(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
オフィスビルや駅ビル等の商業施設、その他の施設における建屋内の空気調節は、建屋等に設けられた空調設備により、建屋全体でコントロールされている場合が多い。
この空調設備には、「給気ファン」や「排気ファン」等が設けられ、これらは電動機の動力がVベルトを介して伝達されて、駆動される。
また、前記施設における給排水設備においても、ポンプへの動力の伝達はVベルトを介して行われている。
これらのVベルトは消耗品であるため、年1回程度の頻度で交換が必要であった。
Vベルトの交換作業は、消耗したVベルトをプーリーから取外し、新しいVベルトを取付ける工程で行われるが、これらの交換作業は、従来から手作業で行われていた。
【0003】
しかし、Vベルトにはテンションが掛っていることから、ベルトの取外及び取付の手作業において、Vベルトとプーリーとの間に手指が挟まれたり、衣服が巻き込まれる等の事故が発生し易かった。
また、手作業の際には不必要に力が入り、作業者が体勢を崩して転倒したり、また、不意の電動機の起動及び負荷側機器の動作(静圧)により重大な事故が発生するおそれもあり、安全に、且つ、簡単にVベルトの交換作業ができる器具の開発が望まれていた。
【0004】
その器具の一例として、特許文献1では「ベルト取付治具」が開示されている。しかし、この「ベルト取付治具」では、同文献の明細書の段落「0007」に記載されているように、「本発明は、プーリーの側方に十分なスペースがない場合にも容易にベルトを取付けることのできるベルト取付治具の提供を目的とする」とされ、かかる課題及び課題解決手段は、空調機や排風機等の大型ファンのVベルトの交換に適さない面があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本願発明は、空調機や排風機等のファンや給排水機器のVベルト交換に適するVベルト交換器具及びその補助器具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明は、少なくとも二つの回転軸間で、動力を伝達するVベルトを交換する際に使用されるベルト交換器具である。
このVベルト交換器具は、前記回転軸に固定されているプーリーのV溝に嵌められた前記Vベルトを前記プーリーの外周側から内周側に向けて押付ける押付部を備えたVベルト押付機構と、このVベルト押付機構により前記Vベルトが押付けられたプーリーを回転させるため、前記プーリーの直径方向に沿うように位置付けられる主ハンドルを備えたプーリー回転機構とを有する。
前記Vベルト押付機構は、前記押付部による押付力を前記Vベルト及び前記プーリーのリムを介して受ける受部と、この受部と前記押付部を対向させて取付ける横開きコ字状部を備え
る。
前記押付部は、押付ハンドルと、その押付ハンドルの先端に設けられ、且つ、前記Vベルトに接するリング面を備えるとともに、前記押付ハンドルをカラ回りさせる押付先端部とを備える。
前記受部は、頂面とこの頂面に隣接する傾斜面を有し、それぞれ前記押付部の押付力により前記リムに当接するように変形される当接部とを備える。
【0008】
本願発明のVベルト交換器具は補助器具を備えている。この補助器具は、前記Vベルト交換器具のVベルト押付機構により、前記VベルトがプーリーのV溝に押付けられた後に、前記Vベルトを前記プーリーから取外す際に使用されるものである。
この補助器具は、前記プーリーに接触する先端に形成され、且つ、略L字片を備えた鉤状部と、この鉤状部から立ちあがり、且つ、前記Vベルトに略交差させるように位置付けられる棒状部と、この棒状部から折り曲げられて、前記鉤状部の略L字片の縦辺に略平行するように傾斜されると共に、前記鉤状部を支点として前記VベルトをV溝から取外すように前記棒状部を移動させることができるハンドル部を備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明のVベルト交換器具では、前記回転軸に固定されているプーリーのV溝に嵌められた前記Vベルトを前記プーリーの外周側から内周側に向けて押付ける押付部を備えたVベルト押付機構が設けられているので、Vベルトの交換作業のスペースが想定される空調機や排風機のファンや給排水機器のVベルト交換に適するVベルト交換器具を提供することができる。
