特許第5931356号(P5931356)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5931356
(24)【登録日】2016年5月13日
(45)【発行日】2016年6月8日
(54)【発明の名称】洗濯機
(51)【国際特許分類】
   D06F 37/22 20060101AFI20160526BHJP
【FI】
   D06F37/22
【請求項の数】8
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2011-137299(P2011-137299)
(22)【出願日】2011年6月21日
(65)【公開番号】特開2013-504(P2013-504A)
(43)【公開日】2013年1月7日
【審査請求日】2014年4月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】503376518
【氏名又は名称】東芝ライフスタイル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】特許業務法人 サトー国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】堀田 浩平
(72)【発明者】
【氏名】西村 博司
(72)【発明者】
【氏名】川端 真一郎
【審査官】 村山 睦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−184068(JP,A)
【文献】 特開2010−187976(JP,A)
【文献】 特開2008−281098(JP,A)
【文献】 実開昭62−068044(JP,U)
【文献】 特開平06−074278(JP,A)
【文献】 特開平05−018469(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06F 37/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外郭を形成する筐体内に、回転可能な洗濯槽を内包する水槽をサスペンションを介して防振支持する洗濯機において、
前記サスペンションは、前記筐体と前記水槽との間にダンパ機構を介して上下方向に連結して組み込まれ、
前記ダンパ機構は、筒状のシリンダ、該シリンダ内に離間して組み込まれた軸受部材、前記水槽の振動に応じて往復動し前記軸受部材間に挿通され一端が前記シリンダ外に延出されたシャフト、該シャフト周りに隙間を形成するように前記シリンダ内に配設された磁場発生装置、該磁場発生装置の隙間の両外側端部を封鎖して中空の収容部を形成するように組み込まれたシール部材、前記収容部に充填され前記磁場発生装置を介して磁界が印加されたとき粘性が変化する磁気粘性流体、を備え、
前記磁場発生装置は、磁界を発生するコイルをボビンに巻装してなるコイルユニットと、該コイルユニットの両側部に配設されたヨークとを具備してなり、
前記シャフトが前記シリンダ外に延出する側に位置する一方側の前記シール部材および前記軸受部材が除かれた状態で外部に露呈する一方側の前記ヨークと前記シャフト間に有する隙間に注入部が形成されており、
前記磁気粘性流体は、前記注入部から前記収容部に注入されたものであり
前記収容部内の前記磁気粘性流体は、前記シール部材に挟まれて移動不能となっていることを特徴とする洗濯機。
【請求項2】
一方側のヨークにおいて、シャフトとの間に有する隙間と連通して該シャフトの軸方向に沿って延びる溝状の流体通路を形成し、該流体通路を磁気粘性流体の注入部としたことを特徴とする請求項1記載の洗濯機。
【請求項3】
流体通路は複数個設け、そのうちの少なくとも一つの流体通路を注入部とするとともに、該通路の軸方向の断面積を、他の流体通路の断面積より大きく形成したことを特徴とする請求項2記載の洗濯機。
【請求項4】
流体通路は、他方側のヨークにも設けたことを特徴とする請求項2又は3記載の洗濯機。
【請求項5】
各ヨークの流体通路は、周方向の同じ位置に設けたことを特徴とする請求項4記載の洗濯機。
【請求項6】
ヨークの隙間の外側端部を封鎖して収容部を形成するシール部材は、前記ヨークの内周側端部と当接し封鎖する構成としたことを特徴とする請求項1記載の洗濯機。
【請求項7】
磁気粘性流体を注入する側の一方側のヨークにおいて、シャフトとの間に形成された隙間の内周側端部の角部を、平面状の面取り部若しくは丸面状の面取り部としたことを特徴とする請求項1記載の洗濯機。
【請求項8】
磁気粘性流体を注入する側の一方側のヨークは、筐体と水槽間に組み込まれたサスペンションの上部側に位置することを特徴とする請求項1記載の洗濯機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、水槽を防振支持する洗濯機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えばドラム式洗濯機では、内部に回転可能なドラムを備えた水槽は、筐体の底部に複数のサスペンションにより弾性的に支持され、該サスペンションは洗濯物を収容したドラムの回転に伴い生ずる振動を減衰する、所謂ダンパ機能を発揮するようにしている。ところで、この種サスペンションのダンパ機能として、例えば磁場の強度によって粘度が変化する磁気粘性流体(MR流体)を用いたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
上記磁気粘性流体は、磁界を与えることで該流体の粘度を可変制御可能であることから、最近では洗濯機のサスペンションとして有効活用することが検討されている。すなわち、上記水槽の振動に伴い上下動(往復動)するシャフトに対して、上記磁気粘性流体を接触させ、その粘性によりシャフトの上下動を抑制する抵抗(摩擦力)として機能させることで、水槽の振動振幅を速やかに減衰し、低振動、低騒音の洗濯機を提供しようとするものである。
【0004】
