(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係るラクターゼ溶液は、ラクターゼ及び当該ラクターゼ溶液に含まれるラクターゼその他のタンパク質の凝集を防ぐ凝集阻害剤を必須的に含み、安定剤等の添加剤を任意で含有する。以下、(1)ラクターゼ溶液の構成成分、(2)ラクターゼ溶液の組成(特に凝集阻害剤の濃度)、(3)ラクターゼ溶液の性質、(4)ラクターゼ溶液の製造方法、(5)ラクターゼ溶液の使用方法・用途、の順で説明する。
【0015】
≪ラクターゼ溶液の構成成分≫
<ラクターゼ>
(原料生物の種類)
ラクターゼは、微生物を含む、非常に広範囲の生物から単離されている。ラクターゼは、多くの場合、KluyveromycesやBacillusのような微生物の細胞内または細胞外成分である。Kluyveromyces、特にK.fragilis及びK.lactis、並びに、Candida属、Torula属及びTorulopsis属の酵母などは、酵母酵素ラクターゼの一般的なソースであり、一方、B.coagulans又はB.circulansは細菌ラクターゼのよく知られたソースである。それらの生物に由来するラクターゼ調製物がいくつか商業的に入手可能である。これらラクターゼは全て、最適pHがpH=6〜pH=8であるため、所謂、中性ラクターゼである。また、Aspergillus nigerやAspergillus oryzae、Penicillium multicolorは、細胞外ラクターゼを産生し、米国特許第5,736,374号明細書には、Aspergillus oryzaeにより産生された、そのようなラクターゼの例が記載されている。最適pHや最適温度などのラクターゼの酵素特性は種によって変化する。一般に、細胞外ラクターゼは、最適pHがpH=3.5〜pH=5.0と低い、所謂、酸性ラクターゼである。
本発明においては、中性ラクターゼならびに酸性ラクターゼを使用することが好ましく、特にKluyveromyces属由来の中性ラクターゼならびにAspergillus属由来の酸性ラクターゼを使用することが好ましい。
【0016】
(ラクターゼの製法)
本発明に使用されるラクターゼは、従来の一般的な方法で微生物から回収され、精製されたものであることができる。本発明に使用されるラクターゼは、細胞内ラクターゼ、又は細胞外ラクターゼのどちらであってもよい。前者の場合、ラクターゼは、通常、微生物の細胞質に由来する。細胞内ラクターゼ溶液の製造の具体的方法としては、例えば、まず微生物の培養を行った後、ラクターゼを分離する方法が挙げられる。これには、細胞質から酵素を放出させるために細胞壁の破壊を必要とする。細胞の溶解には、オクタノールなどの有機溶媒による細胞壁の透過化、超音波分解又はフレンチプレッシング等の技術が使用される。溶解した細胞から公知の方法でラクターゼを分離・回収することができる。後者の場合には、前記細胞壁の破壊を必要とせず、例えば培養後、遠心分離又はろ過によって、培養液中の細胞を取り出すことができる。発酵が停止した後又は細胞の取り出し後、培養液からラクターゼを回収する。いずれの場合も、さらに、従来の手段によってラクターゼを精製及び単離することができる。
【0017】
<凝集阻害剤I>
本発明のラクターゼ溶液は、当該ラクターゼ溶液に含まれるラクターゼその他のタンパク質の凝集を防ぐ凝集阻害剤を含む。本発明において使用される好適な凝集阻害剤は、(タイプ1)HLB12〜15の界面活性剤、(タイプ2)脂肪親和性界面活性剤、(タイプ3)ノニオン性脂肪親和性界面活性剤、(タイプ4)ノニオン性界面活性剤、(タイプ5)天然物系界面活性剤、である。より好適には、HLB12〜15のノニオン性界面活性剤である。このような凝集阻害剤が系に存在することで、タンパク質の疎水性相互作用が低下又は防止される結果、長時間の撹拌や振とう等でも凝集による目詰まり物質の形成が防止できると理解される。水系溶液中における乳化安定性ならびに疎水性物質の分散効果の高さの点でHLB12〜15の界面活性剤が望ましい。以下、これら界面活性剤について詳述する。なお、これらタイプは、物性や由来等で分けたものであり、あるタイプに属している成分が別のタイプに属する場合もある。また、同一種の界面活性剤を複数組み合わせて使用しても、或いは、異なる種の界面活性剤を複数組み合わせて使用してもよい。
【0018】
(タイプ1)
まず、HLB12〜15の界面活性剤における「HLB」は、グリフィン法により算出された値とする。また、より好適なHLBは13〜15である。タイプ1の界面活性剤としては、アニオン性界面活性剤及び両性イオン界面活性剤の他、後述するノニオン性界面活性剤を使用することができる。
