特許第5931693号(P5931693)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱日立パワーシステムズ株式会社の特許一覧

特許5931693中小容量火力発電プラントのリプレース又はリノベーションの方法及び中小容量火力発電プラント用ボイラのリプレース又はリノベーションの方法
<>
  • 特許5931693-中小容量火力発電プラントのリプレース又はリノベーションの方法及び中小容量火力発電プラント用ボイラのリプレース又はリノベーションの方法 図000002
  • 特許5931693-中小容量火力発電プラントのリプレース又はリノベーションの方法及び中小容量火力発電プラント用ボイラのリプレース又はリノベーションの方法 図000003
  • 特許5931693-中小容量火力発電プラントのリプレース又はリノベーションの方法及び中小容量火力発電プラント用ボイラのリプレース又はリノベーションの方法 図000004
  • 特許5931693-中小容量火力発電プラントのリプレース又はリノベーションの方法及び中小容量火力発電プラント用ボイラのリプレース又はリノベーションの方法 図000005
  • 特許5931693-中小容量火力発電プラントのリプレース又はリノベーションの方法及び中小容量火力発電プラント用ボイラのリプレース又はリノベーションの方法 図000006
  • 特許5931693-中小容量火力発電プラントのリプレース又はリノベーションの方法及び中小容量火力発電プラント用ボイラのリプレース又はリノベーションの方法 図000007
  • 特許5931693-中小容量火力発電プラントのリプレース又はリノベーションの方法及び中小容量火力発電プラント用ボイラのリプレース又はリノベーションの方法 図000008
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5931693
(24)【登録日】2016年5月13日
(45)【発行日】2016年6月8日
(54)【発明の名称】中小容量火力発電プラントのリプレース又はリノベーションの方法及び中小容量火力発電プラント用ボイラのリプレース又はリノベーションの方法
(51)【国際特許分類】
   F01K 7/32 20060101AFI20160526BHJP
   F01K 7/22 20060101ALI20160526BHJP
   F22B 29/06 20060101ALI20160526BHJP
【FI】
   F01K7/32
   F01K7/22 Z
   F22B29/06
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-235471(P2012-235471)
(22)【出願日】2012年10月25日
(65)【公開番号】特開2014-84820(P2014-84820A)
(43)【公開日】2014年5月12日
【審査請求日】2015年5月26日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】514030104
【氏名又は名称】三菱日立パワーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】野口 芳樹
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 俊彦
(72)【発明者】
【氏名】小泉 純
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 一彦
(72)【発明者】
【氏名】吉田 雄一
(72)【発明者】
【氏名】篠塚 昇
【審査官】 佐藤 健一
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭61−076806(JP,A)
【文献】 特開平10−231708(JP,A)
【文献】 特開2012−117680(JP,A)
【文献】 特開2008−151471(JP,A)
