特許第5931080号(P5931080)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5931080
(24)【登録日】2016年5月13日
(45)【発行日】2016年6月8日
(54)【発明の名称】気道を開通させるための装置および方法
(51)【国際特許分類】
   A61F 5/56 20060101AFI20160526BHJP
   A61F 5/02 20060101ALI20160526BHJP
【FI】
   A61F5/56
   A61F5/02 Z
【請求項の数】55
【全頁数】30
(21)【出願番号】特願2013-536784(P2013-536784)
(86)(22)【出願日】2011年10月26日
(65)【公表番号】特表2013-540565(P2013-540565A)
(43)【公表日】2013年11月7日
(86)【国際出願番号】US2011057906
(87)【国際公開番号】WO2012058322
(87)【国際公開日】20120503
【審査請求日】2014年8月1日
(31)【優先権主張番号】61/406,775
(32)【優先日】2010年10月26日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】513102084
【氏名又は名称】ソメトリクス,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】230104019
【弁護士】
【氏名又は名称】大野 聖二
(74)【代理人】
【識別番号】230111590
【弁護士】
【氏名又は名称】金本 恵子
(74)【代理人】
【識別番号】100105991
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 玲子
(74)【代理人】
【識別番号】100119183
【弁理士】
【氏名又は名称】松任谷 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100114465
【弁理士】
【氏名又は名称】北野 健
(74)【代理人】
【識別番号】100156915
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 奈月
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【弁理士】
【氏名又は名称】梅田 慎介
(72)【発明者】
【氏名】アーレスタッド,ジェロム
(72)【発明者】
【氏名】グッドマン,ジョン,カール
【審査官】 今井 貞雄
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/143259(WO,A2)
【文献】 特表平09−503923(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 5/56
A61F 5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
前頚三角と関連付けられる患者の軟部組織のおおよそ外部位置にチャンバを画定するために、患者の下顎および頚部に据えられるように構成された装置であって、前記装置が、前記チャンバを画定する縁端および内部表面を含み、治療水準の負圧が前記チャンバ内に適用されたとき、前記患者の前記頚部の表面に力をかけて、前記表面を前記チャンバ内に引きつけることによって上気道の開存性を維持するように構成されている装置において、
前記装置が前記患者に据えられているとき、甲状軟骨と頚切痕の間にある前記患者の首の領域に接触する前記装置縁端の下部領域に取り付けられたフランジを備え、
前記フランジが、負荷のかかっていない状態で、前記フランジの少なくとも一部にわたって横に延びる非直線の輪郭を有し、
前記フランジが、その中央領域で、旋回部材によって前記装置縁端に取り付けられており、前記フランジが前記フランジの皮膚接触面を前記患者の首の輪郭に対して調整できるようにするために、前記旋回部材が、前記装置縁端に対する前記フランジの移動をもたらすように構成され、
前記装置が前記患者に据えられ、前記治療水準の負圧が前記チャンバ内に適用されたとき、前記横に延びる非直線の輪郭が、横に延びる直線の輪郭に対して、前記患者の首にかかる前記負荷の分散の改善をもたらすように構成されている、装置。
【請求項2】
前記フランジ、装置縁端、および旋回部材が一体に形成されている、請求項に記載の装置。
【請求項3】
前記フランジが前記装置の取り替え可能な構成要素となるように、前記フランジ、装置縁端、および旋回部材が非一体に形成されている、請求項に記載の装置。
【請求項4】
前記フランジが、前記フランジ内の縦方向の応力を低減するように構成されている、前記フランジ内に位置する屈曲性の要素を含む、請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記フランジが、前記フランジの皮膚接触面の全部もしくは一部に内在するか、またはその上に配置された通気性の材料を含み、前記治療水準の負圧が前記チャンバ内に適用されたとき、前記通気性の材料は、管理された空気流を、前記通気性の材料を通って前記チャンバ内にもたらすように構成されている、請求項1に記載の装置。
【請求項6】
前記フランジが、前記フランジの皮膚接触面の全部もしくは一部に内在するか、またはその上に配置された粘着性の材料を含む、請求項1に記載の装置。
【請求項7】
前記粘着性の材料が室温加硫(RTV)シリコーンを含む、請求項に記載の装置。
【請求項8】
前記横に延びる非直線の輪郭が、前記フランジの少なくとも一部にわたって凹形である、請求項1に記載の装置。
【請求項9】
前記フランジが、前記フランジの少なくとも一部にわたってその縁端に丸みがついている、請求項1に記載の装置。
【請求項10】
前記フランジは厚さが変化し、前記フランジの縁端が最小厚さとなり、前記フランジの前記縁端が、丸みのついた縁端を実現するために負荷を受けて曲がる、請求項1に記載の装置。
【請求項11】
前記フランジの厚さが、0.4インチから0.1インチの間の最大厚さから0.02インチ以下の最小厚さまでで変化する、請求項1に記載の装置。
【請求項12】
前記最大厚さが、0.312インチから0.25インチの間であり、前記最小厚さが、0.01から0.005インチの間である、請求項11に記載の装置。
【請求項13】
前記フランジの厚さが、0.4インチから0.1インチの間の最大厚さから0.02インチ以下の最小厚さまでで変化する、請求項10に記載の装置。
【請求項14】
前記最大厚さが、0.312インチから0.25インチの間であり、前記最小厚さが、0.01から0.005インチの間である、請求項13に記載の装置。
【請求項15】
前記通気性の材料が、前記フランジの皮膚接触面の全部または一部の上に配置された使い捨て材料である、請求項に記載の装置。
【請求項16】
前記通気性の材料の表面上に設けられた接着剤層によって、前記通気性の材料が前記フランジに保持される、請求項に記載の装置。
【請求項17】
前記通気性の材料が積層物の構成要素である、請求項に記載の装置。
【請求項18】
前記通気性の材料が、前記フランジの前記皮膚接触面の全部または一部に内在する構造特徴物である、請求項に記載の装置。
【請求項19】
前記通気性の材料が、前記フランジのテクスチャ付きの表面である、請求項18に記載の装置。
【請求項20】
前記テクスチャ付きの表面が、0.0005インチから0.020インチの深さを有する特徴物を含む、請求項19に記載の装置。
【請求項21】
前記フランジの皮膚接触面の全部または一部の上に0.65以下の摩擦係数を有する低摩擦材料をさらに備え、前記低摩擦材料が、前記皮膚表面に対する前記フランジの局所的な移動をもたらすように構成されている、請求項1に記載の装置。
【請求項22】
前記装置が前記患者に据えられている間に前記チャンバを手で圧縮することによって負圧を発生させ、その後、圧縮されていない状態に前記チャンバを戻らせるように構成される、請求項1に記載の装置。
【請求項23】
前記チャンバ内に負圧を発生させるために、前記装置に動作可能に接続された空気ポンプをさらに備える、請求項1に記載の装置。
【請求項24】
前記空気ポンプが、ホースまたはチューブを介して前記装置に接続されている、請求項23に記載の装置。
【請求項25】
前記空気ポンプが、手で握る球部である、請求項23に記載の装置。
【請求項26】
前記空気ポンプが前記患者によって装着可能であり、電池から電力供給される、請求項23に記載の装置。
【請求項27】
前記空気ポンプが前記装置と一体に構成されている、請求項23に記載の装置。
【請求項28】
前記空気ポンプが、振動性のポンプ運動をもたらすように構成された圧電材料を含む、請求項23に記載の装置。
【請求項29】
前記振動性のポンプ運動が、500Hzを超える周波数で動作する、請求項28に記載の装置。
【請求項30】
前記空気ポンプが、前記チャンバ内の温度、湿度、および気流を制御する空気調整システムの構成要素である、請求項23に記載の装置。
【請求項31】
前記装置縁端の全部または一部の周りに、囲まれた空気チャネルを形成している、前記フランジの外部の一体型封止部材をさらに備える、請求項1に記載の装置。
【請求項32】
前記患者の下顎に近接する前記装置縁端の前記下部領域が、前記低摩擦材料を含まない、請求項31に記載の装置。
【請求項33】
前記患者の下顎に近接する前記装置縁端の前記下部領域が、前記患者の下顎への前記装置の位置合わせを行う、前記装置縁端から内向き配置された支持部材を有する、請求項1に記載の装置。
【請求項34】
前記低摩擦材料が0.5未満の摩擦係数を有する、請求項21に記載の装置。
【請求項35】
前記フランジの皮膚接触面の全部または一部の下にある一体型封止部材であって、前記封止部材と前記フランジの間の境界面が、前記皮膚表面に対する前記フランジの局所的な移動をもたらすように構成された低摩擦領域を提供している、封止部材をさらに備える、請求項1に記載の装置。
【請求項36】
前記境界面での摩擦を低減するために、潤滑用の流体が前記封止部材と前記フランジの間に配置される、請求項35に記載の装置。
【請求項37】
前記装置を前記患者に固定するために前記患者の首の周りに留められる布地装置をさらに備える、請求項1に記載の装置。
【請求項38】
前頚三角と関連付けられる患者の軟部組織のおおよそ外部位置にチャンバを画定するために、患者の下顎および頚部に据えられるように構成された装置であって、前記装置が、前記チャンバを画定する縁端および内部表面を含み、治療水準の負圧が前記チャンバ内に適用されたとき、前記患者の前記頚部の表面に力をかけて、前記表面を前記チャンバ内に引きつけることによって上気道の開存性を維持するように構成されている装置において、
