(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5931012
(24)【登録日】2016年5月13日
(45)【発行日】2016年6月8日
(54)【発明の名称】ソケット及び/又はソケットインサート
(51)【国際特許分類】
A61F 2/34 20060101AFI20160526BHJP
【FI】
A61F2/34
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-136933(P2013-136933)
(22)【出願日】2013年6月28日
(62)【分割の表示】特願2009-523267(P2009-523267)の分割
【原出願日】2007年8月6日
(65)【公開番号】特開2013-223771(P2013-223771A)
(43)【公開日】2013年10月31日
【審査請求日】2013年7月24日
【審判番号】不服2015-8350(P2015-8350/J1)
【審判請求日】2015年5月7日
(31)【優先権主張番号】102006036928.9
(32)【優先日】2006年8月4日
(33)【優先権主張国】DE
(31)【優先権主張番号】102007031666.8
(32)【優先日】2007年7月6日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】511004645
【氏名又は名称】セラムテック ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】CeramTec GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100099483
【弁理士】
【氏名又は名称】久野 琢也
(74)【代理人】
【識別番号】100114292
【弁理士】
【氏名又は名称】来間 清志
(72)【発明者】
【氏名】ローマン プロイス
(72)【発明者】
【氏名】トーマス パンドルフ
(72)【発明者】
【氏名】パトリシエ メルケルト
(72)【発明者】
【氏名】ハイケ イーディンク
(72)【発明者】
【氏名】マーティン ディートリッヒ
【合議体】
【審判長】
内藤 真徳
【審判官】
土田 嘉一
【審判官】
熊倉 強
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−15153(JP,A)
【文献】
国際公開第2005/011537(WO,A2)
【文献】
特表2006−516216(JP,A)
【文献】
特表2002−508208(JP,A)
【文献】
特表平10−502853(JP,A)
【文献】
特開平6−70947(JP,A)
【文献】
米国特許第6537321(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/32 - 2/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
人工股関節のためのソケット及び/又はソケットインサートであって、前記人工股関節のステム(1)が球頭(2)に連結可能であり、該球頭(2)がまた前記ソケットインサート(3)の球冠において回動可能に挿入されており、前記ステム(1)が大腿骨に埋込み可能であり、且つ前記ソケットインサート(3)が直接又は寛骨臼ソケット(4)を介して骨盤骨に埋込み可能である、ソケット及び/又はソケットインサートにおいて、
当該ソケット(4)及び/又は当該ソケットインサート(3)は、
横断面及び長手方向軸線の3つの全空間方向で対称的に構成した、前記ソケット(4)及び/又は前記ソケットインサート(3)の外側及び/又は内側に、
ソケット(4)及び/又はソケットインサート(3)の固有モードの形成が回避され、構成部品における振動の顕在化を音響的に可聴な振動数範囲において緩衝するように、切欠き(8)を設けて、外側及び/又は内側のジオメトリを非対称的に構成し、及び/又は
種々異なる剛性及び緩衝特性を備えた材料から成る部分エレメント(7)を設けて、外側及び/又は内側の材料を非対称的に構成することを特徴とする、ソケット及び/又はソケットインサート。
【請求項2】
剛性、緩衝特性及び/又は素材が、ソケット軸線及び/又はソケットインサート軸線(9)に沿って種々異なっている、請求項1記載のソケット及び/又はソケットインサート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工股関節のためのソケット及び/又はソケットインサートであって、人工股関節のステムが球頭に連結可能であり、球頭がまたソケットインサートの球冠において回動可能に挿入されており、ステムが大腿骨に埋込み可能であり、且つソケットインサートが直接又は寛骨臼ソケットを介して骨盤骨に埋込み可能である、ソケット及び/又はソケットインサートに関する。
【背景技術】
【0002】
市場には自然の股関節の代替のための複数の人工補正器機構が存在している。人工補正器機構は、一般的に、球頭2と連結されているステム1と、ソケットインサート3と連結されている寛骨臼ソケット4とから成っている。ステム1と寛骨臼ソケット4とは大腿骨もしくは骨盤骨へ組み込むことにより身体に結合されていて、且つ球頭2もしくはソケットインサート3のための支持体である。球頭2はソケットインサート3の球冠において回動可能に支承されている−自由度:1(
