特許第5931093号(P5931093)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ローベルト ボッシュ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツングの特許一覧

特許5931093車両のブレーキシステムで不足する圧力生成を補償する方法およびシステム
<>
  • 特許5931093-車両のブレーキシステムで不足する圧力生成を補償する方法およびシステム 図000002
  • 特許5931093-車両のブレーキシステムで不足する圧力生成を補償する方法およびシステム 図000003
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5931093
(24)【登録日】2016年5月13日
(45)【発行日】2016年6月8日
(54)【発明の名称】車両のブレーキシステムで不足する圧力生成を補償する方法およびシステム
(51)【国際特許分類】
   B60T 17/18 20060101AFI20160526BHJP
【FI】
   B60T17/18
【請求項の数】10
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-558334(P2013-558334)
(86)(22)【出願日】2012年1月27日
(65)【公表番号】特表2014-508071(P2014-508071A)
(43)【公表日】2014年4月3日
(86)【国際出願番号】EP2012051319
(87)【国際公開番号】WO2012126651
(87)【国際公開日】20120927
【審査請求日】2013年9月17日
(31)【優先権主張番号】102011005984.9
(32)【優先日】2011年3月23日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】501125231
【氏名又は名称】ローベルト ボッシュ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100177839
【弁理士】
【氏名又は名称】大場 玲児
(74)【代理人】
【識別番号】100172340
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 始
(72)【発明者】
【氏名】ゴンザレス ロメロ,ラファエル
(72)【発明者】
【氏名】ブリュックス,トーマス
(72)【発明者】
【氏名】ディットリッヒ,ザブリーナ
(72)【発明者】
【氏名】ブスマン,オットマール
【審査官】 杉山 悟史
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2009/0033146(US,A1)
【文献】 特開平10−278765(JP,A)
【文献】 特開平10−181576(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 17/00 − 17/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキシステム(12)の操作部材(16)の操作時にブレーキ力補助をするためのブレーキ力増幅装置(18)の失陥または誤機能が起きたときに車両のブレーキシステム(12)で不足する圧力生成を補償する方法であって、
前記補償は前記ブレーキシステム(12)で追加の圧力生成をする集成装置(28)によって行われ、前記補償のリリースは前記操作部材が移動する調節経路上での前記操作部材(16)の位置に依存して行われる、そのような方法において、
前記調節経路上での前記操作部材(16)の現在の位置が連続的または周期的に判定され、判定された最新の当該位置が前記調節経路上で事前設定可能なリリース位置に到達または超過すると、前記補償がリリースされることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記補償は車両のドライブアシストシステムのドライブダイナミックコントロールによって行われることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記補償はさらに前記ブレーキシステム(12)の与圧に依存して行われることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記操作部材(16)の最新の位置はセンサ(32)によって判定されることを特徴とする、請求項1から3のうちいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記集成装置(28)による補償のための圧力生成はリリース後の調整可能な時間中に限定されていることを特徴とする、請求項1から4のうちいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
