特許第5931753号(P5931753)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5931753
(24)【登録日】2016年5月13日
(45)【発行日】2016年6月8日
(54)【発明の名称】低放射EMI遮蔽窓フィルム
(51)【国際特許分類】
   B32B 15/08 20060101AFI20160526BHJP
   B32B 7/02 20060101ALI20160526BHJP
【FI】
   B32B15/08 P
   B32B7/02 103
【請求項の数】13
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2012-556141(P2012-556141)
(86)(22)【出願日】2011年2月28日
(65)【公表番号】特表2013-521160(P2013-521160A)
(43)【公表日】2013年6月10日
(86)【国際出願番号】US2011026514
(87)【国際公開番号】WO2011109306
(87)【国際公開日】20110909
【審査請求日】2013年12月6日
(31)【優先権主張番号】61/339,152
(32)【優先日】2010年3月1日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】511107485
【氏名又は名称】シーピーフィルムズ, インク.
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100075270
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100101373
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 茂雄
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100112634
【弁理士】
【氏名又は名称】松山 美奈子
(72)【発明者】
【氏名】バン ナット, チャールズ, エヌ.
(72)【発明者】
【氏名】エニス, ジェームス, ピー.
(72)【発明者】
【氏名】リー, ジェイミー, エー.
(72)【発明者】
【氏名】ポート, アンソニー, ビー.
(72)【発明者】
【氏名】ピケット, スコット, イー.
(72)【発明者】
【氏名】ステガル, ジェレミー, ビー.
(72)【発明者】
【氏名】ハブバード, コービー, エル.
(72)【発明者】
【氏名】フィリップス, リタ, エム.
(72)【発明者】
【氏名】バース, スティーブン, エー.
【審査官】 平井 裕彰
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−206146(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/085741(WO,A1)
【文献】 特表2005−535474(JP,A)
【文献】 特開2009−282219(JP,A)
【文献】 特開2009−090604(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/083308(WO,A1)
【文献】 特開平09−104085(JP,A)
【文献】 特表2010−514597(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00〜43/00
C03C27/00〜29/00
G02B 1/10〜 1/12
5/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
低放射透明複合材料フィルムであって:
透明なフィルム基材と;
金属酸化物ナノ粒子を含有する紫外線硬化ポリアクリレート組成物から構成されている、耐摩耗ハードコート材料からなり、2〜6ミクロンの乾燥厚さと5%以下の摩耗Δヘイズ値とを有する下層と;
少なくとも1つの赤外線反射層と;
ポリシラザン、フルオロシラン、フルオロアルキルシラン又はこれらの組み合わせを含み、0.5ミクロン未満の乾燥厚みを有する透明な保護トップコートと;
を備え、
前記複合材料フィルムが0.30未満の放射率を有し、前記下層が前記透明なフィルム基材と前記赤外線反射層との間に配置されており;
前記保護トップコートが前記赤外線反射層を被覆して配置されており
前記赤外線反射層が、前記赤外線反射層を保護することの可能な少なくとも1つの金属薄膜を含み、前記金属薄膜が、ニッケル、ニオブ、コバルト、亜鉛、モリブデン、ジルコニウム、バナジウム及びこれらの合金からなる群から選択される金属から構成されている;
低放射透明複合材料フィルム。
【請求項2】
前記赤外線反射層が、アルミニウム、銅、金、ニッケル、銀、プラチナ、パラジウム、タングステン、チタン又はこれらの合金からなる群から選択される金属層を含む、請求項1に記載の複合材料。
【請求項3】
前記金属薄膜がニッケル−クロム合金から構成されている、請求項1又は2に記載の複合材料。
【請求項4】
前記赤外線反射層が、透明な導電性の層、誘電性の層又はこれらの組み合わせから構成された少なくとも1つのスペーサ層を含む、請求項2に記載の複合材料。
【請求項5】
前記スペーサ層が、酸化インジウム、インジウム亜鉛酸化物又はインジウム錫酸化物からなる群から選択される材料を含有する、請求項に記載の複合材料。
【請求項6】
前記赤外線反射層が、複数の透明な導電性の層の間に配置された複数の薄いスペーサ層を含み、前記薄いスペーサ層は乾燥厚みが35〜80nmである、請求項1に記載の複合材料。
【請求項7】
前記複合材料フィルムが0.25未満の放射率を有する;
請求項1に記載の低放射透明複合材料フィルム。
【請求項8】
前記複合材料フィルムの放射率が0.20未満である、請求項1に記載の複合材料。
【請求項9】
前記複合材料の可視光線透過率が最大75パーセントである、請求項に記載の複合材料。
【請求項10】
前記複合材料フィルムの放射率が0.10未満である、請求項1に記載の複合材料。
【請求項11】
前記複合材料の可視光線透過率が28パーセント乃至47パーセントである、請求項10に記載の複合材料。
【請求項12】
前記複合材料フィルムの可視光線透過率が最大70パーセントである、請求項10に記載の複合材料。
【請求項13】
透明なフィルム基材を設けるステップと;
金属酸化物ナノ粒子を含有する紫外線硬化ポリアクリレート組成物を含有する耐摩耗ハードコート材料を混合して混合物を形成するステップと;
前記混合物を前記透明なフィルム基材の片方の側に塗布するステップと;
前記基材の前記被覆された側を硬化させて、2〜6ミクロンの乾燥厚さと5%以下の摩耗Δヘイズ値とを有する下層を形成するステップと;
前記下層上に赤外線反射層をスパッタリングするステップと;
ポリシラザン、フルオロシラン、フルオロアルキルシラン又はこれらの組み合わせを含み、0.5ミクロン未満の乾燥厚みを有する保護トップコート組成物を前記赤外線反射層上に塗布するステップと;
前記保護トップコート組成物を硬化させて、0.5ミクロン未満の乾燥厚みを有する保護トップコートを形成するステップと;
を含む、請求項1に記載の低放射透明複合材料フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、その開示全体が本願中に引用をもって援用された、2010年3月1日出願の米国特許仮出願第61/339,152号による優先権を主張するものである。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
1.発明の分野
本開示は、放射による熱エネルギーの伝達を最小限に抑えるための、また電磁干渉(EMI)を遮蔽する用途に適した、放射率の低い(低放射)窓フィルムの分野に関する。
【0003】
2.先行技術の記載
