【文献】
J. Virol. (2005) vol.79, no.19, p.12425-12433
【文献】
内田哲也,リポソーム表面結合型抗原のアレルギー予防・治療への応用に関する研究,平成13〜15年度創薬等ヒューマンサイエンス研究総合研究報告書,2004年 9月,p.66-70
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
リン脂質が、ジアシルホスファチジルセリン、ジアシルホスファチジルグリセロール、ジアシルホスファチジン酸、ジアシルホスファチジルコリン、ジアシルホスファチジルエタノールアミン、サクシンイミジル−ジアシルホスファチジルエタノールアミン、及びマレイミド−ジアシルホスファチジルエタノールアミンから選ばれる少なくとも1つである、請求項1記載のペプチド結合リポソーム。
ペプチドが、リポソームを構成するリン脂質膜に含まれる不飽和結合を1個有する炭素数14〜24のアシル基又は不飽和結合を1個有する炭素数14〜24の炭化水素基を有するリン脂質に結合している、請求項1記載のペプチド結合リポソーム。
【発明を実施するための形態】
【0016】
1.ペプチド結合リポソーム
本発明は、ペプチドが結合したリポソームであって、
該ペプチドが、C型肝炎ウイルスNS3タンパク質のアミノ酸配列中の9アミノ酸以上の長さの部分アミノ酸配列(好ましくは配列番号1〜3、5及び6のいずれかで表されるアミノ酸配列)を含み、9〜11アミノ酸の長さを有し、且つ細胞傷害性Tリンパ球を誘導し得るものであり;
該リポソームが、不飽和結合を1個有する炭素数14〜24のアシル基又は不飽和結合を1個有する炭素数14〜24の炭化水素基を有するリン脂質、及びリポソームの安定化剤を含有し;且つ
該リポソームの表面に該ペプチドが結合している、
ペプチド結合リポソームを提供する。
【0017】
本発明は、C型肝炎ウイルス抗原中に、下記に詳述するリポソームの表面に結合させた場合に、細胞傷害性T細胞を強力に誘導する活性を有するエピトープとして、C型肝炎ウイルスNS3タンパク質のアミノ酸配列中の9アミノ酸以上の長さのエピトープ配列(本発明のエピトープ配列)を見出したことに基づき完成されたものである。本発明のエピトープ配列は、リポソームに結合させた場合のワクチンとしての有効性の観点から、好ましくは配列番号1〜3、5及び6のいずれかで表されるエピトープ配列である。
【0018】
配列番号1〜6で表されるアミノ酸配列は、C型肝炎ウイルスのNS3タンパク質のアミノ酸配列中に存在する部分配列に相当する。
【0019】
該アミノ酸配列からなるペプチドには、例えば以下のような、異なるウイルス株の同一抗原における対応するエピトープ配列からなるペプチドが含まれている。
YMNTPGLPV(配列番号1)(1a株)
→YLNTPGLPV(配列番号4)(1b株)
AMFDSSVLC(配列番号2)(J1株)
→GMFDSSVLC(配列番号5)(1a株)
IMTCMSADL(配列番号3)(1a株)
→IMACMSADL(配列番号6)(J1株)
【0020】
本発明のエピトープ配列を含むペプチド(本発明のエピトープペプチド)は、細胞傷害性Tリンパ球を誘導することができる。「細胞傷害性Tリンパ球を誘導する」とは、哺乳動物(例えばヒト、トランスジェニックマウス等)を抗原で免疫した場合に、該哺乳動物の生体内において、当該抗原を特異的に認識する細胞傷害性Tリンパ球の数及び/又は活性(例えば細胞傷害活性)が上昇することを意味する。
【0021】
本発明のペプチド結合リポソームに含まれるペプチドの長さは、特に限定されないが通常9〜11アミノ酸、好ましくは9〜10アミノ酸、より好ましくは9アミノ酸である。該ペプチドの長さが10アミノ酸以上である場合には、該ペプチドは、本発明のエピトープ配列のN末端側及び/又はC末端側に付加配列を有する。付加配列の長さやアミノ酸配列は、該ペプチドの上記特性を損なわない限り特に限定されない。例えば、該付加配列は、C型肝炎ウイルスのNS3タンパク質のアミノ酸配列中で、配列番号1〜6のいずれかに相当する部分配列に隣接して実際に存在するアミノ酸配列であり得る。また上記ペプチドが、細胞内で主要組織適合抗原複合体(MHC)を形成する際に、MHCの個人差(多型性)による提示抗原の選別を克服できるような残基であればとりわけ好ましい。
【0022】
本発明のペプチド結合リポソームに含まれるペプチドは、例えば、液相合成又は固相ペプチド合成等の公知のペプチド合成技術によって調製できる。或いは、該ペプチドを発現し得る発現ベクターを導入した形質変換体(大腸菌等)を培養し、その培養物からアフィニティカラム等の周知の精製技術により該ペプチドを単離することにより、該ペプチドを製造することができる。該ペプチドを発現し得る発現ベクターは、周知の遺伝子工学的技術を用いて、該ペプチドをコードするポリヌクレオチドを適切な発現ベクター中のプロモーターの下流に連結することにより構築することができる。
【0023】
本発明のペプチド結合リポソームのリポソーム部分を構成するリン脂質膜は、両親媒性界面活性剤であるリン脂質が、極性基を水相側に向けて界面を形成し、疎水基が界面の反対側に向く構造を有する。ここで、リポソームとは閉鎖空間を有するリン脂質二重膜のことを指す。
【0024】
本発明のペプチド結合リポソームに含まれるペプチドは、それが有する官能基を介してリポソームの表面に結合することができる。リポソーム表面への結合に用いられる該ペプチド中の官能基としては、アミノ基、チオール基、カルボキシル基、水酸基、ジスルフィド基又はメチレン鎖を有する炭化水素基(アルキル基等)からなる疎水基等が挙げられる。これらの内、アミノ基、チオール基、カルボキシル基、水酸基及びジスルフィド基は共有結合により、アミノ基及びカルボキシル基はイオン結合により、疎水基は疎水基同士で疎水結合により、該ペプチドをリポソームの表面に結合することができる。該ペプチドは、好ましくはアミノ基、カルボキシル基又はチオール基を介してリポソームの表面に結合する。
【0025】
本発明のペプチド結合リポソームに含まれるペプチドが有する官能基を介して、該ペプチドが安定にリポソームに結合するため、リポソームを構成するリン脂質膜は、アミノ基、サクシンイミド基、マレイミド基、チオール基、カルボキシル基、水酸基、ジスルフィド基、メチレン鎖を有する炭化水素基(アルキル基等)からなる疎水基等の官能基を有することが望ましい。リポソームを構成するリン脂質膜が有する官能基は、好ましくは、アミノ基、サクシンイミド基又はマレイミド基である。該ペプチドのリポソームへの結合に関与する、該ペプチドの有する官能基とリポソームを構成するリン脂質膜が有する官能基の組み合わせは、本発明の効果に影響しない範囲において自由に選択することができるが、好ましい組み合わせとしては、それぞれ、アミノ基とアルデヒド基、アミノ基とアミノ基、アミノ基とサクシンイミド基、チオール基とマレイミド基等が挙げられる。イオン結合及び疎水結合は、リポソームへのペプチドの結合手順が簡便であり、ペプチド結合リポソームの調製容易性の点から好ましく、また、共有結合は、リポソーム表面のペプチドの結合安定性の点又はペプチド結合リポソームを実用する際の保存安定性の点から好ましい。本発明のペプチド結合リポソームは、その構成成分であるリポソームの表面に優れた細胞傷害性Tリンパ球活性化効果を有するペプチドが結合していることを1つの特徴としている。従って、実用段階で、例えば注射行為によって生体内に投与された後にも、該ペプチドがリポソームの表面に安定に結合していることが、本発明の効果をより高める点で好ましい。このような観点から、該ペプチドとリポソームとの結合としては、共有結合が好ましい。
【0026】
本発明のペプチド結合リポソームのリポソーム部分を構成するリン脂質膜は、不飽和結合を1個有する炭素数14〜24のアシル基又は不飽和結合を1個有する炭素数14〜24の炭化水素基を有するリン脂質、及びリポソームの安定化剤を含有してなる。
【0027】
不飽和結合を1個有する炭素数14〜24のアシル基を有するリン脂質における、該アシル基の炭素数は、好ましくは16〜22であり、更に好ましくは18〜22であり、最も好ましくは18である。該アシル基としては、具体的には、パルミトオレオイル基、オレオイル基、エルコイル基等が挙げられ、最も好ましくはオレオイル基である。
