(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明における実施の形態について説明する。
【0014】
本実施形態における樹脂組成物は、セルロース繊維と、エチレンおよび不飽和カルボン酸を共重合成分として含むエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体またはそのアイオノマー樹脂と、を含む。
本実施形態における樹脂組成物は、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体またはそのアイオノマー樹脂を含むことにより、セルロース繊維の樹脂組成物中での分散性を向上させることができる。
なお、本実施形態では、アイオノマー樹脂とは、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体をベースポリマーとし、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体中のカルボキシル基を金属イオンで中和したものをいう。
【0015】
(セルロース繊維)
はじめに、本実施形態におけるセルロース繊維について説明する。
【0016】
本実施形態におけるセルロース繊維は、平均繊維径が好ましくは1nm以上100nm以下のものであり、より好ましくは1nm以上50nm以下のものであり、さらに好ましくは1nm以上10nm以下のものである。セルロース繊維の平均繊維径が上記範囲内であると、セルロース繊維の樹脂組成物中での分散性をより一層向上させることができる。
【0017】
また、本実施形態におけるセルロース繊維は、上記平均繊維径に対する平均繊維長の比(平均繊維長/平均繊維径)で定義される平均アスペクト比が、好ましくは10以上5000以下のものであり、より好ましくは10以上2000以下のものであり、さらに好ましくは10以上1000以下のものであり、特に好ましくは10以上500以下のものである。セルロース繊維の平均アスペクト比が上記範囲内であると、セルロース繊維の樹脂組成物中での分散性をより一層向上させることができる。
【0018】
ここで、セルロース繊維の繊維径および繊維長は、例えば、原子間力顕微鏡などの顕微鏡によってセルロース繊維を撮影し、その画像から測定することができる。また、セルロース繊維の平均繊維径および平均繊維長は、例えば、セルロース繊維10点の繊維径および繊維長をそれぞれ測定し、その平均値を採用することができる。
【0019】
本実施形態におけるセルロース繊維は、それを構成するセルロースが酸化セルロースであることが好ましい。セルロース繊維を構成するセルロースが酸化セルロースであると、セルロース繊維の樹脂組成物中での分散性をより一層向上させることができる。
【0020】
上記酸化セルロースのカルボキシル基含有量(酸化セルロース1g中に含まれるカルボキシキ基のモル量)は、好ましくは0.1mmol/g以上2mmol/g以下であり、より好ましくは0.4mmol/g以上2mmol/g以下であり、特に好ましくは0.6mmol/g以上1.8mmol/g以下である。ここで、カルボキシル基含有量は、例えば、中和滴定により測定することができる。
【0021】
カルボキシル基含有量が上記下限値以上であると、セルロース繊維を含むディスパージョンの粘性が低くなり、ディスパージョンの取り扱い性を向上させることができる。
また、カルボキシル基含有量が上記下限値以上であると、繊維間の静電反発力が強くなるため、ディスパージョン中でセルロース繊維の分散性を向上させることができる。また、セルロース繊維の樹脂組成物中での分散性をより一層向上させることができる。
ここでの分散性が良好であるというのは、セルロース繊維がディスパージョン中で凝集や沈降などを起こしにくいことをいう。分散性は、水分散液の目視観察によって確認される。
【0022】
カルボキシル基含有量が上記上限値以下であると、酸化セルロースの調整時の酸化処理工程を短縮できる。また、セルロース繊維を含むディスパージョンの粘性が低くなり、ディスパージョンの取り扱い性を向上させることができる。さらに、得られる成形体の耐水性や耐熱性を向上させることができる。
【0023】
酸化セルロースとしては、特に、酸化触媒として2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル(TEMPO)などのN−オキシル化合物を用いてセルロースを酸化処理することにより得られたものが好ましい。
【0024】
N−オキシル化合物を用いて酸化処理を行うと、セルロース分子中の1級水酸基(グルコピラノース環の6位の炭素原子に結合した水酸基)の部分が高い選択性で酸化され、−CH
2OHがホルミル基を経てカルボキシ基に変換される。N−オキシル化合物を用いた酸化処理によれば、カルボキシ基を均一に、かつ、効率よく導入することができる。
また、N−オキシル化合物を用いた酸化処理は、セルロースの結晶性を損ないにくい。そのため、N−オキシル化合物を用いた酸化処理により得られる酸化セルロースのミクロフィブリルは、天然のセルロースが有する高い結晶構造を保持しており、高い機械的強度を得ることができる。
