(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5931640
(24)【登録日】2016年5月13日
(45)【発行日】2016年6月8日
(54)【発明の名称】バネ掛止構造
(51)【国際特許分類】
H01R 13/52 20060101AFI20160526BHJP
【FI】
H01R13/52 302C
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-173807(P2012-173807)
(22)【出願日】2012年8月6日
(65)【公開番号】特開2014-32902(P2014-32902A)
(43)【公開日】2014年2月20日
【審査請求日】2015年7月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006895
【氏名又は名称】矢崎総業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100100712
【弁理士】
【氏名又は名称】岩▲崎▼ 幸邦
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】澤田 敦
(72)【発明者】
【氏名】山田 矩久
(72)【発明者】
【氏名】塚本 節
【審査官】
高橋 学
(56)【参考文献】
【文献】
特開平8−169460(JP,A)
【文献】
特開2012−18838(JP,A)
【文献】
実開昭52−139117(JP,U)
【文献】
特開2007−165723(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01R 13/52
B65D 43/16
B65D 35/44
B65D 51/18
B65D 55/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コイル部と前記コイル部の両端側よりそれぞれ延設された2つのアーム部とを有し、前記コイル部が固定部材に可動部材を回転自在に支持する回転支持ピンに挿入され、一方の前記アーム部が前記固定部材の掛止面に掛止され、他方の前記アーム部が前記可動部材の掛止面に掛止されたバネ掛止構造であって、
前記固定部材と前記可動部材の少なくともいずれか一方には、前記コイル部の撓み変形による前記アーム部の前記掛止面に沿う移動では干渉しない位置で、且つ、前記アーム部の撓み変形による前記アーム部の前記掛止面に沿う移動では干渉する位置に規制壁部が設けられたことを特徴とするバネ掛止構造。
【請求項2】
請求項1記載のバネ掛止構造であって、
前記固定部材は、コネクタハウジングの外側面を被うように配置された外装ケースであり、前記可動部材は、前記コネクタハウジングの端子挿入孔を開閉するキャップであることを特徴とするバネ掛止構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固定部材とこれに回転自在に支持された可動部材との間に介在されるバネ掛止構造に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車(EV)やハイブリッド電気自動車(HEV)等の車両に搭載されるバッテリを充電するために、車両には充電インレット装置が設けられる。このような充電インレット装置には、キャップの開閉にバネ掛止構造が適用される(特許文献1、2参照)。従来のバネ掛止構造を適用した充電インレット装置の一従来例して、
図5に示すものがある。
【0003】
図5において、充電インレット装置50は、内部に端子(図示せず)が収容されたコネクタハウジング51と、このコネクタハウジング51の外周を被うように配置された外装ケース52と、この外装ケース52の一端部に回転自在に支持されたキャップ53とを備えている。
【0004】
コネクタハウジング51は、円筒状で、この円筒状の前面を塞ぐ前面壁54を有する。前面壁54には、端子挿入孔55が設けられている。この端子挿入孔55より相手端子(図示せず)が挿入される。挿入された相手端子が内部の端子(図示せず)に電気的に接続される。
【0005】
外装ケース52には、キャップロック部52aが設けられている。
【0006】
キャップ53の内面には、パッキン56が設けられている。キャップ53は、前面壁54に密着して端子挿入孔55を塞ぐ閉位置と、前面壁54より離間して端子挿入孔55を開放する開位置(
図5の位置)との間で回転支持ピン57を介して回転自在に設けられている。そして、キャップ53は、外装ケース52にバネ掛止構造によって開位置側に付勢されている。
