特許第5931906号(P5931906)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5931906フランジを備えた複合構造体を成形する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5931906
(24)【登録日】2016年5月13日
(45)【発行日】2016年6月8日
(54)【発明の名称】フランジを備えた複合構造体を成形する方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 70/06 20060101AFI20160526BHJP
   B29K 105/08 20060101ALN20160526BHJP
   B29L 23/00 20060101ALN20160526BHJP
【FI】
   B29C67/14 G
   B29C67/14 T
   B29K105:08
   B29L23:00
【請求項の数】11
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2013-542605(P2013-542605)
(86)(22)【出願日】2011年12月6日
(65)【公表番号】特表2014-504220(P2014-504220A)
(43)【公表日】2014年2月20日
(86)【国際出願番号】GB2011052412
(87)【国際公開番号】WO2012076875
(87)【国際公開日】20120614
【審査請求日】2014年12月5日
(31)【優先権主張番号】1020742.1
(32)【優先日】2010年12月7日
(33)【優先権主張国】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】509016575
【氏名又は名称】ジーケイエヌ エアロスペース サービシイズ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】モラン, ジョンサン ポール
(72)【発明者】
【氏名】マレンゴ, ジョバンニ アントニオ
(72)【発明者】
【氏名】マクリーン, デイヴィッド ジェイムズ
(72)【発明者】
【氏名】ラルフズ, ベン
(72)【発明者】
【氏名】ワイルズ, ゲイリー
(72)【発明者】
【氏名】ゴーン, マーカス ジェイソン
【審査官】 長谷部 智寿
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/027684(WO,A1)
【文献】 特表2008−540168(JP,A)
【文献】 特開平03−295631(JP,A)
【文献】 特表2011−520690(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/140555(WO,A1)
【文献】 特開2009−107337(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 70/06、70/16
B29C 57/00
F02C 7/00
F02K 3/06
B29K 105/08
B29L 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
本体と、前記本体の第一の縁部に沿って配置され、第一の屈曲部を介して前記本体に接続されている壁部および前記第一の屈曲部とは反対方向に向いている第二の屈曲部を介して前記壁部に接続されているリップ部を有しているフランジとを備えている複合構造体を製造する方法であって、
プリフォームをモールド型上にレイアップするステップであって、前記プリフォームが、前記第一の屈曲部および前記第二の屈曲部を有していないものの、前記複合構造体の前記本体に対応する第一の部分と、前記複合構造体の前記フランジに対応する第二の部分とを有しており、前記プリフォームの前記第二の部分が、前記フランジの前記壁部に対応する近位部と、前記フランジの前記リップ部に対応する遠位部とを有しており、前記プリフォームの前記第一の部分および前記第二の部分が複数のシートを有しており、単一方向性のシート材が前記プリフォームの前記第一の部分から前記プリフォームの前記第二の部分の前記遠位部まで延びている、レイアップするステップと、
前記モールド型の可動部分を進行させて前記プリフォームの前記第二の部分の前記近位部を成形することにより前記第一の屈曲部を形成し、前記モールド型の進行している前記可動部分のまわりを囲むように前記プリフォームの前記第二の部分の前記遠位部を成形して前記第二の屈曲部を形成することにより前記フランジを成形するステップと、
成形された前記フランジおよび前記プリフォームの前記第一の部分の樹脂を硬化させるステップと
を有しており、
前記モールド型の可動部分は、前記第一の縁部に沿って間隔をおいて並べられ、前記フランジを成形するステップにて、引き込まれた配置から半径方向外側に向けて引き出された配置へと移動可能なブロックである、方法。
【請求項2】
前記単一方向性シート材が前もって含浸されている単一方向性テープである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記モールド型が、前記モールド型の第一の部分と、前記モールド型の第一の部分に隣接する前記モールド型の前記可動部分と、前記モールド型の前記可動部分に隣接する前記モールド型の第二の部分とを有しており、
前記レイアップするステップにおいて、前記プリフォームの前記第一の部分が前記モールド型の第一の部分上にレイアップされ、前記プリフォームの前記第二の部分の前記近位部が前記モールド型の前記可動部分上にレイアップされ、前記プリフォームの前記第二の部分の前記遠位部が前記モールド型の第二の部分上にレイアップされる、請求項1乃至2のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項4】
前記プリフォームが真空バッグ膜で覆われ、前記形成ステップの間、前記プリフォームが真空状態の下におかれる、請求項1乃至3のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記方法が、前記プリフォームの前記第一の部分を前記モールド型に対して保持するように成形加工ツールを位置決めするステップをさらに有し、