【文献】 Vivek Asthana、外1名,“PERFORMANCE OF POWER PLANTS WITH HIGH TEMPERATURE CONDITIONS AT SUB-CRITICAL PRESSURES”,Proceedings 5th European Thermal-Sciences Conference,NL,2008年 5月,URL,http://www.eurotherm2008.tue.nl/proceedings_eurotherm2008/papers/thermal_processes/thp_8.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01K 7/00−7/44
F22B 21/26,29/06
F23C 5/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主蒸気の圧力が亜臨界圧であり、燃焼ボイラ設備、蒸気タービン発電機設備、復水給水設備で構成され、定格出力が10万kWから40万kWの範囲内である中小容量火力発電プラントのリプレース又はリノベーションの方法であって、前記燃焼ボイラ設備は、蒸気条件が亜臨界圧593℃以上の過熱蒸気を供給する高温過熱器と、蒸気条件が593℃以上の再熱蒸気を供給する高温再熱器とを備えるようリプレース又はリノベーションし、前記蒸気タービン発電機設備は、蒸気条件が亜臨界圧593℃以上の過熱蒸気で駆動される高圧蒸気タービンと、蒸気条件が593℃以上の再熱蒸気で駆動される再熱中圧蒸気タービンを備えるようリプレース又はリノベーションする、中小容量火力発電プラントのリプレース又はリノベーションの方法
【請求項2】
請求項において、前記燃焼ボイラ設備は、石炭を主たる燃料とする微粉炭燃焼ボイラであり、かつ、ボイラ火炉水壁部を貫流スパイラル方式とした変圧運転貫流ボイラであることを特徴とする中小容量火力発電プラントのリプレース又はリノベーションの方法
【請求項3】
請求項において、前記燃焼ボイラ設備は、前記燃料として、バイオマスや製鉄副生ガスを混焼することを特徴とする中小容量火力発電プラントのリプレース又はリノベーションの方法
【請求項4】
請求項において、複数段に配列され、各段において対向配置された複数の燃焼バーナと、前記各段に対応して設けられ、各段において対向配置された前記燃焼バーナに燃料を振り分けるようにした複数の微粉炭機を有することを特徴とする中小容量火力発電プラントのリプレース又はリノベーションの方法
【請求項5】
請求項において、前記火炉水壁部を構成するスパイラル水壁管の傾きを水平方向から10〜20°とすることを特徴とする中小容量火力発電プラントのリプレース又はリノベーションの方法
【請求項6】
主蒸気の圧力が亜臨界圧であり、単機の発電装置の定格出力が10万kWから40万kWの範囲内である中小容量火力発電プラントに用いられ、微粉炭機、バーナ、火炉、火炉水壁管、節炭器、高温過熱器、高温再熱器、気水分離器を備える中小容量火力発電プラント用ボイラのリプレース又はリノベーションの方法であって、
前記中小容量火力発電プラント用ボイラは、前記火炉水壁管貫流スパイラル方式とした変圧運転貫流ボイラとし
前記高温過熱器は、蒸気条件が亜臨界圧593℃以上の過熱蒸気を発生し、前記高温再熱器は、蒸気条件が593℃以上の再熱蒸気を発生するようリプレース又はリノベーションする、中小容量火力発電プラント用ボイラのリプレース又はリノベーションの方法
【請求項7】
請求項において、前記火炉水壁管のスパイラル水壁管の傾きを水平方向から10〜20°とすることを特徴とする中小容量火力発電プラント用ボイラのリプレース又はリノベーションの方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発電出力が中小容量の亜臨界圧高温火力発電プラント及び亜臨界圧高温変圧運転貫流ボイラに係り、特に、中小容量火力発電プラントのリプレース又はリノベーションの方法及び中小容量火力発電プラント用ボイラのリプレース又はリノベーションの方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ボイラおよび蒸気タービンで構成される火力発電プラントから排出されるCO2の削減のために、蒸気条件の高圧化及び高温化による火力発電プラントの効率向上が進められている。現在、国内では、60万から100万KW級の石炭焚き火力発電プラントを中心に、主蒸気圧力24.1〜25.0MPa(超臨界圧)、主蒸気温度593〜600℃、再熱蒸気温度593〜620℃が商用機に採用されている(例えば、非特許文献1)。一般に、圧力24.1MPa(3500psi)以上、温度593℃(1,100°F)以上の蒸気条件を超々臨界圧(USC)と呼んでいる。このような超々臨界圧の蒸気条件(蒸気温度593℃以上)の実用化は、ボイラ管や弁、タービンに用いられる高温強度と耐食性に優れた高温材料の実用化が大きく寄与している。