【0028】
不飽和結合を1個有する炭素数14〜24の炭化水素基を有するリン脂質における、該炭化水素基の炭素数は、好ましくは16〜22であリ、更に好ましくは18〜22であり、最も好ましくは18である。該炭化水素基としては、具体的には、テトラデセニル基、ヘキサデセニル基、オクタデセニル基、C20モノエン基、C22モノエン基、C24モノエン基等が挙げられる。
【0029】
リン脂質が有するグリセリン残基の1-位、及び2-位に結合する不飽和のアシル基又は不飽和炭化水素基は、同一でも異なっていてもよい。工業的な生産性の観点から、1-位及び2-位の基が同一であることが好ましい。
【0030】
リン脂質としては、不飽和結合を1個有する炭素数14〜24のアシル基を有するリン脂質が好ましく用いられる。
【0031】
本発明の課題の一つは、C型肝炎ウイルス感染細胞を殺傷するための細胞傷害性Tリンパ細胞(CD8
+T細胞、CTL)を効率よく特異的に増強することである。実用上十分なレベルにCTL活性を増強させる点から、リン脂質は不飽和結合を1個有する炭素数14〜24のアシル基を有することが好ましい。アシル基の炭素数が13未満であると、リポソームの安定性が悪くなったり、またCTL活性増強効果が不十分になる場合がある。また、アシル基の炭素数が24を超えると、リポソームの安定性が悪くなる場合がある。
【0032】
不飽和結合を1個有する炭素数14〜24のアシル基又は不飽和結合を1個有する炭素数14〜24の炭化水素基を有するリン脂質としては、酸性リン脂質、中性リン脂質、ペプチドを結合することのできる官能基を有する反応性リン脂質等の種類が挙げられる。これらは、種々の要求に応じて、その種類、割合を適宜選択することができる。
【0033】
酸性リン脂質としては、ホスファチジルセリン、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジン酸、ホスファチジルイノシトール等を用いることができる。CTL活性を実用上十分なレベルに増強する点、及び工業的な供給性、医薬品として用いるための品質等の点から、不飽和結合を1個有する炭素数14〜24のアシル基を有するジアシルホスファチジルセリン、ジアシルホスファチジルグリセロール、ジアシルホスファチジン酸、及びジアシルホスファチジルイノシトールが好ましく用いられる。酸性リン脂質は、リポソームの表面にアニオン性電離基を与えるので、リポソーム表面にマイナスのゼータ電位を付与する。このためリポソームは、電荷的な反発力を得、水性溶媒中で安定な製剤として存在できる。このように、酸性リン脂質は、本発明のペプチド結合リポソームが水性溶媒中にある際のリポソームの安定性を確保する点で重要である。
【0034】
中性リン脂質としては、例えば、ホスファチジルコリン等を用いることができる。本発明で用いることができる中性リン脂質は、本発明が課題として取り組むCTL活性増強を達成する範囲において、その種類・量を適宜選択して用いることができる。中性リン脂質は、酸性リン脂質及び本発明のペプチドを結合したリン脂質に比べ、リポソームを安定化する機能が高く、膜の安定性を向上させ得る。かかる観点から、本発明のペプチド結合リポソームのリポソーム部分を構成するリン脂質膜は、中性リン脂質を含有することが好ましい。CTL活性増強効果を達成するために用いる酸性リン脂質、ペプチド結合のための反応性リン脂質及びリポソームの安定化剤の含有量を確保した上で、中性リン脂質の使用量を決定できる。
【0035】
本発明のペプチド結合リポソームにおいては、本発明のペプチドがリポソームを構成するリン脂質膜に含まれる不飽和結合を1個有する炭素数14〜24のアシル基又は不飽和結合を1個有する炭素数14〜24の炭化水素基を有するリン脂質に結合することにより、リポソームの表面に結合する。
【0036】
このペプチド結合のためのリン脂質として、本発明のペプチドが結合することのできる官能基を有する反応性リン脂質が用いられる。不飽和結合を1個有する炭素数14〜24のアシル基又は不飽和結合を1個有する炭素数14〜24の炭化水素基を有する反応性リン脂質は、種々の要求に応じて、その種類、割合が適宜選択される。前記リン脂質と同様に、反応性リン脂質においても、リン脂質に含まれる不飽和アシル基又は不飽和炭化水素基の炭素数が24を超えるか、14未満である場合は好ましくない。
【0037】
反応性リン脂質としては、ホスファチジルエタノールアミン又はその末端変性体が挙げられる。また、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルセリン、ホスファチジン酸、ホスファチジルイノシトール及びこれらの末端変性体も反応性リン脂質として用いることができる。工業的な入手性、本発明のペプチドとの結合工程の簡便性、収率等の点から、ホスファチジルエタノールアミン又はその末端変性体が好ましく用いられる。ホスファチジルエタノールアミンはその末端に本発明のペプチドを結合することのできるアミノ基を有する。更に、CTL活性を実用上十分なレベルに増強する点、リポソームでの安定性、及び工業的な供給性、医薬品として用いるための品質等の点から、不飽和結合を1個有する炭素数14〜24のアシル基を有するジアシルホスファチジルエタノールアミン又はその末端変性体が最も好ましく用いられる。
【0038】
ジアシルホスファチジルエタノールアミンは、例えば、ジアシルホスファチジルコリンを原料に、ホスホリパーゼDを用いてコリンとエタノールアミンを塩基交換反応させることで得ることができる。具体的には、ジアシルホスファチジルコリンを溶解したクロロホルム溶液と、ホスホリパーゼD及びエタノールアミンを溶解した水を適宜比率において混合し粗反応物を得ることができる。粗反応物を、クロロホルム/メタノール/水系溶媒を用いてシリカゲルカラムで精製し目的のジアシルホスファチジルエタノールアミンを得ることができる。当業者であれば、溶媒組成比等のカラム精製条件を適宜選択して実施することが可能である。
【0039】
末端変性体としては、ジアシルホスファチジルエタノールアミンのアミノ基に2価反応性化合物の一方の末端を結合させたジアシルホスファチジルエタノールアミン末端変性体が挙げられる。2価反応性化合物としては、ジアシルホスファチジルエタノールアミンのアミノ基と反応することができるアルデヒド基又はコハク酸イミド基を少なくとも片方の末端に有する化合物が利用できる。アルデヒド基を有する2価反応性化合物として、グリオキサール、グルタルアルデヒド、サクシンジアルデヒド、テレフタルアルデヒド等が挙げられる。好ましくは、グルタルアルデヒドが挙げられる。コハク酸イミド基を有する2価反応性化合物として、ジチオビス(サクシンイミジルプロピオネート)、エチレングリコール−ビス(サクシンイミジルサクシネート)、ジサクシンイミジルサクシネート、ジサクシンイミジルスベレート、又はジサクシンイミジルグルタレート等が挙げられる。
【0040】
また、一方の末端にサクシンイミド基、他方の片末端にマレイミド基を有する2価反応性化合物として、N-サクシンイミジル4-(p-マレイミドフェニル)ブチレート、スルホサクシンイミジル-4-(p-マレイミドフェニル)ブチレート、N-サクシンイミジル-4-(p-マレイミドフェニル)アセテート、N-サクシンイミジル-4-(p-マレイミドフェニル)プロピオネート、サクシンイミジル-4-(N-マレイミドエチル)-シクロヘキサン-1-カルボキシレート、スルホサクシンイミジル-4-(N-マレイミドエチル)-シクロヘキサン-1-カルボキシレート、N-(γ-マレイミドブチリルオキシ)サクシンイミド、N-(ε-マレイミドカプロイルオキシ)サクシンイミド等が挙げられる。このような2価反応性化合物を用いると、官能基としてマレイミド基を有するジアシルホスファチジルエタノールアミン末端変性体が得られる。以上のような2価反応性化合物の一方の末端の官能基をジアシルホスファチジルエタノールアミンのアミノ基に結合し、ジアシルホスファチジルエタノールアミン末端変性体を得ることができる。
【0041】