【0007】
バネ掛止構造は、
図6及び
図7に示すように、ねじりコイルバネ60を有する。ねじりコイルバネ60は、コイル部61とこのコイル部61の両端側よりそれぞれ延設された2つのアーム部62,63とを有する。コイル部61が回転支持ピン57に挿入されている。一方のアーム部62は、外装ケース52の掛止面58に掛止され、他方のアーム部63がキャップ53の掛止面59に掛止されている。ねじりコイルバネ60は、キャップ53を開位置側に付勢している。
【0008】
キャップ53は、ねじりコイルバネ60のバネ力に抗して開位置より閉位置まで回転されると、キャップ53の係止部53aがキャップロック部52aにロックされる。これにより、キャップ53は、閉位置に位置保持される。キャップロック部52aをロック解除すると、キャップ53がねじりコイルバネ60のバネ力によって閉位置から開位置に回転する。キャップ53の開時には、ユーザが手動でキャップ53を開く必要がない。
【0009】
前記バネ掛止構造にあって、ねじりコイルバネ60の組み付けは、コイル部61を回転支持ピン57に挿入し、各アーム部62,63の先端部62a,63aを各掛止面58,59上にセットすれば組み付けできる。つまり、ねじりコイルバネ60を組み付ける際に、一対のアーム部62,63の先端部62a,63aを位置決めする掛止部に掛止する必要がないため、組み付け作業性が良い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2010−166756号公報
【特許文献2】特開平10−152071号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、キャップ53を開位置とした状態で雨等の水分がコイル部61に付着し、この付着した水が凍結した場合、コイル部61のねじりを妨げる場合がある。コイル部61が自由に捻れることができない状態で、ユーザがキャップ53を開位置から閉位置に移動させると、アーム部62,63に過剰な負荷が作用する。すると、
図8に示すように、例えば一方のアーム部62が撓み変形しつつ一方のアーム部62の先端部62aが掛止面58上を摺動する。これにより、一方のアーム部62が弾性変形域を超えて塑性変形したり、一方のアーム部62の先端部62aが掛止面58より脱落したりする恐れがある。一方のアーム部62が塑性変形すると、バネ力が弱くなり、開閉補助の機能が低下する。又、アーム部62の先端部62aが掛止面58より脱落すると、バネ力自体が作用しなくなり、開閉補助の機能自体が阻害される。
【0012】
ここで、コイル部61にグリス等の塗布による凍結防止や、バネ線径アップによる強度向上等の手段も考えられるが、コスト高になる。
【0013】
そこで、本発明は、前記した課題を解決すべくなされたものであり、コスト増加になることなく、凍結が発生してもねじりコイルバネの過剰変形等に起因する不具合を防止できるバネ掛止構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、コイル部と前記コイル部の両端側よりそれぞれ延設された2つのアーム部とを有し、前記コイル部が固定部材に可動部材を回転自在に支持する回転支持ピンに挿入され、一方の前記アーム部が前記固定部材の掛止面に掛止され、他方の前記アーム部が前記可動部材の掛止面に掛止されたバネ掛止構造であって、前記固定部材と前記可動部材の少なくともいずれか一方には、前記コイル部の撓み変形による前記アーム部の前記掛止面に沿う移動では干渉しない位置で、且つ、前記アーム部の撓み変形による前記アーム部の前記掛止面に沿う移動では干渉する位置に規制壁部が設けられたことを特徴とするバネ掛止構造である。
【0015】
前記固定部材は、コネクタハウジングの外側面を被うように配置された外装ケースであり、前記可動部材は、前記コネクタハウジングの端子挿入孔を開閉するキャップである構造に適用しても良い。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、アーム部の過剰な撓み変形や掛止面からの脱落が規制壁部によって阻止できる。そして、ねじりコイルバネの過剰変形等を固定部材や可動部材に規制壁部を付設するだけで良い。以上より、コスト増加になることなく、凍結が発生してもねじりコイルバネの過剰変形等に起因する不具合を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態を示し、キャップが開位置に位置する充電インレット装置の斜視図である。