【0003】
一方、単機の発電出力が40万kW級以下の中小容量火力発電プラントでは、これまで、主蒸気の圧力が亜臨界圧のままで、タービン入り口蒸気温度も最高でも566℃までの蒸気条件が採用されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】「日立評論」、Vol.80,No.2、1998年2月発行、61〜66頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
中小容量の火力発電プラントには運転年数の長い石炭焚き火力発電プラントが数多く存在し、既設のリプレースやリノベーションによる建設が多く想定される。これらの既設火力発電プラントのリプレースやリノベーションにおいては、CO2削減の観点から特に効率向上が望まれる。もちろん、中小容量の火力発電プラントを新設する場合も効率向上が望まれる。
【0006】
超臨界圧石炭焚き火力発電は、亜臨界圧石炭焚き火力発電に比べ効率が良く、環境負荷も低い。上述したように、高温材料の実用化により593℃以上の超臨界圧の蒸気条件で運転される大容量の火力発電プラントが実用化されてきたもので、このような593℃以上の超臨界圧の蒸気条件を中小容量の火力発電プラントに適用すれば効率向上が期待できると考えられる。
【0007】
しかし、本発明者等の検討によれば、中小容量の火力発電プラントにおいて、超臨界圧の蒸気条件を採用しても想定した効率向上が期待できないことが見出された。即ち、中小容量機で主蒸気圧力を超臨界圧以上まで高めると、理想気体の熱力学法則でもある(圧力)×(容積)÷(温度)=一定の法則に近似して、圧力上昇により比容積が小さくなり、結果として高圧タービン初段翼列の高さや形状の制約で大容量機並みの高効率設計が難しくなる。例えば、蒸気体積減少により高圧タービン初段翼列を短翼化せざるを得ず、これによりタービン内部損失が増加し、超臨界圧化のコストに見合う効率向上が望めない。
【0008】
本発明の目的は、効率向上を効果的に図ることが可能な、発電出力が中小容量の火力発電プラントのリプレース又はリノベーションの方法及び中小容量火力発電プラント用ボイラのリプレース又はリノベーションの方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、主蒸気の圧力が亜臨界圧であり、燃焼ボイラ設備、蒸気タービン発電機設備、復水給水設備で構成され、定格出力が10万kWから40万kWの範囲内である中小容量火力発電プラントのリプレース又はリノベーションの方法であって、前記燃焼ボイラ設備は、蒸気条件が亜臨界圧593℃以上の過熱蒸気を供給する高温過熱器と、蒸気条件が593℃以上の再熱蒸気を供給する高温再熱器とを備えるようリプレース又はリノベーションし、前記蒸気タービン発電機設備は、蒸気条件が亜臨界圧593℃以上の過熱蒸気で駆動される高圧蒸気タービンと、蒸気条件が593℃以上の再熱蒸気で駆動される再熱中圧蒸気タービンを備えるようリプレース又はリノベーションすることを特徴とする。
また、本発明は、主蒸気の圧力が亜臨界圧であり、単機の発電装置の定格出力が10万kWから40万kWの範囲内である中小容量火力発電プラントに用いられ、微粉炭機、バーナ、火炉、火炉水壁管、節炭器、高温過熱器、高温再熱器、気水分離器を備える中小容量火力発電プラント用ボイラのリプレース又はリノベーションの方法であって、前記中小容量火力発電プラント用ボイラは、前記火炉水壁管を貫流スパイラル方式とした変圧運転貫流ボイラとし、前記高温過熱器は、蒸気条件が亜臨界圧593℃以上の過熱蒸気を発生し、前記高温再熱器は、蒸気条件が593℃以上の再熱蒸気を発生するようリプレース又はリノベーションすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、発電出力が中小容量の火力発電プラントの効率を効果的に向上することができる。
【0011】
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施例1の亜臨界圧高温火力発電プラントのシステム構成を示す概略系統図。
図2】本発明の実施例のボイラ構造の概略を示す断面図。
