特許第5931286号(P5931286)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5931286
(24)【登録日】2016年5月13日
(45)【発行日】2016年6月8日
(54)【発明の名称】透明ポリイミドおよびその前駆体
(51)【国際特許分類】
   C08G 73/10 20060101AFI20160526BHJP
   C08L 79/08 20060101ALI20160526BHJP
   C08K 3/00 20060101ALI20160526BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20160526BHJP
【FI】
   C08G73/10
   C08L79/08 Z
   C08K3/00
   C08L79/08 A
   C08J5/18CFG
【請求項の数】13
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2015-517057(P2015-517057)
(86)(22)【出願日】2014年5月9日
(86)【国際出願番号】JP2014062474
(87)【国際公開番号】WO2014185353
(87)【国際公開日】20141120
【審査請求日】2015年9月7日
(31)【優先権主張番号】特願2013-102200(P2013-102200)
(32)【優先日】2013年5月14日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】特許業務法人SSINPAT
(72)【発明者】
【氏名】福川 健一
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 真喜
(72)【発明者】
【氏名】坂田 佳広
(72)【発明者】
【氏名】浦上 達宣
(72)【発明者】
【氏名】大久保 敦
【審査官】 井津 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/100874(WO,A1)
【文献】 特開2012−255985(JP,A)
【文献】 特開2013−079344(JP,A)
【文献】 特開2002−161136(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/051213(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 73/00−73/26
C08L 1/00−101/16
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1a)で表される構造単位と下記式(1b)で表される構造単位とを含むポリイミド。
【化1】
(上記式(1a)および(1b)において、Rは下記式(x1)、(x2)、または(x3)で表される基であり、
【化2】
上記式(x1)、(x2)、および(x3)において、*は、Rに隣接するC=Oの炭素原子に結合する炭素原子を示し、Rが複数含まれる場合には、それらの基は同一でも異なっていてもよく、
mは、式(1a)で表される構造単位および式(1b)で表される構造単位の全体に対する、式(1a)で表される構造単位のモル分率を示し、nは、式(1a)で表される構造単位および式(1b)で表される構造単位の全体に対する、式(1b)で表される構造単位のモル分率を示し(m+n=100%)、かつm/nが99.9/0.1〜50.0/50.0であり、式(1a)で表される構造単位と式(1b)で表される構造単位とは結合しており、その結合方式は、ランダムでもブロックでもよく、
上記式(1a)におけるシクロヘキサン骨格(y)は、60%〜100%の下記式(y1)で表されるトランス体と、40%〜0%の下記式(y2)で表されるシス体とからなり(トランス体+シス体=100%)、
【化3】
上記式(1b)における1,4−ビスメチレンシクロヘキサン骨格(z)は、60%〜100%の下記式(z1)で表されるトランス体と40%〜0%の下記式(z2)で表されるシス体とからなる(トランス体+シス体=100%)。
【化4】
【請求項2】
上記式(1a)および(1b)において、Rが上記式(x1)で表される基である請求項1に記載のポリイミド。
【請求項3】
下記式(2a)で表される構造単位と下記式(2b)で表される構造単位とを含むポリアミド酸。
【化5】
(上記式(2a)および(2b)において、Rは下記式(x1)、(x2)、または(x3)で表される基であり、
【化6】
上記式(x1)、(x2)、および(x3)において、*は、Rに隣接するC=Oの炭素原子に結合する炭素原子を示し、Rが複数含まれる場合には、それらの基は同一でも異なっていてもよく、
mは、式(2a)で表される構造単位および下記式(2b)で表される構造単位の全体に対する、式(2a)で表される構造単位のモル分率を示し、nは、式(2a)で表される構造単位および上記式(2b)で表される構造単位の全体に対する、式(2b)で表される構造単位のモル分率を示し、かつm/nが99.9/0.1〜50.0/50.0の範囲にあり、式(2a)で表される構造単位と式(2b)で表される構造単位とは結合しており、その結合方式は、ランダムでもブロックでもよく、
上記式(2a)におけるシクロヘキサン骨格(y)は、60%〜100%の下記式(y1)で表されるトランス体と、40%〜0%の下記式(y2)で表されるシス体とからなり(トランス体+シス体=100%)、
【化7】
上記式(2b)における1,4−ビスメチレンシクロヘキサン骨格(z)は、60%〜100%の下記式(z1)で表されるトランス体と、40%〜0%の下記式(z2)で表されるシス体とからなる(トランス体+シス体=100%)。
【化8】
【請求項4】
上記一般式(2a)および(2b)において、Rが上記式(x1)で表される基である請求項3に記載のポリアミド酸。
【請求項5】
請求項1に記載のポリイミドと無機フィラーとを含むポリイミド組成物。
【請求項6】
請求項3に記載のポリアミド酸と無機フィラーとを含むポリアミド酸組成物。
【請求項7】
1,4−シクロヘキサンジアミンと1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンとを1,4−シクロヘキサンジアミン/1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンのモル比が99.9/0.1〜50.0/50.0の範囲となるように含むジアミン混合物と、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、および2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物から選ばれる少なくとも1つを含むテトラカルボン酸二無水物とを反応させる工程を含む請求項3に記載のポリアミド酸の製造方法。
【請求項8】
1,4−シクロヘキサンジアミンとビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、および2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物から選ばれる少なくとも1つを含むテトラカルボン酸二無水物とを反応させて下記式(3a)で表される構造単位を含むポリアミド酸(1)を製造する工程、
1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンとビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、および2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物から選ばれる少なくとも1つを含むテトラカルボン酸二無水物とを反応させて下記式(3b)で表される構造単位を含むポリアミド酸(2)を製造する工程、
ポリアミド酸(1)とポリアミド酸(2)とを、下記式(3a)で表される構造単位/下記式(3b)で表される構造単位のモル比が99.9/0.1〜50.0/50.0の範囲となるように混合してポリアミド酸混合物を製造する工程、および
上記ポリアミド酸混合物のイミド化を行う工程を含む請求項1に記載のポリイミドの製造方法。
【化9】
(上記式(3a)および(3b)において、Rは下記式(x1)、(x2)、または(x3)で表される基であり、
【化10】
上記式(x1)、(x2)、および(x3)において、*は、Rに隣接するC=Oの炭素原子に結合する炭素原子を示し、Rがポリマー中に複数含まれる場合には、それらの基は同一でも異なっていてもよい。)
【請求項9】