前記装置が前記患者に据えられたとき、甲状軟骨と頚切痕の間にある前記患者の首の領域に接触する、前記装置縁端の下部領域に取り付けられたフランジと、
前記フランジの皮膚接触面の全部もしくは一部に内在するか、またはその上に配置された通気性の材料であって、前記治療水準の負圧が前記チャンバ内に適用されたとき、管理された空気流を、前記通気性の材料を通って前記チャンバ内にもたらすように構成されている通気性の材料と
を備える、装置。
【請求項39】
前頚三角と関連付けられる患者の軟部組織のおおよそ外部位置にチャンバを画定するために、患者の下顎および頚部に据えられるように構成された装置であって、前記装置が、前記チャンバを画定する縁端および内部表面を含み、治療水準の負圧が前記チャンバ内に適用されたとき、前記患者の前記頚部の表面に力をかけて、前記表面を前記チャンバ内に引きつけることによって上気道の開存性を維持するように構成されている装置において、
前記装置が前記患者に据えられたとき、甲状軟骨と頚切痕の間にある前記患者の首の領域に接触する、前記装置縁端の下部領域に取り付けられたフランジと、
前記フランジの皮膚接触面の全部または一部の上に0.65以下の摩擦係数を有する低摩擦材料であって、前記低摩擦材料が、前記皮膚表面に対する前記フランジの局所的な移動をもたらすように構成されており、前記患者の下顎に近接する前記装置縁端の前記下部領域は前記低摩擦材料を含まない、低摩擦材料と
を備える、装置。
【請求項40】
前頚三角と関連付けられる患者の軟部組織のおおよそ外部位置にチャンバを画定するために、患者の下顎および頚部に据えられるように構成された装置であって、前記装置が、前記チャンバを画定する縁端および内部表面を含み、治療水準の負圧が前記チャンバ内に適用されたとき、前記患者の前記頚部の表面に力をかけて、前記表面を前記チャンバ内に引きつけることによって上気道の開存性を維持するように構成されている装置において、
(i)前記装置が前記患者に据えられたとき、甲状軟骨と頚切痕の間にある前記患者の首の領域に接触する、前記装置縁端の下部領域に取り付けられたフランジであって、
前記フランジが、その中央領域で、旋回部材によって前記装置縁端に取り付けられており、前記フランジが前記フランジの皮膚接触面を前記患者の首の輪郭に対して調整できるようにするために、前記旋回部材が、前記装置縁端に対する前記フランジの移動をもたらすように構成されており、
前記フランジが、負荷のかかっていない状態で、前記フランジの少なくとも一部にわたって横に延びる非直線の輪郭を有し、
前記装置が前記患者に据えられ、前記治療水準の負圧が前記チャンバ内に適用されたとき、前記横に延びる非直線の輪郭が、横に延びる直線の輪郭に対して、前記患者の首にかかる前記負荷の分散の改善をもたらすように構成されている、
フランジと、
(ii)前記フランジの前記皮膚接触面の全部もしくは一部に内在するか、またはその上に配置された通気性の材料であって、前記治療水準の負圧が前記チャンバ内に適用されたとき、管理された空気流を、前記通気性の材料を通って前記チャンバ内にもたらすように構成されている通気性の材料と、
(iii)前記フランジの前記皮膚接触面の全部または一部の上に0.65以下の摩擦係数を有する低摩擦材料であって、前記低摩擦材料が、前記皮膚表面に対する前記フランジの局所的な移動をもたらすように構成されており、前記患者の下顎に近接する前記装置縁端の前記下部領域は前記低摩擦材料を含まない、低摩擦材料と
を備える、装置。
【請求項41】
前頚三角と関連付けられる患者の軟部組織のおおよそ外部位置にチャンバを画定するために、患者の下顎および頚部に据えられるように構成された装置であって、前記装置が、前記チャンバを画定する縁端および内部表面を含み、治療水準の負圧が前記チャンバ内に適用されたとき、前記患者の前記頚部の表面に力をかけて、前記表面を前記チャンバ内に引きつけることによって上気道の開存性を維持するように構成されている装置において、
前記装置が前記患者に据えられたとき、甲状軟骨と頚切痕の間にある前記患者の首の領域に接触する、前記装置縁端の下部領域に取り付けられたフランジを備え、
前記フランジが、その中央領域で、旋回部材によって前記装置縁端に取り付けられており、前記フランジが前記フランジの皮膚接触面を前記患者の首の輪郭に対して調整できるようにするために、前記旋回部材が、前記装置縁端に対する前記フランジの移動をもたらすように構成されており、
前記フランジが、負荷のかかっていない状態で、前記フランジの少なくとも一部にわたって横に延びる非直線の輪郭を有し、
前記装置が前記患者に据えられ、前記治療水準の負圧が前記チャンバ内に適用されたとき、前記横に延びる非直線の輪郭が、横に延びる直線の輪郭に対して、前記患者の首にかかる前記負荷の分散の改善をもたらすように構成されており、
前記フランジが、前記フランジの前記皮膚接触面の全部もしくは一部に内在するか、またはその上に配置された粘着性の材料を含む、装置。
【請求項42】
前記装置が前記患者に据えられている間に前記チャンバを手で圧縮することによって負圧を発生させ、その後、圧縮されていない状態に前記チャンバを戻らせるように構成される、請求項38から41のいずれか一項に記載の装置。
【請求項43】
前記チャンバ内に負圧を発生させるために、前記装置に動作可能に接続された空気ポンプをさらに備える、請求項38から41のいずれか一項に記載の装置。
【請求項44】
前記空気ポンプが、ホースまたはチューブを介して前記装置に接続されている、請求項43に記載の装置。
【請求項45】
前記空気ポンプが、手で握る球部である、請求項43に記載の装置。
【請求項46】
前記空気ポンプが前記患者によって装着可能であり、電池から電力供給される、請求項43に記載の装置。
【請求項47】
前記空気ポンプが前記装置と一体に構成されている、請求項43に記載の装置。
【請求項48】
前記空気ポンプが、振動性のポンプ運動をもたらすように構成された圧電材料を含む、請求項43に記載の装置。
【請求項49】
前記振動性のポンプ運動が、500Hzを超える周波数で動作する、請求項48に記載の装置。
【請求項50】
前記空気ポンプが、前記チャンバ内の温度、湿度、および気流を制御する空気調整システムの構成要素である、請求項43に記載の装置。
【請求項51】
創傷を覆う外部の位置にチャンバを画定するために、患者の皮膚に据えられるように構成された装置であって、前記チャンバを画定する縁端および内部表面を含み、前記創傷上で治療水準の負圧を維持するように構成された装置において、
中央領域で、旋回部材によって前記装置縁端に取り付けられている、前記装置縁端に取り付けられたフランジであって、前記フランジが前記フランジの皮膚接触面を前記患者の皮膚の輪郭に対して調整できるようにするために、前記旋回部材が、前記装置縁端に対する前記フランジの移動をもたらすように構成されており、
前記フランジが、負荷のかかっていない状態で、前記フランジの少なくとも一部にわたって横に延びる非直線の輪郭を有し、
前記装置が前記患者に据えられ、前記治療水準の負圧が前記チャンバ内に適用されたとき、前記横に延びる非直線の輪郭が、横に延びる直線の輪郭に対して、前記患者の皮膚にかかる前記負荷の分散の改善をもたらすように構成されている、
フランジと、
前記チャンバ内に前記負圧を作り出すための、前記装置に動作可能に接続された空気ポンプと
を備える、装置。
【請求項52】
装置の内表面と使用者の皮膚の間の、前頸三角と関連付けられる患者の軟部組織におおよそあたる外部位置に、空間充満チャンバを画定するために、患者の下顎および頚部に据えられるように構成された装置であって、治療水準の負圧が前記チャンバ内に適用されたとき、前記患者の前記頚部の表面に真空による力をかけることによって、上気道の開存性を維持するまたは高めるように構成されており、前記空間内の前記治療水準の負圧に耐えるために十分な剛性を有する装置において、
前記チャンバを囲むために、前記使用者の前記皮膚に接触するように構成された周縁と、
前記患者の下顎に近接する前記周縁の下部領域から内向きに配置された支持部材であって、前記患者の下顎への前記装置の位置合わせを行う支持部材と
を備える、装置。
【請求項53】
前記周縁の全部または一部が、流体が充満した密閉部を含む、請求項52に記載の装置。
【請求項54】
前記流体が充満した密閉部が、流体、ゲル、または発泡体材料を含む、請求項53に記載の装置。
【請求項55】
前記支持部材が、前記支持部材に接触している前記皮膚に負荷の力を及ぼすように構成されており、前記負荷の力は、前記治療水準の負圧が前記空間内にもたらされたときに作り出される、請求項52に記載の装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2010年10月26日に出願された米国特許仮出願第61/406,775号の優先権を主張するものであり、すべての表、図面および特許請求の範囲を含むその全体が、参照によって本明細書に組み込まれている。
【背景技術】
【0002】
本発明の背景についての以下の説明は、読者が本発明を理解するのを助けるためのものでしかなく、本発明の先行技術を説明または構成することは認められない。
【0003】
緩和目的または治療目的で患者に外部から負圧をかけることが、医学分野において十分に確立されている。これらの「負圧」方法では共通して、なんらかの装置によって、患者上の所望の位置で(たとえば大気圧に対する)負の差圧を作り出し、維持する必要がある。
【0004】
一例では、局所陰圧療法、減圧閉鎖創傷療法または減圧被覆法としても知られる「陰圧閉鎖療法」(「NPWT」)は、急性または慢性の創傷の治癒を促したり、感染を防いだり、熱傷の治癒を促進したりするために使用される治療技術である。真空源は、大気圧より低い圧力を局所的な創傷環境に発生させるために使用される。排液管を含む被覆材は、深い創傷または不規則な形の創傷の形状に合わせて当てられ、透明なフィルムで密封される。チューブが真空源に接続され、開いた創傷は管理された閉じた創傷となり、同時に、循環を向上させ、滲出液を取り除くために、創床から余分な流体を取り除く。上記のように、NPWTは、糖尿病性の脚部潰瘍、褥瘡性潰瘍、外科的創傷、熱傷、外傷性の創傷などを含む、急性創傷および慢性創傷の両方を治療するために使用されている。
【0005】