このようなサスペンションの磁気粘性流体は、漏出しないように封鎖された所定の中空状の収容部を満たすように充填され、これに上下動するシャフトの外周面と摩擦接触する構成としている。従って、長期安定して所期のダンパ性能を得るには、所定量の磁気粘性流体が収容部に確実に充填されなければならないし、容易に漏出しない封鎖された水密構成等を必要としている。このため、ダンパ機構やシール部材などの構成要素は筒状のシリンダ内に組み込み収納された組立構成にあることから、封鎖された収容部は外部から見えない隠蔽された状態にあり、従って磁気粘性流体を内部の収容部に注入するとき、正常に注入され確実に充填されたかなどについて容易に確認できない。また、密閉性の維持やコスト面などから磁気粘性流体の使用量はできるだけ少量とするのが好ましいなどの事情もあって、この磁気粘性流体を充填する注入作業では狭い収容部に対して慎重に時間をかけて行なうなど作業効率が悪いものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−45755号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、磁気粘性流体を確実に注入できるとともに、注入作業の効率化が期待できる洗濯機を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本実施形態の洗濯機によれば、外郭を形成する筐体内に、回転可能な洗濯槽を内包する水槽をサスペンションを介して支持し、サスペンションは、前記筐体と前記水槽との間にダンパ機構を介して連結される。ダンパ機構は、筒状のシリンダ、該シリンダ内に離間して組み込まれた軸受部材、前記水槽の振動に応じて往復動し前記軸受部材間に挿通され一端が前記シリンダ外に延出されたシャフト、該シャフト周りに隙間を形成するように前記シリンダ内に配設された磁場発生装置、該磁場発生装置の隙間の両外側端部を封鎖して中空の収容部を形成するように組み込まれたシール部材、前記収容部に充填され前記磁場発生装置を介して磁界が印加されたとき粘性が変化する磁気粘性流体、を備える。前記磁場発生装置は、磁界を発生するコイルをボビンに巻装してなるコイルユニットと、該コイルユニットの両側部に配設されたヨークとを具備する。前記シャフトが前記シリンダ外に延出する側に位置する一方側の前記シール部材および前記軸受部材が除かれた状態で外部に露呈する一方側の前記ヨークと前記シャフト間に有する隙間に注入部が形成されている。前記磁気粘性流体は、前記注入部から前記収容部に注入されたものであり、前記収容部内の前記磁気粘性流体は、前記シール部材に挟まれて移動不能となっていることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】第1の実施形態を示すサスペンションの一部を拡大して示す縦断面図
図2】サスペンションの主体構成を示す縦断面図
図3】サスペンションの外観斜視図
図4図1中のA−A線に沿って切断して示す横断面図
図5】洗濯機全体構成の概要を示す縦断面図
図6】(a)は図4(a)中のB−B線に沿って切断して示す縦断面図、(b)は同部分の組立完了の構成を示す縦断面図
図7】変形例を示す図6相当図
図8】異なる変形例を示す図6相当図
図9】各種変形例(a),(b),(c)を示す図6(b)相当図
図10】第2の実施形態を示す図1相当図
図11図2相当図
【発明を実施するための形態】
【0009】
(第1の実施形態)
以下、ドラム式洗濯機に適用した第1の実施形態につき、図1ないし図9を参照して説明する。まず、図5に示すドラム式洗濯機(以下、単に洗濯機という)は、乾燥機能付の洗濯機で、その全体構成の概要につき説明する。外殻を形成する箱状の筐体1の前面部(図示右側)には、そのほぼ中央部に洗濯物出入口2を形成し、該出入口2を開閉する扉3を設けている。また、筐体1の前面部の上部には、操作パネル4を設けており、その裏側に運転制御用の制御装置5を設けている。
【0010】
筐体1の内部には、水槽6を配設している。この水槽6は、軸方向を前後とする横軸円筒状をなし、筐体1の底板1a上に長手方向を上下方向とした左右一対(一方のみ図示)のサスペンション7(詳細は後述する)によって前上がりの傾斜状態に弾性支持されている。
【0011】
水槽6の背面部には、モータ8を取付けている。このモータ8は、例えば直流のブラシレスモータからなるもので、アウターロータ形であり、そのロータ8aの中心部に取付けた図示しない回転軸を、軸受ブラケット9を介して水槽6の内部に挿通し、後述するドラム10の背面部の中央部に連結している。
【0012】
前記ドラム10は、水槽6内部に配設され洗濯物を収容するとともに回転可能な洗濯槽として機能し、ドラム10を内包した水槽6と同様に軸方向を前後となす横軸円筒状をなすもので、前記した如くモータ8の回転軸と連結されて水槽6と同軸状の前上がりの傾斜状態に支持されている。その結果、ドラム10はモータ8によりダイレクトに駆動されて横軸周りに回転し、該モータ8はドラム10を回転させるドラム駆動装置として機能する。
【0013】
また、ドラム10の周側部(胴部)には、通水および通風可能な小孔11を全域にわたって多数形成しており、これに対し水槽6はほぼ無孔状をなし貯水可能な構成としている。これら、ドラム10および水槽6は、共に前面部に開口部12,13を有しており、そのうちの水槽6の開口部13と前記洗濯物出入口2との間に、環状のベローズ14が装着されている。これにより、洗濯物出入口2は、ベローズ14、水槽6の開口部13、およびドラム10の開口部12を介して、ドラム10の内部に連なる形態としている。なお、貯水可能な水槽6の最低部位には、途中に排水弁15を介して排水管16を接続し、機外に排水可能としている。
【0014】
ここで、前記した乾燥機能の構成について説明すると、この水槽6の背面側から上方および前方にわたって、乾燥ユニット17を設けている。この乾燥ユニット17は、送風装置19、加熱装置20、および図示しない除湿手段等を備えた循環ダクト18から構成され、乾燥運転時に水槽6内から排出された空気中の水分を除湿し、次いで加熱して、所謂乾燥風を生成し水槽6内に戻す(供給)ことを繰り返す循環を行ない、回転駆動されたドラム10内の洗濯物を乾燥させるようにしている。
【0015】
そして、前記したサスペンション7の具体構成につき、図2,3に示す全体構成につき説明する。サスペンション7は、その概略構成として図5に示したように前記筐体1と水槽6との間に上下方向に連結して設けられている。具体的には、筐体1の底板1aが有する取付板21側に取付けた円筒状のシリンダ22と、該シリンダ22内を往復動可能たる上下動可能に挿通され、その一端たる上端部が前記水槽6が有する取付板23側に取付けたシャフト24と、シリンダ22から外部たる上方に突出して延びるシャフト24周りに装着されたコイルばね25を備えた構成としている。
【0016】