放射率の低い(低放射)ガラス窓は、例えば可視光線などの特定の帯域の周波を透過させる一方で、この所望の帯域外の、例えば赤外線(IR)などのその他の周波を反射するように設計されている。放射率が低いことにより、IRスペクトル中の一部の周波が高い反射率で反射され、建物及び車両の窓の断熱性を向上させる。従って、低放射窓は、寒冷地における家屋、オフィス、自動車及びその他の暖房環境下で、室内の暖かい空気が窓を介して寒い戸外へと逃げるのを防止することによる保温に、特に有用である。低放射窓は、高温の気候において、高温の外気から熱エネルギーが窓を介して放射されるのを防ぐことで、室内の涼しい温度を保つためにも有用である。このように、低放射窓は、優れた快適性、可視性及び熱効率性を提供するという点で有効である。
【0004】
窓ガラス自体を、低放射特性を有するように製造することも可能である。取り付け前の製造過程の間に、ガラスを薄い金属層で処理及び/又は被覆し、所望のIR反射性を付与する。そのような処理及び被覆の例が、米国特許第6,852,419号及び第7,659,002号に記載されている。しかし、このような処理ガラスは、幾つかの理由で問題を有する。第1に、このような処理ガラスは、一般に紫外線(UV)に対しては適切な保護性能を発揮しない。第2に、金属又はその他の被覆では、環境からの保護が十分でないために、機械的強度が低下し、ガラスが腐食してしまう。ガラスが腐食又は損傷してしまうと、窓全体を交換しなければならない。このことは、費用がかかるだけではなく、周囲の元来のガラス窓と外観及び色を合わせることが難しいという問題にもなりうる。
【0005】
窓ガラスに貼り付けることの可能な柔軟なポリマーフィルムを、より実際的かつ経済的に利用するための取り組みがなされてきた。そのようなフィルムは広く用いられており、様々な日射調整機能を有する。そのようなフィルムは、貼り付け、除去及び交換が容易であり、また交換前のフィルムの色及び外観を再現するように製造することも容易である。また、フィルムが柔軟であるので、既存の透明なガラス窓に容易に後付けでき、また日射調整機能を付与することも可能である。ポリマーフィルムはまた、紫外線による、例えば家具の退色などの家庭用品へのダメージも、ある程度防止する。
【0006】
日射調節フィルムの大多数は、通常はポリ(エチレンテレフタレート)(PET)であるポリマー基材フィルムを金属化し、次にこの基材フィルムの金属化された表面に第2のPETフィルムを積層することで形成される。しかし、このような従来の日射調整フィルムは、所望の放射率を得るために、可視光線の透過性(即ち、フィルムを透過する可視光線の量、「VLT」)が制限されるか、或いはその逆であり、放射率が最良でも約0.3である。
【0007】
そのような低放射率(約0.3)の窓フィルムの一例が、米国特許第6,030,671号に開示されている。この及びその他の従来の低放射窓フィルムは、赤外線を反射するために金属の層を利用しているが、金属は、腐食しやすく、引っ掻き傷がつきやすく、摩耗しやすい。従って、そのような用途においては、反射方向の内部空間(即ち室内)側の金属層上に保護ハードコートが施されている。この保護ハードコートは、従来の架橋アクリレートホリエステルベースのコーティングであり、フィルムにひび割れ、腐食、引っ掻き及び摩耗に対する耐性を付与するのに不可欠である。
【0008】
このハードコートは、赤外線を吸収し、赤外線反射性の金属層と室内との間に配置されるので、複合材料フィルムの放射率を低下させる。従って、ハードコートの厚さは、保護層として機能するのに十分であることと、赤外線の吸収率を最小限に抑えることとの間で妥協した厚さである。いずれにしても、ハードコートは一般に摩耗耐性が不十分であり、またハードコートがフィルムに必要な耐久性を付与するのに十分な厚さを有する場合には、放射率の値に非常に不利益な影響がもたらされる。例えば、米国特許第6,030,671号には、光学層(即ちPET層と金属層)上に配置されたハードコートの厚さが1乃至3ミクロンであると記載されているが、ハードコートの厚さが3.0ミクロンであれば、複合材料フィルムの放射率は0.35を超えることになる。更に、この複合材料フィルム放射率を実現するために、可視光線透過性(VLT)は約50%に制限されている。
【0009】
赤外線の抑制に加えて、電磁波の抑制も必要とされている。様々な周波数の電磁波が、家庭、オフィスや製造及び軍事施設などの職場、船舶、航空機及びその他の構造物を含めた様々な設備で用いられている多くの装置から放射されている。そのような装置の例には、コンピュータ、コンピュータモニタ、コンピュータキーボード、無線機器、通信装置などが含まれる。このような放射線が設備から漏洩すると、漏洩した放射線に付随しているか又はその中に符号化されているデータを解読する目的で、傍受及び解析されるおそれがある。例えば、建物内のコンピュータのモニタ上に表示される画像を、建物外又は建物内の離れた場所から、前記モニタ画面が前記離れた場所からは見えない場合であっても、前記モニタ画面からの特定の周波数を検出することで再現する技術が存在する。これは、前記モニタ画面から発せられて漏洩した光の周波が、前記モニタが配置されている建物又は部屋内の様々な表面から反射された後であっても、前記モニタが配置されている建物又は部屋の外の別の場所にいる傍受者によって傍受及び解析されることで行われる、既知の技術である。傍受者がそのような周波を傍受可能であることは、明らかにセキュリティ上の重大な脅威であり、機密性が不可欠である設備においてはそのような脅威を排除することが望ましい。
【0010】
レンガ、ブロック積み又は石壁などの壁は、設備からの光周波の漏洩を有効に防止可能であるものの、無線周波は、無線周波の通過を防止するためのシールドが適切に施されていない壁を通過してしまう。更に、窓は、傍受可能な外部へと放射線を通過させ、またレーザ光線、赤外線及び無線周波などの様々な形の放射線を設備内へ侵入させうる。この結果、機密上重要な又は機密データが建物内から収集されてしまうおそれがある。
【0011】
米国政府は、コンピュータ、プリンタ及び電子タイプライターなどの電子機器が電子放射物を放出しうるという事実を、長い間懸念してきた。機密上重要な情報を処理、送信又は保存するのに用いられる装置から放射物が漏洩する可能性を抑えるための基準を設ける目的で、TEMPEST(Transient Elecromagnetic Pulse Emanation Standardの略語)プログラムが導入された。このプログラムでは通常、過渡放射を減少又は消失させるように電子機器を設計するか、又は機器(場合によっては部屋又は建物全体)を銅又はその他の導電性の材料で遮蔽する。いずれも非常に費用がかかる。
【0012】
構造物から窓をなくせば、上述のセキュリティ上のリスクを最小限に抑えられることは明らかであるが、窓のない又は密閉された構造の欠点も自明である。従って、データが含まれる放射線の窓からの漏洩を防止すると同時に、その他の放射線は通過可能とすることで、セキュリティ上のリスクを冒すことなく窓がもたらす視覚的効果を享受できるようにすることが、非常に望ましい。
【0013】
電磁波の望ましくない影響を軽減する必要から、望ましくない電磁干渉(EMI)の透過を遮断する窓フィルタ及びフィルムが開発されてきた。しかし、これらのEMI遮蔽フィルムは一般に、上述のような望ましい低放射率及び高いVLTは有しない。
【0014】
今日の競争の激しい市場において、エネルギー効率の向上が恒常的に必要とされていること及びセキュリティの重要性の双方の点から、外部環境からの適切な保護を図る一方でエネルギーの節約及び電子的プライバシーの保全が可能であるフィルムが求められている。
【0015】
発明の概要
当業におけるこれらの及びその他の問題を解決するために、透明な複合材料フィルム基材、前記透明なフィルム基材と親和性の耐摩耗性ハードコート材料からなる下層及び少なくとも1つの赤外線反射層を備え、前記複合材料フィルムの放射率が約0.30未満であり、前記下層が前記透明なフィルム基材と前記赤外線反射層との間に配置された、低放射率の透明な複合材料フィルムを本願に記載する。