【
図2】本発明の一実施形態を示し、キャップが閉位置に位置する充電インレット装置の斜視図である。
【
図3】本発明の一実施形態を示し、(a)は外装ケースの掛止面及び規制壁部周辺の斜視図、(b)はキャップの掛止面及びが規制壁部周辺の斜視図である。
【
図4】本発明の一実施形態を示し、(a)は一方のアーム部に過剰負荷が作用した場合のアーム部の動作を説明する断面図、(b)は他方のアーム部に過剰負荷が作用した場合のアーム部の動作を説明する断面図である。
【
図5】従来例のバネ掛止構造を適用した充電インレット装置の斜視図である。
【
図6】(a)はキャップが開位置の状態におけるバネ掛止構造の断面図、(b)はキャップが閉位置の状態におけるバネ掛止構造の断面図である。
【
図8】従来例において、一方のアーム部に過剰負荷が作用した場合のアーム部の動作を説明する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0019】
図1〜
図5は本発明の一実施形態を示す。
図1〜
図3に示すように、充電インレット装置1は、内部に端子(図示せず)が収容されたコネクタハウジング2と、このコネクタハウジング2の外側面を被うように配置された固定部材である外装ケース10と、この外装ケース10の一端部に回転自在に支持された可動部材であるキャップ20とを備えている。
【0020】
コネクタハウジング2は、円筒状で、この円筒状の前面を塞ぐ前面壁3を有する。前面壁3には、複数の端子挿入孔4が設けられている。この各端子挿入孔4より相手端子(図示せず)が挿入される。挿入された相手端子が内部の端子(図示せず)に電気的に接続される。
【0021】
外装ケース10は、ほぼ円筒状の嵌合ケース部11と、この嵌合ケース部11の後端側に一体に設けられたブラケット部12とを有する。ブラケット部12を介して充電インレット装置1が車両側に固定される。嵌合ケース部11とコネクタハウジング2の外周との間には、相手側(例えば充電スタンド側)のコネクタハウジング(図示せず)の嵌合スペースSが設けられている。
【0022】
嵌合ケース部11の一端側には、一対のキャップ支持部13が設けられている。この一対のキャップ支持部13には、回転支持ピン14が固定されている。
【0023】
嵌合ケース部11の他端側には、キャップロック部15が設けられている。キャップロック部15は、嵌合ケース部11にロック位置とロック解除位置との間で揺動自在に支持されている。キャップロック部15は、ねじりコイルバネ35によってロック位置側に付勢されている。
【0024】
キャップ20は、ほぼ略円板状である。キャップ20は、その一端側に支持部21を有し、他端側に係止部22を有する。支持部21は、回転支持ピン14に回転自在に支持されている。これにより、キャップ20は、端子挿入孔4及び嵌合スペースSを塞ぐ閉位置(
図2の位置)と、コネクタハウジング2の前面壁3及び外装ケース10の前端部より離間して端子挿入孔4及び嵌合スペースSを開放する開位置(
図1の位置)との間で回転自在に支持されている。キャップ20は、外装ケース10に対しバネ掛止構造によって開位置側に付勢されている。バネ掛止構造については、下記に詳述する。
【0025】
キャップ20には、キャップ20が開位置より閉位置まで回転されると、キャップ20の係止部22がキャップロック部15にロックされる。これにより、キャップ20は、閉位置に位置保持される。
【0026】
キャップ20の内面には、ほぼ円板状のパッキン25が設けられている。パッキン25は、外装ケース10の前端部と同等若しくは若干大きな外径寸法に設定されている。キャップ20の閉位置では、パッキン25が前面壁3に直接密着する。
【0027】
パッキン25は、車両の軽量化の観点から軽い部材で、且つ、隙間防止(封止性)やガタ付き防止(異音防止)の観点から弾力に優れた部材、例えば発泡ゴムより形成されている。
【0028】
バネ掛止構造は、
図3及び
図4に示すように、ねじりコイルバネ30を有する。ねじりコイルバネ30は、螺旋状に密に巻回されたコイル部31と、このコイル部31の両端側よりそれぞれ延設された2つのアーム部32,33とを有する。コイル部31が回転支持ピン14に挿入されている。各アーム部32,33は、ほぼ直線状であり、その先端部32a,33aが垂直に折り曲げられている。一方のアーム部32の先端部32aは、外装ケース10の掛止面16に掛止されている。他方のアーム部33の先端部33aは、キャップ20の掛止面26に掛止されている。ねじりコイルバネ30は、キャップ20を開位置側に付勢している。
【0029】
