートとしては、分子量が300〜1500、好ましくは400〜700のアルキル芳香族化合物をスルホン化することによって得られるアルキル芳香族スルホン酸のアルカリ金属又はアルカリ土類金属塩、特にマグネシウム塩及び/又はカルシウム塩が挙げられ、カルシウム塩が好ましく用いられる。
上記アルキル芳香族スルホン酸としては、具体的には、いわゆる石油スルホン酸や合成スルホン酸等が挙げられる。
【0077】
アルカリ金属又はアルカリ土類金属フェネートとしては、例えば、アルキルフェノール、アルキルフェノールサルファイド、アルキルフェノールのマンニッヒ反応物のアルカリ金属又はアルカリ土類金属塩、特にマグネシウム塩及びカルシウム塩が挙げられる。
【0078】
アルカリ金属又はアルカリ土類金属サリシレートとしては、例えば、アリキルサリチル酸のアルカリ金属又はアルカリ土類金属塩、特にマグネシウム塩及びカルシウム塩が挙げられる。具体的には、下記一般式(6)で表される化合物を挙げることができる。
【0079】
【化8】
【0080】
一般式(6) において、R、Rは同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素または炭素数1〜40の炭化水素基を示し、当該炭化水素基は酸素又は窒素を含有していても良い。ただし同時に水素であることはない。Mはアルカリ金属又はアルカリ土類金属、好ましくはカルシウム又はマグネシウムを示し、nは金属の価数により1又は2を示す。
【0081】
金属系清浄剤は、通常、軽質潤滑油基油等で希釈された状態で市販されており、また入手可能であるが、一般的に、その金属含有量が1.0〜20質量%、好ましくは2.0〜16質量%のものを用いるのが望ましい。
本発明で用いるアルカリ土類金属系清浄剤の全塩基価は任意であるが、通常、0〜500mgKOH/g、好ましくは60〜230mgKOH/g、さらに好ましくは60〜190mgKOH/gのものを用いるのが望ましい。
なお、ここでいう全塩基価とは、JIS K2501「石油製品及び潤滑油−中和価試験法」の7.に準拠して測定される過塩素酸法による全塩基価を意味する。
【0082】
本発明における(E)成分の金属系清浄剤の金属比は3以下であることが好ましい。金属比は好ましくは2.6以下であり、さらに好ましくは2以下、特に好ましくは1.5以下とすることが望ましい。本発明において、金属比が3以下のものとしては、上記した各種の金属系清浄剤を好ましく使用することができるが、摩耗防止性の悪化や酸価増加を抑制しやすいことから、アルカリ土類金属スルホネート及び/又はアルカリ土類金属フェネートを使用することが好ましく、アルカリ土類金属スルホネートを使用することが特に好ましい。(E)成分をこのような構成とすることで、塩基価維持性、高温清浄性、さらには低摩擦性の向上効果をより高めることができる。
【0083】
本発明においては、(E)成分に加え、金属比が3を超え、好ましくは5以上、さらに好ましくは8以上、好ましくは40以下、より好ましくは20以下、さらに好ましくは15以下の金属系清浄剤をさらに含有することができる。本発明において金属比が3を超える金属系清浄剤としては、上記した各種の金属系清浄剤を好適に使用することができるが、摩耗防止性の悪化や酸価増加を抑制しやすいことから、アルカリ土類金属スルホネート及び/又はアルカリ土類金属フェネートを使用することが好ましく、アルカリ土類金属スルホネートを使用することが望ましい。特に(E)成分としてアルカリ土類金属サリシレートを使用する場合には、金属比が3を超える金属系清浄剤としてアルカリ土類金属スルホネート及び/又はアルカリ土類金属フェネートを使用することが貯蔵安定性に優れる点でも望ましい。
金属比が3を超える金属系清浄剤の配合割合は、金属系清浄剤に起因する合計金属量として、金属比が3を超える金属系清浄剤:金属比3以下の金属系清浄剤が10〜90質量%:90〜10質量%が好ましく、より好ましくは40〜85質量%:60〜15質量%、さらに好ましくは50〜80質量%:50〜20質量%である。