【0025】
(酸化セルロースを含むセルロース繊維の調製)
本実施形態における酸化セルロースを含むセルロース繊維は、例えば、以下の(1)〜(5)の方法にしたがって製造することができる。
【0026】
(1)はじめに、セルロース原料に対して、質量基準で約10〜1000倍量の水を加え、スラリー化する。
セルロース原料としては、セルロースを含むものであれば特に限定されないが、例えば、各種木材パルプ、非木材パルプ、バクテリアセルロース、再生セルロース、古紙パルプ、コットン、バロニアセルロース、ホヤセルロースなどが挙げられる。また、市販されている各種セルロース粉末や微結晶セルロース粉末を使用してもよい。
【0027】
(2)次に、N−オキシル化合物を含む酸化触媒液を用いて、上記スラリーを酸化処理する。
このとき、N−オキシル化合物とともに、酸化剤を併用することが好ましい。酸化剤を併用すると、N−オキシル化合物が酸化剤により酸化されてオキソアンモニウム塩を順次生成し、そのオキソアンモニウム塩により、セルロースが酸化される。かかる酸化処理によれば、温和な条件下でも酸化反応を進行させることができ、カルボキシ基の導入効率をより向上させることができる。
【0028】
N−オキシル化合物としては、2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジン−N−オキシル(TEMPO)、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル、2,2,6,6−テトラメチル−4−ヒドロキシピペリジン−1−オキシル、2,2,6,6−テトラメチル−4−フェノキシピペリジン−1−オキシル、2,2,6,6−テトラメチル−4−ベンジルピペリジン−1−オキシル、2,2,6,6−テトラメチル−4−アクリロイルオキシピペリジン−1−オキシル、2,2,6,6−テトラメチル−4−メタクリロイルオキシピペリジン−1−オキシル、2,2,6,6−テトラメチル−4−ベンゾイルオキシピペリジン−1−オキシル、2,2,6,6−テトラメチル−4−シンナモイルオキシピペリジン−1−オキシル、2,2,6,6−テトラメチル−4−アセチルアミノピペリジン−1−オキシル、2,2,6,6−テトラメチル−4−アクリロイルアミノピペリジン−1−オキシル、2,2,6,6−テトラメチル−4−メタクリロイルアミノピペリジン−1−オキシル、2,2,6,6−テトラメチル−4−ベンゾイルアミノピペリジン−1−オキシル、2,2,6,6−テトラメチル−4−シンナモイルアミノピペリジン−1−オキシル、4−プロピオニルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル、4−メトキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル、4−エトキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル、4−アセトアミド−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル、4−オキソ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル、2,2,4,4−テトラメチルアゼチジン−1−オキシル、2,2−ジメチル−4,4−ジプロピルアゼチジン−1−オキシル、2,2,5,5−テトラメチルピロリジン−N−オキシル、2,2,5,5−テトラメチル−3−オキソピロリジン−1−オキシル、2,2,6,6−テトラメチル−4−アセトキシピペリジン−1−オキシル、ジtert−ブチルアミン−N−オキシル、ポリ[(6−[1,1,3,3−テトラメチルブチル]アミノ)−s−トリアジン−2,4−ジイル][(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ]ヘキサメチレン[(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノなどが挙げられる。
これらの中でも、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル(TEMPO)が特に好ましい。
【0029】
N−オキシル化合物の使用量は特に限定されないが、酸化処理するセルロース原料の固形分100質量部に対して、通常は0.1質量部以上10質量部以下の範囲内であり、好ましくは0.5質量部以上5質量部以下の範囲内である。
【0030】
酸化剤としては、臭素、塩素、ヨウ素などのハロゲン、次亜ハロゲン酸、亜ハロゲン酸や過ハロゲン酸、またはそれらの塩、ハロゲン酸化物、窒素酸化物、過酸化物など、目的の酸化反応を促進できるものであれば特に限定されない。
酸化剤の使用量は、酸化処理するセルロース原料の固形分100質量部に対して、通常は1質量部以上100質量部以下の範囲内であり、好ましくは5質量部以上50質量部以下の範囲内である。
【0031】