このサスペンション7を、筐体1内に組み込むには特には図2の縦断面図に示すようにシリンダ22の下端部に該シリンダ22の下部開口端を閉塞するようにシリンダ連結部22aを被着していて、この連結部22aを図5に示す底板1aの取付板21にゴムなどの弾性座板26等を介してナット27で締結することにより、該シリンダ22を底板1a側の取付板21に取付固定している。なお、シリンダ22は鉄製で、詳細は後述するが該シリンダ22と共にダンパ機構30を構成する磁場発生装置40等を備えている。
【0017】
一方、シャフト24は、シリンダ22の内部に下半部が挿入されるシャフト主部24aと、その上端部に一体的に連結されたシャフト連結部24bとから構成されていて、少なくともシャフト主部24aは鉄製の磁性体としている。しかして、上記連結部24bを図5に示す水槽6の取付板23に同様の弾性座板28等を介してナット29で締結することにより、該シャフト24を水槽6の振動に追従して一体的に上下方向等に応動するように連結した構成としている。
【0018】
なお、前記コイルばね25は図2に示すように、下端部がダンパ機構30を構成するシリンダ22の外側上端部に支持され、一方コイルばね25の上端部はシャフト24の上部に装着された円板状のばね受け座41に受け止められ、弾発力が蓄積した状態に装着されている。つまり、シャフト24をシリンダ22から上方たる外部に引き出すように付勢した状態に張設され、当然ながら該シャフト24は所定以上、上方に突出しない位置に保持される構成、つまりシャフト24の抜け止め手段(詳細は後述する)が施されている。
【0019】
ここで、前記ダンパ機構30の具体構成について、同じく図2を参照して述べる。このダンパ機構30は、前記シリンダ22と、該シリンダ22の筒状内部に上下位置に離間して組み込まれた軸受部材31,32と、前記水槽6の振動に応じて往復動(この実施形態では上下動)し前記軸受部材31,32間に挿通され一端たる上方側がシリンダ22外に延出された前記シャフト24と、該シャフト24周りに隙間Gを形成するように前記シリンダ22内に配設された前記磁場発生装置40と、該磁場発生装置40の隙間Gの両外側端部(上下端部)を封鎖して中空環状の収容部33(図1参照)を形成するように組み込まれたシール部材34,35と、前記収容部33に充填され前記磁場発生装置40を介して磁界が印加されたとき粘性が変化する磁気粘性流体36(詳細は後述する)とを具備した構成としている。
【0020】
上記構成のうち、シリンダ22内の所定位置に保持される前記シャフト24の抜け止め手段につき図1,2に基づき具体的に述べると、まずシャフト24側にあっては、該シャフト24の下端部に環状の係止リング37が被着され、一方シリンダ22側には、その上下方向のほぼ中間部に中空筒状をなす前記軸受部材32が組み込まれている。この軸受部材32は、アルミニウム製の非磁性体からなる軸受ケース32aと、この内部に嵌合固定されシャフト24を軸方向でもある上下方向へ往復動可能に摺動支持する環状の軸受32bとから構成され、該軸受32bは例えば非磁性体である銅系の焼結含油軸受から構成されている。
【0021】
この軸受ケース32aは、その下端部がシリンダ22のほぼ中間部位に径方向(内方)に絞ったくびれ部22bに当接した位置に配置し、これを例えばかしめや圧入により嵌合固定される。この軸受部材32の下面側に、挿通されたシャフト24の下端部の前記係止リング37が位置することで、シャフト24の一方向たる上方への移動は係止リング37が軸受部材32の下面に当接することで衝止される。ただし、シリンダ22のくびれ部22b以下は、空洞部22cを形成していて、シャフト24の他方向たる下方への移動を自由としている。
【0022】
このように、下部側における軸受部材32は、シャフト24の上方への抜け移動を規制する手段としても有用とするとともに、軸受32bを保持し、更にはその上面側に装着された前記シール部材35を保持するのに有効としている。これは、このシール部材35を含むダンパ機構30がシリンダ22内に収容されることで、前記軸受部材32との間で挟持されるようにして確実に収容固定される。もって、シール部材35はその内周側のリップ35aがシャフト24の外周面に圧接して、後述するシャフト24との隙間Gを封鎖するシール性能を発揮する構成としている。
【0023】
上記した下側の軸受部材32およびシール部材35に対し、シリンダ24の開口端側の離間した位置に、実質的に同一材料でほぼ同一形状の前記軸受部材31およびシール部材34を対向した状態に組み込み固定されている。従って、軸受部材31は軸受ケース31aと軸受31bとから構成され、また上部側のシール部材34は防水用のリップ34aを備えた構成にある。すなわち、この軸受部材31およびシール部材34は、本実施形態では図5に示すようにサスペンション7として組み込まれた状態では上部側に位置し、つまり上記軸受部材31およびシール部材34は、下部側の軸受部材32およびシール部材35とは対向配置された状態にある。
【0024】
ただ、上部側の軸受ケース31aは、図2に示すように中央上面に円筒状の台部31cを一体に突設している点で下部側の軸受ケース32aと異なる。この台部31cは、冠状のキャップ39をシリンダ24の開口端部に被着した組立完成した状態でも、該キャップ39から上方に突出する高さを有している。なお、キャップ39は、上部側の軸受部材31およびシール部材34をシリンダ24内の上端部に組み込み、例えば軸受ケース31aをかしめにより嵌合固定した後、シリンダ24の開口側上端部の外側に圧入により嵌合固定されている。
【0025】
そして、このキャップ39上面と突出した台座31cの外周囲に前記コイルばね25の下端部が下方向に圧接保持され、つまり該コイルばね25は前記ばね受け座41との間で伸縮可能な圧縮状態に保持される。斯くして、シャフト24は、軸受手段を構成する上下部の軸受部材31,32の各軸受31b,32bに摺動可能に軸支され、およびシール部材34,35に水密に摺接し、もって往復動可能に設けられる。
【0026】
ここで、上記した上下部の軸受部材31,32の間に組み込まれた磁場発生装置40の具体構成につき図2を参照して述べる。この磁場発生装置40は、本実施形態ではシャフト24周りに巻装され磁場(磁界)を発生するコイル42と、該コイル42の上下部に設けられた鉄製で円筒状のヨーク43,44とを有した構成からなり、コイル42に通電されると、該コイル42の周りに上下部のヨーク43,44を介して磁束が通る磁気回路D(図2中に破線矢印で示す)を形成するものである。
【0027】