請求項1〜のうちいずれか1項に記載の方法を実施するための、ブレーキシステム(12)の操作部材(16)の操作時にブレーキ力補助をするためのブレーキ力増幅装置(18)の失陥または誤機能が起きたときに車両のブレーキシステム(12)で不足する圧力生成を補償するシステム(10)であって、前記システム(10)は前記ブレーキシステム(12)で圧力生成をするための集成装置(28)を有している、そのようなシステムにおいて、
前記調節経路上での前記操作部材(16)の最新の位置を連続的または周期的に判定するためのセンサ(32)と、判定された前記最新の位置に依存して前記集成装置(28)を制御および/または調節する装置(34)とを有していることを特徴とするシステム。
【請求項7】
前記システム(10)は車両のドライブアシストシステムの一部であることを特徴とする、請求項6に記載のシステム。
【請求項8】
前記集成装置(28)を制御および/または調節する前記装置(34)はさらに前記ブレーキシステム(12)の与圧と比例する入力信号を受け取ることを特徴とする、請求項6または7に記載のシステム。
【請求項9】
前記操作部材(16)はペダル(14)であり、前記センサ(32)はペダル距離センサであることを特徴とする、請求項6から8のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項10】
請求項1から5のいずれか1項に記載の方法を実施するための手段を含んでいる装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の前文を前提とする方法に関する。さらに本発明は、請求項7の前文を前提とするシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
車両、特に自動車のブレーキ設備は、車両の速度を落とし、停止させ、または停止した状態に保つ役目をする。ブレーキ設備は、ブレーキ設備への作用を導入して制御する少なくとも1つの操作装置を有している。操作装置(たとえばブレーキペダル)は、車両の利用者/運転者により機械式に操作可能である。ブレーキ力増幅装置が、操作装置を操作したときに運転者により印加される力を増幅し、そのようにして所要の力コストを引き下げる。それは、大半の乗用車(PKW)においてメインブレーキシリンダと組み合わせたうえで、こうした乗用車のブレーキ設備の構成要素となっている。ブレーキ力増幅装置の典型的な設計形態は真空ブレーキブースタシステムであり、これよりも稀ではあるが油圧ブレーキブースタシステムも利用される。
【0003】
ドライブダイナミックコントロールないしエレクトロニックスタビリティコントロール(ESC)は、ドイツ語圏ではしばしばエレクトロニックスタビリティプログラム(ESP)とも呼ばれるもので、個々のホイールの的確な制動によって自動車のスリップに対処する、自動車の電子制御式のドライバーアシストシステムを意味している。そのために運転者アシストシステムは、ESP集成装置を有している。特に追加機能もドライブダイナミックコントロールの一部をなしている。1つの追加機能は、ブレーキ力増幅装置が失陥したときや誤機能を起こしたときに介入する補償システムである(たとえばボッシュESPにおけるHydraulic Boost Failure Compensation(HBC)機能)。
【0004】
そのために現在、ブレーキ力増幅装置が失陥または誤機能を起こした場合に、制御式の能動的な圧力生成によって運転者をサポートする方法がさまざまな車両で採用されている。ただしこのような圧力生成が行われるのは、運転者が操作装置によってブレーキ設備を操作していることが確認されたときに限られる。この方法の現在の1つの実施形態では、ESP集成装置の測定された与圧とブレーキライトスイッチ(BLS)の信号とが共同で、圧力補償をリリースするための十分な基準として適用される。
【0005】
ブレーキシステムの与圧測定の信号が特定の閾値を上回っており(たとえば2バール)、ブレーキライトスイッチがオンになっているときに限り、すなわち、操作部材の調節経路における調節距離位置閾値としての固定的なリリース位置を超過しているときに限り、補償が作動する。このようにして、圧力オフセットが生じているときやブレーキライトスイッチに不具合があるときに、意図しない圧力生成およびこれに伴う意図しない減速が起こることが排除される。このように、リリースをブレーキライトスイッチと追加的に結びつけることで、固定的に事前設定された操作部材のリリース位置が到達もしくは超過されなければならない。たとえばブレーキ力増幅装置が失陥すると、そのために相当大きい力が費やさなければならない。
【発明の概要】
【0006】
請求項1に記載の構成要件を備える本発明の方法、および請求項7に記載の構成要件を備える本発明の補償システムは、補償をリリースさせるための操作部材への力コストが低減されるという利点を提供する。
【0007】