リポソームの表面にペプチドを結合する方法としては、例えば、上記の反応性リン脂質を含有するリポソームを調製し、次にペプチドを加えてリポソームの反応性リン脂質にペプチドを結合する方法を挙げることができる。また、予めペプチドを反応性リン脂質に結合しておき、次に、得られたペプチドが結合した反応性リン脂質を、反応性リン脂質以外のリン脂質及びリポソームの安定化剤と混合することによっても、ペプチドを表面に結合したリポソームを得ることができる。反応性リン脂質へのペプチドの結合方法は、当該技術分野において周知である。
【0042】
本発明のペプチド結合リポソームのリポソーム部分を構成するリン脂質膜は、不飽和結合を1個有する炭素数14〜24のアシル基又は不飽和結合を1個有する炭素数14〜24の炭化水素基を有するリン脂質を少なくとも1種、例えば2種以上、好ましくは3種以上含有する。
【0043】
例えば、本発明のペプチド結合リポソームのリポソーム部分を構成するリン脂質膜は、ジアシルホスファチジルセリン、ジアシルホスファチジルグリセロール、ジアシルホスファチジン酸、ジアシルホスファチジルコリン、ジアシルホスファチジルエタノールアミン、サクシンイミジル−ジアシルホスファチジルエタノールアミン、及びマレイミド−ジアシルホスファチジルエタノールアミンから選ばれる少なくとも1種、例えば2種以上、好ましくは3種以上の、不飽和結合を1個有する炭素数14〜24のアシル基又は不飽和結合を1個有する炭素数14〜24の炭化水素基を有するリン脂質を含有する。
【0044】
また、本発明のペプチド結合リポソームのリポソーム部分を構成するリン脂質膜は、
不飽和結合を1個有する炭素数14〜24のアシル基又は不飽和結合を1個有する炭素数14〜24の炭化水素基を有する酸性リン脂質、
不飽和結合を1個有する炭素数14〜24のアシル基又は不飽和結合を1個有する炭素数14〜24の炭化水素基を有する中性リン脂質、
及び不飽和結合を1個有する炭素数14〜24のアシル基又は不飽和結合を1個有する炭素数14〜24の炭化水素基を有する反応性リン脂質
を、それぞれ、少なくとも1種含有することが好ましい。
【0045】
本発明において、リポソームの安定化剤としては、ステロール類やトコフェロール類を用いることができる。前記のステロール類としては、一般にステロール類として知られるものであればよく、例えば、コレステロール、シトステロール、カンペステロール、スチグマステロール、ブラシカステロール等が挙げられ、入手性等の点から、特に好ましくは、コレステロールが用いられる。前記のトコフェロール類としては、一般にトコフェロールとして知られるものであればよく、例えば、入手性等の点から、市販のα-トコフェロールが好ましく挙げられる。
【0046】
さらに、本発明の効果を損なわない限り、本発明のペプチド結合リポソームのリポソーム部分を構成するリン脂質膜は、リポソームを構成することのできる、公知の構成成分を含んでいてもよい。
【0047】
本発明のペプチド結合リポソームのリポソーム部分を構成するリン脂質膜の組成としては、例えば以下を挙げることができる:
(A)不飽和結合を1個有する炭素数14〜24のアシル基又は不飽和結合を1個有する炭素数14〜24の炭化水素基を有するリン脂質 1〜99.8モル%;
(B)リポソームの安定化剤 0.2〜75モル%
尚、各成分の含有量は、ペプチド結合リポソームのリポソーム部分を構成するリン脂質膜の全構成成分に対するモル%として表示する。
上記成分(A)の含有量は、リポソームの安定性の観点から、好ましくは10〜90モル%、より好ましくは30〜80モル%、更に好ましくは50〜70モル%である。
上記成分(B)の含有量は、リポソームの安定性の観点から、好ましくは5〜70モル%、より好ましくは10〜60モル%、更に好ましくは20〜50モル%である。安定化剤の含有量が75モル%を超えるとリポソームの安定性が損なわれ好ましくない。
【0048】
上記成分(A)には、以下が含まれる:
(a)ペプチドが結合していない、不飽和結合を1個有する炭素数14〜24のアシル基又は不飽和結合を1個有する炭素数14〜24の炭化水素基を有するリン脂質、及び
(b)ペプチドが結合した、不飽和結合を1個有する炭素数14〜24のアシル基又は不飽和結合を1個有する炭素数14〜24の炭化水素基を有するリン脂質。
上記成分(a)の含有量は、通常0.01〜85モル%、好ましくは0.1〜80モル%、より好ましくは0.1〜60モル%、更に好ましくは0.1〜50モル%である。
上記成分(b)の含有量は、通常0.2〜80モル%、好ましくは0.3〜60モル%、より好ましくは0.4〜50モル%、更に好ましくは0.5〜25モル%である。含有量が0.2モル%未満であると、本発明のペプチドの量が低下するため、実用上十分なレベルに細胞傷害性Tリンパ球を活性化することが困難となり、80モル%を超えると、リポソームの安定性が低下する。
【0049】
上記成分(a)のリン脂質には、通常、上述の酸性リン脂質及び中性リン脂質が含まれる。また、上記成分(b)のリン脂質には、上述の反応性リン脂質が含まれる。
【0050】
酸性リン脂質の含有量は、通常1〜85モル%、好ましくは2〜80モル%、より好ましくは4〜60モル%、更に好ましくは5〜40モル%である。含有量が1モル%未満であると、ゼータ電位が小さくなりリポソームの安定性が低くなり、また、実用上十分なレベルに細胞傷害性Tリンパ球を活性化することが困難となる。一方、含有量が85モル%を超えると、結果として、リポソームのペプチドが結合したリン脂質の含有量が低下し、実用上十分なレベルに細胞傷害性Tリンパ球を活性化することが困難となる。
【0051】
中性リン脂質の含有量は、通常0.01〜80モル%、好ましくは0.1〜70モル%、より好ましくは0.1〜60モル%、更に好ましくは0.1〜50モル%である。含有量が80.0モル%を超えると、リポソームに含まれる酸性リン脂質、ペプチドが結合したリン脂質及びリポソームの安定化剤の含有量が低下し、実用上十分なレベルに細胞傷害性Tリンパ球を活性化することが困難となる。
【0052】
ペプチドが結合したリン脂質は、前記の反応性リン脂質にペプチドが結合して得られるもので、反応性リン脂質がペプチドと結合する割合は、本発明の効果を妨げない範囲において、結合に用いる官能基の種類、結合処理条件等を適宜実施して選択することができる。
【0053】
例えば、ジアシルホスファチジルエタノールアミンの末端アミノ基に2価反応性化合物であるジサクシンイミジルサクシネートの片末端を結合して得たジアシルホスファチジルエタノールアミンの末端変性体を反応性リン脂質として用いる場合、結合処理諸条件の選択によって反応性リン脂質の10〜99%をペプチドと結合することができる。この場合、ペプチドと結合していない反応性リン脂質は、酸性リン脂質となってリポソームに含有される。
【0054】
本発明のペプチド結合リポソームのリポソーム部分を構成するリン脂質膜の好ましい態様としては、以下の組成を挙げることができる:
(I) 不飽和結合を1個有する炭素数14〜24のアシル基又は不飽和結合を1個有する炭素数14〜24の炭化水素基を有する酸性リン脂質1〜85モル%;
(II) 不飽和結合を1個有する炭素数14〜24のアシル基又は不飽和結合を1個有する炭素数14〜24の炭化水素基を有する中性リン脂質0.01〜80モル%;
(III) ペプチドが結合した、不飽和結合を1個有する炭素数14〜24のアシル基又は不飽和結合を1個有する炭素数14〜24の炭化水素基を有するリン脂質0.2〜80モル%;
(IV) リポソームの安定化剤0.2〜75モル%。
(合計100モル%)
【0055】
本発明のペプチド結合リポソームのリポソーム部分を構成するリン脂質膜のより好ましい態様としては、以下の組成を挙げることができる:
上記成分(I) 2〜80モル%
上記成分(II) 0.1〜70モル%
上記成分(III) 0.3〜60モル%
上記成分(IV) 10〜70モル%
(合計100モル%)
【0056】
本発明のペプチド結合リポソームのリポソーム部分を構成するリン脂質膜の更に好ましい態様としては、以下の組成を挙げることができる:
上記成分(I) 4〜60モル%
上記成分(II) 0.1〜60モル%
上記成分(III) 0.4〜50モル%
上記成分(IV) 20〜60モル%
(合計100モル%)
【0057】
