特許第5931441号(P5931441)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ スミス・アンド・ネフュー・オルソペディクス・アーゲーの特許一覧

<>
  • 特許5931441-組成物および組成物を製造する方法 図000003
  • 特許5931441-組成物および組成物を製造する方法 図000004
  • 特許5931441-組成物および組成物を製造する方法 図000005
  • 特許5931441-組成物および組成物を製造する方法 図000006
  • 特許5931441-組成物および組成物を製造する方法 図000007
  • 特許5931441-組成物および組成物を製造する方法 図000008
  • 特許5931441-組成物および組成物を製造する方法 図000009
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5931441
(24)【登録日】2016年5月13日
(45)【発行日】2016年6月8日
(54)【発明の名称】組成物および組成物を製造する方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 3/20 20060101AFI20160526BHJP
   C08J 3/24 20060101ALI20160526BHJP
   C08L 23/06 20060101ALI20160526BHJP
   A61L 27/00 20060101ALI20160526BHJP
【FI】
   C08J3/20 ZCES
   C08J3/24 Z
   C08L23/06
   A61L27/00 W
【請求項の数】20
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2011-517039(P2011-517039)
(86)(22)【出願日】2009年7月10日
(65)【公表番号】特表2011-527353(P2011-527353A)
(43)【公表日】2011年10月27日
(86)【国際出願番号】EP2009005028
(87)【国際公開番号】WO2010003688
(87)【国際公開日】20100114
【審査請求日】2012年7月9日
(31)【優先権主張番号】0812890.2
(32)【優先日】2008年7月11日
(33)【優先権主張国】GB
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】510059882
【氏名又は名称】スミス・アンド・ネフュー・オルソペディクス・アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】イヴォ・ディリクス
(72)【発明者】
【氏名】ロレンツ・ブルナー
(72)【発明者】
【氏名】ヨナタン・サンダー
【審査官】 芦原 ゆりか
(56)【参考文献】
【文献】 特表2010−529213(JP,A)
【文献】 特表2007−520620(JP,A)
【文献】 特表2006−515777(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/052574(WO,A1)
【文献】 特表2010−508405(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 3/00−28
C08J 7/00−02,7/12−18
A61L 15/00−33/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2つの成分の組成物を得るための方法であって、
少なくとも1つの第1の流体成分を提供する工程;
少なくとも1つの第2の固体成分を提供し、それを溶融温度未満の温度で加工して第1の成分が第2の成分に拡散できるようにする工程;および
第1の成分を第2の成分に拡散させる工程
を含み、
かくして得られた組成物を焼結する工程を更に含み、
第2の成分が少なくとも100,000の分子量を有するポリエチレンの粉末であり、該粉末が圧縮され、それにより粒子間に毛細管が形成され、第2の成分と接触する第1の成分に毛細管力を生成または増加させるようにする方法であって、
前記ポリマーを架橋させる工程をさらに含み、
この架橋が組成物を焼結した後に実施される、方法。
【請求項2】
第1の成分が少なくとも1種の液体を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
第1の成分が少なくとも1種の気体を含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
第1の成分が流体中に溶解した少なくとも1種の固体を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
