(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、固体酸化物型燃料電池の発電性能を向上するためには、発電された電気のロスを少なくして発電セルのOCV(Open circuit voltage)を高くする必要がある。そこで、発明者らがOCVを高くすることを念頭に鋭意研究を重ねた結果、供給された燃料が基体部材を通過して燃料極に移動する際に、基体部材を構成している酸化ニッケル等の酸化物の一部が還元されて金属が生成され、その結果、本来絶縁体である基体部材に発電セルからのリーク電流が発生して、OCVを低下させることを見出し、このリーク電流を抑制することによりOCVを高くして発電性能を向上できるとの知見を得た。
【0007】
本発明は、このような事情を考慮してなされたものであり、基体部材に発電セルを配置して構成される固体酸化物型燃料電池に関して、燃料極に供給される燃料により基体部材の酸化物の一部が還元されても、発電セルから基体部材へのリーク電流に起因する発電セルのOCVの低下が抑制され、高い発電性能を得ることが可能な固体酸化物型燃料電池、固体酸化物型燃料電池カートリッジ、固体酸化物型燃料電池モジュール、固体酸化物型燃料電池の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、この発明は以下の手段を提案している。
請求項1に記載の発明は、
酸化物材料からなる多孔質である基体部材と、前記基体部材に配置され、燃料極、固体電解質、空気極とが積層されて成る発電セルと、前記基体部材と前記発電セルの間に形成された絶縁層とを有し、前記絶縁層が
SrZrO3を含むことを特徴とする。
【0009】
請求項
5に記載の発明は、固体酸化物型燃料電池カートリッジであって、請求項1から請求項
4のいずれか1項に記載の固体酸化物型燃料電池を複数配置して構成され、前記固体酸化物型燃料電池のそれぞれの発電セルに燃料を供給する燃料供給手段を備えることを特徴とする。
【0010】
請求項6に記載の発明は、固体酸化物型燃料電池モジュールであって、
請求項5に記載の固体酸化物型燃料電池カートリッジと、収納された前記固体酸化物型燃料電池カートリッジを構成するそれぞれの発電セルに酸素含有ガスを供給する収納容器とを備えることを特徴とする。
【0011】
この発明に係る固体酸化物型燃料電池、固体酸化物型燃料電池カートリッジ、固体酸化物型燃料電池モジュールによれば、基体部材と発電セルの間に絶縁層が配置されているので、基体部材を構成する酸化物の一部が還元されて金属が生成されても、発電セルから基体部材へのリーク電流の発生が抑制される。その結果、発電セルのOCVの低下が抑制されて発電性能を向上することができる。
【0012】
また、絶縁層が
SrZrO3を含んだ組成とされているので、固体酸化物型燃料電池として使用する際の運転温度までの温度上昇や運転温度からの温度下降があっても、絶縁層に割れが生じることが抑制される。また、固体酸化物型燃料電池を製造する際に、基体部材、燃料極、電解質等を加熱して一体に焼結しても基体部材等の収縮に追従するので、絶縁層が焼結時に加熱で基体部材から剥離することが抑制される。その結果、固体酸化物型燃料電池を安定して製造することができる。
ここで、本発明の一態様において、絶縁層を構成する
SrZrO3に無機酸化物を混合する組成とし熱膨張係数を好適化することで、絶縁層に起因する基体部材からの剥離が抑制される。前記無機酸化物としては、代表的にはMgOが挙げられるがこれに限定されない。
【0013】
なお、この明細書において、OCVとは、負荷をかけていない状況における発電セルの正極と負極の間の電圧を意味する。つまり、OCVが高いということは、発電セルから発電セル周辺部へのリーク電流が少ないことを示す。OCVが低いとはその逆でありリーク電流が大きいことを示す。
また、絶縁層とは、基体部材を構成する金属酸化物の一部が還元されて金属化された状態よりも発電セルと基体部材間の電気抵抗を大きくする機能層であり、例えば、高電圧における絶縁を要するものではない。