【0084】
本発明における金属系清浄剤の合計含有量は、組成物全量基準で、アルカリ金属又はアルカリ土類金属元素換算量で、0.01〜0.2質量%であることが好ましく、より好ましくは0.05〜0.16質量%、さらに好ましくは0.08〜0.12質量%である。金属系清浄剤の含有量が0.01質量%未満の場合、本発明のような優れた塩基価維持性及び高温清浄性を発揮できず、一方、金属系清浄剤の含有量が0.2質量%を超える場合、組成物中の硫酸灰分量を本願規定範囲内にできないため、それぞれ好ましくない。
【0085】
本発明において用いられる潤滑油組成物は(F)成分として無灰分散剤を含有することが好ましい。
無灰分散剤としては、炭素数40〜400の直鎖若しくは分枝状のアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有する含窒素化合物又はその誘導体、あるいはアルケニルコハク酸イミドの変性品等が挙げられる。これらの中から任意に選ばれる1種類あるいは2種類以上を配合することができる。
【0086】
無灰分散剤が有するアルキル基又はアルケニル基の炭素数は、好ましくは40〜400、より好ましくは60〜350である。アルキル基又はアルケニル基の炭素数が40未満の場合は化合物の潤滑油基油に対する溶解性が低下する傾向にあり、一方、400を超える場合は、潤滑油組成物の低温流動性が悪化する傾向にある。このアルキル基又はアルケニル基は、直鎖状でも分枝状でもよいが、好ましいものとしては、プロピレン、1−ブテン、イソブチレン等のオレフィンのオリゴマーやエチレンとプロピレンのコオリゴマーから誘導される分枝状アルキル基や分枝状アルケニル基等が挙げられる。
【0087】
なお、コハク酸イミドには、ポリアミンの一端に無水コハク酸が付加したいわゆるモノタイプのコハク酸イミドと、ポリアミンの両端に無水コハク酸が付加したいわゆるビスタイプのコハク酸イミドとが含まれる。
本発明の潤滑油組成物は、モノタイプ又はビスタイプのコハク酸イミドのいずれか一方を含有してもよく、あるいは双方を含有してもよい。
【0088】
また、無灰分散剤として、ベンジルアミンを用いることもできる。好ましいベンジルアミンとしては、具体的には、下記の一般式(7)で表される化合物等が例示できる。
【化9】
【0089】
一般式(7)において、Rは、炭素数40〜400のアルキル基又はアルケニル基、好ましくは炭素数60〜350のアルキル基又はアルケニル基を示し、rは1〜5、好ましくは2〜4の整数を示す。
【0090】
ベンジルアミンの製造方法は何ら限定されるものではないが、例えば、プロピレンオリゴマー、ポリブテン、及びエチレン−α−オレフィン共重合体等のポリオレフィンをフェノールと反応させてアルキルフェノールとした後、これにホルムアルデヒドとジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、及びペンタエチレンヘキサミン等のポリアミンをマンニッヒ反応により反応させることにより得ることができる。
【0091】
上記ポリアミンとしては、より具体的には、下記の一般式(8)で表される化合物等が例示できる。
−NH−(CH2CH2NH)−H (8)
一般式(8)において、Rは、炭素数40〜400のアルキル基又はアルケニル基、好ましくは60〜350のアルキル基又はアルケニル基を示し、sは1〜5、好ましくは2〜4の整数を示す。
【0092】
また、その他の誘導体としては、具体的には、前述の含窒素化合物に炭素数1〜30のモノカルボン酸(脂肪酸等)やシュウ酸、フタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等の炭素数2〜30のポリカルボン酸、アルコール、アルデヒド、ケトン、アルキルフェノール、環状カーボネート(例、炭酸エチレン)、ヒドロキシ(ポリ)アルキレンカーボネート等の含酸素化合物を作用させて、残存するアミノ基及び/又はイミノ基の一部又は全部を中和したり、アミド化した有機酸等による変性化合物、前述の含窒素化合物に硫黄化合物を作用させた、硫黄変性化合物等が挙げられる。またホウ素化合物で変性したものも挙げられる。
