特許第5930964号(P5930964)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5930964耐スクラッチ性が向上した耐衝撃性メチルメタクリレート樹脂組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5930964
(24)【登録日】2016年5月13日
(45)【発行日】2016年6月8日
(54)【発明の名称】耐スクラッチ性が向上した耐衝撃性メチルメタクリレート樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 33/12 20060101AFI20160526BHJP
   C08L 83/04 20060101ALN20160526BHJP
【FI】
   C08L33/12
   !C08L83/04
【請求項の数】8
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-529698(P2012-529698)
(86)(22)【出願日】2011年4月12日
(65)【公表番号】特表2013-504680(P2013-504680A)
(43)【公表日】2013年2月7日
(86)【国際出願番号】KR2011002587
(87)【国際公開番号】WO2011129596
(87)【国際公開日】20111020
【審査請求日】2012年3月15日
【審判番号】不服2014-12777(P2014-12777/J1)
【審判請求日】2014年7月3日
(31)【優先権主張番号】10-2010-0033093
(32)【優先日】2010年4月12日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】512063209
【氏名又は名称】エルジー エムエムエー コープ.
【氏名又は名称原語表記】LG MMA CORP.
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100102255
【弁理士】
【氏名又は名称】小澤 誠次
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【弁理士】
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100188352
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 一弘
(74)【代理人】
【識別番号】100120086
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼津 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100177714
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 昌平
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【弁理士】
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100198074
【弁理士】
【氏名又は名称】山村 昭裕
(72)【発明者】
【氏名】チャン キュンア
(72)【発明者】
【氏名】イ ホサン
(72)【発明者】
【氏名】キム セヨン
(72)【発明者】
【氏名】ジュン ヒョスン
【合議体】
【審判長】 小野寺 務
【審判官】 前田 寛之
【審判官】 田口 昌浩
(56)【参考文献】
【文献】 特開平2−45548(JP,A)
【文献】 特開昭59−136313(JP,A)
【文献】 特開昭62−187772(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K3/00-13/08
C08L1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
衝撃補強剤を10〜50重量%含むPMMA系樹脂及び前記PMMA系樹脂100重量部に対して下記化学式1の構造を有するシロキサン化合物0.5〜5重量部を含む耐スクラッチ性に優れた耐衝撃性メチルメタクリレート樹脂組成物。
[化学式1]

(前記化学式1中、R、R、R及びRはそれぞれ独立して炭素数1〜5のアルキレン基であり、m、nは1以上の整数である。)
【請求項2】
化学式1のR、Rは独立して−(CH−であり、R、Rは独立して−(CH−であり、m、nはm:n=18:30を満たす1以上の整数であることを特徴とする請求項1に記載の耐スクラッチ性に優れた耐衝撃性メチルメタクリレート樹脂組成物。
【請求項3】
衝撃補強剤は、ブタジエン、メチルメタクリレート、メチルアクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、スチレンから選択される何れか一つ以上の共単量体と、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレートから選択される1種以上の架橋剤との重合体である請求項1に記載の耐スクラッチ性に優れた耐衝撃性メチルメタクリレート樹脂組成物。
【請求項4】
PMMA系樹脂は、メチルメタクリレート単量体の単独重合体、またはメチルメタクリレート単量体とアクリレート単量体との共重合体であることを特徴とする請求項1に記載の耐スクラッチ性に優れた耐衝撃性メチルメタクリレート樹脂組成物。
【請求項5】
メチルメタクリレート単量体とアクリレート単量体との共重合体は、メチルメタクリレート単量体が80〜90重量%及びアクリレート単量体が10〜20重量%含まれていることを特徴とする請求項4に記載の耐スクラッチ性に優れた耐衝撃性メチルメタクリレート樹脂組成物。
