特許第5931916号(P5931916)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5931916
(24)【登録日】2016年5月13日
(45)【発行日】2016年6月8日
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/13 20100101AFI20160526BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20160526BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20160526BHJP
【FI】
   H01M4/13
   H01M4/62 Z
   H01M4/139
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-547067(P2013-547067)
(86)(22)【出願日】2012年10月29日
(86)【国際出願番号】JP2012077846
(87)【国際公開番号】WO2013080722
(87)【国際公開日】20130606
【審査請求日】2015年3月11日
(31)【優先権主張番号】特願2011-262834(P2011-262834)
(32)【優先日】2011年11月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001889
【氏名又は名称】三洋電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126963
【弁理士】
【氏名又は名称】来代 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100131864
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 正憲
(72)【発明者】
【氏名】千賀 貴信
(72)【発明者】
【氏名】井町 直希
【審査官】 神野 将志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−220335(JP,A)
【文献】 特表2001−506052(JP,A)
【文献】 特開平10−154532(JP,A)
【文献】 特開2011−181195(JP,A)
【文献】 特開2008−277087(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00−4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極集電体と、
正極活物質及びMHPO(Mは一価の金属である)で示されるリン酸塩を含み、上記正極集電体の表面に形成された正極活物質層と、を有し、
上記正極活物質に対する上記リン酸塩の割合が、0.001質量%以上1質量%以下である、非水電解質二次電池用正極
【請求項2】
上記MHPOにおけるMが、ナトリウム、リチウム又はカリウムである、請求項1に記載の非水電解質二次電池用正極。
【請求項3】
上記正極活物質に対する上記リン酸塩の割合が、0.02質量%以上1質量%以下である、請求項1又は2に記載の非水電解質二次電池用正極。
【請求項4】
上記正極活物質層の表面に、無機酸化物フィラーを含む多孔質層が形成されている、請求項1〜の何れか1項に記載の非水電解質二次電池用正極。
【請求項5】
正極活物質と導電剤と結着剤とを混錬し、混錬物を作製する工程と、
上記混錬物に、粉末状のMHPO(Mは一価の金属である)で示されるリン酸塩を添加し、正極スラリーを調製する工程と、
上記正極スラリーを正極集電体の表面に塗布する工程と、
上記正極集電体の表面上に配置された正極スラリーを乾燥させ、圧延して正極活物質層を形成する工程と、を有し、
上記正極活物質に対する上記リン酸塩の割合が、0.001質量%以上1質量%以下である、非水電解質二次電池用正極の製造方法。
【請求項6】
上記MHPOにおけるMが、ナトリウム、リチウム又はカリウムである、請求項に記載の非水電解質二次電池用正極の製造方法。
【請求項7】
上記正極活物質に対する上記リン酸塩の割合が、0.02質量%以上1質量%以下である、請求項5又は6に記載の非水電解質二次電池用正極の製造方法。
【請求項8】
上記正極活物質層の表面に、無機酸化物フィラーを含む多孔質層が形成されている、請求項5〜7の何れか1項に記載の非水電解質二次電池用正極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、ノートパソコン、PDAなどの移動情報端末の小型・軽量化が急速に進展しており、その駆動電源として用いる電池の高容量化が要求されている。このような要求に対応するため、高出力、高エネルギー密度の新型二次電池として、非水電解質二次電池が広く利用されている。