【0093】
本発明に用いられる潤滑油組成物が無灰分散剤を含有する場合、無灰分散剤の含有量は、潤滑油組成物全量基準で、好ましくは0.01〜20質量%であり、より好ましくは0.1〜10質量%である。無灰分散剤の含有量が0.01質量%未満の場合は、摩擦低減性向上効果が不十分となるおそれがあり、一方、20質量%を超える場合は、潤滑油組成物の低温流動性が大幅に悪化するおそれがある。
【0094】
本発明において用いる潤滑油組成物には、その性能をさらに向上させる目的で、あるいは必要な性能を付与するために、必要に応じて、粘度指数向上剤、摩耗防止剤(又は極圧剤)、腐食防止剤、防錆剤、抗乳化剤、金属不活性化剤、消泡剤等の各種添加剤を単独で又は数種類組み合わせて配合しても良い。
【0095】
粘度指数向上剤は、具体的には非分散型又は分散型エステル基含有粘度指数向上剤であり、例として非分散型又は分散型ポリ(メタ)アクリレート系粘度指数向上剤、非分散型又は分散型オレフィン−(メタ)アクリレート共重合体系粘度指数向上剤、スチレン−無水マレイン酸エステル共重合体系粘度指数向上剤及びこれらの混合物等が挙げられ、これらの中でも非分散型又は分散型ポリ(メタ)アクリレート系粘度指数向上剤であることが好ましい。特に非分散型又は分散型ポリメタクリレート系粘度指数向上剤であることが好ましい。
粘度指数向上剤としては、その他に、非分散型又は分散型エチレン−α−オレフィン共重合体又はその水素化物、ポリイソブチレン又はその水素化物、スチレン−ジエン水素化共重合体及びポリアルキルスチレン等を挙げることができる。
【0096】
粘度指数向上剤の重量平均分子量(M)は、600,000以下であることが好ましく、より好ましくは500,000以下であり、さらに好ましくは450,000以下である。また、100,000以上であることが好ましく、より好ましくは20,000以上であり、さらに好ましくは250,000以上である。重量平均分子量が100,000未満の場合には潤滑油基油に溶解させた場合の粘度指数向上効果が小さく省燃費性や低温粘度特性に劣るだけでなく、コストが上昇するおそれがある。また、重量平均分子量が600,000を超える場合には、粘度増加効果が大きくなりすぎ、省燃費性や低温粘度特性に劣るだけでなく、せん断安定性や潤滑油基油への溶解性、貯蔵安定性が悪くなる。
【0097】
粘度指数向上剤のPSSI(パーマネントシアスタビリティインデックス)は70以下であることが好ましく、より好ましくは60以下であることが好ましい。PSSIが70を超える場合にはせん断安定性が悪化するため、初期の動粘度を高める必要が生じ、省燃費性を悪化させるおそれがある。また、PSSIが10未満の場合には潤滑油基油に溶解させた場合の粘度指数向上効果が小さく、省燃費性や低温粘度特性に劣るだけでなく、コストが上昇するおそれがあるため、PSSIは10以上であることが好ましい。
【0098】
摩耗防止剤(又は極圧剤)としては、潤滑油に用いられる任意の摩耗防止剤・極圧剤が使用できる。例えば、硫黄系、リン系、硫黄−リン系の極圧剤等が使用でき、具体的には、亜リン酸エステル類、チオ亜リン酸エステル類、ジチオ亜リン酸エステル類、トリチオ亜リン酸エステル類、リン酸エステル類、チオリン酸エステル類、ジチオリン酸エステル類、トリチオリン酸エステル類、これらのアミン塩、これらの金属塩、これらの誘導体、ジチオカーバメート、亜鉛ジチオカーバメート、ジサルファイド類、ポリサルファイド類、硫化オレフィン類、硫化油脂類等が挙げられる。これらの中では硫黄系極圧剤の添加が好ましく、特に硫化油脂が好ましい。
【0099】
腐食防止剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系、トリルトリアゾール系、チアジアゾール系、又はイミダゾール系化合物等が挙げられる。
