(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記調整工程において、前記目的タンパク質の等電点に対し、前記溶液の水素イオン指数の値を、前記目的タンパク質の等電点の値と、1と、の和で得られる値以下に調整し、
前記通液工程において、前記アニオン交換膜に、前記溶液を通液して、前記目的タンパク質を透過させ、
前記回収工程において、前記アニオン交換膜を透過した溶液を採取して、前記目的タンパク質を回収する、
請求項1又は2に記載の方法。
前記アニオン交換膜に吸着される、少なくとも分子量が100kDa未満の成分と、分子量が100kDa以上の成分と、を含む前記不純物タンパク質の全成分中、最小の等電点を有する不純物タンパク質の等電点と、最大の等電点を有する不純物タンパク質の等電点と、の差が、1以上である、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の方法。
前記通液工程において、前記アニオン交換膜の透過液中の、前記複数の不純物タンパク質の前記分子量100kDa未満及び分子量100kDa以上の総ての成分の濃度が、通液前の溶液中の5%以下となり、1分間当たり前記アニオン交換膜の体積の5倍以上の体積の溶液を供給する、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の方法。
前記目的タンパク質が、分子量100kDa以上の、免疫グロブリン、チログロブリン、血液凝固第VIII因子、フォンビルブラント因子、フィブリノゲン、キモトリプシノーゲン及び酵素からなる群から選択される1種である、請求項1乃至7のいずれか1項に記載の方法。
前記目的タンパク質を含む溶液を前記アニオン交換膜に供給する際、及び/又は前記目的タンパク質を前記アニオン交換膜から溶出する際、1分間当たり前記アニオン交換膜の体積の5倍以上の体積の溶液を供給する、請求項1乃至9のいずれか1項に記載の方法。
前記目的タンパク質を含む溶液を前記アニオン交換膜に供給し、洗浄後に前記溶出液を前記アニオン交換膜に通液して前記目的タンパク質を溶出回収する際の、前記アニオン交換膜の膜体積あたりの前記目的タンパク質の回収量が10mg/mL以上である、請求項1乃至10のいずれか1項に記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施の形態」という。)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の本実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することが可能である。
【0015】
本実施の形態に係るタンパク質の精製方法は、目的タンパク質と、分子量の異なる複数の不純物タンパク質と、を含有する溶液をアニオン交換膜に通液して、目的タンパク質を精製する方法であって、複数の不純物タンパク質の等電点の値に対し、溶液の水素イオン指数の値を高く調整する調整工程と、調整された溶液をアニオン交換膜に通液する通液工程と、目的タンパク質を回収する回収工程と、を有する。分子量の異なる複数の不純物タンパク質は、少なくとも分子量が100kDa未満の成分と、分子量が100kDa以上の成分と、を含む。通液工程を経た溶液中の100kDa未満の不純物タンパク質の成分の体積あたりの質量濃度と、100kDa以上の不純物タンパク質の成分の体積あたりの質量濃度と、は、通液前の溶液中の5%以下となる。
【0016】
本実施の形態で用いられる多孔膜状のアニオン交換膜は、高分子量タンパク質の吸着量が高く、分子量が100kDa以上、好ましくは200kDa以上、より好ましくは300kDa以上のタンパク質の10%破過の動的吸着容量が、好ましくは20mg/mL以上、より好ましくは30mg/mL以上である。なお、10%破過とは、透過液中の物質濃度が、供給された物質含有溶液の濃度の10%を超えた時点のことをいう。また、動的吸着容量Aは、溶液の濃度をQ、破過した時までに透過させた溶液の体積をV
B、アニオン交換膜の膜体積をV
Mとして、下記式(1)で与えられる。
A=Q×V
B/V
M ・・・(1)