図3】本発明の実施例の特性を示す圧力エンタルピー曲線図。
図4】本発明の実施例における効率向上量の効果を示す図。
図5】本発明の実施例における蒸気温度制御の効果を示す図。
図6】本発明の実施例における蒸気圧力制御の一例を示す図。
図7】本発明の実施例2の亜臨界圧高温火力発電プラントのシステム構成を示す概略系統図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を用いて本発明の実施例を説明する。
【0014】
超臨界圧火力発電は、亜臨界圧火力発電に比べ効率が良く、環境負荷も低いが、本発明は、上述したように、本発明が対象とする発電出力が中小容量の火力発電プラントでは、蒸気条件(定格蒸気条件)を超々臨界圧化しても想定した効率向上が望めないことを見出し、蒸気条件(定格蒸気条件)を、敢えて超臨界圧化することを止めて、亜臨界圧のままとし、高温化(タービン入り口温度593℃以上)して効果的に効率向上するようにしたものである。
【0015】
本発明では、蒸気条件が亜臨界圧・高温(タービン入り口温度593℃以上)の蒸気を蒸気タービンに供給して発電することから、この蒸気条件の蒸気を用いた火力発電プラントを亜臨界圧高温火力発電プラントと称し、また、この蒸気条件の蒸気を発生するボイラを亜臨界圧高温変圧運転貫流ボイラと称する。また、本発明が適用される発電出力が中小容量の火力発電プラントは、具体的には、単機の発電装置(発電装置の1基)の発電出力(定格出力)が10万KW級〜40万KW級の火力発電プラントである。40万KW級を超える場合には、蒸気条件を593℃以上且つ超臨界圧化して効率向上を効果的に図ることが期待でき、蒸気条件を敢えて亜臨界圧化する必要性が小さいからである。また、10万KW級未満では、後述の火炉での熱吸収量の割合が大きくなりすぎ、蒸気温度の高温化を実現するためのボイラ構成が複雑化・高コスト化する等のためである。
【0016】
図1に本発明の一実施例である亜臨界圧高温火力発電プラントのシステム構成の概略図を示す。亜臨界圧高温火力発電プラントは、燃焼ボイラ設備10、蒸気タービン発電機設備20、および復水給水設備30などから構成される。なお、本実施例では、1基の発電装置で火力発電プラントが構成されている。
【0017】
燃焼ボイラ設備10は、微粉炭機11、バーナ12、火炉13、スパイラル水壁管14、節炭器15、高温過熱器16、高温再熱器17、気水分離器18などから構成される。ボイラ設備の詳細な構成については後述する。
【0018】
蒸気タービン発電機設備20は、高温高圧タービン21、高温再熱中圧タービン22、低圧タービン23、発電機24などから構成される。なお、符号25,26はそれぞれ主蒸気止弁,蒸気加減弁を示す。
【0019】
復水給水設備30では、復水器31、復水ポンプ32、低圧給水加熱器33、脱気器34、給水ポンプ35、高圧給水加熱器36などから構成される。
【0020】
燃料の石炭は、微粉炭機11で微粉炭に粉砕されたのち、火炉13に配列されたバーナ12に供給され、空気中の酸素とともに燃焼して熱を発生する。バーナ12の設置と配列は、火炉13内の温度分布やスパイラル水壁管14のメタル温度などの差を極力減らすように行う。例えば、対応した微粉炭機11毎にバーナ12を対向配置し、また、火炉13の両側にバーナ12を同列に配列して燃料の微粉炭を燃焼する。
【0021】
燃料は主として石炭が用いられるが、油、バイオマス、製鉄副生ガスなどを火炉13で混焼することが可能なように仕様計画することも可能である。例えば、バイオマスを利用する場合、バイオマスは微粉炭機11に供給され、石炭と共にバーナ12に供給される。副生ガスを用いる場合には、副生ガス用のバーナが別途設置される。また、火炉13には、起動用の油焚バーナが設置されている(図示省略)。
【0022】
燃焼による輻射熱および対流熱は、火炉13の水壁を構成するスパイラル水壁管14の管内の加圧水の加熱(蒸発・過熱)に利用される。スパイラル水壁管14からの蒸気(火炉出口の蒸気)は気水分離器18を経て過熱蒸気として高温過熱器16へ導かれる。
【0023】