本発明による方法では、操作部材の現在の位置が連続的または周期的に判定され、判定された最新の当該位置に依存して、リリースならびに追加の圧力生成が行われることが意図される。このようにして操作部材の最新の位置が、圧力生成の強さにも影響を及ぼす。操作部材の最新の位置が常時または少なくとも定期的に判定され、操作部材が固定的なリリース位置に到達または超過する時点または時間インターバルのみが判定されるのではないので、操作力増幅装置の失陥や誤機能のその他の影響も補償することができる。さらに、油圧式の増幅から影響を受けることなく、操作部材の位置を判定することができる。
【0008】
本方法はブレーキ力増幅装置の失陥や誤機能が起こったときに介入する補償システム(HBC:Hydraulic Boost Failure Compensation)の枠内で具体化されるのが好ましい。このような補償は、リリース後にどのような制動プロセスでも利用者/運転者をサポートする。このような種類の補償が特別に重要になるのは、操作部材が非常に強い力で操作されたときである。そのようなケースでは、補償なしには実現されない可能性がある完全な減速が望まれているからである。そのように操作部材が非常に強い力で操作されたときは、特に、30バールを上回るブレーキ圧を生成することが意図されている。
【0009】
本発明の1つの好ましい実施形態では、最新の位置が調節経路上で事前設定可能なリリース位置に到達または超過したときに、補償がリリースされることが意図される。このリリース位置は、特にオフセット補正(Offset補正)により設定される。リリース位置の設定は、たとえばブレーキ力増幅装置の誤機能の程度を考慮に入れることができる。
【0010】
ブレーキ力増幅装置の誤機能あるいはさらに失陥が認識され(たとえば低い真空やブースタエラーの検知によって)、最新の位置が調節経路上で事前設定可能なリリース位置に到達もしくは超過すると、集成装置により能動的な圧力生成が開始される。
【0011】
特に、操作部材の最新の位置に加えて、当該位置に対応する圧力がブレーキシステムで連続的または周期的に判定され、この圧力に依存してリリース位置が規定される。
【0012】
本発明の別の好ましい実施形態では、補償は車両のドライブアシストシステムのドライブダイナミックコントロールによって行われることが意図される。自動車のエレクトロニックスタビリティプログラム(ESP)の枠内では、1つまたは複数のポンプを備える集成装置(ESP集成装置)が設けられており、これらのポンプが、リリース後にブレーキシステムの1つまたは複数の付属のホイールブレーキシリンダへ追加のブレーキ液を送出し、それによって1つまたは複数のブレーキシリンダのブレーキ圧を(いっそう)高める。
【0013】
本発明の別の好ましい実施形態では、さらに補償はブレーキシステムの与圧に依存して行われることが意図される。操作部材の判定された最新の位置に加えて、ブレーキシステムの与圧も圧力生成にあたって取り入れられる。与圧が閾値よりも低いとき、許容可能な減速に対応する事前設定可能な最大圧力になるまで、能動的な圧力生成が行われる。与圧が当該閾値よりも高いか、またはこれと等しいとき、能動的な圧力生成は与圧に依存して行われる。
【0014】
本発明の別の好ましい実施形態では、操作部材はペダルであることが意図される。自動車では、ペダルとしての操作部材の実施形態が普通である。さらに、このとき対応するセンサはペダル距離センサである。
【0015】
本発明の別の好ましい実施形態では、リリース後の集成装置による圧力生成は調整可能な時間中に限定されていることが意図される。このことは、1つの追加の安全性の側面である。
【0016】
本発明によると当該システムにおいてこのシステムは、調節経路上での操作部材の最新の位置を連続的または周期的に判定するためのセンサと、判定されたこの最新の位置に依存して集成装置を制御および/または調節する装置とを有することが意図される。
【0017】
本発明の1つの好ましい実施形態では、システムは車両のドライブアシストシステムの一部であり、特に、当該ドライブアシストシステムの追加機能の一部であることが意図される。このようなドライブアシストシステムは、集成装置(ESP集成装置)を有している。ブレーキ力増幅システムの失陥または誤機能が起こったときに介入する補償システムは、たとえばボッシュESPのHydraulic Boost Failure Compensation(HBC)システムである。
【0018】
本発明の1つの好ましい実施形態では、補償をリリースさせる装置はブレーキシステムの与圧と比例する入力信号をさらに受け取ることが意図される。
【0019】
本発明の1つの好ましい実施形態では、操作部材はペダルであることが意図される。自動車では、ペダルとしての操作部材の実施形態が普通である。さらに、これに対応するセンサはペダル距離センサである。
【0020】
次に、図面を参照しながら本発明について詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の好ましい実施形態に基づく、車両のブレーキシステムで不足する圧力生成を補償するためのシステムを示す模式図である。