本発明のペプチド結合リポソームのリポソーム部分を構成するリン脂質膜のとりわけ好ましい態様としては、以下の組成を挙げることができる:
上記成分(I) 5〜40モル%
上記成分(II) 0.1〜50モル%
上記成分(III) 0.5〜25モル%
上記成分(IV) 25〜55モル%
(合計100モル%)
【0058】
本発明のペプチド結合リポソームは、リポソーム部分を構成するリン脂質膜中のリン脂質に含まれる不飽和アシル基又は不飽和炭化水素基の炭素数が14〜24であることを特徴とするが、本発明の効果を妨げない範囲で、炭素数が14未満又は24を超える不飽和アシル基又は不飽和炭化水素基を含むリン脂質を含んでいても差支えない。本発明のペプチド結合リポソームのリポソーム部分を構成するリン脂質膜中のリン脂質に含まれる全ての不飽和アシル基又は不飽和炭化水素基の合計数に対して、炭素数が14〜24である不飽和アシル基又は不飽和炭化水素基の数の割合は、例えば50%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは75%以上、更に好ましくは90%以上、最も好ましくは97%以上(例えば実質的に100%)である。
【0059】
本発明のペプチド結合リポソームのリポソーム部分を構成するリン脂質膜は、本発明の効果を妨げない限り、炭素数が14〜24の範囲のアシル基又は炭化水素基を有する、リン脂質以外の脂質を含んでもよい。該脂質の含有量は、通常は40モル%以下であり、好ましくは20モル%以下、より好ましくは10モル%以下、更に好ましくは5モル%以下(例えば実質的に0モル%)である。
【0060】
本発明のペプチド結合リポソームのリポソーム部分は、構成成分であるリン脂質、反応性リン脂質、リポソームの安定化剤、ペプチド等を用い、適宜配合や加工を行い、これを適当な溶媒に添加する等の方法で得ることができる。
【0061】
例えば、エクスツルージョン法、ボルテックスミキサー法、超音波法、界面活性剤除去法、逆相蒸発法、エタノール注入法、プレベシクル法、フレンチプレス法、W/O/Wエマルジョン法、アニーリング法、凍結融解法等の製造方法が挙げられる。リポソームの形態は、特に限定されず、前記のリポソーム製造方法を適宜選択することにより、多重層リポソーム、小さな一枚膜リポソーム、大きな一枚膜リポソーム等、種々の大きさや形態を有するリポソームを製造することができる。
【0062】
リポソームの粒径は特に限定されるものではないが、保存安定性等の点から、粒径は20〜600nmが挙げられ、好ましくは30〜500nm、次に好ましくは40〜400nmであり、更に好ましくは、50〜300nmであり、最も好ましくは70〜230nmである。
【0063】
なお、本発明においては、リポソームの物理化学的安定性を向上させるために、リポソーム調製過程又は調製後に、リポソームの内水相及び/又は外水相に、糖類又は多価アルコール類を添加しても良い。特に、長期保存或いは製剤化途上での保管が必要な場合には、リポソームの保護剤として、糖或いは多価アルコールを添加・溶解し、凍結乾燥により水分を除いてリン脂質組成物の凍結乾燥物とすることが好ましい。
【0064】
糖類としては、例えばグルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース、イノシトール、リボース、キシロース等の単糖類;サッカロース、ラクトース、セロビオース、トレハロース、マルトース等の二糖類;ラフィノース、メレジトース等の三糖類;シクロデキストリン等のオリゴ糖;デキストリン等の多糖類;キシリトール、ソルビトール、マンニトール、マルチトール等の糖アルコール等が挙げられる。これらの糖類の中では単糖類又は二糖類が好ましく、中でもグルコース又はサッカロースが入手性等の点からより好ましく挙げられる。
【0065】
前記多価アルコール類としては、例えば、グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、テトラグリセリン、ペンタグリセリン、ヘキサグリセリン、ヘプタグリセリン、オクタグリセリン、ノナグリセリン、デカグリセリン、ポリグリセリン等のグリセリン系化合物;ソルビトール、マンニトール等の糖アルコール系化合物;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ペンタエチレングリコール、ヘキサエチレングリコール、ヘプタエチレングリコール、オクタエチレングリコール、ノナエチレングリコール等が挙げられる。このうち、グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、ソルビトール、マンニトール、分子量400〜10,000のポリエチレングリコールが入手性の点から好ましく挙げられる。
【0066】
リポソームの内水相及び/又は外水相に含ませる、糖類或いは多価アルコール類の濃度は、リポソーム液に対する重量濃度で、例えば1〜20重量%が挙げられ、好ましくは2〜10重量%が挙げられる。
【0067】
本発明のペプチド結合リポソームを製造する場合、ペプチドを結合させる前のリポソームを作製した後、ペプチドを結合させることにより簡便に本発明のペプチド結合リポソームを得ることができる。
【0068】
例えば、リン脂質、リポソームの安定化剤及び膜表面にペプチドを結合するための反応性リン脂質を含有したリポソームの懸濁液を調製し、その外水相に前記の糖類の一つであるスクロースを2〜10重量%程度加えて溶解する。この糖添加製剤を10mlガラス製バイヤルに移して棚段式凍結乾燥機内に置き、-40℃等に冷却して試料を凍結した後、常法により凍結乾燥物を得る。
【0069】
ここで得たリポソームの凍結乾燥物は、水分が取り除かれているため長期の保存が可能であり、必要時に特定のペプチドを加えて後の工程を実施することにより、本発明の最終的なペプチド結合リポソームを簡便に迅速に得ることができる。ペプチドとリポソームとの相互作用が強く不安定性が強い場合等は、このようにリポソームの凍結乾燥物の段階で保存し、必要な際にペプチドを結合して用いると非常に簡便である。
【0070】
本発明のペプチド結合リポソームのリポソーム部分を構成するリン脂質膜は、ペプチドが結合したリン脂質を有し得る。ペプチドが結合したリン脂質を含有するリポソームを得る方法としては、次の(A)及び(B)による方法が挙げられる。
(A)リン脂質、反応性脂質、リポソームの安定化剤を含有するリポソームを調製し、これにペプチド及び2価反応性化合物を添加し、リポソーム中に含有される反応性リン脂質の官能基と、該ペプチドの官能基とを、2価反応性化合物を介して連結する方法。ここで用いることができる2価反応性化合物は、反応性リン脂質の末端変性体調製において用いたものを同様に用いることができる。具体的には、アルデヒド基を有する2価反応性化合物として、グリオキサール、グルタルアルデヒド、サクシンジアルデヒド、テレフタルアルデヒド等が挙げられる。好ましくは、グルタルアルデヒドが挙げられる。更に、コハク酸イミド基を有する2価反応性化合物として、ジチオビス(サクシンイミジルプロピオネート)、エチレングリコール−ビス(サクシンイミジルサクシネート)、ジサクシンイミジルサクシネート、ジサクシンイミジルスベレート、又はジサクシンイミジルグルタレート等が挙げられる。また、片末端にサクシンイミド基、もう一方の片末端にマレイミド基を有する2価反応性化合物として、N-サクシンイミジル-4-(p-マレイミドフェニル)ブチレート、スルホサクシンイミジル-4-(p-マレイミドフェニル)ブチレート、N-サクシンイミジル-4-(p-マレイミドフェニル)アセテート、N-サクシンイミジル-4-(p-マレイミドフェニル)プロピオネート、サクシンイミジル-4-(N-マレイミドエチル)-シクロヘキサン-1-カルボキシレート、スルホサクシンイミジル-4-(N-マレイミドエチル)-シクロヘキサン-1-カルボキシレート、N-(γ-マレイミドブチリルオキシ)サクシンイミド、N-(ε-マレイミドカプロイルオキシ)サクシンイミド等を使用することができる。かかる2価反応性化合物を使用すると、官能基としてマレイミド基を有する反応性リン脂質(例えばホスファチジルエタノールアミン)の末端変性体が得られる。