請求項3に記載のポリアミド酸と溶媒とを含むポリアミド酸ワニス。
【請求項10】
請求項3に記載のポリアミド酸を含むドライフィルム。
【請求項11】
請求項1に記載のポリイミドを含むフィルム。
【請求項12】
請求項11に記載のフィルムを含む光学フィルム。
【請求項13】
請求項12に記載の光学フィルムを含むフレキシブルディスプレイ用基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明ポリイミドおよびその前駆体であるポリアミド酸、ならびにその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミドは、一般的に、優れた耐熱性、機械特性、電気特性を有している。そのため、ポリイミドは、成形材料または複合材料などとして、電気・電子材料用途、光学材料用途など様々な用途で幅広く用いられている。
【0003】
これらポリイミドの中でも、脂環族ジアミンと芳香族テトラカルボン酸とを反応させて得られるポリイミドは、透明性が比較的高く、電気・電子材料用途、光学用途材料をはじめとする今後の用途展開が期待される(例えば、特許文献1、特許文献2を参照)。
【0004】
これら透明性に優れるポリイミドは、例えば、HDD用サスペンション基板、半導体パッケージ基板、フレキシブルディスプレイ用基板などの回路基板への使用が検討されてきている。これら回路基板は、通常、パターニングされたポリイミド樹脂層を有する。このような回路基板に各種電子部品を実装する際に加熱を行うため、耐熱性が必要とされる。特に、近年、環境問題への配慮から、電子回路に使用するハンダは、鉛フリーハンダが主流となり、これに伴いハンダリフロー温度が高温側にシフトするため、従来よりも高い耐熱性、例えば、260℃以上のガラス転移温度(Tg)を有するポリイミドが求められている。
【0005】
また、ポリイミド樹脂層のパターニングは、そのポリイミドの透明性を活かし、ポリイミド樹脂層上に形成されている紫外線重合性化合物を含む感光性樹脂層をフォトマスクを介して露光した後、アルカリ溶液で現像(エッチング)処理することにより行うことが通常である。従って、光透過性だけでなく、高い紫外線透過性を有するポリイミドも求められている。
【0006】
さらに、ポリイミドを回路基板として用いる場合には、電気・電子部品のスペースが狭く、複雑な形状をしている部分に各種電子部品を実装する場合、柔軟性が必要とされる場所(例えば、プリンターのヘッド部と本体とを接続する部分など)への使用が期待されており、ポリイミドとして柔軟性に優れることも求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−141936号公報
【特許文献2】国際公開第2010/100874号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来の透明性ポリイミドでは、高い耐熱性および無色透明性を維持しつつ、柔軟性と高い紫外線透過性を有することが困難であった。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、耐熱性および無色透明性に優れ、柔軟性、および紫外線透過性にも優れるポリイミドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために検討した結果、特定の脂環式ジアミンと特定の芳香族テトラカルボン酸二無水物とに由来する骨格を有するポリイミドにより上記課題を解決できることを見い出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は以下記載の事項を含む。
【0011】
[1] 下記式(1a)で表される構造単位と下記式(1b)で表される構造単位とを含むポリイミド。
【0012】
【化1】
(上記式(1a)および(1b)において、Rは下記式(x1)、(x2)、または(x3)で表される基であり、
【0013】
【化2】
上記式(x1)、(x2)、および(x3)において、*は、Rに隣接するC=Oの炭素原子に結合する炭素原子を示し、Rが複数含まれる場合には、それらの基は同一でも異なっていてもよく、
mは、式(1a)で表される構造単位および式(1b)で表される構造単位の全体に対する、式(1a)で表される構造単位のモル分率を示し、nは、式(1a)で表される構造単位および式(1b)で表される構造単位の全体に対する、式(1b)で表される構造単位のモル分率を示し(m+n=100%)、かつm/nが99.9/0.1〜50.0/50.0であり、式(1a)で表される構造単位と式(1b)で表される構造単位とは結合しており、その結合方式は、ランダムでもブロックでもよく、
上記式(1a)におけるシクロヘキサン骨格(y)は、60%〜100%の下記式(y1)で表されるトランス体と、40%〜0%の下記式(y2)で表されるシス体とからなり(トランス体+シス体=100%)、
【0014】
【化3】
上記式(1b)における1,4−ビスメチレンシクロヘキサン骨格(z)は、60%〜100%の下記式(z1)で表されるトランス体と40%〜0%の下記式(z2)で表されるシス体とからなる(トランス体+シス体=100%)。
【0015】
【化4】
[2] 上記式(1a)および(1b)において、Rが上記式(x1)で表される基である[1]に記載のポリイミド。
【0016】
[3] 下記式(2a)で表される構造単位と下記式(2b)で表される構造単位とを含むポリアミド酸。
【0017】
【化5】
(上記式(2a)および(2b)において、Rは下記式(x1)、(x2)、または(x3)で表される基であり、
【0018】
【化6】
上記式(x1)、(x2)、および(x3)において、*は、Rに隣接するC=Oの炭素原子に結合する炭素原子を示し、Rが複数含まれる場合には、それらの基は同一でも異なっていてもよく、
mは、式(2a)で表される構造単位および下記式(2b)で表される構造単位の全体に対する、式(2a)で表される構造単位のモル分率を示し、nは、式(2a)で表される構造単位および上記式(2b)で表される構造単位の全体に対する、式(2b)で表される構造単位のモル分率を示し、かつm/nが99.9/0.1〜50.0/50.0の範囲にあり、式(2a)で表される構造単位と式(2b)で表される構造単位とは結合しており、その結合方式は、ランダムでもブロックでもよく、
上記式(2a)におけるシクロヘキサン骨格(y)は、60%〜100%の下記式(y1)で表されるトランス体と、40%〜0%の下記式(y2)で表されるシス体とからなり(トランス体+シス体=100%)、
【0019】
【化7】
上記式(2b)における1,4−ビスメチレンシクロヘキサン骨格(z)は、60%〜100%の下記式(z1)で表されるトランス体と、40%〜0%の下記式(z2)で表されるシス体とからなる(トランス体+シス体=100%)。
【0020】
【化8】
[4] 上記一般式(2a)および(2b)において、Rが上記式(x1)で表される基である[3]に記載のポリアミド酸。
【0021】
[5] [1]または[2]に記載のポリイミドと無機フィラーとを含むポリイミド組成物。
【0022】
[6] [3]または[4]に記載のポリアミド酸と無機フィラーとを含むポリアミド酸組成物。
【0023】
[7] 1,4−シクロヘキサンジアミンと1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンとを1,4−シクロヘキサンジアミン/1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンのモル比が99.9/0.1〜50.0/50.0の範囲となるように含むジアミン混合物と、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、3,3',4,4'−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、および2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物から選ばれる少なくとも1つを含むテトラカルボン酸二無水物とを反応させる工程を含む[3]に記載のポリアミド酸の製造方法。
【0024】
[8] 1,4−シクロヘキサンジアミンとビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、3,3',4,4'−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、および2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物から選ばれる少なくとも1つを含むテトラカルボン酸二無水物とを反応させて下記式(3a)で表される構造単位を含むポリアミド酸(1)を製造する工程、