高温過熱器16は、蒸気温度(高温高圧タービン入口温度)が593℃以上の過熱蒸気(亜臨界圧の過熱蒸気)を、高温高圧タービン21に供給する。亜臨界圧・593℃以上の高温過熱蒸気は、高温高圧タービン21を駆動する。高温高圧タービン21で仕事をして圧力・温度の低下した高圧タービン排気蒸気は、高温再熱器17に導かれ、593℃以上に再加熱される。再加熱された593℃以上の高温蒸気(亜臨界圧の過熱蒸気)は高温再熱中圧タービン22へ導かれ、高温再熱中圧タービン22を駆動する。高温再熱中圧タービン22で仕事をした後の排気蒸気は低圧タービン23に導かれ、低圧タービン23を駆動する。高温高圧タービン21、高温再熱中圧タービン22、低圧タービン23の動力で発電機24を駆動し電気出力を得る。
【0024】
低圧タービン23の排気蒸気は復水給水設備30に導かれる。復水給水設備30は、低圧タービン23の排気蒸気を復水器31にて冷却し蒸気潜熱を冷却回収して復水に戻す。復水は、復水ポンプ32で加圧され、低圧給水加熱器33で加熱され脱気器34にて脱気され給水となる。給水は給水ポンプ35で加圧され、高圧給水加熱器36で加熱されたのち、節炭器15に高温の加圧水として供給される。節炭器15では、ボイラ排ガスによりスパイラル水壁管14に入る前の給水をあらかじめ予熱する。
【0025】
なお、上述したように、超臨界圧の蒸気条件(タービン入り口温度593℃以上)の実用化は、ボイラ管や弁、タービン材料等の高温材料実用化によりなされてきたものである。従って、蒸気条件が亜臨界圧の発電出力が中小容量(10万〜40万kW級)火力発電プラントにおいて蒸気温度を高温化(タービン入り口温度593℃以上)することは、超臨界圧の高温材料の技術を適用することにより容易に実現できる。
【0026】
また、ガスタービン排ガスを用いた排熱回収ボイラで蒸気を発生し、ガスタービンと蒸気タービンの両方で発電をするコンバインドサイクル方式において、排熱回収ボイラの亜臨界圧の高圧主蒸気部を貫流ベンソン方式で蒸気条件を600℃とすることが知られている。しかし、これは、ガスタービン駆動後の排ガスで熱交換器を加熱して蒸気を生成する排熱回収方式の蒸気生成であり、石炭など燃焼ボイラとは別の技術である。即ち、排熱回収方式では排ガスの温度や熱量から見てもともと超臨界圧化を前提とする技術ではなく、敢えて亜臨界圧のままとしたものではないからである。
【0027】
次に本発明の亜臨界圧高温火力発電プラントに用いられるボイラについて詳細に説明する。
【0028】
従来、中小容量の亜臨界圧の火力発電プラントでは、一般的に、ドラムボイラが用いられている。しかし、蒸発管とドラムで飽和蒸気を生成し、過熱器で過熱蒸気を生成するドラムボイラでは、ドラム出口の蒸気温度はドラム運転圧力の飽和蒸気温度に一義的に決まってしまい、593℃級蒸気への高温化は過熱器伝熱面積の増加か過熱器入り口ガス温度の高温化に依存することになり、特に、石炭焚きの燃焼ボイラでは設計的に困難な課題が多く、これまで実用化されていない。即ち、従来の亜臨界圧火力発電プラントで採用されているドラムボイラでは、過熱器/再熱器後の蒸気タービン入り口温度は566℃/566℃が最高であった。
【0029】
一方、超臨界圧火力発電プラントで採用されている貫流ボイラ(変圧運転貫流ボイラ)は、高負荷運転域の超臨界圧の状態では給水は沸騰現象を経ずに連続的に過熱蒸気になり、変圧運転による部分負荷運転域の亜臨界圧の状態では蒸発管内での核沸騰現象を有効に活用することにより、圧力ドラムを使用せずに飽和・過熱蒸気を生成することができる(起動停止の過渡的な対応のために気水分離器を設けてはいる)。
【0030】
そこで、本発明では、亜臨界圧で、過熱器/再熱器後の蒸気タービン入り口温度593℃/593℃以上の高温蒸気条件を実現するために、ドラムボイラに代えて貫流ボイラを用いる。
【0031】
中小容量の変圧運転貫流ボイラ(特に石炭焚きの変圧運転貫流ボイラ)の採用に当たっての課題は、プラント出力が小さくなるにつれて火炉の熱吸収量の割合が大きくなることである。火炉の熱吸収量が増加することにより、以下の課題が生じる。
(1)火炉出口のガス温度が低下傾向になり、過熱器の熱吸収量を増加させる対策が必要となる。
(2)火炉熱吸収量増加に伴う火炉メタル温度上昇を許容値内にする必要がある。
(3)火炉の熱吸収量が増加するため、過熱器での温度上昇を有利にする反面、気水分離器での過熱度が上昇し、過大になる可能性がある。
(4)プラントの全負荷運転領域で亜臨界圧貫流運転を行うため常に核沸騰状態を維持して膜沸騰を防止する必要がある。
【0032】