図1参照)。
【0003】
ソケットインサートの球冠における球頭の協働中、様々な理由から及び特に球頭及びソケットインサートのための高い硬度の材料(例えば金属合金、セラミックス製の素材)の使用時に、滑動対間の不都合な固体摩擦が生じることがある。この場合、関連する構成部品の振動挙動、ひいては騒音発生、いわゆる軋みが結果的に起こることがある種々異なる現象に繋がる場合がある。3つの現象を以下に簡単に記載する。
【0004】
1.材料対偶と、表面構造と、2つの摩擦対の相対速度とに基づき、運動時には固体摩擦の作用下で、いわゆるスティックスリップ作用が発生する場合がある。つまり、正確な考察において球冠における球頭の準連続的な運動が、時間的に極めて短い多数の運動サイクルから構成され、それぞれ1つの短い運動は突然の静止状態、及びまた突然の運動によって直接もたらされる。このスティックスリップ作用は静止摩擦及び滑動摩擦の継続的な交番により惹起される。
【0005】
スティックスリップ作用の発生に基づき起こる振動は励振として作用し、人工的な関節の個々の構成部品の振動に繋がる。この場合、構成部品の1つ又は複数の固有振動数が可聴のスペクトル(約16〜20000Hz)にある場合、固有振動数は人工的な股関節の支持体である患者に、例えばいわゆる軋みとして音響的に知覚されることがある。このことは患者にとって不都合であり、事情によっては、患者の周囲にも同様に知覚され、場合によってはプライバシーに関する著しい制約に繋がる。
【0006】
2.頻繁に繰り返される運動パターン及び(運動サイクル中の球頭−インサートの摩擦学的な機構の短時間の分離の)マイクロ分離に基づき、球頭もしくはインサートにおけるストリップライン(Stipe−wear)の形成に繋がることがあり、ストリップライン長さにわたって特定の規則性を有しているストリップ状の磨耗パターンの形成に繋がることがある。今や球頭が規定の個々の条件下(姿勢、運動経過)で、ストリップラインパターンゾーンの領域において、インサートに対して相対的に運動する場合、このことは自励の振動に繋がることがある。この励振が、関連する構成部品もしくは構成部品群の固有振動数の範囲内にある場合には、このことは固有モードの形成及び騒音形成に繋がる。この場合、構成部品もしくは構成部品群の1つ又は複数の固有振動数が可聴のスペクトル(約16−20000Hz)にある場合、固有振動数は人工的な股関節の支持体である患者に、例えばいわゆる軋みとして音響的に知覚されることがある。
【0007】
3.人工的な股関節の挿入後に、特に極端なソケット位置の場合には、金属ステムと金属ソケットとの間、もしくは金属ステムとセラミックインサート(別の呼称はソケットインサート)との間における接触に繋がることがある。この接触は単に点状ではなく、相応する脚運動により所定の角度を超えて起こり、その結果、ソケット/インサートを介しての金属ステムの「研磨」に繋がると、自励の振動に繋がることになる。励起は関連するシステムの固有振動数の範囲にある場合、固有モードの形成及び騒音形成に繋がる。この場合、構成部品の1つ又は複数の固有振動数が可聴なスペクトル(約16〜20000Hz)にある場合、固有振動数は人工的な股関節の支持体である患者に、例えばいわゆる軋みとして音響的に知覚されることがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の根底にある課題は、請求項1の上位概念部記載のソケット及び/又はソケットインサートを改良して、軋みが発生しないソケット及び/又はソケットインサートを提供することである。
【0009】
ソケット及び寛骨臼ソケットの概念は同じ対象を指していて、交換可能である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題
を解決するため、本発明では、ソケット
(4)及び/又は当該ソケットインサート
(3)は、
横断面及び長手方向軸線の3つの全空間方向で対称的に構成した、前記ソケット(4)及び/又は前記ソケットインサート(3)の外側及び/又は内側に、ソケット(4)及び/又はソケットインサート(3)の固有モードの形成が回避され、構成部品における振動の顕在化を音響的に可聴な振動数範囲において緩衝するように、切欠き(8)を設けて、外側及び/又は内側のジオメトリ
を非対称的に構成し、及び/又は
種々異なる剛性及び緩衝特性を備えた材料
から成る部分エレメント(7)を設けて、外側及び/又は内側の材料を非対称的に構成する
。
【0011】
ソケット及び/又はソケットインサートの好ましい非対称的な構成により、ソケット及び/又はソケットインサートの固有モードの形成は回避され、構成部品における振動の顕在化を音響的に可聴な振動数範囲において有効に緩衝できる。この場合、ソケット及び/又はソケットインサートの提案された非対称性は、種々異なる手段により達成できる。これらの手段は任意に互いに組合せ可能である:つまり、
−3つの全空間方向(横断面及び長手方向軸線)において非対称的な外側のジオメトリの形式、
−3つの全空間方向(横断面及び長手方向軸線)において非対称的な内側のジオメトリの形式、及び
−種々異なる剛性及び緩衝特性を備えた材料から成るソケット及び/又はソケットインサートの非対称的な構成、
によるものである。
【0012】
