(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5931268
(24)【登録日】2016年5月13日
(45)【発行日】2016年6月8日
(54)【発明の名称】船舶全体の摩擦抵抗低減量の推定方法
(51)【国際特許分類】
B63B 1/38 20060101AFI20160526BHJP
B63B 9/00 20060101ALI20160526BHJP
【FI】
B63B1/38
B63B9/00 Z
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-238583(P2015-238583)
(22)【出願日】2015年12月7日
【審査請求日】2016年1月15日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】507083249
【氏名又は名称】有限会社ランドエンジニアリング
(74)【代理人】
【識別番号】100085257
【弁理士】
【氏名又は名称】小山 有
(72)【発明者】
【氏名】高橋 義明
【審査官】
中村 泰二郎
(56)【参考文献】
【文献】
特開平11−342889(JP,A)
【文献】
特開平11−124078(JP,A)
【文献】
特開平11−043090(JP,A)
【文献】
特開平07−156859(JP,A)
【文献】
特開2010−023764(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63B 1/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
微細気泡発生部材から供給される微細気泡による船体側面に沿った有効摩擦低減長さと船体の速度とから摩擦抵抗低減量を算出した検量線を作成し、この検量線に船体側面に取付ける個々の微細気泡発生部材を当てはめて、個々の微細気泡発生部材による摩擦抵抗低減量を割り出し、割り出した個々の微細気泡発生部材の摩擦抵抗削減量を合計することを特徴とする船舶全体の摩擦抵抗低減量の推定方法。
【請求項2】
請求項1に記載の船舶全体の摩擦抵抗低減量を推定する方法において、前記検量線から読み取った低減量から、微細気泡発生部材を取付けることによって発生する摩擦抵抗の増加分を差し引くことを特徴とする船舶全体の摩擦抵抗低減量の推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細気泡(マイクロバブル)を船体の外表面に供給して、船体と水との間の摩擦抵抗を低減した摩擦抵抗低減船
の船舶全体の摩擦抵抗低減量の推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明者は微細気泡を利用した摩擦抵抗低減船として、特許文献1〜3を提案している。
これら特許文献1〜3に開示される摩擦抵抗低減船は、共通の構成として、船体に開口部を形成し、この開口部に微細気泡発生部材を取付け、配管を介して前記微細気泡発生部材に空気を供給するようにしている。
【0003】
特に前記微細気泡発生部材の構造は、開口部に嵌め付けられるプレートと、このプレートに前記配管からの空気を引き出す窓部を形成し、更に窓部に対向する箇所に引き出し用の負圧を発生するウイングを設けている。
【0004】
上記の構成とすることで、船が航行するに伴い、ウイングにおいて負圧が発生し、この負圧によって空気が窓部から気液混合部に引き出され、この気液混合部においてケルビン−ヘルムホルツ不安定現象によって微細気泡が生成され、この微細気泡が混合した海水が船体を覆うことで航行に伴う水との摩擦抵抗が低減される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4183048号公報
【特許文献2】特許第4212640号公報
【特許文献3】特許第4286313号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1〜3に提案されている摩擦低減船は、微細気泡を船体表面に噴出し、船体表面を気泡で包むことで、水と空気の摩擦係数の差分だけ、摩擦抵抗(粘性抵抗)を少なくするというものであり、摩擦抵抗は最大15%低減されることが実証されている。
【0007】
一方船舶を製造するにあたり、微細気泡発生部材を取付けた場合に、どれだけの摩擦抵抗低減量が得られるか、予め計算できることが重要である。船底に微細気泡発生部材を取付けた場合には気泡の浮力によって船底に気泡が押し付けられるため、摩擦抵抗低減量の計算は容易である。