【0014】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の固体酸化物型燃料電池であって、前記基体部材に前記発電セルが複数配置され、前記複数の発電セルはインターコネクタにより電気的に直列に接続されていることを特徴とする。
【0015】
この発明に係る固体酸化物型燃料電池によれば、インターコネクタと基体部材間のリーク電流が抑制されるので、複数の発電セルがインターコネクタにより電気的に接続される場合でも、OCVの低下が抑制されて発電性能を向上することができる。
【0016】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の固体酸化物型燃料電池であって、前記基体部材は、筒状に形成され内方の孔が燃料供給流路とされた基体管とされていることを特徴とする。
【0017】
この発明に係る固体酸化物型燃料電池によれば、基体部材の内方、すなわち気体管の内周面に燃料供給路が形成されているので、簡単な構成にて効率的な固体酸化物型燃料電池を構成することができる。
【0020】
請求項4に記載の発明は、請求項1から
請求項3のいずれか1項に記載の固体酸化物型燃料電池であって、前記基体部材の発電部の端部に位置する保持部の少なくとも一方にSrZrO
3を含み前記基体部材の電気的露出を抑制する絶縁被覆層が形成されていることを特徴とする。
【0021】
この発明に係る固体酸化物型燃料電池によれば、保持部の少なくとも一方に基体部材の電気的露出を抑制する絶縁被覆層が形成されているので、保持部のリーク電流の発生を抑制することができ、基体部材自体の性能を向上することができる。また、固体酸化物型燃料電池カートリッジ、固体酸化物型燃料電池モジュールに容易に組付けることができる。
【0022】
請求項7に記載の発明は、酸化物材料からなる多孔質である基体部材と、前記基体部材に配置され、燃料極、固体電解質、空気極とが積層されて成る発電セルと、前記基体部材と前記発電セルの間に形成された絶縁層とを有する固体酸化物型燃料電池の製造方法において、酸化ニッケルとイットリア安定化ジルコニアを含む混合物により形成された前記基体部材の素材に、SrZrO
3を含み前記絶縁層を構成するペーストを印刷する工程と、前記ペーストが乾燥して形成された被膜に、前記燃料極を構成する燃料極形成層、前記電解質を構成する電解質形成層をこの順に形成する工程と、前記基体部材の素材、前記ペーストが乾燥して形成された被膜、前記燃料極形成層、前記電解質形成層を一体に加熱して焼結体を焼結する工程と、前記焼結体に、空気極形成層を形成する工程と、前記空気極形成層が形成された焼結体を加熱して前記空気極を焼付ける工程とを有することを特徴とする。
【0023】
この発明に係る固体酸化物型燃料電池の製造方法によれば、
SrZrO3を含んだ組成のペーストを基体部材の素材に印刷、焼結して絶縁層を形成することにより、絶縁層を安定的かつ効率的に形成することができる。その結果、基体部材と発電セルの間に絶縁層が配置され、基体部材を構成する酸化物の一部が還元されても、リーク電流の発生が抑制されて高いOCVが得られる高い発電性能の固体酸化物型燃料電池を安定的かつ効率的に製造することができる。
【0024】
請求項8に記載の発明は、
請求項7に記載の固体酸化物型燃料電池の製造方法において、前記基体部材の発電部の端部に位置する保持部の少なくとも一方に電気的露出を抑制する絶縁被覆層が形成される場合に、前記空気極を焼付ける前に、前記焼結体の前記基体部材が露出する領域にSrZrO
3を含み前記絶縁被覆層を構成するペーストを印刷する工程を有することを特徴とする。
【0025】
この発明に係る固体酸化物型燃料電池の製造方法によれば、保持部の少なくとも一方に絶縁被覆層が形成される場合に、空気極を焼付ける前に、焼結体の前記基体部材が露出する領域に
SrZrO3を含み前記絶縁被覆層を構成するペーストを印刷するので、基体部材に絶縁被覆層を効率的に形成することができる。
【0027】
また、絶縁層又は絶縁被覆層を構成するペーストを、
SrZrO3とMgOの混合物に溶剤を混合
すると、分散処理することにより製造するので、ペーストを容易に生成することができる。