【0019】
(タイプ2)
次に、脂肪親和性界面活性剤としては、例えば、アルコール、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、脂肪酸、胆汁酸、グリセリン脂肪酸エステル、アセチル化グリセリン脂肪酸エステル、低級アルコール脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリエチレングリコールグリセリン脂肪酸エステル、ポリプロピレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリド、モノ/ジグリセリドの乳酸誘導体、プロピレングリコールジグリセリド、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロックコポリマー、トランスエステル化された植物油、ステロール、ステロール誘導体、糖エステル、糖エーテル、スクログリセリド(sucroglyceride)、ポリオキシエチレン植物油、ポリオキシエチレン硬化植物油、多価アルコールと、脂肪酸、グリセリド、植物油、硬化植物油、及びステロールからなる群の少なくとも一つの要素との反応混合物、ならびに、それらの混合物を挙げることができる。
【0020】
(タイプ3)
また、ノニオン性脂肪親和性界面活性剤としては、例えば、アルキルグルコシド、アルキルマルトシド、アルキルチオグルコシド、ラウリルマクロゴールグリセリド、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェノール、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリエチレングリコールグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロックコポリマー、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリド、ポリオキシエチレンステロール、それらの誘導体及び類似体、ポリオキシエチレン植物油、ポリオキシエチレン硬化植物油、多価アルコールと、脂肪酸、グリセリド、植物油、硬化植物油、及びステロールからなる群の少なくとも一つの要素との反応混合物、トコフェロールポリエチレングリコールサクシネート、糖エステル、糖エーテル、スクログリセリド、ならびにそれらの混合物を挙げることができる。
【0021】
(タイプ4)
更に、ノニオン性界面活性剤としては、Brij35、ポリオキシエチレン(20)セチルエーテルのようなn-アルキルPEOモノエーテル、Lubrol PX、Lubrol WX、nonidet P-40、オクチルフェノールポリ(エチレングリコールエーテル)n10及びオクチルフェノールポリ(エチレングリコールエーテル)n7のようなn-アルキルフェニルPEO、テトラメチルブチルフェニルPEO、n-オクチルグルコシド、オクチル-チオグルコピラノシド、tween-85、tween-80、tween-65、tween-60、tween-40、及びtween-20、ならびにアルキルアリールポリエーテルアルコール(TritonX-100)、ポリエチレングリコールtert-オクチルフェニルエーテル(TritonX-114)を挙げることができる。
【0022】
(タイプ5)
また、天然物由来界面活性剤としては、ショ糖脂肪酸エステル、ポリエチレン脂肪酸エステル、レシチン、リゾレシチン、キラヤサポニンを挙げることができる。
【0023】
これらのうち、最も好適な凝集阻害剤Iは、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(例えばポリソルベート80)、アルキルアリールポリエーテルアルコール(例えばTritonX−100)及びグリセリン脂肪酸エステルからなる群より選択される少なくとも1種である。
【0024】
<凝集阻害剤II>
本発明のラクターゼ溶液に含まれるラクターゼその他のタンパク質の凝集を防ぐ凝集阻害剤として、ラクターゼその他のタンパク質の表面を覆う作用を有する保護剤を使用することができる。保護剤としては、ポリエーテル及び増粘多糖類を使用することができる。
【0025】
ポリエーテルとしては、アルキレンの炭素数が2〜8であるポリアルキレングリコール(例えば、ポリオキシプロピレン誘導体、ポリエチレングリコール)等が挙げられる。水和性が高く、極めて柔軟な構造骨格を有することで、タンパク質を効率的に保護するという理由から、ポリアルキレングリコールの中でも、ポリエチレングリコールが好適である。ポリエチレングリコールの数平均分子量としては、200〜4000000が好適であり、より好適には、400〜20000である。