(B)リン脂質、反応性リン脂質、リポソームの安定化剤を含有するリポソームを調製し、これにペプチドを添加し、リポソームに含まれる反応性リン脂質の官能基と、該ペプチドの官能基を連結して結合させる方法。
【0071】
前記(A)及び(B)における結合の種類としては、例えば、イオン結合、疎水結合、共有結合等が挙げられるが、好ましくは共有結合である。更に共有結合の具体例としては、シッフ塩基結合、アミド結合、チオエーテル結合、エステル結合等が挙げられる。
【0072】
以上の2つの方法いずれとも、リポソームを構成するリン脂質膜に含まれる反応性リン脂質にペプチドを結合することができ、リポソームにペプチドを結合したリン脂質が形成される。
【0073】
前記の(A)の方法において、原料となるリポソームとペプチドとを2価反応性化合物を介して結合させる方法の具体例としては、例えば、シッフ塩基結合を利用する方法が挙げられる。シッフ塩基結合を介してリポソームとペプチドとを結合する方法としては、アミノ基を表面に有するリポソームを調製し、ペプチドを該リポソームの懸濁液に添加し、次に、2価反応性化合物としてジアルデヒドを加え、リポソーム表面のアミノ基と該ペプチド中のアミノ基とをシッフ塩基を介して結合する方法を挙げることができる。
【0074】
この結合手順の具体例としては、例えば、次の方法が挙げられる。
(A−1)アミノ基を表面に有するリポソームを得るために、不飽和結合を1個有する炭素数14〜24のアシル基又は不飽和結合を1個有する炭素数14〜24の炭化水素基を有する反応性リン脂質(例 ホスファチジルエタノールアミン)をリポソーム原料脂質(リン脂質、リポソームの安定化剤等)中に混合して、アミノ基がリポソーム表面に所定量存在するリポソームを作成する。
(A−2)前記リポソーム懸濁液に、ペプチドを添加する。
(A−3)次に、2価反応性化合物としてグルタルアルデヒドを加えて、所定の時間反応させてリポソームとペプチドとの間にシッフ塩基結合を形成する。
(A−4)その後、余剰のグルタルアルデヒドの反応性を失活させるため、アミノ基含有水溶性化合物としてグリシンをリポソーム懸濁液に加えて反応させる。
(A−5)ゲルろ過、透析、限外ろ過、遠心分離等の方法により、リポソームに未結合のペプチド、グルタルアルデヒドとグリシンとの反応産物、及び余剰のグリシンを除去して、本発明のペプチド結合リポソーム懸濁液を得る。
【0075】
前記の(B)の方法の具体例としては、アミド結合、チオエーテル結合、シッフ塩基結合、エステル結合等を形成することのできる官能基を有する反応性リン脂質を、リポソームを構成するリン脂質膜に導入する方法が挙げられる。このような官能基の具体例としては、サクシンイミド基、マレイミド基、アミノ基、イミノ基、カルボキシル基、水酸基、チオール基等が挙げられる。
【0076】
リポソームを構成するリン脂質膜に導入する反応性リン脂質の例としては、前記の不飽和結合を1個有する炭素数14〜24のアシル基又は不飽和結合を1個有する炭素数14〜24の炭化水素基を有する反応性リン脂質(例 ホスファチジルエタノールアミン)のアミノ基末端の末端変性物を用いることができる。
【0077】
この結合手順の具体例として、ジアシルホスファチジルエタノールアミンを用いた場合を例にとって、以下説明する。
(B−1)不飽和結合を1個有する炭素数14〜24のアシル基を有するジアシルホスファチジルエタノールアミンとジサクシンイミジルサクシネートを公知の方法で片末端のみ反応させて、官能基としてサクシンイミド基を末端に有するジサクシンイミジルサクシネート結合ジアシルホスファチジルエタノールアミンを得る。
(B−2)前記ジサクシンイミジルサクシネート結合ジアシルホスファチジルエタノールアミンと他のリポソーム構成成分(リン脂質、リポソームの安定化剤等)とを公知の方法で混合し、表面に官能基としてサクシンイミド基を有するリポソームを作成する。
(B−3)前記リポソーム懸濁液に、ペプチドを加え、該ペプチド中のアミノ基と、リポソーム表面のサクシンイミド基とを反応させる。
(B−4)未反応のペプチド、反応副生物等を、ゲルろ過、透析、限外ろ過、遠心分離等の方法により除去して、本発明のペプチド結合リン脂質を含有するリポソームの懸濁液を得る。
【0078】
リポソームとペプチドとを結合する場合、官能基として含有されることが多いアミノ基又はチオール基を対象とすることが実用上好ましい。アミノ基を対象とする場合には、サクシンイミド基と反応させることによりシッフ塩基結合を形成させることができる。チオール基を対象とする場合には、マレイミド基と反応させることによりチオエーテル結合を形成させることができる。
【0079】
2.ペプチド
本発明はまた、細胞傷害性Tリンパ球を誘導し得るペプチドであって、配列番号1又は2で表されるアミノ酸配列を含み、且つ9〜11アミノ酸の長さを有するペプチド(本発明のペプチド)を提供する。
【0080】
本発明のペプチドは、配列番号1若しくは2で表される優れたエピトープ配列からなるペプチド自体であるか、又は細胞内でプロテアソーム等の作用により切断され、該ペプチドを生じる。従って、本発明のペプチドは、配列番号1又は2で表されるエピトープ配列からなるペプチドと実質的に同一の優れた特性を有する。即ち本発明のペプチドは、細胞傷害性Tリンパ球を誘導し得る。そのため、本発明のペプチドを下記のような本発明の細胞傷害性Tリンパ球活性化剤及びC型肝炎ウイルスワクチンの製造に供した場合、C型肝炎ウイルスが感染した細胞の殺傷やC型肝炎ウイルスの感染防御に優れた効果を発揮する。
【0081】
本発明のペプチドの長さは、特に限定されないが通常9〜11アミノ酸、好ましくは9〜10アミノ酸、より好ましくは9アミノ酸である。本発明のペプチドの長さが10アミノ酸以上である場合には、本発明のペプチドは、配列番号1又は2で表されるエピトープ配列のN末端側及び/又はC末端側に付加配列を有する。付加配列の長さやアミノ酸配列は、本発明のペプチドの上記特性を損なわない限り特に限定されない。例えば、該付加配列は、C型肝炎ウイルスのNS3タンパク質のアミノ酸配列中で、配列番号1又は2に相当する部分配列に隣接して実際に存在するアミノ酸配列であり得る。また上記ペプチドが、細胞内で主要組織適合抗原複合体(MHC)を形成する際に、MHCの個人差(多型性)による提示抗原の選別を克服できるような残基であればとりわけ好ましい。
【0082】
本発明のペプチドは、上記本発明のペプチド結合リポソームに含まれるペプチドと同様の方法により調製することができる。
【0083】
3.本発明のペプチド及びペプチド結合リポソームの用途
本発明のペプチドやペプチド結合リポソームを用いれば、特異的に本発明のペプチド又は本発明のエピトープペプチドを認識する細胞傷害性Tリンパ球(CTL)を強力に誘導することが可能となる。本発明のペプチドやペプチド結合リポソームにより誘導される細胞傷害性Tリンパ球は、C型肝炎ウイルスに感染した結果、HLA上に本発明のペプチド又は本発明のエピトープペプチドを提示した細胞を殺傷し、これらの細胞を除去する。従って、本発明のペプチドやペプチド結合リポソームは、細胞傷害性Tリンパ球活性化剤やC型肝炎ウイルスワクチンとしてC型肝炎の治療や予防に有用である。
【0084】
本発明のペプチドやペプチド結合リポソームを細胞傷害性Tリンパ球活性化剤やC型肝炎ウイルスワクチンとして使用する場合は、常套手段に従って製剤化することができる。本発明のペプチドやペプチド結合リポソームは低毒性であり、そのまま液剤として、又は適当な剤形の医薬組成物として、ヒト、非ヒト哺乳動物(例、ラット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ネコ、イヌ、サル等)、鳥類(ニワトリ、ガチョウ、アヒル、ダチョウ、ウズラ等)等に対して経口的又は非経口的(例、血管内投与、皮下投与等)に投与することができる。本発明のペプチドやペプチド結合リポソームの投与対象である動物は、通常、標的とするC型肝炎ウイルスが感染し得る哺乳動物(例、ヒト)及び鳥類である。本発明のペプチドやペプチド結合リポソームは、通常、非経口的に投与される。
【0085】