例えば、火炉出口ガス温度の低下に対して、火炉出口ガス温度を高めるための特別な配慮や、過熱器伝熱面積の増加が必要となると考えられるが、この場合、ボイラプラントの伝熱面積、容積、重量等の大幅な増加とそれに伴うコストの上昇を招かないような配慮が必要である。特に、既設の中小容量の火力発電プラント(ドラムボイラ)のリプレースやリノベーションによるプラント建設の場合には、配置スペースや重量などが既設のドラムボイラと同規模以内で計画可能なことが望まれる。
【0033】
そこで、本発明では、超臨界圧変圧運転貫流ボイラでも採用されているスパイラル方式の貫流ボイラを用いる。スパイラル方式の貫流ボイラは、火炉の水壁管としてスパイラル水壁管を用いるものである。大容量の超臨界火力発電プラントでは、変圧運転により部分負荷運転を行うが、部分負荷の際に蒸気圧が亜臨界圧となり、核沸騰状態が膜沸騰状態になるのを防止するために、スパイラル水壁管が用いられている。一般的に、スパイラル水壁管の傾き(スパイラル水壁管の水平方向から見た傾斜角度。スパイラル角度。)は25度程度である。
【0034】
本発明では、プラントの全負荷運転領域で亜臨界圧貫流運転を行うため常に核沸騰状態を維持して膜沸騰を防止する必要がある。即ち、プラントの全負荷運転領域で核沸騰状態を確保し膜沸騰を防止するのに必要な管内最低流速以上を確保し安定な蒸発制御が可能となるようする必要がある。また、本発明では、これに加えて、ボイラが小容量になるに従い、火炉水壁を構成する水管の割合が増加するため、管内流速の低下に対応する必要がある。このようなことから、本発明者等の検討によれば、中小容量の亜臨界圧・高温のスパイラル方式の貫流ボイラでは、スパイラル水壁管の傾きを、超臨界圧火力発電プラントの貫流ボイラのスパイラル水壁管の傾きより小さくする必要がある(パイラル水壁管の傾き角度を小さく調整することにより、火炉水壁を構成する管を減らし、スパイラル水壁管内の流速が高められる。)。
【0035】
しかしながら、スパイラル水壁管の傾きを小さくした場合、垂直方向の応力が増加傾向にあることから、スパイラル管水壁強度の観点からは、傾きを小さくすることが難しいと考えられる。この点について本発明者等は、蒸気圧が亜臨界圧であることに着目し、種々検討した結果、スパイラル水壁管の傾きを小さくしても、軽量化(例えば、亜臨界圧のため超臨界圧に比べて管肉厚を薄くできる)とスパイラル水壁管内圧低下により、十分な強度を確保できることを見出した。
【0036】
そこで、本発明では、スパイラル水壁管の傾きを、超臨界圧火力発電プラントの変圧運転貫流ボイラのスパイラル水壁管の傾き(25度程度)よりも小さくするようにしている。具体的には、スパイラル水壁管の角度を水平方向から見て、10〜20度の範囲内とする。このようなスパイラル水壁管の傾きは、上述したような本発明者等の知見がなければ導き出せないものである。本発明者等の検討によれば、プラント出力が150MW級から250MW級の石炭専焼のスパイラル方式の変圧運転貫流ボイラの試算例では、スパイラル水壁管の角度を水平方向から見て、10〜20度の範囲内とすることで、膜沸騰防止し流動安定性が得られることが確かめられた。また、水壁メタルの信頼性を高める効果も確かめられた。また、この傾きの範囲内で、水壁構造強度も確保できることが確かめられた。
【0037】
図2に本発明の実施例のボイラ構造の概略を示す。ボイラ火炉13においてスパイラル水壁管14の採用範囲の概略が示されている。火炉13下部のバーナ12部も含めて斜線で図示した範囲がスパイラル水壁管を用いた火炉を構成している。火炉13の水壁を構成するスパイラル水壁管14は、亜臨界圧(水の臨界圧は約22.0MPa)の蒸気を安定に生成するため、スパイラル水壁管14内で膜沸騰の発生を防止し、高い流速を確保して安定な運転を行うため、上述した傾斜角で設置されている。
【0038】
本実施例では、ガス再循環なしのパラレルダンパ方式の蒸気温度制御方式のボイラとしている。高温過熱器16は、一次過熱器16a、二次過熱器16b、三次過熱器16cから構成されており、高温再熱器17は、1次再熱器17a、二次再熱器17bから構成されている。1次過熱器16aと1次再熱器17aは、パラレルダンパに設置され、二次過熱器16b、三次過熱器16cと二次再熱器17aは、火炉13出口の燃焼排ガスの高温部に配置されている。これらの配置は従来のボイラ設計やレイアウト上も自然な配置であるが、一例であり、これに本発明が限定されるものではない。高温過熱器16における二次過熱器16b、三次過熱器16cでは、火炉出口の高温の燃焼排ガスにより蒸気を加熱し、亜臨界圧で593℃以上の蒸気を生成する。また、高温再熱器17における二次再熱器17bでは、火炉出口の高温の燃焼排ガスにより蒸気を加熱し、亜臨界圧で593℃以上の蒸気を生成する。