別の例では、上気道(鼻咽頭、口腔咽頭、下咽頭、および喉頭を指す)の開存性を維持するまたは高める目的で、患者に外部から負圧をかけることがある。上気道の一部を覆う咽喉の外部領域(用語「咽喉」は、本明細書では、およそ下顎から胸骨の最上部まで、また横方向には、外頸静脈より後方の点まで延びる、頚部の前方部分を指す)を取り囲み、それによって、表面と咽喉の間にあるチャンバ(たとえば、空気分子で満たされた空洞)を実現するように構成された表面を有する治療器具が提供されている。器具は、前頚三角と関連付けられる被検者の軟部組織におおよそ対応する外部位置における被検者の咽喉に隣接する被検者の下顎の下にはまるように構成されている。治療器具は、この容積内の気体分子の少なくとも一部を除去することによって、このチャンバ内に部分真空を作り出すように構成された空気ポンプに、操作可能に接続されている。そのような方法および装置は、たとえば、睡眠時無呼吸症の患者、気道腫瘍をもつ患者、上気道に炎症性または外傷性の損傷をもつ患者の手術中または鎮静状態の際に、気道の開存性を保って、挿管、抜管、肺に続く気道への薬剤のエアロゾル送達などを補助するために使用することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、被検者の外部部分の負圧をかける領域を確立することを補助する装置および方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様において、装置の内表面と使用者の皮膚の間の、前頚三角と関連付けられる患者の軟部組織のおおよそ外部位置に空間充満チャンバを画定するために、患者の下顎および頚部に据えられるように構成された装置が提供される。装置は、治療水準の負圧がチャンバ内に適用されたとき、患者の頚部の表面に真空による力をかけることによって、上気道の開存性を維持するまたは高めるように構成されており、装置は、空間内の治療水準の負圧に耐えるために十分な剛性を有する。
【0008】
種々の実施形態において、装置は、装置が患者に据えられたときに装置の外縁の少なくとも一部の周りの、患者の皮膚に接触するように配置される装置縁端に取り付けられたフランジを備える。フランジは、その中央領域で、旋回部材によって装置縁端に取り付けられており、フランジがフランジの皮膚接触面を患者の皮膚の輪郭に対して調整できるようにするために、前記旋回部材が、装置縁端に対するフランジの移動をもたらすように構成されている。この装置は、チャンバ内に所望の負圧を作り出すために、空気ポンプに動作可能に接続されていてもよい。フランジは、装置縁端の一体化した部分として形成(たとえば、装置の製造中、一続きに成型)されていてもよいし、取り替え可能に(たとえば、プレス、スナップはめ、ジッパー締めなどが可能な接合システムをフランジおよび装置の上に設けて、完成した装置を形成することによって)接合されていてもよい。
【0009】
ある実施形態において、装置は、チャンバを囲むために使用者の皮膚に接触するように構成された周縁と、患者の下顎に近接して位置する周縁の下部領域(すなわち、下顎の中央前方部)から内向きに配置された支持部材とを備え、支持部材は、装置を患者の下顎に位置合わせする。
【0010】
チャンバ内での、周囲圧力より低い圧力(たとえば、部分真空)からの負荷の力が、装置によって保たれ、かつ装置の縁端を介して、またある実施形態では、支持部材が装置を患者の下顎に位置合わせすることによって、使用者の皮膚に加えられる。
【0011】
柔軟性、快適性、および装着特性を改善するために、フランジは、負荷のかかっていない状態で、フランジの少なくとも一部にわたって横に延びる非直線の輪郭を有していてもよい。装置が患者に据えられ、負圧がチャンバ内に適用されたとき、この横に延びる非直線の輪郭は、横に延びる直線の輪郭に対して、力の分散の改善をもたらすように構成されている。横に延びる非直線の輪郭は、たとえば、患者の皮膚に対して凹形または凸形であってもよい。これは限定を意味するものではない。
【0012】
代替として、またはこの横に延びる非直線の輪郭とともに、装置は、フランジの皮膚接触面の全部もしくは一部に内在するか、またはその上に配置された通気性の材料を含んでいてもよく、通気性の材料は、治療水準の負圧がチャンバ内に適用されたとき、管理された空気流を、通気性の材料を通ってチャンバ内にもたらすように構成されている。そのような通気性の材料を備えることで、チャンバ内の熱および/または湿気の蓄積を減少させることができる。
【0013】
上記のように、通気性の材料は、フランジ材料に内在する構造であってもよい。たとえば、フランジを形成するために使用される工具(たとえば金型)は、粗くなったまたは極細の溝がついた表面を、使用者の皮膚に接触するフランジの一部に実現することができる。例として、テクスチャ付きの表面が、約0.0005インチから約0.020インチの深さをもつ特徴を有することができる。別法として、通気性の材料は、取り替え可能に(したがって、使い捨てが可能に)接合(たとえば、接着テープで)できる別個の多孔性材料を含むことができる。適切な通気性の材料の例を以下に記載する。好ましい通気性の材料は、毎分約0.1リットル(LPM)を超える管理された空気流量をもたらし、ある実施形態では、約0.1から約56LPMの間であり、また他の実施形態では、約0.1から約10LPMの間であり、いずれの場合も装置は治療の水準の負圧下にある。
【0014】
別の代替として、または上記の一方もしくは両方とともに、装置は、約0.65以下、またある実施形態においては約0.5以下の摩擦係数を有する低摩擦材料を、フランジの皮膚接触面の全部または一部の上に備えることができ、低摩擦材料は、皮膚表面に対するフランジの局所的な移動をもたらすように構成されている。
【0015】
別の代替として、または上記の1つもしくは複数とともに、装置は、その縁端に、また好ましくはフランジの患者接触面上に位置する粘着性の材料を備えることができる。本明細書で使用される「粘着性の材料」という用語は、たとえば、フランジを患者の首から取り外すために適度な分離力を必要とする材料を指す。接着剤材料の粘性を測定するための種々の標準検査方法(たとえば、ASTM D3121−94またはASTM D2979−95)が、当技術分野で知られている。
【0016】
別の代替として、または上記の1つもしくは複数とともに、装置は、チャンバを囲むために、使用者の皮膚に接触するように構成された周縁を備えていてもよく、縁端の使用者接触面の全部または一部は、流体が充満した密閉部(たとえば、流体が充満したチューブの形体)を含む。本明細書では、「流体が充満した」は、流体(液体も気体も制限なく含む)、ゲル、発泡体、ワックス、流動粒子状固体など、負圧がチャンバ内に適用されたとき、柔軟な患者接触面を装置上に実現する材料を含むことを意図している。この流体が充満した柔軟な材料は、使用時に装置の密封性および快適性の両方を補助することができる。密閉部内の圧力が低い方の領域に充填物が移動するのを防ぐために、流体が充満した密閉部は、装置の接触面の周りで周方向に、かつ/または放射状に、複数のゾーンに分割することができる。複数のゾーンが存在する場合は、ゾーンは、それぞれ独立した水準の抵抗を負荷に与えるように構成されていてもよい。この抵抗は製造中に調整してもよく、または使用中に所望に応じて管理してもよい。また、より確実に装置を位置合わせゾーンに位置付けるために、下顎に近接する周縁などの装置の特定の領域は、流体が充満した密閉部がなくてもよい。
【0017】
ある実施形態において、装置は、前頚三角と関連付けられる患者の軟部組織のおおよそ外部位置にチャンバを画定するために、患者の下顎および頚部に据えられるように構成されている。これらの実施形態において、装置は、治療水準の負圧がチャンバ内に適用されたとき、患者の頚部の表面に真空による力をかけることによって、表面をチャンバ内に引きつけることによって上気道の開存性を維持するように構成されている。
【0018】
他の実施形態において、装置は、創傷を覆う外部の位置でチャンバを画定するために、患者の皮膚に据えられるように構成されている。
【0019】
多様な追加の要素を本発明の装置に提供することができる。これらの要素は、以下の1つまたは複数を含んでいてもよい。
(i)フランジ内の縦方向の応力を低減するように構成されている、フランジ内に位置する屈曲性の要素。
(ii)フランジの少なくとも一部にわたって丸みのついたフランジの縁端。
(iii)好ましくはフランジの縁端が最小厚さとなる、フランジ全体にわたって接線方向に変化する厚さ。たとえば、フランジの厚さは、約0.4インチから約0.1インチの間の最大厚さ、および約0.02インチ以下の最小厚さで変化し得る。ある実施形態において、最大厚さは、約0.312インチから約0.25インチの間であり、最小厚さは、約0.01から約0.005インチの間である。測定値は、任意の追加構造またはフランジに可逆的に塗布され得るコーティングは除外する。
(iv)ホースまたはチューブを介して装置に接続されている空気ポンプ。
(v)患者によって装着可能であり、自家動力の(すなわち、作動させるための主電源に接続する必要がない)空気ポンプ。
(vi)チャンバ内の温度、湿度、および気流を制御する空気調整システム。
(vii)装置縁端の全部または一部の周りに、囲まれた空気チャネルを形成している、フランジの外部の一体型封止部材。
(viii)装置が、上気道の開存性を維持するように構成されているとき、低摩擦材料を含まない、患者の下顎に近接する装置縁端の下部領域。
(ix)患者の下顎に近接する装置縁端の下部領域における、患者の下顎に接合するように構成された装置縁端から内向きに配置された支持部材。
(x)フランジの皮膚接触面の全部または一部の下にある一体型封止部材であって、封止部材とフランジの間の境界面が、皮膚表面に対するフランジの局所的な移動をもたらすように構成された低摩擦領域を提供している、封止部材。これらの実施形態において、潤滑用の流体を、境界面での摩擦を減少させるために、封止部材とフランジの間に配置することができる。
【0020】
本開示が基づいている概念は、本発明のいくつかの目的を達成するための他の構造、方法およびシステムの設計の基礎として容易に使用できることが当業者には理解されよう。したがって、特許請求の範囲は、本発明の趣旨および範囲を逸脱しない限りにおいて、そのような等価構造を含んでいるとみなされるべきであることが重要である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】患者に接触する領域での装置の断面図である。図示してあるように、フランジ−装置の接続点は、装置本体と一体に構成することができる。
図2】患者に接触する領域での装置の断面図である。図示してあるように、フランジ−装置の接続点は、可逆的に取り付けられる部品として構成することができる。
図3】使用時に、装置が患者に接触する領域に負荷としてかかる力を概略的に示す図である。
図4】使用時に、装置が患者に接触する領域に負荷としてかかる力を概略的に示す図である。
図5】代替のフランジ形状(丸みのついた縁端)が、使用時に、装置が患者に接触する領域に負荷としてかかる力に及ぼす効果を概略的に示す図である。
図6】代替のフランジ形状(片持ち梁の縁)が、使用時に、装置が患者に接触する領域に負荷としてかかる力に及ぼす効果を概略的に示す図である。
図7】凹形の輪郭を有する下部フランジを示す、装置の断面図である。
図8】装置の形状に及ぼす円周の剛性の効果を示す、さまざまな投影図である。