【0016】
幾つかの実施例においては、前記赤外線反射層が、アルミニウム、銅、金、ニッケル、銀、プラチナ、パラジウム、タングステン、チタン又はこれらの合金からなる群から選択される金属層から構成されていてもよい。別の一実施例においては、前記複合材料フィルムが、乾燥厚さ約0.5ミクロン未満の透明な保護トップコートを備え、前記保護トップコートが前記赤外線反射層を被覆して配置されていてもよい。
【0017】
前記下層の耐摩耗Δヘイズ値が、約5パーセント未満であってもよい。幾つかの実施例においては、前記赤外線反射層に、前記赤外線反射層を保護することの可能な少なくとも1つの金属薄膜が含まれてもよい。別の一実施例においては、前記金属薄膜が、ニッケル、クロム、ニオブ、プラチナ、コバルト、亜鉛、モリブデン、ジルコニウム、バナジウム及びこれらの合金からなる群から選択される金属から構成されていてもよい。更に別の一実施例においては、前記金属薄膜がニッケル−クロム合金から構成されていてもよい。
【0018】
前記複合材料フィルムに、透明な導電性の層、誘電性の層又はこれらの組み合わせから構成された少なくとも1つのスペーサ層が含まれてもよい。一実施例においては、前記スペーサ層は、酸化インジウム、インジウム亜鉛酸化物又はインジウム錫酸化物からなる群から選択される材料を備えている。
【0019】
前記複合材料フィルムに、複数の透明な導電性の層の間に配置された複数の薄いスペーサ層が更に含まれてもよい。
【0020】
透明なフィルム基材、前記透明なフィルム基材と親和性の耐摩耗ハードコート材料からなる下層及び少なくとも1つの赤外線反射層を備えた低放射透明複合材料フィルムであって、前記複合材料フィルムの放射率が約0.25未満である低放射透明複合材料フィルムも本願に開示する。
【0021】
前記複合材料フィルムの放射率が、約0.20未満であってもよい。一実施例においては、前記複合材料フィルムの可視光線透過率は、最高で約75パーセントである。
【0022】
前記複合材料フィルムの放射率が、約0.10未満であってもよい。一実施例においては、前記複合材料フィルムの可視光線透過率は、約28パーセント乃至約47パーセントである。別の一実施例においては、前記複合材料フィルムの可視光線透過率は、最高で約70パーセントである。
【0023】
幾つかの実施例においては、前記複合材料フィルムの前記耐摩耗ハードコート材料は、高度に架橋結合されたポリマーコーティング、熱硬化アクリレートコーティング、シリケート、チタネート、ジルコネート又はこれらの組み合わせを用いた熱硬化ゾルゲルコーティング、ハイブリッド有機無機ゾルゲル材料、熱硬化シロキサンハードコート及び熱硬化ポリアクリレートコーティングからなる群から選択される。一実施例においては、前記下層は紫外線硬化ポリアクリレート組成物からなる。別の一実施例においては、前記下層は、金属酸化物ナノ粒子を含有する紫外線硬化ポリアクリレート組成物からなる。
【0024】
別の複数の実施例においては、前記赤外線反射層は、アルミニウム、銅、金、ニッケル、銀、プラチナ、パラジウム、タングステン、チタン又はこれらの合金からなる群から選択される金属層から構成されていてもよい。
【0025】
低放射透明複合材料フィルムの製造方法も開示する。前記方法には、透明なフィルム基材を設けるステップ、ポリアクリレート組成物を含有する耐摩耗ハードコート材料を混合して混合物を形成するステップ、前記混合物を前記透明なフィルム基材の片方の側に塗布するステップ、前記基材の前記塗布された側を硬化させて下層を形成するステップ及び前記下層上に赤外線反射層をスパッタリングするステップも含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1図1は、保護トップコート、接着剤層及び剥離ライナーを有する低放射EMI遮蔽窓フィルムの一実施例の断面図である。
図2図2は、保護トップコートを有する低放射EMI遮蔽窓フィルムの別の一実施例の断面図である。
図3図3は、保護トップコートを有する低放射EMI遮蔽窓フィルムの別の一実施例の断面図である。
図4図4は、保護トップコートを有する低放射EMI遮蔽窓フィルムの別の一実施例の断面図である。
【0027】
好適な実施例の記載
従来の窓フィルムと比較して放射率が著しく低い一方で、望ましいレベルの可視光線透過性(VLT)を有し、摩耗やひび割れを起こしにくく、電磁干渉(EMI)を遮蔽できる複合材料フィルムを本願に記載する。一実施例においては、この複合材料フィルムは、耐摩耗性の硬化アクリレート樹脂を含有する下層を片側に有する透明なフィルム基材と、前記下層を被覆する少なくとも1つの赤外線反射層とから構成されている。
【0028】
前記下層は、前記複合材料フィルムの機械的強度に加えて、驚くべきことに、前記下層が前記複合材料フィルムの外面上に設けられていないにもかかわらず、摩耗耐性も向上させる利点を有する。換言すれば、前記下層が、前記複合材料が貼り付けられている表面と前記赤外線反射層との間に設けられているので、前記赤外線反射層が、反射したい場所のより近くに露出される。従って、前記複合材料フィルムを窓の内側に配置すると、室内からの赤外線は、前記下層を透過せずに、前記下層から反射される。或いは、前記複合材料フィルムを窓の外側に配置すると、屋外又は外側からの赤外線は、前記下層を透過せずに、前記下層から反射される。この結果、前記複合材料フィルムの放射率(即ち、赤外線を放射又は輻射する能力)は著しく低下しうる。
【0029】
複合材料フィルムは一般に、窓の内表面又は外表面、好適には内表面に貼り付けられる。ここで使用する「上部」という用語は、複合材料において、反射されることが望ましい場所に露出されている側をさす。フィルムの放射率とは、「上部」表面からの赤外線エネルギーの放射率の測定値(即ち、窓の内側に配置された場合に室内に反射される赤外線エネルギー)である。これとは逆に、「底部」は、複合材料において、窓に貼り付けられている側をさす。本開示において使用される赤外線エネルギーという用語は、通常、波長のより短い赤外線と比較してより直接に熱を伴っている、波長のより長い赤外線をさすことも理解されるべきであるが、いかなる波長の赤外線が反射されてもよい。
【0030】
しかしながら、複合材料フィルムは、このような用途で窓フィルムとして用いることを目的として特に論じられることが多いものの、数多くのその他の用途にも適していることは、当業者に理解されよう。例えば、複合材料フィルムを、熱を室内に反射するための絶縁層又は保温層として使用するために、建物又は一時的な構造物の壁に貼り付けることも可能である。複合材料フィルムに装飾を施して壁に貼り付け、壁を覆う装飾層を形成してもよい。低温の又は冷却された空間に熱が入り込むことを防止するために、複合材料フィルムをこの空間の外面上に配置してもよい。更に、後述の接着剤層が複合材料の一部として含まれない場合には、ローラー形状の複合材料フィルムを、窓又は天窓に貼り付けるのではなく、その近くに吊り下げられるテント、幌、日除け又はブラインドとして使用してもよい。そのような用途においては、可能な限り光を遮断するために、きわめて低い可視光線透過率を有する一方で、熱を複合材料フィルムの内側へと反射及び保持することが望ましい。接着剤層を有する複合材料フィルムを、絶縁された二重ガラス間の空隙内に用いてもよい。これらの更なる用途は単に例示的なものであり、限定的ではない。従って、本願においては窓フィルムとしての用途が記載されているが、他の用途にも適用可能であることが理解されるべきであり、また当業者に理解されるであろう。
【0031】