特に、近年、移動情報端末における動画再生、ゲーム機能といった娯楽機能の充実が進んで、消費電力はさらに上昇する傾向にある。このため、非水電解質二次電池の更なる高容量化が求められるようになってきた。
【0003】
非水電解質二次電池を高容量化する方策としては、充電電圧を高く設定して、正極活物質の利用率を向上する方法が考えられる。例えば、一般的に使用されているコバルト酸リチウムを金属リチウム基準で4.3V(対極が黒鉛負極の場合4.2V)まで充電した場合、その容量は160mAh/g程度であるが、金属リチウム基準で4.5V(対極が黒鉛負極の場合4.4V)まで充電すると190mAh/g程度まで容量を向上することが可能となる。
【0004】
しかしながら、コバルト酸リチウムをはじめとして、正極活物質を高電圧まで充電すると、電解液が分解し易くなるという問題がある。特に、高温で連続充電した場合に、電解液が分解してガスが発生し、電池が膨らんだり、電池の内部圧力が大きくなるといった問題が生じる。
そこで、電解液の分解を抑制するために、以下に示す提案がされている。
【0005】
(1)正極活物質の合成段階において、P、LiPO、HPO、或いは、Mg(PO・HO等のリン化合物を加えて焼成することにより、正極活物質とリン化合物とを複合化させる提案(下記特許文献1〜3参照)。
(2)正極活物質を合成した後に、NHPO、(NHHPO、LiPOを混合し、更に熱処理する提案(下記特許文献4参照)。
【0006】
(3)正極スラリーを作製する段階で、亜リン酸(HPO)を添加する提案(下記特許文献5、6参照)。
(4)リン酸アンモニウム化合物を正極スラリー又は負極スラリーに加える提案(下記特許文献7、8参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3212639号公報
【特許文献2】特許第3054829号公報
【特許文献3】特開2006−169048
【特許文献4】特開2010-55777号公報
【特許文献5】特開2007-335331号公報
【特許文献6】特開2008-251434号公報
【特許文献7】特開平11-154535号公報
【特許文献8】特開平11-329444号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記(1)の提案では、正極活物質の合成段階でリン化合物を添加しているため、正極活物質粒子の表面のみならず、正極活物質粒子の内部にもリン化合物が存在することになる。この結果、正極活物質表面で生じる電解液の分解を十分に抑えることができず、連続充電保存時のガス発生抑制効果が不十分であるため、電池膨れが生じるという課題を有していた。
上記(2)の提案でも、連続充電保存時のガス発生抑制効果が不十分であった。
【0009】
上記(3)の提案によっても、連続充電保存時のガス発生抑制効果が未だ不十分であり、しかも、HPOは強酸であるため、正極活物質と反応しなかったHPOが、混錬機を腐食させるという問題もあった。
上記(4)の提案でも、連続充電保存時のガス発生抑制効果が不十分であった。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、正極集電体と、正極活物質及びMHPO(Mは一価の金属である)で示されるリン酸塩を含み、上記正極集電体の表面に形成された正極活物質層と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、連続充電保存時にガス発生を抑制できるといった優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】電池A1、Z1〜Z3における連続充電試験後1回目の放電曲線を示すグラフである。
図2】電池A1、B2、Z2、Z3におけるインピーダンスを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を下記実施形態に基づいて詳細に説明するが、本発明は下記実施形態により何ら限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施することが可能なものである。
【0014】
〔第1実施例〕
(実施例1)
電池A1の作製について、以下に説明する。
[正極の作製]
正極活物質としてのLiCoO(Al及びMgがそれぞれ1.0mol%固溶されており、且つZrが0.05mol%表面に付着したもの)と、導電剤としてのAB(アセチレンブラック)と、結着剤であるPVDF(ポリフッ化ビニリデン)とを、溶剤であるNMP(N−メチル−2−ピロリドン)と共に混練した。この際、LiCoOと、ABと、PVDFとの質量比は、95:2.5:2.5となるよう規定した。次に、NaHPO粉末を、上記正極活物質に対して0.1質量%の割合で加え、更に攪拌して、正極スラリーを調製した。その後、該正極スラリーをアルミニウム箔から成る正極集電体の両面に塗布し、乾燥後圧延して正極を得た。尚、正極の充填密度は3.8g/ccとした。なお、NaHPO粉末は、乳鉢で粉砕し、目開き20μmのメッシュを通過させたものである。