【0039】
なお、パラレルダンパ方式の蒸気温度制御では、ガス分配ダンパ19を開閉して、例えば、パラレルダンパの一次再熱器17a側の通過ガス流量を増加(減少)させ、一次過熱器16a、節炭器15側の通過ガス量を減少(増加)させることにより、一次再熱器17a側の熱吸収を増加(減少)させ、再熱蒸気温度を上昇(低下)させる。
【0040】
図3に本発明の実施例における亜臨界圧高温蒸気の生成のようすを示す。本図は、本発明の実施例における亜臨界圧高温火力発電プラントの変圧運転貫流ボイラによる亜臨界圧高温蒸気の生成をより視覚的に説明するための圧力−エンタルピー線図である。本図では、例えば主蒸気圧力16.6MPa、主蒸気温度593℃の定格条件のときの節炭器15入り口の給水A点から高温過熱器16出口の593℃までの線図を示している。
【0041】
節炭器15ではスチーミングを起こさない範囲での加熱を行った後、ボイラの火炉13を囲むスパイラル水壁管14にて加熱(蒸発・過熱)を行い、火炉13(スパイラル水壁管14)を出た後の気水分離器18の出口ではC点の温度になる。従来のドラムボイラではドラム圧力の飽和温度B点にドラム出口の温度が押さえられるため、B点からD点までの温度差を高温過熱器16で加熱する必要があるが、技術的・経済的な観点から566℃までが上限とされている。本実施例では、高温過熱器16ではC点からD点の593℃まで加熱であり、高温加熱器16の伝熱面積を大幅に増加することなく容易にD点の593℃まで加熱することができる。
【0042】
図4に本発明の実施例における効率向上量の効果の一例を示す。本図は、定格出力における運転でのプラント効率の試算結果である。また、臨界圧(約22.0MPa)未満の亜臨界圧の石炭焚き火力発電プラントの蒸気圧力たとえば16.6MPaにおいて、主蒸気/再熱蒸気温度が538/538℃のE点をベースの1.00としたときの、発電効率の相対的な向上量の試算結果である。
【0043】
本実施例(蒸気圧力を同じ亜臨界圧のままで、蒸気温度だけ600/600℃としたF点)では、相対値で約3%の向上が期待できる。また、本実施例(F点)の効率向上量は、超臨界圧たとえば25.0MPaで同じ蒸気温度538/538℃のG点よりも高い効率が期待できる。言い換えれば、蒸気温度を538℃のままで、圧力だけを例えば16.6MPaの亜臨界圧から例えば25.0MPaの超臨界圧まで高めた場合よりも、蒸気圧力を同じ亜臨界圧のままで、蒸気温度だけ600/600℃まで高めた場合の方が、発電プラント効率向上の効果が大きい。なお、圧力と温度の両方を高めた超臨界圧たとえば25.0MPaで蒸気温度600/600℃の条件の場合の効率向上は図のH点に示される。しかし、中小容量の火力発電プラントにこの蒸気条件を適用しても上述したようにタービン側の内部損失により想定した効率向上は望めない。なお、蒸気温度は600℃の場合で検討しているが、593℃以上の条件であればほぼ温度差に比例した効果が期待できる。
【0044】
図5に本発明の実施例における蒸気温度制御の効果を示す。本図は、本発明の一実施例である亜臨界圧高温火力発電プラント(亜臨界圧変圧運転貫流ボイラ)と従来のドラムボイラ火力発電プラント(ドラムボイラ)の場合とのプラント部分負荷運転域における主蒸気および再熱蒸気温度の制御特性を示したものである。
【0045】
本実施例では、ドラムボイラよりも蒸気温度の保持範囲が広くなり、プラントの同一部分負荷での効率が向上する。即ち、本実施例では、100〜50%負荷までは、主蒸気/再熱蒸気温度の制御特性を一定にすることができ、ドラムボイラにおける再熱温度の低下傾向を改善し、部分負荷時のプラント発電効率の効果が期待できる。
【0046】
図6に本発明の実施例における蒸気圧力制御の一例を示す。本図は、本発明の実施例の亜臨界圧高温火力発電プラントの部分負荷運転時の主蒸気圧力の変化特性を示したものである。この例では、プラント高負荷帯から最低貫流負荷J点までの範囲は、図1に示す蒸気加減弁26「開(実質的に全開)」で貫流ボイラの変圧運転を行い、最低貫流負荷J点以下の負荷帯では蒸気加減弁26で蒸気定圧絞り運転を行う。なお、ノズルガバニング方式と称される加減弁制御により、高負荷域で定格蒸気圧力を保持する他の変圧運転方式による部分負荷運転域における主蒸気圧力の変化特性についても適用が可能である。