【0100】
防錆剤としては、例えば、石油スルホネート、アルキルベンゼンスルホネート、ジノニルナフタレンスルホネート、アルケニルコハク酸エステル、又は多価アルコールエステル等が挙げられる。
【0101】
抗乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、又はポリオキシエチレンアルキルナフチルエーテル等のポリアルキレングリコール系非イオン系界面活性剤等が挙げられる。
【0102】
金属不活性化剤としては、例えば、イミダゾリン、ピリミジン誘導体、アルキルチアジアゾール、メルカプトベンゾチアゾール、ベンゾトリアゾール又はその誘導体、1,3,4−チアジアゾールポリスルフィド、1,3,4−チアジアゾリル−2,5−ビスジアルキルジチオカーバメート、2−(アルキルジチオ)ベンゾイミダゾール、又はβ−(o−カルボキシベンジルチオ)プロピオンニトリル等が挙げられる。
【0103】
消泡剤としては、例えば、25℃における動粘度が1000〜10万mm/sのシリコーンオイル、アルケニルコハク酸誘導体、ポリヒドロキシ脂肪族アルコールと長鎖脂肪酸のエステル、メチルサリチレートとo−ヒドロキシベンジルアルコール等が挙げられる。
【0104】
これらの添加剤を本発明において用いる潤滑油組成物に含有させる場合には、それぞれの含有量は、潤滑油組成物全量基準で、消泡剤については0.0005〜1質量%、その他の添加剤については通常0.01〜10質量%の範囲から選ばれる。
【0105】
先に述べたように、摺動材料は鉄系材料、アルミニウム系材料等が主として使用されているが、例えば内燃機関のメインベアリングやコンロッドベアリングなどには、アルミニウム、すず、銅、鉛含有金属材料等が使用されることがある。銅−鉛軸受は強度となじみ性が良好であり、中でも、鉛含有金属材料は、疲労現象が少ないという優れた特長を有しているが、一方では、腐食摩耗が大きいという欠点がある。したがってこのこれら腐食を抑制することは非常に有効なことである。
【0106】
本発明は、銅および/または鉛含有摺動材料に前述の潤滑油組成物を接触させることにより、銅および鉛の溶出を抑制することが可能となるもので、特に銅および鉛を含有する軸受に対して有効であり、さらには鉛を表面に使用した軸受に対してより効果的である。特に内燃機関の軸受で発生する軸受部の腐食による摩耗を防止することに優れているため、腐食摩耗が発生している内燃機関に対する対策方法となる。
【実施例】
【0107】
以下、実施例及び比較例に基づき本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0108】
(実施例1〜8、比較例1〜6)
本発明の方法に用いる潤滑油組成物(実施例1〜8)および比較のための潤滑油組成物(比較例1〜6)を調製した。これらの組成物につき、NOx吹き込み試験を行った。試験条件は、酸素流量:115ml/minと、NOを窒素で希釈したもの(NO濃度:800ppm)流量20ml/minとを混合して、油温140℃の試料150g中に導入した。試験時間は結果と併せ表1に示した。
次に、JIS K 2514 4(内燃機関用潤滑油酸化安定度試験方法:ISOT)に準拠し、油温165.5℃、試験時間96時間後の銅の溶出量を測定した。その結果を表1に示す。
表1に示す結果から明らかなように、比較例1〜6に比べ、実施例1〜8では、NOx吸収試験において鉛の溶出量が大幅に抑制されていることが分かる。またISOT試験では銅の溶出が大幅に抑制されている。
なお、表1に記載されているHALS1およびHALS2の化学構造式を以下に示す。
【0109】
【化10】
【0110】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0111】
本発明の潤滑方法は、銅および鉛の溶出を同時に抑制することができるため、特に銅および/または鉛含有摺動材料を有する内燃機関において有用である。