また、このVベルト押付機構により前記Vベルトが押付けられたプーリーを回転させるため、前記プーリーの直径方向に沿うように位置付けられる主ハンドルを備えたプーリー回転機構が設けられているので、前記プーリーの回転軸に対し、力のモーメントを作用させることができるVベルト交換器具を提供することができる。
また、前記押付部は、押付ハンドルと、その押付ハンドルの先端に設けられ、且つ、前記Vベルトに接するリング面を備えるとともに、前記押付ハンドルをカラ回りさせる押付先端部とを備え、且つ、前記押付部の押付力を前記Vベルト及び前記プーリーのリムを介して受ける受部は、前記押付部の押付力により前記リムに当接するように変形される当接部を備えるので、Vベルト交換器具がプーリーに強固に固定されることとなり、このプーリーを主ハンドルを用いて回転させることで空調機や排風機等の大型ファンのベルト交換に適するVベルト交換器具を提供することができる。
さらに、主ハンドルに対し、このハンドルの長手方向に略直交するように、且つ、前記横開きコ字状部に着脱自在に取付けられる副ハンドルを備えるので、Vベルトのテンションに応じて主ハンドル又は副ハンドルのみを使用したり、
主ハンドル及び副ハンドルを同時に使用することができる。
また、Vベルトの交換作業のスペースに応じて、副ハンドルを取外して主ハンドルのみを使用できること等、前記プーリーに必要な力を加えることができる。
【0010】
本願発明の前記補助器具は、前記プーリーに接触する先端に形成され、且つ、略L字片を備えた鉤状部と、この鉤状部の略L字片の縦片に略平行するように傾斜されるハンドル部を備えているので、Vベルト側からプーリーに向けて鉤状部を差し入れた場合、その鉤状部と前記プーリーの接触状態がハンドル部の位置により把握することができ、且つ、鉤状部と前記プーリーとを面接触させることで
きる。
また、前記ハンドル部により、前記鉤状部を支点として前記VベルトをV溝から取外すように前記棒状部を移動させることができるので、前記棒状部により、容易に前記VベルトをV溝から取外すことができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本願発明のVベルト交換器具1(以下、単に交換器具1とも称する)は、少なくとも二つの回転軸間で動力を伝達するVベルトB(
図2、
図4〜
図9参照、以下、ベルトBとも称する)を交換する際に使用されるもので、
図1に示したようなVベルト押付機構2とプーリー回転機構3を備える。
【0013】
前記Vベルト押付機構2は、
図1及び
図2のように、前記回転軸に固定されているプーリーPのV溝P1に嵌められた前記ベルトBを前記プーリーPの外周側から内周側に向けて押付ける押付部20と、この押付部20による押付力を前記ベルトB及び前記プーリーPのリムRを介して受ける受部21と、この受部21と前記押付部20を対向させて取付ける横開きコ字状部22(以下、単にコ字状部22とも称する)を備える。
【0014】
前記プーリー回転機構3は、
図1及び
図2に示したように、前記ベルトBが押付けられたプーリーPを回転させるため前記プーリーPの直径方向に沿うように位置付けられ、且つ、前記コ字状部22に取付られる主ハンドル30と、この主ハンドル30の長手方向に略直交するように、且つ、前記コ字状部22に着脱自在に取付けられる副ハンドル31を備える。
【0015】
前記交換器具1の対象となるベルトBは、主として二つの回転軸間で動力を伝達するものであるが、これに限定されるものではなく、三つ以上の回転軸間で動力を伝達するものであってもよい。
【0016】
前記押付部20は、前記コ字状部22に形成されるメネジ部200と、このメネジ部200に螺着されるオネジ部201を備えた押付ハンドル202と、その押付ハンドル202の先端に設けられ、且つ、前記ベルトBに接するリング面203を備えるとともに、前記押付ハンドル202をカラ回りさせる押付先端部204とを備える。
【0017】
前記押付ハンドル202は、前記コ字状部22の自由端寄りに設けられている。これは前記コ字状部22は、プーリーPに複数本のベルトBが平行掛けで取付られている場合を考慮して懐が深く、前記プーリーPのリムRを飲み込むことができるスペースが形成されているが、前記コ字状部2が前記リムRを飲み込んだ状態でも、ベルトBを押付けることができるようにするものである。
【0018】
カラ回りするリング面203は、前記押付ハンドル202の先端をベルトBに圧着させた場合、ベルトBを破損させないようにしつつ、前記受部21と共に、前記ベルトBを確実に固定するものである。
【0019】