更に、この磁場発生装置40の実態的な具体構成につき述べると、図1,2に示すように、コイル42は中空円筒状のボビン45に巻装され、もってコイルユニット46を構成しており、該コイルユニット46の中心部の中空部に挿通されたシャフト24の外周面との間には円筒状の隙間Gを形成するようにしている。そして、このコイルユニット46の上下部にヨーク43,44を配置した状態で、例えば熱可塑性樹脂(ナイロン、PBT、PET、PP等)により樹脂モールド(図中、樹脂モールド部47で示す)して一体化構成とし、もって本実施形態における磁場発生装置40を構成している。
【0028】
この場合、上下部の中空状のヨーク43,44とシャフト24の外周面との間にも円筒状の狭小の隙間(例えば、0.4mm程度)を有し、前記コイルユニット46(ボビン45)にて形成された隙間と連通して(この両者の隙間寸法は同一でなくてもよい)統合した結果、上下方向に延びる中空円筒状の隙間Gが形成される(以下、個々の隙間も符号Gを付して述べる)。
【0029】
特にヨーク43,44とシャフト24との間における狭小の各隙間Gは、前記磁気回路Dを形成し、前記磁気粘性流体36が、磁界を印加されて粘性を変化し所望の粘度を迅速に得るために好適とする所定寸法に設定している。よって、磁場発生装置40はシャフト24周りに隙間Gを形成するとともに、磁場発生装置40の上下部に夫々配置されたシール部材34,35がシャフト24の外周面に圧接状態にあるので、該隙間Gの上下端部は水密に封鎖されることにより、シャフト24周りに密閉された円筒状の前記収容部33が形成される。
【0030】
この収容部33には、図1,2等に明示するように磁気粘性流体36が注入され充填される。ここで磁気粘性流体36につき述べると、これは電気的エネルギーの印加により粘性が変化する流体で、磁界(磁場)の強度に応じて粘性特性が変化する、例えばポリアルファオレフィンオイルを主体とするベースオイルの中に鉄、カルボニル鉄などの強磁性粒子を分散させたものからなり、磁界が印加されると強磁性粒子が鎖状のクラスタを形成することで見かけ上の粘度が上昇する特性を有するものである。
【0031】
従って、コイル42への通電に伴い該コイル42周りに発生する前記磁気回路Dは、矢印方向に磁界が流れ、すなわちコイル42に生ずる磁気回路Dは、シャフト24→収容部33(隙間G)→上部のヨーク43→シリンダ22→下部側のヨーク44→収容部33(隙間G)→シャフト24に至る経路にて形成される。
【0032】
そして、この収容部33へ充填すべく磁気粘性流体36の注入は、シャフト24に上記した磁場発生装置40と下部側のシール部材35および軸受部材32が収容固定された状態で行われる。すなわち、上部側のシール部材34および軸受部材31が組み込まれる前の状態で実行され、つまり収容部33の一端たる上端面が開放されたヨーク43の隙間G側から磁気粘性流体36を注入するようにしている。
【0033】
具体的には、本実施形態では注入作業をより効率よく行なうため、図1および図4に示す構成としている。図1はサスペンション7の一部を拡大して示す縦断面図で、図4図1中のA−A線に沿って切断して示す横断面図である。そのうち図4(a)は本実施形態によるもので、上下部のヨーク43,44には、隙間Gと連通し該隙間寸法より大きな半円形状の断面積を有し、夫々軸方向に沿って延びる溝状の流体通路48,49を形成しており、かつこれら流体通路48,49(図1参照)は夫々軸方向たる上下方向に一直線上に並ぶように周方向の同じ位置に設けた構成としている。
【0034】
また、各ヨーク43,44の各流体通路48,49の反対側には、これより断面積が小さい流体通路51,52を、やはり軸方向に一直線上に並ぶように、周方向の同じ位置に設けた構成としている。従って、上部側のヨーク43には断面積が異なる複数個たる2個の流体通路48,51を備え、また下部側のヨーク44にも同様の断面積が異なる複数個たる2個の流体通路49,52を設けた構成としている。
【0035】
そこで、詳細は後の作用説明で述べるが収容部33に磁気粘性流体36を注入するには、上部側のヨーク43に形成した断面積大の流体通路48に図1に示すように注入器50の針先50aを一部挿入するように宛がい、操作杆50bの押圧操作により圧力をかけて磁気粘性流体36を押し出すことで注入できるようにしており、よって流体通路48は磁気粘性流体36の注入部として機能するものである。
【0036】
そして、上記注入後は、図2に示すように上部側のシール部材34および軸受部材31をシリンダ22内に組み込んだ後、シリンダ22の開口端側を例えばかしめ加工して固定し、もって収容部33は密閉された状態に構成される。この後に、前記キャップ39を嵌合して圧入固定するとともに、このシリンダ22の上端部に、台座31c周りにコイルばね25を配置して組み込むことでサスペンション7として組立てられる。なお、本実施形態では連結部材24bは、シャフト主部24aと着脱可能に連結されていて、コイルばね25をシャフト主部24a周りに介挿し、その上端部をばね受け座41で受け止めるとともに連結部材24bを連結するようにしている。
【0037】
このように構成されたサスペンション7は、前記した如く筐体1の底板1aと水槽6との間の上下方向において、図5に示すように水槽6側にシリンダ22から突出したシャフト24およびコイルばね25が位置し、筐体1側にシリンダ22が位置した状態で、水槽6の左右両側に夫々配置され弾性的に連結支持される。また、コイル42から引出された2本のリード線38は、上部のヨーク43側の部位から外部に引き出され、図示しない駆動回路を介して制御装置5に接続され、磁場発生装置40のコイル42への通断電制御を行い、振動減衰のダンパ制御を可能としている。
【0038】
なお、図6ないし図8は、図4(a)中のB−B線に沿って切断して示す縦断面図、および同相当図であり、また図9は各種変形例を示す図6(b)相当図で、これらは主に作用説明図として以下の作用説明以降において順次適用して述べる。
【0039】
次に、上記構成の洗濯機の作用について述べる。
本実施形態の横軸周りのドラム10を備えた洗濯機では、洗い、すすぎ、脱水、および乾燥の各行程において、制御装置5がドラム10を夫々適正な回転速度にて駆動制御することで運転が自動的に実行される。そして、ドラム10内に収容された洗濯物(図示せず)による偏荷重などに起因してドラム10に振動を生ずると、弾性的に支持された水槽6も上下方向を主体に振動する。この水槽6の上下振動に応動して、サスペンション7では、水槽6に一体的に連結されたシャフト24とシリンダ22との間のコイルばね25を伸縮させ、該シャフト24はシリンダ22内を上下方向に往復動する。コイルばね25は、その伸縮作用により振動を吸収して筐体1(底板1a)側への振動伝達を効果的に阻止する機能を発揮する。
【0040】