一般に市販されているアニオン交換膜としては、旭化成メディカル製QyuSpeed(登録商標)D、Pall製MustangQ、Sartorius製SartobindQ、Natrix製adseptQ、Millipore製ChromaSorbなどが挙げられるが、これらの中でも、ポリエチレン多孔質基材にグラフト鎖を固定した形態を有する、旭化成メディカル製QyuSpeed(登録商標)Dが、最も高分子量タンパク質の動的吸着容量が高く、好ましい。
【0017】
アニオン交換膜の細孔径は、0.1μm以上0.8μm以下、好ましくは0.2μm以上0.8μm以下、さらに好ましくは0.2μm以上0.6μm以下である。細孔径が小さすぎると、溶液を通液する際の圧力が高くなる傾向にある。また細孔径が大きすぎると、高分子量タンパク質の吸着性能が低下する傾向にある。
【0018】
アニオン交換膜は、アニオン交換基を有する。アニオン交換基は例えば3級アミンである。アニオン交換膜の、体積あたりのリガンド密度に対応する、塩素イオン交換容量の値は、0.3mmol/mL以上1.0mmol/mL以下が好ましく、より好ましくは、0.4mmol/mL以上0.8mmol/mL以下である。イオン交換容量が高いほど、リガンド密度が高いため、高分子量タンパク質の吸着に有利であるが、高すぎると高分子量タンパク質の、アニオン交換膜のグラフト鎖への進入が阻害される傾向にある。
【0019】
アニオン交換膜に溶液を通液する際の通液速度は、精製処理の効率化のためにより速いことが好ましい。通常のビーズカラムにタンパク質を吸着させる場合、通液速度が速くなると、吸着性能が低下することは、タンパク質精製に関する技術分野では公知であり、特に1分間当たりのカラム体積の5倍以上の体積の溶液を供給する速度で通液すると、タンパク質の吸着性能は著しく低下する。これに対し、アニオン交換膜はタンパク質の吸着性能は通液速度に殆ど依存しない。したがって、カラムを用いた場合に比べて明確に処理効率が向上するために、アニオン交換膜に溶液を通液する速度は、1分間当たりアニオン交換膜の体積の5倍以上の体積の溶液を供給することに相当する流速、即ち、5MV/min以上が可能であり、より好ましくは10MV/min以上である。流速の上限は、用いる溶液の粘度及び濁度などの性状に依存するが、通液の際の膜間差圧を検知することにより、容易に設定することができる。ここで、溶液とは、タンパク質溶液、並びにアニオン交換膜の平衡化、洗浄及びタンパク質の溶出に用いる塩溶液のことを指す。
【0020】
アニオン交換膜に通液するタンパク質溶液のpHは、宿主細胞由来タンパク質(HCP: Host Cell Protein)等の不純物タンパク質を膜に吸着させるため、不純物タンパク質の等電点(pI)より、高い値に調整する。pHを不純物タンパク質のpIより高くすることにより、不純物タンパク質はアニオン交換膜に吸着される。タンパク質溶液が塩を含む場合、吸着が有効になされるためには、溶液のpHは不純物タンパク質のpIより、十分に高い値であることが好ましい。具体的には、細胞培養液と同程度の0.1mol/LのNaClを塩として含む溶液の場合には、pHは吸着される不純物タンパク質のpIよりも、1以上高い値であることが好ましい。
【0021】
また、アニオン交換膜に通液するタンパク質溶液のpHは、目的タンパク質を膜に吸着させる場合には、目的タンパク質のpIより、高い値に調整する。pHを目的タンパク質のpIより高くすることにより、目的タンパク質はアニオン交換膜に吸着される。タンパク質溶液が塩を含む場合、吸着が有効になされるためには、溶液のpHは目的タンパク質のpIより、十分に高い値であることが好ましい。具体的には、細胞培養液と同程度の0.1mol/LのNaClを塩として含む溶液の場合には、pHは吸着される目的タンパク質のpIよりも、1以上高い値であることが好ましい。
【0022】
目的タンパク質を含む溶液をアニオン交換膜に通液し、透過液として精製されたタンパク質を回収する場合には、溶液のpHは目的タンパク質のpIより低い値であることが好ましいが、溶液が塩を含む場合には、溶液のpHは目的タンパク質のpIより高い値であることも可能である。具体的には、細胞培養液と同程度の0.1mol/LのNaClを塩として含む溶液の場合には、pHは
透過する目的タンパク質のpI(pIb)に対して、pIb+1より低く調整されれば、pIの値より高いpHであっても、目的タンパク質を透過液として回収することができる。
【0023】