【0028】
請求項9に記載の発明は、酸化物材料からなる多孔質である基体部材と、前記基体部材に配置され、燃料極、固体電解質、空気極とが積層されて成る発電セルと、前記基体部材と前記発電セルの間に形成された絶縁層とを有する固体酸化物型燃料電池の製造方法において、酸化ニッケルとイットリア安定化ジルコニアを含む混合物により形成された前記基体部材の素材に、SrZrO
3を含み前記絶縁層を構成するシートを貼着する工程と、前記貼着したシートに、前記燃料極を構成する燃料極形成層、前記電解質を構成する電解質形成層をこの順に形成する工程と、前記基体部材の素材、前記貼着したシート、前記燃料極形成層、前記電解質形成層を一体に加熱して焼結体を焼結する工程と、前記焼結体に、空気極形成層を形成する工程と、前記空気極形成層が形成された焼結体を加熱して前記空気極を焼付けることを特徴とする。
【0029】
この発明に係る固体酸化物型燃料電池の製造方法によれば、
SrZrO3を含んだ組成のシートを基体部材の素材に貼着、焼結して絶縁層を形成することにより、絶縁層を安定的かつ効率的に形成することができる。その結果、基体部材と発電セルの間に絶縁層が配置され、基体部材を構成する酸化物の一部が還元されても、リーク電流の発生が抑制されて高いOCVが得られる高い発電性能の固体酸化物型燃料電池を安定的かつ効率的に製造することができる。
【0030】
請求項10に記載の発明は、
請求項9に記載の固体酸化物型燃料電池の製造方法において、前記基体部材の発電部の端部に位置する保持部の少なくとも一方に電気的露出を抑制する絶縁被覆層が形成される場合に、前記空気極を焼付ける前に、前記焼結体の前記基体部材が露出する領域にSrZrO
3を含み前記絶縁被覆層を構成するシートを貼着する工程を有することを特徴とする。
【0031】
この発明に係る固体酸化物型燃料電池の製造方法によれば、保持部の少なくとも一方に絶縁被覆層が形成される場合に、空気極を焼付ける前に、焼結体の前記基体部材が露出する領域に
SrZrO3を含み前記絶縁被覆層を構成するシートを貼着するので、基体部材に絶縁被覆層を効率的に形成することができる。
【0034】
請求項11に記載の発明は、
請求項7から請求項10のいずれか1項に記載の固体酸化物型燃料電池の製造方法であって、前記基体部材に前記発電セルが複数配置されて、前記複数の発電セルがインターコネクタにより電気的に直列に接続される場合に、前記電解質形成層を形成した後に、インターコネクタを構成するインターコネクタ形成層を形成する工程を有することを特徴とする。
【0035】
この発明に係る固体酸化物型燃料電池の製造方法によれば、電解質形成層を形成した後に、インターコネクターを構成するインターコネクター形成層を形成するので、複数の発電セルを容易に電気的に直列に接続することができる。
【発明の効果】
【0036】
この発明に係る固体酸化物型燃料電池、固体酸化物型燃料電池カートリッジ、固体酸化物型燃料電池モジュールによれば、基体部材と発電セルの間に絶縁層が配置されているので、基体部材を構成する酸化物の一部が還元されても発電セルから基体部材へのリーク電流の発生が抑制され、発電セルにおける高いOCVが得られ、発電性能を向上することができる。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、
図1から
図12を参照して、この発明の第1の実施形態について説明する。
図1は、第1の実施形態に係る固体酸化物型燃料電池モジュール及び固体酸化物型燃料電池カートリッジの概略構成を説明する図であり、符号1は固体酸化物型燃料電池モジュールを、符号2は固体酸化物型燃料電池カートリッジ集合体を、符号3は固体酸化物型燃料電池カートリッジを示している。
【0039】
固体酸化物型燃料電池モジュール1は、
図1に示すように、例えば、複数の固体酸化物型燃料電池カートリッジ集合体2と、これら複数の固体酸化物型燃料電池カートリッジ集合体2を収納する圧力容器(収容容器)4とを備え、圧力容器4は、図示しない燃料ガス供給部から固体酸化物型燃料電池10に燃料ガス(燃料)Gを供給する燃料供給管5と、固体酸化物型燃料電池10を通過した後の燃料を排出する燃料排出管6と、圧力容器4内に圧縮空気(酸素含有ガス)を供給する空気供給管(不図示)とを備えている。
