(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5931367
(24)【登録日】2016年5月13日
(45)【発行日】2016年6月8日
(54)【発明の名称】車両用エネルギー吸収ビーム及びその取付方法
(51)【国際特許分類】
B60J 5/00 20060101AFI20160526BHJP
B60R 19/04 20060101ALI20160526BHJP
【FI】
B60J5/00 Q
B60R19/04 M
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2011-164952(P2011-164952)
(22)【出願日】2011年7月28日
(65)【公開番号】特開2013-28243(P2013-28243A)
(43)【公開日】2013年2月7日
【審査請求日】2014年5月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】富士重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000383
【氏名又は名称】特許業務法人 エビス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 信次
(72)【発明者】
【氏名】青山 友典
(72)【発明者】
【氏名】清水 純
【審査官】
岸 智章
(56)【参考文献】
【文献】
特開平06−048177(JP,A)
【文献】
特開平11−321318(JP,A)
【文献】
特開2005−225327(JP,A)
【文献】
特開2001−063495(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60J 5/00
B60R 19/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に設けられ、衝撃荷重入力方向に対して交差する方向に延び、両端部が前記車両の所定の部位に接続される中空の車両用エネルギー吸収ビームであって、
衝撃荷重入力方向に対して交差する方向に延びる底面部と、
前記底面部の幅方向両端部から衝撃荷重入力方向側に向かって延びて先端側に進むに従って暫時接近する一対の第1側壁部と、前記一対の第1側壁部の各先端部から衝撃荷重入力方向側に向かって延びて先端側に進むに従って暫時接近する一対の第2側壁部と、を有してなる一対の側壁部と、
前記一対の第2側壁部の各先端部から衝撃荷重入力方向側に向かって直線状に延びて先端側に進むに従って前記一対の第1側壁部及び前記一対の第2側壁部のなす角度よりも大きな角度を有して暫時接近して繋がる一対の頂壁部とを備え、
前記第1側壁部と前記第2側壁部との接続部分に、内側が凸となる屈曲部を形成し、
前記底面部、前記一対の側壁部及び前記一対の頂壁部は全体として1つの閉断面を形成するように一体形成される
ことを特徴とする車両用エネルギー吸収ビーム。
【請求項2】
車両に設けられ、衝撃荷重入力方向に対して交差する方向に延び、両端部が前記車両の所定の部位に接続される中空の車両用エネルギー吸収ビームであって、
衝撃荷重入力方向に対して交差する方向に延びる底面部と、
前記底面部の幅方向両端部から衝撃荷重入力方向側に向かって延びて先端側に進むに従って暫時接近する一対の第1側壁部と、前記一対の第1側壁部の各先端部から衝撃荷重入力方向側に向かって延びて先端側に進むに従って前記一対の第1側壁部のなす角度よりも小さい角度を有して暫時接近する一対の第2側壁部と、を有してなる一対の側壁部と、
前記一対の第2側壁部の各先端部から衝撃荷重入力方向側に向かって延びて先端側に進むに従って前記一対の第1側壁部及び前記一対の第2側壁部のなす角度よりも大きな角度を有して暫時接近して繋がる一対の頂壁部とを備え、
前記第1側壁部と前記第2側壁部との接続部分は、内側が凸となるように屈曲し、
前記底面部、前記一対の側壁部及び前記一対の頂壁部は、全体として1つの閉断面を形成するように一体形成される
ことを特徴とする車両用エネルギー吸収ビーム。
【請求項3】