【0015】
[負極の作製]
負極活物質としての黒鉛と、結着剤としてのSBR(スチレンブタジエンゴム)と、増粘剤としてのCMC(カルボキシメチルセルロース)とを、水溶液中において混練して負極スラリーを調製した。この際、黒鉛と、SBRと、CMCとの質量比は、98:1:1となるように規定した。次に、この負極スラリーを銅箔からなる負極集電体の両面に塗布し、これを乾燥後圧延して負極を得た。
【0016】
[非水電解液の調製]
非水電解液の溶媒には、エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とジエチルカーボネート(DEC)とが、3:6:1の体積比で混合された混合溶媒を用い、この混合溶媒に、溶質としてのLiPFを1.0mol/lの割合で加えた。そして、この非水電解液100重量部に対し、添加剤としてのビニレンカーボネートを2重量部の割合で添加した。
【0017】
[電池の組立]
上記のようにして作製した正負両極に、それぞれリード端子を取り付けた。次に、正負両極間にセパレータを配置した後、渦巻状に巻き取り、更にプレスして、扁平状に押し潰した電極体を作製した。次いで、この電極体を、アルミニウムラミネートから成る電池外装体内に配置し、更に非水電解液を注液した。最後に、電池外装体を封止することにより試験用の電池A1を作製した。尚、電池A1の設計容量は800mAhで、サイズは、3.6mm×35mm×62mmである。上記設計容量は、4.4Vの充電終止電圧を基準にして設計した。
【0018】
(実施例2)
正極スラリーの調製時に、NaHPOの代わりに、LiHPOを添加したこと以外は、電池A1と同様にして電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下、電池A2と称する。
【0019】
(比較例1)
正極スラリーの調製時に、NaHPOを添加しなかったこと以外は、電池A1と同様にして電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下、電池Z1と称する。
【0020】
(比較例2)
正極スラリーの調製時に、NaHPOの代わりに、NMPにHPOを溶かした溶液を添加したこと以外は、電池A1と同様にして電池を作製した。尚、正極活物質に対するHPOの割合は、0.1質量%である。
このようにして作製した電池を、以下、電池Z2と称する。
【0021】
(比較例3)
正極スラリーの調製時に、NaHPOの代わりに、HPOの90%水溶液を添加したこと以外は、電池A1と同様にして電池を作製した。尚、正極活物質に対するHPOの割合は、0.1質量%である。
このようにして作製した電池を、以下、電池Z3と称する。
【0022】
(比較例4)
正極スラリーの調製時に、NaHPOの代わりに、NaHPOを添加したこと以外は、電池A1と同様にして電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下、電池Z4と称する。
【0023】
(比較例5)
正極スラリーの調製時に、NaHPOの代わりに、NaPOを添加したこと以外は、電池A1と同様にして電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下、電池Z5と称する。
【0024】
(比較例6)
正極スラリーの調製時に、NaHPOの代わりに、LiPOを添加したこと以外は、電池A1と同様にして電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下、電池Z6と称する。
【0025】
(比較例7)
正極スラリーの調製時に、NaHPOの代わりに、Naを添加したこと以外は、電池A1と同様にして電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下、電池Z7と称する。
【0026】
(比較例8)
正極スラリーの調製時に、NaHPOの代わりに、Mg(HPO・4HOを添加したこと以外は、電池A1と同様にして電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下、電池Z8と称する。
【0027】
(比較例9)
正極スラリーの調製時に、NaHPOの代わりに、Al(HPOを添加したこと以外は、電池A1と同様にして電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下、電池Z9と称する。
【0028】
(実験)
電池A1、A2、Z1〜Z9を、下記条件で充放電等を行い、下記(1)式に示す電池厚み増加量と、下記(2)式に示す残存容量率とを調べたので、それらの結果を表1に示す。また、電池A1、Z1〜Z3における連続充電試験後1回目の放電曲線を図1に示す。
【0029】