一方、下方側においてはシリンダ22や磁場発生装置40等からなるダンパ機構30により振動を速やかに減衰する作用を発揮する。すなわち、ドラム10を回転駆動する運転時には、磁場発生装置40を構成するコイル42に通電され磁場が発生する。これにより、コイル42の周りに磁気回路D(図2参照)が形成され、そのうちの特に磁束密度の高い上下部の各ヨーク43,44とシャフト24との間にあっては、隙間Gも狭小としていることも相俟って、該隙間部位において磁界が与えられた磁気粘性流体36は、その粘度が急速に高められ、シャフト24の上下方向の往復動に対する摩擦抵抗を増大し、結果として水槽6の振動振幅を速やかに減衰する。特に、脱水運転ではドラム10を高速回転する回転初期における共振点付近では急速に振動が大きくなる傾向にあるが、このような振動を速やかに減衰する所謂ダンパ効果を有効に発揮する。従って、異常振動や異常騒音を招くことなく円滑な脱水運転を継続して実行できる。
【0041】
このように、ダンパ機構30が有効に機能するには磁気粘性流体36を収容部33内に確実に充填する必要がある。そこで、本実施形態では図1に示すように、前記シャフト24がシリンダ22外に延出する側、つまり水槽6側に位置する一方側たる上部側のシール部材34および軸受部材31を組み込む前において、外部に露呈した同一側のヨーク43とシャフト24間に形成された隙間G側から、注入器50により収容部33内に注入できるようにしている。なお、本実施形態では注入器50には、例えば収容部33を複数回分満たす量の磁気粘正流体36を収容している。
【0042】
しかして、注入に際して具体的には、まず図1に示すようにサスペンション7として上下方向に組み込まれた状態(図5参照)と同じように、シリンダ22を上下方向に起立した状態に保持する。上部側のヨーク43の上端面は開放された状態にある。そこで、該ヨーク43の溝状の流体通路48の上端部の開口部位に注入器50の針先50aを一部挿入して宛がい操作杆50bを押圧操作する。これにより、注入された磁気粘性流体36は、周方向である隙間G側に広がりつつ注入圧や重力により速やかに下部側のシール部材35の内部凹所を満たした後、収容部33(隙間G)を順次下方から上部へと充填がなされる。ほぼ収容部33内が満たされると、上昇した磁気粘性流体36の上端面が上部側のヨーク43の流体通路51および隙間Gから外部に露呈した状態となる。
【0043】
この状態を図示する図6(a)を参照して述べると、これは図4(a)中のB−B線に沿って切断して示す縦断面図で、上部側のヨーク43が有する隙間Gの断面を示すとともに、該隙間Gに磁気粘性流体36が充填され外部上方から目視可能な露呈状態を示している。
【0044】
この隙間Gから露呈した磁気粘性流体36は、注入する作業者から容易に目視することができる。すなわち、この露呈状態は図4(a)から理解できるように上方から見て環状の隙間Gのほぼ全周から露呈した状態にあり、かつ流体通路51の上端開口側からも露呈する。従って、この状態を外部から容易に目視できるとともに、収容部33内がほぼ満たされ注入作業が終了近くになったことを察知できる。よって、作業者は磁気粘性流体36の充填状態を目視で確認しながら注入作業を行うことができるから、注入量を適宜に加減することができ、或いは磁気粘性流体36の注入量に過不足を生じない注入作業を効率よく実行でき終了することができる。
【0045】
特に本実施形態では、上下部のヨーク43および44に軸方向に一直線上に並ぶように同形状の流体通路48,49および51,52を夫々設けた配置構成とするとともに、そのうちの上部のヨーク43側の流体通路48を注入部として注入器50の針先50aを宛がい磁気粘性流体36を容易に注入できるようにした。これにより、狭小の隙間Gより軸方向断面を大きくした注入通路が形成され、その入口側では注入器50の針先が挿入し易いことはもとより、磁気粘性流体36を下部領域まで速やかに注入することができる。しかも、上下部に位置する各流体通路48,49および51,52が夫々一直線上に配置されているので、磁気粘性流体36の流れは一層円滑に行なわれる。
【0046】
この場合、収容部33内の空気を速やかに外部に排出しないと、磁気粘性流体36の充填が不完全となったり、注入作業を速やかに実行するに不利であったりする。しかるに、本実施形態では図1および図4(a)に示すよう注入側とは反対側に形成した流体通路51,52を利用して下部領域からの空気抜きが容易にでき、特にヨーク43側の狭小な隙間G領域における空気の流れを良好とし、空気が滞ることなく速やかに外部に排出できる。
【0047】
そして、磁気粘性流体36は図6(a)の目視できる状態まで充填された後、若干補充されて注入作業を終える。これは、図6(b)に示すように注入後のシリンダ22内に、シール部材34および軸受部材31等が組み込まれ、収容部33は封鎖された組立完了した状態で、かつ本実施形態では上部側のシール部材34の内部凹所を磁気粘性流体36が満たすようにしている。ただし、この上部側のシール部材34の凹所は、磁気粘性流体36で満たさなくても所期のダンパ作用が得られるものである。
【0048】
以上説明したように第1の実施形態の洗濯機によれば、水槽6を防振支持するサスペンション7において、シリンダ22内には通電により磁界が印加されたとき粘性が変化する磁気粘性流体36を封入してなるダンパ機構30を採用したので、特にはドラム10を高速回転する脱水運転時に生じる水槽6の振動を素早く減衰させることができる。
【0049】
その磁気粘性流体36は、ダンパ機構30内の密閉された収容部33内に封入されているが、該磁気粘性流体36の注入にあっては、シャフト24がシリンダ22外に延出する水槽6側に位置するシール部材34および軸受部材31を組み込む前の状態にて実行される。従って、同一側のヨーク43の端面が開放され外部に露呈した状態として、シャフト24との間に形成された隙間Gに連通した注入部から例えば注入器50を利用して収容部33内に注入するようにしている。これにより、針先50aを収容部33の入口に確実にセットでき、かつ該収容部33内に確実に注入できて磁気粘性流体36を利用した有効なダンパ効果が得られるとともに、注入作業が容易にでき作業効率の向上が期待できる。
【0050】