前記一対の頂壁部が衝撃荷重入力方向側に配置され、且つ前記底面部が衝撃荷重入力方向と逆側に配置されるように、前記車両に設置されるとともに、
前記車両用エネルギー吸収ビームを前記車両に設置した際に、前記底面部の幅方向中央部を直交して通る中心線の水平面に対する向きが、前記中心線と該底面部と交差する交点と、前記頂壁部及び前記側壁部の交点とを繋ぐ仮想線と前記中心線とのなす角度の範囲内となるように前記車両に設置される
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の車両用エネルギー吸収ビーム。
【請求項4】
前記一対の頂壁部の両先端部は曲面部を介して繋がっている
ことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の車両用エネルギー吸収ビーム。
【請求項5】
前記車両のドア内に設けられ、両端部が前記ドア内の所定の部位に接続される
ことを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の車両用エネルギー吸収ビーム。
【請求項6】
前記底面部がかしめにより前記ドア内に接続される
ことを特徴とする請求項5に記載の車両用エネルギー吸収ビームの取付方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に設けられ、衝撃荷重入力方向に対して交差する方向に延び、両端部が前記車両の所定の部位に支持される車両用エネルギー吸収ビーム
及びその取付方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両は、側面衝突時の安全性をより向上することが要求されている。例えば、車両の側部に設けられるドアは、衝突時に入力されるエネルギーを十分に吸収しかつ変形量を低減するため、ドアのアウタパネルとインナパネルとの間の空間部内に、車両前後方向に延びる中空のパイプによって形成されたエネルギー吸収ビームを配設したものが知られている。
【0003】
このエネルギー吸収ビームは、スチール等によって形成された円筒状のものが一般的であり、造管後の熱処理により強度を向上させているが、このビームは直線状に延びるので、ドアのアウタパネルの外形に沿って配置することができない。このため、エネルギー吸収ビームの端部に、アウタパネルとの隙間を一定に確保するためのブラケットが必要となり、コストや重量の増大を招いていた。また衝撃荷重をビームで受け止めてドア内に設けられたパッドに効率的よく伝達して傷害値を向上するために、ビーム非入力面側に平面状のブラケットを配設しており、コストや重量の増大を招いていた。
【0004】
そこで、エネルギー吸収ビームは、比較的軽量でありかつ断面形状を成形する自由度が大きい帯状綱板をプレス成型したものや、樹脂材料を押し出し成型したものが提案されている。
【0005】
このようなエネルギー吸収ビームは、衝撃荷重に対する強度を向上するため、ビームの長手方向に延びるとともに衝撃荷重の入力方向側に突出して先端部が半円状に湾曲する突出部をビームの幅方向に並設したものや、ビームの長手方向に延びるとともに衝撃荷重の入力方向側に突出して断面形状がほぼ正三角形に形成され、正三角形の頂部から底部の中心に向かって2枚の板同士を左右から重ね合わせた状態の支柱板部を形成したものが知られている(特許文献1、特許文献2参照)。
【0006】
一方、ドア内のエネルギー吸収ビームと同様にエネルギーの吸収性能が問題となる車両のバンパビームには、帯状綱板を成型して内部に断面視矩形状の空間部を形成した箱状のチャンバを上下方向に2段に並設したものや、樹脂材料を押し出し成型して内部に断面視矩形状の空間部を形成した後に、冷却・フォーミングにより、上下方向に延びる一対の側面部の上下方向中間部に内側が凸となる屈曲部を設けて箱状に形成したものが知られている(特許文献3、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−94943号公報
【特許文献2】特許3763858号公報
【特許文献3】特開平11−91466号公報
