(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来より、水晶デバイスには例えば、
図5に示すように、STカットの水晶片210に2つ一対の反射器230とこれら反射器230の間に設けられる異極となる一対の櫛形電極220とを備えた弾性表面波素子200が用いられている。
一方の櫛形電極220と他方の櫛形電極220は、それぞれの電極指221を2本おきに交互に並べて配置されており、それぞれが例えば、λi/4の等間隔で水晶片210に並べて設けられている。このとき、並べられた状態となった電極指221は、共振波長であるλi周期の中に4本の電極指221が入るように構成されている。
このような電極構造は、例えば漏洩弾性表面波のように水晶片表面を伝播する弾性表面波が水晶片深さ方向にエネルギーを放出しながら伝播する振動モードにおいては、例えば、共振波長であるλi周期の中に4本といったように、水晶片210の連続する水晶片表面の露出部分を減らすことで水晶片の表面付近にエネルギーを閉じ込めることができるモードが存在する。
【0003】
ここで、
図5(b)に示す正弦波は、各電極指221における反射波の変位の値を縦軸にとった状態を表している。各電極指221では、弾性表面波の反射が起きているが、電極の配置が、λi/4間隔となる構造で形成されている電極指221では、隣り合う電極指221の反射波の位相が180°となり、合成すると零となるため、反射係数が零となる構造となっている。
また、反射器230は、λr/2周期の等間隔で並べられた電極構造となっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、
図5(b)に示す水晶片210を用いた弾性表面波素子200は、弾性表面波を励起する櫛形電極220の電極指221と反射器230の電極指231との電極構造が異構造となり固有振動変位が異なるため、相互の形状間への伝播によってモード変換を起こし、モード変換損と呼ばれる損失を伴うことから十分なQ値を得るのが困難であるという課題があった。
また、従来の弾性表面波素子200は、それぞれの電極指221の間隔をλi/4間隔としたことで、一対の櫛形電極220が設けられた部分において発生される弾性表面波が櫛形電極220の間で反射される反射波が相殺されるので、放射コンダクタンスのQ値の低下を招き、弾性表面波素子のQ値向上に限界があった。
【0006】
そこで、本発明では、前記した問題を解決し、Q値を向上さる弾性表面波素子を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため、本発明は、2つ一対の反射器とこれら反射器の間に設けられる一対の櫛形電極とから構成される弾性表面波素子であって、前記反射器と前記櫛形電極とが水晶片に設けられ、前記櫛形電極が、電極指を2本おきに異極となるように並んで設けられつつ、
前記櫛形電極における共振周波数の周期波長をλiとすると、隣り合う前記櫛形電極指の間隔がλi/4−αとλi/4+α(0<|α|<λi/8)となるように交互に繰り返し配置され、前記反射器が、前記反射器によって得られるストップバンド内に、前記櫛形電極が発生させる弾性表面波の放射コンダクタンスピークとなる部分に配置されつつ、
前記反射器における共振周波数の周期波長をλrとすると、前記反射器内の複数の電極指の間隔をλr/4−βとλr/4+β(0<|β|<λr/8)とを交互に繰り返して配置されて構成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
このような弾性表面波素子では、
櫛形電極の電極指を2本おきに異極となるように並んで設けられつつ隣り合う電極指の間隔をλi/4−αとλi/4+α(0<|α|<λi/8)と交互に繰り返して配置したので、一対の櫛形電極が設けられている部分において発生する弾性表面波の反射位相をずらすことができるため、前記の弾性表面波の反射波の相殺を防ぐことができる。
また、前記反射器により得られるストップバンド内に、前記櫛形電極により励振された弾性表面波の放射コンダクタンスのピークが入るよう配置され、反射器内の複数の電極指の間隔をλr/4−βとλr/4+β(0<|β|<λr/8)とを交互に繰り返して配置し、且つ、櫛形電極の電極指を2つおきに異極となるように並んで設けられつつ隣り合う電極指の間隔をλi/4−αとλi/4+α(0<|α|<λi/8)と交互に繰り返して配置したので、弾性表面波を励振する櫛形電極と反射器の構造を同構造とすることで櫛形電極と反射器での固有振動変位を同一とすることでモード変換損を抑えることができる。