また、N−オキシル化合物および酸化剤とともに、さらに、N−オキシル化合物以外の他の触媒として、臭化物およびヨウ化物から選ばれる少なくとも1種を併用してもよい。
臭化物としては、臭化ナトリウムなどの臭化アルカリ金属塩が挙げられる。また、ヨウ化物としては、ヨウ化ナトリウムなどのヨウ化アルカリ金属塩が挙げられる。
臭化物およびヨウ化物から選ばれる触媒の使用量は、酸化反応を促進できる範囲で選択することができ、特に限定されない。酸化処理するセルロース原料の固形分100質量部に対して、通常は0質量部を超えて100質量部以下の範囲内であり、好ましくは5質量部以上50質量部以下の範囲内である。
【0032】
溶媒には水を使用することができる。酸化触媒液の浸透性を向上させるために、メタノール、エタノールなどのアルコールや各種界面活性剤を含有させてもよい。
【0033】
酸化触媒液のpHは、例えば、9以上12以下の範囲でおこなうことができる。また、酸化処理の温度と時間は、処理するセルロース原料の量により適宜設定されるため特に限定されないが、例えば、1℃以上60℃以下の範囲で、1分間以上500分間以下の範囲でおこなうことができる。
【0034】
上記の酸化処理条件を適切に調整することにより、上述した酸化セルロースのカルボキシル基含有量を所望の範囲内に調整することができる。また、上記酸化セルロースのカルボキシル基含有量を調整することにより、カルボキシル基の静電反発により、セルロース繊維の繊維径や繊維長などを調整することができる。
【0035】
(3)つづいて、使用した触媒などを水洗などにより除去し、必要に応じて乾燥処理することにより、繊維状や粉末状の中間体を得ることができる。
【0036】
(4)その後、上記中間体を水などの溶媒中に分散し、必要に応じて微細化処理をしてもよい。微細化処理は、例えば、ホモジナイザー、カッターミル、ボールミル、ジェットミル、1軸または2軸押出機、ミキサーなどでおこなうことができる。
微細化処理の条件を調整することにより、セルロース繊維を所望の繊維径や繊維長に調整することができる。
【0037】
(5)最後に、ディスパージョンまたは、乾燥処理した粉末状のセルロース繊維を得ることができる。なお、ディスパージョンの溶媒としては、水を使用することができる。ディスパージョンには、エタノールなどの有機溶媒や界面活性剤、酸、塩基などを含有させてもよい。
【0038】
(エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体またはそのアイオノマー樹脂)
つぎに、本実施形態におけるエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体またはそのアイオノマー樹脂について説明する。
【0039】
「エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体」
上記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体は、透明性と入手のしやすさの点から、不飽和カルボン酸の共重合量が好ましくは1質量%以上35質量%以下であり、より好ましくは5質量%以上25質量%以下であり、特に好ましくは9質量%以上23質量%以下である。
【0040】
上記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体における不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチルなどが挙げられる。これらの中でも、ポリマーの生産性、衛生性などの観点から、アクリル酸およびメタクリル酸からなる群から選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。
なお、これら不飽和カルボン酸は1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0041】
上記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体は、エチレンと不飽和カルボン酸の二元共重合体のみならず、他の単量体が任意に共重合された多元共重合体であってもよい。
【0042】
上記任意に共重合されていてもよい他の共重合成分としては、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどのビニルエステル;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソオクチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソブチル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチルなどの不飽和カルボン酸エステル;一酸化炭素;二酸化硫黄などが挙げられる。
これらの中でも、好ましくは不飽和カルボン酸エステルであり、特に好ましくはアクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも一種である。なお、これら他の共重合成分は1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0043】