連続充電試験を行う前に、まず、1.0It(800mAh)の電流で、4.4Vまで定電流充電を行い、更に、定電圧で電流1/20It(40mA)になるまで充電した。10分休止した後、1.0Itの電流で2.75Vまで定電流放電を行った。該放電時に、連続充電試験前の放電容量Q1を測定した。放電の後、上記と同様の条件で充電を行い、その後、連続充電試験前の電池厚みL1を測定した。
電池厚みL1を測定した後、連続充電試験として、60℃の恒温槽内に各電池を配置して、4.4Vの定電圧で65時間充電した。その後、連続充電試験後の電池厚みL2を測定した。最後に、各電池を室温にまで冷却してから、室温で放電した。この放電時に、連続充電試験後1回目の放電容量Q2を測定した。
【0030】
電池厚み増加量=電池厚みL2−電池厚みL1・・・(1)
残存容量率=(放電容量Q2/放電容量Q1)×100・・・(2)
【0031】
【表1】
【0032】
上記表1から明らかなように、電池A1、A2は電池Z1〜Z9に比べて、ガス発生量が少なくなっているので、電池厚み増加量が少なくなり、また、残存容量率が高くなっていることが認められる。このように、電池A1、A2のガス発生量が少なくなっているのは、NaHPOやLiHPOは、正極上で発生するラジカルをトラップすることに起因するものと考えられる。ここで、NaHPOやLiHPOは酸性物質である。このため、正極活物質の不純物として残存する水酸化リチウムなどのアルカリ成分が、NaHPOやLiHPOの酸性物質により消費され、これによって、ガス発生が抑制されるとも考えられる。しかしながら、酸性物質であるHPOやHPOを添加した電池Z2、Z3は、HPO等がNaHPO等と比べて酸性度が高いにも関わらず、電池A1、A2よりガス発生量が多くなっている。このような結果から、ガス発生量の減少は、主として、NaHPO等が、正極上で発生するラジカルをトラップすることによるものと考えられる。
なお、正極の作成にあたり、正極活物質と導電剤と結着剤との混錬物にNaHPO粉末又はLiHPO粉末を添加し、かつ、乾燥以外の熱処理を行わないことにより、正極活物質粒子の表面にのみリン化合物を存在させることができる。正極活物質の表面にリン化合物が存在することで、正極上で発生するラジカルをトラップする効果が高まるものと考えられる。
【0033】
図1から明らかなように、NaHPOを添加した電池A1は、何も添加しない電池Z1と比べて、連続充電試験後1回目の放電において、放電電圧が低下していない。これに対して、HPOやHPOを添加した電池Z2、Z3は、電池A1と比べて、連続充電試験後1回目の放電において、放電電圧が大きく低下している。ここで、電池A1で用いたNaHPOは酸性度が低く(1.2質量%水溶液の状態でpH4.5程度である)、正極活物質と反応し難いため、正極活物質表面に抵抗層が形成され難い。したがって、NaHPOを添加することによる正極活物質の劣化が抑制できるため、電池A1は、電池Z1と同程度の放電電圧を維持することができたものと考えられる。これに対して、電池Z2、Z3で用いたHPOやHPOは酸性度が高く、正極活物質と反応し易いので、正極活物質表面に抵抗層が形成され易い。したがって、電池Z2と電池Z3は、正極活物質が劣化するため、電池A1と比較して放電電圧が低下したものと考えられる。
【0034】
また、NaHPO、NaPO、LiPO、又はNaを添加した電池Z4〜Z7は、電池A1およびA2と比べてガス発生の抑制効果は得られず、また、Mg(HPO・4HO、又はAl(HPOを添加した電池Z8、Z9についても、電池A1およびA2と比べてガス発生の抑制効果は、十分ではない。
以上の結果から、正極に添加する物質は、MHPO(Mはナトリウム又はリチウムである)で示されるリン酸塩が好ましいことがわかる。
【0035】
ここで、電池Z1〜Z9に比べて電池A1、A2の残存容量率が高くなる理由については明らかではないが、電池A1、A2は電池Z1〜Z9に比べて、ガス発生が少なくなるので、ガス発生部位で充放電できなくなるのを抑制できる、ということが1つの理由ではないかと考えられる。
尚、上述の如く、電池A1、A2に用いたリン酸塩は酸性度が余り高くない。したがって、正極スラリーを調製する際に用いられる機器(例えば、混錬機)が腐食するのを抑制できる。
【0036】
〔第2実施例〕
(実施例1)
正極スラリーの調製時に、NaHPOの添加量を0.05質量%としたこと以外は、電池A1と同様にして電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下、電池B1と称する。
【0037】
(実施例2)
正極スラリーの調製時に、NaHPOの添加量を0.02質量%としたこと以外は、電池A1と同様にして電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下、電池B2と称する。
【0038】
(実験1)
電池B1、B2を、上記第1実施例の実験と同様の条件で充放電等を行い、上記(1)式に示した電池厚み増加量と、上記(2)式に示した残存容量率とを調べたので、それらの結果を表2に示す。尚、表2では、電池A1、Z1の結果についても併せて示した。
【0039】
【表2】
