(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5931703
(24)【登録日】2016年5月13日
(45)【発行日】2016年6月8日
(54)【発明の名称】プレストレストコンクリート杭の製造方法
(51)【国際特許分類】
E02D 5/30 20060101AFI20160526BHJP
【FI】
E02D5/30 A
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-255422(P2012-255422)
(22)【出願日】2012年11月21日
(65)【公開番号】特開2014-101716(P2014-101716A)
(43)【公開日】2014年6月5日
【審査請求日】2014年7月23日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000115337
【氏名又は名称】ヨシコン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100072039
【弁理士】
【氏名又は名称】井澤 洵
(74)【代理人】
【識別番号】100123722
【弁理士】
【氏名又は名称】井澤 幹
(74)【代理人】
【識別番号】100157738
【弁理士】
【氏名又は名称】茂木 康彦
(72)【発明者】
【氏名】吉田 立志
【審査官】
富山 博喜
(56)【参考文献】
【文献】
実開昭56−110137(JP,U)
【文献】
特開2002−327434(JP,A)
【文献】
特開昭61−216924(JP,A)
【文献】
実開昭55−021328(JP,U)
【文献】
特開平07−303931(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 5/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
概ね一様な横断面形状を有する杭の軸方向に配置するPC鋼材及び鉄筋を有し、上記PC鋼材は3本以上、鉄筋は6本以上であり、かつ、その合計横断面積による鉄筋比が0.4%以上であるプレストレストコンクリート杭の製造方法であって、
6本以上の本数の軸方向鉄筋と周方向鉄筋とを縦横に組み合せて補強用網鉄筋を形成し、上記補強用網鉄筋を6本数以上の本数の軸方向鉄筋の位置で折り曲げることにより六角以上の角を持つ多角柱状網鉄筋を形成する工程、
杭の軸方向に配置されている6本以上の本数の軸方向鉄筋の内の一部又は全部を、多角形の横断面形状を持つ型枠の角の位置に一致させて型枠の内部に配置するとともに、PC鋼材を型枠の内部に配置し緊張装置により緊張する工程、
上記型枠を閉じるとともに、その内部にコンクリートを流し込む工程
を経ることを特徴とするプレストレストコンクリート杭の製造方法。
【請求項2】
製造すべきプレストレストコンクリート杭の長さに応じて、型枠の内部に一個又は複数個の仕切りを配置し、仕切り位置によって決定される長さのプレストレストコンクリート杭を製造することを特徴とする
請求項1記載のプレストレストコンクリート杭の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概ね一様な横断面形状を有する杭の軸方向に配置するPC鋼材及び鉄筋を有し、上記PC鋼材及び鉄筋は、その合計横断面積による鉄筋比が0.4%以上、かつ、6本以上であるプレストレストコンクリート
杭の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、軟弱地盤改良を目的とする地中打ち込み杭等として、いわゆる工場製のプレストレストコンクリート杭が使用されている(ここで工場製とは、例えば、現場打ちに対比する文言で用いている)。プレストレストコンクリートくい(杭)については、日本工業規格JIS、A5373に記載されており、付属書E(規定)くい類、E−1.5配筋において、PCくいの配筋は、次によるとして、幾つかの規準が示されている。この規準を満たすものがJIS規格上のプレストレストコンクリートくいであり、それ以外のものは類似の形状、構造を有するコンクリート杭であっても、JIS規格上のプレストレストコンクリートくいということはできない。