【特許文献4】特許3699568号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載のエネルギー吸収ビームは、半円状の先端部は変形し難いので、突出部と同じ方向に作用する衝撃荷重に対しては突出部が変形して衝撃荷重のエネルギーを吸収する。しかし、衝撃荷重の方向が突出部の突出方向とずれた場合には、突出部が倒れるように一気に変形して、エネルギーの吸収が不十分になる虞がある。
【0009】
また特許文献2に記載のエネルギー吸収ビームは、正三角形の頂部に支柱板部に沿った衝撃荷重が作用した場合の剛性は高いが、この衝撃荷重の方向がずれると、一気に潰れて、衝撃荷重のエネルギーの吸収が不十分になる虞がある。
【0010】
また特許文献3,4に記載のバンパビームは、内部に空間部を形成する箱状部分が車両の進行方向に対して前後方向に延びるので、車両の進行方向に対する前後方向の衝撃荷重が箱状部分に作用すると、衝撃荷重の大きさに応じて箱状部分が潰れて衝撃荷重のエネルギーを吸収することができるが、衝撃荷重の方向が車両の進行方向とずれた場合には、箱状部分が一気に潰れて、エネルギーの吸収が不十分になる虞がある。
【0011】
さらに、これらの特許文献1〜4に記載のものは衝撃荷重の方向がずれて作用した場合に関する記載はなく、これら特許文献1〜4に記載のものを組み合わせたものは、衝撃荷重の作用する方向がずれた場合に衝撃エネルギーを十分に吸収することができない。
【0012】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、エネルギー吸収ビームに作用する衝撃荷重の方向がずれた場合でも、衝撃エネルギーを十分に吸収可能な車両用エネルギー吸収ビーム
及びその取付方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために本発明の車両用エネルギー吸収ビームは、車両(実施の形態における前部左ドア10)に設けられ、衝撃荷重入力方向に対して交差する方向に延び、両端部が車両の所定の部位に接続される中空の車両用エネルギー吸収ビームであって、衝撃荷重入力方向に対して交差する方向に延びる底面部と、
底面部の幅方向両端部から衝撃荷重入力方向側に向かって延びて先端側に進むに従って暫時接近する一対の第1側壁部と、一対の第1側壁部の各先端部から衝撃荷重入力方向側に向かって延びて先端側に進むに従って暫時接近する一対の第2側壁部と、を有してなる一対の側壁部と、一対の
第2側壁部の各先端部から衝撃荷重入力方向側に向かって直線状に延びて先端側に進むに従って一対の
第1側壁部及び一対の第2側壁部のなす角度よりも大きな角度を有して暫時接近して繋がる一対の頂壁部とを備え、
第1側壁部と第2側壁部との接続部分に、内側が凸となる屈曲部を形成し、底面部、一対の側壁部及び一対の頂壁部は全体として1つの閉断面を形成するように一体形成されることを特徴とする(請求項1)。
【0014】
また、本発明は、車両に設けられ、衝撃荷重入力方向に対して交差する方向に延び、両端部が車両の所定の部位に接続される中空の車両用エネルギー吸収ビームであって、衝撃荷重入力方向に対して交差する方向に延びる底面部と、
底面部の幅方向両端部から衝撃荷重入力方向側に向かって延びて先端側に進むに従って暫時接近する一対の第1側壁部と、一対の第1側壁部の各先端部から衝撃荷重入力方向側に向かって延びて先端側に進むに従って一対の第1側壁部のなす角度よりも小さい角度を有して暫時接近する一対の第2側壁部と、を有してなる一対の側壁部と、一対の
第2側壁部の各先端部から衝撃荷重入力方向側に向かって延びて先端側に進むに従って一対の
第1側壁部及び一対の第2側壁部のなす角度よりも大きな角度を有して暫時接近して繋がる一対の頂壁部とを備え、第1側壁部と第2側壁部との接続部分は、内側が凸となるように屈曲し、底面部、一対の側壁部及び一対の頂壁部は、全体として1つの閉断面を形成するように一体形成されることを特徴とする(請求項2)。
【0015】
また本発明の一対の頂壁部が衝撃荷重入力方向側に配置され、且つ底面部が衝撃荷重入力方向と逆側に配置されるように、車両に設置されるとともに、
車両用エネルギー吸収ビームを車両に設置した際に、底面部の幅方向中央部を直交して通る中心線
の水平面に対する向きが、中心線と該底面部と交差する交点と、頂壁部及び側壁部の交点とを繋ぐ仮想線と中心線とのなす角度