アニオン交換膜に吸着した目的タンパク質を溶出、回収する場合、塩を含む溶液、又は吸着されたタンパク質のpI値よりもpHを低く調整した溶液を、溶出液として用いる。塩濃度は0.1mol/L以上2.0mol/L以下が好ましく、より好ましくは0.15mol/L以上1.0mol/L以下である。塩濃度が低すぎると、十分な溶出が得られない傾向にあり、塩濃度が高すぎると、目的タンパク質溶液の脱塩に負荷がかかる傾向にある。pHを調整した溶液のpHは、塩濃度が0.1mol/L以下の場合に、目的タンパク質のpIより低い値に調整することが好ましく、その範囲において具体的な値は目的タンパク質の種類に依存する。
【0024】
目的タンパク質を溶出、回収する場合の効率を示す、膜体積あたりの回収量は、精製処理が迅速かつ効率的に実施されるために、10mg/mL以上であることが好ましく、より好ましくは20mg/mL以上、さらに好ましくは30mg/mL以上である。膜体積あたりの回収量は、用いるアニオン交換膜の目的とするタンパク質の動的吸着容量、及び供給量によって異なるが、これらの値が大きいほど大きくなる。したがって、目的とする高分子量タンパク質の動的吸着容量の大きなアニオン交換膜が用いられる。
【0025】
本発明の目的タンパク質は特には限定しないが、分子量が100kDa以上であると、アニオン交換膜への吸着容量がカラムに比べて優位に高いため、好ましい。高分子量の目的タンパク質は、分子量が100kDa以上であれば特に限定されないが、血漿分画製剤として回収される、有用なタンパク質である免疫グロブリン(IgG、IgM、IgA、IgE、及びIgD)、血液凝固第VIII因子、フォンビルブラント因子、フィブリノゲン、大腸菌あるいは細胞培養によって得られる酵素、並びに動物あるいは植物の組織から抽出される有用タンパク質が挙げられ、本実施の形態に係る精製方法は、これらのタンパク質の精製に有効である。
【0026】
目的タンパク質と、分子量の異なる複数の不純物タンパク質と、を含有する溶液は、不純物タンパク質以外の不純物をさらに含みうる。不純物の種類は特に限定されないが、高分子量タンパク質を目的タンパク質とする場合に一般的な、有機溶剤、界面活性剤、脂質、さらには高pIタンパク質などの、アニオン交換膜に吸着しにくい性質を有する不純物がある。アニオン交換膜に吸着しにくい不純物は、目的タンパク質をアニオン交換膜に吸着させる過程において、非吸着成分として透過するために、目的タンパク質を溶出して回収することにより、除去することができる。
【0027】
また、アニオン交換膜に吸着する不純物は、溶出条件を制御することによって除去することができる。例えば、目的タンパク質ではない低分子量の不純物タンパク質は、一般に高分子量タンパク質を溶出するための溶液の塩濃度より低い塩濃度の溶液で溶出される傾向にある。そのため、例えば、予め0.1mol/L以下の低塩濃度の溶出液で低分子量タンパク質を溶出し、次いで0.1mol/L以上の高塩濃度の溶出液で精製された目的タンパク質を溶出し、回収する。
【0028】
以下、実施例及び比較例(本明細書中において、単に「実施例等」ともいう。)に基づいて本実施の形態をさらに具体的に説明するが、本実施の形態の範囲は以下の実施例のみに限定されない。
【実施例1】
【0029】
(目的タンパク質と広い分子量範囲の不純物タンパク質を含む混合液のアニオン交換膜への通液)
20mmol/LのTris−HCl(pH7.5)緩衝液に、目的タンパク質として、キモトリプシノーゲン(α−chymotrypsinogen−A、分子量25kDa、pI9.2、Sigma−Aldrich製)0.25g/Lを含む溶液に、不純物タンパク質として、表1に示すように、チログロブリン(THY)(分子量660kDa、Sigma−Aldrich製)、β−ラクトグロブリン(BLG)(分子量18kDa、Sigma−Aldrich製)、オブアルブミン(OVA)(分子量43kDa、Sigma−Aldrich製)、及びウシ血清アルブミン(BSA)(分子量65kDa、Sigma−Aldrich製)の分子量の異なる4種類のタンパク質をそれぞれの濃度が、0.25g/Lとなるように添加し、溶解した後、ザルトリウス社製の精密ろ過膜ミニザルト(最大細孔径0.22μm)を用いてろ過し、評価に用いる、目的タンパク質と高分子量のタンパク質を含む4種類の不純物タンパク質の混合溶液を調製した。表1に示すように、少なくとも分子量が100kDa未満であるBSAの等電点と、分子量が100kDa以上のチログロブリンの等電点と、の差は、1以上であった。