これにより、本発明の弾性表面波素子は、櫛形電極により励起させた弾性表面波がモード変換損の影響を受けないためQ値を向上させることがでる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、本発明を実施するための最良の形態(以下、「実施形態」という。)について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各構成要素について、状態をわかりやすくするために、誇張して図示している。
また、板状の水晶片において、表面積が広い面を主面といい、この主面を囲む面を側面という。
【0011】
図1(a)に示すように、本発明の実施形態に係る弾性表面波素子100は、例えば、水晶のXカットをY軸周りに回転させた板状の水晶片10が用いられ、一方の主面に2つ一対の反射器30とこれら反射器30の間に2つ一対の櫛形電極20が設けられている。
【0012】
櫛形電極20は、2つ一対で設けられている。これら櫛形電極20は、電極指21を2本おきに異極となるように並んで設けられている。
また、この2本ごとの電極指21は、極性がプラス側となる2本の電極指21と、極性がマイナス側となる2本の電極指21が弾性表面波の周期λiとなるように設けられている。
本発明の実施形態では、電極指21の間隔は、λi/4−α(0<|α|<λi/8)とλi/4+α(0<|α|<λi/8)とを交互に繰り返して配置されている。
ここで、αは、0<|α|<λi/8の範囲で変更可能であり、隣り合う電極指21の中心がλi/4配置からの電極指21(
図1参照)の配置に対するズレ量を表している。
【0013】
このようなαは、たとえば、電極指21におけるα=0の場合、
図5(b)のように反射波の位相が180°異なるため、弾性表面波の反射波が相殺され放射コンダクタンスのQ値が劣化することになる。
また、α=λi/8の場合は、共振周波数の周期波長λi内に電極指を4本配置とならず、漏洩弾性表面波のように水晶片210(
図5(a)参照)中にエネルギーを放出し、伝播する振動モードにおいては水晶片210(
図5(a)参照)の連続する水晶片表面の露出部分を減らすことで水晶片の表面付近にエネルギーを閉じ込めることができるが、水晶片210の連続する水晶片表面の露出部分が大きくなることから伝搬損失が大きくなり、Q値を向上させることができない。
よって、
図1(b)に示すように、電極指21の間隔を従来のλi/4からαだけずらすことで反射された弾性表面波の位相が相殺されず、反射を起こすことができるようになり、放射コンダクタンスのQ値向上させることができる。
【0014】
反射器30は、励振された弾性表面波を反射させ共振構造とするために用いられる。
この反射器30は、平行に並べられた複数の電極指31の端部を接続して、たとえば、梯子状に形成されている。
また、反射器30の電極指31の幅は、櫛形電極20の幅と同じ幅で形成されている。
また、電極指31の間隔は、λr/4−β(0<|β|<λr/8)とλr/4+β(0<|β|<λr/8)とを交互に繰り返して配置されている。
ここで、βは、0<|β|<λr/8の範囲で変更可能であり、隣り合う電極の中心がλr/4配置からの電極指31(
図1参照)の配置に対するズレ量を表している。
また、この反射器30は、反射係数最大領域であるストップバンドを形成するが、櫛形電極20により励振された弾性表面波の放射コンダクタンスのピーク(
図4参照)をこのストップバンド内に配置されるようにλrが決定される。
なお、ストップバンドとは、従来周知のブラッグ条件が満たされ、弾性表面波が反射される領域をいう。
【0015】
また、このようなβは、たとえば、反射器におけるβ=0の場合は、反射波の位相が180°異なるため、弾性表面波の反射波が相殺され共振構造とならない。
また、β=λr/8の場合は、共振周波数の周期波長λi内に電極指を4本配置とならず、漏洩弾性表面波のように水晶片中にエネルギーを放出し、伝播する振動モードにおいては水晶片210(
図5参照)の連続する水晶表面の露出部分を減らすことで水晶片の表面付近にエネルギーを閉じ込めることができるが、水晶片210の露出部分が大きくなることから伝搬損失が大きくなり、Q値を向上させることができない。
よって、反射器30の電極指31の間隔をλr/4からβだけずらして設けられることにより弾性表面波の反射波の位相が相殺されず共振を起こすことができる。
【0016】