【0003】
上記規準には、まず、「a)軸方向に配置するPC鋼材及び鉄筋は、その合計断面積による鉄筋比が0.4%以上で、かつ、本数は6本以上とし、くいの各断面で、その同心円に沿ってなるべく均等に配置し、くいの曲げ強度に方向性が小さくなるようにする。PC鋼材及び鉄筋のあきは、それらの1倍以上で、かつ、粗骨材の最大寸法の4/3倍以上とする。」とある。また、「b.らせん状鉄筋は、軸方向PC鋼材及び軸方向鉄筋の外側に配置する。らせん状鉄筋は、くいの外径500mm以下では線径3mm以上、くいの外径600〜1000mmでは線径4mm以上、くいの外形1100mm及び1200mmでは線径5mm以上。ピッチは110mm以下とする。c.PC鋼材及びらせん状鉄筋のかぶりは、15mm以上とする。」などという規準も示されている。
【0004】
この規準にしたがうプレストレストコンクリートくい(杭)は広く普及しているが、従来から遠心成形法によって製造されており、幾つかの問題点を指摘することもできる。その一つとして、遠心成形法では鋼製の円筒形型枠に鉄筋かごを配置した後、コンクリートを投入した型枠を、遠心力を利用してコンクリートを締め固めるという製造方法が取られるため、必然的に中空構造の円柱型となることに基因する。即ち、中空構造であれば、そのままでは先端支持力が不足傾向となるため、十分な底面積を得るにはより大きな直径のくいを選択する必要がある。また、遠心成形の場合、俗にジャンカと称するコンクリートの充填不足が起こり易く、型枠中にコンクリートを供給するベルトコンベアやシュートを差し込むため小口径のものを製作し難く、PC鋼材の緊張の際に生ずる反力を型枠自体が耐えなえければならない等の事情があり、そのため、製造装置の価格が高くつき、設備投資として多大な負担を強いられる。さらに、円柱型のため転がりを防止しないと安定を得にくく、危険が伴うため保管時の積み重ねにも注意を要する。
【0005】
このような経緯から、本件発明の出願人は遠心成形法に頼らずにJIS、A5373の規格を満足するプレストレストコンクリート杭を提供するとの目的を立て、鋭意開発研究を進めて来た。その結果、合計横断面積による鉄筋比が0.4%以上、かつ、6本以上である鉄筋を具備したプレストレストコンクリート杭として、非中空構造即ち中実構造の多角形の杭に有意性のあることが認められた。例えば、多角形の杭には以下のような特徴がある。
1)製造装置の利点:中空構造の円柱型では不可能な流し込み成形によって製造することが可能であり、遠心成形装置を必要としないため設備投資額も少なくて済み、製造装置は移動又は移設も容易である。
2)構造的な利点:鉄筋のより正確な均等配置が可能になり、鉄筋の偏り、鉄筋被り量の不足及びバラツキ等が解消される。また、応力のより均等な分散が可能になり、水平力に抵抗する断面力に方向性がなくなる。
3)製造上の利点:流し込み成形が可能であり、型枠内での仕切りが容易なため、コンクリート杭の長さを自由に決めることができ、中実構造であるから中空構造のものより小さな直径でも十分な底面積が得られ、また、先端支持力がより増加する。
4)製造後の利点:角型のコンクリート杭であるから転がり難く、積荷が容易、かつ、安定する。故に、移送時又は運搬中、転動防止のストッパー類が不要であり、置き場では積み重ねが容易、かつ、スペースの削減にも寄与する。
【0006】
先行技術を調査すると、特開平10−100129号があり、同号の発明は製造効率の低下を解消するもので、パイルからの型枠の脱型を容易にする二つ割り構造の型枠を提案しているが、それ以上のものではない。また、六角形の横断面形状を有するものに、特開2002−327434号のものがあり、ねじれに対する強度が高く、打ちこみ時の周辺地盤への食い込みが高く、なじみが良くなるなどと記載されており、その一部には本発明と共通する点もある。しかし、遠心成形法による製造装置が必要であり、外形は六角形であるが、PC棒鋼は4本のみ使用するに過ぎず、JIS、A5373の規格を満たすものではない。
【0007】
【特許文献1】特開平10−100129号
【特許文献2】特開2002−327434号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は前記の実情に鑑みてなされたもので、その課題は、JIS、A5373の規格を満たすように構成された、中実構造を持つプレストレストコンクリート杭を提供する