組成物を処理し、それにより液体または気体を除去して固体組成物を製造する工程をさらに含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
架橋が照射によって実施される、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
架橋が化学種によって実施される、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
第1の成分がポリマーを架橋させるための化学種を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
第1の成分が抗酸化剤を含む、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
第1の成分がビタミンEを含む、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
第1の成分が抗生物質を含む、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
第1の成分が発泡剤を含む、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
第1の成分が反応性モノマーを含む、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
第1の成分がモノマーの重合を開始させる開始剤である、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
第1の成分が染料を含む、請求項1から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
第1の成分が清澄化剤または核生成剤を含む、請求項1から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
第1の成分が少なくとも2つの段階で第2の成分に拡散する、請求項1から16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
組成物が滅菌される、請求項1から17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
組成物が人工物に形成される、請求項1から18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
人工物が医用デバイスである、請求項19に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも2つの成分の組成物/混合物を得るための方法に関する。本発明はまた、そのような方法によって製造された組成物/混合物、およびそのような組成物/混合物が組み込まれたデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)は、高い強度および靱性と高い耐摩耗性とを併せ持つ、多用途の材料である。その結果として、UHMWPEはたとえばベアリング、ギアリング、ライナー、チェーンガイド等の多くの工業用途に用いられている。UHMWPEを加工する際の問題点は、その極めて高い溶融粘度(ゼロ剪断粘度>108Pa・s)に起因しており、そのため射出成形または押出し等の一般的な加工技術が不可能である。その代わりに、UHMWPE粉末は焼結され、次いでその一部が機械的に加工されて所望の形状とされる。従来の溶融加工および混合技術が適用できないため、添加物のブレンドは通常はUHMWPE粉末を添加物と混合した後に焼結することによって行われる。UHMWPE粉末は非常に密度が低く、高度に多孔質であるため、2種の粉末の混合は困難である。添加物も粉末である場合には、均一な粉末混合物を形成することは困難である。添加物が液体の形態である場合には、極めて高い表面積を有する粉末にその液体を均一に分布させることは、やはり困難である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
焼結工程の前に添加物をUHMWPE粉末に混合すること、または添加物をUHMWPE粉末に拡散させることは知られている。焼結した生成物に添加物を拡散させることも知られている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の第1の態様によれば、少なくとも2つの成分の組成物を得るための方法が提供され、該方法は、
少なくとも1つの第1の流体成分を提供する工程;
少なくとも1つの第2の固体成分を提供し、それを加工して第1の成分が第2の成分に拡散できるようにする工程;および
第1の成分を第2の成分に拡散させる工程
を含む。
【0005】
第1の成分は少なくとも1種の液体を含んでよい。
【0006】
第1の成分は少なくとも1種の気体を含んでよい。
【0007】