上記注入により、本実施形態によれば収容部33内に充填された磁気粘性流体36が上部ヨーク43の隙間Gから溢れ出る状態、或は溢れ出る寸前の状態になれば、これを上方から目視することができる。よって、作業者は充填状態を確認でき注入作業が終了間近であることを察知できる。結果として、作業者は目視による注入作業が可能となり、磁気粘性流体36の注入量に過不足を生じることなく的確で速やかに注入することができ作業効率を向上することができる。特に、本実施形態ではサスペンション7を組み込んだ状態(方向)と同様にシリンダ22を上下方向に指向した状態に保持して注入作業を行うことで、磁気粘性流体36の下部領域への充填が速やかに行われるとともに、上部側のヨーク43とシャフト24との間の隙間Gから環状に露呈する磁気粘性流体36を容易に目視でき、一層作業能率の向上を図ることができる。
【0051】
しかも、本実施形態では外部に露呈する上部側のヨーク43の狭小な寸法の隙間Gからの注入作業を容易にするため、該ヨーク43に隙間Gと連通する溝状の流体通路48を形成した。当該流体通路48は、軸方向に延びるとともに半円形状の断面積をなし、例えば少なくとも注入器50の針先50aを挿入できる大きさの断面積を有する。従って、この流体通路48に注入器50の針先50aを宛がうように一部挿入して磁気粘性流体36を注入することで、磁気粘性流体36を周囲に漏らすことなく容易に注入作業ができるもので、該流体通路48は磁気粘性流体36の注入部として機能し、注入作業の効率アップに貢献する。
【0052】
この場合、上記したように少なくとも一方側(上部側)のヨーク43に注入部としての流体通路48のみを有する構成でも有効であるが、本実施形態では他方側(下部側)のヨーク44にも同形態の流体通路49を設けたので、収容部33の末端(シール部材35)まで磁気粘性流体36の注入が一層速やかにできる利点を有する。
【0053】
更には、上記ヨーク43,44の流体通路48,49の反対側に位置して、夫々流体通路51,52を設けたので、これを注入時に必要な空気抜きとして有効に機能させることができ、収容部33内の充填状態を確実に満たしつつ、より注入作業をスムーズに効率よく実行できる。この場合、図1および図4(a)に示すように本実施形態では主として空気抜きに有効活用する該流体通路51,52の断面積は、注入側である流体通路48,49の断面積より小さくしている。
【0054】
これは、高価な磁気粘性流体36の使用量を低減するのに有利であるとともに、そのうちの流体通路51にあっては、その上端面から露呈する磁気粘性流体36を容易に目視することができる。従って、複数個の流体通路のうち、少なくとも一つの流体通路48を注入部とし、他の流体通路の断面積より大きく形成すれば、より使用量を減少することができる。
【0055】
ただし、これに限らず例えば図4(b)に示すように、全ての流体通路(計4箇所)を注入部として機能する同一断面積の流体通路48(2箇所のみ図示)を設けるように変形して実施することも可能である。この場合、いずれも断面積が大きいので当然空気抜きも頗る良好であるとともに、注入部として複数箇所(2箇所)を利用でき注入場所を間違えるおそれはないなど、注入作業がし易い点で有効である。ただ、上記実施形態に比し磁気粘性流体36の使用量が若干増大する。
【0056】
また、各ヨーク43,44の流体通路48,49および51,52を夫々一直線上に並ぶように、すなわち周方向の同じ位置となるように配設したので、注入時の磁気粘性流体36の流れをより円滑にすることができる。この場合、少なくとも注入側の流体通路48と他方側の流体通路49とが周方向に同一位置となるように設ければよく、磁気粘性流体36の流入を円滑にすることができる。
【0057】
なお、上記実施形態では注入終了間近になると、図6(a)で開示したように下方から上昇した磁気粘性流体36が流体通路51や隙間Gの上端面に露呈し目視できるものである。ところが、この環状の隙間Gは寸法が狭小(例えば、0.4mm)であるため、作業環境によっては露呈する磁気粘性流体36を早期に目視することが容易でない場合も想定される。
【0058】
そこで、このような場合には、図7,8に示すように変形して実施することを可能としている。
そのうち図7図6相当図で、図7(a)に示すように、一方側たる上部側のヨーク43において、シャフト24との間に形成された隙間Gの内周側端部43aの直角形状の角部を、ほぼ全周にわたって例えば面取り加工して平面状の面取り部Hとしたものである。従って、内周側端部43aにおける隙間Gは断面が外方にラッパ状に広がった形態となる。
【0059】
このため、図7(a)で示すように磁気粘性流体36が隙間Gの上端部から露呈する状態に至った場合、上方から見ると隙間Gより遥かに幅広の帯状で、かつ環状に露呈することになり、これを流体通路51からの露呈とともに作業者は容易に目視することができ、進行状況を逸早く確認することができ、それだけ注入作業を効率よく実行できる。なお、同図(b)は先の図6(b)と同様に、所定量の注入を終えた後の組立完了後の状態を示したもので、組立後のシール部材34の内部凹所内に磁気粘性流体36が充填され封鎖された状態にあることを示している。
【0060】
また、図8(a),(b)に示す変形例は、上記した図7の平面状の面取り部Hに対し、丸面状の面取り部Mとした点で異なり、他は共通とするものである。このように、角部を丸面形状に面取りしても上記平面形状にする場合と実質的に同様の作用効果を有するもので、詳細な説明は省略する。
【0061】
一方、図9は各種変形例を示す図6(b)相当図で、これは磁気粘性流体36の使用量の減少を図るに有効な変形例を示している。まず図9(a)に示す構成は、上部側のヨーク43の内周側端部43aを丸面状の面取り部Mとしたもので、これは先の図8(a)の変形例と同様の形態としている。一方、この上面側に装着され、シャフト24との間の隙間Gを封鎖するシール部材53は、上下に分岐したリップ53a,53bを有する。すなわち、リップ53aはシャフト24と圧接し、下方側のリップ53bはヨーク43の内周側端部43aの丸面状の面取り部Mに圧接して、隙間Gを封鎖し収容部33を形成したものである。
【0062】
従って、このものではシール部材53の内部凹所には磁気粘性流体36の流入は阻止されることから、より一層磁気粘性流体36の使用量を低減することができる。この場合、図示しないが下部側のシール部材も同形状とすることで、より効果的であるとともに無駄な磁気粘性流体36の使用を減らしコスト的に有利である。なお、丸面状の面取り部Mにてリップ53bが圧接するようにしているので、水密な圧接状態が容易に得られる利点がある。
【0063】
次いで、図9(b)はシール部材54以外は第1の実施形態と共通の形態とする変形例である。シール部材54は、上記変形例と同様に二つのリップを有し、すなわちシャフト24に圧接するリップ54aと、ヨーク43の内周側端部43aの上面に圧接するリップ54bを備えたもので、磁気粘性流体36の使用量を低減することができるなど、上記変形例と同様の作用効果を有する。