に当たり、遠心成形法を使用することなく、上記のプレストレストコンクリート杭を製造することができる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の課題を解決するため、本発明は、概ね一様な横断面形状を有する杭の軸方向に配置するPC鋼材及び鉄筋を有し、上記PC鋼材
は3本以上、鉄筋は
6本以上であり、かつ、その合計横断面積による鉄筋比が0.4%以上であるプレストレストコンクリート杭の製造方法であって、6本以上の本数の軸方向鉄筋と周方向鉄筋とを縦横に組み合せて補強用網鉄筋を形成し、上記補強用網鉄筋を6本数以上の本数の軸方向鉄筋の位置で折り曲げることにより六角以上の角を持つ多角柱状網鉄筋を形成する工程、杭の軸方向に配置されている6本以上の本数の軸方向鉄筋の内の一部又は全部を、多角形の横断面形状を持つ型枠の角の位置に一致させて型枠の内部に配置するとともに、PC鋼材を型枠の内部に配置し緊張装置により緊張する工程、上記型枠を閉じるとともに、その内部にコンクリー
トを流し込む工程、を有して構成するという手段を講じたものである。
【0010】
本発明に係るプレストレストコンクリート杭は、杭の軸方向に配置するPC鋼材及び軸方向鉄筋について、その合計横断面積による鉄筋比が0.4%以上、かつ、6本以上であるという一定の数値条件を満たすものである。上記の数値条件は、配筋に関する規定の基本であるJIS、A5373の一部である。配筋に関する条件には、他にも、前記a.にPC鋼材及び鉄筋のあきは、それらの1倍以上で、かつ、粗骨材の最大寸法の4/3倍以上とするとあり、c.にPC鋼材及びらせん状鉄筋(本発明においては、周方向鉄筋に相当する。)のかぶりは、15mm以上とする等の規準もある。本発明のプレストレストコンクリート杭は、これらの条件も当然満たすものであるが、配筋に関する前記数値条件以外の条件は、コンクリート杭の製造を業とするものにとって常識に属するものであり、当然に順守されるべき規定以前の事項と判断される。そこで、基本の規定が順守されるならば後の条件も必然的に順守されるとの見地から、上記数値条件を本発明の構成要件としたものである。
【0011】
本発明に係るプレストレストコンクリート杭は、一定半径の円周上に均等な角度間隔で配置された、6本以上の本数の軸方向鉄筋を有していることが必要である。上記6本以上の本数の軸方向鉄筋は、多角形状の角の位置に当たる。ここでいう軸方向鉄筋は、軸方向鉄筋と周方向鉄筋から成る補強用網鉄筋の一部である。これに対してPC鋼材は6本用いても良いが、1本置きにして半分の3本でも良く、コンクリート杭の長短その他の条件に応じて変更することができる。PC鋼材は、プレストレストコンクリート杭にプレストレスを付与する手段であり、PC鋼線を撚りあげたより線(撚り線)が多用される。なお、上記PC鋼材は、PC鋼線又はPC鋼棒とも呼ばれる。
【0012】
杭本体は基本的には多角形の横断面形状を持ち、上記多角形の角の一部または全部が前記6本以上の本数の軸方向鉄筋の一部又は全部と一致する位置に配置されており、かつ、外表面から軸芯までコンクリートで満たされるという構成を有する。杭本体を横断面形状において正多角形とする理由は、軸方向鉄筋の角と一致させ易くするためであり、角の一致により、鉄筋のより正確な均等配置が可能になり、鉄筋の偏り、鉄筋被り量の不足及びバラツキ等を解消できるからである。また、杭本体を中実構造とする理由は、より小さな直径でも十分な底面積が得られ、かつ、先端支持力の増加を見込めるからである。
【0013】
特に、杭本体は、横断面形状において六角以上の角を持ち、上記の角の一部又は全部が6本以上の本数の軸方向鉄筋の一部又は全部の位置と一致するように配置されることが望ましい。それは、JIS、A5373の配筋の項に記載されているPC鋼材及び鉄筋の本数の条件を満たす最小限の構成であり、最も合理的といえるからである。また、コンクリート杭として鉄筋のより正確な均等配置が可能になり、最も転がり難い形態であるため積荷が容易、かつ、安定するからである。しかしながら、杭本体の横断面形状は、上記JIS規格の条件に従う配筋と抵触しない限り、任意の多角形を選択し得るし、また、杭本体の多角形状と軸方向鉄筋の形成する多角形状とが、例えば、六角と12角というように一致しない形態も選択し得る。