第1の成分は流体中に溶解した少なくとも1種の固体を含んでよい。
【0008】
第2の成分を加工して、第1の成分が第2の成分と接触した際に毛細管力が生成または増加するようにしてもよい。
【0009】
第2の成分を加工して、毛細管(導管/流路)が形成され、第2の成分と接触する第1の成分に毛細管力を生成または増加させるようにしてもよい。
【0010】
第2の成分は粉末であってよい。粉末を圧縮してもよい。粉末を圧縮して、第2の成分と接触する第1の成分に毛細管力が生成または増加するようにしてもよい。
【0011】
圧縮された粉末ブロックを少なくとも1種の液体に浸漬してもよい。液体は純粋な添加物であってよい。液体は添加物を含む液体であってよい。
【0012】
本方法はさらに、組成物を処理し、それにより液体または気体を除去して固体組成物を製造する工程を含んでもよい。
【0013】
圧縮された粉末ブロックを処理して、それにより溶媒を蒸発させ、圧縮されたブロックに添加物を残すようにしてもよい。
【0014】
本方法はさらに、組成物を焼結する工程を含んでよい。
【0015】
第2の成分はポリマーであってよい。ポリマーはコポリマーであってよい。
【0016】
圧縮されたブロックをポリマーの溶融温度を超える温度で焼結してもよい。
【0017】
ポリマーは結晶であってよい。ポリマーは半結晶であってよい。
【0018】
ポリマーはポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン)、ポリオキシメチレン(POM)、ポリアミド(PA6、PA6.6、PA4.6)、PVC、PEEK、PPSU、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)およびポリエステル(PET、PBT、PEN、PC)からなる群から選択してよい。
【0019】
ポリマーはUHMWPE、HDPE、LDPEおよびLLDPEからなる群から選択してよい。
【0020】
ポリマーは少なくとも100,000の分子量を有するポリエチレンであってよい。ポリエチレンは少なくとも300,000の分子量を有してよい。ポリエチレンは少なくとも百万の分子量を有してよい。
【0021】
ポリマーは非晶質であってよい。
【0022】
ポリマーはポリスチレンまたは変性スチレンポリマー(SAN、SB、ABS)、PMMA、ポリアクリレート(たとえばポリブチルアクリレート)、PPOからなる群から選択してよい。
【0023】
本方法はポリマーを架橋する工程をさらに含んでよい。
【0024】
架橋は組成物を焼結した後に実施してよい。
【0025】
架橋は照射によって実施してよい。架橋はγ線または電子線照射を用いて実施してよい。
【0026】
架橋は化学種によって実施してよい。化学的架橋種は過酸化ジベンゾイルであってよい。
【0027】
第1の成分はポリマーを架橋させるための化学種を含んでよい。
【0028】
第1の成分は抗酸化剤を含んでよい。
【0029】
第1の成分は少なくとも1種のビタミンを含んでよい。第1の成分はビタミンEを含んでよい。
【0030】
第1の成分は抗生物質を含んでよい。
【0031】
抗生物質はゲンタマイシン、バンコマイシン、ストレプトマイシン、ペニシリンおよびそれらの誘導体からなる群から選択してよい。
【0032】
第1の成分は発泡剤を含んでよい。それは、ポリマーの焼結温度より高い沸点を有する溶媒である。
【0033】
第1の成分は反応性モノマーを含んでよい。
【0034】
第1の成分はモノマーの重合を開始させる開始剤を含んでよい。
【0035】
反応性モノマーは、エチレン、プロピレン、塩化ビニル、オキシメチレン、ブチルアクリレート、メチルメタクリレート、およびスチレンからなる群から選択してよい。
【0036】
第1の成分は染料を含んでよい。染料は天然であってよい。染料は合成であってよい。
【0037】
染料は、フクシン、スーダンレッド、スーダンブラック、アントラキノン、アゾ化合物、硫黄化合物、天然染料(カロテン、クルクミン(ターメリック)またはカルミン等)からなる群から選択されてよい。
【0038】
第1の成分はソルビトール系化合物(DBS、MDBS、DMDBS)、安息香酸ナトリウム、タルクまたはチミン等の清澄化剤または核生成剤を含んでもよい。
【0039】
第1の成分は少なくとも2つの段階で第2の成分に拡散してもよい。
【0040】
組成物は滅菌してもよい。
【0041】
組成物は人工物に形成してよい。
【0042】
人工物は医用デバイスであってよい。
【0043】
医用デバイスは滅菌してよい。
【0044】
本発明の第2の態様によれば、本発明の第1の態様による方法のいずれかによって調製された組成物が提供される。
【0045】
本発明の第3の態様によれば、本発明の第1の態様による圧縮された粉末を含む組成物が提供される。
【0046】
好ましくは、圧縮された粉末は、圧縮された粉末と接触する流体成分に毛細管力が生成または増加するように調製される。
