【課題を解決するための手段】
【0027】
本発明の第一の態様によれば、本体と、この本体の第一の縁部に沿って配置され、第一の屈曲部を介して本体に接続されている壁部および第一の屈曲部とは反対方向に向いている第二の屈曲部を介して壁部に接続されているリップ部を有しているフランジとを備えている複合構造体を製造する方法は、プリフォームをモールド型上にレイアップするステップであって、プリフォームが、第一の屈曲部および第二の屈曲部を有していないものの、複合構造体の本体に対応する第一の部分と、複合構造体のフランジに対応する第二の部分とを有しており、プリフォームの第二の部分が、フランジの壁部に対応する近位部と、フランジのリップ部に対応する遠位部とを有しており、プリフォームの第一の部分および第二の部分が複数のシートを有しており、単一方向性シート材がプリフォームの第一の部分からプリフォームの第二の部分の遠位部まで延びている、レイアップするステップと、モールド型の可動部分を進行させてプリフォームの第二の部分の近位部を成形することにより第一の屈曲部を形成し、モールド型の進行している可動部分のまわりを囲むようにプリフォームの第二の部分の遠位部を成形して第二の屈曲部を形成することによりフランジを成形するステップと、成形されたフランジおよびプリフォームの第一の部分の樹脂を硬化させるステップとを有している。
【0028】
プリフォームの第二の部分が近位部に加えて遠位部を有し、成形加工には第一の屈曲部に加えて第二の屈曲部を形成することが含まれているので、プリフォームの第一の部分からプリフォームの第二の部分の遠位部まで延びている(そして、第一の屈曲部の内側部分の近傍にある)単一方向性シート材は、その長さ方向に沿って一定の張りが維持される。このことにより、第一の屈曲部の内側部分におけるそのシート材のひずみ(しわまたは座屈)が防止される。
【0029】
また、第二の屈曲部の内側部分の近傍に位置する単一方向性シート材も成形加工時にその長さ方向に沿って一定の張りが維持され、このことにより、第二の屈曲部の内側部分に位置するそのシート材のひずみが防止される。
【0030】
第二の屈曲部が第一の屈曲部とは反対方向に向いているので、第二の屈曲部は第一の屈曲部と実質的にバランスが取れた状態になっている。
【0031】
好ましい実施形態では、フランジは、本体の第一の縁部に対して斜角および/または直角を形成するテープを含んでいる。
【0032】
好ましくは、プリフォームの第一の部分および第二の部分はそれぞれ本体の第一の縁部に対して斜角を形成するように配置されるテープを含んでいる。当該斜角(本体の第一の縁部との間の狭角)は、10〜80°の範囲であってもよい。それに代えて、当該範囲は20〜70°であってもよいし、または30〜60°であってもよい。とくに好ましい実施形態では、すべての斜角テープは、第一の縁部(ここで、第一の縁部はプリフォームの第一の部分と第二の部分との間に位置する境界に対応している)との間で略60°の狭角を形成するように配置される。
【0033】
好ましくは、各シートは単一方向性シート材である。このことは、本発明の利点を最大化する助けとなる。
【0034】
好ましくは、単一方向性シート材とは、エポキシ樹脂の如き任意の適切な樹脂を含んでいる前もって含浸された単一方向性テープのことである。
【0035】
好ましい実施形態では、各シートはこのようなテープからなっている。これらのシートは、織られてもよいし、不織布にされてもよいし、または織られたシートと不織布にされたシートとを組み合わせたものであってもよい。
【0036】
単一方向性シート材が前もって含浸された単一方向性テープであることに代えて、プリフォームを形成するためにレイアップされるシートが、「乾燥」補強材(たとえば、繊維トウ)に樹脂を後で加えたものであってもよい。この樹脂は、樹脂トランスファ成形(RTM)技術を用いて、フランジを成形するステップの前、フランジを成形するステップの間またはフランジを成形するステップの後に加えられてもよい。
【0037】
好ましい実施形態では、モールド型は、第一のモールド型部分(モールド型の第一の部分)と、この第一のモールド型部分に隣接する可動モールド型部分(モールド型の可動部分)と、可動モールド型部分に隣接する第二のモールド型部分(モールド型の第二の部分)とを有しており、レイアップするステップにおいて、プリフォームの第一の部分が第一のモールド型部分上にレイアップされ、プリフォームの第二の部分の近位部が可動モールド型部分上にレイアップされ、プリフォームの第二の部分の遠位部は、第二のモールド型部分にレイアップされる。
【0038】
第二のモールド型部分は自由縁部を有していてもよい。この自由縁部は、レイアップされるプリフォームの第二の部分の遠位部の自由縁部を形成するために用いられる。したがって、シートは、第二のモールド型部分の自由縁部を越えてレイアップされてから、自由縁部までトリミングされるようにしてもよい。
【0039】