上記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体は、共重合成分として、アクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステルなどの不飽和カルボン酸エステルをさらに含むと、得られる成形体の柔軟性が向上する点で好ましい。上記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体は、不飽和カルボン酸エステルをさらに含む場合、不飽和カルボン酸エステルの共重合量は、好ましくは0質量%を超え30質量%以下であり、より好ましくは5質量%以上30質量%以下である。
【0044】
上記エチレン・不飽和カルボン酸共重合体は、190℃、2160g荷重におけるメルトフローレート(JIS K7210−1999に準拠)が、好ましくは1g/10分以上1000g/10分以下であり、より好ましくは5g/10分以上750g/10分以下であり、特に好ましくは10g/10分以上500g/10分以下である。MFRが上記範囲内であると、成形性・加工性の点で好ましい。
【0045】
上記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体の製造方法は特に限定されないが、公知の重合方法によって製造することができる。例えば、エチレンと不飽和カルボン酸を高温、高圧下でラジカル共重合することによって得ることができる。
本実施形態におけるエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体は、通常はランダム共重合体である。
【0046】
また、本実施形態におけるエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体は、カルボキシル基の一部または全部がアンモニア、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、1,3−ジメチルアミノシクロヘキサンなどのアミノ化合物で中和されていることが好ましい。
【0047】
上記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のカルボキシル基の中和度は、好ましくは10モル%以上100モル%以下であり、より好ましくは15モル%以上85モル%以下であり、特に好ましくは20モル%以上80モル%以下である。中和度が上記範囲内であると、セルロース繊維の樹脂組成物中での分散性をより一層向上させることができる。
【0048】
上記アミノ化合物で中和されたエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体は、例えば、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体と、アミノ化合物とを混合して反応させることにより得ることができる。
【0049】
「アイオノマー樹脂」
本実施形態におけるアイオノマー樹脂は、上記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のカルボキシル基の一部または全部が金属イオンで中和されたものである。
上記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のカルボキシル基の中和度は、好ましくは10モル%以上100モル%以下であり、より好ましくは15モル%以上85モル%以下であり、特に好ましくは20モル%以上80モル%以下である。中和度が上記範囲内であると、セルロース繊維の樹脂組成物中での分散性をより一層向上させることができる。
【0050】
上記アイオノマー樹脂を構成する金属イオンとしては、例えば、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオンなどのアルカリ金属イオン;マグネシウムイオン、カルシウムイオン、亜鉛イオン、コバルトイオン、ニッケルイオン、マンガンイオン、鉛イオン、銅イオン、チタンイオン、鉄イオン、アルミニウムイオン、ジルコニウムイオンなどの多価金属イオンなどが挙げられる。
これらの中でも、ナトリウムイオン、亜鉛イオンまたはマグネシウムイオンが特に好ましい。これら金属イオンは1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0051】
また、本実施形態におけるアイオノマー樹脂は、金属イオンの他にアンモニア、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、1,3−ジメチルアミノシクロヘキサンなどのアミノ化合物を含むものであってもよい。
【0052】
上記アイオノマー樹脂は、例えば、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体と上記金属イオンを含む酸化物、水酸化物、炭酸塩などとを反応させることにより得ることができる。