【表1】
【0030】
グラフト鎖を有し、アニオン交換基として3級アミンを有する多孔膜状のアニオン交換膜として、旭化成メディカル社製QyuSpeed(登録商標)D (QSD) 0.6mL (細孔径0.2−0.3μm、イオン交換容量0.55−0.6mmol/mL)を用意し、20mmol/LのTris−HCl(pH7.5)緩衝液を20mL通液して平衡化した後、膜体積の140倍の溶液体積(140MV)に相当する84mLの、タンパク質混合溶液を透過させ、10MVごとの透過フラクションを採取した。溶液は評価モジュール内の中空糸多孔膜の内側から外側に向かって流速8mL/minにて通液した。この流速は、毎分膜体積の13.3倍の溶液を供給しており、規格化した流速13.3MV/minと記載する。
【0031】
得られた透過フラクションに含まれるタンパク質を評価するために、10−20MV、40−50MV、70−80MV、100−110MV及び130−140MVの透過フラクションについて、SDS−PAGEを用いて解析した。分析に用いる透過液10μLを同量のサンプル処理液(第一化学薬品株式会社製、トリスSDS β MEサンプル処理液)と混合し、100℃で5分間熱処理した。得られたサンプルを、マイクロピペットを用いて電気泳動用ゲルプレート(第一化学薬品株式会社製、マルチゲルIIミニ8/16)に1ウェルにつき10μLを適用した。次に、泳動用緩衝液(第一化学薬品株式会社製、SDS−トリス−グリシン泳動緩衝液を10倍希釈して使用)を満たした電気泳動槽(和光純薬株式会社製、EasySeparator(登録商標))に電気泳動用ゲルプレートを挿入し、30mAの定電流で1時間泳動させ、透過液中のタンパク質を分離した。泳動後、
図1に示すように、ゲルプレートを染色試薬(フナコシ株式会社製、InstantBlue)で染色した。
【0032】
図1において、レーン1は分子量マーカー、レーン2は透過前のタンパク質溶液、レーン3からレーン7は、それぞれ10−20MV、40−50MV、70−80MV、100−110MV及び130−140MVの透過フラクションの泳動結果である。この結果から、透過量50MVまでは全分子量の不純物タンパク質が除去されて、分子量25kDaの目的タンパク質であるキモトリプシノーゲンのみが透過液中に含まれ、透過量80MV以降で不純物タンパク質が徐々に漏れ始めていている事が示された。
【0033】
[比較例1]
(目的タンパク質と広い分子量範囲の不純物タンパク質を含むタンパク質混合液のアニオン交換カラムへの通液)
実施例1で用いたものと同じ、目的タンパク質と異なる分子量の4種類の不純物タンパク質の混合溶液を、アニオン交換カラムに通液し、透過液中に含まれる各タンパク質の濃度を評価した。透過フラクションはカラム体積の10倍に相当する体積(10CV)ごとに採取した。アニオン交換カラムとして、GEヘルスケア製、HiTrapQ HP_1ml(粒子径90μm、イオン交換容量0.18−0.26mmol/mL)を用い、流速2mL/min(2CV/min、あるいは300cm/hr)で、実施例1と同様の方法で通液し、その透過フラクションをSDS−PAGEを用いて評価した。結果を実施例1と同じく
図1に示す。レーン8は透過前のタンパク質溶液、レーン9からレーン13は、それぞれ10−20CV、40−50CV、70−80CV、100−110CV及び130−140CVの透過フラクションの泳動結果である。この結果から、アニオン交換カラムを用いた場合、最初の透過フラクションから、高分子量の不純物タンパク質が含まれ、実施例1に比べて目的タンパク質の十分な精製が実現されない事が示された。
【実施例2】
【0034】
(タンパク質混合液のアニオン交換膜への通液)
表2に示すように、20mmol/LのTris−HCl(pH7.5)緩衝液に、チログロブリン(THY)(分子量660kDa、Sigma−Aldrich製)、β−ラクトグロブリン(BLG)(分子量18kDa、Sigma−Aldrich製)、オブアルブミン(OVA)(分子量43kDa、Sigma−Aldrich製)、及びウシ血清アルブミン(BSA)(分子量65kDa、Sigma−Aldrich製)の分子量の異なる4種類のタンパク質をそれぞれの濃度が、0.25g/Lとなるように添加し、溶解した後、ザルトリウス社製の精密ろ過膜ミニザルト(最大細孔径0.22μm)を用いてろ過し、評価に用いる、高分子量のタンパク質を含む4種類のタンパク質の混合溶液を調製した。表1に示すように、少なくとも分子量が100kDa未満であるBSAの等電点と、分子量が100kDa以上のチログロブリンの等電点と、の差は、1以上であった。