前記成形するステップでは、前記モールド型の進められている前記可動部分が、前記プリフォームの前記第二の部分の前記近位部を前記成形加工ツールのまわりを囲むように成形して前記第一の屈曲部を形成する、請求項1乃至4のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記プリフォームが第一の温度まで加熱され、前記成形するステップが実行され、前記硬化させるステップが、前記第一の温度よりも高い第二の温度で実行される、請求項1乃至5のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記プリフォームの前記第一の部分および前記第二の部分の前記シートが、前記プリフォームの前記第一の部分と前記プリフォームの前記第二の部分との間に位置する境界に対して斜角となるように配置されるテープを含んでいる、請求項2に記載の方法。
【請求項8】
前記プリフォームの前記第一の部分および前記第二の部分の前記シートが、前記プリフォームの前記第一の部分と前記プリフォームの前記第二の部分と間に位置する境界に対して直角となるように配置されるテープを含んでいる、請求項2に記載の方法。
【請求項9】
前記プリフォームの前記第一の部分が、中央ゾーンと、前記プリフォームの前記第一の部分と前記プリフォームの前記第二の部分との間に位置する境界に隣接する縁部ゾーンとを有しており、
前記プリフォームの前記第一の部分の前記中央ゾーンが前記直角テープを含んでおらず、
前記プリフォームの前記第一の部分の前記縁部ゾーンが前記直角テープを含んでいる、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記硬化させるステップの後、前記フランジの前記リップ部をトリミングする、請求項1乃至9のうちのいずれか1項に記載方法。
【請求項11】
環状のハウジングと、該環状のハウジングの端部に位置するとともに、第一の屈曲部を介して前記環状のハウジングに接続されている環状の壁部および前記第一の屈曲部とは反対方向に向いている第二の屈曲部を介して環状の壁部に接続されている環状のリップ部を有している環状のフランジとを備えているガスタービンエンジン用の収納ケースを製造する方法であって、
環状のプリフォームをモールド型上にレイアップするステップであって、前記環状のプリフォームが、前記第一の屈曲部および前記第二の屈曲部を有していないものの、前記収容ケースの前記ハウジングに対応する第一の部分と、前記収容ケースの前記フランジに対応する第二の部分とを有しており、前記環状のプリフォームの前記第二の部分が、前記フランジの前記壁部に対応する近位部と、前記フランジの前記リップ部に対応する遠位部とを有しており、前記環状のプリフォームの前記第一の部分および前記第二の部分が複数のシートを有しており、単一方向性シート材が前記環状のプリフォームの前記第一の部分から前記環状のプリフォームの前記第二の部分の前記遠位部まで延びている、レイアップするステップと、
前記モールド型の可動部分を半径方向外側に向けて移動させて前記環状のプリフォームの前記第二の部分の前記近位部を成形することにより前記第一の屈曲部を形成し、前記モールド型の外側に向けて移動している前記可動部分のまわりを囲むように前記環状のプリフォームの前記第二の部分の前記遠位部を成形して前記第二の屈曲部を形成することにより前記フランジを成形するステップと、
成形された前記フランジおよび前記環状のプリフォームの前記第一の部分の樹脂を硬化させるステップと
を有している、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスタービンエンジン用の収納ケースの如き複合構造体に関するものであるが、翼桁、または真っ直ぐなフランジもしくは環状のフランジのような湾曲したフランジの如き一体式フランジを有する必要のある構成部品の如き航空宇宙産業における複合構造体に広く適用可能である。
【背景技術】
【0002】
複合材料の特性により、複合材料部品が用いられる範囲が航空宇宙から自動車の部品に至るまでますます広範なものとなってきている。
【0003】
たとえば航空宇宙産業では、複合材料は、それらの重さに対する強度の比に起因して、長年用いられている。用語「複合材料」(「複合体」としても知られている)は、たとえばガラス繊維または炭素繊維と、エポキシ樹脂(またはそれに類似したもの)とを含有する材料を記載する目的で使用されている。これらは、ガラス強化プラスティックまたは炭素繊維強化複合体として知られている。炭素繊維により強化された複合材料は、軽量、向上した耐疲労性/耐損傷性、耐蝕性、および無視可能な程度の熱膨張率の如き向上した特性を提供する。
【0004】
主として、航空機を構成する部品の総荷重を減らすことにより燃料を航空機の耐用期間にわたって節約することができるため、これらの材料の使用は航空宇宙産業全体にわたって増えてきている。航空力学部品および構造用部品は、複合材料、とくに炭素繊維材料から形成されている。
【0005】
前もって樹脂が含浸されている布や、テープなどを用いて、複合材料部品がレイアップされることで、製造される部品の所望の形状と対応するように積層される。次いで、この積層体は、周囲温度および周囲圧力で、またはオートクレーブ内にて高温および高圧で、硬化されて硬化部品が製造される。
【0006】
ターボファンの如きガスタービンエンジンには、故障してしまったブレードがエンジンから放り出されて航空機のその他の部分を破損してしまうのを防止するための格納ケースが設けられている場合がある。たとえば、格納ケースはターボファンエンジンの前方のファンのまわりに設けられている場合がある。格納ケースは、炭素繊維強化複合材料および/またはケブラー強化複合材料の如き複合材料から形成されてもよい。格納ケースは、おおむねシリンダ形状のバレルまたはハウジングの形状を有している。格納ケースは、エンジン内の隣接する構造部材に取り付ける必要があるので、バレルまたはハウジングの一方のまたは両方の端部にフランジを備えていることが好ましい。
【0007】
図1は、ファンケース11を有する一般的に知られているターボファンエンジン1を示す図解式側面図である。ファンケース11にはファンダクト12が形成され、ファンダクト12は複数のファンブレード13を有する回転円板を有している。複数のファンブレード13は、エンジン1の中央の長手方向の軸線14を中心として回転するようになっている。
【0008】
ファンケース11は、環状の形状を有し、長手方向の軸線14を中心としている。ファンケース11は、部分的に切り取られた状態で図1に示されている。これは、ファンケース11が、ファンブレード13からなる回転円盤の周辺に位置して破損したファンブレード13を収容するための環状の収容ケース2を有していることを図解式に示すためである。格納ケース2は、おおむね円筒状のバレルまたはハウジング3を有し、このハウジング3の前端には外側に延びる環状のフランジ41があり、このハウジング3の後端には外側に延びる環状のフランジ42がある。