図9】装置の円周の剛性を減少させるための種々の実施形態を示す図である。
図10】使用時に装置内に蓄積し得る熱および湿度の水準を制御するための通気層の使用を示す図である。
図11A】通気層が、複数の材料で構成された積層物から形成される実施形態を示す図である。
図11B】極細の溝がついた表面が通気層の構成要素として使用される実施形態を示す図である。
図12】本発明の装置内の環境品質を管理するためのシステムを概略的な形体で示す図である。
図13】本発明の装置内の環境品質を管理するためのシステムを概略的な形体で示す図である。
図14】本発明の装置内の環境品質を管理するための代替実施形態を示す図である。
図15】装置が患者に接触する領域の上に、異なる摩擦特徴の領域を有する本発明の装置を示す図である。
図16】頭が動いている間、せん断力の修正を行うように構成された、本発明の装置を示す図である。
図17】本発明の装置が患者に接触する領域が、摩擦特徴を制御するように修正された実施形態を示す図である。
図18】本発明の装置を使用者に固定するためのカラーの使用を示す図である。
図19】本発明の装置を使用者に固定するためのカラーの使用を示す図である。
図20】装置を使用者の下顎に位置合わせすることによって装置の適切な位置決めを補助するためのカップ状の位置合わせ要素を含む、本発明の装置の実施形態を示す図である。
図21】装置を使用者の下顎に位置合わせすることによって装置の適切な位置決めを補助するためのカップ状の位置合わせ要素を含む、本発明の装置の実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
外部の陰圧治療器具
【0023】
陰圧治療器具の最小設計は、器具の内表面と使用者の皮膚の間に空間充満チャンバをもたらすように構成された、空間内に作り出される所望の部分真空に耐えるために十分な剛性を有する構造であり、かつ、チャンバを囲むために使用者の皮膚との間を密閉する周縁を設けるように構成された構造である。所望の治療水準の真空を適用するために、約7.62から約60.96cm H2Oの範囲内の真空を、約32.90cm2から約210.58cm2の皮膚表面積に適用する。これらの外部の治療器具は通常、治療期間全体にわたって治療上の所望の恩恵を実現するために、密閉空間を外部の真空源および電源に接続するポートを必要としている。
【0024】
A.治療器具
【0025】
本発明の治療器具は、器具の内表面と咽喉の皮膚の間にチャンバをもたらす構造部材を含み、この構造は、空間内に作り出される所要の部分真空に耐えるために十分な剛性を有し、また、この構造は、この空間を囲むために使用者の皮膚との間を密閉する周縁を設けている。容器は、任意の材料または複数の材料の組み合わせから、形成、成型、または製造することができる。治療器具を構築するのに適したそのような材料の非限定的な例としては、プラスチック、金属、天然繊維、合成繊維などがある。この器具はまた、シリコーン、ゴム、またはウレタンなどの、弾性記憶の性質をもつ材料から構成することができる。
【0026】
この治療器具の製造に使用される1種または複数種の材料に課される制限は、器具が非毒性(または、皮膚に接触するので「生体適合性」)でなければならず、かつ、所望の部分真空負荷を保ちながら空間を維持するために十分な剛性を有していなければならないことだけである。デュロメータまたは硬さとは、押し込みに対する材料の抵抗の単位である。一般的な材料のデュロメータを以下の表に示す。
【0027】
【表1】
【0028】
治療器具の周辺接触面は、器具の構造領域よりも柔らかく、より柔軟な材料で作ることができる。デュロメータが15から30の間(ショアOO、すなわち、概ねチューインガムまたはゴムバンドの硬さ)に下がると、接触面が皮膚の形状をよりよく覆うことができるようになる。ほぼゲル様の粘稠性を有する、数多くの半硬化または未硬化のゴムが当技術分野で知られている。それ自体は十分な構造上の特徴をもたない材料の場合(たとえば、ELASTOSIL(登録商標)P7616−160A/B RTV−2ゴム、Wacker Chemie)、材料は、たとえば薄い袋(1mmのポリウレタンなど)を使用して包まれていてもよい。これらの材料は、2段階の成形処理で器具の構造領域に接合することができる。
【0029】
治療器具の接触面の全体または一部は、使用者の皮膚に対する器具の粘着力を改善する粘着性の材料を設けていてもよい。この粘着性の材料は、器具と一体化した部分として、または使用者によって取り替え可能な材料として形成されていてもよい。ある種の感圧接着剤(「PSA」)には、アクリル樹脂、シリコーン、ゴム、親水コロイド接着剤などの多くの形態がある。接着剤の強度を分類する標準的な方法は、PSTCまたはASTMの方法による90度の切り取り試片(coupon peel)の試験である。直線1インチにつき0.2から2.0ポンドの範囲の感圧接着剤が理想的である。過度な接着強度は、装置の取り外しに関して逆効果となる。好ましい材料には、ELASTOSIL(登録商標)P7671A/BまたはSILPURAN(登録商標)2120A/Bを含むELSATOSIL(登録商標)(Wacker Silicones)などのRTVシリコーンがある。そのような材料は、生体適合性であり、γ線照射によって滅菌可能であり、粘着性は、加硫反応に添加する触媒の量を変化させることによって調整することができる。RTV−2エラストマーは2種類の成分の生成物であり、これらの成分は、混合すると室温で硬化し、固体のエラストマー、ゲル、または可撓性の発泡体になるものである。RTV−2は、2種類の成分AとBを混合することによって硬化する。不完全な硬化によって、シリコーンゴム材料は柔らかく、粘着性を保ったままとなる。
【0030】
治療真空によって発生する力のせいで、器具の接触面によって使用者の皮膚に(皮膚に対する圧力として使用者に知覚され得る)力がかかるので、快適性の欠如が、器具を使用しなくなることを招く可能性がある。ある環境下では、縁端または縁の下にある皮膚の毛細血管、細動脈、および細静脈が、長期の使用下でつぶれる可能性もある。したがって、本発明では、外部の陰圧(cNEP)療法の使用に関わる快適性を高めることができるいくつかの技術を記載している。以下の検討は、気道の開存性を維持するまたは高めるための装置に焦点を合わせているが、これらの概念は、負圧装置に一般に適用可能であることが当業者には理解されよう。
【0031】
A.フランジとドームの接合および形状
【0032】
装置は、好ましくは、柔らかく、柔軟な材料であって、それでいてつぶれることなく治療水準の真空に耐えるように、局所的には十分な剛性をもつ材料で作られる。組織構造の形状がさまざまであるために、いくつかの装置サイズおよび装置形状が必要であり得る。装置が確実に配置されたと使用者に感じさせるため、装置は、下顎の下に収まる位置合わせ要素(「棚」)を設けることによって、下顎骨に緊密に位置合わせされるように設計されている。図20(ドットの領域)に示すように、下顎を受けた「カップ」形の領域は、装置の縁端およびこの棚によって形成される。それによって形成された下顎カップは、図21に示されるように、カラーを下顎に適切かつ確実に載せるのに役立つ視覚的特徴を提供することができる。さらに、装置/患者の境界面で生じる負荷の一部を、下顎の比較的剛性の構造に与えることによって、動かそうとされる咽頭を覆う軟部組織に及ぼされる力を改善することができる。
【0033】
耳および頚部の近くのフランジ領域は、柔軟であり、使用者の組織構造に自己整合するように構成されているのが有利である。図1は、ドームおよびフランジを通る横断断面図を示す。この図において、フランジは、装置の縁端と一体のものとして描かれている。接合点は、フランジが皮膚と接触する面のおおよそ中点である点Aの極めて薄い部分を示す。この薄い部分は極めて弱く、フランジが自由に旋回できるようにしている。これは、頚部とのフランジの位置合わせ不良によって接触圧力が大きくなる領域が減るので、有利である。図2は、スナップ式に取り付ける接合部によって、フランジが装置縁端に可逆的に可能に取り付けられる設計の代替実施形態を示す。
【0034】
適切に位置合わせされたフランジであっても、その下にある組織の挙動に対処するように設計されていなければ、大きい接触圧力点が依然として生じている可能性がある。ヒト組織の主たる重要な特徴は、その圧縮剛性である。これは、装置と、骨または軟骨などの極めて堅い構造との間に挟まれる組織の厚さによって変わる。余分な脂肪組織を有する人たちは、あまり堅くないまたは柔らかい組織を有することになる。装置フランジの外縁を横断してみると、組織の剛性は、皮膚の靭性および下にある下部構造に応じて変わる。したがって、相対的な圧縮剛性は、ある組織構造領域と別の組織構造領域では異なることがあり、個々の使用者によっても変わり得る。快適性とは、痛みがないことである。痛みは長時間の大きな接触圧力により生じる。実際の不快領域は極めて小さい可能性があり、縁または点ですらあり得る。
【0035】
図3は、典型的な方法でヒト組織上に負荷をかける装置フランジの拡大図を示す。負荷のかかっていないフランジは、装置の遠位方向へ湾曲する横に延びる非直線の輪郭を備えた設計となっている。負荷のかかったフランジの形状は、負荷、材料特性、幅およびヒトの組織特性に基づいて確立されている。負荷(平らなヒト組織に関して)のかかったフランジの形状は、フランジの中心80%についてはおおよそ平らで、各10%の縁端状態が上方に湾曲している状態が好ましい。装置のドームからの負荷がフランジにかかるとき、フランジの遠位端は戻って曲がり、直線になる。分かりやすくするため、フランジの断面図では、接触面を直線として示す。実際は、直線とは、身体の組織構造上の曲線に沿って延びていることを意味する。それはまた、フランジの下の構造がそれぞれ皮膚、筋肉/脂肪組織および骨であり、この構造が非直線のばね速度の挙動を有することを維持する。したがって、組織構造の均一の圧縮によって、均一の接触圧力が生じる。しかしながら、組織の構造的凝集性によって、より大きい応力を組織にかけるフランジ縁端状態が存在する。これは点Aとして示している。図4は領域Cを示す。これは、皮膚表面の自然な曲率に関連した組織を圧縮することに関連する潜在的なエネルギーである。自然な曲線の変位させられた組織は、点Bにおいて伸張した状態に変形している。
【0036】