本発明の細胞傷害性Tリンパ球活性化剤及びC型肝炎ウイルスワクチンは、その有効成分であるペプチド又はペプチド結合リポソーム自体を投与しても良いし、又は適当な医薬組成物として投与しても良い。投与に用いられる医薬組成物としては、上記ペプチド又はペプチド結合リポソームと薬理学的に許容され得る担体、希釈剤又は賦形剤とを含むものであっても良い。このような医薬組成物は、経口又は非経口投与に適する剤形として提供される。
【0086】
非経口投与のための組成物としては、例えば、注射剤、坐剤等が用いられ、注射剤は静脈注射剤、皮下注射剤、皮内注射剤、筋肉注射剤、点滴注射剤等の剤形を包含しても良い。このような注射剤は、公知の方法に従って調製できる。注射剤の調製方法としては、例えば、上記ペプチド又はペプチド結合リポソームを通常注射剤に用いられる無菌の水性溶媒に溶解又は懸濁することによって調製できる。注射用の水性溶媒としては、例えば、蒸留水;生理的食塩水;リン酸緩衝液、炭酸緩衝液、トリス緩衝液、酢酸緩衝液等の緩衝液等が使用できる。このような水系溶媒のpHは5〜10が挙げられ、好ましくは6〜8である。調製された注射液は、適当なアンプルに充填されることが好ましい。
【0087】
また、本発明のペプチドの溶解液又は本発明のペプチド結合リポソームの懸濁液を、真空乾燥、凍結乾燥等の処理に付すことにより、本発明のペプチド又は本発明のペプチド結合リポソームの粉末製剤を調製することもできる。本発明のペプチド又は本発明のペプチド結合リポソームを粉末状態で保存し、使用時に該粉末を注射用の水系溶媒で分散することにより、使用に供することができる。
【0088】
本発明の細胞傷害性Tリンパ球活性化剤及びC型肝炎ウイルスワクチンは、その効果を増強するため、アジュバントをさらに含有してもよい。アジュバントとしては、水酸化アルミニウムゲル、完全フロイントアジュバント、不完全フロイントアジュバント、百日咳菌アジュバント、ポリ(I,C)、CpG-DNA等が挙げられるが、CpG-DNAがとりわけ好ましい。CpG-DNAは細菌の非メチル化CpGモチーフを含むDNAであり、特定の受容体(Toll-like receptor 9)のリガンドとしてはたらくことが知られている(詳細はBiochim. Biophys. Acta 1489, 107-116 (1999) 及び Curr. Opin. Microbiol. 6, 472-477 (2003)参照)。CpG-DNAは樹状細胞(DC)を活性化することにより、本発明のペプチド又はペプチド結合リポソームによる細胞傷害性Tリンパ球の誘導を増強することができる。
【0089】
医薬組成物中の有効成分(本発明のペプチド又はペプチド結合リポソーム)の含有量は、通常、医薬組成物全体の約0.1〜100重量%、好ましくは約1〜99重量%、さらに好ましくは約10〜90重量%程度である。
【0090】
本発明の細胞傷害性Tリンパ球活性化剤又はC型肝炎ウイルスワクチンがアジュバントを含む場合、該アジュバント(例えばCpG-DNA)の含有量は、細胞傷害性Tリンパ球の誘導を増強し得る範囲で適宜設定することができるが、通常、医薬組成物全体の約0.01〜10重量%、好ましくは約0.1〜5重量%程度である。
【0091】
本発明のペプチド又は本発明のペプチド結合リポソームの投与量は、投与する対象、投与方法、投与形態等によって異なるが、例えば、皮下投与或いは経鼻投与により生体内の細胞傷害性Tリンパ球を活性化する場合には、通常成人1人(体重60kg)あたり本発明のペプチドとして一回当たり1μg〜1000μgの範囲、好ましくは20μg〜100μgの範囲で、通常4週間から18ヶ月に亘って、2回から3回投与する。また、皮下投与によりC型肝炎ウイルス感染に対して予防する場合には、本発明のペプチドとして一回当たり1μg〜1000μgの範囲、好ましくは20μg〜100μgの範囲で、通常4週間から18ヶ月に亘って、2回から3回投与する。更に、皮下投与によりC型肝炎を治療する場合には、本発明のペプチドとして一回当たり1μg〜1000μgの範囲、好ましくは20μg〜100μgの範囲で、通常4週間から18ヶ月に亘って、2回から3回投与する。
【0092】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0093】
(マウスの免疫)
マウスは、マウス固有のMHCクラスI遺伝子であるH-2DとH-2K、及びβ2-microglobulin遺伝子がノックアウトされ、ヒトのHLA-A*0201及びβ2-microglobulin遺伝子が導入され発現しているHHDマウス(Pascolo S, Bervas N, Ure JM, Smith AG, Lemonnier FA, Perarnau B. The Journal of Experimental Medicine 1997; 185(12):2043-2051)を使用した。一部の実験にはHHD(雄)とC57BL/6マウス(雌、東京実験動物株式会社から購入)をかけ合わせて生まれた仔(F1)を用いた。ペプチド結合リポソームの免疫は、6種のペプチドプールを結合したリポソームの場合は100μl/匹で、単独のペプチド結合リポソームの場合は20μl/匹で、それぞれCpG5002(北海道システムサイエンス(株)に合成を委託)(5μg/匹)と共に皮下注射し、7日後に(1)NS3を発現する組換えワクシニアウイルス(VV-NS3)による感染実験、(2)
51Cr放出試験、又は(3)ELISPOT(IFN−γ)に供した。
免疫の陽性対照として、HCVのNS3、NS4、NS5A遺伝子を発現する組換えアデノウイルスAdex1CA3269(Makimura M, Miyake S, Akino N et al. Vaccine 1996; 14:28-34、Urbani S, Uggeri J, Matsuura Y et al. Hepatology 2001; 33(6):1533-1543、Ohno S, Moriya O, Yoshimoto T, Hayashi H, Akatsuka T, Matsui M., Viral Immunol. 2006; 19:458-467)の5×10
7PFUを腹腔内接種したマウスを用いた。エピトープの免疫原性の比較実験で、上記のAdex1CA3269による免疫に加え、HCV-NS3遺伝子を発現する組換えワクシニアウイルス(VV-NS3)の1×10
7PFUを腹腔内接種する免疫も行った。
【0094】
(ワクシニアウイルス感染実験)
HCV-NS3遺伝子を発現する組換えワクシニアウイルス(VV-NS3)は、既に報告した方法(Ohnishi Y, Shioda T, Nakayama K et al. The Journal of Virology 1994; 68(6):4075-4079)と同様に次のように作成した。HCV cDNAクローンpBRTM/HCV1-3011con(Kolykhalov AA, Agapov EV, Blight KJ, Mihalik K, Feinstone SM, Rice CM. Science 1997; 277:570-574)を鋳型にして、センスプライマー5’-GCCGGATCCATGGTCTCCAAGGGGTGGAG-3’(配列番号29)とアンチセンスプライマー5’-TCACGTGACGACCTCCAGGTCGGCC-3’(配列番号30)を用いてHCV-NS3遺伝子を増幅し、トランスファーベクターpNZ68K2に組み込んだ。このトランスファーベクターと野生型ワクシニアウイルスA(VV-wt)(WR株)との間の相同組み換えによりHCV-NS3遺伝子を組み込んだワクシニアウイルス(VV-NS3)を作成し、5-bromo-2-deoxyuridine存在下にC143細胞に感染させてプラーク精製を3回繰り返した後、CV-1細胞で増幅した。
免疫マウスに組換えワクシニアウイルス(VV-NS3)を2×10
6PFU腹腔内接種し、5日後に両側の卵巣を摘出した。卵巣をホモジナイズした後、1% FCSと1 mM MgCl
2を含むPBS 0.5 mlで希釈し、凍結融解を3回繰り返した後、ソニケーションを行なった。10倍の階段希釈を行ない、それぞれを6-ウェルプレート中のBS-C-1細胞に加え、48時間後に0.1% crystal violetで染色し、プラークをカウントした。結果はマウス当たりのplaque forming unit (PFU)で表した。
【0095】