1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンとビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、3,3',4,4'−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、および2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物から選ばれる少なくとも1つを含むテトラカルボン酸二無水物とを反応させて下記式(3b)で表される構造単位を含むポリアミド酸(2)を製造する工程、
ポリアミド酸(1)とポリアミド酸(2)とを、下記式(3a)で表される構造単位/下記式(3b)で表される構造単位のモル比が99.9/0.1〜50.0/50.0の範囲となるように混合してポリアミド酸混合物を製造する工程、および
上記ポリアミド酸混合物のイミド化を行う工程を含む[1]に記載のポリイミドの製造方法。
【0025】
【化9】
(上記式(3a)および(3b)において、Rは下記式(x1)、(x2)、または(x3)で表される基であり、
【0026】
【化10】
上記式(x1)、(x2)、および(x3)において、*は、Rに隣接するC=Oの炭素原子に結合する炭素原子を示し、Rがポリマー中に複数含まれる場合には、それらの基は同一でも異なっていてもよい。)
[9] [3]または[4]に記載のポリアミド酸と溶媒とを含むポリアミド酸ワニス。
【0027】
[10] [3]または[4]に記載のポリアミド酸を含むドライフィルム。
【0028】
[11] [1]もしくは[2]に記載のポリイミド、または[5]に記載のポリイミド組成物を含むフィルム。
【0029】
[12] [11]に記載のフィルムを含む光学フィルム。
【0030】
[13] [12]に記載の光学フィルムを含むフレキシブルディスプレイ用基板。
【発明の効果】
【0031】
本発明により得られるポリイミドは、耐熱性および無色透明性に優れるだけでなく、柔軟性、および紫外線透過性、特に長波長の紫外線(例えば365nmの紫外線)の透過性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明のポリイミドは、下記式(1a)で表される構造単位と下記式(1b)で表される構造単位とを含むことを特徴とする。
【0033】
【化11】
上記式(1a)および(1b)において、Rは下記式(x1)、(x2)、または(x3)で表される基であり、下記式(x1)、(x2)、および(x3)において、*は、上記式(1a)および(1b)のRに隣接するC=Oの炭素原子に結合する炭素原子を示す。
【0034】
【化12】
上記式(x1)、(x2)、および(x3)において、*は、Rに隣接するC=Oの炭素原子に結合する炭素原子である。また、上記式(1a)および(1b)において、Rが複数含まれる場合には、それらの基は同一でも異なっていてもよく、上記式(1a)に含まれるRと上記式(1b)に含まれるRとは同一でも異なっていてもよい。
【0035】
上記式(1a)で表される構造単位は、1,4−シクロヘキサンジアミンと、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物(別名:4,4'−オキシジフタル酸無水物)、3,3',4,4'−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、および2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物(別名:4,4'−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物)から選ばれる少なくとも1つのテトラカルボン酸二無水物とを反応されて得られる構造単位である。本発明のポリイミドに上記式(1a)で表される構造単位が複数含まれる場合には、上記テトラカルボン酸二無水物に由来する構成単位は、1種単独のテトラカルボン酸二無水物から形成されていてもよく、2種以上のテトラカルボン酸二無水物から形成されていてもよい。
【0036】
上記式(1b)で表される構造単位は、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンと、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、3,3',4,4'−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、および2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物から選ばれる少なくとも1つの酸無水物とを反応されて得られる構造単位である。本発明のポリイミドに上記式(1b)で表される構造単位が複数含まれる場合には、上記テトラカルボン酸二無水物に由来する構成単位は、1種単独のテトラカルボン酸二無水物から形成されていてもよく、2種以上のテトラカルボン酸二無水物から形成されていてもよい。
【0037】
また、上記(1a)におけるテトラカルボン酸二無水物に由来する基と上記式(1b)におけるテトラカルボン酸二無水物に由来する基とは、同一であっても異なっていてもよい。
【0038】
本発明のポリイミドに、このような2つの構造単位が含まれることにより、耐熱性および無色透明性に優れるだけでなく、柔軟性、および紫外線透過性、特に長波長の紫外線(例えば365nmの紫外線)の透過性に優れる。
【0039】
上記式(1a)におけるシクロヘキサン骨格(y)は、60%〜100%の下記式(y1)で表されるトランス体と、40%〜0%の下記式(y2)で示されるシス体とからなる(ただし、トランス体+シス体=100%である。)。
【0040】
【化13】
シクロヘキサン骨格におけるトランス体の割合がこのような範囲にあることにより、得られるポリイミドの分子量を増大しやすくでき、自己支持性のある膜を形成しやすくなる。得られるポリイミドの分子量を増大しやすくする観点からは、トランス体の割合が70%〜100%、シス体の割合が30%〜0%であることが好ましく、トランス体割合が80%〜100%、シス体の割合が20%〜0%であることがより好ましい。
【0041】
上記式(1b)における1,4−ビスメチレンシクロヘキサン骨格(z)は、60%〜100%の下記式(z1)で表されるトランス体と、40%〜0%の下記式(z2)で示されるシス体とからなる(ただし、トランス体+シス体=100%である。)。
【0042】
【化14】
1,4−ビスメチレンシクロヘキサン骨格におけるトランス体の割合がこのような範囲にあることにより、得られるポリイミドのガラス転移温度(Tg)を高めることができる。得られるポリイミドのTg、すなわち耐熱性を高める観点からは、トランス体の割合が80%〜100%、シス体の割合が20%〜0%であることが好ましい。
【0043】
上記式(1a)中、mは、式(1a)で表される構造単位および下記式(1b)で表される構造単位の全体に対する、式(1a)で表される構造単位のモル分率を示す。上記式(1b)中、nは、式(1a)で表される構造単位および下記式(1b)で表される構造単位の全体に対する、式(1b)で表される構造単位のモル分率を示す。このm/nは、99.9/0.1〜50.0/50.0の範囲にある。m/nがこの範囲にあることにより、得られるポリイミドの無色透明性、紫外線透過性が優れるだけでなく、Tgが260℃以上となるような耐熱性を有しつつ柔軟性も有することが可能となる。
【0044】
これらの特性をより優れたものとする等の観点から、m/nは、好ましくは99.9/0.1〜70.0/30.0の範囲、より好ましくは99.5/0.5〜80.0/20.0の範囲、さらに好ましくは99.5/0.5〜90.5/9.5の範囲である。特に、上記式(1a)および(1b)において、Rが(x1)で示される基である場合にはm/nが上記範囲であることが望ましい。m/nが上記下限値を下回る場合、Tgが大きく低下する傾向にあり、耐熱性の点で好ましくない傾向にある。一方、上記上限値を超える値である場合、柔軟性が不充分になる傾向にある。
【0045】
上記式(1a)で表される構造単位および上記式(1b)で表される構造単位とは結合しているが、これら構造単位の結合形式には特に制限はなく、例えば、結合形式はランダムでもよく、それぞれの単位が複数連続したブロックでもよく、これら結合形式が混在していてもよい。
【0046】
本発明のポリイミドの1つの好ましい態様は、上記Rが(x1)で示される基である態様、すなわち、ポリイミドに含まれる上記テトラカルボン酸二無水物に由来する構成単位がビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物に由来する構成単位である態様である。