【0009】
収納ケース2は、エンジン1の長手方向の軸線14を中心とし、環状の先頭縁部51および環状の末尾縁部52の如きファンケース11の他の構成部品に取り付けることによって適切な位置に保持されるようになっている。フランジ41および42には、先頭縁部51および末端縁部52の構造体に格納ケース2を取り付けるために用いられる締結部材用の穴が設けられていてもよい。
【0010】
図2には、図1に示されているものとおおむね同様の収納ケース2の図解式斜視図が示されている。図2のおおむね円筒状のハウジング3は長手方向の軸線14に沿って僅かに先細状になっている点が図1のものと異なっている。ハウジング3の実際の内部の起伏または形状は、たとえば、個々のエンジン1の要件に適するように最適化される。
【0011】
格納ケースのハウジングの複合材料のシートをモールド型またはマンドレルの上に積層するために自動テープ積層(ATL)マシンの如きマシンを用いると便利である。このマシンを用いて、フランジの複合材料のシートを積層し、ハウジングおよびフランジを硬化させる前にフランジの複合材料をハウジングの複合材料と一体化させることは困難であることが証明されている。また、マシンを用いてハウジングのシートが積層されているシリンダ形状の主要モールド型表面から外方に向かって延びているモールド型外方突出環状壁部に、フランジのシートを一枚一枚手作業により積層していくことが必要であることが証明されている。フランジのシートは、手作業で積層され、マシンにより積層されたハウジングのシートと相互に噛み合わせられなければならない。このことにより、質の不均一なフランジが製造されてしまう恐れがあり、質の不均一さを補償するために、本来必要となる重さよりも重いフランジが製造されてしまう恐れがある。というのは、このようなフランジは複合材料を過剰に使用してしまうからである。
【0012】
最近、GKN航空宇宙サービス会社では、複合構造体の湾曲した主要面をマシンを用いてレイアップすることに加えて、フランジをマシンを用いてレイアップすることを容易にするようなレイアップ時の複合材料の構成を実験している。このようにすることにより、複合材料のレイアップをすべて自動化することができるとともに、手動または手作業によるレイアップの必要性がなくなる。フランジのレイアップを自動化すると、フランジおよび複合構造体の質の向上も得られる。
【0013】
図3図6には、第二の部分43を成形(曲げ加工)してフランジ4(たとえば前側フランジ41の一部に対応)を成形するための本出願人の実験用ツールが示されている。この実験用ツールは、シリンダ形状のモールド型またはマンドレル6の第一の部分61と、円周方向のラインに沿って並べられる可動ブロックとを備えている。収納ケース2の実験用部分21は、第一のモールド型部分(モールド型の第一の部分)61のモールド型表面611および可動ブロック62のモールド型表面621にプリフォームとしてレイアップされる。このプリフォームは第二の部分43と、第一の部分または主要部分31とを有している。第二の部分43は、モールド型表面621上にレイアップされ、第一の部分31はモールド型表面611上にレイアップされる。
【0014】
実験用部分21の複合材料を構成する前もって含浸された単一方向性テープは、第一の部分31および第二の部分43に斜角を形成して(たとえば、円周方向に対してマイナスの+60度および−60度で)レイアップされる。実験用部分21についていえば、円周方向は、第一の部分31と第二の部分43との間に位置する境界線211に相当する。円周方向テープ(0度テープ)は、第二の部分43にはレイアップされず、第一の部分31にレイアップされる。直角テープ(90度テープ)は、第二の部分43にレイアップされ、第一の部分31の中に向かって短い距離だけ延びている。
【0015】
たとえば、テープは0.25mmの厚さで、通常75〜150mmの幅を有している。このようなテープは、ATLマシンのヘッドによりレイアップされるのに適している。上述のテープがレイアップされてシートの積層体が形成される。シート層の数は、10以上であってもよいし、好ましくは20以上であってもよいし、または好ましくは30以上であってもよい。
【0016】
第二の部分43の自由周縁部431がモールド型6の可動ブロック62を越えて突出しないように、実験用部分21のレイアップされたテープが切り取られる。
【0017】
次いで雌部形成ツール63(図4を参照)が、第一の部分31において、第二の部分43の直ぐ隣の部分に押し付けられる。
【0018】
次いで、モールド型6は、オーブンの中に置かれ、第一の温度(たとえば、80℃)まで加熱される。この温度では、プリプレグテープの樹脂がこれから行われようとしている成形加工を容易にすることができる十分な流動性を有するようになる(十分に低い粘性を有するようになる)。この時点で、可動ブロック62は、気体式または液体式のピストンの如きアクチュエーター64を始動させることにより、その引き込み位置または同一平面位置から図5および図6に示されている突出位置へと半径方向外側に向けて進行させられる。このことにより、第二の部分43が上方に向かって成形または曲げられて第一の部分31に対して外側に向かって突出するフランジ4が成形される。可動ブロック62は、成形されるフランジ4が第一の部分31に対して直立した壁となるように、第二の部分43の少なくとも幅432に相当する距離だけ進行させられる。
【0019】
次いで、複合テープ材の硬化を継続および完了させるために、オーブン内の温度がさらに高い第二の温度にまで上げられる。たとえば、第二の温度は135℃であってもよい。硬化サイクルまたは硬化プロセスが完了した後、可動ブロック62は図3および図4に示されている位置へと引き込まれる。雌部形成ツール63が取り除かれ、実験用部分21がモールド型6から取り除かれる。
【0020】
図7および図8は、成形加工が実行された後の、フランジ壁4(第二の部分43)および第一の部分31の隣接部の断面を示す図解式断面図であり、図7は正しい成形加工の結果を示し、図8は誤った成形加工の結果を示している。
【0021】
図7に示されているように成形加工が正しく行なわれた場合、シート44a〜44gは第二の部分43内でお互いに摺動し合い、第二の部分43の厚みがひずんでいない。しかしながら、いわゆる「ブックエンド」影響433が第二の部分43の自由縁部431で生じ、これにより、自由縁部431が斜めになってしまっている。