(
51Cr放出試験)
正常HHDマウスの脾臓細胞をとり、これに10μMのペプチドを加えて2時間培養した。その後X線照射(40Gy)し、培養液で洗浄したものを刺激細胞とした。これに倍量の免疫マウス由来脾臓細胞を加え、6−7日間刺激培養した。これをエフェクター細胞とし、その細胞傷害活性を以下のように標準的な
51Cr放出試験(Shirai M, Akatsuka T, Pendleton CD et al. J Virol 1992; 66:4098-4106)で測定した。標的細胞として、HHDマウスと同様に、ヒトのHLA-A*0201及びβ2-microglobulin遺伝子が導入され発現しているマウスのリンパ腫由来細胞株、RMA-HHD (H-2b)(Pascolo S, Bervas N, Ure JM, Smith AG, Lemonnier FA, Perarnau B. The Journal of Experimental Medicine 1997; 185(12):2043-2051)(RPMI1640、10% FCS、G418 500μg/mlで培養)を用いた。この細胞1×10
6個に10μMのペプチドを加えて2時間培養した後に100μCiのNa
251CrO
4を加えて30分間インキュベートして標識し、培養液で洗浄した後、96穴培養プレートに5×10
3個/ウェルずつ入れ、それに上記のエフェクター細胞を種々のエフェクター/標的細胞比(E/T ratio)で加えて37℃で4時間インキュベートした。上清中の放射活性をガンマカウンターで測定し、以下の計算式で“% Specific Lysis”を算出した。
% specific lysis = [(cpm
sample - cpm
spontaneous)/(cpm
maximum- cpm
spontaneous)] X
100
cpmは1分当たりのカウント、spontaneous releaseはエフェクター細胞非存在下でのカウント、maximum releaseは標的細胞を2% Nonidet P-40を加えることで完全溶解した時のカウントをそれぞれ意味する。
【0096】
(ELISPOT(IFN−γ))
免疫マウス脾臓中の抗原特異的にインターフェロンガンマ(IFN−γ)を産生するT細胞を、ELISPOTキット(BD Bioscience)を用いて測定した。96ウェルプレートに抗IFN−γ抗体(clone R4-6A2)を0.5μg入れ、4℃で一晩静置した後洗浄し、10% FCSを含むRPMI 1640培地を加えて室温で2時間のブロッキングを行った。各ウェルに免疫マウス脾臓細胞を1×10
5又は1×10
6個、及び正常HHDマウスの脾臓細胞にペプチドをパルスしX線照射(40Gy)したものをその10分の1量加え、37℃で2日間培養した。各ウェルの細胞を洗浄除去し、ビオチン標識抗マウスIFN−γ抗体と室温で2時間反応させた後、streptavidin-horseradish peroxidaseと室温で1時間反応させ、最後に3-amino-9-ethylcarbazoleを含む基質液を加えてスポットを発色させた。乾燥後に各ウェルのスポットの数を実体顕微鏡で観察して数えた。
【0097】
[参考例1]
リポソームの調製
1)脂質混合粉末の調製
末端変性ホスファチジルエタノールアミンからなる反応性リン脂質(サクシンイミジル基-ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン)の合成
ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン2g及びトリエチルアミン180μlをクロロホルム50mlに溶解及び添加し、300ml容の4つ口フラスコに入れた。このフラスコをマグネットスタラーで室温で攪拌しつつ、別に調製した2価反応性化合物であるジサクシンイミジルスベレート3gをクロロホルム80mlに溶解した溶液を、常法に従って4時間に亘って滴下し、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミンのアミノ基にジサクシンイミジルスベレートの片末端を反応させた。この粗反応溶液をナス型フラスコに移し、エバポレータによって溶媒を留去した。次に、このフラスコに粗反応物を溶解できるだけのクロロホルムを少量加えて高濃度粗反応物溶液を得、クロロホルム/メタノール/水(65/25/1、体積比)で平衡化したシリカゲルを用いて常法に従ってカラムクロマトグラフィーを行い、目的のジオレオイルホスファチジルエタノールアミンのアミノ基にジサクシンイミジルスベレートの片末端が結合した画分のみを回収し、溶媒を留去して目的の反応性リン脂質であるサクシンイミド基−ジオレオイルホスファチジルエタノールアミンを得た。
2)脂質混合粉末の調製
ジオレオイルホスファチジルコリン1.3354g(1.6987mmol)、前項で調製したサクシンイミド基-ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン0.2886g(0.2831mmol)、コレステロール0.7663g(1.9818mmol)及びジオレオイルホスファチジルグリセロールNa塩0.4513g(0.5662mmol)をナス型フラスコに取り、クロロホルム/メタノール/水(65/25/4、容量比)混合溶剤50mlを入れ、40℃にて溶解した。次にロータリーエバポレーターを使用して減圧下で溶剤を留去し、脂質の薄膜を作った。更に注射用蒸留水を30ml添加し、攪拌して均一のスラリーを得た。このスラリーを凍結させ、凍結乾燥機にて24時間乾燥させ脂質混合粉末を得た。
3)リポソームの調製
次に、別途作製した緩衝液(1.0mM Na
2HPO
4/KH
2PO
4、0.25Mサッカロース、pH7.4、以後緩衝液と略す)60mlを上記脂質混合粉末の入ったナス型フラスコ内に入れ、40℃にて攪拌しながら脂質を水和させ、リポソームを得た。次にエクストルーダーを用いてリポソームの粒径を調整した。まず8μmのポリカーボネートフィルターを通過させ、続いて5μm、3μm、1μm、0.65μm、0.4μm及び0.2μmの順にフィルターを通過させた。リポソーム粒子の平均粒径206nm(動的光散乱法による測定)が得られた。
【0098】
[実施例1]
CTLエピトープの検索
C型肝炎ウイルスHCV-1a株polyprotein(GenBank accession #: AAB66324)のNS3領域のアミノ酸配列から、CTLエピトープとして報告されている6種を含む25種類のエピトープを選択した。これらのエピトープについて、インターネット上で利用可能な予測プログラム(BIMAS及びSYFPEITHI)を用いて、細胞傷害性T細胞(CTL)に対する予想抗原性のスコアを計算した(表1)。
【0099】
【表1】
【0100】
[実施例2]
ワクチン効果を有するペプチドのスクリーニング
1)ペプチドプールからのリポソーム製剤の調製
実施例1の25の候補ペプチドのうち、極めて溶解性の低かった#22を除いた24のペプチドを、4つのグループ(NS3−IからIV)にプールした。なお、NS3−Iには、既知の6つのCTLエピトープペプチドをプールした。各プールを用いて、ペプチド結合リポソームを以下の方法により調製した。
参考例1(リポソームの調製)のリポソーム1.5mlを試験管に採取し、別に調製した3mlの各ペプチドプール溶液を加えた後、5℃で48時間穏やかに攪拌し反応させた。この反応液を、緩衝液で平衡化したSepharoseCL-4Bを用いて常法に従ってゲル濾過した。尚、リポソーム画分は白濁しているので、目的画分は容易に確認できるが、UV検出器等で確認しても良い。
得られたリポソーム懸濁液中のリン濃度を測定し(リン脂質テストWako)、リン脂質由来のリン濃度を2mMになるように濃度を緩衝液で希釈調整し、各ペプチド結合リポソームの懸濁液を得た。
2)ワクチン効果の測定
1)で調製したペプチド結合リポソームについて、HCVのNS3を組み込んだ組換えワクシニアウイルスに対するワクチン効果を測定した(
図1)。その結果、いずれのプールも一定のワクチン効果を示したが、特にNS3−II及びNS3−IIIが高いワクチン効果を示した。
また各プール中のペプチドの免疫原性を調べた(