この負荷はフランジ下で保たれ、組織は加重を感じる。皮膚の中または上に加えられる応力の総量は、圧縮応力と横方向の引張り応力のベクトル和である。図5は、丸みのついた縁端を含むフランジの縁端設計を示す。この曲面は、2つの方法でピーク応力を減少させている。まず、図4で強調されている潜在的なエネルギー領域が少なくなっており、接触圧力で言えば点Aにおいて小さくなっている。理想的な解決策は、フランジの中心領域内の公称応力に一致するフランジ縁端の応力状態の総量になる最小曲面を選択することである。理想的な丸みを設計する際に考慮される変数には、たとえば、組織構造の形状および組織の厚さがある。直接測定に基づくと、フランジ縁端の丸みは、有利には、0.02から0.25インチの間である。さらに、丸みは優先的には、フランジの皮膚接触面に関して接線方向であり、中心点がフランジ縁端からの丸みの値の70%に位置することができる。この設計は単純な丸みであるが、他の実施形態が利益をもたらすこともできる。それらは、傾斜、またはフランジ表面から縁端までの曲線を表す任意の数学的表現の形をとることができる。
【0037】
図6は、丸みのついた所望の曲線が、シリコーン材料などの薄い縁を曲げた片持ち梁によって作られる設計を示す。この特徴物は、装置および/またはフランジと一体であってもなくてもよい。この設計の利点は、負荷のかかっていない状態の薄い縁が、装置の遠位方向へ湾曲していることである。これは、空気漏れに対する効果的な密封をこれ自体が維持する。
【0038】
B.縦(円周)方向の剛性の悪影響を減少させる方法
【0039】
頚部の前方にまたがる装置の下部フランジは、頚部の形状に一致するように湾曲している。この曲率は、フランジが頚部に自己整合するのを妨げる。フランジが旋回しようとするとき、フランジの上部縁端の円周長は長くなり、下部縁端の円周長は短くならなければならないはずである。材料は、比較的剛性なので、単に位置調整を妨げる。図7は、凹形の輪郭、および回転の枢支点を有する下部フランジを示す、装置の断面図である。図8Aおよび図8Bは、フランジの2つの投影図である。この図は、フランジ縁端材料の伸張および屈曲を示す。図9Aは、局所的なスリットの形の不連続性を加えることによって、縦(円周)方向の剛性を減少させる方法を示す。スリットは、フランジ長に対して垂直に配向されており、したがって、フランジの負荷分散特徴という利益に影響を及ぼさない。図9Bは代替実施形態を示す。
【0040】
C.装置内の空調
【0041】
睡眠時無呼吸は、睡眠中に継続的な治療を必要とする慢性状態である。装置は頚部の領域を囲み、これは、使用者に暑さおよび湿気を感じさせがちな可能性がある。これらの不快な状態は、使用者に装置を配置し直そうとさせることがあり、空気漏れおよび睡眠からの覚醒の全般的な増加を招く可能性がある。装置内の気流の流れを促進することは、特に装置が長時間装着される用途において、この湿気および温度の悪影響を軽減するのに役立つ。
【0042】
図10は、外部の空気を、密封フランジを越えて、装置の空洞部の中に流れさせる通気層の概略図である。通気層は、つぶれないように耐え、それによって空気の通路を維持するのに十分な構造をもつ生体適合性の半多孔性材料でできている。材料は、装置内への空気路を提供するだけでなく、気体および湿気の自由な入れ換えが生じ得るように、皮膚に空気が達するようにもする。これは、熱および湿度によって発生または悪化する皮膚外傷を軽くする役割も果たすことができる。装置内を流れる空気の好ましい流量は、毎分約0.1標準立方フィート(LPM)を超え、ある実施形態では、約0.1から約56LPMの間で、他の実施形態では、約0.1から約10LPMの間である。典型的な材料は、発泡体、織物および不織レイアップであり得る。装置フランジが、特に組織接触圧力のピークを最小限にするように設計されている場合は、通気部は、フランジの有効性を打ち消さないように薄くなければならない。気流の流量は、選択された材料の流れの特徴に基づいて変化し得る。たとえば、空気経路の長さが1/2になれば、流量は2倍になるはずであり、材料の厚さが1/2になれば、流量は半分になるはずである。
【0043】
この通気層(ライナ)は、皮膚に密接に接触しているので、製品寿命はわずか数日に制限され得る。これは、ライナを取り外し、新たなライナを付け直す単純な手段から利益を得られる。感圧接着剤はこの用途に理想的である。古いライナは、特殊なタブを引っ張ってライナを剥がすことによって、装置から簡単に取り外される。新たなライナは、裏紙を剥がし、ライナを装置に位置合わせし、軽い接触圧力を印加することによって、取り付けられる。ライナは、多孔性材料の2層以上から構成されていてもよい。それは、多くの積層された構成要素からなることがある。たとえば、図11Aの分解図を参照されたい。装置は、シリコーンゴムで作られているため、特別な接着剤を必要とすることがある。典型的な積層物は、通気層、アクリル接着剤、ポリウレタンフィルム、シリコーン接着剤、そしてまさにこの装置からなる。アクリル接着剤は、ライナを装置から確実にきれいに取り外せるように、シリコーン接着剤よりも強力であるべきである。また、シリコーン接着剤配合物は、装置のシリコーン材料よりもポリウレタンフィルムへの粘着力が大きくなければならない。
【0044】
低摩擦材料の追加層を、ライナである通気層の、皮膚の擦過を軽減するための戦略的領域の中に適用してもよい。好ましい位置については以下で論じる。考えられる接着剤の例として、以下のものが考えられる。1.アクリル樹脂、2.シリコーン、3.親水コロイド。
【0045】
図11Bは、装置および密封領域に空気を通す別の実施形態を示す。この場合、装置フランジの皮膚に接触する側は、空気流の通路を提供するマイクロチャネルの格子を含むことになろう。チャネルの縦横比は、頚部組織が底部に移動し、空気流を妨げるのを防ぐために、十分に深くなる。チャネルの奥行き対幅の比は1から4の範囲であり得る。チャネル幅は、0.0005から0.020の間で変化してもよい。チャネル開口専用のフランジ表面積は、5から20%の範囲であり得る。格子は、射出成形用の型の中で形成される可能性が高い。微細機械加工、フォトケミカルエッチング、またはレーザエッチングなどの種々の技法が使用され得る。また、レーザエッチングなどの2次製造処理ステップが、直接的に装置フランジに使用され得る。
【0046】
使用者によっては、フランジを越えて空気を引き抜くだけでは十分でないことがある。装置内の空気調節は、加熱、冷却および湿度制御が必要なことがある。図12は、二重管ならびに一体化した真空および空調ユニットからなるシステムを示す。システムは、調節された空気を装置内に計量供給し、かつ真空ポンプで空気を完全に抜くことになる。接続チューブは、並んで一体成型されているかまたは同軸の、外装に覆われた2本のチューブであってもよい。図13は、マイクロコントローラ、ポンプ、吸入口弁、加熱器、冷却器、ならびに圧力、温度および湿度センサからなる典型的な制御方式を示す。マイクロコントローラは、センサ入力4を目標値と比較し、それに従って、ポンプの流れ、吸入口弁、加熱器および冷却器を調整することになる。たとえば、湿度および/または温度を下げるために、吸入口弁が開き、装置内の空気流量を増やすことになる。ある人は、寝る際に初めは暖かい空気を好む場合がある。これは、電気加熱によって、またはポンプおよびモータによって生じさせられる固有の熱を利用することによって行うことができる。別の人は、装置内の温度水準を室温未満にする追加冷却のメリットを好む場合がある。システムは、ソリッドステートの熱電(ペルチェ)冷却を利用することになる。また、無呼吸事象を検出するごとに繰り返す短時間最大冷却機能を組み込むことができる。湿度を下げるための他の手段は、取り替え可能な乾燥剤の存在下で循環される密閉された空気システムを必要とすることがある。
【0047】
装置の中心領域で供給および排出の両方を行う2本チューブのシステムは、最も単純な気流システムである。しかしながら、より大きい空気入れ換え速度を要する任意の装置設計では、ポンプ容量の増加の必要性に迫られる可能性がある。より効率的な設計では、装置の端部の近くに供給ポートおよび排出ポートが配置されている。送り込まれた気流は、次いで、装置を排気する前に、およそ8平方インチの皮膚表面を横切る。これは、湿気および温度を管理することにおける効果を最大にする。
【0048】
図14は、(調節された)空気を装置の最外縁を走る環状チャネルに供給する方法を詳細に示す。供給チューブ接続部と環状空洞部は、装置内の一体型コアを介して、または外部の手段によって接続されている。この設計の利点は、調節された空気がフランジの下に送り込まれることである。フランジ領域は、皮膚調整の総表面積を30%から50%だけ広げるので、有効性が改善される。空気供給用の環状チャネルは、縁の封止材によって外部から隔離されている。
【0049】
発泡体などの多くの厚い通気材料は、快適性を高めるのには理想的に適合しているが、空気を多く通し過ぎる可能性がある。しかしながら、それらは2次装置で空気流量を制御することによって使用できる。2次装置は、オリフィスまたは制御弁であり得る。装置設計は、図14に示される完全なまたは部分的な環状チャネルを有する。チャネルに入ってくる空気は、1つもしくは複数のオリフィスまたは類似の流れ制御装置によって管理されることになる。
【0050】
C.装置の位置安定および摩擦低減
【0051】
治療真空にされたとき、装置は、真空の力および皮膚とシリコーンゴム材料の間の摩擦によって、確実に定位置に保持される。装置は、好ましくは、装置が自然な頭の動きについてくるようにする下顎骨の深い形状に一致するように設計されている。これは良好な位置の安定性を確立するが、頚部にとって好適ではない。ヘッド/装置の動きが皮膚の弛緩より大きかったとき、滑動が起こる。これによって、擦過および不快感が使用者に生じる。
【0052】
そのような擦過を避けるための、本開示に記載する2つの手法がある。第1の手法は、頚部領域で使用される材料の摩擦を低減することであり、第2の手法は、下顎骨と頚部フランジを分離することによって頚部滑動をなくすことである。図15は、高い摩擦特徴および低い摩擦特徴が装置位置の安定性および使用者の快適性を最適化する際に使用できる異なる領域を、フランジ上に画定する。これは単一の手法であるが、類似の結果をもたらすことができる数多くの実施形態が存在する。幅広い摩擦特性を示す多くの材料が存在する。それらには、織布、不織布、プラスチックフィルムおよび接着剤があるが、これらに限定はされない。下の表は、材料およびそれらのヒトの皮膚に対する摩擦係数特性を少しだけ列挙したものである。
【0053】
【表2】
【0054】
たとえば、下顎骨領域に配置されたMedifoam#30および頚部領域に配置された繻子は、頚部に不快感を与えることなく良好な位置安定性をもたらす。また、装置フランジ自体を、摩擦係数に影響を与える2次処理で調節してもよい。
【0055】
図16は、頭が横向きに回る際にフランジが頚部にかける横方向の力を最小限にする装置構造の方法を示す。現在の装置設計は、真空の力に効果的に反作用するための単純なドームを組み込んでいる。単純なドームは、材料がほぼ平面内にあることにより、横のせん断方向に、上部フランジと下部フランジの間に堅い関係を生み出す。これを減少させるため、断面係数特性を、ドーム内に垂直の陥入部を追加することによって、柔らかくする必要がある。ドームのアーチは、真空負荷を保つために維持される。