【0014】
本発明に係るプレストレストコンクリート杭の製造方法については以下の通りとする。即ち、6本以上の本数の軸方向鉄筋と周方向鉄筋とを縦横に組み合せて補強用網鉄筋を形成し、上記補強用網鉄筋を6本数以上の本数の軸方向鉄筋の位置で折り曲げることにより六角以上の角を持つ多角柱状網鉄筋を形成する工程、杭の軸方向に配置されている6本以上の本数の軸方向鉄筋の内の一部又は全部を、多角形の横断面形状を持つ型枠の角の位置に一致させて型枠の内部に配置するとともに、PC鋼材を型枠の内部に配置し緊張装置により緊張する工程、上記型枠を閉じるとともに、その内部にコンクリー
トを流し込む工程を経る方法が取られる。この製造方法によって得られる本発明のプレストレストコンクリート杭は、当然、一様な横断面形状を有する杭の軸方向に配置する軸方向鉄筋を有し、上記軸方向鉄筋及びPC鋼材は、その合計横断面積による鉄筋比が0.4%以上、かつ、6本以上であるという条件を満たしている。
【0015】
補強用網鉄筋を6本以上の本数の軸方向鉄筋の位置で折り曲げることにより六角以上の角を持つ多角柱状網鉄筋が形成され、この工程を経ることによって、平面的に正確な形態の補強用網鉄筋を容易に形成することができる。補強用網鉄筋の軸方向鉄筋は正確な位置配置されているので、軸方向鉄筋が折り曲げ位置を正確に規定することになり、六角以上の角を持つ多角柱状網鉄筋も正確に形成されることになる。このようにして、6本以上の本数の軸方向鉄筋の内の一部又は全部を、多角形の横断面形状を持つ型枠の角の位置に一致させて型枠の内部に配置するとともに、PC鋼材を型枠の内部に配置し緊張装置により緊張することができる。また、本発明では、型枠の内部にコンクリー
トを流し込む工程を経ること、即ち、流し込み成形が可能である。これにより、実施に際してイニシャルコストも少なくて済み、製造装置の移動も可能であるなど多くの利点を享受できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明は以上のように構成されているので、JIS、A5373の規格を満たし、その配筋の項に記載されているPC鋼材及び軸方向鉄筋の本数の条件を満たす最小限の構成を備えているプレストレストコンクリート杭を提供する
ことができ、コンクリート杭として鉄筋のより正確な均等配置が可能になり、鉄筋の偏り、鉄筋被り量の不足及びバラツキ等を解消することができるという効果を奏する。また、本発明によれば、遠心成形法を使用することなく上記のプレストレストコンクリート杭を製造することができるので、設備投資額も少なくて済み、JIS規格に準拠した正確な製品を製造することが可能となり、しかも製造工程は安全に進行する。また、製造装置は移動又は移設も容易であり、遠心成形法に代わる方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図示の実施形態を参照して本発明をより詳細に説明する。
<プレストレストコンクリート杭>
図1は本発明に係るプレストレストコンクリート杭10の一例を示しており、このプレストレストコンクリート杭10は、一定半径の円周上に均等な角度間隔で配置された、6本から成る軸方向鉄筋12と、横断面形状において六角の角13を持ち、上記の角13が前記6本の軸方向鉄筋12の一部又は全部と一致する位置に配置されており、かつ、外表面から軸芯までコンクリート14で満たされた杭本体15とを有して構成されている。16は周方向鉄筋であり、軸方向項鉄筋12と一体化して補強用の構造材を構成している。また、上記杭本体15には、杭にその軸方向で内向きに圧縮力を掛けるPC鋼材11が貫通している。
【0018】
図示の実施形態におけるPC鋼材11は、単線のPC鋼線3本を撚りあげたより線(撚り線)構造を有している(
図2、
図3)。
図2の例は、六角柱状の杭本体15について、6本の軸方向鉄筋12を有しているのに対して、PC鋼材11は1本置きの配置のため半分の3本を有しており、この例のプレストレストコンクリート杭を符号10−1で示す。