図2)。ELISPOT法により各ペプチドの刺激によるIFN−γ産生細胞数を測定したところ、ペプチド#3、#13、#14、#17、#19、及び#23の刺激によるIFN−γ産生が確認された。また
51Cr放出試験によりCTLの細胞傷害性を測定したところ、前記ペプチドを含む複数のペプチドについて細胞傷害性が確認された。特に、#3、#8、#13、#14、#17、#19、及び#23のペプチドは、強力に抗原特異的なCTLを誘導した。
3)各ペプチドからのリポソーム製剤の調製
上記試験においてCTL誘導性を有することが示唆されたペプチド#3、#13、#14、#17、#19、及び#23について、各ペプチドからペプチド結合リポソームを以下の方法により調製した。
参考例1(リポソームの調製)のリポソーム1.5mlを試験管に採取し、別に調製した3mlの各ペプチド溶液(1.25mM、緩衝液溶液)を加えた後、5℃で48時間穏やかに攪拌し反応させた。この反応液を、緩衝液で平衡化したSepharoseCL-4Bを用いて常法に従ってゲル濾過した。
得られたリポソーム懸濁液中のリン濃度を測定し(リン脂質テストWako)、リン脂質由来のリン濃度を2mMになるように濃度を緩衝液で希釈調整し、各ペプチド結合リポソームの懸濁液を得た。
4)ペプチド結合リポソームのワクチン効果の測定
3)で調製したペプチド結合リポソームの免疫原性を調べた(
図3)。その結果、いずれのペプチド結合リポソームを用いた場合にもIFN−γ産生が認められ、特にペプチド#3を用いた場合に顕著であった。またペプチド#3、#13、#17及び#23については細胞傷害性T細胞の誘導も確認された。細胞傷害性T細胞の誘導についても、ペプチド#3を用いた場合の効果が顕著であった。
さらにこれらのペプチド結合リポソームのワクチン効果を調べたところ、ペプチド#3、#13、#19を用いた場合に顕著なワクチン効果が得られることが明らかとなった(
図4)。
なお、ペプチド#3は、配列番号1で表されるアミノ酸配列(YMNTPGLPV)からなるペプチドであり、ペプチド#13は、配列番号5で表されるアミノ酸配列(GMFDSSVLC)からなるペプチドであり、ペプチド#19は、配列番号3で表されるアミノ酸配列(IMTCMSADL)からなるペプチドである。
【0101】
これらの試験結果から、以下のことが示唆された。
・ 予測プログラム(BIMAS、SYFPEITHI)における細胞傷害性T細胞(CTL)に対する予想抗原性スコアと、ペプチド結合リポソームのCTL誘導活性は必ずしも相関しないこと。
・ ペプチドのリポソームに結合しない場合におけるCTL誘導活性と、リポソームに結合した場合におけるCTL誘導活性とは、必ずしも相関しないこと。
【0102】
[実施例3]
種々の実験系におけるペプチド#3の免疫原性
上記のリポソームを用いた試験において顕著なワクチン効果を示したペプチド#3の免疫原性について、他の実験系を用いて更に検討した(
図5及び
図6)。
上記のように、単独で細胞傷害性Tリンパ球を誘導するペプチドが、リポソーム結合により効率よく細胞傷害性Tリンパ球を誘導するとは限らない。このことをさらに確認するために、ヒトのHLA-A*0201遺伝子とマウス固有のH-2b遺伝子の両方を発現するマウス(HHD(雄)とC57BL/6マウス(雌)をかけ合わせて生まれた仔)に4種のペプチド結合リポソームを免疫して、それらの免疫原性を比較した(
図5)。
その結果、マウスH-2bのエピトープペプチド1630−1637を結合したリポソームは高い免疫原性を示したのに対し、ヒトHLA-A*0201のエピトープ1073−1081又は1585−1593を結合したものは免疫原性が低かった。エピトープ1073−1081及びエピトープ1585−1593は、C型肝炎ウイルスの優れたエピトープペプチドとして知られているペプチドであるが、これらが顕著な免疫原性を示さなかったことは、優れたエピトープペプチドを用いたとしても、優れた免疫原性を有するペプチド結合リポソームは必ずしも得ることができないことを示している。これに対してペプチド#3は、リポソーム結合により、マウスのエピトープ1630−1637と同程度の高い免疫原性を示した。
さらにAdex13269とVV-NS3による免疫実験では、ペプチド#3の免疫原性が低いことが明らかとなった(
図6)。なお、1031−1039は、HCV NS3のHLA-A24(A*2402)エピトープであり、ここでは陰性対照として用いた。
これらの結果は、ペプチド#3が、NS3全体で免疫した場合には免疫原性を有さないが、リポソーム結合によって優れた免疫原性を発現することを示す。即ち、ペプチド#3は、特にリポソームに結合させて細胞傷害性Tリンパ球活性化剤やC型肝炎ウイルスワクチンとして使用されるのに適している。
【0103】
[実施例4]
Lip−#3のブースト効果
Lip−#3のブースト効果を、ELISPOTにより確認した(
図7)。
図7下パネルに示すタイムスケジュールで、HHDマウスにLip−#3の接種を2回行なったところ、顕著なIFN−γ産生の増加が認められた。このことは、Lip−#3をC型肝炎の治療用ワクチンとして使用し得ることを示す。
【0104】
[実施例5]
Lip−#3の免疫原性の用量依存性
Lip−#3の免疫原性をより詳細に検討するために、段階希釈したLip−#3を用いてELISPOTによりIFN−γ産生を測定した(
図8)。その結果、わずか0.28μgの用量でIFN−γ産生を引き起こすことができ、Lip−#3が極めて低用量でも優れた免疫原性を有することが示された。
【0105】
[実施例6]
Lip−#3の交差反応性
ペプチド#3はHCV−1a株由来のペプチドである。Lip−#3による免疫により誘導したCTLが、別のHCV株由来のペプチドに対しても反応性を示すか、
51Cr放出試験により検討した(
図9)。その結果、Lip−#3による免疫で、HCV−1b株由来の#3−2L(配列番号4)に対しても、HCV−1a株由来のペプチド#3に対する反応と同程度の強いCTL反応が生じることが分かった。即ち、Lip−#3により免疫するだけで、HCV−1a株とHCV−1b株の両方に対するワクチン効果が期待できることが示された。
【0106】
[実施例7]
Lip−#13及びLip−#13−1Aの交差反応性
ペプチド#13及び#13−1A(配列番号2)は、それぞれHCV−1a株及びHCV−1b(J1)株由来のペプチドである。実施例6と同様に、Lip−#13及びLip−#13−1Aについて、
51Cr放出試験により交差反応性を調べた(
図10)。ただし、
図10下パネルに示すタイムスケジュールで、ペプチド結合リポソームの接種を2回行なった。Lip−#13による免疫では、#13に対するCTL反応には及ばないものの、#13−1Aに対しても強いCTL反応が生じることが分かった。またLip−#13−1Aによる免疫では、#13に対しても、#13−1Aに対する反応と同程度の強いCTL反応が生じることが分かった。即ち、Lip−#13又はLip−#13−1Aのいずれかにより免疫するだけで、HCV−1a株とHCV−1b(J1)株の両方に対するワクチン効果が期待できることが示された。
【0107】
[実施例8]
Lip−#19及びLip−#19−3Aの交差反応性
ペプチド#19及び#19−3A(配列番号6)は、それぞれHCV−1a株及びHCV−1b(J1)株由来のペプチドである。実施例6と同様に、Lip−#19及びLip−#19−3Aについて、
51Cr放出試験により交差反応性を調べた(
図11)。ただし、
図11下パネルに示すタイムスケジュールで、ペプチド結合リポソームの接種を2回行なった。Lip−#19による免疫では、#19−3Aに対しても、#19に対する反応と同程度の強いCTL反応が生じることが分かった。またLip−#19−3Aによる免疫では、#19に対しても、#19−3Aに対する反応と同程度の強いCTL反応が生じることが分かった。即ち、Lip−#19又はLip−#19−3Aのいずれかにより免疫するだけで、HCV−1a株とHCV−1b(J1)株の両方に対するワクチン効果が期待できることが示された。また#19と#19−3Aとを比較すると、#19−3Aを結合したリポソームの方がワクチン効果が高いことが示された。