【0047】
本発明の第4の態様によれば、本発明の第1の態様による少なくとも1つの第1の流体成分と少なくとも1つの第2の固体成分とを含み、第1の成分が第2の成分に分布している組成物が提供される。
【0048】
本発明の第5の態様によれば、圧縮された粉末と本発明の第1の態様による少なくとも1つの流体成分とを含む組成物が提供される。
【0049】
本発明の第6の態様によれば、本発明の第1の態様による少なくとも1つの第1の流体成分と少なくとも1つの第2の固体成分とを含み、第1の成分が第2の成分に分布している、焼結された組成物が提供される。
【0050】
本発明のいくつかの実施形態によれば、添加物は圧縮体の中、即ち粉末と焼結体との間の中間状態に拡散する。溶融温度未満での圧縮の間に、多孔質粉末粒子は変形して緻密体になるが、溶融は起こらないので、粒子は完全には融合しない。変形した粒子の間には非常に狭い流路が存在し、これが局所的に作用する毛細管力により迅速かつ均一な流体吸収を支持する。これらの毛細管力は緩い粒子間または焼結されて完全に融合した生成物中には存在しない。添加物が圧縮体に含浸された後で、最終的な焼結工程が実施され、粒子を融合させる。粘性または固体の添加物は溶解して圧縮体の中への含浸を可能にすることができる。これらの実施形態においては、溶媒は焼結の前に蒸発させることができ、または引き続く焼結工程の間に蒸発する。
【0051】
焼結された材料は、股関節または膝関節全置換等の医用インプラントに用いることができる。抗酸化の目的のための添加物を含むこれらのポリエチレンインプラントは、事前の圧縮-含浸-焼結プロセスの後でγ線または電子線照射を用いて架橋することもできる。照射線量は1〜25Mradまたはより好ましくは3〜20Mradで変動してよい。医用インプラントはγ線照射(2.5〜4Mrad)を用いるか、またはETOもしくは気体プラズマ処理等の表面滅菌法のいずれかによって滅菌することもできる。
【0052】
固体組成物は粉末形態の任意の種類のポリマーから、または2種以上のポリマーから加工することができる。ポリマーが固体バルクまたはペレット形態でのみ使用可能であれば、材料を圧縮前に磨砕して粉末にしてよい。圧力は0〜50MPaの間、より好ましくは0〜20MPaの間、さらにより好ましくは5〜15MPaの間で選択してよい。加工温度は好ましくはポリマーの溶融温度(Tm)未満の温度に設定される。2種以上の異なったポリマーを加工する場合には、温度は好ましくは最低のTmを有するポリマーのTm未満の温度に設定される。より好ましくは、温度はTm-30℃、より好ましくはTm-20℃、さらにより好ましくはTm-10℃に設定される。最初に圧力を加えて次に型を加熱してよい。最初に型を加熱して次に圧力を加えてよい。圧縮時間は固体組成物の体積に依存し、好ましくは1秒〜100時間の間、より好ましくは1分〜24時間の間、さらにより好ましくは30分〜6時間の間である。加工型の中の全ての材料が所望の圧縮時間に達する必要がある。圧力を解除するのに先立って温度を低下させてよい。温度を低下させるのに先立って圧力を解除してよい。圧縮処理は通常の空気雰囲気中、真空環境中、または窒素もしくはアルゴン等の不活性気体雰囲気中で実施してよい。
【0053】
ポリエチレンを含む本発明の実施形態においては、ポリエチレンの圧縮は室温より高く溶融温度より低い温度(25〜130℃)で、0.5〜25MPaの範囲(より好ましくは1〜15MPa、さらにより好ましくは2〜10MPa)の圧力で実施してよい。
【0054】
圧縮された固体組成物は好ましくはUHMWPEから加工される。たとえば、UHMWPE粉末を室温で型に充填し、次いで約10MPaの圧力を加え、圧縮処理全体の間、保持してよい。引き続いて温度を室温から約120℃に上昇させる。全てのポリマー粉末が約120℃に完全に加熱される時間、粉末を約120℃および約10MPaに保つ。時間は固体組成物の体積に依存し、たとえば4×4×2cmの寸法の組成物については20分程度、20×20×5cmの寸法の組成物については4時間程度である。引き続いて温度を低下させる。約50℃未満の温度で圧力を解除することができ、固体組成物を型から取り出すことができる。
【0055】
ここで例示のため、以下の図面および例を参照する。
【図面の簡単な説明】
【0056】
図1】圧縮したGUR 1020ブロックの赤色イソプロパノール/フクシン溶液への含浸を示す。
図2】焼結したGUR 1020ブロックの赤色イソプロパノール/フクシン溶液への含浸を示す。
図3】圧縮および含浸し、乾燥後2片に切断したブロックを示す(アセトン中1%クルクミン溶液)。
図4】含浸時間の関数としての静置した2個のブロックの平均重量変化を示す。
図5】予め圧縮しビタミンE-ヘキサン溶液に含浸した焼結ブロック中のビタミンEの濃度プロファイルを示す。
図6】異なった含浸方向による1種または複数の含浸工程の例を示す。