図3の例は、同じく六角柱状の杭本体15について、PC鋼材11及び軸方向鉄筋12共に6本ずつ有しており、この例のプレストレストコンクリート杭を符号10−2で示す。なお、図示の実施形態における杭本体15の最大径は200mmである。よって、その横断面積は、25948.3mm
2である。
【0019】
図2の例における、PC鋼材11は直径2.9mmの3本より線から成り、それが3束円周上に等角度間隔で配置されているもので、また、軸方向鉄筋12は直径3.2mmの単線から成り、それが6本円周上に等角度間隔で配置されている。
図2の例は杭本体15の最大径が200mm、長さが6.0m以下の杭本体15に関する設定である。
PC鋼材の断面積、φ2.9:3(19.82)×3=59.46mm
2
軸方向鉄筋の断面積、φ3.2: 8.04×6=48.24mm
2
鉄筋の合計横断面積、 =107.7mm
2
この例における鉄筋の合計横断面積に対する、鉄筋の合計横断面積の割合は、
107.7/25948.3=0.0041である。
即ち、0.41>0.4(JIS、A5373)、
であるから、鉄筋比0.41%となり発明の構成要件における数値条件を満たしている。
【0020】
また、
図3の例における、PC鋼材11は前記と同じ直径2.9mmの3本より線から成り、それが6束円周上に等角度間隔で配置され、また、軸方向鉄筋12は直径3.2mmの単線から成り、それが6本円周上に等角度間隔で配置されている。この例の場合、
鉄筋の合計横断面積、59.46×2+48.24=167.16mm
2
杭本体15の横断面積は変わらないから、
167.16/25948.3=0.0064である。
鉄筋比は0.64%となり、発明の構成要件における数値条件を満たしていることは明らかである。
【0021】
このように構成された本発明に係るプレストレストコンクリート杭10は、JIS、A5373、付属書E(規定)くい類、E−1.5配筋に関する他の条件、即ち、PC鋼材及び鉄筋のあきは、それらの1倍以上、かつ、粗骨材の最大寸法の4/3倍以上や、PC鋼材11及び軸方向鉄筋12(らせん状鉄筋)のかぶりは、15mm以上とする等の規準も満たすように設計、製造される。よって、応力のより均等な分散が可能になり、水平力に抵抗する断面力に方向性がなくなり、かつ、中実構造であるから中空構造のものより小さな直径でも十分な底面積が得られ、また、先端支持力がより増加する、角型のコンクリート杭であるから転がり難く、積荷が容易、かつ、安定するという特徴を発揮する。
【0022】
<プレストレストコンクリート杭の製造方法>
本発明に係るプレストレストコンクリート杭の製造方法は、発明の構成に記載されているように、以下の通りの工程を経る。
6本以上の本数の軸方向鉄筋と周方向鉄筋とを縦横に組み合せて補強用網鉄筋を形成し、上記補強用網鉄筋を6本数以上の本数の軸方向鉄筋の位置で折り曲げることにより六角以上の角を持つ多角柱状網鉄筋を形成する工程。
杭の軸方向に配置されている6本以上の本数の軸方向鉄筋の内の一部又は全部を、多角形の横断面形状を持つ型枠の角の位置に一致させて型枠の内部に配置するとともに、PC鋼材を型枠の内部に配置し緊張装置により緊張する工程。
上記型枠を閉じるとともに、その内部にコンクリー
トを流し込む工程。
【0023】
本発明の製造方法について、
図4以下の実施形態を参照しながら具体的に説明する。
<多角柱状網鉄筋を形成する工程>
図示の例では、まず、6本の軸方向鉄筋12と任意の数の周方向鉄筋16とを縦横に組み合せて、補強用網鉄筋17を形成する(
図4)。軸方向鉄筋12と周方向鉄筋16に用いる鉄筋は直径3.2mmの鋼線であり、これら縦横の線素は交点において溶接し、一体の補強用網鉄筋17を構成する。
次いで、上記補強用網鉄筋17を6本の軸方向鉄筋12の位置で折り曲げ、それによって六角の角を持つ多角柱状網鉄筋18を形成する(
図5)。
【0024】
6本の軸方向鉄筋12と任意の数の周方向鉄筋16とを縦横に組み合せて、所望の長さの補強用網鉄筋17を形成し、得られた補強用網鉄筋17を6本の軸方向鉄筋12の位置で折り曲げ、六角の角を持つ多角柱状網鉄筋18を形成することは、定められた寸法にしたがって溶接し、また、一定の位置で鋼材を折り曲げ加工することで達成されるので、特別の工夫や技術を必要としないので、標準的な技術水準にある者であれば容易に製造することが可能である。その結果、六角の角を持つ多角柱状網鉄筋18は容易、かつ、正確に形成することができる。