【0026】
ポリエーテルも親水性の部位と疎水性の部位を持つことから、ラクターゼ溶液に含まれるラクターゼその他のタンパク質の疎水性相互作用を防止できる結果、目詰まり物質の形成に対し低減効果を有するものと理解される。また、同一種のポリエーテルを複数組み合わせて使用しても、或いは、異なる種のポリエーテルを複数組み合わせて使用してもよい。
【0027】
増粘多糖類としては、ジェランガム、カラギナン、キサンタンガム、ローカストビーンガム、グアーガム、ペクチン、寒天、ゼラチン、アラビアガム、グルコマンナン、タラガム、プルラン、タマリンド種子多糖類、トラガントガム、カラヤガム、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、マクロホモプシスガム、コーンスターチ、タピオカ澱粉などの澱粉、デキストリン及びシクロデキストリンを使用することができる。
【0028】
<凝集阻害剤III>
更に、ラクターゼ溶液に含まれるラクターゼその他のタンパク質の凝集を防ぐ凝集阻害剤として、塩溶効果を有する金属イオン又はその塩が挙げられる。ラクターゼ溶液において適切なイオン強度を得やすいという理由から、金属イオンの中でも、グアニジウムイオン、カルシウムイオンもしくはMgイオン又はそれらの塩が好適である。
【0029】
金属イオン又はその塩を添加することで、溶液のイオン強度が適切になり、ラクターゼ溶液に含まれるラクターゼその他のタンパク質のタンパク質間の疎水性相互作用が減少する。その結果、タンパク質が凝集しにくくなり目詰まり物質の形成に対し低減効果を有するものと理解される。また、同一種の金属イオン又はその塩を複数組み合わせて使用しても、或いは、異なる種の金属イオン又はその塩を複数組み合わせて使用してもよい。
【0030】
これら、凝集阻害剤I〜IIIは、単独で使用してもよく、異なる種の凝集阻害剤を組み合わせて使用してもよい。例えば、凝集阻害剤I及びII、凝集阻害剤II及びIII、凝集阻害剤I及びIII、並びに、凝集阻害剤I、II及びIIIを併用してもよい。また、凝集阻害剤IIIは単独では効果がわずかであることから凝集阻害剤I及びIII、並びに、凝集阻害剤II及びIIIを併用することが好ましい。
【0031】
<任意成分>
本発明のラクターゼ溶液は、必要に応じ、各種成分を含有していてもよい。具体例としては、ラクターゼの安定化に寄与する金属塩類、各種糖類、アスコルビン酸、グリセリン等、使い勝手をよくするための賦形剤である澱粉、デキストリン、緩衝作用を有する無機塩類等を挙げることができる。
【0032】
≪ラクターゼ溶液の組成(特に凝集阻害剤の量)≫
<凝集阻害剤I>
凝集阻害剤Iは、ラクターゼ溶液に、ラクターゼ溶液の全質量を基準として、好適には0.001質量%〜5質量%の範囲、より好適には0.01質量%〜1質量%、更に好適には0.1質量%〜0.5質量%の範囲で添加することができる。
【0033】
<凝集阻害剤II>
凝集阻害剤IIは、ラクターゼ溶液に、ラクターゼ溶液の全質量を基準として、好適には0.05質量%〜15質量%の範囲、より好適には0.3質量%〜10質量%の範囲、更に好適には0.5質量%〜5質量%の範囲で添加することができる。
【0034】
<凝集阻害剤III>
凝集阻害剤IIIは、ラクターゼ溶液中において、金属成分として、0.1mM以上20mM以下の濃度であることが好ましく、0.25mM以上15mM以下の濃度であることがより好ましく、0.5mM以上10mM以下の濃度であることが更に好ましく、1mM以上5mM以下ののうどであることが最も好ましい。塩溶効果の高い順にグアニジウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオンとなる。マグネシウムイオンはより高い濃度が必要となるが、グアニジウムイオン及びカルシウムイオンはそれより低い濃度でよい。
【0035】
≪ラクターゼ溶液の性質≫
<ラクターゼ活性>
本発明のラクターゼ溶液は、10〜100,000NLU/gの中性ラクターゼ活性を有することが望ましく、100〜90,000NLU/gの活性を有することがより望ましく、1,000〜80,000NLU/gの活性を有することがさらに望ましい。「NLU」はNeutral Lactase Unitである。活性の測定方法は例えば、以下のとおりである。基質o−ニトロフェニル−β−ガラクトピラノシド(ONPG)を、o−ニトロフェニル及びガラクトースにする加水分解によって測定される。反応は、炭酸ナトリウムの添加によって終了する。形成されたo−ニトロフェニルは、アルカリ媒体中で黄色になり、吸光度の変化が酵素活性(NLU/gで表される)を測定するのに使用される。この手順は、米国食品化学物質規格集(FCC; Food Chemicals Codex)第4版、1996年7月1日、第801〜802頁/ラクターゼ(中性)(β-ガラクトシダーゼ)活性で、公表されている。