の範囲内となるように車両に設置されることを特徴とする(請求項3)。
【0016】
また、本発明は、一対の頂壁部の両先端部が曲面部を介して繋がっていることを特徴とする(請求項4)。
【0017】
また、本発明は、車両のドア内に設けられ、両端部がドア内の所定の部位に接続されることを特徴とする(請求項5)。
【0018】
また、本発明の底面部がかしめによりドア内に接続されることを特徴とする(請求項6)。
【発明の効果】
【0019】
以上説明したように、本発明に係わる車両用エネルギー吸収ビームによれば、上記特徴を有することで、エネルギー吸収ビームに作用する衝撃荷重の方向がずれた場合でも、衝撃エネルギーを十分に吸収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の一実施の形態に係わる車両用エネルギー吸収ビームの幅方向の断面図を示す。
【
図2】本発明の車両用エネルギー吸収ビームが設けられた前部左ドアの外側斜視図を示す。
【
図3】本発明の車両用エネルギー吸収ビームの衝撃荷重に対する抗力Nと変形ストロークSとの関係を示し、同図(a)は衝撃荷重の方向が車両用エネルギー吸収ビームの中心線とのなす作用角度θが0度の場合を示し、同図(b)は衝撃荷重の作用角度θが20度の場合を示す。
【
図4】作用角度θが20度の場合における本発明の車両用エネルギー吸収ビームの作用説明図であり、同図(a)はビームの変形ストロークがs1の場合を示し、同図(b)はビームの変形ストロークがs2の場合を示し、同図(c)はビームの変形ストロークがs3の場合を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の車両用エネルギー吸収ビームの好ましい実施の形態を
図1から
図4に基づいて説明する。先ず、
図2を参照して、車両用エネルギー吸収ビームが設けられる車両用ドアの概略について説明する。なお、本実施の形態は車両の車幅方向左側前部に配設された前部左ドアを例にして説明する。
【0022】
前部左ドア10は、
図2(斜視図)に示すように、図示しない車両のボディの前部左側に配設されたフロントピラにヒンジを介して開閉自在に支持されるドア本体1を備える。ドア本体11は、車幅方向外側に配設されて車両前後方向に延びるアウタパネル12と、アウタパネル12の車幅方向内側に所定の間隙を有して対向配置されてアウタパネル12に沿って車両前後方向に延びるインナパネル13とを有して構成される。
【0023】
アウタパネル12とインナパネル13との間には空間部14が形成されている。この空間部14内には、ウィンドウガラス16の上下移動を案内するドアサッシュ、側面衝突時のエネルギーを吸収可能な本願発明の車両用エネルギー吸収ビーム30、前部左ドア10をボディにロックするドアロック機構部等が設けられている。
【0024】
次に、車両用エネルギー吸収ビーム30の構造について、
図1及び
図2(断面図)を用いて説明する。車両用エネルギー吸収ビーム30は、ドア本体11の空間部14内の前側から後側にアウタパネル12に沿って延びるとともに、ドア本体11の空間部14内に前側が後側よりも高い位置になるように、前側に進むに従って上方へ傾斜するように配置されている。車両用エネルギー吸収ビーム30の前端部及び後端部には、前側ビームブラケット18及び後側ビームブラケット19が取り付けられている。これらのビームブラケットはインナパネル13に接続されて、車両用エネルギー吸収ビーム30は、前側ビームブラケット18及び後側ビームブラケット19を介してインナパネル13に支持されている。車両用エネルギー吸収ビーム30のビームブラケットへの接続については後述する。
【0025】
車両用エネルギー吸収ビーム30は、
図2に示すように、高張力鋼をロール成形して形成され、車両の側方からドア本体側に略水平方向に作用する衝撃荷重Fの入力方向に対して直交する方向に延びる底面部31と、底面部31の幅方向両端部から衝撃荷重入力方向側に向かって延びて先端側に進むに従って暫時接近する一対の側壁部33,34と、一対の側壁部33,34の各先端部から衝撃荷重入力方向側に向かって延びて先端側に進むに従って一対の側壁部33,34のなす角度よりも大きな角度を有して暫時接近して繋がる一対の頂壁部36,37とを備え、一対の側壁部33,34は、底面部31の幅方向両端部から衝撃荷重入力方向側に向かって延びて先端側に進むに従って暫時接近する一対の第1側壁部33a,34aと、一対の第1側壁部33a,34aの各先端部から衝撃荷重入力方向側に向かって延びて先端側に進むに従って一対の第1側壁部33a,34aのなす角度よりも小さい角度を有して暫時接近