【0040】
固体酸化物型燃料電池カートリッジ集合体2は、複数の固体酸化物型燃料電池カートリッジ3を配列した構成とされており、各固体酸化物型燃料電池カートリッジ集合体2は、燃料供給路5Aを介して燃料供給管5と、燃料排出路6Aを介して燃料排出管6と連通されている。
【0041】
固体酸化物型燃料電池カートリッジ3の上部には、固体酸化物型燃料電池10の一端側を保持するとともに電気的に接続される上部接続体31Aと燃料供給路5Aから供給された燃料を受ける燃料流入部(燃料供給手段)31Bが設けられている。
また、固体酸化物型燃料電池カートリッジ3の下部には、固体酸化物型燃料電池10の他端側を保持するとともに電気的に接続される下部接続体32Aと燃料排出路6Aに燃料を排出する燃料流排出部32Bが設けられている。
【0042】
固体酸化物型燃料電池10は、
図2、
図3に示すように、例えば、円筒状に形成された基体管(基体部材)11と、基体管11の外周面に形成された絶縁層12と、絶縁層12の外周面に周方向全周にわたり帯状に形成された複数の発電セル20とを備えている。
また、固体酸化物型燃料電池10は、例えば、全長1.5m、外径φ28mmに形成されている。
【0043】
また、固体酸化物型燃料電池10は、長手方向の中央側が発電部10Aとされ、発電部10Aの両端側には保持部10B、10Cが配置されていて、保持部10B、保持部10Cには基体管11の外周面全面にわたって絶縁被覆層12Sが形成されている。
また、保持部10B、10Cには、保持を確実にするための円筒形状部10D、10E及び10F、G0Eがそれぞれ形成されている。
【0044】
固体酸化物型燃料電池10は、
図3に示すように、基体管11の内方には燃料供給流路11Aが形成され、基体管11の外周面に絶縁層12を介して複数の発電セル20が形成されており、燃料供給流路11Aに燃料ガスGが供給されるとともに発電セル20の外面に圧縮空気が供給されて発電するようになっている。
【0045】
発電セル20は、基体管11の表面から、燃料極21、電解質22、空気極23がこの順に配置された構成とされていて、両端に位置する発電セル20を除き、発電セル20の空気極23と隣接する発電セル20の燃料極21とは、インターコネクタ24により電気的に直列に接続されており、複数の発電セル20が電気的に直列に接続されることで実用に適した電圧を得るようになっている。
【0046】
基体管11は、高気孔率(例えば、40%)の酸化物材料(例えば、酸化ニッケルとイットリウム安定化ジルコニウムを含んだ混合物)を円筒状に形成した構成とされている。
【0047】
絶縁層12は、基体管11と発電セル20及び基体管11とインターコネクタ24間の絶縁するもの又は電気抵抗を大きくするものであり、
SrZrO3を含む組成物(又はMgAl2O4を含む組成物)により構成されている。
なお、カッコ内に記載したMgAl2O4は参考例を示している(以下、同様である。)。
【0048】
燃料極21は、例えば、NiO−YSZのような酸化ニッケルと他の酸化物の混合物からなり、基体管11の外周面に帯状に形成され、複数の燃料極21の間にはインターコネクタ24が配置される間隔が設けられている。
【0049】
電解質22は、例えば、厚さ10〜200μmのYSZのようなジルコニア(ZrO
2)系酸化物からなり、燃料極21の外周に帯状に形成され、インターコネクタ24が配置される間隔が設けられている。なお、電解質22は一部が絶縁層12の外周面に配置されていてもよい。
【0050】
空気極23は、例えば、厚さ0.2〜2.0mm、さらに好適には0.3〜1.0mmのLaSrMnO
3のようなランタンマンガネート(LaMnO
3)を多孔質とした組成物からなり電解質22の外周に帯状に形成され、インターコネクタ24が配置される間隔が設けられた構成とされている。
【0051】