本発明のラクターゼ溶液は、10〜100,000ALU/gの酸性ラクターゼ活性を有することが望ましく、100〜90,000ALU/gの活性を有することがより望ましく、1,000〜80,000ALU/gの活性を有することがさらに望ましい。「ALU」はAcid Lactase Unitである。活性の測定方法は例えば、以下のとおりである。基質o−ニトロフェニル−β−ガラクトピラノシド(ONPG)を、o−ニトロフェニル及びガラクトースにする加水分解によって測定される。反応は、炭酸ナトリウムの添加によって終了する。形成されたo−ニトロフェニルは、アルカリ媒体中で黄色になり、吸光度の変化が酵素活性(ALU/gで表される)を測定するのに使用される。この手順は、米国食品化学物質規格集(FCC; Food Chemicals Codex)第4版、1996年7月1日、第802〜803頁/ラクターゼ(酸性)(β-ガラクトシダーゼ)活性で、公表されている。
本発明のラクターゼ溶液は、中性ラクターゼ溶液であってもよいし、酸性ラクターゼ溶液であってもよいし、両者が混合された中性〜酸性で作用するラクターゼ溶液であってもよい。
【0036】
<撹拌後の透過速度(相対値)>
本発明のラクターゼ溶液は、5,000NLU/g又は10,000ALU/gの活性となる濃度で100rpm、10℃で16時間撹拌処理した後、下記条件にて測定した透過試験開始直後(20g透過時)の透過速度(Flux)を100%とし、試験終了時(180g透過時)の透過速度がどの程度減少したかを算出することによって判断することができる。透過試験終了時の透過速度は高いほど好ましいが、10%以上であることが好ましく、20%以上であることがより好ましく、30%以上であることがさらに好ましい。上限値は例えば、75%である。
ラクターゼ溶液の活性はイオン交換水にて希釈するか又は限外ろ過濃縮することで調節することが可能である。
<撹拌後の透過速度(絶対値)>
本発明のラクターゼ溶液は、5,000NLU/g又は10,000ALU/gの活性となる濃度で100rpm、10℃で16時間撹拌処理した後に、下記条件にて測定したフィルター透過速度が5kg/min×m
2以上であることを特徴とする。このフィルター透過速度は、好ましくは8kg/min×m
2以上、さらに好ましくは10kg/min×m
2以上であり、最も好ましくは20kg/min×m
2以上である。
【0037】
<目詰まり現象の再現条件>
ラクターゼのフィルター目詰まり現象は、ラクターゼ溶液に往復振とう又は撹拌操作を行うことで再現することができる。往復振とう又は撹拌操作を行う時間は、加温温度及びラクターゼ溶液に含まれる活性値にもよるが、30分〜7日間の間で設定すればよく、1時間〜6日間であることが好ましく、2時間〜5日間であることがより好ましい。往復振とう又は撹拌操作を行っているときに、ラクターゼ溶液に加温をすることで目詰まり現象を促進させることができる。
ラクターゼ溶液の往復振とうは10spm(往復/分)〜300spm(往復/分)であることが好ましく20spm(往復/分)〜250spm(往復/分)であることがより好ましく、30spm(往復/分)〜200spm(往復/分)であることがさらに好ましい。
ラクターゼ溶液の撹拌操作は10rpm(回転/分)〜300rpm(回転/分)であることが好ましく、20rpm(回転/分)〜250rpm(回転/分)であることがより好ましく、30rpm(回転/分)〜200rpm(回転/分)であることがさらに好ましい。
ラクターゼ溶液の加温温度は、5℃〜70℃程度であることが好ましく、6℃〜65℃であることがより好ましく、7℃〜60℃であることがさらに好ましい。温度が高くなるにつれて、目詰まり現象が生じやすくなる。
ラクターゼ溶液のラクターゼ活性は、10〜100,000NLU/gまたは、10〜100,000ALU/gの範囲であればよい。活性値が高くなるほど、目詰まり現象が生じやすくなる。
【0038】
<フィルター透過性試験1>
フィルター透過性は、低温環境下で、一定のラクターゼ活性になるようにラクターゼ含量を調整した検体を、所定の膜面積を有する所定のフィルターを加圧して透過させ、その速度を測定することで評価することができる。具体的には、例えば、以下のようにして実施することができる。