【0064】
そして、図9(c)は、シール部材55以外は上記した同図(b)の変形例と共通の形態としている。しかるに、シール部材55は1個のリップ55aを設け、該リップ55aの表裏両面を利用して、シャフト24および内周側端部43aに圧接する形態としたものである。これによれば、リップ55aは1個で簡易な構成にて提供でき、かつ該リップ55aの先端部で隙間Gの開口端を直接塞ぐようにすることで、一層磁気粘性流体36の使用量を低減するのに有効である。
【0065】
その他、本実施形態では注入器50内に収容部33を複数回分満たすことができる量の磁気粘正流体36を収容したが、一回分の量を収容するようにしても良く、この場合は、全部注入することで規定量の磁気粘正流体36を注入することが可能となり、注入作業や注入量の管理が簡単となる。その際においても、収容部33内に充填された磁気粘性流体36がヨーク43の隙間Gから上面に溢れ出る状態、或は溢れ出る寸前の状態を視認することで、目視により正常で確実に充填できたことを確認することができる。
【0066】
更には、注入器50の操作杆50bによる押圧操作は、手作業でもできるが機械的に自動制御することも可能である。例えば、図示しない押圧装置により操作杆50bを機械的に押圧操作し、注入器50を速度と時間を制御しつつ押圧することで必要量の磁気粘性流体36を収容部33内に複数回にわたり充填でき、注入作業を自動化できる。この場合、機械的に規定量の磁気粘正流体36を注入できるので、ヨーク43の上面に溢れ出るほどの注入量を必要としない。勿論、隙間Gから上記同様に目視可能とすることで正常で確実に充填できたことを確認することができる。
【0067】
なお、注入器50の針先50aの挿入位置は、上記実施形態に限らず、例えば上部のヨーク43を通過して収容部33の下部領域に達する位置まで挿入してもよく、この場合には針先を徐々に引き出すようにしながら注入することで、下部領域から上部領域にわたり確実に磁気粘性流体36をスムーズに充填注入できる点で有利である。
【0068】
また、ダンパ機構の上下部に位置するシール部材は、収容部を形成するため磁気粘性流体の漏洩防止を主としているが、他にシャフトとの間で固定的に得られる摩擦抵抗(減衰力)を考慮した仕様としてもよく、例えば、水密用としてのリップをばね付の構成としてもよいなど、個数も含めて種々変形して実施可能である。
【0069】
(第2の実施形態)
図10および図11は、第2の実施形態を示す図1相当図および図2相当図で、以下、上記実施形態と実質的に同一部分には同一符号を付して説明を省略し、異なる部分につき詳細に述べる。
【0070】
このものは、磁場発生装置60を構成するところのコイルユニット56を、軸方向たる上下方向に2段配置としたコイルユニット56a,56bを有する構成とした点で、上記実施形態と異なる。すなわち、具体的には実質的に同一構成の上下部に配置されたボビン57a,57bに、夫々コイル58a,58bが巻装され、そのうちの上段側のコイル58aの上部にヨーク61、および下部側にヨーク62を配置した構成としている。ただし、上記した下部側のヨーク62は、2段配置のコイルユニット56a,56bからなる全体構成からいうと、その中間位置に設けた中間部のヨーク62ということができる。
【0071】
そして、下部側のコイルユニット56bにおいても実質的に上記同様の構成が施され、すなわち、上部側には前記中間部のヨーク62を共用し、下部側には下部のヨーク63を配置した構成としている。なお、前記コイル58aと58bとは直列に接続されるとともに、円筒状のヨーク61,62,63の中空部は、やはりシャフト24の外周面との間に狭小の隙間を有し、前記ボビン57a,57bにて形成された隙間と連通して上下方向に延びる円筒状の隙間Gが形成される(以下、個々の隙間も符号Gを付して述べる)。
【0072】
このように構成のコイルユニット56a,56bは、その上下部および中間部にヨーク61,62,63を夫々配置した状態で、例えば熱可塑性樹脂(ナイロン、PBT、PET、PP等)により樹脂モールド(図中、樹脂モールド部59で示す)して一体化構成とし、もって本実施形態における磁場発生装置60を構成している。従って、この磁場発生装置60が形成する隙間Gの上下端部を、夫々シール部材34,35により封鎖することで、円筒状の収容部64が形成され、該収容部64内に磁気粘性流体36が充填され封入される。
【0073】
上記構成において、上下部のコイル58a,58bへの通電に伴い各コイル58a,58b周りに磁界が流れ破線矢印で示すように磁気回路D1,D2を生ずる。例えば、上段側のコイル58a側に生ずる磁気回路D1は、シャフト24→収容部64(隙間G)→上部のヨーク61→シリンダ22→中間部のヨーク62→収容部64(隙間G)→シャフト24に至る経路にて形成される。
【0074】
一方、下段側におけるコイル58b側の磁気回路D2は、シャフト24→収容部64(隙間G)→下部のヨーク63→シリンダ22→中間部のヨーク62→収容部64(隙間G)→シャフト24に至る経路にて形成される。もって、脱水運転時など水槽6の振動に対してシャフト24と磁気粘性流体36の粘性による摩擦作用により、振動減衰作用を発揮するなど、上記実施形態と同様のダンパ効果が期待できる。
【0075】
なお、この実施形態では、上下2段にコイル58a,58bを設けたので、磁気回路D1,D2に基づき、各ヨ−ク61,62,63とシャフト24との間の計4箇所に相当する部位で、磁気粘性流体36の粘性変化を調整でき、その調整範囲は広く制御範囲も大きくできることから、ダンパ機構30として所望の減衰力が容易に得られる利点を有する。
【0076】
一方、磁気粘性流体36を収容部64に充填するには、基本的には上記実施形態と同じである。すなわち、サスペンション7の構成としては、上部のシール部材34および軸受部材31を組み込む前の構成にあって、シリンダ22を上下方向に起立した状態に保持し、上面側が露呈した上部のヨーク61の隙間G側から注入することができる。
【0077】
ところで、本実施形態では2段配置のコイル58a,58bとして、収容部64も縦長の円筒状となるため、注入する磁気粘性流体36の流れが円滑に行なえることが求められる。そこで、本実施形態でも各ヨ−ク61,62,63には、上記第1の実施形態と同様に隙間Gと連通する複数個(例えば、2個)の溝状の流体通路を設けている。具体的には、上記第1の実施形態と同様に注入部として活用可能とする断面積大の流体通路65,66,67を夫々各ヨ−ク61,62,63において一直線上に並ぶように、つまり周方向の同じ位置に設けている。また、この反対側に位置して主として空気抜きとして活用可能な断面積小とする流体通路68,69,70を上記同様の配置構成に設けている。