図7】ビタミンE含浸試料および添加物を含まない試料の酸化プロファイルを示す。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0057】
(実施例1:圧縮したUHMWPE物体への染料/色素の拡散)
GUR 1020 UHMWPE粉末を120℃および10MPaの圧力のプレスで圧縮した。プレートから小ブロック(4cm×3cm×5cm)を切り出し、イソプロパノール75mlおよびフクシン(Merck)0.04gを含むグラスに入れた。図1に予め圧縮したブロックの室温における含浸挙動を時間の関数として示す。着色添加物を含む流体は数秒間で吸収され、1時間以内に物体は均一に着色される。
【0058】
図1に、圧縮したGUR 1020ブロックの赤色イソプロパノール/フクシン溶液への含浸を示す(左:浸漬の数秒後、中:浸漬の30分後、右:浸漬の1時間後)。
【0059】
(比較例1)
焼結したGUR 1020のブロック(4×3×5cm)を、イソプロパノール75mlおよびフクシン(Merck)0.04gを含むグラスに入れた。図2にブロックの室温における含浸挙動を時間の関数として示す(左:浸漬の数秒後、中:浸漬の30分後、右:浸漬の1時間後)。
【0060】
比較例においては、焼結したブロックには流体が浸透しない。
【0061】
(実施例2:圧縮した小ブロックへの天然添加物/抗酸化剤の含浸)
GUR 1020ブロックを溶融温度未満、120℃で、実験室スケールのプレスで15分間、10MPaで圧縮した。その後、圧縮したブロックを室温まで急速に冷却した。
【0062】
含浸:圧縮した3.8×4×1.5cmのブロックを、添加物としてクルクミンを含む1%w/wアセトン溶液中に室温で含浸した。1時間含浸後、真空オーブン中40℃、24時間でアセトンを蒸発させた。圧縮および含浸したブロックを2片に切断し(図3)、黄色のクルクミンが均一に分布していることが示された。
【0063】
図3に、圧縮および含浸し、乾燥後2片に切断したブロックを示す(アセトン中1%クルクミン溶液)。図3(a)および(b)は、両方とも2片に切断した2つの異なるブロックを表す。
【0064】
(実施例3:圧縮した小ブロックへの抗酸化剤-ビタミンEの含浸および焼結)
圧縮は実施例2に記載したように行った。圧縮後、試料をヘキサン-ビタミンE溶液(2.8%w/w)に浸漬し、含浸の間に重量を測定した。圧縮したブロック2個を溶液中に静置し(ブロックの下部のみを浸漬、図1も参照のこと)、ブロック1個を含浸溶液で完全に覆った(液中)。
【0065】
含浸後、真空オーブン(実施例2を参照のこと)中で一定重量になるまで試料を乾燥し、再び重量を測定して材料中のビタミンE含量を決定した。最後に、圧縮したポリエチレンブロックを温度220℃、圧力5MPaで、型の中で15分間焼結した。最後に試料を室温まで急速に(8分で)冷却した。
【0066】
FTIR測定を行って試料中のビタミンE含量を決定した。焼結したブロックから一定の間隔で小部分を切り出した。これらの小片から厚み約300ミクロン(または60ミクロンの5倍)のマイクロトーム切片を作成した。これらの切片について、Bruker Vertex 70を用い、分解能4cm-1、全16スキャンでFTIRスペクトルを記録した。
【0067】
ビタミンE濃度のより正確な決定のため、測定したスペクトルを正規化し、純粋なUHMWPEのスペクトルを差し引いた。参照ピークとして2020cm-1のピークを選択し、その高さ(2100cm-1および1980cm-1の高さに対して)を吸光度0.05に正規化した。これは膜厚100ミクロンに対応すると推定される。この正規化スペクトルから、同一の方法で正規化した純粋なUHMWPEのスペクトルを差し引いた。次に1210cm-1におけるC-OHの吸収(ビタミンEのピーク)の高さ(1188cm-1および1231cm-1における高さに対する)を決定した。ビタミンEの濃度は(mol/kg)次式:
A=ε・b・C
A=ピーク吸光度(1210cm-1ピークの高さ)
ε:UHMWPE中のα-トコフェロール-OHのモル吸光度(kg・cm-1・mol-1)
実験的決定値=133kg・cm-1・mol-1
b=路長(膜厚)、cm=正規化スペクトルについて0.01cm
C=UHMWPE中のα-トコフェロールの濃度、mol・kg-1
に従って計算した。
【0068】
図4に、静置した2個のブロックの平均重量変化を含浸時間の関数として示す。当初4時間以内に急速な重量増加があり、その後、重量増加は横ばいとなる。重量増加はヘキサン-ビタミンE溶液の吸収によるものである。
【0069】
図5に、溶媒の蒸発および引き続く焼結の後のブロック中のビタミンEの濃度プロファイルを示す。図5は、予め圧縮しビタミンE-ヘキサン溶液に含浸した焼結ブロック中のビタミンEの濃度プロファイルを示す。2個のブロックを部分的に流体に浸漬して溶液中に静置し、1個のブロックを流体(内部)に完全に浸漬した。
【0070】
積分FTIRスペクトルおよび重量法から決定したUHMWPE中のビタミンEの重量%を以下に挙げる。