好ましい実施形態では、第二のモールド型部分は、リップ部の成形前の高さに対応する方向に異なるサイズまたは寸法を有する1組の第二のモールド型部分から選択されるようになっていてもよい。たとえば、第二のモールド型部分が環状である場合、1組の第二のモールド型部分は異なる厚さを有していてもよい。
【0040】
好ましい実施形態では、1組の第二のモールド型部分は環状の(通常、おおむねシリンダ形状の)モールド型表面を提供する。たとえば、モールド型表面は円形状である。
【0041】
1組の第二のモールド型部分によって提供されるモールド型表面が環状の構成である場合、成形するステップ時、可動モールド型部分は半径方向外側に向けて移動される。好ましくは、プリフォームの第二の部分のシートは円周方向テープを含んでいない。というのは、このようなテープは、プリフォームの第二の部分が半径方向外側に向けて成形されるにつれてプリフォームの第二の部分の直径が増大することに対し抵抗して成形加工を妨げるからである。
【0042】
可動モールド型部分は、第一の縁部に沿って間隔をおいて並べられ、引き込まれた配置から半径方向外側に向けて引き出された配置へと移動可能なブロックであってもよい。所望のフランジが環状ではなく、たとえば真っ直ぐなフランジである場合、1つ以上のブロックはおおむね同一方向に進行させることが可能である。たとえば、おおむね真っ直ぐなフランジを成形加工する際、細長い棒の如き単一のブロックを用いることができる。
【0043】
好ましい実施形態では、プリフォームが真空バッグ膜で覆われ、成形するステップ中、プリフォームが真空状態の下におかれる。可撓性および伸縮性を有する弾性膜が選択されてもよい。
【0044】
好ましい実施形態では、可動部分が進行し、第二の屈曲部が形成されるにつれて、真空バッグ膜は、プリフォームの第二の部分の遠位部をモールド型の可動部分のモールド型表面に押し付けるまたは留める(保持する)ようになっている。
【0045】
真空バッグ膜により提供される留める力または押し付け力は、大気圧が真空バッグ膜に対して、すなわちプリフォームに対して作用することによって提供されている。
【0046】
好ましい実施形態では、成形加工中に、プリフォームの第二の部分の遠位部に加えられる力は、当初、第二のモールド型部分に向けて遠位部を押すようになっている。可動モールド型部分が進行するにつれて遠位部が可動モールド型部分の上へと摺動していき、残りの成形加工中、第二の屈曲部が形成されているとき、遠位部が可動モールド型部分に押し付けられている。
【0047】
好ましい実施形態では、かかる方法は、プリフォームの第一の部分をモールド型に対し固定するように成形加工ツールを位置決めするステップをさらに有し、成形するステップでは、モールド型の進行している可動部分がプリフォームの第二の部分の近位部を成形加工ツールのまわりを囲むように成形して第一の屈曲部が形成される。
【0048】
他の実施形態では、プリフォームの第一の部分がフランジの成形加工によって実質的に影響を受けない十分な強さを有している場合、成型ツールが必要とされなくともよい。たとえば、プリフォームの第一の部分が、環状であり、フランジに隣接して円周方向テープ、すなわち0°テープの如き円周方向の補強材を組み入れるようにしてもよい。この補強材により、プリフォームの第一の部分が成形加工による直径の増大に対して抵抗することができるようになる。
【0049】
好ましい実施形態では、プリフォームが第一の温度まで加熱され、成形するステップが実行され、硬化させるステップが第一の温度よりも高い第二の温度で実行されるようになっている。
【0050】
第一の温度まで加熱することは、成形するステップの曲げ加工時、第一の屈曲部および第二の屈曲部においてシート同士がお互いに摺動し合うようにする助けとなる。
【0051】
次いで、より高い第二の温度まで加熱することにより、硬化させるステップが実行または完了される。第一の温度まで加熱することを、硬化行程の第一の部分とすることが好都合な場合もある。
【0052】
第一の温度は、たとえば40〜100℃、50〜90℃、または60〜80℃であってもよい。本実施形態では、80℃が用いられている。
【0053】
第二の温度は、120℃以上であってもよい。本実施形態では、約135℃の温度が用いられている。
【0054】
好ましい実施形態では、プリフォームの第一の部分および第二の部分のシートは、第一のプリフォーム部分(プリフォームの第一の部分)と第二のプリフォーム部分(プリフォームの第二の部分)との間に位置する境界に対して斜角となるように配置されるテープを含んでいる。
【0055】
たとえば、斜角を形成するように配置されるテープは、第一のプリフォーム部分と第二のプリフォーム部分との間に位置する境界との間に10〜80°の範囲の狭角をなすように配置されうる。この範囲に代えて、上述の範囲が20〜70°または30〜60°であってもよい。とくに好ましい実施形態では、すべての斜角テープは略60°の狭角で配置される。
【0056】