【0047】
本発明のポリイミドは、上記式(1a)で表される構造単位と上記式(1b)で表される構造単位とのみから構成されていてもよいが、本発明の効果を損なわない範囲で、上記式(1a)で表される構造単位および上記式(1b)で表される構造単位以外のその他の構造単位を含んでいてもよい。その他の構造単位は、例えば、1,4−シクロヘキサンジアミンまたは1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンと、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、3,3',4,4'−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、および2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物以外のテトラカルボン酸二無水物とを反応させて得られる構造単位、
1,4−シクロヘキサンジアミンおよび1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン以外のジアミンと1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンと、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、3,3',4,4'−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、または2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物とを反応させて得られる構造単位、
1,4−シクロヘキサンジアミンおよび1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン以外のジアミンとビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、3,3',4,4'−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、および2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物以外のテトラカルボン酸二無水物とを反応させて得られる構造単位などが挙げられる。上記テトラカルボン酸二無水物は単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。また、ポリイミドに分岐を導入することなどを目的に、上記テトラカルボン酸二無水物の一部を、ヘキサカルボン酸三無水物またはオクタカルボン酸四無水物などに置き換えてもよい。上記ジアミンは単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0048】
ポリイミドに含まれるその他の構造単位の含有量は、本発明の効果を阻害しない限り特に制限はないが、式(1a)で表される構造単位および式(1b)で表される構造単位の合計100モルに対して、通常10モル〜0モル、好ましくは9モル〜0モルである。
【0049】
本発明のポリイミドは、非プロトン性極性溶媒に溶解することが好ましい。なお本発明で溶解するとは、非プロトン性溶媒に、ポリイミドが10g/l以上、好ましは100g/l以上溶解することを意味する。非プロトン性極性溶媒とは、例えば非プロトン性アミド系溶媒が挙げられる。非プロトン性アミド系溶媒としては、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N−メチルカプロラクタム、ヘキサメチルホスホロトリアミドなどが挙げられる。これらアミド系溶媒の中でも、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンが好ましい。
【0050】
本発明で得られるポリイミドの溶液(溶媒:p−クロロフェノール/フェノール=9/1(重量比),濃度:0.5g/dl)の35℃における対数粘度は、0.1〜3.0dl/gの範囲にあることが好ましい。対数粘度がこの範囲にある場合、ポリイミドが実用的な分子量を有し、所望の固形分濃度で塗布が容易となる。対数粘度が高すぎる場合、一般的に重合が困難となり、また、溶解性が低くなる場合がある。
【0051】
本発明のポリイミドのTgは、耐熱性を高める等の観点から、好ましくは260℃以上、より好ましくは280℃以上である。ポリイミドのTgは、例えば、以下の手順でTMA測定により求めることができる。即ち、ポリイミドからなる試験片(5mm×22mm,厚み約10〜50μm)を、測定装置TMA‐50(島津製作所製)を用いて、25〜350℃の温度範囲で、昇温速度5℃/分、荷重14g/mm、引張りモードの測定条件で、TMA測定し、得られた温度−試験片伸び曲線の変曲点から、ガラス転移温度(Tg)を求めることができる。
【0052】
本発明のポリイミドからなるフィルムの熱膨張係数は、後述する回路基板の反りを低減するためなどから、30ppm/K以下であることが好ましく、20ppm/K以下であることがより好ましい。フィルムの熱膨張係数は、前述のTMA測定で得られた温度−試験片伸び曲線の、100〜200℃の範囲における傾きから求めることができる。
【0053】
本発明のポリイミドの引張弾性率(ダンベル型試験片:標線幅5mm、引張速度:30mm/分)は、100〜200MPaであることが好ましい。このような引張弾性率を有するポリイミドは、十分な強度を有する材料として、光学用途をはじめとする種々の用途に用いることができる。
【0054】
また、本発明のポリイミドの引張伸度(ダンベル型試験片:標線幅5mm、引張速度:30mm/分)は、10%以上であることが好ましい。このような引張伸度を有するポリイミドは、例えばフィルムとすると柔軟性必要とする用途、例えばフレキシブルフィルムとして好適に用いることができる。
【0055】
本発明のポリイミドからなる厚み30μmのフィルムの、JIS K 7105に準じて測定される全光線透過率は、80%以上であることが好ましく、82%以上であることがより好ましい。
【0056】
本発明のポリイミドからなる厚み10μmのフィルムの、波長365nmにおける光線透過率は、30%以上であることが好ましく、35%以上であることがより好ましい。波長365nmにおける光線透過率がこのような範囲にあることにより、本発明のポリイミドを、紫外線照射を必要とする用途(例えば、紫外線重合性化合物の硬化)に好適に用いることができる。
【0057】
また、従来のポリイミドは主に黄色や茶色などの有色フィルムである。しかし、本発明のポリイミドは、JIS Z 8729で規格されるL***表色系のうち、好ましくはb*の絶対値(数値がプラスで黄色味、マイナスで青味を示す)が3以下であり、より好ましくはb*の値が0〜3の範囲である。b*の値が上記範囲であることにより、黄色くない、すなわち、無色透明ポリイミドとして好適に用いることができる。
【0058】
本発明のポリイミドは、フィルムとして用いられてもよい。本発明におけるフィルムには、層も含まれる。即ち、本発明のポリイミドを含むフィルムは、本発明のポリイミドを含み、必要に応じて光重合性化合物の硬化物などの他の成分をさらに含んでもよい。また、本発明のフィルムは、本発明のポリイミドからなる層を少なくとも1層含む多層フィルムであってもよい。
【0059】
本発明のポリアミド酸は、下記式(2a)で表される構造単位と下記式(2b)で表される構造単位とを含むことを特徴とする。
【0060】
【化15】
本発明のポリアミド酸は、上述したポリイミドの前駆体ともなる。
【0061】
すなわち、式(2a)で表される構造単位は上記式(1a)で表される構造単位に対応し、式(2a)で表される構造単位は1,4−シクロヘキサンジアミンと、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、3,3',4,4'−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、および2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物から選ばれる少なくとも1つのテトラカルボン酸二無水物とを反応されて得られる構造単位である。また、式(2b)で表される構造単位は上記式(1b)で表される構造単位に対応し、式(2b)で表される構造単位は1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンと、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、3,3',4,4'−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、および2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物から選ばれる少なくとも1つの酸無水物とを反応されて得られる構造単位である。