インターコネクタ24は、例えば、チタン酸化物により構成されていて、いずれかの発電セル20の電解質22の外周面から隣接する発電セル20の燃料極21との間に形成され隣接する発電セル20同士を電気的に直列に接続するようになっている。なお、インターコネクタ24の外周面の一部は空気極23により被覆されている。
【0052】
以下、
図4から
図7を参照して、絶縁層12に適した組成物について説明する。
ここで、絶縁層12を構成する組成物は、少なくとも固体酸化物型燃料電池10の運転温度である800〜900℃に温度上昇し又は運転温度から温度が下がっても絶縁層12が割れることが抑制され、さらに、製造工程において、基体管11、燃料極21、電解質22とともに加熱、焼結した場合に一体に収縮して基体管11から剥離しないことが必要である。
【0053】
図4は、絶縁性が確保される組成物であることを前提として、上記要件を満足することが可能かどうかについて検証した結果を示す図であり、基体部材との反応性、基体部材への焼きつき、水素還元によるはがれを指標とした図である。
図4に示すように、上記検証項目をすべて満足するのはSrZrO
3、MgAl
2O
4のみであり、SrZrO
3、MgAl
2O
4以外の組成物は、いずれもすべての検証項目を満足しないことが判明した。
【0054】
図5は、SrZrO
3及びMgOSrZrO
3に関して、それぞれ無機酸化物として代表的にはMgOと混合して生成した組成物を基体管11とともに1400℃まで加熱して、基体部材への焼きつきを検証した結果を示す図である。
図5に示すように、SrZrO
3に関しては、SrZrO
3:MgO=10:0の場合、基体管11の塗布した後、1400℃×3hでの焼きつけは良好であったが、SrZrO
3:MgO=9:1の場合、焼きつけは良好とではなかった。
一方、MgAl
2O
4に関しては、MgAl
2O
4:MgO=10:0〜6:4の範囲で基体管11の塗布した後、1400℃×3hでの焼きつけが良好であった。
【0055】
すなわち、基体管11は、熱膨張係数が約9.0〜11.4(10
−6℃
−1)、好適には熱膨張係数が11.0〜11.4(10
−6℃
−1)で設定されているため、基体管11に
SrZrO3を含む組成物(又はMgAl2O4を含む組成物)を塗布して焼きつける場合、その熱膨張係数を、概ね8.2〜10.1(10
−6℃
−1)、より好適には熱膨張係数が9.0〜10.0(10
−6℃
−1)であることが判明した。
【0056】
以上のことから、SrZrO
3とMgO
(又はMgAl2O4とMgO)とを混合した組成物について、熱膨張係数が9.0〜10.0(10
−6℃
−1)となる好適な配合範囲を検証した。
SrZrO
3とMgOについては、
図6に示すように、SrZrO
3に対するMgOの配合量が5%以下の範囲が好適とされ、MgAl
2O
4とMgOについては、
図7に示すように、MgAl
2O
4に対するMgOの配合量が0〜38%の範囲が好適である。
【0057】
次に、固体酸化物型燃料電池10の第1の製造方法について説明する。
図8は、絶縁層12、絶縁被覆層12Aを、ペーストを印刷、焼結することにより形成する固体酸化物型燃料電池10の製造方法(第1の製造方法)の一例を示す図である。
(1)まず、酸化ニッケルとイットリウム安定化ジルコニウムを含む混合物を成形して基体管11の素材を成形する(S1)。
(2)基体管11の発電部10Aに、例えば、絶縁層を構成するSrZrO
3(又はMgAl2O4)を含むペーストを印刷する(S2)。基体管表面へのペーストの印刷は、例えば、スクリーンプリント法により行うことができる。また、ペーストを印刷した後に、印刷範囲をずらして複数回印刷すると、基体管表面に厚い絶縁層を安定的に形成するうえで好適である。
(3)ペーストを乾燥させて、絶縁層形成膜を形成する(S3)。
(4)ペーストが乾燥して形成された絶縁層形成膜の表面に、燃料極を構成する燃料極形成層を印刷する(S4)。
(5)燃料極形成層の表面に、電解質形成層を印刷する(S5)。
(6)インターコネクタを形成する場合には、電解質形成層の表面にインターコネクタ形成層を印刷する(S6)。