【0008】
しかしながら、船体の側面に、微細気泡発生部材を取付けた場合にどれだけの摩擦抵抗低減量が得られるかの計算方法についての開示はなされていない。
【0009】
気泡を用いた摩擦低減船の多くは船底にのみ微細気泡発生部材を設け、船体側面には微細気泡発生部材を設けていない。この理由は船体の側面から噴出した微細気泡は浮力によって直ちに海面に浮上してしまうからと考えられているからである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は実験の結果、船体の側面から噴出した微細気泡、特に800μm以下の微細気泡は直ちに浮上せずに水中に留まることを観察した。
【0011】
上記の知見に基づき、本発明に係る船体側面の摩擦抵抗低減量の推定方法は、微細気泡発生部材から噴出した微細気泡による船体に沿った有効摩擦低減長さと船体の速度とから摩擦抵抗低減量を算出した検量線を作成し、この検量線に船体側面に取付ける個々の微細気泡発生部材を当てはめて個々の微細気泡発生部材による摩擦抵抗低減量を割り出し、割り出した個々の微細気泡発生部材の摩擦抵抗低減量を合計することで、船全体の摩擦抵抗低減量を推定するようにした。
【0012】
上記の検量線には、微細気泡発生部材を取付けたことによる摩擦抵抗増加量が含まれ、また有効摩擦低減長さはLppに0.75をかけた長さを基準とするようにしてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る摩擦抵抗低減船によれば、船体の外側面に微細気泡発生部材を取付けた船舶を建造する際に、予め摩擦抵抗増加量を正確に推定することが可能になる。したがって、船舶の目的や予算に合わせた設計が簡単に行える。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明方法の適用対象となる摩擦抵抗低減船の側面図
【
図5】縦渦と微細気泡の上昇により生ずる力を説明した図
【
図6】微細気泡に接触している部分の摩擦抵抗係数(Cf)と微細気泡に接触していない部分の摩擦抵抗係数(Cf
0)との比と船体の長さ方向の位置との関係を示すグラフ
【
図7】縦軸を摩擦抵抗低減量(ΔRx)、横軸を有効摩擦低減長さとした検量線グラフ
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に本発明の実施例を添付図面を参照しつつ説明する。
図1及び
図2に示すように摩擦抵抗低減船の側面には微細気泡を噴出する微細気泡発生部材1が複数個取付けられている。この微細気泡発生部材1は船体側面に形成した開口に嵌め付けられ、船体内に設けた配管を介して空気または圧縮空気が供給される。
【0016】
微細気泡発生部材1は
図3及び
図4に示すように、船体側面に形成した開口2に嵌め付けられる本体3と、この本体3に形成される気液混合チャンバー4と、この気液混合チャンバー4の外側にかけ渡されるウイング5から構成され、気液混合チャンバー4には空気供給用の配管6が接続され、またウイング5は航行時に気液混合チャンバー4側に負圧領域を形成すべく、進行方向を基準として先端が内側、後端が外側となるように傾斜している。
【0017】
以上において、船舶が航行すると船体の周囲には境界層7が形成される。この境界層7の船体表面に接触する最内側は船体と同一速度であり、境界層7の最外側は海水と同一速度である。つまり境界層内においては漸次速度が低下し、この速度の変化に伴う隣接する層との間で起きる摩擦が、船舶走行に伴う摩擦抵抗となる。
【0018】
したがって、境界層7内に空気を送り込むと、船体表面と境界層7の最内側層との間に空気が入り、船体と水との摩擦抵抗が、一部船体と空気との摩擦抵抗になるので、摩擦抵抗が低減される。また、境界層の内部に混入した気泡により境界層内部の水と水との接触摩擦抵抗が、水と空気との接触摩擦抵抗になるため、これによっても摩擦低減が行われる。
【0019】
一方、航行する船舶には船体に沿って流線を形成することができる。特に船首付近では流線は拡大流れとなり、船尾付近では収縮流れとなり、拡大流れ及び収縮流れでは直角方向に圧力勾配が生じ、これによって流線を軸とした縦渦(ビルジ渦)8が発生する。
【0020】