【0071】
【表1】
【0072】
この実施例は、圧縮した物体にビタミンEを含む溶液を浸透させ、引き続いて溶媒(ヘキサン)を蒸発させ、圧縮した材料を最後に焼結することが可能であることを示している。ブロック中のビタミンEの量は、溶液中のビタミンEの種々の濃度を選択することまたは適当な含浸方法を選択することによって調節することができる。
【0073】
本発明の実施形態によれば、圧縮したブロックは2つ以上の含浸工程によって含浸することができる。第2または第3の含浸工程における流体中の添加物は第1の含浸工程と異なっていてもよい。添加物はまた、化学的架橋剤(過酸化ジベンゾイル等)または抗生物質(ゲンタマイシン等)または反応性モノマー(たとえばスチレンまたはメチルメタクリレート)または発泡剤(ポリエチレンの焼結温度より高い沸点を有する溶媒)であってよい。発泡剤は周囲圧力において即ち焼結後には高い沸点を有してよいが、発泡剤は高圧で焼結している間には液体で、焼結後に圧力を解除した際には気体相であってもよい。また、含浸方向が異なる1つまたは複数の含浸工程の例を示す図6で説明するように、含浸方向は異なってもよい。
【0074】
含浸を圧縮した物体の一部に限定し、それによりブロックに添加物を含む部分と添加物を含まない部分とを作成することもできる。実施例1において、圧縮したブロックを含浸流体から取り出せば(左図)、焼結した生成物は部分的にのみ着色しているであろう。これにより、圧縮した物体にブレンドされた材料とバージン材料との部分がもたらされる。添加物を含む圧縮および含浸した物体を第2工程で溶媒中に入れ、添加物を局所的に抽出して、圧縮した材料中に濃度勾配を作成することもできる。
【0075】
本発明はUHMWPE粉末に限定されず、HDPE、LDPE、LLDPE等の低分子量ポリエチレンの粉末に適用できる。本方法はPMMA、ポリスチレン、ポリプロピレン、PVC、ポリオキシメチレン(POM)、PPSU、PPO、PEEK、ポリアミド(PA6、PA6.6、PA4.6)、他のポリアクリレート(ポリブチルアクリレート等)、PTFE等の他のポリマーにも適用することができる。
【0076】
本方法の利点として以下が挙げられる。粉末が関与する添加物の混合において、圧縮した物体中で作用する毛細管力は緩い粒子間には存在せず、したがって流体添加物について迅速、均一かつ効率的な流体取り込みを得ることは不可能である。固体添加物については、本方法により、最初に添加物を溶解させ、引き続いて含浸することによって添加物をより均一に分布させることが可能になる。もちろん、圧縮した物体にキャリア液体を使用せずに固体添加物を含浸/拡散させることはできない。
【0077】
焼結した物体中への添加物の拡散については、焼結した物体中の粒子は融合しており、迅速で効率的な流体吸収および拡散を可能にする毛細管力は粒子間に作用していない(比較例1を参照のこと)。
【0078】
したがって、物体中へのより遅く、より非効率的な古典的Fick拡散を促進するためには溶融温度に近い高温が必要である。本発明においては、添加物は圧縮した材料中に室温で数分/数時間で含浸されるが、これは焼結したUHMWPE部品を用いた場合には不可能である。
【0079】
(実施例4:抗酸化剤を含浸し、γ線放射で照射したブロックの酸化)
抗酸化剤を含む、γ線照射したブロックの耐酸化性を決定した。実施例3に記載した方法に従って加工したブロック(焼結前にビタミンEで含浸)を通常の空気雰囲気中で、線量14Mrad(±10%)で照射した。照射後の熱処理は実施しなかった。
【0080】
照射したブロックから長さ40mm、直径10mmの円筒状試料をドリルで切り出した。引き続いて、ASTM F 2003に従い、酸素ボンベ中、酸素圧5atm、70℃で14日間、試料を促進老化させた。老化させた成分の酸化インデックスを、ASTM F 2102-06に従い、FTIRによって決定した。この標準による酸化インデックスの測定方法は以下の通りである。マイクロトームにより試料の薄い切片を作成し、試験して酸化インデックスの深さプロファイルを作成する。試料から取り出したマイクロ切片から分解能4cm-1のFTIRによって赤外スペクトルを測定する。酸化インデックスは、カルボニルピークに付随する1680〜1765cm-1の領域のピーク強度を1330〜1396cm-1の間にある参照バンドの強度で割った値として定義される。
【0081】
図7に、ビタミンEを含浸して照射(空気中γ線、14Mrad)した試料の酸化プロファイルを示す。酸化プロファイルは3回の個別の測定の平均である。対照試料として、添加物を含まず、空気中14Mradで照射(照射後の熱処理なし)したUHMWPEを示す。ビタミンEを含浸した材料の最大酸化インデックスは0.02未満であり、この材料の酸化が低減していることが明らかに示されている。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7