本開示の複合材料フィルムを理解するためには、複合材料フィルムの特性及び特徴並びに、ポリマー中間層シートのこれらの特性及び特徴を測定するための試験について理解することも重要である。放射率とは、ある材料の表面が、赤外線などの放射線によるエネルギーを発散又は反射する相対的な能力である。即ち、ある材料の表面の放射率が低ければ、熱放射による熱伝達が抑えられる。これは、ある材料から放射されるエネルギーと、それと同じ温度において黒体から放射されるエネルギーとの比であり、ASTM C1371−04Aに従って測定される。本開示の複合材料フィルムの放射率は、約0.38未満、約0.35未満、約0.3未満、約0.25未満、約0.2未満、約0.17未満、約0.15未満、約0.1未満、約0.07未満、約0.03未満、約0.2乃至約0.3、約0.07乃至約0.10、約0.08及び約0.17である。
【0032】
総太陽エネルギー遮断率(%TSER)は、その名称が示す通り、複合材料フィルムによって遮断される総太陽エネルギー(熱)である。その数字が高いほど、遮断される総太陽エネルギー(熱)は大きくなる。総太陽エネルギー遮断率は、Varian Analytical社のCary 5分光光度計を使用し、ASTM E903−82に従って測定された、被覆フィルムの光及び熱遮断特性から計算され、反射及び伝達データを、その開示全体が本願中に引用をもって援用された、Parry Moon著「Proposed Standard Solar−Radiation Curves for Engineering Use」Journal of the Franklin Institute Vol. 230 pp 583−618 (1940)に記載されているように、複数のパラメータを用いて分析する。
【0033】
太陽エネルギー吸収率は、窓フィルムによって吸収される入射日射量の比率である。この数字が低いほど、吸収される太陽放射線は少なくなる。日射反射率は、窓フィルム/ガラスシステムによって反射される入射日射量の比率である。太陽エネルギー吸収率及び日射反射率は双方とも、総太陽エネルギー遮断率を測定するために、上述の方法を用いて測定可能である。
【0034】
可視光線透過率は、窓フィルム/ガラスシステムを透過する総可視光線の比率である。この数字が低いほど、透過する可視光線は少なくなる。可視光線透過率は、CIE Standard Observer(CIE 1924 1931)及びD65 Daylightを用いて計算される。本開示の複合材料フィルムは、放射率により、約1%未満、約2%乃至約5%、約25%乃至約50%、約28.5%乃至約47%、約30%乃至約45%、約28.5%、約47%、約55%、最大約70%及び最大約75%の可視光線透過率を有する。
【0035】
電気化学インピーダンス分光法(EIS)は、当業者に周知であり、腐食の研究に長年にわたって用いられてきた、正確な腐食率測定方法である。本願では、塩化ナトリウム溶液の塩素イオン影響下におけるフィルム複合材料の腐食耐性の測定に使用している。インピーダンス値(Mオームで測定)が高いことは、腐食が少ないことを意味する。本開示の複合材料フィルムのインピーダンス値は、約3.0Mオーム乃至約13.8Mオーム、約5.0Mオーム乃至約13.8Mオーム、約5.0Mオーム乃至約8.0Mオーム、約3.0Mオーム乃至約6.2Mオームである。
【0036】
腐食を、所定の試験チャンバ内に露出された金属及び被覆金属試験片に関する相対的な腐食耐性情報を得るために広く利用されている、制御された腐食環境下で行われる塩水噴霧試験で測定してもよい。この試験は、ASTM B117−09に従って実施される。1000乃至2000時間後に、複合材料フィルム試料の腐食を、写真及び画像解析によって測定する。腐食レベルを、1=腐食なし、2=ごく軽度の腐食、3=軽度の腐食、4=中程度の腐食、5=重度の腐食の段階で評価する。本願に開示する複合材料フィルムの測定結果は、腐食なし又はごく軽度の腐食であった。
【0037】
複合材料フィルムの腐食を、塩水暴露試験で測定してもよい。複合材料フィルムに塩水を噴霧し、水を入れた箱の蓋にテープ留めして、50℃のオーブンで数日間、エージングさせた。エージング4、7及び10日間経過後に、試料を水道水にてすすぎ、腐食を調べた。上述の塩水噴霧試験の評価段階を、これらの試料にも適用した。エージング4日間経過後の複合材料フィルムの測定結果は、腐食なし(1)であった。エージング7日間経過後の複合材料フィルムの測定結果は、ごく軽度の腐食乃至腐食なしであった。最後に、エージング10日間経過後の複合材料フィルムには、ごく軽度乃至軽度の腐食が見られた。
【0038】
テーバ式摩耗試験は、窓フィルム及びその他のグレージング又は展示用のフィルムの試験に広く利用されている。この試験では、ASTM D 1044に準拠したテーバ摩耗試験機にて、荷重各500グラムの摩耗輪CS−T3を使用した。摩耗輪が表面を引掻き及び削るのに伴って、フィルムは曇っていく。従って、Δヘイズ値は、フィルムを摩耗輪で摩耗させた後のフィルムの曇り度合いの変化の目安となる。摩耗輪100回転後の試験結果を、Δヘイズ値にて表す。例えば、ポリエステルフィルムは一般に、約30%を超えるΔヘイズ値を有する。本開示の複合材料フィルム、特に下層の摩耗Δヘイズ値は、約5%未満、約3%乃至約5%及び約4.1%である。
【0039】
アルコール摩耗試験(「クロック試験」と呼ばれる)は、M238BB型のSDL Atlasクロックメータを利用する。純粋な(100%)イソプロピルアルコール(IPA)を、試験洗浄液として選択した。端部に取り外し可能な布を取り付けた機械アームが、試料フィルムに接して配置されている。前記布をIPA中に浸し、前後に繰り返し往復させる。試験結果は、主観的なものであり、往復50サイクル後に、製品の赤外線反射層に至る摩耗による損傷又は破損を目視にて検査する。摩耗レベルを、1=損傷なし、2=ごく軽度の損傷、3=軽度の損傷、4=50%の損傷、5=50%を超える損傷の段階で評価する。本願に開示した複合材料フィルムの検査結果は、軽度の損傷、ごく軽度の損傷及び損傷なしであった。
【0040】
接着性試験を、ASTM D 3359に従って実施した。テープ(3M(登録商標)810及び600テープ)を試料表面に押し付けて約10秒間放置した後に、180°の角度で引き剥がした。試験までに、試料を洗浄せず、また傷をつけなかった。ハードコート試料を、合格/不合格判定にて評価した。
【0041】
EMI遮蔽強度を、同軸TEMセルを用いた遠方界タイプの試験により、ASTM D−4935に従って評価した。この試験では、製品が電磁放射線を遮断する能力を測定する。試験結果を、よく知られており、一般に用いられているデシベル(dB)で表す。デシベル値が大きい負の値であるほど、遮断される電磁放射線がより多い。本開示の複合材料フィルムの遮断効率は、約−23dB(電磁放射線を約99.5%遮断することに相当)及び約−31dB(電磁放射線を約99.9%遮断することに相当)である。換言すれば、本開示の複合材料フィルムは、最大で約99.9%の電磁放射線および最大で約99.5%の電磁放射線を遮断することが可能である。
【0042】
図1を参照すると、片側を下層(12)で被覆された透明なポリマーフィルム基材(11)を備えた複合材料フィルム(10)の一実施例が示されている。前記下層(12)は赤外線反射層(20)で被覆されている。必ずしも不可欠ではないが、前記赤外線反射層(20)が更に保護トップコート(13)で被覆されていてもよい。上述のように、前記複合材料フィルム(10)の底部は、前記基材の前記下層(12)で被覆されていない側であり、前記複合材料フィルム(10)の上部は、露出している側である。
【0043】
屋外又は屋内窓フィルムとして、或いは壁に貼り付けられる絶縁材として用いられる場合には、前記基材(11)の底部に、前記基材を窓に接着させるための手段が更に設けられていてもよい。図1に例示するように、前記複合材料(10)に、前記基材(11)に接して設けられた接着剤層(14)が含まれてもよい。前記接着剤層(14)は、前記基材(11)を窓、壁又は任意の別の基材に接着させるのに適したいかなる接着剤からなっていてもよい。窓に接着する場合には、感圧接着剤が好適であり、アクリル系接着剤が特に好適である。Gelva(登録商標)263(Cytec Industries社から入手可能)は、そのような接着剤の一例である。前記接着剤層(14)に剥離ライナー(15)が貼り付けられていてもよい。前記剥離ライナー(15)は、粘着性の接着剤層(14)からの剥離効果を付与する。図示された実施例における剥離ライナー(15)が、前記接着剤層(14)が前記基材(11)に接している状態のまま前記接着剤層(14)から剥離されることの可能なシリコーン剥離コーティングが施された、任意のポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを備えていてもよい。或いは、前記接着剤層及び前記剥離層が、透明な歪みのない接着剤及びポリプロピレンライナーを備えていてもよい。