【表2】
【0035】
グラフト鎖を有し、アニオン交換基として3級アミンを有する多孔膜状のアニオン交換膜として、旭化成メディカル社製QyuSpeed(登録商標)D (QSD) 0.6mL (細孔径0.2−0.3μm、イオン交換容量0.55−0.6mmol/mL)を用意し、20mmol/LのTris−HCl(pH7.5)緩衝液を20mL通液して平衡化した後、破過が開始するまで4種類のタンパク質の混合溶液を透過させた。溶液は評価モジュール内の中空糸多孔膜の内側から外側に向かって流速8mL/minにて通液した。この流速は、毎分膜体積の13.3倍の溶液を供給しており、規格化した流速13.3MV/minと記載する。
【0036】
評価はGEヘルスケアバイオサイエンス製AKTAexplorer100を用いて実施し、同装置に設置されているUV吸光度計により、透過液の280nmのUV吸光度をモニターした。膜体積の60倍の溶液体積(60MV)に相当する、36mLの通液量を超えるまで、透過液のUV吸光度は検出されず、4種類総てのタンパク質がアニオン交換膜に吸着し、4種類総てのタンパク質が除去された透過液が得られた。
【0037】
また、20MVずつの透過液中に含まれる、各タンパク質の濃度を、ゲルろ過クロマトグラフィーにより評価した。島津製作所株式会社製クロマトグラフLC−10Aシステムにゲルろ過カラムとして東ソー株式会社製TSKgel G3000SWXLを取り付け、0.1mol/Lのリン酸及び0.2mol/Lのアルギニン(pH6.8)を含むバッファーを用いて、30℃において流速0.6ml/minでカラムに通液し、ここに評価サンプルを10μL添加し、ゲルろ過カラムを透過して得られる、リテンションタイム(保持時間)ごとの280nmのUV吸光度を、システムに付属のUV吸光度計により計測した。
【0038】
まず、各タンパク質単独の溶液をゲルろ過クロマトグラフィーによって評価することにより、各タンパク質のリテンションタイムを計測すると共に、ピーク面積とタンパク質濃度との検量線を作成し、この結果をもとに、アニオン交換膜の透過液に含まれる、各タンパク質の濃度を求めた。
図2に透過液量と、その透過液に含まれる、各タンパク質の濃度と、をプロットした。ここで、タンパク質濃度は、供給液濃度c0に対する透過液中の濃度cの比、c/c0で表している。
図2より、QSDを透過することにより、供給液に含まれる異なる分子量の全タンパク質が、透過液量60MVまで、透過液中から完全に除去されていることが示された。
【0039】
[比較例2]
(タンパク質混合液のアニオン交換カラムへの通液)
実施例2で用いたものと同じ、異なる分子量の4種類のタンパク質の混合溶液を、アニオン交換カラムに通液し、透過液中に含まれる各タンパク質の濃度を評価した。アニオン交換カラムとして、GEヘルスケア製、HiTrapQ HP_1ml(粒子径90μm、イオン交換容量0.18−0.26mmol/mL)を用い、流速2mL/min(2CV/min、あるいは300cm/hr)で、実施例2と同様の方法で通液した。実施例2のアニオン交換膜からの透過液と異なり、アニオン交換カラムでは、最初の透過フラクションからUV吸光度が検出され、透過液にタンパク質が含まれていることが示された。
【0040】
カラム体積の20倍に相当する体積(20CV)ごとの、透過液に含まれる各タンパク質の濃度を、実施例2と同様にしてゲルろ過クロマトグラフィーにより評価した。
図3にアニオン交換カラムの透過液量と、その透過液に含まれる、各タンパク質の濃度をプロットした。
図3より、最初の透過フラクションの段階から透過液中にタンパク質が含まれており、特に分子量100kDa以上の高分子量のタンパク質が、吸着されずに透過することが確認された。
【実施例3】
【0041】
(目的タンパク質の回収)