前記受部21は、前記押付先端部204に対面するように、前記コ字状部22の他方の自由端寄りに設けられており、
図1のように前記プーリーPのリムRに当接する頂面210と、この頂面210の左右に隣接する傾斜面211,211から当接部212が形成されている。そして前記当接部212は、ゴム等の弾性体で構成され、
図2のようにそれぞれ前記押付部20の押付力により前記リムRの内周面に当接するように変形されるようになっている。
よって、前記コ字状部22が強固に前記プーリーPに固定されることとなり、ベルトBを破損させずに前記プーリー回転機構3を操作し易いようにしている。
【0020】
前記主ハンドル30は、プーリーPの直径の延長線上に位置するように前記コ字状部22の基端部に設けられ、前記副ハンドル31は、前記コ字状部22の側端部に螺着されている。
【0021】
なお、この実施形態では前記主ハンドル30と押付ハンドル202は別体であるが、前記押付ハンドル202に前記主ハンドル30を一体化して、前記押付ハンドル202に主ハンドル30の機能を付加するようにしてもよい。
【0022】
次に、ベルト交換器具の補助器具の構成例を説明する。
前記補助器具4は、
図3のように、前記プーリーPに接触する先端に形成され、且つ、略L字片を備えた鉤状部40と、この鉤状部40から立ちあがり、前記VベルトBに略交差させるように位置付けられる棒状部41と、この棒状部41から折り曲げられて、前記鉤状部40の略L字片の縦辺400に略平行するように傾斜されると共に、前記鉤状部40を支点として、前記VベルトBをV溝P1から取外すように前記棒状部41を移動させることができるハンドル部42を備える。
【0023】
前記鉤状部40は、縦辺400と横辺401から略L字片に形成されており、縦辺400及び横辺401の交点等で前記プーリーPのリムRに係止され、そこを支点として、前記ハンドル部42を動かすることができる。
なお、前記鉤状部40を弾性材により被覆するようにしてもよく、その場合には、前記補助器具4が前記プーリーPで滑ることが防止され、また前記プーリーPの破損を防ぐことができる。
【0024】
前記棒状部41は、前記鉤状部40が前記プーリーPに係止された状態で、ベルトBに略交差する位置に配置され、ハンドル部42を動かすことでベルトBをV溝P1から外すように作用する。
【0025】
以上のように構成されたベルト交換器具及びその補助器具の使用方法を説明する。
この使用方法においては、空調機等の大型ファンのプーリーPと電動機のプーリーP間において、3本のベルトBが平行掛けされている場合を想定している。
【0026】
ベルト交換器具及びその補助器具を用いたVベルトの取外手順
(1) 最外側のベルトBへの交換器具1のセット
図4のように、前記副ハンドル31により交換器具1を支持しつつ、受部21と押付ハンドル202により取外しの対象となるベルトBを挟むことができる位置まで、プーリーPをコ字状部22に飲み込ませる。
次に、前記押付ハンドル202を回して、前記リング面203をベルトBに押付け、前記受部21と共にベルトBをサンドイッチするように交換器具1をプーリーPに固定してセットする。
【0027】
(2) 補助器具4のセット
図5のようにベルトB,B間に補助器具4の鉤状部40及び棒状部41を差し入れて、鉤状部40をプーリーPのリムR等に係止させて、補助器具4をセットする。
次に、前記鉤状部40を支点にして、ハンドル部42をベルトBから遠ざけるように回転させて動かすと、棒状部41によりベルトBがV溝P1から浮き上がるようにずらされる。
引き続き、
図6のように前記主ハンドル30を把持してプーリーPを回転させつつ、ハンドル部42を動かしてベルトBをプーリーPから取外す。
その後、交換器具1の押付ハンドル202を緩めて、プーリーPから交換器具1を取外すと共に、空調機等のプーリーPからもベルトBを外す。
【0029】
(3) 最内側のVベルトの取外し
コ字状部22から前記副ハンドル31を取外し、
図7のようにプーリーPの内側から、コ字状部22をプーリーPのリムRに差し入れ、前記主ハンドル30によりコ字状部22を支持しつつ、押付ハンドル202と受部21によりベルトBを挟み付ける。
次に、引き続き前記押付ハンドル202を回して、コ字状部22をプーリーPに固定し、その後、前記補助器具4を用い、同様の手順でベルトBを外す。
【0030】
ベルト交換器具を用いたVベルトの取付手順
(1) Vベルトへの交換器具1のセット
空調機等のプーリーPに新しいベルトBを掛け渡した後、