好ましい実施形態では、斜角テープは、プリフォームの第一の部分からプリフォームの第二の部分の遠位部の自由縁部まで延びている。
【0057】
好ましい実施形態では、プリフォームの第一の部分および第二の部分のシートは、第一のプリフォーム部分と第二のプリフォーム部分との間に位置する境界に対して直角となるように配置されるテープを含んでいる。
【0058】
たとえば、直角テープは、プリフォームの第一の部分からプリフォームの第二の部分の遠位部の自由縁部まで延びていてもよい。
【0059】
一実施形態では、第一のプリフォーム部分と第二のプリフォーム部分との間に位置する境界のシートは、シートの規則的な繰り返しパターンを有するように積層されてもよい。このようなパターンの一例は、直角テープを含むシート、+θ°(たとえば、+60°)の斜角テープを含むシート、そして−θ°(たとえば、−60°)の斜角テープを含むシートというパターンである。次いで、このパターンが繰り返されて、プリフォームに必要な深さを与える数のシートが提供される、または、必要な深さを与える数のシートの少なくとも実質的な部分(たとえば、中央部)が提供される。異なるパターンがプリフォームの上面および下面において用いられてもよい。
【0060】
好ましい実施形態では、プリフォームの第一の部分は、中央ゾーンと、第一のプリフォーム部分と第二のプリフォーム部分との間に位置する境界に隣接する縁部ゾーンとを有しており、プリフォームの第一の部分の中央ゾーンが直角テープを含んでおらず、プリフォームの第一の部分の縁部ゾーンが直角テープを含んでいる。
【0061】
中央ゾーンおよび縁部ゾーンは、第一のプリフォーム部分と第二のプリフォーム部分と間に位置する境界に対しておおむね平行に配置されているテープを含んでいてもよい。
【0062】
たとえばフランジがおおむね真っ直ぐなフランジである場合、おおむね平行なテープが第二のプリフォーム部分に含まれてもよい。フランジが環状ならば(たとえば、フランジが収納ケースの一部である場合)、通常、第二のプリフォーム部分はおおむね平行なテープを含まない。というのは、収納ケースの環状のハウジングから半径方向外側に向けて突出するフランジを成形する際、おおむね平行なテープは伸びないので環状のフランジの成形加工を妨げるおそれがあるからである。
【0063】
好ましい実施形態では、かかる方法は、硬化させるステップの後、フランジのリップ部をトリミングするステップをさらに有している。
【0064】
複合構造体を最終的に使用するときには、リップ部が必要ではなくなる場合もある。製造工程中、壁部および第一の屈曲部における単一方向性シート材を(しわの如きひずみを回避するために)ピンと張るという目的をリップ部の成形が果たしてしまった後は、リップ部が取り除かれるようになっていてもよい。
【0065】
しかしながら、リップ部は、フランジの堅さまたは剛性、ひいては複合構造体の堅さまたは剛性を向上させるので、残しておかれることが多い。
【0066】
本発明の第二の態様によれば、本発明の第一の態様にかかる方法により製造される複合構造体が提供される。
【0067】
本発明の第三の態様によれば、環状のハウジングと、この環状のハウジングの端部に位置するとともに、第一の屈曲部を介して環状のハウジングに接続されている環状の壁部および第一の屈曲部とは反対方向に向いている第二の屈曲部を介して環状の壁部に接続されている環状のリップ部を有している環状のフランジとを備えているガスタービンエンジン用の収納ケースを製造する方法は、環状のプリフォームをモールド型上にレイアップするステップであって、この環状のプリフォームが、第一の屈曲部および第二の屈曲部を有していないものの、収容ケースのハウジングに対応する第一の部分と、収容ケースのフランジに対応する第二の部分とを有しており、環状のプリフォームの第二の部分が、フランジの壁部に対応する近位部と、フランジのリップ部に対応する遠位部とを有しており、環状のプリフォームの第一の部分および第二の部分が複数のシートを有しており、単一方向性シート材が環状のプリフォームの第一の部分から環状のプリフォームの第二の部分の遠位部まで延びている、レイアップするステップと、モールド型の可動部分を半径方向外側に向けて移動させて環状のプリフォームの第二の部分の近位部を成形することにより第一の屈曲部を形成し、モールド型の外側に向けて移動している可動部分のまわりを囲むように環状のプリフォームの第二の部分の遠位部を成形して第二の屈曲部を形成することによりフランジを成形するステップと、成形されたフランジおよび環状のプリフォームの第一の部分の樹脂を硬化させるステップとを有している。
【0068】
本発明の第四の態様によれば、本発明の第三の態様にかかる方法に従って製造されるガスタービンエンジン用の収納ケースが提供されている。
【0069】
本発明の第三の態様および第四の態様に関していえば、本発明の第一の態様および第二の態様に関して先に述べた好ましい構成を準用することが可能である。
【0070】
以下、添付の図面を参照しつつ、本発明の好ましい実施形態を、例示のみを意図して記載する。