外装ケース10とキャップ20の双方には、コイル部31の撓み変形によるアーム部32,33の掛止面16,26に沿う移動では干渉しない位置で、且つ、アーム部32,33の撓み変形によるアーム部32,33の掛止面16,26に沿う移動では干渉する位置に規制壁部17,27がそれぞれ設けられている。
【0030】
次に、充電インレット装置1のキャップ20の開閉動作を説明する。キャップ20が開位置にあって、キャップ20をねじりコイルバネ30のバネ力に抗して開位置より閉位置まで回転すると、キャップ20の係止部22がキャップロック部15にロックされる。これにより、キャップ20は、閉位置に位置保持される。このキャップ20の開位置から閉位置への移動では、ねじりコイルバネ30は、通常では、そのコイル部31がねじり変形し、一対のアーム部32,33の位置が掛止面16,17上をほとんど摺動しないため、規制壁部17,27に干渉することがない。
【0031】
キャップ20が閉位置にあって、キャップロック部15をロック解除すると、キャップ20がねじりコイルバネ30のバネ力によって閉位置から開位置に回転する。キャップ20の開時には、ユーザが手動でキャップ20を開く必要がない。このキャップ20の閉位置から開位置への移動では、ねじりコイルバネ30は、通常では、そのコイル部31がねじり復帰変形し、一対のアーム部32,33の位置が掛止面16,17上をほとんど摺動しないため、規制壁部17,27に干渉することがない。
【0032】
上記動作過程にあって、キャップ53を開位置とした状態で雨等の水分がコイル部31に付着し、この付着した水が凍結した場合、コイル部31のねじりを妨げる場合がある。コイル部31が自由に捻れることができない状態で、ユーザがキャップ20を開位置から閉位置に移動させると、アーム部32,33に過剰な負荷が作用する。すると、
図4(a)に示すように、例えば一方のアーム部32が撓み変形しつつ一方のアーム部32の先端部32aが掛止面16上を摺動する。しかし、一方のアーム部32の先端部32aの摺動は、規制壁17に突き当たることによって阻止される。これにより、一方のアーム部32の過剰な撓み変形、つまり、塑性変形域までの変形が阻止される。又、一方のアーム部32の先端部32aが掛止面16より脱落したりことがない。
【0033】
又、
図4(b)に示すように、例えば他方のアーム部33が撓み変形しつつ他方のアーム部33の先端部33aが掛止面26上を摺動する。しかし、他方のアーム部33の先端部33aの摺動は、規制壁27に突き当たることによって阻止される。これにより、他方のアーム部33の過剰な撓み変形、つまり、塑性変形域までの変形が阻止される。又、他方のアーム部33の先端部33aが掛止面26より脱落したりことがない。
【0034】
このように、アーム部32,33の過剰な撓み変形や掛止面16,26からの脱落が規制壁部17,27によって阻止できる。そして、ねじりコイルバネ30の過剰変形等の防止は、外装ケース10やキャップ20に規制壁部17,27を付設するだけで可能である。規制壁部17,27の追加は、外装ケース10等の僅かな設計変更で足り、ほとんどコスト増加を招来しない。以上より、コスト増加になることなく、凍結が発生してもねじりコイルバネ30の過剰変形等に起因する不具合を防止できる。
【0035】
この実施形態では、規制壁部17,27を外装ケース10側とキャップ20側の双方に設けたが、凍結がコイル部31のいずれか一方側にのみ発生するような構造等である場合には、外装ケース10側とキャップ20側のいずれか一方にのみ設けても良いことはもちろんである。
【0036】
また、バネ掛止構造にあって、ねじりコイルバネ30の組み付けは、コイル部31を回転支持ピン14に挿入し、各アーム部32,33の先端部32a,33aを各掛止面16,26上にセットすれば組み付けできるため、従来例と同様の組み付け作業性を維持できる。
【0037】
尚、この実施形態では、固定部材は、コネクタハウジング2の外側面を被うように配置された外装ケース10であり、可動部材は、コネクタハウジング2の端子挿入孔4を開閉するキャップ20であり、本発明を充電インレット装置1のキャップ20の開閉構造に適用したが、これに限定されるものではない。本発明は、固定部材とこれに回転自在に支持された可動部材との間にコイルバネ30が介在される全ての装置に適用できる。
【符号の説明】
【0038】
2 コネクタハウジング
10 外装ケース(固定部材)
14 回転支持ピン
16,26 掛止面
17,27 規制壁部
20 キャップ(可動部材)
30 ねじりコイルバネ
31 コイル部
32 一方のアーム部
33 他方のアーム部