【0053】
本実施形態において、アイオノマー樹脂としては、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0054】
(樹脂組成物の製造方法)
本実施形態における樹脂組成物の製造方法は特に限定されないが、例えば、上述したセルロース繊維を含むディスパージョン(A)と、上述したエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体またはそのアイオノマー樹脂を水などの分散媒に分散させたディスパージョン(B)と、を混合することにより得られる。
【0055】
ディスパージョン(A)および(B)を混合する方法は特に限定されないが、例えば、ディスパージョン(A)および(B)を攪拌または振とうしながら混合することができる。
【0056】
また、本実施形態における樹脂組成物は、例えば、上述したセルロース繊維と、上述したエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体またはそのアイオノマー樹脂と、を同時または逐次的にドライブレンドまたはメルトブレンドすることによっても得ることができる。
ドライブレンドには、ヘンシェルミキサー、タンブラーミキサーなどの各種ミキサーを用いることができる。
また、メルトブレンドする場合は、1軸または2軸押出機、バンバリーミキサー、ロール、ニーダーなどの混練装置を用いて溶融混練することができる。
【0057】
本実施形態における樹脂組成物は、上記セルロース繊維および上記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体またはそのアイオノマー樹脂の合計を100質量%としたとき、上記セルロース繊維の含有量が、好ましくは0.1質量%以上99質量%以下であり、より好ましくは0.1質量%以上95質量%以下である。セルロース繊維の含有量が上記範囲内であると、セルロース繊維の樹脂組成物中での分散性をより一層向上させることができる。
【0058】
また、本実施形態における樹脂組成物は、温度23℃、湿度50%の環境下で測定した印加電圧500Vにおける、当該樹脂組成物からなる塗膜の表面抵抗率が、好ましくは1×10
7Ω/sq以上1×10
12Ω/sq以下であり、より好ましくは1×10
9Ω/sq以上1×10
11Ω/sq以下である。当該樹脂組成物からなる塗膜の表面抵抗率が、上記範囲内であると、セルロース繊維の成形体中での分散性をより一層向上させることができる。
【0059】
(成形材料)
本実施形態における成形材料は、上記樹脂組成物を含むものである。本実施形態における成形材料は、上記樹脂組成物に、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリカーボネート、ナイロン、ポリエチレンテレフタラートなどの熱可塑性樹脂;カップリング剤、無機フィラー、有機フィラー、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定化剤、老化防止剤、光拡散剤、可塑剤、有機色素、染料、顔料、滑剤、耐衝撃改良剤、金属不活性剤、難燃剤、難燃助剤、スリップ剤、強化剤、離型剤などの添加剤;などを1種単独含有させてもよいし、2種以上を組み合わせて含有させてもよい。
【0060】
(成形体)
本実施形態における成形体は、例えば、上記成形材料を、押出成形、射出成形、圧縮成形、中空成形などの公知の成形方法により、シート形状、フィルム形状、板形状、それ以外の立体形状などの各種形状に成形することにより得ることができる。
また、本実施形態における成形体は、上記成形材料を、処理対象物に塗布・噴霧などした後、乾燥させてフィルム形状に成形することによっても得ることができる。
【0061】
また、本実施形態における成形体は、本発明の効果を損なわない範囲内において、その表面に無機または有機化合物によるハードコート処理、帯電防止処理、反射防止処理、電磁遮蔽処理などをおこなってもよい。これらの処理は、成形体の表面に蒸着、スパッタリング、ディッピング、熱転写などによりおこなうことができる。
【0062】
本実施形態における樹脂組成物はセルロース繊維の分散性に優れている。そのため、本実施形態における樹脂組成物を含む成形材料を用いると、機械的強度などの物性のムラが少ない成形体を得ることができる。さらに、成形体中にセルロース繊維が均一に分散するため、透明性に優れた成形体を得ることができる。
また、本実施形態における樹脂組成物を含む成形材料を用いると、成形体の表面抵抗率を低下させることができる。そのため、帯電性に優れた成形体を得ることができる。
【0063】
本実施形態における成形体は特に限定されないが、例えば、光学材料、電気・電子機器の内装または外装部品、電子部品用トレイ、自動車用材料、各種機械部品、住宅・建築用材料、管、チューブ、玩具、日用雑貨など幅広い分野で用いることができる。
【0064】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
以下、参考形態の例を付記する。
1.