(フィルター透過性測定手順)
以下の操作は低温から室温(例えば、1〜30℃、好ましくは4〜15℃、より好ましくは8〜12℃)環境下で実施する。
1.測定装置等の温度
測定装置、ラクターゼ溶液サンプル及びイオン交換水を低温から室温(例えば、1〜30℃、好ましくは4〜15℃、より好ましくは8〜12℃)に冷却する。
2.ラクターゼ液の調製
ラクターゼ溶液サンプルを、イオン交換水にて希釈するか又は限外ろ過濃縮することで、ラクターゼ活性を一定に調整し、よく混ぜ合わせる。なお、ラクターゼ活性は、ラクターゼ溶液の粘度によっては10〜2,000NLU/gまたは10〜4,000ALU/g程度のいずれに調整してもよい。
3.試験装置の構成
試験装置としては、加圧することのできるタンク付きのフィルターホルダーを測定サンプル導入部として、さらに、別のフィルターホルダーを連結して使用することができる。タンク付きのフィルターホルダーは、単独でも使用可能であるが、フィルターが目詰まりする条件を得るためには、前者が好適であり、その直径(φ)は、連結するフィルターホルダーよりそのφが大きいことが好ましい。
一般的には、フィルターホルダー内のサンプル透過部分は、測定サンプルの入り口側から0−リング、メンブレン、サポートスクリーンを備えた構成が一般的であるが、これに限定されるものではない。メンブレンとしては、特に限定されないが、その孔径が0.05〜0.50μmのものが好ましく、0.1〜0.45μmのものがさらに好ましい。また、親水性のものであっても、疎水性のものであってもよい。より好ましくは、親水性のものである。φは有効膜面積を調整可能な大きさであれば特に限定されない。有効膜面積は、液不透過性のラベルシール等によって調節することができ、例えば、0.5〜1.8cm
2好ましくは、1.0〜1.5cm
2である。
4.2.において希釈したラクターゼ溶液サンプル(以後サンプルと略記する)を、測定サンプル導入部へ投入する。
5.窒素ガス(空気、酸素、アルゴン等でも可)を用いて、0.1〜1MPa、好ましくは0.2MPaの圧力をタンク付フィルターホルダーに付加し、所定量(例えば10〜30g)、好ましくは20gのサンプル透過毎の経過時間を記録する。
【0039】
(目詰まり抑制効果の判定)
上記フィルター透過性測定手順に従って、ラクターゼ溶液として従来のラクターゼ溶液(凝集阻害剤不含有)を使用すると、透過試験終了時の透過速度が大きく減少する。この従来のラクターゼ溶液の透過速度より大きい場合に凝集阻害剤として添加した物質には目詰まり抑制効果ありと判断することができる。
【0040】
≪ラクターゼ溶液の製造方法≫
本発明のラクターゼの具体的製造方法は、詳細については上述した通りであり、ここでの記載は省略するが、例えば、(1)酵母の培養を行った後の、細胞壁の破壊を伴うラクターゼの抽出工程と、(2)当該抽出したラクターゼから、培養物由来の夾雑物等を除去するための精製工程と、を含む。本発明のラクターゼ溶液の製造方法は、(3)上記のラクターゼ(直前に調製したものでも市販品でもよい)に、凝集阻害剤(+必要に応じて他の添加剤)を添加する工程と、(4)滅菌のためにろ過する工程と、を含む。
【0041】
≪ラクターゼ溶液の使用方法・用途≫
(ラクターゼ溶液の使用方法)
ラクターゼ溶液の具体的な利用形態としては、例えば、発酵乳の製造において用いられる。乳糖分解した発酵乳の製造方法は、1.殺菌前の乳にラクターゼを添加して乳糖の分解を行なった後、乳の加熱殺菌と同時にラクターゼを失活させてから乳を発酵させる方法(特開平5−501197号公報)、2.殺菌乳にラクターゼを添加して乳糖の分解を行なった後、加熱処理によってラクターゼを失活させてから乳を発酵させる方法、3.固定化したラクターゼで乳中の乳糖を分解した後、乳を発酵させる方法(特開昭46−105593号公報、特開昭59−162833号公報)、4.予め乳糖分解もしくは乳糖除去した原材料を殺菌乳に用いて発酵させる方法等がある。
【0042】
さらに、本発明のラクターゼ溶液の具体的な利用形態として、ロングライフミルクの製造において用いられる。ロングライフミルクは、長期保存牛乳のことで、製造工程は滅菌工程と連続式無菌包装工程からなっており、一般的には、135〜150℃数秒間の超高温短時間滅菌法で処理され、あらかじめ過酸化水素で滅菌した紙容器を無菌包装できる工程で充填される。
ロングライフミルクに添加されるラクターゼ溶液は、一般的に超高温短時間滅菌後の牛乳を充填する際、濾過滅菌の後に添加される。
【0043】
(ラクターゼ溶液の用途)