図2】本発明による方法の特別に好ましい実施形態を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1は、車両(車両は全体として図示せず)のブレーキシステム12で不足する圧力生成を補償するための補償システム10の原理的な構造を示している。ブレーキシステム12は、ブレーキペダル14として構成された操作部材16と、ブレーキ力増幅装置18と、メインシリンダ20と、ブレーキシリンダを有するブレーキキャリパ24とブレーキディスク26をそれぞれ備えるホイールブレーキ22(そのうち2つだけを図示している)と、ESP集成装置(ESP:エレクトロニックスタビリティプログラム)として構成された、ブレーキシステム12で追加の圧力生成をするための集成装置28とを有している。メインシリンダ20は、一方ではブレーキ力増幅装置18を介して操作部材16と接続されており、他方では、ブレーキ配管30およびブレーキシステム12を介してホイールブレーキ22のブレーキシリンダと油圧接続されている。
【0023】
補償システム10は、集成装置28のほか、調節経路上での操作部材16の最新の位置を連続的または周期的に判定するためのセンサ32と、判定されたこの最新の位置に依存して補償を制御および/または調節する装置34とを含んでいる。さらに、そのために装置34は、操作部材16の最新の位置に比例する入力信号を受け取る(矢印)。さらに任意選択で装置34は、ブレーキシステム12の与圧に比例する入力信号を受け取る。
【0024】
ブレーキシステム12は、集成装置28のほか、ホイールブレーキ22ごとにそれぞれ1つの経路に分割された主経路を有している。これら各々の経路は、インレットバルブ36と、共通の戻り経路40に連通するアウトレットバルブ38を備えるバイパスとを有しており、この戻り経路には、蓄積装置41と、リターンポンプとして構成されたポンプ42とが配置されている。
【0025】
ここに一例として図示する集成装置28の実施形態は、ポンプ42ならびに主経路にある切換弁43、およびブレーキ配管30のメインシリンダ側端部と、ポンプ42と蓄積装置41の間の戻り経路40の一区域との間の経路にある吸込弁44とを有している。ポンプ42(リターンポンプ)は車両のモータMにより駆動される。
【0026】
図2は、本発明による補償方法および特にそのリリースプロセスのフローチャートを示している。図1に示すシステム10の下記のような機能がもたらされる:
【0027】
スタート地点46を起点として第1の設問48に到達し、ここでは、ブレーキ力増幅装置18の誤機能またはさらに失陥が認識されているかどうかが問い合わされる(たとえば低い真空の検知や、ブレーキ力増幅装置におけるブースタエラーの検知によって)。そのような失陥あるいはそのような誤機能が生じていないとき、それ以上のリリース基準が問い合わされることはなく、補償(能動的な圧力生成)もリリースされない。
【0028】
一方、そのような失陥あるいはそのような誤機能が生じているとき(経路y)、後続する第2の設問50で、操作部材16の判定された最新の位置は、操作部材16の調節経路の上で事前設定可能なリリース位置、特に補正により事前設定されたリリース位置が、到達もしくは超過しているかどうかが問い合わされる。それが該当していないとき、補償はリリースされない。
【0029】
それに対して到達または超過が生じているとき(経路y)、後続する第3の設問52で、ブレーキシステム12の与圧が閾値よりも低いかどうかが問い合わされる。それが該当しておらず(経路n)、与圧が閾値よりも高いか、もしくはこれと等しいとき、操作54で、能動的な圧力生成が与圧に依存して集成装置28により行われる。ブレーキシステム12の与圧が閾値よりも低いとき(経路y)、操作56で、能動的な圧力生成が集成装置28により、操作部材16の判定された位置に依存して、車両の許容可能な減速に対応する事前設定可能な最大圧力になるまで行われる。
【0030】
冗長的な信号を利用することで、誤作動を生じる蓋然性は限られている。あるいは、圧力生成がそれまでの圧力閾値への到達までに限られていれば、システムの特性をいっそう向上させることができる。
【0031】
さらに別の安全策として、調節経路上での操作部材16の最新の位置だけを基礎として、与圧を考慮することなく、圧力生成が時間的に制限されていてもよい。ただしこの場合、能動的な圧力生成によるブレーキシステム12の与圧への影響を顧慮しなくてはならない。
【0032】
能動的な圧力生成は、リリース位置への到達/超過が生じたときから開始される。このリリース位置は、オフセット補正の状況に依存して決まるようになっていてよく、センサ32が補正されるとただちに閾値が低くなる。
【符号の説明】
【0033】
12 ブレーキシステム
16 操作部材
18 ブレーキ力増幅装置
28 集成装置
32 センサ
46 スタート地点
48 第1の設問
50 第2の設問
52 第3の設問
54 操作
56 操作
図1
図2