【0040】
表2から明らかなように、NaHPOの添加量が多くなるにしたがって、電池厚み増加量が少なく、且つ、残存容量率が高くなっていることが認められる。
【0041】
(実験2)
電池A1、B2、Z2、Z3の交流インピーダンスを測定したので、その結果を図2に示す。尚、本実験は、上記実験1で示した連続充電試験前に、以下の条件で行った。
・充電条件
1.0It(800mA)の電流で、4.4Vまでで定電流充電を行い、更に、定電圧で電流1/20It(40mA)になるまで充電した。
・交流インピーダンス測定
振幅10mVで、周波数を1MHzから30mHzまで変化させた。
【0042】
図2から明らかなように、NaHPOの添加量が0.1質量%の電池A1は、NaHPOの添加量が0.02質量%の電池B2に比べて、インピーダンスが増大していることが認められる。
【0043】
実験1の結果から、NaHPOの添加量が少な過ぎると、電池厚み増加量の低減と残存容量率の向上とを十分に図れないことがわかった。実験2の結果から、NaHPOの添加量が多過ぎると、インピーダンスが増大することがわかった。したがって、正極活物質に対するリン酸塩(NaHPO)の割合は、0.001質量%以上であることが好ましく、特に0.02質量%以上であることが好ましい。また、正極活物質に対するリン酸塩(NaHPO)の割合は、2質量%以下であることが好ましく、特に、1質量%以下であることが好ましい。
【0044】
尚、図2から明らかなように、添加量が共に0.1質量%の電池A1、Z2、Z3を比較した場合には、電池A1は電池Z2、Z3に比べて、インピーダンスが低下している。したがって、インピーダンスの増大抑制という点からも、添加物としてNaHPOを用いるのが好ましい。
【0045】
〔第3実施例〕
(実施例1)
正極活物質として、LiCoO(Al及びMgがそれぞれ1.0mol%固溶されており、且つZrが0.05mol%表面に付着したもの)とLiNi0.5Co0.2Mn0.3との混合物を用いると共に、正極の充填密度を3.6g/ccとし、且つ、両正極活物質層の表面に下記の方法で多孔質層を形成したこと以外は、電池A1と同様にして電池C1を作製した。尚、正極スラリー調製時に、LiCoOと、LiNi0.5Co0.2Mn0.3と、ABと、PVDFとの質量比は、66.5:28.5:2.5:2.5とした。
【0046】
[電池C1の多孔質層の形成]
溶媒としての水と、フィラーとしてのアルミナ(住友化学社製、商品名AKP3000)と、水系バインダーとしてのSBR(スチレンブタジエンゴム)と、分散剤としてのCMC(カルボキシメチルセルロース)とを用いて、多孔質層形成のための水系スラリーを調製した。該水系スラリーを調製する際、フィラーの固形分濃度を20質量%とし、フィラー100質量部に対して水系バインダーが3質量部となるように添加し、フィラー100質量部に対してCMCが0.5質量部となるように添加した。水系スラリー調製時の分散機には、プライミクス製フィルミックスを用いた。次に、グラビア方式を用いて、両正極活物質層の表面に上記水系スラリーを塗工した後、溶媒である水を乾燥、除去して、両正極活物質層の表面に多孔質層を形成した。この多孔質層の厚みは、片面が2μm(両面の合計で4μm)となるように形成した。
【0047】
(実施例2)
両正極活物質層の表面に多孔質層を形成しなかったこと以外は、電池C1と同様にして電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下、電池C2と称する。
【0048】
(比較例1)
正極スラリーの調製時に、NaHPOを添加しなかったこと以外は、電池C1と同様にして電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下、電池Y1と称する。
【0049】
(比較例2)
正極スラリーの調製時に、NaHPOを添加しなかったこと以外は、電池C2と同様にして電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下、電池Y2と称する。
【0050】
(実験)
電池C1、C2、Y1、Y2を、上記第1実施例の実験と同様の条件で充放電等を行い、上記(1)式に示した電池厚み増加量と、上記(2)式に示した残存容量率とを調べたので、それらの結果を表3に示す。
【0051】
【表3】
【0052】
表3から明らかなように、共に正極活物質層の表面に多孔質層を形成した電池C1、Y1を比較すると、NaHPOを添加した電池C1は、NaHPOを添加していない電池Y1に比べて、電池厚み増加量が少なく、且つ、残存容量率が高くなっていることが認められる。したがって、正極活物質層の表面に多孔質層を形成した場合であっても、正極にNaHPOを添加するのが好ましい。
また、共に正極活物質層の表面に多孔質層を形成していない電池C2、Y2を比較すると、NaHPOを添加した電池C2は、NaHPOを添加していないY2に比べて、電池厚み増加量が少なく、且つ、残存容量率が高くなっていることが認められる。したがって、正極活物質としてニッケルを含む正極活物質を用いた場合であっても、正極にNaHPOを添加するのが好ましい。