【0056】
図17Aおよび図17Bは、一体的に取り付けられた薄いフィルムまたは膜を有する装置の複数の画像を示す。この膜は、装置支持フランジと使用者の皮膚の間に配置され、0.004から0.032インチの厚さの範囲である。頭が動くと、柔軟な膜は皮膚に対して固定されたまま、装置のフランジが動く。これにより、装置フランジと膜の間に相対運動が生じて、使用者頚部に擦過痕が残らなくなる。フランジと膜の間の摩擦係数は、任意の従来の液体、ゲルまたは乾性被膜潤滑剤を使用することによって下げられる。
【0057】
図18は、装置フランジと使用者の皮膚の間に布の通気層を設けながら、装置を確実に位置決めするための方法を示す。外側の布地は、頚部上で空気の循環を促進する、柔らかく、目の荒い網目状の織物である。それは、スナップ式に、またはVelcroテープによって裏側に留められている。内側の布地は、通気層であり、薄い綿または類似のものと思われる。内側の層は、装置の外縁において、外側の布地に縫い付けられている。組織が真空で装置に入るための間隙を設けるために、追加の材料が装置の中に挟み込まれている。図19は、そのような実施形態を断面で示す。
【0058】
B.部分真空を作り出す−空気ポンプ
【0059】
用語「空気ポンプ」は、本明細書では、部分真空を残すために気体分子を密閉チャンバから除去する装置を指す。
【0060】
真空は、器具および使用者の皮膚表面によってできるチャンバ内に、いくつかの方法で作り出すことができる。単純な方法は、球のように圧縮し、使用者の咽喉にはめ合わせ、次いで解放することができる弾性形状記憶材料を用いて治療器具を製造することである。この場合、器具が咽喉および器具に対合され、解放されるとき、器具がその元の形状に戻ることで、空間内に部分真空が作り出される。
【0061】
ポンプモジュール用の好ましい動力設計は、容積式ポンプを利用するが、リニアモータまたはブラシ付きもしくはブラシレスDC回転モータ駆動のいずれかによって駆動される膜ポンプを利用するのが最も好ましい。リニアモータが使用される特に好ましい例では、リニアモータは、ポンプの個々のストロークも複数のストロークも駆動するように構成される制御回路構成に動作可能に接続されている。DCモータが使用される特に好ましい例において、モータは、個々のモータ回転も複数の回転も駆動するように構成されるコントローラに動作可能に接続されている。これらの空気ポンプおよび他の適切な空気ポンプの例は、以下に記載してある。
【0062】
ポンプモジュール用の別の好ましい動力設計は、参照によって全体が本明細書に組み込まれているWO2009/112866に記載されているディスクポンプを利用する。そのようなディスクポンプにおいては、主たる空洞部が端部の壁および側壁によって画定される。空洞部は好ましくは円形であるが、楕円および他の形状も使用できる。空洞部は、節状の(nodal)空気吸入口および弁付きの空気排気口を備える。アクチュエータは、ディスクに取り付けられた圧電ディスクを備える。適切な電気駆動がかけられたとき、アクチュエータは、空洞部の平面に対してほぼ垂直に振動させられ、それによって、放射状の圧力振動を空洞部の流体中に発生させる。主たる空洞部内の放射状の流体圧力振動の最低共振周波数は、好ましくは500Hzを超え、振動運動の周波数は、主たる空洞部内の放射状の圧力振動の最低共振周波数の20%以内となり得る。
【0063】
a.空気ポンプの種類
【0064】
用語「容積式ポンプ」は、本明細書では、空洞部を繰り返し膨張させ、気体分子をチャンバから空洞部に流入させ、空洞部を密閉し、気体分子を大気へ排出させる機構を指す。「容積式」タイプの真空ポンプの中では、好ましい候補として、ベーンポンプおよび膜ポンプがある。
【0065】
ベーンポンプは、気体を吸入口から排気口に移動させるポンプチャンバ内の回転アセンブリを使用して、気体にポンプ内を通過させる。ロータが回ると、羽根の端部がハウジングにわずかに当たり、吸入口から排気口までの密封状態を作り出す。気体は、1/2周期の間に羽根同士の間の容積が小さくなるので加圧され、残りの半周期の間に、吸気ポートを通って吸引される。ベーンポンプは、ポンプ内に含まれる羽根の数および羽根が回る速度に等しい圧力パルスを作り出す。ベーンタイプのポンプは、ポンプ回路全体にわたって真空を維持することはないので、真空損失を防ぐために、システムは、ポンプと囲まれた部分真空チャンバとの間に逆止弁を備えることになる。そのようなポンプは始動トルクが極めて小さく、DCモータでの使用によく適しているはずである。他のポンプに比べて、生成される騒音周波数が高くなるので、下記の音低減技術と併せるとうまく機能する可能性がある。
【0066】
膜ポンプは、小型から中型サイズの用途ではベーンポンプの代替として一般的である。膜ポンプは、保守管理がほぼ不要であり、静かであり得る。膜ポンプは、空気を追い出す膜を機械的に動かすことによって機能する。空気の動きを導いて真空を作り出すために、一対の一方向弁が設けられている。これらの弁は、囲まれた部分真空チャンバからポンプ回路を密閉するという必須機能も提供する。
【0067】
このポンプカテゴリの中には、膜の動きを実現するいくつかの方法が存在する。リニアポンプは、膜を電機子に直接的に接続し、電機子を直線方向に振動させることができる。このタイプのポンプのモータ制御は、極めて単純であり得る。リニアポンプを駆動するリニアモータは、膜を非常にゆっくりと動かすことができ、これは、騒音および振動の発生という観点から見れば有利であり得る。回転膜ポンプは、回転−軸機械的変換器を用いて膜を進める。回転膜ポンプは始動トルクが小さく、DCモータと連結することができる。これらのポンプは安価である。
【0068】
別の代替形態において、空気ポンプは、再生ポンプなどの動的ポンプであってもよい。再生ポンプでは、羽根車が回転して、翼の根元部分からその先端まで空気分子を移動させる遠心力を生み出している。翼の先端を離れた空気は、ハウジングの外形の周囲を流れ、後続の翼の根元部分に後退し、この流れのパターンが繰り返される。この動作は、圧力差の能力を高めるための擬似的段階付け効果(quasi−staging effect)をもたらす。回転羽根車の速度は、圧力変化の程度を決定する。そのようなポンプは、本明細書に述べるような、使用者の上で支持される真空源とは対照的に、外部(たとえば卓上)の真空源での使用が最適である。
【0069】
特に好ましいポンプは、単一ストローク変位が0.001から0.01in3の間、最も好ましくは、0.003から0.005in3の範囲の膜ポンプである。変位が約0.004in3のポンプは、回転ブラシレスDCモータを使用して3000rpmで、またはリニアDCモータを使用して60Hzで駆動されたとき、12in3/分の最大排気速度を生み出す。これは、0.5から2in3の間の容積を囲む器具内の空気を、2.5から60秒で完全に排気することができる。勿論、器具で囲まれたチャンバの空気を完全に排気することは、治療水準の真空を作り出すために必要ではない。たとえば、8in3のチャンバを設けた器具では、約1.6in3を除去することで適切な使用圧力が得られる。したがって、1から25in3/分の完全なポンプモードで、器具内に治療の真空水準を迅速に作り出すことができる。
【0070】
最初の排気の後、空気ポンプは、所望の閾値を超える部分真空を維持する必要があるときのみ駆動される。空気が囲まれたチャンバ内に漏れる速度を0.005から0.5in3/分の間と仮定すると、膜ポンプは、数秒から数分ごとに1回だけ単一ストロークを行うように駆動され得る。この排気/静の二重モード手法は、極めて静かで、低振動かつ低電池消費であるなどの数多くの利点を有する。たとえば、好ましいポンプは、0.005から0.5in3/分(最も好ましくは、0.01から0.1in3/分)の速度で、静モードで作動することができ、これにより、夜の8時間で2.4から240in3の空気を除去することができる。毎秒5ストロークのポンプ速度および0.004in3/ストロークのポンプ変位であると仮定すると、そのようなポンプは、毎分の中で0.25から25秒作動し、なおも所望の性能をもたらすことができる。
【0071】
b.電気モータのタイプ
【0072】
この用途では、低速および高速両方の動作、音生成量の少なさ、および効率的な電池使用が必要である。DCモータでは、モータにその定格電圧が供給されるとき、モータは最大rpmで動作する。速度を制御するため、短時間の間、モータをオフにしなければならない。このモータ電圧は、通常は矩形波として提供される。この矩形波の周波数は、通常は極めて高速であり(2000Hzから18000Hzの範囲が最適)、モータが受け取る電力量は、矩形波が「オフ」に対して「オン」である時間の割合に比例する。この技法は、パルス幅変調(PWM)と呼ばれる。最大電圧の短パルスが、高度に制御された部分回転を強制する強磁場を作り出す際に、PWMは、「静モード」に必要な低モータ速度動作を調整する。極めて低速度の範囲で作動するためには、正確な速度制御のためにフィードバックをコントローラに送るエンコーダの追加が必要な場合がある。
【0073】
C.真空制御
【0074】
真空制御は、機械制御機構および/または電子制御機構の両方によって実現することができる。器具のチャンバ内で真空を制御するための単純な機械機構は、器具のポートに圧入される小型の真空逃し弁を提供するものである。逃し弁は、事前に選択された真空水準を超えたとき、空気が中に入れるようにするために選択される。次いで、真空が所望の水準を超えたときに開き、その水準を下回ったときに閉じることによって、真空逃し弁が部分真空を制御しながら、空気ポンプは一定の速度で駆動される。好ましい作動真空水準は、所定の範囲を上回る望ましくない圧力超過状態を排除するために、適切な真空逃し弁を挿入することによって水柱約7.6cmから約61cmの範囲内で選択される。内部真空の監視または空気ポンプを駆動するモータの制御は、本実施形態においては必要ない。しかしながら、この実施形態は、不必要な騒音をもたらし、かつ望ましくない可能性のある速度で電池を消費する傾向があり得る。好ましい電子/機械真空制御機構は、真空または圧力センサ、モータ制御回路構成、および電池パックモジュールに結合されたマイクロコントローラを含み得る。
【0075】
装置の性能および制御を改善するために、数多くの任意選択の部品が使用できる。たとえば、器具および使用者の皮膚によって囲まれる容積はおおよそ既知であるため、部分真空を実現する時間が計算できる。真空または圧力センサは、ポンプおよびモータの作動を必要とする陰圧の低下を検出する。ある適切な時間内に部分真空が実現されなかったと判定された場合、真空源を停止し、場合によっては警報状態を示すことができる。適切な警報は、視覚的(たとえば光)、聴覚的(たとえば音)、および/または触覚的(たとえば振動)指示方法を含み得る。
【0076】