【0062】
したがって、上記式(2a)におけるシクロヘキサン骨格(y)は、60%〜100%の下記式(y1)で表されるトランス体と、40%〜0%の下記式(y2)で示されるシス体とからなる(ただし、トランス体+シス体=100%である。)。
【0063】
【化16】
上記シクロヘキサン骨格においては、トランス体の割合が70%〜100%、シス体の割合が30%〜0%であることが好ましく、トランス体割合が80%〜100%、シス体の割合が20%〜0%であることがより好ましい。
【0064】
上記式(2b)における1,4−ビスメチレンシクロヘキサン骨格(z)は、60%〜100%の下記式(z1)で表されるトランス体と、40%〜0%の下記式(z2)で示されるシス体とからなる(ただし、トランス体+シス体=100%である。)。
【0065】
【化17】
上記1,4−ビスメチレンシクロヘキサン骨格においては、トランス体の割合が80%〜100%、シス体の割合が20%〜0%であることが好ましい。
【0066】
また、式(2a)のRおよびmは、式(1a)のRおよびmと同義であり、式(2b)におけるRおよびnは、式(1b)におけるRおよびnと同義である。さらに、m/nは99.9/0.1〜50.0/50.0の範囲にあり、好ましくは99.0/0.1〜70.0/30.0の範囲、より好ましくは99.5/0.5〜80.0/20.0の範囲、さらに好ましくは99.5/0.5〜90.5/9.5の範囲である。特に、上記式(2a)および(2b)において、Rが(x1)で示される基である場合にはm/nが上記範囲であることが望ましい。
【0067】
上記式(2a)で表される構造単位および上記式(2b)で表される構造単位とは結合しているが、これら構造単位の結合形式には特に制限はなく、例えば、結合形式はランダムでもよく、それぞれの単位が複数連続したブロックでもよく、これら結合形式が混在していてもよい。
【0068】
本発明のポリアミド酸の1つの好ましい態様は、上記Rが(x1)で示される基である態様、すなわち、ポリアミド酸に含まれる上記テトラカルボン酸二無水物に由来する構成単位がビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物に由来する構成単位である態様である。
【0069】
本発明のポリアミド酸は、上記式(2a)で表される構造単位と上記式(2b)で表される構造単位とのみから構成されていてもよいが、本発明の効果を損なわない範囲で、上記式(2a)で表される構造単位および上記式(2b)で表される構造単位以外のその他の構造単位を含んでいてもよい。その他の構造単位は、例えば、1,4−シクロヘキサンジアミンまたは1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンと、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、3,3',4,4'−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、および2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物以外のテトラカルボン酸二無水物とを反応させて得られる構造単位、
1,4−シクロヘキサンジアミンおよび1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン以外のジアミンと1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンと、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、3,3',4,4'−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、または2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物とを反応させて得られる構造単位、
1,4−シクロヘキサンジアミンおよび1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン以外のジアミンとビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、3,3',4,4'−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、および2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物以外のテトラカルボン酸二無水物とを反応させて得られる構造単位などが挙げられる。上記テトラカルボン酸二無水物は単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。また、ポリイミドに分岐を導入することなどを目的に、上記テトラカルボン酸二無水物の一部を、ヘキサカルボン酸三無水物またはオクタカルボン酸四無水物などに置き換えてもよい。
【0070】
ポリアミド酸に含まれるその他の構造単位の含有量は、本発明の効果を阻害しない限り特に制限はないが、式(2a)で表される構造単位および式(2b)で表される構造単位の合計100モルに対して、通常10モル〜0モル、好ましくは9モル〜0モルである。
【0071】
本発明で得られるポリアミド酸の溶液(溶媒:N-メチル-2-ピロリドン,濃度:0.5g/dl)の35℃における対数粘度は、0.1〜3.0dl/gの範囲にあることが好ましい。対数粘度がこの範囲にある場合、ポリアミド酸溶液を基材等へ塗布することが容易となるので、ポリアミド酸ワニスとして好適に用いることができる。
【0072】
本発明のポリアミド酸は、例えば、1,4−シクロヘキサンジアミンと1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンとを含むジアミン混合物と、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、3,3',4,4'−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、および2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物から選ばれる少なくとも1つを含むテトラカルボン酸二無水物とを重付加反応することにより得られる。
【0073】
上記ジアミン混合物中の1,4−シクロヘキサンジアミンと1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンとのモル比は、得られるポリアミド酸の式(2a)で表される構造単位と式(2b)で表される構造単位の比 m/nが上述の所望の範囲となるように、含まれていればよい。
【0074】
したがって、上記ジアミン混合物中の1,4−シクロヘキサンジアミン/1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンのモル比は、好ましくは99.9/0.1〜50.0/50.0の範囲、より好ましくは99.9/0.1〜70.0/30.0の範囲、さらに好ましくは99.5/0.5〜80.0/20.0の範囲、特に好ましくは99.5/0.5〜90.5/9.5の範囲とすればよい。特に、上記テトラカルボン酸二無水物がビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物である場合には、1,4−シクロヘキサンジアミン/1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンのモル比が上記範囲であることが望ましい。
【0075】