【0022】
フランジ4はカットライン434に沿った所望の高さまでトリミングされてもよい。このことにより、望ましくないブックエンド影響433が取り除かれる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
図7および図8では、明瞭さのために、7つのシート44a〜44gのみが示されているが、実際のところは、より多数のシート層が存在している場合がほとんどである。
【0024】
成形加工中に、第二の部分43を上方に向けて曲げると、屈曲部の内側部分のシート(たとえば、シート44aおよび44b)が圧縮された状態におかれ、屈曲部の外側部分のシート(たとえば、シート44fおよび44g)がピンと張った状態におかれる傾向がある。
【0025】
たとえばシート同士が必要なだけ相対移動することができないほど成形加工があまりにも速く行なわれるような場合、図8に示されているようなフランジ4が最終的に得られる結果となる可能性がある。成形加工(曲げ加工)があまりにも速く行なわれ、屈曲部の内側部分のシート(たとえば、シート44aおよび44b)が圧縮されてしまうと、これらのシートに領域435で示されているようなしわが形成されてしまうかまたは座屈挙動が生じてしまう。フランジ壁4がカットライン434に沿った高さまでトリミングされた後でさえ、一部の望ましくないひずみ435が依然として残ってしまうことになる。
【0026】
この不必要なひずみを削減または除去するように製造方法を向上させることが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0027】
本発明の第一の態様によれば、本体と、この本体の第一の縁部に沿って配置され、第一の屈曲部を介して本体に接続されている壁部および第一の屈曲部とは反対方向に向いている第二の屈曲部を介して壁部に接続されているリップ部を有しているフランジとを備えている複合構造体を製造する方法は、プリフォームをモールド型上にレイアップするステップであって、プリフォームが、第一の屈曲部および第二の屈曲部を有していないものの、複合構造体の本体に対応する第一の部分と、複合構造体のフランジに対応する第二の部分とを有しており、プリフォームの第二の部分が、フランジの壁部に対応する近位部と、フランジのリップ部に対応する遠位部とを有しており、プリフォームの第一の部分および第二の部分が複数のシートを有しており、単一方向性シート材がプリフォームの第一の部分からプリフォームの第二の部分の遠位部まで延びている、レイアップするステップと、モールド型の可動部分を進行させてプリフォームの第二の部分の近位部を成形することにより第一の屈曲部を形成し、モールド型の進行している可動部分のまわりを囲むようにプリフォームの第二の部分の遠位部を成形して第二の屈曲部を形成することによりフランジを成形するステップと、成形されたフランジおよびプリフォームの第一の部分の樹脂を硬化させるステップとを有している。
【0028】
プリフォームの第二の部分が近位部に加えて遠位部を有し、成形加工には第一の屈曲部に加えて第二の屈曲部を形成することが含まれているので、プリフォームの第一の部分からプリフォームの第二の部分の遠位部まで延びている(そして、第一の屈曲部の内側部分の近傍にある)単一方向性シート材は、その長さ方向に沿って一定の張りが維持される。このことにより、第一の屈曲部の内側部分におけるそのシート材のひずみ(しわまたは座屈)が防止される。
【0029】
また、第二の屈曲部の内側部分の近傍に位置する単一方向性シート材も成形加工時にその長さ方向に沿って一定の張りが維持され、このことにより、第二の屈曲部の内側部分に位置するそのシート材のひずみが防止される。
【0030】
第二の屈曲部が第一の屈曲部とは反対方向に向いているので、第二の屈曲部は第一の屈曲部と実質的にバランスが取れた状態になっている。
【0031】
好ましい実施形態では、フランジは、本体の第一の縁部に対して斜角および/または直角を形成するテープを含んでいる。
【0032】
好ましくは、プリフォームの第一の部分および第二の部分はそれぞれ本体の第一の縁部に対して斜角を形成するように配置されるテープを含んでいる。当該斜角(本体の第一の縁部との間の狭角)は、10〜80°の範囲であってもよい。それに代えて、当該範囲は20〜70°であってもよいし、または30〜60°であってもよい。とくに好ましい実施形態では、すべての斜角テープは、第一の縁部(ここで、第一の縁部はプリフォームの第一の部分と第二の部分との間に位置する境界に対応している)との間で略60°の狭角を形成するように配置される。
【0033】
好ましくは、各シートは単一方向性シート材である。このことは、本発明の利点を最大化する助けとなる。
【0034】
好ましくは、単一方向性シート材とは、エポキシ樹脂の如き任意の適切な樹脂を含んでいる前もって含浸された単一方向性テープのことである。
【0035】
好ましい実施形態では、各シートはこのようなテープからなっている。これらのシートは、織られてもよいし、不織布にされてもよいし、または織られたシートと不織布にされたシートとを組み合わせたものであってもよい。
【0036】
単一方向性シート材が前もって含浸された単一方向性テープであることに代えて、プリフォームを形成するためにレイアップされるシートが、「乾燥」補強材(たとえば、繊維トウ)に樹脂を後で加えたものであってもよい。この樹脂は、樹脂トランスファ成形(RTM)技術を用いて、フランジを成形するステップの前、フランジを成形するステップの間またはフランジを成形するステップの後に加えられてもよい。
【0037】
好ましい実施形態では、モールド型は、第一のモールド型部分(モールド型の第一の部分)と、この第一のモールド型部分に隣接する可動モールド型部分(モールド型の可動部分)と、可動モールド型部分に隣接する第二のモールド型部分(モールド型の第二の部分)とを有しており、レイアップするステップにおいて、プリフォームの第一の部分が第一のモールド型部分上にレイアップされ、プリフォームの第二の部分の近位部が可動モールド型部分上にレイアップされ、プリフォームの第二の部分の遠位部は、第二のモールド型部分にレイアップされる。
【0038】
第二のモールド型部分は自由縁部を有していてもよい。この自由縁部は、レイアップされるプリフォームの第二の部分の遠位部の自由縁部を形成するために用いられる。したがって、シートは、第二のモールド型部分の自由縁部を越えてレイアップされてから、自由縁部までトリミングされるようにしてもよい。