本発明に係るラクターゼ溶液は、乳製品製造用として特に適している。ここで、乳製品とは、アイス、ロングライフミルク等の牛乳類、ヨーグルト、生クリーム、サワークリーム、チーズ等をいう。特に、本発明に係るラクターゼ溶液は、ロングライフミルクの製造用に適している。
【0044】
(ラクターゼの用途とそのpHプロファイル)
また、ラクターゼの用途を考える場合には、中性ラクターゼであるか、又は酸性ラクターゼであるかにより大きく2つに大別される。これは、用途におけるpHプロファイルに依るものである。中性pHの用途では、通常、中性ラクターゼが好ましく、酸性ラクターゼは、酸性範囲の用途により適しているといえる。
【0045】
ここで、前述のフィルター透過性試験1は、ラクターゼ溶液のみならず、タンパク質、ペプチドにも適用することが可能である。後述するように、分子中の疎水性部分同士が接して付着することにより、凝集物が形成されると考えられるからである。
以下、このようなフィルター透過性の試験について詳述する。
【0046】
本試験方法は、
第一の径を有する第一の円筒状流路と、
前記第一の径よりも小さい第二の径を有し、前記第一の円筒状流路と流体導通可能に連結され且つ前記第一の円筒状流路の下流に配された、第二の円筒状流路と、
前記第二の円筒状流路の、前記第一の円筒状流路とは反対側の開口部に配置されたメンブレンフィルターと、
を有するユニットを用いた、
液体の単位面積当たりの透過量(permeate(kg/m
2))及び/又は透過速度(flux(kg/min×m
2))の変化を測定することにより、目詰まりを評価する試験方法であって、
前記測定方法は、
測定対象の液体を加圧し、当該液体を、前記第一の円筒状流路及び前記第二の円筒状流路を介し、前記メンブレンフィルターから当該ユニットの外部に排出させる工程を有し、且つ
前記ユニットは、
前記メンブレンフィルターの下流側且つ前記メンブレンフィルターと近接した位置に設けられたサポートスクリーンと、
前記サポートスクリーン上の、前記メンブレンフィルター側に貼付された一又は複数のシール材であって、前記一又は複数のシール材の総面積が前記メンブレンフィルターの面積よりも小さい、液体不透性シール材とを有し、前記メンブレンフィルターと前記液体不透性シール材とは接触状態にあることを、
特徴とする目詰まりを評価する試験方法である。
【0047】
本試験方法によれば、メンブレンフィルターによる目詰まりの現象を再現することができ、簡易にその対策等の検証試験を実施することができる。
【実施例】
【0048】
1.目詰まり現象の再現条件の検討
ラクターゼ溶液としてYNL(合同酒精株式会社製商品名:GODO−YNL)を使用して、目詰まりが起こる条件を調べた。なお、使用したGODO−YNLは、Kluyveromyces由来の中性ラクターゼであり、活性は5,000NLU/gであった。
【0049】
(往復振とう処理)
200gのYNLを500mlアイボーイ(広口(アズワン社製、品番7-2102-03))に入れ、10、20、又は30℃において、振とう装置(大洋科学工業株式会社製、製品名TAIYO INCUBATOR PERSONAL、振幅3cm)を用いて、0、2、4又は7日間往復振とう(100spm(往復/分)))又は静置した。各YNLをそれぞれ40g計り取り、イオン交換水で5倍希釈することにより活性を1,000NLU/gに調整したものをサンプルとして、フィルター透過性を測定した。
【0050】
(フィルター透過性試験)
上述したフィルター透過性試験1の本実施例における詳細な条件について以下に詳述する。
(フィルター透過性測定手順)
以下の操作は10℃の環境下で実施した。
1.測定装置、ラクターゼ溶液サンプル及びイオン交換水を10℃に冷却した。
2.ラクターゼ溶液サンプルを、イオン交換水にて希釈するか又は限外ろ過濃縮することで、ラクターゼ活性を1,000NLU/gに調整し、よく混ぜ合わせた。
3.試験には、47mmタンク付ステンレスホルダー(アドバンテック東洋社製、製品名「KST−47」)に25mmステンレススチール製フィルターホルダー(PALL社製、製品番号1209(有効膜面積3.7cm
2))を連結させたものを装置として用いた。前記フィルターホルダー内のサンプル透過部分は、測定サンプルの入り口側からO-リング、メンブレン、サポートスクリーンを備えた構成となっている(本発明の試験においては、タンク付きステンレスホルダーのフィルター及びフィルター保持部分のパーツ(サポートスクリーンとその支持体)は非装着とした)。メンブレンとしてMerck Millipore社製、製品名DURAPORE (孔径0.22mm,φ25mm、親水性PVDF製)を使用し、サポートスクリーンとして上記フィルターホルダー付属のType 316 ステンレススチールを使用した。また、透過速度を調節するために、サポートスクリーンの上部(測定サンプルの入り口側)に、直径0.9cmの円形のラベルシール(エーワン株式会社製、製品名 A-oneカラーラベル07010)を4枚左右対称となるよう貼り付け(有効膜面積1.26cm