(7)基体管の素材、ペーストが乾燥して形成された絶縁層形成膜、燃料極形成層、電解質形成層を、例えば、約1400℃で一体に加熱して焼結体を焼結する(S7)。
(8)焼結体の所定領域に、空気極形成層を塗布する(S8)。
(9)焼結体の基体管が露出する領域に、絶縁被覆層を構成するためのSrZrO
3(又はMgAl2O4)を含むペーストを印刷して絶縁被覆層形成膜を形成する(S9)。
(10)ペーストを乾燥させて絶縁被覆層形成膜を形成する(S10)。
(11)空気極形成層、絶縁被覆層形成膜を焼結体とともに、例えば、約1200℃まで加熱して、空気極形成層、絶縁被覆層形成膜を凝結体に焼き付ける(S11)。
(12)固体酸化物型燃料電池が完成する(S12)。
【0058】
図9は、固体酸化物型燃料電池10の第1の製造方法に係るペーストの製造方法の一例を示す図である。ペーストは、例えば、以下の手順で製造される。
(1)原料粉末として、SrZrO
3、又はMgAl
2O
4とMgOの混合物を用意する(S21)。
原料粉末としては、SrZrO
3、MgAl
2O
4と又はSrZrO
3、MgAl
2O
4とMgOの混合物(例えば、MgAl
2O
4:MgO=70:30)を用いる。
(2)原料粉末にブチルカルビトール(溶剤)を混合する(S22)。
原料粉末100に対して、例えば、ブチルカルビトール30の割合で混合する。
(3)ロールミルを用いて、精密分散する(S23)。
(4)ペーストが生成される(S24)。
【0059】
次に、固体酸化物型燃料電池10の第2の製造方法について説明する。
図10は、絶縁層12、絶縁被覆層12Aを、シートを貼着することにより形成する固体酸化物型燃料電池10の製造方法(第2の製造方法)の一例を示す図である。
(1)酸化ニッケルとイットリウム安定化ジルコニウムを含む混合物を成形して基体管11の素材を成形する(S31)。
(2)基体管11の発電部10Aに、例えば、絶縁層12を構成するSrZrO
3(又はMgAl2O4)を含むシートを貼着する(S32)。このとき、基体管11側に位置する面にエタノールを塗布し、表面が溶解して柔らかくなった状態で空気が入りこまないように貼り付けることが好適である。
(3)シートの表面に、燃料極21を構成する燃料極形成層を印刷する(S33)。
(4)燃料極形成層の表面に、電解質形成層を印刷する(S34)。
(5)次に、電解質形成層の表面から燃料極形成層の一部にわたって、インターコネクタ形成層を印刷する(S35)。
(6)基体管の素材、貼着したシート、燃料極形成層、電解質形成層、インターコネクタ形成層を、例えば、約1400℃で一体に加熱して焼結体を焼結する(S36)。
(7)焼結体の所定領域に、空気極形成層を塗布する(S37)。
(8)焼結体の基体管11が露出する領域に、絶縁被覆層12Aを構成するためのSrZrO
3(又はMgAl2O4)を含むシートを貼着する(S38)。
(9)焼結体に塗布した空気極形成層、露出部分に貼着したシートを、焼結体とともに、例えば、約1200℃まで加熱して空気極形成層、絶縁被覆層を焼き付ける(S39)。
(10)固体酸化物型燃料電池が完成する(S40)。
【0060】
図11は、固体酸化物型燃料電池10の第2の製造方法に係るシートの製造方法の一例を示す図である。シートは、例えば、以下の手順で製造される。
(1)原料粉末を用意する(S41)。
原料粉末としては、SrZrO
3、MgAl
2O
4と又はSrZrO
3、MgAl
2O
4とMgOの混合物(例えば、MgAl
2O
4:MgO=70:30)を用いる。
(2)原料粉末に溶剤と分散剤を混合する(S42)。このとき、原料粉末100に対して、エタノール(溶剤)30、ポリエチレンイミン(分散剤)1の割合で混合する。
(3)原料粉末と溶剤と分散剤の混合物を、ボールミルで24時間、分散処理する(S43)。
(4)分散処理して生成したスラリーに、ポリビニルブチラール(バインダー)15、ジブチルフタレート(可塑剤)12を加える(S44)。
(5)ポリビニルブチラール、ジブチルフタレートを加えたスラリーを、例えば、1時間攪拌する(S45)。
(6)攪拌したスラリーを、ロータリーエバポレータを用いて脱泡すると同時に、溶媒(エタノール)を減量(又は除去)して、粘度12000mPasのスラリーとする(S46)。