【0039】
好ましい実施形態では、第二のモールド型部分は、リップ部の成形前の高さに対応する方向に異なるサイズまたは寸法を有する1組の第二のモールド型部分から選択されるようになっていてもよい。たとえば、第二のモールド型部分が環状である場合、1組の第二のモールド型部分は異なる厚さを有していてもよい。
【0040】
好ましい実施形態では、1組の第二のモールド型部分は環状の(通常、おおむねシリンダ形状の)モールド型表面を提供する。たとえば、モールド型表面は円形状である。
【0041】
1組の第二のモールド型部分によって提供されるモールド型表面が環状の構成である場合、成形するステップ時、可動モールド型部分は半径方向外側に向けて移動される。好ましくは、プリフォームの第二の部分のシートは円周方向テープを含んでいない。というのは、このようなテープは、プリフォームの第二の部分が半径方向外側に向けて成形されるにつれてプリフォームの第二の部分の直径が増大することに対し抵抗して成形加工を妨げるからである。
【0042】
可動モールド型部分は、第一の縁部に沿って間隔をおいて並べられ、引き込まれた配置から半径方向外側に向けて引き出された配置へと移動可能なブロックであってもよい。所望のフランジが環状ではなく、たとえば真っ直ぐなフランジである場合、1つ以上のブロックはおおむね同一方向に進行させることが可能である。たとえば、おおむね真っ直ぐなフランジを成形加工する際、細長い棒の如き単一のブロックを用いることができる。
【0043】
好ましい実施形態では、プリフォームが真空バッグ膜で覆われ、成形するステップ中、プリフォームが真空状態の下におかれる。可撓性および伸縮性を有する弾性膜が選択されてもよい。
【0044】
好ましい実施形態では、可動部分が進行し、第二の屈曲部が形成されるにつれて、真空バッグ膜は、プリフォームの第二の部分の遠位部をモールド型の可動部分のモールド型表面に押し付けるまたは留める(保持する)ようになっている。
【0045】
真空バッグ膜により提供される留める力または押し付け力は、大気圧が真空バッグ膜に対して、すなわちプリフォームに対して作用することによって提供されている。
【0046】
好ましい実施形態では、成形加工中に、プリフォームの第二の部分の遠位部に加えられる力は、当初、第二のモールド型部分に向けて遠位部を押すようになっている。可動モールド型部分が進行するにつれて遠位部が可動モールド型部分の上へと摺動していき、残りの成形加工中、第二の屈曲部が形成されているとき、遠位部が可動モールド型部分に押し付けられている。
【0047】
好ましい実施形態では、かかる方法は、プリフォームの第一の部分をモールド型に対し固定するように成形加工ツールを位置決めするステップをさらに有し、成形するステップでは、モールド型の進行している可動部分がプリフォームの第二の部分の近位部を成形加工ツールのまわりを囲むように成形して第一の屈曲部が形成される。
【0048】
他の実施形態では、プリフォームの第一の部分がフランジの成形加工によって実質的に影響を受けない十分な強さを有している場合、成型ツールが必要とされなくともよい。たとえば、プリフォームの第一の部分が、環状であり、フランジに隣接して円周方向テープ、すなわち0°テープの如き円周方向の補強材を組み入れるようにしてもよい。この補強材により、プリフォームの第一の部分が成形加工による直径の増大に対して抵抗することができるようになる。
【0049】
好ましい実施形態では、プリフォームが第一の温度まで加熱され、成形するステップが実行され、硬化させるステップが第一の温度よりも高い第二の温度で実行されるようになっている。
【0050】
第一の温度まで加熱することは、成形するステップの曲げ加工時、第一の屈曲部および第二の屈曲部においてシート同士がお互いに摺動し合うようにする助けとなる。
【0051】
次いで、より高い第二の温度まで加熱することにより、硬化させるステップが実行または完了される。第一の温度まで加熱することを、硬化行程の第一の部分とすることが好都合な場合もある。
【0052】
第一の温度は、たとえば40〜100℃、50〜90℃、または60〜80℃であってもよい。本実施形態では、80℃が用いられている。
【0053】
第二の温度は、120℃以上であってもよい。本実施形態では、約135℃の温度が用いられている。
【0054】
好ましい実施形態では、プリフォームの第一の部分および第二の部分のシートは、第一のプリフォーム部分(プリフォームの第一の部分)と第二のプリフォーム部分(プリフォームの第二の部分)との間に位置する境界に対して斜角となるように配置されるテープを含んでいる。
【0055】
たとえば、斜角を形成するように配置されるテープは、第一のプリフォーム部分と第二のプリフォーム部分との間に位置する境界との間に10〜80°の範囲の狭角をなすように配置されうる。この範囲に代えて、上述の範囲が20〜70°または30〜60°であってもよい。とくに好ましい実施形態では、すべての斜角テープは略60°の狭角で配置される。
【0056】
好ましい実施形態では、斜角テープは、プリフォームの第一の部分からプリフォームの第二の部分の遠位部の自由縁部まで延びている。
【0057】
好ましい実施形態では、プリフォームの第一の部分および第二の部分のシートは、第一のプリフォーム部分と第二のプリフォーム部分との間に位置する境界に対して直角となるように配置されるテープを含んでいる。
【0058】
たとえば、直角テープは、プリフォームの第一の部分からプリフォームの第二の部分の遠位部の自由縁部まで延びていてもよい。
【0059】
一実施形態では、第一のプリフォーム部分と第二のプリフォーム部分との間に位置する境界のシートは、シートの規則的な繰り返しパターンを有するように積層されてもよい。このようなパターンの一例は、直角テープを含むシート、+θ°(たとえば、+60°)の斜角テープを含むシート、そして−θ°(たとえば、−60°)の斜角テープを含むシートというパターンである。次いで、このパターンが繰り返されて、プリフォームに必要な深さを与える数のシートが提供される、または、必要な深さを与える数のシートの少なくとも実質的な部分(たとえば、中央部)が提供される。異なるパターンがプリフォームの上面および下面において用いられてもよい。
【0060】
好ましい実施形態では、プリフォームの第一の部分は、中央ゾーンと、第一のプリフォーム部分と第二のプリフォーム部分との間に位置する境界に隣接する縁部ゾーンとを有しており、プリフォームの第一の部分の中央ゾーンが直角テープを含んでおらず、プリフォームの第一の部分の縁部ゾーンが直角テープを含んでいる。