【0044】
前記透明なフィルム基材(11)は、柔軟な透明ポリエステルフィルムから構成されている。前記基材は、好適には、厚さ約2ミル(0.05ミリメートル)のポリエチレンテレフタレート(PET)又はポリエチレンナフタレート(PEN)フィルムである。必ずしも不可欠ではないが、前記PET又はPENフィルムを紫外線吸収剤で処理して、最大で99%の紫外線を吸収できるようにしてもよい。そのような紫外線(UV)吸収フィルムの一例が、その開示全体が本願中に引用をもって援用された、米国特許第6,221,112号に記載されている。Melinex(登録商標)454又はST505ポリエステルフィルム(DuPont Teijin Films、「DuPont」社から入手可能)は、そのような好適なフィルムの例である。加えて、前記フィルムの表面が、前記フィルムへの接着性を向上させるための薬品で処理されていてもよい。
【0045】
前記下層(12)は、その底部側に配置された基材(11)とその上部側に配置された赤外線反射層(20)との間に配置されてこれらと接着された中間層をなし、底部側及び上部側に配置されたこれらの光学層(即ち、前記複合材料フィルム(10))の強度、硬度及び耐久性を向上させる。更に、前記赤外線反射層(20)は多くの場合、大気腐食しやすい金属を含有するが、前記下層(12)は、前記下層(12)が前記赤外線反射層(20)を被覆していないにもかかわらず、亀裂に対する抵抗性という点で高レベルの耐久性を付与する。この結果、前記複合材料フィルム(10)においては、機械的強度及び、摩耗、亀裂及び引掻きに対する抵抗性が、放射率に悪影響を及ぼすことなく向上されている。換言すれば、前記下層(12)は、金属製の赤外線反射層(20)を、摩耗及び亀裂しにくいように保護する。本開示の下層の摩耗Δヘイズ値は、約5%未満、約3%乃至約5%及び約4.1%である。
【0046】
前記下層(12)が、前記基材(11)と親和性であり、その表面に従来のロールツーロール方式にて貼付可能な、その用語が当業者によって容易に理解される任意のハードコートから構成されていてもよい。そのようなハードコートの例には、高度に架橋されたポリマーコーティング、熱硬化アクリレートコーティング、シリケート、チタネート、ジルコネート又はこれらの組み合わせを用いた熱硬化ゾルゲルコーティング、ハイブリッド有機無機ゾルゲル材料(例えばFraunhofer社から入手可能なOrmocer(登録商標)コーティングなど)及び熱硬化シロキサンハードコートが含まれるが、これらに限定されることはない。適切な場合には、前記ハードコートの熱硬化を、オーブンなどの熱又はNIR加熱によって行ってもよい。
【0047】
好適な下層(12)は、ナノ粒子を含有しない、紫外線硬化型ポリアクリレート組成物である。特に好適な下層(12)は、ナノ粒子を含有し、アクリル系樹脂、金属酸化物ナノ粒子、架橋剤、光開始剤、溶剤及び界面活性剤から構成された紫外線硬化型ポリアクリレート組成物である。以下により詳細に説明するように、これらの全てが前記組成物に必要な成分というわけではない。更に、以下の組成物は、含有される溶剤により、重量パーセントが異なる。前記溶剤は、湿った下層(12)を基材(11)に貼り付けるのを助けるためにのみ加えられ、乾燥時に揮発する。従って、例えば以下に記載のアクリル樹脂及びナノ粒子の重量パーセントが、前記湿った下層(12)組成物に含有される溶剤の量及び種類によって異なってもよいことは、当業者に容易に理解されよう。
【0048】
アクリル系樹脂に、ヘキサンジオールジアクリレート、トリシクロデカンジメタノールジメタクリレート(Sartomer LLC社からSartomer SR833として入手可能)、及びジオキサングリコールジアクリレート(Satomer LLC社からSartomer CD536として入手可能)などのジアクリレート又は複数のジアクリレートの組み合わせが含まれてもよい。その他の好適なアクリル系樹脂は、ウレタン脂肪族アクリレート(Ebecryl(登録商標)8301)である。前記下層(12)は好適には、約10乃至約60重量パーセント(wt%)のアクリル系樹脂を含有する。上述のように、これらの重量パーセントには、以下に記載の溶剤添加分が含まれる。従って、最終的な乾燥した状態では、前記下層(12)に約40wt%乃至約99wt%のアクリル系樹脂が含有されてもよい。
【0049】
金属酸化物ナノ粒子フィラーは、典型的には二酸化ケイ素(SiO)及び酸化アルミニウム(Al)である。これらのナノ粒子は、必ずしも不可欠ではないが、ナノ粒子を下層(12)に添加することで、複合材料フィルム(10)の機械的及び物理的特性が向上する。具体的には、ナノ粒子は、下層(12)及び複合材料フィルム(10)の硬度及び曲げ弾性率を増加させる。ナノ粒子は、複合材料フィルム(10)の表面粗さを一定のレベルにするために、制御された方法で分散される。この表面粗さは、ブロッキングを軽減し、ロールの取り扱いを補助し、赤外線反射層(20)への接着性を向上させる。更に、ナノ粒子は通常、非常に小さい(典型的には50nm又はそれ以下の平均粒子径)ことから、曇りにくく、吸収率が低いので、複合材料フィルムの透明性又は透過性に深刻な悪影響を及ぼすことがない・
【0050】
SiOナノ粒子は、特に好適である。これらはアクリレートモノマー及び/又はウレタンアクリレートモノマー中に分散されたナノ粒子の形で添加され、多くの製造業者から入手可能である。これらのナノ粒子の例には、Nanocryl(登録商標)C140及びXP21/2135(Hanse Chemie社から入手可能)、Highlink(登録商標)NanO−G 103−53(Clariant Corp.社から入手可能)、FCS100(Momentive Performance Materials社から入手可能)及びEbecryl(登録商標)8311(Cytec Industries社から入手可能)が含まれる。これらのナノ粒子は一般に、粒子径が0.1ミクロン以下である。ナノ粒子は、フィルム形成、乾燥及び紫外線硬化処理の間、安定して分散しており、著しい曇りや光沢の消失などを引き起こすことがない。前記下層(12)に0wt%乃至約65wt%、好適には約21wt%含有されてもよい。ここでも、溶剤が揮発した後の最終的な乾燥した状態では、前記下層(12)が、例えば好適には約43wt%などの異なる量のナノ粒子を含有してもよい。
【0051】
架橋剤は、前記混合物に紫外線又は電子線を照射した時に複数の分子又は基を架橋させることで、アクリル系樹脂のポリマー鎖間に共有化学結合を形成させる。前記架橋によって、前記混合物がより凝固した状態となる結果、前記下層(12)に高い機械的強度及び耐摩耗性が付与されると共に、赤外線反射層(20)への接着性が向上する。架橋剤に、ペンタエリスリトールテトラアクリレート及びトリアクリレート並びにこれらの組み合わせ或いは適切なウレタンアクリレートが含まれてもよい。湿った(即ち溶剤が添加された)前記下層(12)は、好適には約16wt%乃至約40wt%の架橋剤、より好適には約21wt%の架橋剤を含有する。
【0052】
光開始剤は、前記下層(12)の重合反応及び硬化を促進するために用いられる。アゾビスイソブチロニトリル及び過酸化ベンゾイルを含むがこれらに限定されることはない、当業者に公知のいかなる適切な光開始剤を用いてもよい。光開始剤の例は、Irgacure(登録商標)184及びIrgacure(登録商標)907(Ciba Specialty Chemicals社から入手可能)である。前記下層(12)は、好適には約2wt%乃至約7wt%の光開始剤、約2wt%乃至約3.5wt%、より好適には約3.5wt%の光開始剤を含有する。