本発明の構成において、ソケット及び/又はソケットインサートの内側ジオメトリ及び外側ジオメトリの対称軸線は、平行にずらされている。内側ジオメトリ及び外側ジオメトリの対称軸線の平行なずれにより、回転対称的な構成部分はもはや存在しない。一平面に対して単に単純な対称性しかない。
【0013】
有利には、外側ジオメトリの対称軸線に対して、内側ジオメトリの対称軸線が所望の角度αだけ付加的に傾けられている。これにより振動挙動に対して適切な作用を備えた、非対称的なソケット及び/又はソケットインサートが存在する。
【0014】
本発明の構成では、角度αは5°<α<25°の範囲にある。
【0015】
択一的な構成において、ソケット及び/又はソケットインサートは、種々異なる剛性及び緩衝特性の材料から構成されている。
【0016】
本発明の更に別の構成では、ソケット及び/又はソケットインサートに、種々異なる剛性及び緩衝特性を備えた材料から成る部分エレメントが配置されている。
【0017】
ソケット及び/又はソケットインサートは、内側ジオメトリ及び/又は外側ジオメトリにおいて切欠きを有していてもよい。
【0018】
有利には、剛性及び/又は緩衝特性、及び/又は素材は、ソケット及び/又はソケットインサート軸線の対称軸線に沿って種々異なって形成されている。
【0019】
本発明に係るソケット及び/又はソケットインサートは、好ましくは、ソケット及び/又はソケットインサートの内側ジオメトリ及び外側ジオメトリの対称軸線が平行にずらされている。
【0020】
好ましくは、内側ジオメトリの対称軸線が、外側ジオメトリの対称軸線に対して所定の角度αだけ傾けられている。
【0021】
好ましくは、角度αが5°<α<25°の範囲にある。
【0022】
好ましくは、ソケット及び/又はソケットインサートが、種々異なる剛性及び緩衝特性の材料から構成されている。
【0023】
好ましくは、ソケット及び/又はソケットインサート(3)において、種々異なる剛性及び緩衝特性を備えた材料から成る部分エレメントが配置されている。
【0024】
好ましくは、ソケット及び/又は当該ソケットインサートが、内側ジオメトリ及び/又は外側ジオメトリに切欠きを有している。
【0025】
好ましくは、剛性及び/又は緩衝特性、及び/又は素材が、ソケット軸線及び/又はソケットインサート軸線に沿って種々異なっている。
【0026】
以下に、従来の技術及び本発明を図面に基づき詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図3】内側のジオメトリの対称軸線が、外側のジオメトリの対称軸線に対して傾けられていることを示した図である。
【
図4】種々異なる剛性と緩衝特性とを持った材料から成る部分エレメント7を備えた、本発明によるソケットを示した図である。
【
図5】切欠きを備えた本発明によるソケットを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
図1には従来の技術が示されている。一般的に、人工股関節部は球頭2に連結されたステム1と、ソケットインサート3に連結された寛骨臼ソケット(Hueftpfanne)4とから成っている。ステム1と寛骨臼ソケット4とは大腿骨10もしくは骨盤骨11へ組み込むことにより患者の身体に結合されていて、且つ球頭2もしくはソケットインサート3のための支持体である。球頭2はソケットインサート3の球冠内で回動可能に支承されている。
【0029】
図2には、骨盤骨11への埋め込みに適している外側のジオメトリ12を備えた、本発明によるソケット4が示されている(
図1参照)。ソケット4の内側のジオメトリ13は、ソケットインサート3の外側ジオメトリに適合されている。ソケット4の内側及び外側のジオメトリ12,13の対称軸線5,6は、軋みを回避するために、平行にずらされている。ソケット4の内側及び外側ジオメトリ12,13の対称軸線5,6の平行なずれにより、回転対称的な構成部分はもはや存在しない。一平面に対して単に単純な対称性しかない。
【0030】
内側ジオメトリ13の対称軸線5が外側ジオメトリ12の対称軸線6に対して更に付加的に傾けられると、振動挙動に適切な作用を与える非対称的なソケット4が存在する。これに関しては
図3を参照されたい。同じ符号で同じ対象も示す。
【0031】
図4は本発明によるソケット4が示されている。ソケット4には種々異なる剛性と緩衝特性とを持った材料から成る部分エレメント7が配置されている。種々異なる剛性及び緩衝特性の材料から成るソケット4の構成、もしくはソケット4の既存のジオメトリへの、剛性及び緩衝特性において既存のソケット4とは異なる材料から成る部分エレメント7の挿入により軋みは解消されている。
【0032】
極端な場合、ソケット4における切欠き8により同様の効果が達成される。つまり、ジオメトリは極めて非対称的になり、もしくは極めて異なる材料特性を備えたエレメントが「挿入」される(
図5参照)。
【0033】
図4及び
図5において示されたソケット4において、内側ジオメトリ13の対称軸線と、外側ジオメトリ12の対称軸線とは一致し、共通のソケット軸線9を形成する。
【符号の説明】
【0034】
1 ステム
2 球頭
3 ソケットインサート
4 ソケット
5、6 ソケット4の内側及び外側のジオメトリの対称軸線
7 部分エレメント
8 切欠き
10 大腿骨
11 骨盤骨
12 ソケット4の外側のジオメトリ
13 ソケット4の内側のジオメトリ