【請求項6】
アクリレート単量体は、エチルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、I−ブチルメタクリレート、t−ブチルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレートから選択される1種以上のメタクリレート系単量体、またはメチルアクリレート、エチルアクリレート、n−ブチルアクリレート、t−ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレートから選択される1種以上を含む請求項5に記載の耐スクラッチ性に優れた耐衝撃性メチルメタクリレート樹脂組成物。
【請求項7】
樹脂組成物は、活性剤、安定剤、耐熱剤、酸化防止剤、紫外線安定剤、蛍光増白剤、難燃剤、着色剤、染料、無機添加剤及び顔料からなる群から選択される1種以上をさらに含む請求項1に記載の耐スクラッチ性に優れた耐衝撃性メチルメタクリレート樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1〜7から選択される何れか一項に記載の耐スクラッチ性に優れた耐衝撃性メチルメタクリレート樹脂組成物を押出または射出成形する、ハウジングの製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐スクラッチ性が向上した耐衝撃性メチルメタクリレート樹脂組成物に関し、より詳細には、シロキサン化合物を混合して製造することにより、メチルメタクリレート樹脂の流動性及び耐衝撃性、特に、耐スクラッチ性が向上したメチルメタクリレート樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、メチルメタクリレート系樹脂は、高い透過率、表面光沢及び優れた剛性による優れた耐スクラッチ性を有する。このような特性により、メチルメタクリレート系樹脂は、自動車の尾灯、計器板カバー、携帯電話ウィンドウなどの射出製品に用いられ、押出加工により各種板材として使用されるなど、産業全般の様々な分野において応用されている。
【0003】
しかし、メチルメタクリレート系樹脂は、他のプラスチック素材に比べて衝撃強度が弱いため耐衝撃性を要する用途に適用することは難しい。従って、耐衝撃性の向上のために適した衝撃補強剤を導入して耐衝撃性を改善したメチルメタクリレート樹脂を使用しなければならない。
【0004】
しかし、耐衝撃性メチルメタクリレート系樹脂は、衝撃補強剤によって表面硬度及び耐スクラッチ性が低下するという短所があるため、自動車の外装、電子機器のハウジングなどに使用される場合、外部汚染物やスクラッチ、使用者によるスクラッチ発生の不良が発生して深刻な品質低下の問題を誘発する可能性がある。また、製品の生産工程においても作業者によるスクラッチのため製品の不良率が増大して生産コストの増加をもたらすこともある。そのため、耐衝撃性メチルメタクリレート系樹脂は、スクラッチ防止のために保護フィルムなどを使用するが、これにより製造コストが上昇し、製品価格に否定的な影響を与える。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前記のような問題点を解決するためのものであって、耐衝撃性メチルメタクリレート系樹脂にシロキサン化合物を導入することにより、耐スクラッチ性に優れ、衝撃強度及び流動性が向上した耐衝撃性メチルメタクリレート樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を果たすために、本発明は、下記化学式1の構造を有するシロキサン化合物を導入した耐衝撃性メチルメタクリレート樹脂組成物を提供する。
【0007】
本発明による耐衝撃性メチルメタクリレート樹脂組成物は、衝撃補強剤を10〜50重量%含むPMMA系樹脂及び前記PMMA系樹脂100重量部に対して下記化学式1の構造を有するシロキサン化合物0.5〜5重量部を含む。
【0008】
[化学式1]
(前記化学式1中、R、R、R及びRは、それぞれ独立して炭素数1〜5のアルキレン基であり、m、nは1以上の整数である。)
【0009】
本発明の耐衝撃性メチルメタクリレート樹脂組成物の耐スクラッチ性を向上させるためには、前記化学式1の構造を有するシロキサン化合物のR、Rは−(CH−であり、R、Rは−(CH−であり、m、nはm:n=18:30を満たす1以上の整数であることがより好ましい。
【0010】
前記耐衝撃性メチルメタクリレート樹脂組成物は、PMMA系樹脂100重量部に対してシロキサン化合物を0.5〜5重量部を含む。前記シロキサン化合物が0.5重量部未満の場合には耐スクラッチ性、衝撃強度及び流動性向上の効果が少なく、5重量部を超える場合には光透過率及び光沢度が低下し、製造コストが上昇するという問題点がある。従って、前記範囲のシロキサン化合物を含む耐衝撃性メチルメタクリレート樹脂組成物は、優れた流動性、光透過率、光沢度及び耐衝撃性を維持しながら耐スクラッチ性を向上させることができる。
【0011】
前記衝撃補強剤は、平均粒径が0.2〜0.25μmの粉末形態であることが好ましく、ブタジエン、メチルメタクリレート、メチルアクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、スチレンから選択される何れか一つ以上の共単量体と、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレートから選択される1種以上の架橋剤と、を重合したものを含む。
【0012】