【0061】
中央ゾーンおよび縁部ゾーンは、第一のプリフォーム部分と第二のプリフォーム部分と間に位置する境界に対しておおむね平行に配置されているテープを含んでいてもよい。
【0062】
たとえばフランジがおおむね真っ直ぐなフランジである場合、おおむね平行なテープが第二のプリフォーム部分に含まれてもよい。フランジが環状ならば(たとえば、フランジが収納ケースの一部である場合)、通常、第二のプリフォーム部分はおおむね平行なテープを含まない。というのは、収納ケースの環状のハウジングから半径方向外側に向けて突出するフランジを成形する際、おおむね平行なテープは伸びないので環状のフランジの成形加工を妨げるおそれがあるからである。
【0063】
好ましい実施形態では、かかる方法は、硬化させるステップの後、フランジのリップ部をトリミングするステップをさらに有している。
【0064】
複合構造体を最終的に使用するときには、リップ部が必要ではなくなる場合もある。製造工程中、壁部および第一の屈曲部における単一方向性シート材を(しわの如きひずみを回避するために)ピンと張るという目的をリップ部の成形が果たしてしまった後は、リップ部が取り除かれるようになっていてもよい。
【0065】
しかしながら、リップ部は、フランジの堅さまたは剛性、ひいては複合構造体の堅さまたは剛性を向上させるので、残しておかれることが多い。
【0066】
本発明の第二の態様によれば、本発明の第一の態様にかかる方法により製造される複合構造体が提供される。
【0067】
本発明の第三の態様によれば、環状のハウジングと、この環状のハウジングの端部に位置するとともに、第一の屈曲部を介して環状のハウジングに接続されている環状の壁部および第一の屈曲部とは反対方向に向いている第二の屈曲部を介して環状の壁部に接続されている環状のリップ部を有している環状のフランジとを備えているガスタービンエンジン用の収納ケースを製造する方法は、環状のプリフォームをモールド型上にレイアップするステップであって、この環状のプリフォームが、第一の屈曲部および第二の屈曲部を有していないものの、収容ケースのハウジングに対応する第一の部分と、収容ケースのフランジに対応する第二の部分とを有しており、環状のプリフォームの第二の部分が、フランジの壁部に対応する近位部と、フランジのリップ部に対応する遠位部とを有しており、環状のプリフォームの第一の部分および第二の部分が複数のシートを有しており、単一方向性シート材が環状のプリフォームの第一の部分から環状のプリフォームの第二の部分の遠位部まで延びている、レイアップするステップと、モールド型の可動部分を半径方向外側に向けて移動させて環状のプリフォームの第二の部分の近位部を成形することにより第一の屈曲部を形成し、モールド型の外側に向けて移動している可動部分のまわりを囲むように環状のプリフォームの第二の部分の遠位部を成形して第二の屈曲部を形成することによりフランジを成形するステップと、成形されたフランジおよび環状のプリフォームの第一の部分の樹脂を硬化させるステップとを有している。
【0068】
本発明の第四の態様によれば、本発明の第三の態様にかかる方法に従って製造されるガスタービンエンジン用の収納ケースが提供されている。
【0069】
本発明の第三の態様および第四の態様に関していえば、本発明の第一の態様および第二の態様に関して先に述べた好ましい構成を準用することが可能である。
【0070】
以下、添付の図面を参照しつつ、本発明の好ましい実施形態を、例示のみを意図して記載する。
【図面の簡単な説明】
【0071】
図1】格納ケースおよびファンブレードを示すために部分的に切り取られている、ターボファンエンジンを示す図解式側面図である。
図2図1に記載の収納ケースにおおむね類似する収納ケースを示す図解式斜視図である。
図3】フランジを成形するための実験用のツールを使用する際の2つのステージのうちの一方を示す斜視図である。
図4】フランジを成形するための実験用のツールを使用する際の2つのステージのうちの他方を示す斜視図である。
図5】フランジの成形に用いられる実験用のツールの可動ブロックを示す斜視図である。
図6】フランジの成形に用いられる実験用のツールの可動ブロックを示す端面図である。
図7図3図6に記載の実験用のツールを用いて正しい成形加工により成形されたフランジ壁を切断したものを示す図解式断面図である。
図8図3図6に記載の実験用のツールを用いて誤った成形加工により成形されたフランジ壁を切断したものを示す図解式断面図である。
図9】第一の屈曲部および第二の屈曲部に注目した、本発明にかかる製造方法の複数のステージのうちの1つを示す図である。
図10】第一の屈曲部および第二の屈曲部に注目した、本発明にかかる製造方法の複数のステージのうちの1つを示す図である。
図11】第一の屈曲部および第二の屈曲部に注目した、本発明にかかる製造方法の複数のステージのうちの1つを示す図である。
図12】第一の屈曲部および第二の屈曲部に注目した、本発明にかかる製造方法の複数のステージのうちの1つを示す図である。
図13】第一の屈曲部および第二の屈曲部に注目した、本発明にかかる製造方法の複数のステージのうちの1つを示す図である。
図14】製造工程の完了後の、図9図13に記載の複合構造体の一部を示す拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0072】
本発明に対してさまざまな変形を加えること、また本発明には他の形態が可能であるものの、例示を目的として、具体的な実施形態が、図面に示され、本明細書に詳細に記載されている。しかしながら、具体的な実施形態についての図面および詳細な記載は、本発明の記載を特定の形態に限定することを意図したものではないことはいうまでもないことである。もっと正確にいえば、本発明は、添付の請求項により規定される本発明の技術思想および技術範囲に含まれるすべての変更、均等物および代替え案を含むものである。
【0073】
本発明にかかる実施形態は図9図14を参照して記載される。図9図14には、図3図8を参照してすでに上述した既存の方法に基礎をおいて本発明の方法がどのように構築されたのかが例示されている。
【0074】