(7)ドクターブレード成形装置を使用して刃厚さ0.5mmのスラリーを引いてシート体を形成する(S47)。
(8)シート体を乾燥する(S48)。
(9)厚さ約170μmのシートが完成する(S49)。なお、シートは、厚さ約100〜300μmに形成されることが、溶剤による溶解時の千切れ及び焼結時の割れ発生を抑制するうえで好適である。
【0061】
以下、
図12を参照して、固体酸化物型燃料電池10の作用について説明する。
固体酸化物型燃料電池10は、基体管11に形成された燃料供給流路11Aに、燃料ガスGとしてH
2、COが供給されるとともに、空気極23の外側に圧縮空気が供給されると、導電イオン(O
2−)が電解質22を空気極23から燃料極21に移動して導電イオン(O
2−)がH
2、COと反応して発電する。また、反応により生成したH
2O及びCO
2は、燃料供給流路11Aに流入する。
【0062】
第1の実施形態に係る固体酸化物型燃料電池10によれば、基体管11と発電セル20の間に絶縁層12が配置されているので、基体管11を構成する酸化ニッケルの一部が還元されて金属ニッケルが生成されても、リーク電流の発生が抑制されてOCVの低下が抑制され、その結果、発電性能を向上することができる。
【0063】
また、絶縁層12がSrZrO
3(又はMgAl2O4)を含んだ組成物により構成されているので、固体酸化物型燃料電池10として使用する際の温度上昇や温度の下降があっても、絶縁層12に割れが生じることが抑制される。また、絶縁層12がSrZrO
3(又はMgAl2O4)を含んだ組成物により構成されているので、固体酸化物型燃料電池10を製造する際に、基体管11、燃料極21、電解質22、インターコネクタ24とともに加熱して焼結しても、絶縁層12が基体管11等の収縮に追従して、絶縁層12が基体管11から剥離することが抑制され、固体酸化物型燃料電池10を効率的に製造することができる。
【0064】
また、固体酸化物型燃料電池10によれば、インターコネクタ24と基体管11間のリーク電流が抑制されるので、複数の発電セルがインターコネクタにより電気的に接続される場合でも、OCVの低下が抑制されて発電性能を向上することができる。
【0065】
第1の製造方法によれば、SrZrO
3(又はMgAl2O4)を含むペーストを基体管11に印刷、焼結して絶縁層12を形成することにより、正確な厚さの絶縁層12を安定的かつ効率的に形成することができる。
【0066】
また、第1の製造方法により基体管11の表面にMgAl
2O
4とMgOの混合物(MgAl
2O
4:MgO=70:30)のペーストにより厚さ180μmの絶縁層形成膜を形成、焼結して絶縁層12とした固体酸化物型燃料電池では、絶縁層12を有していない発電セル20で1.03VであったOCVが1.09Vとなり0.06V(約5.8%)向上した。
【0067】
また、第1の製造方法により基体管11の表面にSrZrO
3のペーストにより厚さ180μmの絶縁層形成膜を形成、焼結して絶縁層12とした固体酸化物型燃料電池では、絶縁層12を有していない発電セル20で1.03VであったOCVが1.08Vとなり0.05V(約4.9%)向上した。
【0068】
第2の製造方法によれば、SrZrO
3(又はMgAl2O4)を含むシートを基体管11に貼着、焼結して絶縁槽12を形成するので、厚さの絶縁層12を安定的かつ効率的に形成することができる。
【0069】
また、第2の製造方法により基体管11の表面にMgAl
2O
4とMgOの混合物(MgAl
2O
4:MgO=70:30)により構成された厚さ170μmのシートを貼着して絶縁層形成膜を形成、焼結して絶縁層12とした固体酸化物型燃料電池では、絶縁層12を有していない発電セル20で1.03VであったOCVが1.08Vとなり0.05V(約4.9%)向上した。
【0070】
また、第2の製造方法により基体管11の表面にSrZrO
3により構成された厚さ170μmのシートを貼着して絶縁層形成膜を形成、焼結して絶縁層12とした固体酸化物型燃料電池では、絶縁層12を有していない発電セル20で1.03VであったOCVが1.07Vとなり0.04V(約3.9%)向上した。