【0025】
<多角柱状網鉄筋を型枠内部に配置する工程>
この工程のための型枠20及びPC鋼材緊張装置21を有するプレストレストコンクリート杭に製造装置の概略について、
図6ないし
図9を参照しながら説明する。
図6に示されているように、杭本体15を成形する型枠20は、横断面形状が六角形の溝状空間19を内部に形成した細長い形態を有しており、PC鋼材11を緊張させる耐圧フレームから成る緊張装置21の内部に配置される。型枠20それ自体は、コンクリートの注入等を行なう上面を除いて各側面が密閉された型枠構造を有している。PC鋼材11は、型枠20の左右両端面を貫通して型枠外部に伸びている。
PC構材11は、PC鋼材緊張装置21の
図6における右端部22に一端を固定し、同図の左端部23の側のプリングヘッド(緊張伝達部)24に他端を取り付けている。
図7において11aは着脱可能な接続グリップで、2本のPC鋼材11、11を繋いでおり、11bは定着グリップで、PC鋼材11をプリングヘッド24に固定する。上記プリングヘッド24には緊張部材であるテンションバー25が接続されており、このテンションバー25に作用するジャッキ(加圧手段)26によって、PC鋼材11に緊張力が加えられる。ジャッキ26はラムチェアから成る台座27に取り付けられ、油圧ポンプ(圧力発生部)28から供給される油圧によって軸方向に伸張し、テンションバー25を駆動する。台座部分には、養生時にジャッキ26が作動し続けないように締めておく固定ボルト27aが設けられている。PC鋼材緊張装置21の上記右端部22には、PC鋼材11を通す通し孔29が6箇所均等に設けられ、また、PC鋼材11を緊張するテンションバー25の一部として、ボルト締め部30が中心軸上に設けられている(
図8)。
型枠20の標準断面は
図9に示した構成を有し、型枠20の六角形の一辺部を水平にした配置を取り、PC鋼材緊張装置21の台座の横断面における中央部に設置されている。31は型枠開口部であり、この部分はコンクリート充填時に図示していない蓋部材によって開閉可能に密閉される。左端部側は端部板で閉鎖されており、そこにPC鋼材11を通す通し孔32が6箇所均等に設けられている。図示の通り、型枠20は大略上下二部分から成り、両部分の合わせ目はパッキング33により液密のためにシールが施されている。
【0026】
各工程は以下のように行なわれる。
鉄筋形成工程
多角柱状の網鉄筋を形成するための工程である。この工程では、
図4に示された形状に形成された補強用網鉄筋17を、軸方向鉄筋12の位置で60度折り曲げることにより、六角の角を持つ多角柱状網鉄筋18を形成する。多角柱状網鉄筋18は、軸方向鉄筋12の位置が正六角形の各角と正確に一致した位置にあるように形成される。上記折り曲げた周方向鉄筋16は、その両端部において重なるように設定されている(
図5参照、この重なっている端部同士はそのままでも、また、接合してもどちらでも良い)。
【0027】
型枠配置工程
多角柱状網鉄筋18を型枠20に配置する工程である。本発明の方法は横向き成形であるため、型枠20は水平に設置されている。この工程では、多角柱状網鉄筋18を構成している杭の軸方向に配置する6本のPC鋼材11及び軸方向鉄筋12の内の一部又は全部のPC鋼材11を、横断面形状において六角又はその倍数以上の角を持つ型枠20の角の位置に一致させて、型枠20の内部に配置する(
図6〜
図9参照)。
図9は、PC鋼材11を通す通し孔32が型枠20の6個の角と一致することをも示している。また、PC鋼材11を通す通し孔29、32を有する端部の部材は、いずれも型枠20及びPC鋼材緊張装置21の台座に対して堅固に固定されている。従って、多角柱状網鉄筋18は型枠20に対して正確に位置決めされており、本数は6本以上とし、くいの各断面で、その同心円に沿ってなるべく均等に配置し、というJIS、A5373の基準を正確に満たすことになる。この工程は、コンクリート杭に軸方向かつ内向きの圧縮力を掛ける、プレストレスのための工程であり、そのためにPC鋼材11に対して、緊張装置21によって所要の緊張力が加えられる。
【0028】
成形工程
型枠20にコンクリー
トを流し込む工程である。本発明の製造方法では、流し込み成形によってコンクリートの充填を行う。まず、コンクリー