また上記ジアミン混合物中には、本発明の効果を損なわない範囲で、1,4−シクロヘキサンジアミンおよび1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン以外のその他のジアミンが含まれていてもよい。また、テトラカルボン酸二無水物中には、本発明の効果を損なわない範囲で、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、3,3',4,4'−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、および2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物以外のその他のテトラカルボン酸二無水物が含まれていてもよい。また、ポリイミドに分岐を導入することなどを目的に、上記テトラカルボン酸二無水物の一部を、ヘキサカルボン酸三無水物またはオクタカルボン酸四無水物などに置き換えてもよい。これらその他のジアミンおよびその他のテトラカルボン酸二無水物等は、ポリアミド酸に含まれるその他の構造単位の含有量が上述した範囲となる量で使用されることが望ましい。
【0076】
ポリアミド酸を製造する上記重付加反応は、反応溶媒中で行うことが好ましい。反応溶媒としては、非プロトン性極性溶媒、水溶性アルコール系溶媒などが挙げられる。
【0077】
上記非プロトン性極性溶媒としては、例えば、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルフォスフォラアミド;2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、2−(メトキシメトキシ)エトキシエタノール、2−イソプロポキシエタノール、2−ブトキシエタノール、テトラヒドロフルフリルアルコール、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコール、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、テトラエチレングリコール、1−メトキシ−2−プロパノール、1−エトキシ−2−プロパノール、ジプロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、テトラヒドロフラン、ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル等のエーテル系化合物などが挙げられる。
【0078】
上記水溶性アルコール系溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、tert−ブチルアルコール、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2−ブテン−1,4−ジオール、2−メチル−2,4-ペンタンジオール、1,2,6−ヘキサントリオール、ジアセトンアルコールなどが挙げられる。
【0079】
上記反応溶媒は、単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。
【0080】
これら反応溶媒の中でも、非プロトン性極性溶媒が好ましく、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、およびこれらの混合物がより好ましい。
【0081】
ポリアミド酸を重合する際の雰囲気は重合が阻害されない限り制限されないが、窒素雰囲気であることが望ましい。
【0082】
重合を反応溶媒中で行う場合には、例えば、得られるポリイミドの固形分濃度が30重量%程度となるように行う。また、重合の際には、上述のジアミン混合物とテトラカルボン酸二無水物とのモル比は、通常0.9〜1.1程度となるようにして行う。重合時間は重合温度にも依存するが、通常1〜50時間程度である。反応を促進させるために、重合溶液を加熱しても良い。重合温度は、通常40〜120℃、好ましくは60〜100℃である。
【0083】
このようにして得られるポリアミド酸を溶媒に溶解することにより、ポリアミド酸ワニスを作製することができる。ポリアミド酸ワニスの溶媒としては、非プロトン性極性溶媒が好ましい。非プロトン性極性溶媒としては、ポリアミド酸製造の際に用いる反応溶媒として使用する非プロトン性極性溶媒と同様の化合物を例示でき、好ましい化合物も同様である。ポリアミド酸ワニスに含まれるポリアミド酸の濃度は特に限定されない。濃度を高くすると、乾燥による溶媒除去が容易になる傾向にある。したがって、ポリアミド酸の濃度は15重量%以上であることが好ましい。一方、濃度が高過ぎると、ポリアミド酸ワニスの塗布が困難になる傾向にある。したがって、ポリアミド酸の濃度は、50重量%以下であることが好ましい。上記ポリアミド酸ワニスには、感光性付与成分(光重合性化合物、光重合開始剤など)、無機フィラー等の後述する添加剤が含まれていてもよい。
【0084】
上記ポリアミドワニスを基材、例えばキャリアフィルム等に塗布して残存溶媒を除去することにより、本発明のポリアミド酸を含むドライフィルムを作製できる。残存溶媒を除去するために、加熱を行う(プリベイク)場合には、加熱温度は通常80〜150℃程度である。
【0085】
上記キャリアフィルムとしては、例えばドライフィルムが感光性を有する場合に、ドライフィルムを露光できるような透明性を有し、かつ低透湿性を有することが望まれる場合がある。そのため、キャリアフィルムとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの透明性フィルムが好ましい。
【0086】
上記ドライフィルムの残存溶媒量は、一定以下に調整されていることが好ましい。ドライフィルムの残存溶媒量は、アルカリ水溶液に対する溶解性を適度な範囲にするために、3〜20質量%であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましい。ドライフィルムの残存溶媒量が多いと、アルカリ水溶液に対する溶解速度が高くなりやすい。
【0087】
ドライフィルムの残存溶媒量は、例えば、ガスクロマトグラフィー(GC)測定を行い、得られたチャートのその溶媒に該当するピークの面積を算出し、予め準備しておいた溶媒の検量線と照合することにより求めることができる。
【0088】
GC測定は、例えば、電気炉型熱分解炉(例えば、島津製作所製PYR−2A)と、インジェクタ温度およびディテクタ温度を200℃、カラム温度を170℃に設定したガスクロマト質量分析装置(例えば、島津製作所製GC−8A(カラムUniport HP 80/100 KG−02))とを接続し、ドライフィルムを電気炉型熱分解炉に投入後、即時320℃加熱して揮発成分を生成させた後、該揮発成分を、ガスクロマト質量分析装置により分析することにより行うことができる。
【0089】
上記ドライフィルムの厚みは、用途にもよるが、回路基板の層間絶縁層などに用いる場合には、1μm〜100μmであることが好ましく、5μm〜50μmであることがより好ましい。
【0090】
上記ドライフィルムの表面は、さらにカバーフィルムで保護されていてもよい。カバーフィルムは、低透湿性を有するフィルムであれば特に限定されない。
【0091】
上記ドライフィルムには、感光性付与成分(光重合性化合物、光重合開始剤など)、無機フィラー等の後述する添加剤が含まれていてもよい。
【0092】
上述した本発明のポリイミドは、例えば、上述のようにして得られるポリアミド酸をイミド化(脱水縮合反応)することにより作製できる。イミド化の手段は、特に限定されないが、例えば以下のように熱的または化学的に行えばよい。
(1)溶媒中のポリアミド酸を、例えば100〜400℃程度に加熱して、イミド化する方法(熱イミド化)
(2)溶媒中のポリアミド酸を、無水酢酸などのイミド化剤を用いて化学的にイミド化する方法(化学イミド化)
(3)溶媒中のポリアミド酸を、触媒存在下または不存在下、共沸脱水用溶媒の存在下においてイミド化する方法(共沸脱水閉環法)
また、上述したポリアミド酸ワニスから作製されたドライフィルムを、20℃〜400℃、好ましくは150℃〜350℃、さらに好ましくは200℃〜300℃で、1秒〜5時間程度加熱することによりイミド化を行い、ポリイミドを作製することもできる。
【0093】
また、本発明のポリイミドは、
1,4−シクロヘキサンジアミンとビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、3,3',4,4'−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、および2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物から選ばれる少なくとも1つを含むテトラカルボン酸二無水物とを反応させて下記式(3a)で表される構造単位を含むポリアミド酸(1)を製造する工程、