図8のように、電動機等のプーリーPに前記コ字状部22を固定して交換器具1をセットする。
即ち、電動機等のプーリーPのV溝P1にベルトBを噛ませ、前記副ハンドル31により交換器具1を支持しつつ、押付ハンドル202と受部21により取付け対象となるベルトBを挟み込むことができる位置まで、プーリーPをコ字状部22に飲み込ませる。
次に、前記押付ハンドル202を回して、コ字状部22をベルトBに取付けプーリーPに固定する。
(2) Vベルトの取付け
その後、前記主バンドル30を回転させると、順次、ベルトBがV溝P1に嵌め込まれる。
最内側のベルトBについては、コ字状部22から副ハンドル31を取外した後、同様な手順で取付ける。
また、中ベルトBも同様に空調機等のプーリーPに新しいベルトBを掛け渡した後、電動機等のプーリーPのV溝P1にベルトBを噛ませた後、同様の手順でプーリーPのV溝P1に嵌め込む。
この場合、プーリーPに強いトルクを掛ける必要があるが、
図9のように前記主バンドル30と共に副ハンドル31を用いることができる。
【0031】
以上のように構成されたベルト交換器具及びその補助器具の作用効果は、次の通りである。
ベルト交換器具の作用効果
(1) 作業者がベルトBに接触せずに作業することができるため、安全で、且つ、簡単に、空調機や排風機等のファンや給排水機器等のベルトBを交換することができる。
(2) 前記受部21は、前記押付部20の押付力を受けて前記プーリーPのリムRの内周面に当接するように変形されるようになっているので、交換器具1が強固に前記プーリーPに固定される。よって、前記プーリー回転機構3を操作し易いようになっており、またベルトBやプーリーPが破損し難くなっている。
(3) 前記押付部20の押付先端部204は、前記VベルトBに接するリング面203を備えるとともに、前記押付ハンドル202をカラ回りさせることができるので、ベルトBを破損させることはない。
(4) プーリーPのリムRの内周面に傾斜が形成されていても、前記受部21はその傾斜に対応するように柔軟に変形され、交換器具1が強固に前記プーリーPに固定される。
(5) コ字状部22は、平行掛けされた複数本のベルトBの任意のベルトBを挟み込むことができ、また、前記押付ハンドル202及び受部21はそれぞれ前記コ字状部の自由端寄りに設けられているので、交換器具1が電動機等の機器に接触しないように構成され、その機器の破損等を防止することができる。
(6) 副ハンドル31は着脱自在になっているので、電動機の本体等とプーリーP間の隙間が狭い場合でも、交換器具1をセットすることができる。
(7) VベルトBのテンションの強さに従い、主ハンドル30のみでプーリーPを回転させたり、また主ハンドル30及び副ハンドル31によりプーリーPを回転させたりすることができる。この場合、主ハンドル30に働く力によるモーメントにより、プーリーPに対して大きなトルクをかけることができる。
【0032】
補助器具の作用効果
(8) 補助器具4の先端に鉤状部40を設けたので、先端が尖状のドライバー等と異なり、プーリーPに係止させ易く、ベルトBの取外し作業中に外れにくくなっている。
(9) ドライバー等のようにハンドル部から先端まで直線状になっていると、先端がプーリーPに点接触してしまい滑ってしまう。
この補助器具4では、ハンドル部42から先端まで直線状にせずに、先端に鉤状部40を設けて、滑り難くしている。
(10) プーリーPに係止される鉤状部40を支点としてハンドル部42を動かして、棒状部41にベルトBを取外す力を作用させる「てこの原理」を用いたものである。よって、小さな力で大きな力を発揮させることができ、また、点接触による滑りが無くなり、さらに点接触によりプーリーPが破損する恐れが無くなる。
【0033】
本発明は以上説明した実施形態に限定されるものではなく、多くの変形が本発明の技術的思想内で当分野において、通常の知識を有する者により可能である。
に示したようなVベルト押付機構2とプーリー回転機構3を備える。前記Vベルト押付機構2は、前記ベルトBを前記プーリーPの外周側から内周側に向けて押付ける押付部20と、この押付部20による押付力を前記ベルトB及び前記プーリーPのリムを介して受ける受部21と、この受部21と前記押付部20を取付けるコ字状部22を備える。前記プーリー回転機構3は、前記コ字状部22に取付られ、且つ、前記プーリーPを回転させる主ハンドル30と、前記コ字状部22に着脱自在に取付けられる副ハンドル31を備える。