前記衝撃補強剤は、メチルアクリレート、エチルアクリレート及びn−ブチルアクリレートからなる群から選択されるアルキルアクリレート;スチレン、α−メチルスチレン、ジビニルベンゼン及びビニルトルエンからなる群から選択されるスチレン系芳香族化合物;ジメチルシロキサン、メチルフェニルシロキサン、ジフェニルシロキサン及びこれらの混合物からなる群から選択されるシロキサン化合物;またはジビニルベンゼン、3−ブタンジオールジアクリレート、1,3−ブタンジオールジメタクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート及びテトラエチレングリコールジメタクリレートから選択される1種以上の架橋剤;からなる2層以上の多層構造を有するものを使用することがより好ましい。
【0013】
前記PMMA系樹脂は、メチルメタクリレート単量体の単独重合体、またはメチルメタクリレート単量体とアクリレート単量体との共重合体であり、前記メチルメタクリレート単量体とアクリレート単量体との共重合体は、メチルメタクリレート単量体が80〜90重量%及びアクリレート単量体が10〜20重量%含まれていることを特徴とする。前記範囲から外れると、メチルメタクリレート樹脂の機械的物性が低下し、自動車の外装、電子機器のハウジングなどの用途に適用するには難しいという問題点がある。
【0014】
前記アクリレート単量体は、エチルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、I−ブチルメタクリレート、t−ブチルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレートから選択される1種以上のメタクリレート系単量体、またはメチルアクリレート、エチルアクリレート、n−ブチルアクリレート、t−ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレートから選択される1種以上を含む。
【0015】
前記衝撃補強剤を含むPMMA系樹脂は、220〜240℃で溶融する押出加工により得られる。前記押出加工された衝撃補強剤を含むPMMA系樹脂は、前記化学式1のシロキサン化合物と混合した後、押出機を用いてペレット状のメチルメタクリレート系樹脂組成物が得られ、これを押出成形法、射出成形法または中空成形法に適用することができる。
【0016】
本発明は、活性剤、安定剤、耐熱剤、酸化防止剤、紫外線安定剤、蛍光増白剤、難燃剤、着色剤、染料、無機添加剤及び顔料からなる群から選択される1種以上をPMMA系樹脂組成物に追加することができる。
【0017】
前記のような本発明の耐スクラッチ性に優れた耐衝撃性メチルメタクリレート樹脂組成物を押出または射出成形してハウジングを製造することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明による樹脂組成物は、耐衝撃性メチルメタクリレート樹脂が有する優れた流動性、光透過率、光沢度及び内衝撃性を維持しながら耐スクラッチ性を向上させることができるものであって、自動車の外装材、ディスプレイ及び電気電子製品などの産業全般のハウジング部品の用途に使用されることができるため、従来の保護フィルムを使用することに比べて工程が簡単で、生産コストを低減させることができるという長所がある。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施例を参照して詳細に説明する。
【0020】
但し、下記実施例は本発明を例示するものにすぎず、本発明の内容は下記実施例によって限定されるものではない。
【0021】
下記実施例及び比較例における物性の特性評価は以下のとおりである。
(1)アイゾッド衝撃強度:ASTM D256
(2)流動性:ASTM D1238、3.8kg、230℃
(3)耐スクラッチ性:ASTM D7027、試片を射出成形してから30Nの荷重を加え100mm/sの速度でスクラッチした後、スクラッチハードネス(Hs)を測定し表面を観察した。
【0022】
実施例1
平均粒径が0.25μmである粉末形態の衝撃補強剤(M210、Kaneka社製) 15重量%及びメチルメタクリレート共重合体85重量%を230℃で溶融して衝撃補強剤を含むPMMA系樹脂を押出する。前記押出されたPMMA系樹脂100重量部に対して下記化学式2のシロキサン化合物(TEGOMER H−Si 6440)1重量部を混合してから押出機を用いてペレット状のメチルメタクリレート系樹脂組成物を得て、その樹脂組成物を射出成形機を用いて試片を成形した後、物性を測定し、その結果を下記表1に示した。
【0023】
[化学式2]

【0024】
実施例2
前記実施例1の前記押出されたPMMA系樹脂100重量部に対してシリコーン系化合物1.5重量部を混合することを除き、実施例1と同一の方法で実施し、その結果を下記表1に示した。
【0025】
実施例3
前記実施例1の前記押出されたPMMA系樹脂100重量部に対してシリコーン系化合物2重量部を混合することを除き、実施例1と同一の方法で実施し、その結果を下記表1に示した。
【0026】
実施例4
前記実施例1の前記押出されたPMMA系樹脂100重量部に対してシリコーン系化合物3重量部を混合することを除き、実施例1と同一の方法で実施し、その結果を下記表1に示した。
【0027】
比較例1
前記実施例1の前記押出されたPMMA系樹脂100重量部を使用することを除き、実施例1と同一の方法で実施し、その結果を下記表1に示した。
【0028】
【表1】
【0029】
前記表1に示されたように、本発明による実施例1〜実施例4の耐衝撃性メチルメタクリレート系樹脂組成物は、比較例に比べてアイゾッド衝撃強度及び流動性が向上しただけでなく、スクラッチハードネスが非常に高く、スクラッチ発生距離が減少することが確認できた。これにより、本発明によるシロキサン化合物を混合して耐スクラッチ性を向上できることが確認された。