セルロース繊維と、
エチレンおよび不飽和カルボン酸を共重合成分として含むエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体またはそのアイオノマー樹脂と、
を含む樹脂組成物。
2.
1.に記載の樹脂組成物において、
前記セルロース繊維を構成するセルロースが酸化セルロースである、樹脂組成物。
3.
2.に記載の樹脂組成物において、
前記酸化セルロースは、酸化触媒としてN−オキシル化合物を用いてセルロースを酸化処理することにより得られる、樹脂組成物。
4.
2.または3.に記載の樹脂組成物において、
前記セルロース繊維の平均繊維径が1nm以上100nm以下である、樹脂組成物。
5.
1.乃至4.いずれか一つに記載の樹脂組成物において、
温度23℃、湿度50%の環境下で測定した印加電圧500Vにおける、当該樹脂組成物からなる塗膜の表面抵抗率が、1×107Ω/sq以上1×1012Ω/sq以下である、樹脂組成物。
6.
1.乃至5.いずれか一つに記載の樹脂組成物において、
前記セルロース繊維および前記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体またはそのアイオノマー樹脂の合計を100質量%としたとき、
前記セルロース繊維の含有量が0.1質量%以上99質量%以下である、樹脂組成物。
7.
1.乃至6.いずれか一つに記載の樹脂組成物において、
前記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体が、前記エチレンおよび前記不飽和カルボン酸のランダム共重合体である、樹脂組成物。
8.
1.乃至7.いずれか一つに記載の樹脂組成物において、
前記不飽和カルボン酸が、アクリル酸およびメタクリル酸からなる群から選ばれる少なくとも一種である、樹脂組成物。
9.
1.乃至8.いずれか一つに記載の樹脂組成物を含む成形材料。
10.
9.に記載の成形材料において、
さらに熱可塑性樹脂を含む、成形材料。
11.
9.または10.に記載の成形材料を成形して得られる、成形体。
12.
セルロース繊維を含むディスパージョン(A)と、
エチレンおよび不飽和カルボン酸を共重合成分として含むエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体またはそのアイオノマー樹脂を含むディスパージョン(B)と、
を混合する工程を含む、樹脂組成物の製造方法。
【実施例】
【0065】
以下に、本実施形態を実施例および比較例により説明するが、本実施形態はこれらに限定されるものではない。
【0066】
(使用した材料)
実施例および比較例では以下の材料を使用した。
【0067】
(樹脂ディスパージョン)
(1)樹脂DSP1:エチレン・メタクリル酸共重合体(メタクリル酸含有量:20質量%、MFR60g/10分)の50モル%Na中和物の水性分散体、固形分濃度1質量%
(2)樹脂DSP2:エチレン・メタクリル酸共重合体(メタクリル酸含有量:20質量%、MFR60g/10分)の50モル%Na中和物の水性分散体、固形分濃度27質量%
(3)樹脂DSP3:エチレン・アクリル酸共重合体(アクリル酸含有量:20質量%、MFR300g/10分)の75モル%NH
3中和物の水性分散体、固形分濃度24質量%
(4)樹脂DSP4:エチレン・アクリル酸共重合体(アクリル酸含有量:20質量%、MFR300g/10分)の75モル%NH
3中和物の水性分散体、固形分濃度1質量%
(5)樹脂DSP5:エチレン・酢酸ビニル共重合体(酢酸ビニル含有量:19質量%、MFR150g/10分)の水性分散体、固形分濃度15質量%
(6)樹脂DSP6:エチレン・酢酸ビニル共重合体(酢酸ビニル含有量:19質量%、MFR150g/10分)の水性分散体、固形分濃度1質量%