【0053】
尚、正極活物質層の表面に多孔質層を形成した電池C1は、正極活物質層の表面に多孔質層を形成していない電池C2に比べて、電池厚み増加量が一層少なく、且つ、残存容量率がより高くなっていることが認められる。これは、正極活物質層の表面に多孔質層を形成すれば、正極上で発生した電解液の酸化分解物が、多孔質層でトラップされる。したがって、該酸化分解物が負極へ移動して、負極上で更に分解されるのを抑制できるからである。
【0054】
(その他の事項)
(1)MHPOで示されるリン酸塩において、Mはナトリウムやリチウムに限定されるものではなく、カリウム等であっても良い。
【0055】
(2)多孔質層は溶剤系スラリーと水系スラリーの、いずれを用いても電極上に塗工することはできる。但し、下地の正極活物質層は溶剤系(NMP/PVDF)で塗工されるのが一般的であるので、多孔質層を溶剤系で形成すると、下地のPVDFが膨潤し、電極厚みが増加する恐れがある、したがって、多孔質層は水系で塗工するのが好ましい。多孔質層のフィラーにはアルミナやチタニア、シリカ等の無機酸化物を用いることができる。水系バインダーの材質としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリアクリロニトリル(PAN)、スチレンブタジエンゴム(SBR)などや、その変性体及び誘導体、アクリロニトリル単位を含む共重合体、ポリアクリル酸誘導体などが好ましく用いられる。また、塗工時の粘度を調整する目的で、CMC等の増粘剤を用いることができる。
【0056】
(3)正極活物質としては、リチウムを吸蔵、放出でき、その電位が貴な材料であれば特に制限なく用いることができ、例えば、層状構造、スピネル型構造、オリビン型構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物を使用することができる。中でも、高エネルギー密度の観点から、層状構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物を用いるのが好ましい。このようなリチウム遷移金属複合酸化物としては、リチウム−ニッケルの複合酸化物、リチウム−ニッケル−コバルトの複合酸化物、リチウム−ニッケル−コバルト−アルミニウムの複合酸化物、リチウム−ニッケル−コバルト−マンガンの複合酸化物、リチウム−コバルトの複合酸化物等が挙げられる。
【0057】
特に、Al或いはMgが結晶内部に固溶されており、かつZrが粒子表面に固着したコバルト酸リチウムが、結晶構造の安定性の観点から好ましい。
また、高価なコバルトの使用量を低減する観点からは、正極活物質中に含まれる遷移金属に占めるニッケルの割合が40モル%以上であるリチウム遷移金属複合酸化物が好ましく、特に結晶構造の安定性の観点から、ニッケルとコバルトとアルミニウムとを含有したリチウム遷移金属複合酸化物が好ましい。
【0058】
(4)負極活物質としては、特に限定されるものではなく、非水電解質二次電池の負極活物質として用いることができるものであれば、いずれも使用することができる。具体的には、黒鉛及びコークス等の炭素材料、酸化錫等の金属酸化物、ケイ素及び錫等のリチウムと合金化してリチウムを吸蔵することができる金属、金属リチウム等が挙げられる。中でも黒鉛系の炭素材料は、リチウムの吸蔵、放出に伴う体積変化が少なく、可逆性に優れることから好ましい。
【0059】
(5)非水電解質の溶媒としては、従来から非水電解質二次電池の電解質の溶媒として用いられているものを使用することができる。これらの中でも、環状カーボネートと鎖状カーボネートとの混合溶媒が特に好ましく用いられる。この場合、環状カーボネートと鎖状カーボネートとの混合比(環状カーボネート:鎖状カーボネート)を、1:9〜5:5の範囲内とすることが好ましい。
上記環状カーボネートとしては、エチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート等が挙げられる。上記鎖状カーボネートとしては、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジエチルカーボネート等が挙げられる。
【0060】
(6)非水電解質の溶質としては、LiPF、LiBF、LiCFSO、LiN(SOF)、LiN(SOCF、LiN(SO、LiC(SOCF、LiC(SO3、LiClO等や、それらの混合物が例示される。
(7)電解質として、ポリエチレンオキシドやポリアクリロニトリル等のポリマーに、電解液を含浸したゲル状ポリマー電解質を用いてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明は、例えば携帯電話、ノートパソコン、PDA等の移動情報端末の駆動電源や、HEVや電動工具といった高出力向けの駆動電源に展開が期待できる。
図1
図2