トを打設し、充填されたコンクリートを、養生期間を経て固化させた後、接続グリップ11aを分離し、型枠開口部31を閉じていた蓋を含む可脱部分を取り外し、脱型を行なう。脱型により取り出された製品、即ち、本発明に係るプレストレストコンクリート杭10は、保管場所に横たえられる。その際、本発明に係る製造方法は前記の如く横向き成形であるから、横向きのままクレーン等により移動すれば良い(なお、多角形状の横断面形状を有するので、円柱型の杭のように転がる心配がない)。
【0029】
以上の工程を経て、
図1等に図示した本発明に係るプレストレストコンクリート杭10が製造される。
図6では、上記型枠20及びPC鋼材緊張装置21から成る製造装置の中間部分を省略しているが、これはその長さを変更することができること、それによって、1本取りから多数本取りまで、プレストレストコンクリート杭10を自由に製造可能であることを示している。特に、本発明の製造方法の場合は前記のように横向き成形であるため、型枠内部を仕切ることが容易であり、仕切り位置の変更によって製造すべきプレストレストコンクリート杭10の長さを自在に決定することができる。そのような仕切り装置について詳細には説明しないが、製造するプレストレストコンクリート杭10の長さに応じて、型枠20の内部に仕切り部材を設置すればよいから、公知の型枠技術によって十分対応することができる。
【0030】
本発明に係るプレストレストコンクリート杭10は上記のように構成されており、日本工業規格JIS、A5373、特に、付属書E(規定)くい類、E−1.5配筋に記載された条件を満足し得るものである。このプレストレストコンクリート杭10については、正多角形から成る角を持つ杭本体15が6本以上の本数の軸方向鉄筋15を有して構成されていることから、杭本体15の横断面形状は正六角形に限らず、正一二角形等の形態を取ることができる。故に、杭本体15を正八角形とし6本の軸方向鉄筋と組み合わせることも、実施可能な範囲であるが、杭本体15を八角形とするときには、軸方向鉄筋12の本数も8本とする方が設計製造もより容易になるであろう。また、正方形の横断面形状を取ることもできない訳ではなく、事実、正方形の杭本体の対角と6本の軸方向鉄筋の最も離れた二つの角とを一致させる配置とすることによって、本発明の構成を満足し得ることは容易に理解可能な事項である。実施形態に記載した6本の軸方向鉄筋12と六角形の杭本体15との組み合わせは、上記JIS規格を最も合理的に満たすと考えられるケースであるが、次善のケースも多々考えられるので、杭本体15の横断面形状については多角形が要件とされていれば十分である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】本発明に係る
プレストレストコンクリート杭の製造方法によって製造されるプレストレストコンクリート杭の例を一部省略して示す部分断面側面図である。
【
図2】同上のプレストレストコンクリート杭の横断面の例1を示す説明図である。
【
図3】同じくプレストレストコンクリート杭の横断面の例2を示す説明図である。
【
図4】本発明に係るプレストレストコンクリート杭の製造方法に使用する補強用網鉄筋の一例を示す部分正面図である。
【
図5】同じく多角柱状網鉄筋の一例を示す斜視図である。
【
図6】同じく本発明の製造方法において使用する型枠及びPC鋼材緊張装置から成る製造装置を一部省略して示す上面説明図である。
【
図7】同上の製造装置におけるPC鋼材緊張手段の一例を示す説明図である。
【
図8】同上の製造装置の端部に関する説明図である。
【
図9】同上の製造装置における標準部分の横断面図である。
【符号の説明】
【0032】
10、10−1、10−2 プレストレストコンクリート杭
11 PC鋼材
12 軸方向鉄筋
13 角
14 コンクリート
15 杭本体
16 周方向鉄筋
17 補強用網鉄筋
18 多角柱状網鉄筋
19 溝状空間
20 型枠
21 緊張装置
22 右端部
23 左端部
24 プリングヘッド(緊張伝達部)
25 テンションバー(緊張部材)
26 ジャッキ(加圧手段)
27 台座
28 油圧ポンプ(圧力発生部)
29、32 通し孔
30 ボルト締め部
31 型枠開口部
33 パッキング(液密手段)