実施例2で調製した、4種類のタンパク質を不純物タンパク質とし、当該4種類のタンパク質を含む混合溶液に、塩濃度0.1mol/LとなるようにNaClを添加し、さらに目的タンパク質として抗体IgGタンパク質(株式会社ベネシス製、献血ヴェノグロブリン−IH、分子量約170kDa、pI約7〜8)を2mg/mLとなるように添加した後、pHを、抗体IgGタンパク質のpIの値と、1と、の和で得られる値以下の8.0に調整した。得られた溶液を実施例1と同様にしてアニオン交換膜QSDに、60MVに相当する体積だけ通液し、透過液を回収した。
【0042】
得られた透過液を、実施例2と同様にして、ゲルろ過クロマトグラフィーにより評価したところ、IgGであることを示す分子量170kDaのみのピークが確認され、不純物である広範囲の分子量に渡る4種類のタンパク質が除去され、目的タンパク質のみが回収されたことが示された。また、IgGタンパク質溶液の濃度と280nmでのUV吸光度から得られる検量線から、透過液中のIgGタンパク質の濃度を評価したところ、1.9mg/mLであった。これより、目的タンパク質であるIgGの回収率は95%であった。
【実施例4】
【0043】
(タンパク質混合溶液からの高分子量タンパク質(THY)の回収)
実施例2と同様にして、THY、β−ラクトグロブリン、オブアルブミン、BSAをそれぞれ0.25g/mL溶解した混合タンパク質溶液を作成した。ただし、実施例4においては、THYを高分子量の目的タンパク質とし、β−ラクトグロブリン、オブアルブミン、BSAを目的としない低分子量のタンパク質とする。この混合溶液をQSDの膜体積の60倍に相当する36mLを、QSDに通液し、緩衝液で洗浄した。次に、目的としない低分子量のタンパク質を溶出するために0.1mol/LのNaClを含む、前記緩衝液を20mL通液し、その後、目的とするTHYを溶出するために0.2mol/LのNaClを含む緩衝液を同様に10mL通液し、この溶出液を回収した。
【0044】
回収した0.2mol/LのNaClを含む緩衝液よりなる溶出液に含まれる、各タンパク質の濃度を実施例1と同様にして、ゲルろ過クロマトグラフィーにより評価したところ、目的タンパク質であるTHYは0.76mg/mL、目的としないタンパク質であるβ−ラクトグロブリン、オブアルブミン、及びBSAはそれぞれ、0.01mg/mL、0.01mg/mL、0.012mg/mLであった。また、THYの回収率は84%、膜体積あたりの回収量は12.6mg/mL−adであった。この結果から、溶出条件を制御することにより、目的とするタンパク質を濃縮、精製して回収可能なことが示された。
【実施例5】
【0045】
(目的タンパク質(FVIII)からの不純物界面活性剤の除去と濃縮)
血液凝固第VIII因子(日本赤十字社製、CROSS EIGHT M(登録商標))0.01g、20mmol/L Tris−HCl(pH8.0)緩衝液950mL、界面活性剤、Tween20(ポリオキシエチレンソルビタンモノラウラート、及び東京化成工業より購入)10mLを混合し、0.1%の界面活性剤を含み、血液凝固第VIII因子の濃度が0.01g/Lの希薄溶液を作成した。この溶液の全量を、実施例1と同様の方法で、アニオン交換膜モジュール、旭化成メディカル社製QyuSpeed D(QSD) 0.6mLに通液して血液凝固第VIII因子を同モジュールに吸着させ、20mmol/L Tris−HCl(pH8.0)緩衝液15mLを通液して、モジュールを洗浄した後、1.0mol/L NaClを含む、20mmol/L Tris−HCl(pH8.0)緩衝液10mLを通液して、吸着した血液凝固第VIII因子を溶出、回収した。
【0046】
得られた回収液の回収率を実施例2と同様の方法によりゲルろ過クロマトグラフィーの方法で評価したところ、回収液中の血液凝固第VIII因子の濃度は、0.97g/mLであり、回収率は97%であった。また、回収液に界面活性剤は含まれていなかった。これらの結果より、不純物である界面活性剤が除去され、精製及び濃縮された血液凝固第VIII因子が得られることが確認された。
【実施例6】
【0047】
(細胞培養液からの不純物タンパク質の除去)
Invitrogen社製、CD OptiCHO無血清培地を用いて得られた細胞培養液を、ザルトリウス社製の精密ろ過膜ミニザルト(最大細孔径0.22μm)を用いてろ過し、評価に用いる不純物溶液を得た。また、この不純物溶液60mLをアニオン交換膜であるQSDに通液し、膜体積の100倍(100MV)に相当する体積の、pH7.5及び電気伝導度10mS/cmの不純物溶液の透過液を得た。体積2mLの得られた不純物溶液、及びその透過液に、それぞれ3倍量の体積(6mL)の、−20℃に冷却したアセトンを添加し、−20℃にて72時間放置後、遠心分離機を用いて沈殿物を回収することにより、それぞれの溶液に含まれていた、塩及び各種夾雑物が除去された不純物タンパク質を得た。
