【実施例】
【0021】
脱硝方法において、酸性硫安の析出温度以下での脱硝を可能にするために重要なのは触媒の組成である。本発明の脱硝方法における触媒は、チタン(Ti)、モリブデン(Mo)及びタングステン(W)の少なくとも一方、バナジウム(V)、及びリン(P)の酸化物であることを特徴としている。
【0022】
ここで、Mo及びWは、通常1〜10atom%、Vは0を超えて7wt%以下とするのが好ましい。
【0023】
また、Pは触媒中の酸化チタン表面に燐酸イオンとして吸着し、硫酸根が硫酸イオンとして吸着することを阻害する働きをするため、特に重要である。Pの添加量は酸化チタンの表面積にもよるが、酸化チタンに対し正燐酸(H
3PO
4)として1wt%〜10wt%、望ましくは2〜8wt%であることが好ましい。
【0024】
添加するPの化合物としては、通常、正燐酸が用いられるが、他の縮合燐酸や焼成により燐酸を与える塩類であっても差し支えない。
【0025】
触媒の形状は、原理上効果は形状によらないため、板状、ハニカム、粒状等どのような形状であっても差し支えないが、硫黄(S)含有量の大きい石炭焚の場合には、板状や大口径のハニカム等が燃焼灰による、触媒の細孔の閉塞がなく好都合である。
【0026】
また、本発明の触媒が適用される酸性硫安の析出温度Tとは、式(1)で示される反応のギブスの自由エネルギー変化ΔGを用いて、以下の式(5)のように求められる。
T=ΔG/(−R*lnK) ・・・・・・・・・・・・ (5)
ここで、Kは式(2)に示した析出の平衡定数である。
【0027】
次に、本発明の脱硝方法を実際に実施してみた。以下、その実施例について詳細に説明する。
【0028】
(実施例1〜4)
酸化チタン(石原産業製、比表面積150m
2/g)、ヘキサモリブデン酸アンモニウム、メタバナジン酸アンモニウム、シリカゾル(日産化学製、OSゾル)、85%リン酸の各原料をそれぞれ表1に示した分量に秤量してニーダに投入、これに更に水50gを添加後、60分混練した。その後、シリカアルミナ系無機繊維(東芝ファインフレックス)を徐々に添加しながら、30分間混練して水分27%の触媒ペーストを得た。得られたペーストを、厚さ0.16mmのSUS430製鋼板をメタルラス加工した厚さ0.7mmの基材の上に置き、これを二枚のポリエチレンシートに挟んで一対の加圧ローラに通して、メタルラス基材の網目を埋めるように塗布した。そして、これを風で乾燥後、500℃で2時間焼成して触媒を得た。
【0029】
【表1】
【0030】
(実施例5)
実施例1のヘキサモリブデン酸アンモニウムに代えて、メタタングステン酸アンモニウムを用いた。そして、酸化チタン、メタタングステン酸アンモニウム、メタバナジン酸アンモニウム、シリカゾル、85%リン酸の各原料をそれぞれ表2に示した分量に秤量して、実施例1〜4の場合と同様な操作を行って触媒を調整した。
【0031】
【表2】
【0032】
(比較例1〜5)
表1(実施例1〜4)及び表2(実施例5)に示した各原料のうち、Pの添加量を0gにし、他は各実施例1〜5と同様にして触媒を調整した。
【0033】
次に、上記実施例1〜5及び比較例1〜5で調整した触媒を用いて、下記の実験を行った。
【0034】
(実験例1)
実施例1〜5及び比較例1〜5の触媒について、SO
3 を100ppm添加した水分濃度10%−300℃のプロパン燃焼排ガス中に500時間曝露し、その前後の触媒について触媒中の硫酸根を蛍光X線分析により測定した。得られた結果を表3に示す。
【0035】
【表3】
【0036】
表3を見てみると、本発明における実施例1〜5の触媒は、100ppmという高濃度のSO
3に曝されても、SO
4量の増加が少なく、触媒への硫酸根の吸着・蓄積が大幅に低減されていることが分かる。
【0037】
(実験例2)
本発明の触媒が酸性硫安の析出領域で劣化し難いことを明らかにするため、実施例1〜5及び比較例1〜5の触媒について、SO
3 を100ppm、NH
3 を300ppm添加するとともに、温度を酸性硫安の析出温度以下にするために270℃に低下させて、実験例1と同様の試験を実施した。なお、本実験例における酸性硫安析出温度は、式(5)を用いて計算すると、約293℃に相当する。
【0038】
試験後の触媒の硫酸根を蛍光X線分析で測定するとともに、表4の条件で脱硝率を測定した。
【0039】
【表4】
【0040】
得られたSO
4 分析の結果を表3に、脱硝性能に関する結果を表5にまとめて示す。
【0041】
【表5】
【0042】
表3および表5を見ると、実施例1〜5の触媒は触媒中への硫酸根の蓄積が極めて小さく、また本実験によっても脱硝率の低下が殆ど起こっていないことが分かる。