図9に示されているように、可動ブロック62(モールド型可動部分)に隣接して配置される端板65の形態を有する第二のモールド型部分が追加されている点が、図3図6に記載の実験用ツールのモールド型6とは異なっている。 モールド型の主要部分または第一の部分61(第一のモールド型部分)は端板65(第二のモールド型部分)に固定されているので、第一のモールド型部分61および第二のモールド型部分65は、可動ブロック62に対して移動しない、すなわち静止するようになっている。端板65のモールド型表面651は、第一の部分61のモールド型表面611および可動ブロック62のモールド型表面621と組み合わさっておおむねシリンダ形状のモールド型表面のうちの曲面部分であるモールド型表面の全体を形成しており、これらのモールド型表面611、621、651の上にはプリフォーム7がATLマシンのヘッドによりレイアップされる(図9参照)。
【0075】
プリフォーム7を形成するためにレイアップされる複合材料は、実験用部分21に関して先に記載された前もって含浸されている単一方向性テープと同じもの、たとえばエポキシ樹脂を含有する炭素繊維テープである。
【0076】
このプリフォームは、第一の部分71がモールド型表面611上に位置し、第二の部分72がモールド型表面621、651上に位置するようにレイアップされる。第二の部分72は、可動ブロック62の表面621上にレイアップされる近位部73と、端板65の表面651上にレイアップされる遠位部74とに分割される。
【0077】
プリフォーム7の第一の部分71は、実験用部分21の第一の部分31に対応している。プリフォーム7の近位部73は、実験用部分21の第二の部分43に対応している。プリフォーム7は実験用部分21よりも長くなっている(図9の左側方向)。というのは、プリフォームが遠位部74を含んでおり、モールド型6が端板65を含んでいるからである。
【0078】
斜角テープが、第一の部分71および第二の部分72にレイアップされ、これらのテープの少なくとも一部が第一の部分71から遠位部74の自由縁部741まで延びている。多くの実施形態では、各斜角テープは、プリフォームの全長にわたり、すなわち、プリフォーム7における自由縁部741とは反対側の端部から(すなわち、図9に記載のプリフォームの右側端部から)自由縁部741まで(すなわち図9に記載のプリフォームの左側端部まで)延びている。
【0079】
第一の部分71は、中央ゾーン75と、第一の部分71と第二の部分72との間に位置する境界77に隣接する縁部ゾーン76とを有している。直角テープ(90°テープ)は、縁部ゾーン76から遠位部74の自由縁部741まで延びるようにレイアップされる。中央ゾーン75は直角テープを含んでいない。
【0080】
円周方向テープ(0°テープ)は、境界77に対しておおむね平行(図9の紙面の面に対して直角の方向)であり、第一の部分71にレイアップされ、第二の部分72にはレイアップされない。
【0081】
図9図14には明瞭さの観点から7つのシート78a〜78gが示されているが、多くの実用的な実施形態では、シート層の数はそれよりも大きな数、たとえば10以上、20以上、または30以上である。
【0082】
図10には、製造工程の次のステージが例示されている。真空バッグ膜79が、プリフォーム7上に配置され、外周縁791においてモールド型6をシールするようになっている。このことにより、膜79とプリフォーム7との間の空間792から空気を抜き取り、続く成形加工および硬化加工の間、プリフォーム7に圧力(膜79に作用している大気圧)を加えることが可能となる。
【0083】
明瞭さの観点から、図11図13には真空バッグ膜79は示されていない。それに代えて、膜79によりプリフォーム7に加えられ、成形加工する間第二の部分72をモールド型6に対して押し付ける役目を働く押付け力または保持力が矢印Fを用いて示されている。
【0084】
図11には、真空を形成し、膜79がプリフォーム7に吸い着けられ、力Fがプリフォーム7に加えられた後に続く製造工程のステージが示されている。雌部成形加工ツール63は、適切な位置へと移動され、プリフォーム7の第一の部分71の縁部ゾーン76を押し付けるまたは押し下げる。雌部成形加工ツール63は、境界77の隣に位置するが、続く成形加工を実行する際に近位部73の移動に対応するため、第二の部分72の近位部73の厚みに相当する短い距離だけ境界からズレている。
【0085】
図12には、続く製造工程のステージが示されている。シートがお互いに容易に摺動可能となるようシート78の樹脂を柔らかくするために温度がたとえば80℃まで上げられる。可動ブロック62は、引っ込み位置から第一の距離L1だけ進行させられる(持ち上げられるまたは半径方向外側に向かって移動される)。遠位部74がモールド型表面651から持ち上げられ、モールド型表面621上を横方向に(第二の距離L2だけ)引き込まれる際、それと同時に、遠位部74は力Fにより下方に向かって押されている。可動ブロック62が進むにつれて、可動ブロック62の円周方向の縁部622は、プリフォーム7のシート78を押し、シート78を雌部成形加工ツール63の円周方向の縁部631のまわりを囲むように成形して、プリフォーム7に第一の屈曲部81を形成する。一時的な屈曲部82もプリフォーム7に形成される。成形加工時にシート78が伸びてしまうのを直角テープが防止するので、距離L2は距離L1とほぼ同じになっている。
【0086】
成形加工は、可動ブロック62が第一の距離L1(図12)から第三の距離(図13)へと進むまで継続する。遠位部74は、第二の距離L2(図12)から第四の距離L4(図13)まで横方向にモールド型表面621を横切ってさらに引き込まれる。遠位部74は、真空排気された真空バッグ膜79に対して作用する大気圧に起因する力Fによりモールド型表面621に押し付けられ続ける。可動ブロック62の円周方向の縁部622は、プリフォーム7の第二の屈曲部83を形成する最終位置まで一時的な屈曲部82を押す。可動ブロック62の移動のストローク長(L3)は、距離L4とほぼ同じである。
【0087】
成形加工が完了すると、温度がたとえば135℃まで上げられ、シート78の複合部材からなるテープ内の樹脂を硬化させるための硬化作業が開始または完了される。
【0088】
雌部成形加工ツール63が取り除かれ、膜79の内部の空間792から真空が解除される。膜79がモールド型6から取り除かれ、成形および硬化されたプリフォーム7(現時点において複合製品9に変形されている)は、モールド型6から取り出される。
【0089】
図14には、複合製品9の左側端部が倍尺で示されている。複合製品9は、第一の屈曲部81を介してフランジ92に接続している本体91を有し、フランジ92は、第二の屈曲部83を介してリップ部94に接続されている壁部93を有している。
【0090】