1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンとビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、3,3',4,4'−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、および2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物から選ばれる少なくとも1つを含むテトラカルボン酸二無水物とを反応させて下記式(3b)で表される構造単位を含むポリアミド酸(2)を製造する工程、
ポリアミド酸(1)とポリアミド酸(2)とを、下記式(3a)で表される構造単位/下記式(3b)で表される構造単位のモル比が99.9/0.1〜50.0/50.0の範囲となるように混合してポリアミド酸混合物を製造する工程、および
上記ポリアミド酸混合物のイミド化を行う工程を含む製造方法によっても製造できる。
【0094】
【化18】
(上記式(3a)および(3b)において、Rは下記式(x1)、(x2)、または(x3)で表される基であり、
【0095】
【化19】
上記式(x1)、(x2)、および(x3)において、*は、Rに隣接するC=Oの炭素原子に結合する炭素原子を示し、Rがポリマー中に複数含まれる場合には、それらの基は同一でも異なっていてもよい。)
式(3a)で表される構造単位/式(3b)で表される構造単位のモル比は、好ましくは99.9/0.1〜70.0/30.0の範囲、より好ましくは99.5/0.5〜80.0/20.0の範囲、さらに好ましくは99.5/0.5〜90.5/9.5の範囲である。特に、上記式(3a)および(3b)のRが式(x1)であらわされる基である場合には、式(3a)で表される構造単位/式(3b)で表される構造単位のモル比が上記範囲であることが望ましい。
【0096】
上記ポリアミド酸(1)およびポリアミド酸(2)の製造条件は、本発明のポリアミド酸の製造条件と同様である。また、上記イミド化は、上述したイミド化と同様の条件により行うことができる。
【0097】
本発明のポリイミドに、必要に応じて各種添加剤をさらに添加してポリイミド樹脂組成物としてもよい。添加剤としては、例えば、無機フィラー、有機フィラー、耐摩耗性向上剤、難燃性向上剤、耐トラッキング向上剤、耐酸性向上剤、熱伝導度向上剤、消泡剤、レベリング剤、表面張力調整剤、着色剤等が挙げられる。
【0098】
上記無機フィラーとしては、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、アルミナ、シリカ等の金属酸化物;炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、チタン酸バリウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸アルミニウム、塩化マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウム、沈降性硫酸バリウム、沈降性炭酸バリウム等の無機金属塩;水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、および水酸化カルシウム等の金属水酸化物;タルク、天然マイカ、合成マイカ、カオリンなどの粘土系鉱物等が挙げられる。
【0099】
上記無機フィラーの粒子形状は、特に限定されず、針状であっても、板状であっても、球状であってもよい。無機フィラーの平均粒径は、0.05μm〜5μmであることが好ましく、0.05μm〜2μmであることがより好ましい。
【0100】
無機フィラーは、100重量部のポリイミドに対して、好ましくは10〜500重量部、さらに好ましくは20〜400重量部の量で含まれる。この範囲であると、例えば光反射板としてポリイミドからなるフィルムを用いた場合、光線反射率が十分であり、フィルム強度も低下しにくい。
【0101】
上記有機フィラーとしては、例えば、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、アクリル樹脂、ポリイミド、テトラフルオロエチレン系樹脂、ポリエチレン、ポリエステル、ポリアミド等の樹脂等の微粒子(ただし、ワニスに使用する溶媒に不溶であるもの)などが挙げられる。
【0102】
上記着色剤は、有機系であっても無機系であってもよく、蛍光色素剤であってもよい。着色剤の色は、特に制限はなく、用途に応じて適宜選択される。例えば、本発明のポリイミドフィルムを光反射材として用いる場合には、蛍光増白剤等の白色剤を配合することにより、光線反射率を高めることができる。
【0103】
このようなポリイミド樹脂組成物は、本発明のポリアミド酸と各種添加剤とを含むポリアミド酸樹脂組成物を作製し、これをイミド化することにより作製できる。また、上述したポリアミド酸(1)とポリアミド酸(2)との混合物に各種添加剤をさらに加えた後、これをイミド化することによっても作製することができる。
【0104】
また、本発明のポリイミドまたはポリイミド樹脂組成物を含むフィルム(ポリイミドフィルム)は、高い透明性と、耐熱性、紫外線透過性および柔軟性を有し得る。そのため、本発明のポリイミドまたはポリイミド組成物を含むフィルムは、光学フィルムとして用いることもできる。
【0105】
光学フィルムとしては、例えば、偏光板保護フィルム、位相差フィルム、反射防止フィルム、電磁波シールドフィルム、透明導電フィルムなどが挙げられる。また、この光学フィルムは、画像表示装置用途のパネル用透明基板として用い得るが、該パネル透明基板としては、例えば、フレキシブルディスプレイ用基板、フラットパネルディスプレイ用基板、液晶ディスプレイ用基板、無機・有機ELディスプレイ用基板、タッチパネル用基板、電子ペーパー用基材などが挙げられる。
【0106】
画像表示装置用途のパネル用透明基板として用いられるポリイミドフィルムには、平滑層、ハードコート層、ガスバリアー層、透明導電層などの機能層、または他の光学フィルムがさらに積層されていてもよい。
【0107】
本発明のポリイミドフィルムが、画像表示装置のパネル用透明基板として用いられる場合、該フィルムのガラス転移温度(Tg)、熱膨脹係数および全光線透過率は、前述と同様の範囲であることが好ましい。
【実施例】
【0108】
以下、実施例を参照して本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらにより何ら制限を受けるものではない。
【0109】
以下の実施例および比較例において、ポリイミドフィルムの作製および各種物性の測定は以下の方法により行った。
【0110】
(1)ポリイミドフィルムの作製
各実施例および比較例で得られたポリアミド酸溶液(ワニス)を、ドクターブレードにてガラス基板上に流延した。このガラス基板を、オーブンにて窒素気流中、2時間かけて50℃から280℃まで昇温し、次いで280℃で2時間保持して、流延膜をイミド化させた。得られた流延膜をガラス基板から剥離することで、厚みが10μm〜14μmの範囲にあるポリイミドフィルムを得た。
【0111】
(2)固有対数粘度の測定
得られたポリアミド酸溶液(ワニス)を、固形分濃度が0.5g/dlとなるようにN,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)を加えて調整し、その固有対数粘度(dl/g)をウベローデ粘度計を用いて35℃にて測定した。
【0112】
(3)ガラス転移温度 Tg
作製したポリイミドフィルムの試験片(標線幅5mm・試料長20mm)を、測定装置TMA−50(島津製作所製)を用いて、25〜350℃の温度範囲で、昇温速度5℃/分、荷重14g/mm、引張りモードの条件でTMA測定した。得られた温度・伸度曲線の変曲点からガラス転移温度(Tg)を求めた。
【0113】
(4)波長365nmにおける光線透過率 T%@365nm
作製したポリイミドフィルムをMultiSpec−1500(島津製作所製)を用いて、紫外・可視スペクトルを測定した。この時の波長365nmにおける光線透過率を計測した。
【0114】
(5) b*(黄色味の指標)
作製したポリイミドフィルムについて、色彩色差計(測定ヘッド:CM−2500d コニカミノルタ社製)を用いて、C光源・2°視野・SCIモードの条件で、校正白色板の上で、黄色味の指標となる値の測定を行った。3回の測定値の平均値をb*とした。
【0115】
(6)全光線透過率 Total T
作製したポリイミドフィルムの全光線透過率を、積分球を備えた日本電色工業製ヘーズメーターNDH2000を用いて、光源D65にてJIS K 7105に準じた方法で測定した。
【0116】
(7)引張強度 TSおよび引張伸度 EL
上記で得たポリイミドフィルムよりダンベル型打ち抜き試験片を作製し、引張試験機(島津製作所製、EZ−S)にて、標線幅5mm、試料長30mm、引張速度30mm/分の条件で測定を行った。得られた応力・歪曲線より、破断に至った点における強度および伸度をそれぞれ引張強度および引張伸度とし、5回の測定値の平均値を、引張強度 TS、引張伸度 ELとした。