【0053】
溶剤は、前記組成物を薄めて、前記基材(11)により容易に貼付することの可能な溶液を形成するために添加される。乾燥後に、前記溶剤が前記溶液から揮発する結果、最終的な乾燥した下層(12)には溶剤が殆ど又は全く含有されなくてもよい。好適な溶剤には、酢酸n−ブチル、イソプロピルアルコール及びMEK(メチルエチルケトン)が含まれるが、これらに限定されることはない。前記下層(12)は、好適には約10wt%乃至約50wt%の溶剤、より好適には約25wt%の溶剤を含有する。
【0054】
フィルム基材表面を平らにするためのコーティング塗料に広く用いられているものを含めた多くの界面活性剤を使用可能である。好適な界面活性剤には、Ebecryl(登録商標)1360(Cytec Industries社から入手可能)、Byk3570、Byk UV−3530及びByk UV−3500(Byk Chemie社から入手可能)並びにTego Wet270及びTego Glide432(Evonik Industries社から入手可能)が含まれるが、これらに限定されることはない。前記下層(12)は、好適には約0.1wt%乃至約0.2wt%の界面活性剤、より快適には約0.11wt%の界面活性剤を含有する。
【0055】
前記下層(12)組成物の上述の成分を混ぜ合わせ、均一かつ平滑な被覆のための、例えばリバースグラビア法などの当業者に公知の任意の好適な方法を用いて、前記基材(11)を被覆し、ウェットフィルム膜厚を約3乃至約6ミクロンとする。基材(11)への塗布後に、前記コーティングをオーブンで乾燥させ、毎分約80ftのライン速度にてランプ下で紫外線硬化させる。この最終的な硬化・乾燥された下層(12)の厚さは、約1.5ミクロン乃至約6ミクロン、より好適には約2ミクロン乃至約5ミクロン、最も好適には約2.5ミクロンである。下層(12)が薄すぎる場合には、複合材料フィルム(10)が所望の機械的耐久性、硬さ又は摩耗耐性を有しないだけではなく、複合材料フィルム(10)が通常の取り付け及び耐用年数内での使用に伴うストレスに耐えることができない。
【0056】
赤外線反射層(20)を、下層(12)上に重畳し、当業者に周知の方法であるスパッタリング又は、例えば蒸着或いは任意の化学的又は物理的析出を含めた任意の適切な析出方法によって、前記下層(12)に貼付してもよい。赤外線反射層(20)は、赤外線波長領域内で反射率の高いいかなる透明な金属層から構成されていてもよい。図1の実施例では、赤外線反射層(20)は、アルミニウム、銅、ニッケル、金、銀、プラチナ、パラジウム、タングステン、チタン又はこれらの合金からなる群から選択される金属層から構成されたコア層(16)である。一般には金及び銀並びにこれらの合金が好適である。以下により詳細に説明するように、赤外線反射層における金属及び合金の種類及び量を、所望の放射率及びVLTが得られるように変えてもよい。例えば、タングステン及びチタンは、銀及び金よりも光をよく吸収するので、VLTがより低い実施例においては最も有用であろう。
【0057】
更に、赤外線を反射する、図1における赤外線反射層(20)は、金属又は導電性の金属酸化物の単層構造であってもよいし、金属、金属酸化物及び/又はその他の、金属を含有した又は含有しない光学層を積層した多層構造であってもよいことは、当業者に容易に理解されるであろう。例えば、複数の透明な導電性の層又は誘電性の層を、金属製のコア層と組み合わせて使用して、赤外線反射及びVLTを制御し、前記金属製のコア層を腐食から保護してもよい。インジウム亜鉛酸化物(IZO)、インジウム錫酸化物(ITO)、アンチモン錫酸化物(ATO)、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化錫及びその他の金属酸化物又はこれらの組み合わせを含むがこれらに限定されることはない、当業でその用語が理解されているいかなる透明な導電性の層も好適である。これらの透明な導電性の層の多くは、十分に薄い場合には、当業でその用語が理解されているように、誘電性の層としても使用可能である。IZO、ITO、二酸化ケイ素、酸化アルムニウム、窒化ケイ素又はこれらの組み合わせを含むがこれらに限定されることはない、可視光線を透過させるいかなる誘電体も好適である。ある層が、透明な導電性の層、誘電性の層又はこれらの組み合わせから構成されている場合に、これを本願中で「スペーサ層」と呼ぶ。上述の積層多層構造の複数の例を、図2−4に図示すると共に、以下により詳細に説明する。
【0058】
前記フィルム(10)の機械的特性及び物理的特性を、熱特性及び光学的特性に悪影響を及ぼすことなく向上させるために、酸化窒化ケイ素(SiOxNy)及び酸化窒化アルミニウム(AlOxNy)などの硬質セラミックスを添加してもよい。或いは、特定の色又は反射レベルを創出するために、より厚いセラミック及び/又は金属酸化物層を、赤外線反射層(20)と組み合わせて又はその一部として用いてもよいが、これらの層は、吸収率がより高くなりやすいので、寒冷気候下では保温レベルが低くなってしまうおそれがある。従って、金属、合金、金属酸化物及び硬質セラミックスの層の種類、量及び厚さを、所望の放射率、VLT、機械的強度及び外観が得られるように変更してもよい。
【0059】
保護トップコート(13)は、複合材料の放射率に大きく影響しないように、透明であり、スパッタリングされた赤外線反射層(20)の表面を密封し、非常に薄く(例えば0.5ミクロン未満)なければならない。従って、保護トップコート(13)は、引掻きに耐えうる硬さを複合材料フィルム(10)に付与するものではない。
【0060】
この保護トップコート(13)は、望ましいレベルの放射率、VLT及び摩耗耐性を得るために必ずしも不可欠ではないことは、当業者に容易に理解されよう。しかし、保護トップコート(13)は、別の更なる利点を複合材料フィルム(10)にもたらす。例えば、トップコート(13)は、大気汚染された地域におけるガス状の硫黄化合物などの大気汚染物質や、指紋からの塩素イオンなどを含むがこれらに限定されることはない汚染物質の侵入を防止する。トップコート(13)がなければ、これらの汚染物質によって、複合材料フィルム(10)の物理的及び/又は機械的特性が損なわれるおそれがある。トップコート(13)は、その下の赤外線反射層の化学的バリアとしても機能し、そのことによって、腐食を防止すると共に、表面上に傷をつけることなく研磨剤を用いることも可能にする。更に、幾つかの実施例においては、複合材料フィルム(10)の取り付け及び洗浄が容易となるように、トップコート(13)が低い表面エネルギー及び摩擦を有してもよい。具体的には、スキージ又はその他の取り付け又は洗浄装置が、複合材料フィルム(10)の表面上をより容易に移動することが可能である。
【0061】
下層(12)が、以前より保護ハードコートに必要とされていたこれらの(例えば摩耗耐性などの)利点の多くを更にもたらし、非常に薄い保護層を用いることを可能にするので、保護トップコート(13)の上述の利点を、複合材料フィルム(10)の放射率を大きく損なうことなく実現することが可能である。本願で言及されていないその他の利点は、当業者に容易に理解されるであろう。
【0062】
保護トップコート(13)は一般に、ポリシラザン、フルオロアルキルシラン及びフルオロシランを含むがこれらに限定されることはない、何らかの形のシリコンを含有する。保護トップコート(13)が、例えば約7wt%乃至約8wt%のポリシラザンを含有してもよい。G−Shield(登録商標)(KiON Specialty Polymers社から入手可能)は、そのようなポリシラザンの一例である。或いは、保護トップコート(13)が約0.5wt%乃至約1.5wt%、約0.5wt%未満及び約1.50wt%未満の範囲内のフルオロアルキルシラン又はフルオロシランから構成されていてもよい。Dynasylan(登録商標)F8261(Evonik Industries社から入手可能)及びFluorolink(登録商標)S10(Solvay Solexis Spa of Italy社から入手可能)はそれぞれ、そのようなフルオロアルキルシラン及びフルオロシランの一例である。保護トップコート(13)が、溶剤、光酸化触媒、光開始剤及びその他の、(例えばSilanex AB社から入手可能なSivo(登録商標)Clearなどの)撥水剤などの添加剤を更に含有してもよい。