2)、メンブレンフィルター(孔径0.22μm)をセットした。メンブレンは、50%グリセリン水溶液にてリンスし、ステンレス製フィルターホルダーに取り付けた。
4.2.において希釈したラクターゼ溶液サンプル(サンプル)を、タンク付ステンレスホルダーへ投入した。
5.窒素ガスを用いて0.2MPaの圧力をタンク付ステンレスホルダーに付加し、20g透過毎の経過時間を記録した。この結果から、膜1m
2換算あたりの透過量(permeate(kg/m
2))と透過速度(flux(kg/min×m
2))を以下の方法で求めた。
【0051】
計算式(概念式)
Permeate(kg/m
2)= n点の透過量(g)/(膜半径(mm)×膜半径(mm)×円周率)(m
2)×1000
Flux(kg/min×m
2)= (n点のpermeate-(n-1)点のpermeate)/(n点の透過時間(min)-(n-1)点の透過時間(min))
※nは測定点を示す。20g透過毎の経過時間を記録するため、例えば、n点が20g透過時の透過量又はpermeateである場合、(n-1)点は0g透過時の透過量又はpermeateである。
【0052】
結果を
図1に示す。パネルAは10℃、パネルBは20℃、及びパネルCは30℃で、それぞれ静置又は往復振とうした結果を表す。各温度において、静置したサンプルは、静置日数にかかわらずいずれも透過速度の低下が小さいのに対し、往復振とうしたサンプルの透過量は、振とう日数が長いほど急速に透過速度が低下しており、20℃又は30℃で7日間振とうしたサンプルは、目詰まりのため測定できなかった。したがって、目詰まりは主に往復振とう処理により凝集物が形成されることによって引き起こされたと考えられる。一方、20℃往復振とうサンプル、30℃往復振とうサンプルにおいて、2日目以降は若干の濁りが見られたが、静置サンプルには濁りは見られなかった。しかし、往復振とうサンプル及び静置サンプルの両方において、温度が高いほど透過量が低下する傾向が見られた。温度の上昇は、振とうにより生じる凝集物の形成を加速することが見出された。
【0053】
ラクターゼ活性は、パネルDに示すように、各温度において振とう又は静置した場合において、ほとんど変化しなかった。したがって、目詰まりを生じさせる凝集物の形成は、ラクターゼ活性にはほとんど影響しないことがわかった。
【0054】
さらに、往復振とうではなく、撹拌によって同様の現象が観察されるかどうかを調べた。50gのYNLを100mlビーカーに入れ、10℃で16時間、撹拌装置(アズワン社製、商品名HS-400)を用いて各速度(撹拌速度最小:100rpm、速度2:170rpm、速度3:240rpm、速度4:310rpm)で撹拌した。その後、上記と同様にしてサンプルを調製し、上記のフィルター透過性試験と同様にしてフィルター透過性を測定した。
【0055】
結果を
図2に示す。処理を行なわないものに比較して、撹拌操作による有意な透過性悪化が認められた。
【0056】
以上の結果から、振とう又は撹拌のような物理的刺激が目詰まりを生じさせる凝集物の形成の主な原因であることが明らかになった。したがって、ラクターゼ溶液製造後の輸送中に生じる振動などによっても凝集物が形成されると考えられる。
なお、図示していないが、ラクターゼ溶液に含まれる多糖類及びオリゴ糖類の含有量を10g/kg未満にしたもの、及び10g/kg超にしたものを用いて、上記の撹拌処理を行ったところ、いずれのラクターゼ溶液においても凝集物が同程度形成されることを確認した。すなわち、凝集物の発生には、ラクターゼ溶液に含まれる多糖類及びオリゴ糖類の影響はほとんどないことが示唆された。
【0057】
以下の検討においては、目詰まり現象を生じさせる凝集物形成の再現条件を100rpm、10℃、16時間の撹拌条件にて実験を行った。
【0058】
2.凝集物の形成を阻害する物質の探索
振とうや温度によって目詰まり物質(凝集物)が生じるメカニズムは、明らかではないが、一応、以下のように考えられる。振とうなどの物理的刺激によってタンパク質分子とタンパク質分子とが衝突する。その際に、分子中の疎水性部分同士が接して付着することにより、凝集物が形成される。したがって、本発明者らは、疎水性相互作用を低減させることができる成分を添加することにより、目詰まりを生じる凝集物の形成を防ぐことができる可能性があると考え、種々の成分の添加の効果を調べた。