部分真空は、治療期間の少なくとも一部の間、使用者の皮膚に接触する面の力の負荷を変化させるために、より低い水準との間で周期的に変動させることができる。場合により、コントローラ回路構成はプログラム可能であり、使用者または医療従事者は、真空水準、警報、センサタイプなどの種々のパラメータに加え、騒音補償などの特定の任意選択の機能も変えることができる。
【0077】
a.真空/圧力センサ(複数可)
【0078】
すでに検討したように、チャンバの部分真空と周囲の大気圧の差を求めるための真空センサは、コントローラに接続されていてもよく、部分真空を所望の水準に維持するために使用される。プリント基板搭載可能パッケージ内の適切な微小シリコンセンサが当技術分野で知られている。これらのセンサは、温度補償または較正回路構成を含んでいてもよいし、そのような回路構成は、場合により、別個の電子部品として提供されてもよい。真空圧変換器は、典型的には、変化する圧力(たとえば、強まる真空状態)に比例する電圧の出力を提供し、一方で、絶対圧力変換器は、典型的には、増加する圧力(たとえば、弱まる真空状態)に比例する電圧の出力を提供する。
【0079】
D.データのインポートおよびエクスポート
【0080】
好ましくは、マイクロコントローラが、使用者または医療従事者による、とりわけ部分真空の所望の水準設定を可能にするキーパッドまたはタッチスクリーンなどのデータ入力装置に操作可能に接続されている。単純な形態では、単一のボタンが繰り返し押し下げられ、マイクロコントローラによってボタン押下の回数がカウントされ、真空設定に変換されるものでもよい。より複雑な装置では、ディスプレイが、現在の設定のデジタル読み取り値、および設定値を増減させるために使用する上下矢印キーを表示してもよい。最終的には、キーパッドを使用して、単純に所望の設定値をタイプ入力してもよい。すべての場合において、データ入力装置は、有線または無線方式で制御モジュールと通信することができる。介護者が真空水準を設定している場合では、変更を制御されていない方式で行うことができないように、データ入力装置は制御モジュールから分離しているかまたは取り外し可能であるのが有利なことがある。
【0081】
本発明の装置は、さまざまな特徴センサを記録し、かつ/またはそれに応答するように構成されうる。用語「特徴センサ」は、本明細書では、使用者のある特徴を検出し、その特徴に対応する電子的な結果を生成するセンサを指す。上記のように、サーミスタ、音響センサ、酸素濃度計、振動センサなど、呼吸周期、無呼吸事象、およびいびき事象を検知するための数多くのセンサのタイプが当技術分野で知られている。米国特許出願公開第2006/0009697号は、参照によってその全体が本明細書に組み込まれており、カフを使用せず、血圧を含む多様な生命徴候を測定する単一の薄型使い捨てシステムを開示している。この情報および他の情報は、有線または無線接続を介して、患者から中央監視装置に容易に転送することができる。たとえば、このシステムを用いて、医療従事者は、患者の日常の活動中、または患者が入院している間、患者の血圧および他の生命徴候を継続的に監視することができる。このシステムはまた、血圧測定用の同じ光学システムを使用して、患者の心拍数および血中酸素飽和度の特徴を示すことができる。この情報は、血圧情報とともに無線で送信され、患者の心臓の状態をさらに診断するために使用することができる。
【0082】
そのようなセンサは、本明細書に記載の治療器具を使用する間、使用者によって装着されてもよく、そこから集められる情報は、この器具に関する遠隔測定データを受け取るために選ばれた介護者などに送信されてもよい。得られる情報は、患者、医療従事者、保険会社、臨床試験を実施する製薬機関、および在宅医療監視団体に向けた多くの用途がある。
【0083】
データのインポートおよびエクスポートは、有線および/または無線手段で行われてもよい。この文脈での用語「有線」は、制御モジュールにデータを送ったり、またはそこからデータを読み出したりするPDA、コンピュータ、セルラー電話、ネットワーク接続機器などの外部装置に、制御モジュールを動作可能に接続する物理的接触が存在する任意の方法を指す。用語「無線」は、物理的接続なしでデータが制御モジュールに送られたり、またはそこから読み出されたりする任意の方法を指す。
【0084】
有線でのデータ転送の場合は、制御モジュールと外部装置の間の有線USB接続が、設けることのできる一例である。USBタイプの接続は広く普及しているものとなったが、ある装置の接点が別の装置の接点に物理的に適合する任意の形態の接続。別法として、メモリスティック、SDカード、フラッシュメモリドライブなどのメモリカードを、制御モジュールと外部装置の間でメモリカードをやり取りしてデータを移送するために使用してもよい。
【0085】
無線でのデータデータ転送の場合は、当技術分野でよく知られている数多くの規格が使用され得る。そのような無線接続には、当技術分野で知られている種々の無線周波数接続および光学(たとえば赤外線)接続がある。比較的短距離のRF通信としては、Bluetooth、HomeRF、IEEE802.11b、IEEE802.11a、およびIEEE802.15.4が、使用できるよく知られた標準通信プロトコルである。いくらか長距離のデータ転送としては、CDMA、TDMA、GSM、およびWAPなどのセルラー電話プロトコルが利用できる。
【0086】
これらの方法は別々に使用する必要はないが、単独ではなく、組み合わせて用いると有利である。たとえば、制御モジュールは、有線または無線機構によって、局所的な「基地局」と短距離で通信することができ、基地局は次いで、セルラー電話プロトコルのうちの1つを使用して、またはツイストペア配線の電話、ケーブルTV、もしくは使用者の場所に存在する他の有線を介して、たとえば介護者の事務所または中央データ収集点にある外部装置と通信することができる。これによって、通信の所要電力が下がることで、制御モジュール内の電池寿命を延ばすことができ、その一方で、基地局には線間電圧によって電力供給が可能である。
【0087】
一般的なアルカリ電池、オキシライド電池、リチウム電池などを含む数多くの電池技術が当技術分野で知られている。使用可能な3つの好ましい電池技術が存在する。それは、ニッケルカドニウム(NiCad)、ニッケル水素(NiMH)およびリチウムイオン(Liイオン)であり、最も好ましいのはLiイオン電池である。電池で動作するシステムの例示的な電力消費は、4.8ボルトで毎時45mAであろう。単四電池4本入りのNiMH電池パックによって提供され得るそのような構成では、本明細書に記載のシステムは、8時間の睡眠時間の間、余裕をもって動作することができる。別法として、7.4ボルトで動作する電池2本入りの300mAh Liイオン電池パックが、類似の性能をもたらすことができる。最も好ましいシステムは、少なくとも600mAhを提供する1つの3.7ボルトLiイオン電池を使用して、8時間動作するであろう。
【0088】
充電式電池の場合、電池は、従来式の充電器に差し込む有線プラグ、電池充電「ステーション」の接点と接合する接点、または真空モジュールの表面上に位置する誘導コイルを使用する誘導結合部を備えることができる。
【0089】
F.動作に誘発される真空の変化に対する補償
【0090】
単純な身体動作により、器具の内部容積が動作に誘発されて変化することによって、使用者の頚部にかかる力が大幅に変化する可能性がある。たとえば、成人男性に取り付けられた、内部容積が8.6立法インチのチャンバを有する器具を考えると、嚥下の動作で、咽喉の変位によりチャンバの容積が1.7立法インチほど増加する可能性があり、これはほぼ20%の増加である。
【0091】
治療器具は、ある種の曲がる能力を有していてもよいが、器具は、器具と咽喉の間の空間を維持するために十分な剛性を有していなければならない。それにより、動作に誘発されて容積が増加すると、使用者の咽喉にかかる圧力が突然増加したように感じられる。治療器具内の空気圧は、気体の圧力がその空気によって占められる容積と関係していると定めている理想気体の法則を用いてモデル化することができる。気体の量の状態は、その圧力、容積、および温度によって、式PV=nRTに従って決定され、式中、Pは絶対圧力であり、Vは容器の容積であり、nは気体の物質量であり、Rは普遍気体定数であり、Tは絶対温度である。
【0092】
有益な治療効果をもたらすために約7.6cm H2Oを超える部分真空が必要であり、咽喉の変位による動きが、治療器具によって囲まれた容積を突然20%以上増加させる可能性があると仮定すると、囲まれた容積の増加により、治療器具内の部分真空が等価な20%増加することが当業者には認識されよう。器具の接触面で咽喉の組織に働く力がその結果突然増加することで、装着者への不快感や睡眠からの覚醒などが引き起こされる可能性がある。
【0093】
この動作に誘発される真空の増加は、一体化された移動性器具設計の場合、真空源および真空チャンバへの関連付けられた接続部の容積が最小化されているので、特に問題となり得る。その結果、動作に誘発される容積の変化は、真空空間の総容積と比較した割合で言えば、より顕著である。別の言い方をすれば、器具の内部チャンバおよび関連付けられた真空システムの容積が小さいほど、嚥下または咳によって加えられる力は大きくなる。
【0094】
したがって、器具内に作り出された部分真空における、これらの動作に誘発される振幅を緩和するために、緩衝部品が設けられていてもよい。これは、ばねに取り付けられた可動性の膜として最も簡単にモデル化することができる。ばね張力は、部分真空が設計許容値内のときに膜を定位置に保持するように構成される。すなわち、器具が約18cm H2Oの部分真空を作り出すように設計されている場合、ばねは、この圧力では圧縮または拡張されない。器具の膜がその真空水準で所定の位置に維持されるように、緩衝ばねは、治療の真空水準で事前に所定量の負荷をかけられていてもよい。使用者の嚥下の場合のように、所望の真空水準を超えると、ばねは、囲まれた容積の突然の増加を少なくとも部分的に補償するように膜が移動できるようにする。ばねが(部分真空に対して)膜の内側に取り付けられる場合、ばねは圧縮し、ばねが膜の外側に取り付けられる場合、ばねは拡張する。動作が終了すると、ばねはその元の形状に戻り、それによって、膜はその元の位置に戻る。結果として、使用者によって感じられる圧力の増加が緩衝される。
【0095】
ばねおよび膜に関して説明したが、他の構成が当業者には容易に明らかとなろう。たとえば、緩衝部品は、内部真空が所望の水準を超えたときに内側に湾曲し、次いで、真空の増加がおさまったとき、その元の位置に戻ることができる器具表面の一部として設けることができる。
【0096】
G.音の管理および低減
【0097】