【0068】
酸化セルロース繊維ディスパージョンは、TEMPO酸化セルロース繊維ディスパージョン(日本製紙社製、固形分濃度1質量%、平均繊維径2.7nm)を用いた。
【0069】
[実施例1]
(PET塗膜の作製)
エチレン・メタクリル酸共重合体と酸化セルロース繊維とが表1に示す配合比(質量部)になるように、樹脂DSP1と酸化セルロース繊維ディスパージョンとを攪拌混合した。得られたディスパージョンをコロナ処理したPETフィルム(厚み100μm)上にバーコーター(No.32)にて塗布した。その後、150℃で10分間乾燥し、PET塗膜を得た。
【0070】
(プレスシートの作製)
PET塗膜と同様の方法で調製したディスパージョンを室温で乾燥し、固形分を取り出した。次いで、その固形分を次の条件でヒートプレスし、シート化した。
加熱プレス条件:各温度(130℃、150℃)、加熱1分間、加圧1分間
冷却条件:20℃、3分間。
【0071】
[実施例2〜9および比較例1〜6]
実施例2〜9および比較例1〜6は、使用した樹脂DSPの種類を表1に示したものに変え、樹脂およびセルロース繊維の配合比を表1に示した値に変えた以外は、実施例1と同様にしてPET塗膜およびプレスシートをそれぞれ作製した。ただし、樹脂DSP100%のものはバーコーター(No.3)でPETフィルム上に塗布した。
【0072】
(樹脂組成物の評価)
得られたPET塗膜およびプレスシートについて、以下の評価をそれぞれおこなった。
【0073】
(1)鉛筆硬度の測定
芯が硬い鉛筆から順番にプレスシート表面を引っ掻き、傷が付かなくなった芯の硬さを記録した。
【0074】
(2)塗膜の耐水性測定
PET塗膜をイオン交換水に2時間浸漬し、取り出した塗膜の状態を目視にて観察した。水により膨潤した塗膜を耐水性×とし、膨潤がみられなかった塗膜を耐水性○とし、その中間を△とした。
【0075】
(3)全光線透過率およびHAZEの測定
全光線透過率は、JIS K7361に準拠して、ヘイズ・透過率計(HM−150、村上色彩技術研究所社製)を用いて測定した。
HAZEは、JIS K7136に準拠して、ヘイズ・透過率計(HM−150、村上色彩技術研究所社製) を用いて測定し、以下の式から算出した。
HAZE(%)=(全光線透過率―平行線透過率)/全光線透過率
なお、ヘイズ・透過率計の光源に垂直になるよう(PET塗膜への入射光角度0度の状態)にしてPET塗膜を立てて設置した状態で測定した。
【0076】
(4)イエローインデックス(YI)の測定
カラーコンピューター(SM−7−1S−2B、スガ試験機社製)を用いて、2光路8/d方式の透過法を用いて測定した。
【0077】
(5)表面抵抗率の測定
表面抵抗率(Ω/sq)は、表面抵抗率計(Hiresta−UP、三菱化学アナリテック社製)および測定プローブ(URS、三菱化学アナリテック社製)を用いて,印加電圧500V、測定時間10秒、温度23℃の条件で測定した。なお、測定前に、湿度50%または湿度30%に調整した環境試験機内にPET塗膜を48時間静置し、十分に吸湿させた後、表面抵抗率を測定した。
【0078】
(セルロース繊維の分散性評価1)
樹脂ディスパージョンと酸化セルロース繊維ディスパージョンとを混合・攪拌した後に、目視で酸化セルロース繊維が分散しているものを○、分散していないものを×とした。
【0079】
(セルロース繊維の分散性評価2)
上記プレスシートの作製において、均一なシートが得られたものを○、分離し不均一なシートになったものを×とした。
【0080】
(評価結果)
以上の評価結果を表1にまとめた。表1から分かるように、本実施形態の樹脂組成物は、セルロース繊維の分散性に優れていた。そのため、得られた塗膜は、機械的強度、耐水性、透明性および表面抵抗率のバランスに優れていた。
【0081】
【表1】