する一対の第2側壁部33b,34bとを有してなる。第1側壁部33a,34aと第2側壁部33b,34bとの接続部分は、内側が凸となるように屈曲する屈曲部39を形成し、底面部31、一対の側壁部33,34及び一対の頂壁部36,37は、全体として1つの閉断面を形成するように一体形成されている。
【0026】
本実施例では、第1側壁部33a,34aは底面部31の幅方向中央部を直交して通る中心線Lに対して約37度の傾斜角度α1を有して傾き、第2側壁部33b、34bは中心線Lに対して約16の傾斜角度α2を有して傾き、頂壁部36,37は中心線Lに対して約60の傾斜角度α3を有して傾いている。
【0027】
また、一対の頂壁部36,37間、第2側壁部33b、34bと頂壁部36,37との間、第2側壁部33b、34bと底面部31との間は、曲面部41を介して繋がっている。このため、これらの間に作用する力を分散して容易に座屈する事態を防止している。なお、屈曲部39も内側に曲面状に突出している。
【0028】
このように構成された車両用エネルギー吸収ビーム30は、一対の頂壁部36,37がドア本体11の幅方向外側に配置され、且つ底面部31がドア本体11の幅方向内側に配置されるように、ドア本体11内に設置されている。このため、底面部31はインナパネル13に面するように配置されるので、ドア本体11内に設けられるパッド(図示せず)に対して底面部31を対向配置することができ、車両用エネルギー吸収ビーム30の非入力面側に平面状のブラケットを設ける必要性を無くしている。
【0029】
次に、本発明の車両用エネルギー吸収ビーム30に衝撃荷重Fが作用したときの衝撃荷重Fに対する抗力Nと変形ストロークSとの関係について
図3を用いて説明する。
図3(a)は、衝撃荷重F(
図1参照)が一対の頂壁部36,37を繋ぐ曲面部41に作用するとともに、その作用方向が車両用エネルギー吸収ビーム30の中心線Lに沿う方向(作用角度θが0度)の場合を示し、
図3(b)は衝撃荷重F'(
図1参照)の作用角度θが衝撃荷重F'に対して約20度傾いた場合を示している。
【0030】
車両用エネルギー吸収ビーム30は、
図3(a)に示すように、衝撃荷重Fによって変形ストロークSがゼロからs1及びs2に増加するにしたがって抗力Nが増加し、変形ストロークSがs2を超えると抗力Nがs2に対応する抗力よりも僅かに小さくなる。ここで、s1、s2、s3は互いに異なる変形ストロークSを示し、0<s1<s2<s3なる関係を有している。つまり、車両用エネルギー吸収ビーム30は、頂壁部36,37及び側壁部33,34(第1側壁部33a、34a及び第2側壁部33b、34b)が底面部側に進むに従って外側に拡開する方向に延びて繋がり、また第1側壁部33a、34aと第2側壁部33b、34bとの間に内側に凸の屈曲部39が設けられているので、一対の頂壁部36,37間に衝撃荷重Fが作用すると、この衝撃荷重Fの初期段階において、屈曲部39を支点として頂壁部36,37及び第1側壁部33a、34aが座屈せずに、頂壁部36,37及び側壁部33,34が撓んで衝撃荷重Fを支持する。また、各壁部間は曲面部41を介して繋がっている。このため、車両用エネルギー吸収ビーム30に衝撃荷重Fが作用しても、車両用エネルギー吸収ビーム30が一気に潰れることはなく、頂壁部36,37等の弾性変形にともなう衝撃荷重Fの変位分を衝撃エネルギーとして吸収することができる。
【0031】
また、車両用エネルギー吸収ビーム30は、
図3(b)に示すように、衝撃荷重F'の作用角度θが車両用エネルギー吸収ビーム30の中心線Lに対して約20度傾斜した位置に作用すると、衝撃荷重F'によって変形ストロークSがゼロからs1に増加するにしたがって抗力Nが増加し、変形ストロークSがs1を超えると抗力Nは暫時小さくなり、変形ストロークSがs2時には、変形ストロークSがs1時と同程度となり、変形ストロークSがs3時には変形ストロークSがs2時の半分程度に小さくなる。なお、本実施例では、作用角度θが20度のときとは、