【0059】
2−1.界面活性剤
界面活性剤としては、Tween80(HLB15.0)、TritonX−100(Tx100、HLB13.5)及びリョートーポリグリエステル(HLB12.0)を添加剤として、それぞれ0.1質量%の濃度でYNL(100mlビーカー中、50g)に添加し、撹拌処理により、目詰まり現象を生じさせる凝集物を形成させた。その後、上記と同様にしてサンプルを調製し、上記フィルター透過性試験により、フィルター透過性を測定した。添加剤を添加せずに撹拌処理したものをコントロールとして同様にフィルター透過性を測定した。結果を
図3に示す。添加した物質のうち、TritonX−100及びTween80は凝集阻害剤として特に有効であった。
【0060】
ここで、具体的な目詰まりの判定は、試験開始直後(20g透過時)のFluxから、試験終了時(180g透過時)に何%まで低下したか(180g透過時の相対透過速度(%))を算出し判断する。添加剤の目詰まり抑制効果の判定は、上記計算結果がコントロール(5.8%)より大きい場合に効果ありといえる。撹拌を行わないサンプルの計算値は約75%であるので、この数値を最大値とし、35%以上のものを◎、10〜35<のものを○、0〜10<のものを×、200g透過不能のものを××と評価する。結果を表1に示す。
【0061】
【表1】
【0062】
2−2.ポリアルキレングリコール
ポリアルキレングリコールとしては、ポリエチレングリコール(PEG200(和光純薬工業株式会社製)、PEG400(関東化学株式会社製)、PEG4000(関東化学株式会社製)、PEG6000(関東化学株式会社製)、PEG200000(和光純薬工業株式会社製))を添加剤として、0.5質量%とした以外は、界面活性剤と同様にフィルター透過性を測定した。結果を
図4及び表2に示す。
【0063】
【表2】
【0064】
2−3.金属イオン又はその塩
金属イオン又はその塩としては、MgSO
4を金属成分として、所定の濃度となるように添加した以外は、界面活性剤と同様にフィルター透過性を測定した。結果は、後述する添加濃度の検討と共に、
図7及び表6に示す。
【0065】
3‐1.添加濃度の検討(界面活性剤)
上記の実験で特に有効であったTritonX−100及びTween80について、添加濃度を変化させて上記と同様の実験を行い、有効な添加濃度を検討した。結果を
図5及び表3に示す。
【0066】
【表3】
【0067】
この実験の条件下では、TritonX−100(パネルA)は0.01〜0.5%の範囲、Tween80(パネルB)は0.05〜0.5%の範囲で効果が認められた。
【0068】
3−2.添加濃度の検討(ポリアルキレングリコール)
ポリアルキレングリコールとして、種々のポリエチレングリコールを用いて、添加濃度を変化させて界面活性剤と同様の実験を行い、有効な添加濃度を検討した。結果を
図6及び表4〜表5に示す。
【0069】
【表4】
【0070】
【表5】
【0071】
3−3.添加濃度の検討(金属塩)
金属塩として、MgSO
4を用いて、添加濃度を変化させて(0.5mM、1mM、5mM)界面活性剤と同様の実験を行い、有効な添加濃度を検討した。結果を
図7及び表6に示す。
【0072】
【表6】
【0073】
なお、図示していないが、ラクターゼ溶液に含まれる多糖類及びオリゴ糖類の含有量を10g/kg未満にしたもの、及び10g/kg超にしたものに、それぞれTritionX−100を0.01%、0.05%及び0.5%含有させたもの及びTween80を0.05%、0.1%及び0.5%含有させたものに対して、上記の撹拌処理を行ったところ、表1及び表2に示すものと同様の傾向を示した。加えて、ポリエチレングリコール各種、Mg塩を加えた場合にも、フィルター透過性の向上に関して、同様の傾向を示した。すなわち、Flux及び相対透過速度には、ラクターゼ溶液に含まれる多糖類及びオリゴ糖類の影響がほとんどないことが示唆された。
【課題】 製剤化後のラクターゼ溶液を乳に添加使用する前のろ過工程におけるろ過装置(フィルター)の目詰まりを低減させる方法、及びろ過装置の目詰まりを起こしにくいラクターゼ溶液の提供。
【解決手段】 5,000NLU/g又は10,000ALU/gの活性となる濃度で100rpm、10℃で16時間撹拌処理した後、1,000NLU/g又は2,000ALU/gの活性となる濃度で孔径0.22μmのメンブレンフィルターに366kg/m