【0078】
従って、本実施形態では、コイルユニット56a,56bを2段に配置したダンパ機構30は、軸方向たる上下方向に長くなり収容部64も長くなるが、周方向に同配置の流体通路65,66,67を通して磁気粘性流体36を速やかに内方側(下部側)に流入させることが可能で、また他方の流体通路68,69,70からは内方の空気を外部に速やかに排出することができ、もって効率よく注入作業を行なうことができる。
【0079】
しかも、本実施形態では図10に示すように針先の長い注入器71を使用することで、更に効率よく注入することができるようにしている。この図10は、上部のシール部材34および軸受部材31を除いた所謂組み込み前の構成にあって、上面が開放されたヨーク61の上方から磁気粘性流体36を注入可能としている。その注入作業について具体的に述べると、例えば注入部側に対応して断面積が大きな流体通路65,66,67は一直線上に並んでいるので、この各流体通路65,66,67を通して挿入可能な長い針先71aを備えた注入器71を用意する。この場合、針先71aは途中で反り曲がりシリンダ22の外方に延びており、使用時に注入器71がシャフト24と位置的に干渉しないようにしている。
【0080】
斯くして、シリンダ22の上方から針先71aを下部のヨーク63の位置まで挿入した後、注入器71の操作杆71bを押圧操作し磁気粘性流体36を押し出すことで、縦長の収容部64に対し、その下部領域から充填が開始される。また、注入側とは反対位置の断面積小とする流体通路68,69,70を主に、内部の空気を上方に排出することができ、磁気粘性流体36の流入移動を円滑にする。
【0081】
その際、注入器71内には収容部64を充填するに必要な量の磁気粘性流体36が数回分セットされており、図示しない押圧装置により操作杆71bを機械的に押圧操作し、注入器71を速度と時間を制御しつつ押圧することで必要量の磁気粘性流体36が収容部64内に充填できるようになっている。なお、注入作業の進行に応じて針先71aを徐々に引き出すようにし、終了近くでは上部の流体通路65(上部ヨーク61)の上端部に位置するようにすると一層スムーズに充填することができる。
【0082】
そして、上記実施形態と同様に収容部64内に注入充填され上昇してきた磁気粘性流体36が、最上部のヨーク61の流体通路68および隙間Gから目視できるようになり、更に隙間G等から例えば溢れ出るのを目視確認しながら注入作業を実行することができ、従って所定の充填状態に至ったことを確実に視認することができる。
【0083】
上記のように第2の実施形態によれば、2段構成のコイル58a,58bを備えた磁場装置60を設け、水槽6の振動に対する減衰作用を高めたダンパ効果が得られる。このため、磁気粘性流体36を収容する収容部64も縦長となったり容積も大きくなるが、例えば注入状態を目視により確認できるようにし、また空気の排出も良好にすることができるので作業能率を高め得るなど、第1の実施形態と同様の作用効果が期待できる。
【0084】
その上、特に本実施形態では、長い針先71aを備えた注入器71を用意して、収容部64の下部領域まで挿入した針先71aから磁気粘性流体36の注入を開始できるようにしたので、同内部の空気も上方に押し出されるように効果的に排出され、磁気粘性流体36も収容部64内に確実に充填されるなど、注入作業は一層効率よく実施することができる。
【0085】
そして、収容部64内を磁気粘性流体36が満たす状態に至ると、磁気粘性流体36の表面が上部のヨーク61の流体通路68や隙間Gから露呈し、この状態を使用者は容易に目視できるので、注入(充填)状態を確認して注入量を適宜に加減し、或いは過不足を生じないように作業でき、効率よく注入作業を行うことができる。
【0086】
なお、上記した実施形態では、横軸周りのドラムを備えたドラム式洗濯機に適用して述べたが、これに限らず、例えば縦軸周りに回転可能な脱水槽を兼用した洗濯槽を有し、その縦軸状に有底筒状の水槽を備えた、所謂縦軸型の洗濯機でも適用可能である。
【0087】
また、水槽側にシャフトを連結しシリンダ装置内を上下動(往復動)する構成としたが、これに限らず、例えばシリンダ側を水槽側に取り付け、シャフト(コイルばね)側を筐体底部に取り付ける連結構造としても良い。この場合、水槽に応動してシリンダ側が直接往復動するが、シャフトはシリンダに対し相対的に往復動する構成となり、実質的に上記実施形態と同様の作用効果が期待できる。
【0088】
なお、注入器内には収容部をほぼ一回分満たす量の磁気粘正流体を収容するようにしておくことにより、これを全部注入することで収容部に規定量を注入することが可能となり注入量の管理が容易となる。この場合、規定量が確実に注入されるので磁気粘正流体を露呈するほど注入しなくてもよい。ただし、この場合においても、収容部内に充填された磁気粘性流体がヨークの隙間Gから溢れ出るなど露呈可能な量に設定することにより、それを視認することで目視により確実に充填できたことを確認できるとする作用効果を得ることができる。
【0089】
更には、磁場発生装置を構成するヨークには、通路断面積が異なる複数個の流体通路を設けたが、これはヨーク自体の構成および収容部の大きさや形状等に応じて適宜設定すればよい。その他、磁場を発生するコイルは2段構成以上とすることも可能であり、その際の注入器の針の挿入深さもコイルの寸法に応じて設定することができ、かつ上記各実施形態を適宜組み合わせて実施することも可能である。
【0090】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略,置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0091】
図面中、1は筐体、6は水槽、7はサスペンション、10はドラム(洗濯槽)、22はシリンダ、24はシャフト、25はコイルばね、31,32は軸受部材、33,64は収容部、34,35はシール部材、36は磁気粘性流体、40,60は磁場発生装置、43,44,61,62,63はヨーク、46,56はコイルユニット、48,49,51,52,65〜70は流体通路、および50,71は注入器を示す。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11