【0048】
得られたそれぞれの不純物タンパク質の分子量及びpIの分布を調べるために、Invitorogen社製ZOOM IPG Runnerを用いて、2次元電気泳動を実施した。ここで、ZOOM IPG Runnerとは、評価に必要な泳動槽及び試薬類を含む、装置一式の名称である。それぞれの、得られた不純物タンパク質に、130μLの泳道用サンプル調製液(8.4mol/L Urea,2.4mol/L Thiourea, 4.8%CHAPSをソニケーターと撹拌にて溶解し、0.22umフィルターにて濾過後、分注し−20℃にて保管した後、室温に戻したもの)、1.5μLのInvitorogen社製 ZOOMキャリア アンフォライト(pH3−10)、1.5μLの0.2%BPB(ブロモフェノールブルー、Sigma−Aldrich社製)水溶液を添加し、さらに精製水を加えて155μLとして溶解し、泳動用サンプルを調製した。得られたサンプル155μLを、1次元目のストリップゲル(Invitorogen社製 ZOOMストリップゲルpH3−10(non−Linear))に添加し、パワーサプライ(Pharmacia Biotech(現GEヘルスケアバイオサイエンス)社製 Electrophoresis Power Supply−EPS 3500XL)を使用して、175Vにて20分間、次いで175Vから2000Vまで昇圧しながら 45分間、さらに2000Vにて60分間の電気勾配をかけて泳動を行った。
【0049】
一次元目の電気泳動終了後のストリップゲルは、室温で緩やかに振とうしながらSDS処理を15分間行った。SDS処理液として、ストリップゲル1本に対してInvitorogen社製 LDS Sample Buffer (4x) 1.25mLを精製水で5mLに希釈したものを用いた。二次元目の電気泳動では、Invitorogen社製 NuPage 4−12% Bis−Tris ZOOM gels(10mm・IPGwell) にSDS処理を行ったストリップゲルを添加し、泳動用緩衝液にはInvitorogen社製MOPS SDS Running Buffer(20x)を精製水にて1Xに希釈したものを使用した。また、分子量サイズマーカーには、Invitorogen社製 Novex Sharp Unstained Protein Standard を用い、200Vにて55分間、定電圧で泳動を行った。二次元目の泳動を終了したゲルは、メタノール50%・酢酸10%を精製水に溶解した固定液に浸し、室温で一晩静置した。固定したゲルは、コスモ・バイオ株式会社製2D−銀染色試薬・IIを用いて、銀染色を行い、分子量及びpI分布を示す、2次元電気泳動の結果を得た。
【0050】
図4に得られた2次元電気泳動の結果を示す。ここで、a)は細胞培養液から得られた不純物溶液に含まれていたタンパク質、b)は不純物溶液のアニオン交換膜QSDの透過液に含まれていたタンパク質の、それぞれの2次元電気泳動パターンである。
図4a)の結果から、細胞培養液に含まれる不純物タンパク質は、約300kDaまでの分子量、及び少なくとも3から9.5までの範囲に渡るpIの、広い範囲の分布を有していることが示される。これに対し、
図4b)の結果から、アニオン交換膜QSDの透過液に含まれるタンパク質は、pIが4以下の全分子量範囲のタンパク質が除去されたことが確認された。よって、pIの差が1以上の複数の不純物タンパク質を除去可能なことが示された。
【0051】
[比較例3]
アニオン交換膜QSDの換わりに、アニオン交換カラムとして、GEヘルスケア製、HiTrapQ HP_1mlを用い、流速2mL/min(2CV/min、あるいは300cm/hr)にて通液する以外は、実施例6と全く同様にして、細胞培養液に含まれる不純物溶液の透過液を回収し、2次元電気泳動法を用いて、透過液中のタンパク質の分子量及びpIの分布を評価した。
図5に得られた2次元電気泳動の結果を示す。これより、やや不純物タンパク質の除去が認められるものの、広い範囲の分子量分布のタンパク質が除去されるpI領域はなかった。