【0071】
次に、
図13を参照して、この発明の第2の実施形態に係る固体酸化物型燃料電池50について説明する。
第2の実施形態が第1の実施形態と異なるのは、固体酸化物型燃料電池50が基体管11に代えて平板状に形成された基体部材51を用いた構成とされ、基体部材51の一方側の面に燃料極61、電解質62、空気極63からなる発電セル60を複数配列し、複数の発電セル60をインターコネクタ64により電気的に直列に接続した点である。
【0072】
また、固体酸化物型燃料電池10では、基体部材である基体管11に燃料供給流路11が形成されていたのに対して、固体酸化物型燃料電池50では、外部に配置されたチャネル70の開口を覆うことにより燃料供給流路71が形成されて燃料ガスGが供給される点であり、その他は第1の実施形態と同様であるので説明を省略する。
【0073】
固体酸化物型燃料電池50の絶縁層52の形成は、SrZrO
3(又はMgAl2O4)を含むペーストを基体部材51に印刷し、又はシートを基体管11に貼着し、その後、基体部材51、燃料極61、電解質62、インターコネクタ64とともに焼結して形成する。
固体酸化物型燃料電池50によれば、発電セル60の大きさを任意に設定することができる。
【0074】
また、第1の製造方法による場合には、絶縁層12を安定的かつ効率的に形成することができ、第2の製造方法による場合には、正確な厚さの絶縁層12を安定的かつ効率的に形成することができる。
【0075】
なお、本発明は、上記実施の形態に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の変更をすることが可能である。
例えば、第1の実施の形態においては、基体部材が基体管11とされ、基体管11外周面の全周にわたって帯状に複数の発電セル20が形成される場合について説明したが、例えば、基体管11の外周の周方向の一部分に発電セル20を形成してもよいし、基体管11に発電セル20がひとつのみ形成された構成としてもよい。
また、第2の実施形態等に係る固体酸化物型燃料電池50において、発電セル60をひとつだけ配置する構成としてもよい。
【0076】
また、上記実施の形態においては、絶縁層12、絶縁被覆層12Aが基体管11の全長にわたって形成される場合について説明したが、保持部10A、10Bのいずれか一方のみに形成し又は双方に形成しない構成としてもよい。
また、例えば、絶縁層12、絶縁被覆層12Aを基体管11の一部の特定領域に限定して形成し、又は網目状の絶縁層12、絶縁被覆層12Aを形成することにより、絶縁層12又は絶縁被覆層12Aがリーク電流を完全に絶縁するのではなく、リーク電流を減少させるように構成してもよい。
【0077】
また、上記実施の形態においては、絶縁層12、52、絶縁被覆層12Aを、シートの貼着、ペーストを印刷により形成する場合について説明したが、各領域における絶縁層12、52、被覆絶縁層12Aをシートの貼着とペーストの印刷のいずれにより形成するかは任意に設定することができる。
また、絶縁層12、52、被覆絶縁層12Aを形成するためのペースト、シートを製造する場合の、原料粉末、溶剤、分散剤、バインダー、可塑剤の組成、成分、混合比率等、混合、分散処理、脱泡、減溶媒に用いる装置等は、上記実施形態に限られることなく、実用可能な範囲内で任意に設定することができる。
【0078】
また、上記実施の形態においては、基体管11、基体部材51、絶縁層12、52、燃料極21、61、電解質22、62、インターコネクタ24、64を約1400℃で焼結し、空気極23、63、絶縁被覆層を約1200℃で焼き付ける場合に説明したが、焼結温度、焼き付温度は適宜変更してもよく、例えば、焼成温度:1350℃、焼き付温度:1170℃〜1230℃とすることが好適である。
【0079】
また、上記実施の形態においては、固体酸化物型燃料電池10の基体管11、固体酸化物型燃料電池50の基体部材51について説明したが、他の形状の基体部材に適用できることはいうまでもない。