本発明方法が適用される船体側面には複数の微細気泡発生部材1を取り付けているため、微細気泡発生部材1の後方に小さいながら拡大流れ及び収縮流れが発生し、これに伴って船体側面にも通常より多くの縦渦8が発生する。
【0021】
この縦渦8により、微細気泡発生部材1から船体表面に供給された微細気泡9は長時間浮上せずに海水内に留まり、且つ船体表面に張り付く効果が発揮されると考えられる。
【0022】
即ち、船体の左舷側の状態を示す
図3を参考にすると、縦渦8には時計方向に回転する縦渦8aと反時計方向に回転する縦渦8bがあり、反時計方向に回転する縦渦8bによって微細気泡9の浮力による上昇が抑えられ海水内に留まると考えられる。このように縦渦8bは微細気泡9の浮力によってキャンセルされ、時計方向に回転する縦渦8aが境界層7内で主力となる。
【0023】
この左舷において時計方向に回転する縦渦8aは微細気泡9を上昇させるよりは微細気泡9を船体側に押し付ける力を発揮する。
図5に示すように、縦渦の軸方向(C)、気泡に作用する浮力(M)と気泡に作用する力(F)の関係は、何れも直交し、微細気泡の内側(船体側)の流れは速く、微細気泡の外側(船体の反対側)の流れは遅いので、その結果気泡には船体側面に押し付けられる力(F)が作用する。
【0024】
同様の現象が右舷側においても発生して、微細気泡の上昇は抑えられ、且つ船体側に張り付く。
このように、船体側面に供給された微細気泡は、長時間海水内に留まり、しかも船体側面に張り付く。その結果船底に供給された微細空気と同様に摩擦抵抗低減効果を十分に発揮する。
【0025】
図6は船体側面に微細気泡を供給した場合の、微細気泡に接触している部分の摩擦抵抗係数(Cf)と微細気泡に接触していない部分の摩擦抵抗係数(Cf
0)との比と船体の長さ方向の位置との関係を示すグラフである。
このグラフから、微細気泡発生部材1の近くでは供給された微細気泡の単位体積当たりの量も多いため、微細気泡に接触している部分の摩擦抵抗係数(Cf)は小さく、微細気泡発生部材1から船体に沿って後方に離れた箇所では微細気泡の単位体積当たりの量も少なくなり、船体側面から離れるため摩擦抵抗係数(Cf)は大きくなる。
但し、船尾近くになっても若干(Cf/Cf
0)の値が増えているのは、この範囲でも若干ではあるが、微細気泡による摩擦抵抗低減効果が発揮されていると解釈することができる。
【0026】
図7は縦軸を摩擦抵抗低減量(ΔRx)、横軸を有効摩擦低減長さとした検量線グラフである。ここで、有効摩擦低減長さとは、微細気泡発生部材1から供給された微細空気が船体の長さ方向に沿ってどれだけの長さに亘って摩擦抵抗低減効果を発揮し、その合計の摩擦抵抗低減量(ΔRx)はどれだけかを速度毎(図示例では簡単にするため2種類の速度にしている)に示した検量線である。
【0027】
即ち、摩擦抵抗低減量(ΔRx)は1つの微細気泡発生部材1による有効摩擦低減長さに沿って削減された摩擦抵抗の合計値である。船首に近いところに取付けた有効摩擦低減長さは、船尾までの距離が長いため有効摩擦低減長さは大きくなり、合計の摩擦抵抗低減量は多くなり、また船尾に近いところに取付けた微細気泡発生部材1の有効摩擦低減長さは短くなるので、合計の摩擦抵抗低減量は少なくなる。
このように、船体側面取付け位置によって個々の微細気泡発生部材1による摩擦抵抗低減量(ΔRx)が異なる。
【0028】
船体側面の流線に沿って離れた2点(X
1、X
2)間の摩擦抵抗低減量(ΔRX
1,X
2)は以下の(式1)によって表される。
【0029】
(式1)
【0030】
(式1)において、ρは水の密度、Vは船の速度、Rexはレイノルズ数、a及びbは定数である。
【0031】
尚、微細気泡発生部材1を取り付けることによって、微細気泡発生部材1自体による摩擦抵抗は増大する。そこで、摩擦抵抗増大分については、グラフから読んだ低減量から差し引く。
【符号の説明】
【0032】
1…微細気泡発生部材、2…船体側面に形成した開口、3…本体、4…気液混合チャンバー、5…ウイング、6…配管、7…境界層、8、8a、8b…縦渦、9…微細気泡
【要約】
【課題】 摩擦抵抗低減船を設計するにあたっての低減量の推定方法を提供する。
【解決手段】
微細気泡発生部材から供給される微細気泡による船体に沿った有効摩擦低減長さと船体の速度とから摩擦抵抗低減量を算出した検量線を作成し、この検量線に船体側面に取付ける個々の微細気泡発生部材を当てはめて個々の微細気泡発生部材による摩擦抵抗低減量を割り出し、割り出した個々の微細気泡発生部材の摩擦抵抗削減量を合計する。
【選択図】
図2