【0063】
しかし、シリコンベースの化合物が必ずしも不可欠ではないことは、当業者に容易に理解されよう。代わりに、保護トップコート(13)が単に、フィルム表面を処理し、放射率に大きく影響を及ぼすことなく上述の利点をもたらすためにのみデザインされていてもよい。例えば、ガラス表面を処理するために用いられる、ワックスタイプのコーティングなどの仕上げ加工又は防汚用のフルオロカーボンなども利用可能である。
【0064】
好適な保護トップコート(13)の一つが、紫外線又は電子線硬化された、約1.0重量部のフルオロシラン樹脂、約0.5乃至約1.5重量部の光開始剤及び約97乃至約99重量部の溶剤から構成されるフッ化樹脂である。
【0065】
溶剤は、組成物を薄め、赤外線反射層(20)により容易に塗布することのできる溶液を調製するために添加される。乾燥後に、前記溶剤は前記溶液から揮発するので、最終的な乾燥したトップコート(13)には溶剤が殆ど又は全く含有されない。好適な溶剤には、イソプロピルアルコール(IPA)、グリコールエーテル、酢酸ブチル、キシレン、水及びこれらの任意の組み合わせが含まれるが、これらに限定されることはない。組成物が、これらの溶剤の1つ又は複数を含有してもよい。好適なフルオロシレンには、フルオロアルキルシレンが含まれるが、これらに限定されることはない。Fluorolink(登録商標)S10(Solvay Solexis Spa of Italy社から入手可能)は、そのようなフルオロシレンの一例である。好適な光開始剤には、Cyracure(登録商標)6976(Dow Chemicals社から入手可能)及びChivacure(登録商標)1176(Chitech社から入手可能)が含まれる。
【0066】
特に好適なトップコート組成物は、約70wt%のIPA、約20wt%のグリコールエーテル、約5.9wt%の水、約1.48wt%のフルオロシラン分散体及び約1.48wt%の光開始剤を含有する。本願中で好適な組成物について述べる場合に、組成物の総計が100wt%を超えても、又はそれ未満であってもよいことに留意すべきである。このことは単に、所与の重量パーセント値は厳密なものではなく、おおよその(又は「約」)重量パーセント値を表すように四捨五入されてもよいという事実を表していることは、当業者に容易に理解されよう。更に、上述のように、本願中に記載の重量パーセント値が、添加される溶剤の量及び種類によって異なってもよいことは、当業者に容易に理解されよう。
【0067】
保護トップコート(13)組成物の上述の成分は、混合され、均一かつ平滑な被覆のための、リバースグラビア法を含むがこれに限定されることはない任意の好適な方法を用いて、ウェットフィルム膜厚が約1ミクロン乃至約3ミクロンとなるように赤外線反射層(20)に被覆される。PETフィルムへの塗布後に、コーティングをオーブン内で約80℃乃至約110℃の温度で5乃至20秒間乾燥させる。次に、保護トップコート(13)を毎秒約20乃至30メートルの搬送速度で紫外線硬化させる。最終的な硬化・乾燥された保護トップコート(13)の厚さは、約0.5ミクロン未満、好適には約0.05ミクロンである。
【0068】
ここで図2を参照すると、複合材料(110)は、赤外線反射層(120)が積層多層構造である点を除いては、複合材料(10)とほぼ同一である。好適な一実施例においては、赤外線反射層(120)が、少なくとも1つのコア層(116)を有してもよい。前記コア層(116)が、アルムニウム、銅、ニッケル、金、銀、プラチナ、パラジウム、タングステン、チタン又はこれらの任意の合金からなる群から選択される金属層を含むがこれらに限定されることはない、赤外線波長領域内において反射率の高い任意の金属から構成されていてもよい。好適な一実施例においては、コア層(116)は、フィルム(110)の必要とされる放射率に応じて約7nm乃至約35nmの厚さを有する、金−銀合金である。しかし、上述のその他の金属又は合金も、本実施例において好適であろう。
【0069】
赤外線反射層(120)が、下層(12)への接着性を高めるシリコンベースの層(114)を前記下層(12)に隣接して有してもよい。前記シリコンベースの層(114)が、窒化ケイ素、酸化ケイ素又は窒化酸化ケイ素の層、好適には、窒化ケイ素から構成されており、厚さ約1nm乃至約25nmであってもよい。前記シリコンベースの層(114)は、厚さ約1nm乃至約5nmの金属薄膜(115)で被覆されている。この金属薄膜(115)は、前記コア層(116)を保護する役割を果たし、ニッケル、クロム、ニオブ、金、プラチナ、コバルト、亜鉛、モリブデン、ジルコニウム、バナジウム及びこれらの合金からなる群から選択される任意の金属から構成されていてもよい。本願中にその開示全体が引用をもって援用された米国特許第6,859,310号に記載されているように、Hastelloy(登録商標)(Haynes International社から入手可能)又はInconel(登録商標)(Special Metals Co.社から入手可能)などのニッケル−クロム合金が特に好適である。
【0070】
赤外線反射層(116)は次に、第2の金属薄膜(117)、好適には厚さ約1乃至約5nmのニッケル−クロム合金で被覆されている。前記第2の金属薄膜(117)は次に、厚さ約40nm乃至約80nmのスペーサ層(118)で被覆されている。上述のように、前記スペーサ層は、任意の透明な導電性の層、誘電性の層又はこれらの組み合わせから構成されている。スペーサ層(118)は、好適にはITOから構成された透明な導電性の層である。スペーサ層(118)が次に、窒化ケイ素、酸化ケイ素又は酸化窒化ケイ素のいずれか一つから形成された、厚さ約1乃至約25nmの第2のシリコンベースの層(119)で被覆されている。このシリコンベースの層(119)は次に、前記保護トップ層(13)で被覆されている。これらの層((114)乃至(119))は、当業で周知のように、スパッタリングにより形成されている。
【0071】
ここで図3を参照すると、複合材料フィルム(210)は、赤外線反射層(220)が、任意の透明な導電性の層、誘電性の層又はこれらの組み合わせから構成された2つのスペーサ層((214)及び(218))からなる積層多層構造中にコア層(216)が挟まれた積層多層構造である点を除いては、複合材料(10)とほぼ同一である。赤外線反射層(220)は、下層(12)に隣接した厚さ約45nmの第1のスペーサ層(214)から形成されている。前記第1のスペーサ層(214)は次に、複合材料フィルム(210)に必要とされる放射率に応じて、厚さ約12nmのコア層(216)で被覆されている。ここでも、コア層(216)は、アルミニウム、銅、ニッケル、金、銀、プラチナ、パラジウム、タングステン、チタン又はこれらの任意の合金からなる群から選択される金属層を含むがこれらに限定されることはない、赤外線波長領域内において反射率の高い任意の金属から構成されていてもよい。この実施例において、コア層(216)は、好適には、純金又は金を主成分とする金合金である。コア層(216)は次に、厚さ約35nmの第2のスペーサ層(218)で被覆されており、これが次に、窒化ケイ素又は窒化ケイ素アルミニウムから構成された厚さ約10nmのシリコンベースの(219)で被覆されている。これらの層(214)、(216)、(218)及び(219)は、例えばスパッタリングによって形成されている。シリコンベースの層(219)は次に、保護トップコート(13)で被覆されている。
【0072】