【0117】
(8)1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンのシス体/トランス体比率の算出
1H NMR(溶媒CDCl3)測定より、所定磁場範囲におけるシグナルの強度比より、シス体/トランス体比率を算出した。すなわち、シス体由来のNH2CH2(2.61ppm、ダブレット)と、トランス体由来のNH2CH2(2.53ppm、ダブレット)との比率から算出したところ、トランス体比率84%であった。
【0118】
(A)ポリアミド酸の合成
(実施例1)
温度計、攪拌機、窒素導入管を備えた500mLの5口セパラブルフラスコに、撹拌条件下、1,4−ジアミノシクロヘキサン(以下、CHDAと称する;岩谷瓦斯社製、トランス体比率:99%以上)11.3g(0.099モル)と、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン(以下、14BACと称する;トランス体比率:84)0.140g(0.001モル)と、有機溶媒であるN,N−ジメチルアセトアミド(以下、DMAcと称する)223gとを加え、ジアミン混合物の溶液を作製した。さらに撹拌条件下、その溶液に、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物(以下、ODPAと称する)31.0g(0.100モル)を粉状のまま投入した後、得られた液を、90℃に保持したオイルバス中に1時間浴して反応させた。液は、当初は不均一であったが、反応の進行に従って透明な溶液に変化し、粘性のあるポリアミド酸溶液を得た。得られたポリアミド酸溶液のワニス物性(η)、および上記フィルム作成方法に従って得られたフィルムの各物性(Tg、T%@365nm、b*、Total T、TS、EL)を表1にまとめる。
【0119】
(実施例2)
CHDAの仕込み量を11.3gから10.9g(0.095モル)に、14BACの仕込み量を0.140gから0.710g(0.005モル)に、DMAcの仕込み量を223gから224gに変更する以外は実施例1と同様に、ポリアミド酸溶液を作製した。得られたポリアミド酸溶液のワニス物性(η)、および上記フィルム作成方法に従って得られたフィルムの各物性(Tg、T%@365nm、b*、Total T、TS、EL)を表1にまとめる。
【0120】
(実施例3)
CHDAの仕込み量を11.3gから10.3g(0.090モル)に、14BACの仕込み量を0.140gから1.42g(0.010モル)に、DMAcの仕込み量を223gから224gに変更する以外は実施例1と同様に、ポリアミド酸溶液を作製した。得られたポリアミド酸溶液のワニス物性(η)、および上記フィルム作成方法に従って得られたフィルムの各物性(Tg、T%@365nm、b*、Total T、TS、EL)を表1にまとめる。
【0121】
(実施例4)
CHDAの仕込み量を11.3gから9.14g(0.080モル)に、14BACの仕込み量を0.140gから2.84g(0.020モル)に、DMAcの仕込み量を223gから226gに変更する以外は実施例1と同様に、ポリアミド酸溶液を作製した。得られたポリアミド酸溶液のワニス物性(η)、および上記フィルム作成方法に従って得られたフィルムの各物性(Tg、T%@365nm、b*、Total T、TS、EL)を表1にまとめる。
【0122】
(実施例5)
CHDAの仕込み量を11.3gから5.71g(0.050モル)に、14BACの仕込み量を0.140gから7.11g(0.050モル)に、DMAcの仕込み量を223gから230gに変更する以外は実施例1と同様に、ポリアミド酸溶液を作製した。得られたポリアミド酸溶液のワニス物性(η)、および上記フィルム作成方法に従って得られたフィルムの各物性(Tg、T%@365nm、b*、Total T、TS、EL)を表1にまとめる。
【0123】
(比較例1)
ジアミンとして14BACを用いずに、CHDAの仕込み量を11.3gから11.4g(0.100モル)に、DMAcの仕込み量を223gから224gに変更する以外は実施例1と同様に、ポリアミド酸溶液を作製した。得られたポリアミド酸溶液のワニス物性(η)、および上記フィルム作成方法に従って得られたフィルムの各物性(Tg、T%@365nm、b*、Total T、TS、EL)を表1にまとめる。
【0124】
(比較例2)
ジアミンとしてCHDAを用いずに、14BACの仕込み量を0.140gから14.2g(0.100モル)に、DMAcの仕込み量を223gから238gに変更する以外は実施例1と同様に、ポリアミド酸溶液を作製した。得られたポリアミド酸溶液のワニス物性(η)、および上記フィルム作成方法に従って得られたフィルムの各物性(Tg、T%@365nm、b*、Total T、TS、EL)を表1にまとめる。
【0125】
(比較例3)
DMAcの仕込み量を224gから189gに、ODPA31.0gを3,3',4,4'−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物(DSDA)35.8g(0.100モル)に変更する以外は、比較例1と同様に、ポリアミド酸溶液を作製した。得られたポリアミド酸溶液のワニス物性(η)、および上記フィルム作成方法に従って得られたフィルムの各物性(Tg、T%@365nm、b*、Total T、TS、EL)を表1にまとめる。
【0126】
(比較例4)
DMAcの仕込み量を238gから200gに、ODPA31.0gをDSDA35.8g(0.100モル)に変更する以外は、比較例2と同様に、ポリアミド酸溶液を作製した。得られたポリアミド酸溶液のワニス物性(η)、および上記フィルム作成方法に従って得られたフィルムの各物性(Tg、T%@365nm、b*、Total T、TS、EL)を表1にまとめる。
【0127】
(比較例5)
DMAcの仕込み量を224gから231gに、ODPA31.0gを3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)29.4g(0.100モル)に変更する以外は、比較例1と同様に、ポリアミド酸溶液を作製した。得られたポリアミド酸溶液のワニス物性(η)、および上記フィルム作成方法に従って得られたフィルムの各物性(Tg、T%@365nm、b*、Total T、TS、EL)を表1にまとめる。
【0128】
(比較例6)
DMAcの仕込み量を238gから247gに、ODPA31.0gを3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)29.4g(0.100モル)に変更する以外は、比較例2と同様に、ポリアミド酸溶液を作製した。得られたポリアミド酸溶液のワニス物性(η)、および上記フィルム作成方法に従って得られたフィルムの各物性(Tg、T%@365nm、b*、Total T、TS、EL)を表1にまとめる。
【0129】
(B)ポリアミド酸溶液の混合
(実施例6)
温度計、攪拌機、窒素導入管を備えた200mLの5口セパラブルフラスコに、撹拌条件下、比較例1で得たポリアミド酸溶液(CHDA/14BAC比率が100/0、濃度16wt%)50.4gと、比較例2で得たポリアミド酸溶液(CHDA/14BAC比率が0/100、濃度16wt%)2.83gとを加え混合溶液を作製した。混合溶液中のCHDA/14BAC比率(すなわち、m/n)は95/5である。該混合溶液を60℃に保持したオイルバス中で1時間、さらに室温で12時間撹拌した。得られた混合溶液のワニス物性(η)、および上記フィルム作成方法に従って得られたフィルムの各物性(Tg、T%@365nm、b*、Total T、TS、EL)を表1にまとめる。
【0130】
(実施例7)
比較例1で得たポリアミド酸溶液の仕込み量を50.4gから48.3gに、比較例2で得たポリアミド酸溶液の仕込み量を2.83gから5.09g変更する以外は、実施例6と同様に混合溶液を作製した。得られた混合溶液のワニス物性(η)、および上記フィルム作成方法に従って得られたフィルムの各物性(Tg、T%@365nm、b*、Total T、TS、EL)を表1にまとめる。なお得られた混合液中のCHDA/14BAC比率(すなわち、m/n)は91/9である。
【0131】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0132】
本発明により得られるポリイミドは、耐熱性および無色透明性に優れるだけでなく、柔軟性、および紫外線透過性、特に長波長の紫外線(例えば365nmの紫外線)の透過性に優れるため、フレキシブルディスプレイ用基板、フレキシブル回路基板などの電気・電子材料用途、光学材料用途などの種々の用途に有用である。