本明細書に記載の装置は、主として睡眠中の使用を意図しているので、騒音および/または振動による中断を最小限にできることは、使用者に明らかなメリットをもたらすことができる。当技術分野において利用可能なポンプ技術の多くは、使用中にかなりの騒音を生じさせる。さらに、ポンプが夜間にオンとオフを繰り返すとき、音レベルの急な変化が、特に睡眠の妨害となり得る。したがって、ある実施形態において、本明細書に記載の装置は、音を管理し、音をマスキングし、かつ/または治療器具の使用中に生じる音を打ち消すことによって快適性の改善をもたらす装置と結合されている。
【0098】
用語「音の管理」は、本明細書では、装置によって発生する音レベルを下げることを指す。高速で動作するモータは騒音を伴う傾向があり、低速であれば静音になる傾向がある。すでに検討したように、DCモータの速度は、通常はパルス幅変調(PWM)によって管理される。大半の容積式ポンプは、モータが360度回転する際、一定のトルク負荷をモータにかけることはない。むしろ、それらのポンプは、アップストロークおよびダウンストロークを行う。高速作動時、このトルク変化はロータの慣性で失われ、モータは騒々しい音を出す。
【0099】
しかし、外部で整流されるDCモータでは、電子装置が、360度回転の中でポンプ/モータの場所を正確に判定することができる。好ましい実施形態において、コントローラは、ポンプストロークの回転部分の間は電気パルス幅を増やし、ポンプストロークの残りの部分ではパルス幅を減らすために使用される。モータのポンプがかけるトルク特徴をマッピングし、それをパルス幅特徴で再現することによって、ポンプ/モータをより低速で作動させることができ、その結果、騒音および振動の低下をもたらす。
【0100】
ある実施形態において、本発明の治療器具は、機械部品および電子部品によって生成される騒音を少なくとも部分的にマスキングするために、音のマスキング電子機器と組み合わされている。用語「音のマスキング」は、本明細書では、聴覚的マスキングを用いて不要な音を「マスキング」するまたは覆い隠すために、異なる周波数の自然音または人工音(正確さには欠けるが、より一般的に「ホワイトノイズ」または「ピンクノイズ」として知られている)を環境に加えることを指す。音のマスキングは、所与の領域にあらかじめ存在する音に対する意識を低減させるかまたは取り除き、作業環境をより快適にすることができ、一方で会話のプライバシーが得られ、それによって作業者はより生産的になれる。音のマスキングは、より自然な周囲環境を復元するために戸外で用いることもできる。
【0101】
音のマスキングは、気を散らす望ましくない騒音をマスキングするために、建築音響学の分野および電子音楽の製作でしばしば使用される。単純な「ホワイトノイズ」機械は、囲まれたファンおよび(任意選択で)速度スイッチを含んだ極めて単純なものであり得る。このファンは、小さなスロットを通して機械の筐体の中に空気を送り込み、所望の音を生成している。より複雑な機械は、電子的なもので、多様な「自然音」を提供することができる。音生成器は、図9に示すように器具自体に載せられてもよく、または別個のユニットとして提供されてもよい。
【0102】
同様に、ある実施形態では、本発明の治療器具は、機械部品および電子部品によって作り出された騒音を少なくとも部分的にマスキングするための音打ち消し用電子装置と連結されている。用語「音打ち消し」は、本明細書では、位相を打ち消す圧力波を提供することを指す。音は、圧縮位相および希薄位相からなる圧力波とみなしてもよい。騒音打ち消しスピーカが、元の音と同じ振幅およびそれとは反対の極性(逆位相)を有する音波を発する。音波は、干渉と呼ばれる過程で、結合して新たな波を形成し、互いに効果的に打ち消しあう。これが位相の相殺と呼ばれる効果である。周辺環境および使用される方法次第では、得られる音波は、ヒトの耳には聞こえないほどに非常に微弱となり得る。
【0103】
周期的な音は、複雑なものであっても、波形の繰り返しのため、不規則な音よりも打ち消しやすい。したがって、音打ち消しは、本発明に特に適用可能である。好ましい実施形態において、マイクロホンが耳の近くに配置され、マイクロホンに届いた音波とは反対の極性を有する「騒音対策用」音波を生成する電子回路構成は、耳に配置されたヘッドホンまたは小型イヤホンの形態のスピーカを通じて機能する。これが相殺的干渉となり、耳を囲んだ容積内の騒音を打ち消す。騒音打ち消し用の回路構成または音のマスキングの回路構成は、器具自体に載せられてもよく、または別個のユニットとして提供されてもよい。回路構成からの音は、小型スピーカまたは小型イヤホンを通して提供され得る。
【0104】
H.追加の要素
【0105】
WO08/076421およびWO09/143259は、気道閉塞を緩和するための陰圧治療器具を記載しており、それぞれ、すべての表、図面および特許請求の範囲を含むその全体が、参照によって本明細書に組み込まれている。これらの公開公報は、本発明の装置とさまざまに組み合わせて提供され得る種々の要素を記載している。これらの要素には以下のものがある。
【0106】
第1の組み合わせは、上気道を覆う咽喉の外部領域にはめ合わせて、それによってその領域を囲むように構成された周辺表面であって、はめ合わされたとき、前記治療器具が、治療器具の内表面と咽喉の間に、0.5から12in3の間の囲まれた容積を有する空間充満チャンバを実現する周辺表面と、チャンバに動作可能に接続され、40dB SPL未満の音レベルを発生させながら、水柱7.6cmから61cmの間の水準で前記チャンバ内の部分真空を維持するように構成されている空気ポンプとを備える治療器具を提供する。
【0107】
第2の組み合わせは、上気道を覆う咽喉の外部領域にはめ合わせて、それによってその領域を囲むように構成された周辺表面であって、はめ合わされたとき、前記治療器具が、治療器具の内表面と咽喉の間に、0.5から12in3の間の囲まれた容積を有する空間充満チャンバを実現する周辺表面と、チャンバに動作可能に接続され、前記チャンバ内の部分真空を維持するように構成されている空気ポンプであって、容積式ポンプを備えた空気ポンプとを備える治療器具を提供する。
【0108】
第3の組み合わせは、上気道を覆う咽喉の外部領域にはめ合わせて、それによってその領域を囲むように構成された周辺表面であって、はめ合わされたとき、前記治療器具が、治療器具の内表面と咽喉の間に、0.5から12in3の間の囲まれた容積を有する空間充満チャンバを実現し、前記治療器具が、使用者の動きによって器具内に作り出された部分真空の振幅を緩和するように構成された緩衝部品を含む、周辺表面と、チャンバ内に部分真空をもたらすために空間充満チャンバに動作可能に接続された空気ポンプとを備える治療器具を提供する。
【0109】
第4の組み合わせは、上気道を覆う咽喉の外部領域にはめ合わせて、それによってその領域を囲むように構成された周辺表面であって、はめ合わされたとき、前記治療器具が、治療器具の内表面と咽喉の間に、0.5から12in3の間の囲まれた容積を有する空間充満チャンバを実現し、前記周縁が、水柱約7.6cmから約61cmの間の前記囲まれた容積内の部分真空水準で、使用者の皮膚との接触面に沿って60mmHg以下の圧力をもたらすように構成されている、周辺表面と、チャンバに動作可能に接続され、前記チャンバ内の部分真空を維持するように構成されている空気ポンプとを備える治療器具を提供する。
【0110】
第5の組み合わせは、上気道を覆う咽喉の外部領域にはめ合わせて、それによってその領域を囲むように構成された周辺表面であって、はめ合わされたとき、前記治療器具が、治療器具の内表面と咽喉の間に、0.5から12in3の間の囲まれた容積を有する空間充満チャンバを実現する周辺表面と、真空または圧力センサならびにポンプのオン/オフサイクルおよび/または速度を制御するモータ制御回路構成に結合されたマイクロコントローラを含む真空制御モジュールとを備える治療器具を提供する。
【0111】
第6の組み合わせは、囲まれたチャンバ内に空気が漏れる速度が小さく、好ましくは0.005から0.5in3/分の間の速度、最も好ましくは0.01および0.1in3/分となる、皮膚境界面における封止材と、単一ストローク変位が0.001から0.01in3の間、最も好ましくは、0.003から0.005in3の範囲であり、回転ブラシレスDCモータまたはリニアDCモータを使用して駆動される膜ポンプと、真空または圧力センサならびにポンプのオン/オフサイクルおよび/または速度を制御するモータ制御回路構成に結合されたマイクロコントローラ真空制御モジュールとを提供する生体適合性の単一統合要素である治療器具を提供する。
【0112】
当業者が本発明を製作し、使用できるように本発明を十分詳細に説明および例証してきたが、本発明の趣旨および範囲を逸脱することなく、さまざまな代替、修正、および改良が明らかなはずである。本明細書において示した例は、好ましい実施形態の代表であり、例示的なもので、また、本発明の範囲を制限することは意図していない。本明細書で提示した例の修正およびその他の用途が当業者には想起されよう。これらの修正は、本発明の趣旨に含まれ、特許請求の範囲によって定義されている。
【0113】
本発明の範囲および趣旨を逸脱することなく、本明細書に開示された本発明にさまざまな置換および修正を行えることが当業者には容易に明らかとなろう。
【0114】
本明細書で言及したすべての特許および公開公報は、本発明が関係する分野の当業者の水準を示すものである。すべての特許および公開公報は、個々の公開公報が参照により組み込まれていることを具体的かつ個別に示されるのと同程度に、参照により本明細書に組み込まれている。
【0115】
本明細書に例示として記載された本発明は、好適には、本明細書に具体的に開示されていない1つまたは複数の要素、1つまたは複数の制限がない場合に実施されてもよい。したがって、たとえば、本明細書における各例において、「備える」、「から本質的になる」および「からなる」のいずれの用語も、他の2つの用語のどちらにでも置き換えることができる。使用してきた用語および表現は、制限のためではなく、説明のための用語として用いており、そのような用語および表現の使用において、図示し、説明した特徴またはその部分の等価物のいずれも排除する意図はないが、種々の修正が、特許請求される本発明の範囲内で可能であることが認識される。したがって、本発明は、好ましい実施形態および任意選択の特徴によって具体的に開示されているが、本明細書に開示された概念の修正および変形が当業者によって行われてもよく、また、そのような修正および変形は、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲内にあるとみなされることを理解されたい。
【0116】
他の実施形態は、以下の特許請求の範囲に記載してある。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11A
図11B
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21