【0047】
また、本発明の実施例では、火炉水壁やケージ壁の水壁の重量は、水壁管の小径化によりスパイラル構造にもかかわらずドラムボイラと比較して同等の重量に収まる。過熱器、再熱器の伝熱管の重量は、変圧運転貫流ボイラの採用により火炉出口の気水分離器出口の蒸気温度がドラムボイラに比べて高温の過熱蒸気とすることが可能となることで、593℃以上の高温化にもかかわらず重量はドラムボイラ並みに収めることが可能となる。ドラムボイラの重量物であるドラムが省略され、起動時に必要となる気水分離器の追加分を差し引いた重量分が軽減されることになり、ボイラ本体耐圧部の重量は同じプラント出力で比較すると約10%弱の軽減効果が期待できる。
【0048】
また、変圧運転貫流ボイラの適用による火炉で十分な過熱蒸気を得ることで、中小容量の石炭火力発電プラントで蒸気温度制御の手段の一つであるガス再循環装置等を設置することを省くことができる。このことは、再循環ガスが無くなるため、燃焼ガス量を減少させることとなり、ボイラの重量や容積を既存のドラムボイラよりも軽減することが可能となる。
【0049】
また、既設の亜臨界圧ドラムボイラの中小容量火力発電プラントのリプレース等においては、設置面積やボイラ重量など工事上の制約事項があるが、本発明の実施例によれば、上述したように既設プラントよりも小さくできるので、リプレース等を問題なく行うことができる。
【0050】
図7に本発明の他の実施例である亜臨界圧高温火力発電プラントのシステム構成の概略図を示す。
【0051】
基本的な構成は、図1に示す亜臨界圧高温火力発電プラントと同様であるので、重複する部分の説明は省略する。本実施例では、微粉炭機11から供給される燃料の微粉炭を火炉13にて燃焼するバーナ12の設置と配列に特徴がある。火炉13の両側に同列に配列したバーナ12に同じ微粉炭機11から燃料を供給するようにしている。尚、図では省略しているが、微粉炭機の台数を2台または3台設けられている。各微粉炭機からの燃料供給が2列2段対向または3列3段対向のバーナ燃焼とし、微粉炭機各1台からか各バーナ段の前後バーナへ振り分ける構成となっている。このように構成することによって、火炉13内の温度分布や貫流スパイラル水壁管15のメタル温度などの差を効果的に減らすように燃料の微粉炭を燃焼させることができる。
【0052】
本発明は、石炭や重油などの化石燃料やバイオマス、製鉄所内の副生ガスなどを燃料とする、発電出力が中小容量(10万〜40万kW級)の亜臨界圧高温火力発電プラントに適用可能である。特に、既設の石炭焚き火力発電プラントのリプレースやリノベーションにおいて適用可能であり、効果が大きい。中小容量の石炭焚き火力発電プラントは、産業用の自家発電設備やIPP(独立系発電事業/卸電力事業)に用いられており、これらの発電プラントの設備更新により効率向上とCO2削減に貢献できる。例えば、運転40年以上を経過したドラム型中小容量の旧式石炭火力発電プラントのリプレースやリノベーションに適用することにより、蒸気条件の高温化と蒸気タービン本体の最新技術による効率改善を加算することで、効率向上によるCO2削減は相対3〜5%期待できる。
【0053】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加,削除,置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0054】
10…燃焼ボイラ設備、11…微粉炭機、12…バーナ、13…火炉、14…スパイラル水壁管、15…節炭器、16…高温過熱器、16a…1次過熱器、16b…2次過熱器、16c…3次過熱器、17…高温再熱器、17a…1次再熱器、17b…2次再熱器、18…気水分離器、19…ガス分配ダンパ、20…蒸気タービン発電機設備、21…高温高圧タービン、22…高温再熱中圧タービン、23…低圧タービン、24…発電機、30…復水給水設備、31…復水器、32…復水ポンプ、33…低圧給水加熱器、34…脱気器、35…給水ポンプ、36…高圧給水加熱器、A…節炭器入口給水、B…ドラム出口蒸気、C…気水分離器出口蒸気、D…高温過熱器出口蒸気、E…538/538℃、F…600/600℃、G…538/538℃、H…600/600℃、J…最低貫流負荷。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7