ここで図4を参照すると、複合材料(310)は、赤外線反射層(320)が、赤外線反射材として機能する、好適にはIZOから構成された複数の透明な導電性の層((314)、(316)及び(318))と、複合材料(310)に柔軟性を付与する複数の薄い金属酸化物の層((315)及び(317))とが交互に積層された多層積層構造である点を除いては、複合材料(10)とほぼ同一である。前記複数の薄い金属酸化物の層((315)及び(316))は、必ずしも不可欠ではないが、好適にはニッケル−クロム酸化物から構成されている。例えば、前記薄い金属酸化物の層((315)及び(316))が、上述のスペーサ層から構成されていてもよい。赤外線反射層(320)が、下層(12)上に配置され、保護トップコート(13)が設けられていてもよい。
【0073】
好適には、赤外線反射層は、複数の透明な導電性の層間に配置された複数の薄いスペーサ層を有し、透明な導電性の層をスペーサ層よりも一枚多く有している。しかし、この配置は必ずしも不可欠ではない。透明な導電性の層及びスペーサ層(又は薄い金属酸化物の層)の数は、赤外線反射層(320)に必要とされる柔軟性に応じて異なってもよく、また通常は、赤外線反射層(320)内の複数の透明な導電性の層の厚さの合計によって、放射率が決まるであろう。前記複数の透明な導電性の層の厚さの合計は、通常約200nmを上回る。いずれにしても、交互に配置された複数の透明な導電性の層及びスペーサ層の厚さの合計は、260nmを超えないことが望ましいが、このことが必ずしも不可欠ではないことは、当業者に容易に理解されよう。
【0074】
一実施例においては、赤外線反射層(320)が、下層(12)に隣接した厚さ約65nmの第1の透明な導電性の層(314)と、前記第1の透明な導電性の層(314)を被覆する厚さ約5nmの第1の薄い金属酸化物の層(315)と、前記第1の薄い金属酸化物の層(315)を被覆する厚さ約65nmの第2の透明な導電性の層(316)と、前記第2の透明な導電性の層(316)を被覆する厚さ約5nmの第2の薄い金属酸化物の層(317)と、任意に保護層(13)によって被覆された第3の透明な導電性の層(318)とから構成されている。これらの層((314)−(318))は、当業で周知のように、スパッタリングによって形成されている。
【0075】
図1−4に示す複合材料フィルムを、車両及び建物を含めた窓ガラスの内側又は外側に利用してもよい。これらの複合材料フィルムは、単層の窓にも、二層又は三層の窓にも使用可能であり、窓のU−ファクタを向上させるであろう。U−ファクタは、全米窓製品評価委員会(National Fenestration Rating Council)が定める、窓を透過する熱の伝導又は損失率を表す規格である。更に、複合材料フィルムのいかなる及び全ての実施例に、接着剤層及び剥離ライナーが設けられていてもよいし、又は設けられていなくてもよい。
【0076】
上述の複数の実施例は、きわめて低い放射率と摩耗・引掻き耐性という望ましい特性を組み合わせた、改良された低放射複合材料を提供する。例えば、本願中に開示する複数の実施例は、VLTが約28.5%乃至約47%であると共に、約0.1以下というきわめて低い放射率を有する。そのような一実施例が、比較的温暖な日照の多い気候において好適であってもよい。本願中に開示する別の一実施例が、例えば75%までのより高いVLTを有し、放射率が約0.20以下であってもよい。そのような一実施例が、例えばより寒冷な北方の気候において好適であってもよい。更に、上述の複数の実施例は、EMIを有効に低減させた。例えば、本願中に開示する複数の実施例のEMI遮蔽値は、約−23dB及び約−31dBである。
【0077】
本願の複合材料フィルムを、以下に複数の非限定的な例を参照しながら説明する。
【0078】
例1−2
複合材料フィルム「試料A」及び「試料B」を、図2に従い、また上述のように、以下の表1に示す層及び厚さにて作製した。
【0079】
【表1】
【0080】
次に、試料A及びBの光学的及び物理的特性について、上述の試験方法に従って試験を行った。結果を表2に示す。
【0081】
【表2】
【0082】
例3−5
試料Aについても、様々な同様の試料との比較試験を行った。試料Aは、上述の例1のようにデザインされており、未処理のPETフィルム層を有する。試料Cは、PETフィルムが処理されており、下層が省かれている点を除いては、試料Aと同じ積層デザインを有する。試料Dは、下層が省かれている点を除いては、試料Aと同じ(未処理のPETフィルム層を有する)積層デザインを有する。試料Eは、保護トップコートが省かれている点を除いては、試料Aと同じ積層デザインを有する。試験結果を以下の表3に示す。
【0083】
【0084】
表3の結果は、支持下層がなければ、複合材料試料がクロック試験で不合格となることを示している。驚くべきことに、耐摩耗性の下層の存在が、保護トップコート及び赤外線反射層の耐損傷性に影響を与える。
【0085】
例6−7
複合材料フィルム「試料F」及び「試料G」を、図3及び図4にそれぞれ従い、また上述のように、以下の表4−5に示す層及び厚さにて作製した。
【0086】
【表4】
【0087】
【表5】
【0088】
次に、試料F及びGの光学的及び物理的特性について、上述の試験方法に従って試験を行った。結果を以下の表6に示す。
【0089】
【表6】
【0090】
例8−13
保護トップコート「試料H」、「試料I」、「試料J」、「試料K」、「試料L」及び「試料M」を、上述の記載に従い、以下の表7に示す組成(重量パーセント値に基づき)にて作製した。
【0091】
【表7】
【0092】
次に、試料H−Mの光学的及び物理的特性について、上述の試験方法に従って試験を行った。結果を以下の表8に示す。
【0093】
【表8】
【0094】
上述のように、塩水噴霧試験及び塩水暴露試験の腐食レベルを、1=腐食なし、2=ごく軽度の腐食、3=軽度の腐食、4=中程度の腐食、5=重度の腐食の段階で評価する。
【0095】
例13−18
複数の下層「試料N」、「試料O」、「試料P」、「試料Q」、「試料R」及び「試料S」を、上述の記載に従い、以下の表9に示す組成(重量パーセント値に基づく)にて作製した。
【0096】
【表9】
【0097】
次に、試料N−Sに、上述の赤外線反射層を上述の方法にて形成した。更に、保護トップコート(試料H)を設けた及び設けていない試料N−Sの摩耗耐性についての試験を、上述のクロック試験方法に従って行った。結果を以下の表10に示す。
【0098】
【表10】
【0099】
上述のように、摩耗レベルを、1=損傷なし、2=ごく軽度の損傷、3=軽度の損傷、4=50%の損傷、5=50%を超える損傷の段階で評価する。上記の結果は、保護トップコートのない下層のみでも、摩耗をごく軽度に留めうる十分な耐性を付与できることを示している。更に、これらの結果は、本願開示の保護トップコートが、ある程度の更なるレベルの摩耗耐性を付与しうることを示している。
【0100】
本発明を、現時点において好適な実施例と考えられているものを含めた幾つかの実施例の説明と組み合わせて開示してきたが、詳細な説明は例示的なものであり、本開示の範囲を限定するものとして理解されるべきではない。本願中で詳細に説明した実施例以外の実施例も本発明に包含されることは、当業者に理解されよう。記載された実施例に、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、変更及び修正を加えることが可能である。
【0101】
更に、本願全体を通して示されているように、各部品について値が規定された実施例を作製するために、本開示の任意の一部品に対して与えられた範囲、値又は特性を、互換可能な場合には本開示の任意の別の部品に対して与えられた範囲、値又は特性と互換可能に使用できることも理解されよう。また、ある属又はカテゴリに対して定められた、例えば誘電性金属酸化物などの範囲を、特に他に指定しない場合には、例えばIZOなどの前記属又は前記カテゴリ内の要素に対しても適用可能である。
図1
図2
図3
図4