図1に示すように、車両用エネルギー吸収ビーム30を長手方向から見たときに、中心線Lが底面部31と交差する交点Qと、頂壁部36,37及び第2側壁部33b、34bの交点Rとを繋ぐ仮想線Kが中心線Lに対してなす角度をいう。
【0032】
衝撃荷重F'が車両用エネルギー吸収ビーム30に作用するときの車両用エネルギー吸収ビーム30の断面視における変形の過程を
図4に示す。
図4(a)は、車両用エネルギー吸収ビーム30の変形ストロークSがs1(
図3(b)参照)のときの車両用エネルギー吸収ビーム30の変形の様子を示し、同図(b)は車両用エネルギー吸収ビーム30の変形ストロークがs2(
図3(b)参照)のときの車両用エネルギー吸収ビーム30の変形の様子を示し、同図(c)は車両用エネルギー吸収ビーム30の変形ストロークがs3(
図3(b)参照)のときの車両用エネルギー吸収ビーム30の変形の様子を示している。このように交点Q、Rを通る仮想線Kの方向と同一方向を向く衝撃荷重F'が車両用エネルギー吸収ビーム30の先端側に作用すると、
図4(a)、
図4(b)、
図4(c)に示すように、屈曲部39を支点として第2側壁部34bが底面部31側に撓み変形するとともに、第1側壁部33bと底面部31の接続部分である曲面部41を支点として第1側壁部33bが底面部31側に撓み変形して、衝撃荷重F'のエネルギーを吸収する。
【0033】
一方、車両用エネルギー吸収ビーム30の他方側の頂壁部36及び側壁部33は、底面部31との接続部分である曲面部41を支点として他方側へ撓む。このため、他方側の環状の破線で囲んだ頂壁部36及び側壁部33は、潰されることなく底面部31から起立した状態に維持される。従って、衝撃荷重F'のエネルギーの全てを吸収することができる。
【0034】
このように、本発明の車両用エネルギー吸収ビーム30は、衝撃荷重Fの作用角度θが中心線Lに沿った方向のみならず、作用角度θが中心線Lからずれた角度(本実施例では作用角度θ=約20度)であっても、衝撃荷重F、F'の衝撃エネルギーを吸収することができる。このため、ドア本体11に作用する衝撃入力荷重の方向がずれた場合でも、この衝撃荷重のエネルギーを吸収することができる。
【0035】
また、本発明の車両用エネルギー吸収ビーム30をドア本体11に設置する場合、車両用エネルギー吸収ビーム30の中心線Lの向きが水平面に対して上下方向にずれていても、そのずれ量が約20度の範囲内であれば、車両側面からの衝撃荷重のエネルギーを吸収することができる。このため、車両用エネルギー吸収ビーム30のドア本体11に取り付ける精度を低くすることができ、組み立て作業を容易にすることができる。
【0036】
また、車両用エネルギー吸収ビーム30の底面部31は平面状に形成されている。このため、底面部31を前側ビームブラケット18や後側ビームブラケット19にかしめて取り付けてもよい。また、前側ビームブラケット18や後側ビームブラケット19が無くても車両用エネルギー吸収ビーム30をインナパネル13に取り付けることができる場合には、車両用エネルギー吸収ビーム30をインナパネル13に直接にかしめて取り付けてもよい。
【0037】
なお、前述した実施例では、頂壁部36,37、第1側壁部33a、34a、第2側壁部33b、34bが直線状に延びるものを示したが、外側に湾曲するように形成されたものでもよい。
【0038】
また、前述した実施形態では、車両用エネルギー吸収ビームを前部左ドア10に設けた場合を示したが、車両の前部後ドア、前部右ドア、後部右ドアに、車両用エネルギー吸収ビームを設けてもよい。また、車両のドア以外の前部、後部、側部に、車両用エネルギー吸収ビームを設けてもよい。
【符号の説明】
【0039】
10 前部左ドア(車両用ドア)
30 車両用エネルギー吸収ビーム
31 底面部
33 側壁部
33a、34a 第1側壁部
33b、34b 第2側壁部
36,37 頂壁部
39 屈曲部
41 曲面部
K 仮想線
L 中心線
O 作用角度(角度)
Q、R 交点