よって、αの範囲を、0<|α|<λi/8とし、櫛形電極20の電極指21を、間隔λi/4−α(0<|α|<λi/8)と間隔λi/4+α(0<|α|<λi/8)とを交互に繰り返して配置することで、櫛形電極20では電極21で各々発生する弾性表面波の反射波の位相をずらすことができるため、前記の弾性表面波の放射コンダクタンスのQ値向上が得られる。
【0017】
また、αの範囲を、0<|α|<λi/8とし、βの範囲を、0<|β|<λr/8とし、櫛形電極20の電極指21を、間隔λi/4−α(0<|α|<λi/8)と間隔λi/4+α(0<|α|<λi/8)、反射器30の電極指31を、間隔λr/4−β(0<|β|<λr/8)と間隔λr/4+β(0<|β|<λr/8)とを交互に繰り返して配置することによって、櫛形電極20により励振された弾性表面波と反射器30によって反射される弾性表面波のモードを変換させることなく共振構造とすることが可能となり、モード変換損を防いでQ値を向上させることができる。
また、このように反射器30を構成したので、櫛形電極20で発生させた弾性表面波の伝搬損失を抑えることができ、且つ、モード変換損によるQ値低下を防ぐことができる。
【0018】
また、このような本発明の実施形態に係る弾性表面波素子100は、αの値を選定することにより、
図3に示すような弾性表面波の励振エネルギーを櫛形電極により得られるストップバンドの上端に集中、もしくは下端に集中させることができる。
図3は、弾性表面波素子の反射器30の電極指31の本数を、100対としたときの反射係数を示すグラフであり、
図4は、弾性表面波素子の櫛形電極20の電極指21の本数を90.5対としたときの放射コンダクタンスを示すグラフである。
【0019】
例えば、弾性表面波の励振エネルギーをストップバンドの下端に集中させる場合は、
同電位の2本の電極指21の中心位置で波の最大振幅となり、かつ、異電位となる2本の電極指21の中心位置で波の節となるように弾性表面波を起こさせる。
このとき、櫛形電極20の電極指21の間隔は、α<0となっている。
このように、弾性表面波素子100を構成することで、弾性表面波の励振エネルギーをストップバンドの下端に集中させることができる。
【0020】
また、例えば、弾性表面波の励振エネルギーをストップバンドの上端に集中させる場合は、同電位の2本の電極指21の中心位置で波の節となり、かつ、異電位となる2本の電極指21の中心位置で波の最大振幅となるように弾性表面波を起こさせる。
このとき、櫛形電極20の電極指21の間隔は、α>0となっている。
このように、弾性表面波素子を構成することで、弾性表面波の励振エネルギーをストップバンドの上端に集中させることができる。
【0021】
例えば、
図3に示すように、本願発明の実施形態に係る弾性表面波素子100は、反射係数と周波数との関係において、反射器30によって得られるストップバンドが308MHz付近にストップバンド下端があり、316MHz付近にストップバンド上端があり、308MHz〜316MHzの範囲で広いストップバンドが形成されたグラフとなる。
【0022】
言い換えれば、櫛形電極20によって得られる
図4に示す放射コンダクタンのピークが、反射器によって得られる
図3に示すストップバンドの下端と上端との間の領域に収まるように、櫛形電極20の電極指21と反射器30の電極指31が配置されることとなる。
インピーダンス特性は従来の構造の弾性表面波素子と比較して、本願発明は、311.8MHz〜312.1MHzにかけて位相特性の振幅が大きくなっており、かつ、311.8MHz及び312.1Mの付近において急激な変化となるグラフになっている。
したがって、本発明の実施形態に係る弾性表面波素子100を構成すると、
図2に示すように、従来よりも位相特性の振幅が大きくなっていることが確認できる。これにより、本発明の実施形態に係る弾性表面波素子100は、位相特性がプラスからマイナスへ移行する位相零点である共振周波数において傾きが急峻となっていることから、Q値を向上させることができる。
【0023】
したがって、本発明の実施形態に係る弾性表面波素子100は、漏洩弾性表面波のように水晶片中にエネルギーを放出し、伝播する振動モードにおいては共振周波数のλi周期の中に4本といったように水晶片210の連続する水晶表面の露出部分を減らすことで、水晶片の表面付近にエネルギーを閉じ込めることができるモードにおいて伝搬損失を低減させ、かつ、櫛形電極20によって反射する弾性表面波を相殺しない構造とすることで励振された弾性表面波の放射コンダクタンスのQ値を向上させ、さらに櫛形電極と反射器で得られる固有振動変位を同一とすることでモード変換損を無くすことができるので、共振子のQ値を向上させることができる。