複合製品9の教示が環状の構造(たとえば、収納ケース)に適用される場合、本体91は環状であり、壁部93およびリップ部94の各々もまた環状である。環状のフランジ92にさらなる剛性を与えるために、リップ部94を収納ケースに残すようにしてもよい。このことにより、収納ケースのフープ強度が向上する。しかしながら、完成品にリップ部が必要ではない場合、リップ部94の下面の下方に位置しかつそれに対しておおむね平行になっているカットライン95に沿ってリップ部94が切り取られてもよい。
【0091】
壁部93は本体91に対して直角となっており、このことにより、壁部によりもたらされる本体に対する強化効果を最大化させることができる。リップ部94は壁部93に対して直角となっており、このことにより、リップ部によりもたらされる壁部に対する強化効果を最大化させることができる。しかしながら、可動ブロック62の頂面621が可動ブロックのストローク方向に対して斜角となるように変更された場合、リップ部は壁部に対して異なった向きとなる。
【0092】
円周方向の縁部631および622の曲率半径をそれぞれ第一の屈曲部81および第二の屈曲部83の内側部分に所望の曲率半径をもたらすようにセットすることが可能である。というのは、成形加工時、プリフォーム7が円周方向の縁部のまわりを密に囲むようにモールド成型されることが力Fにより担保されているからである。
【0093】
成形加工時、一時的な屈曲部82(最終的には第二の屈曲部83が形成される)が存在するため、第一の屈曲部81の内側部分の近傍に位置するシート(たとえば、シート78aおよび78b)がこれらのシートの斜角テープおよび直角テープの長さ方向に沿ってピンと張った状態に維持されるので、シートのしわまたは座屈が生じなくなる。また、これらの二つの屈曲部の方向が逆方向となっているので、二つの屈曲部は互いにバランスが取れた状態にある。成形加工時に2つの屈曲部を同時に形成することにより、有益な張力効果が達成できる。
【0094】
同様に、第一の屈曲部81の存在により、成形加工時、一時的な屈曲部82(または、第二の屈曲部83)の内側部分の近傍のシート(たとえば、シート78fおよび78g)がピンと張った状態に保たれるので、壁部93におけるひずみの発生が回避される。
【0095】
ストローク長L3についていえば、硬化加工時、リップ部94が可動ブロック62の表面621により支えられるよう、プリフォーム7の遠位部74から構成される円周方向帯状体の幅L5(図9を参照)を超えるようにセットされる。
【0096】
また、L3は、可動ブロック62のストロークの終了時、遠位部74の材料の一部がまだ残ってリップ部94が形成されるよう、プリフォーム7の第二の部分72から構成される円周方向帯状体の幅L6(図9を参照)未満であるようにセットされる。たとえばL3がL6より著しく大きければ、プリフォーム7の第二の部分72のすべての材料が成形加工時に壁部93に変換されてしまうと考えられる。
【0097】
プリフォーム7が第二の部分72と第一の部分71の少なくとも縁部ゾーン76とについてシート深さが実質的に均一となるように、テープがレイアップされている。このことは、成形加工時においてシート曲げを確実に滑らかなものとする助けとなる。
【0098】
複数の実施形態にかかる複合構造体9を製造する方法を記載した。この複合構造体9は、本体91と、本体91の第一の縁部に沿って配置されるフランジ92とを備えている。フランジ92は、第一の屈曲部81を介して本体91に接続されている壁部93と、第一の屈曲部81とは反対方向に向いている第二の屈曲部83を介して壁部93に接続されているリップ部94とを有している。かかる方法は、プリフォーム7をモールド型6上にレイアップするステップであって、プリフォーム7が、第一の屈曲部81および第二の屈曲部83を有していないものの、複合構造体9の本体91に対応する第一の部分71と、複合構造体9のフランジ92に対応する第二の部分72とを有しており、プリフォーム7の第二の部分72が、フランジ92の壁部93に対応する近位部73と、フランジ92のリップ部94に対応する遠位部74とを有しており、プリフォーム7の第一の部分71および第二の部分72が複数のシート78を有しており、単一方向性シート材78がプリフォーム7の第一の部分71からプリフォーム7の第二の部分72の遠位部74まで延びている、レイアップするステップと、モールド型6の可動部分62を進行させてプリフォーム7の第二の部分72の近位部73を成形することにより第一の屈曲部81を形成し、モールド型6の進行している可動部分62のまわりを囲むようにプリフォーム7の第二の部分72の遠位部74を成形して第二の屈曲部83を形成することによりフランジ92を成形するステップと、成形後のフランジ92およびプリフォーム7の第一の部分71の樹脂を硬化させるステップとを有している。
【0099】
また、ガスタービンエンジン1用の収納ケース2を製造する方法も記載されている。収納ケース2は、環状のハウジング3と、環状のフランジ92とを有している。環状のフランジ92は、ハウジング3の端部に位置するとともに、第一の屈曲部81を介してハウジング3に接続されている環状の壁部93と、第一の屈曲部81とは反対方向に向いている第二の屈曲部83を介して環状の壁部93に接続されているリップ部94とを有している。かかる方法は、環状のプリフォーム7をモールド型6上にレイアップするステップであって、環状のプリフォーム7が、第一の屈曲部81および第二の屈曲部83を有していないものの、収容ケース2のハウジング3に対応する第一の部分71と、収容ケース2のフランジ92に対応する第二の部分72とを有しており、環状のプリフォーム7の第二の部分72が、フランジ92の壁部93に対応する近位部73と、フランジ92のリップ部94に対応する遠位部74とを有しており、環状のプリフォーム7の第一の部分71および第二の部分72が複数のシート78を有しており、単一方向性シート材78が環状のプリフォーム7の第一の部分71から環状のプリフォーム7の第二の部分72の遠位部74まで延びている、レイアップするステップと、モールド型6の可動部分62を半径方向外側に向けて移動させて環状のプリフォーム7の第二の部分72の近位部73を成形することにより第一の屈曲部81を形成し、モールド型6の半径方向外側に向けて移動している可動部分62のまわりを囲むように環状のプリフォーム7の第二の部分72の遠位部74を成形して第二の屈曲部83を形成することによりフランジ92を成形するステップと、成形後のフランジ92および環状のプリフォーム7の第一の部分71の樹脂を硬化させるステップとを有している。
図1
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