(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
軸線の方向に延びる軸孔を有する絶縁体と、前記軸孔の一端側で保持される中心電極と、前記軸孔の他端側で保持される端子金具と、前記軸孔内で前記中心電極と前記端子金具とを電気的に接続する電気的接続部と、前記絶縁体を収容する主体金具と、を備えたスパークプラグにおいて、
前記電気的接続部は、導電物と、1種以上のFe含有酸化物と、を含む導電体を有し、
前記Fe含有酸化物は、少なくともFeOを含み、
前記軸線を含む断面において、前記導電体のうち前記導電物が占める面積をS1とし、前記Fe含有酸化物が占める面積をS2としたとき、0.06≦S1/(S1+S2)≦0.46の関係を満たす、ことを特徴とするスパークプラグ。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、発明者らは、軸孔内において中心電極と端子金具との間を電気的に接続する導電部材の材質等について、高周波ノイズを低減するために更なる工夫の余地があることを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、以下の形態として実現することが可能である。
【0008】
(1)本発明の一形態によれば、軸線の方向に延びる軸孔を有する絶縁体と、前記軸孔の一端側で保持される中心電極と、前記軸孔の他端側で保持される端子金具と、前記軸孔内で前記中心電極と前記端子金具とを電気的に接続する電気的接続部と、前記絶縁体を収容する主体金具と、を備えたスパークプラグが提供される。前記電気的接続部は、導電物と、1種以上のFe含有酸化物と、を含む導電体を有し;前記Fe含有酸化物は、少なくともFeOを含み;前記軸線を含む断面において、前記導電体のうち前記導電物が占める面積をS1とし、前記Fe含有酸化物が占める面積をS2としたとき、0.06≦S1/(S1+S2)≦0.46の関係を満たす、ことを特徴とする。
このスパークプラグによれば、Fe含有酸化物によって高周波ノイズを低減することができる。また、FeOは高温で比較的安定なので、Fe含有酸化物の中にFeOが存在すれば、Fe含有酸化物の経時劣化を抑制することができる。更に、Fe含有酸化物と導電物の面積比S1/(S1+S2)を0.06以上にすることによって抵抗値が過度に大きくなることを防止でき、また、0.46以下にすることによってFe含有酸化物による高周波ノイズの低減効果を十分に確保できる。
【0009】
(2)上記スパークプラグにおいて、前記導電体は、更に、アルカリ金属の酸化物と、Si(シリコン),B(ホウ素),P(リン)の一種以上の元素の酸化物とを含有するアルカリ含有相を含むものとしてもよい。
このスパークプラグによれば、導電体にアルカリ金属が含まれることにより、Si,B,Pの一種以上の元素の酸化物からなるガラスが、低粘性化及び低融点化し、導電体中の空孔を埋めやすくなり、導電体を緻密化させるので、ノイズの低減効果を高くすることができる。
【0010】
(3)上記スパークプラグにおいて、前記導電体における前記アルカリ金属の割合が、酸化物換算で0.5重量%以上6.5重量%以下の範囲にあるものとしてもよい。
このスパークプラグによれば、アルカリ金属成分がFe含有酸化物と反応を起こしてFe含有酸化物を減少させてしまう可能性を低減でき、また、アルカリ金属を含む相にクラックが発生することを抑制できる。
【0011】
(4)上記スパークプラグにおいて、前記Fe含有酸化物は、前記FeO以外に少なくともフェライトを含むものとしてもよい。
このスパークプラグによれば、フェライトがインダクタンス成分としての効果が大きいので、高周波ノイズの低減効果を高めることができる。
【0012】
(5)上記スパークプラグにおいて、前記Fe含有酸化物のうち前記FeOの割合が、0.8重量%以上5.2重量%以下の範囲にあるものとしてもよい。
FeOの含有割合を0.8重量%以上とすれば、Fe含有酸化物の経時劣化の抑制効果を高めることができ、また、5.2重量%以下とすれば、フェライトによるノイズ低減効果を十分に確保することができる。
【0013】
(6)上記スパークプラグにおいて、前記導電体は、Cuを含有し、前記Cuは、2価のCuの酸化物換算で0.03重量%以上5.4重量%以下含有されるものとしてもよい。
このスパークプラグによれば、導電体にCu成分を添加することにより、ノイズ低減効果及び耐久性を向上させることができる。
【0014】
(7)上記スパークプラグにおいて、前記電気的接続部は、更に:前記中心電極に接する位置に配置された導電性の第1シール層と;前記端子金具に接する位置に配置された導電性の第2シール層と;導電性材料とガラスとを含む抵抗体と;を含み;前記導電体と前記抵抗体は、前記第1シール層と前記第2シール層との間に配置されており;前記端子金具と前記中心電極との間の抵抗値が、3kΩ以上20kΩ以下の範囲にあるものとしてもよい。
このスパークプラグによれば、抵抗体によるノイズ低減効果も得られるため、ノイズ低減効果を更に向上させることができる。
【0015】
なお、本発明は、種々の態様で実現することが可能である。例えば、スパークプラグ、スパークプラグの製造方法、スパークプラグの製造装置、製造システム等の形態で実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
A.スパークプラグの構成
図1は、本発明の第1実施形態としてのスパークプラグ1の全体構成を示す説明図である。
図1の下側(発火部側)をスパークプラグ1の先端側と呼び、上側(端子側)を後端側と呼ぶ。このスパークプラグ1は、軸線Oの方向に延在する軸孔2を有する絶縁体3と、軸孔2の先端側で保持される中心電極4と、軸孔2の後端側で保持される端子金具5と、軸孔2内で中心電極4と端子金具5とを電気的に接続する電気的接続部60と、絶縁体3を収容する主体金具7と、一端が主体金具7の先端面に接合されると共に他端が中心電極4と間隙を介して対向するように配置された接地電極8とを備える。
【0018】
主体金具7は、略円筒形状を有しており、絶縁体3を収容して保持するように形成されている。主体金具7における先端方向の外周面にはネジ部9が形成されており、このネジ部9を利用して図示しない内燃機関のシリンダヘッドにスパークプラグ1が装着される。
【0019】
絶縁体3は、主体金具7の内周部に滑石10及びパッキン11を介して保持されている。絶縁体3の軸孔2は、軸線Oの先端側で中心電極4を保持する小径部12と、電気的接続部60を収容し、小径部12の内径よりも内径が大きい中径部14とを有する。また、小径部12と中径部14との間に後端側に向かって拡径するテーパ状の第一段部13を有する。
【0020】
絶縁体3は、絶縁体3における先端方向の端部が主体金具7の先端面から突出した状態で、主体金具7に固定されている。絶縁体3は、機械的強度、熱的強度、電気的強度等を有する材料であることが望ましく、このような材料として、例えば、アルミナを主体とするセラミック焼結体が挙げられる。
【0021】
中心電極4は、小径部12に収容され、第一段部13に中心電極4の後端に設けられた径大のフランジ部17が係止され、先端が絶縁体3の先端面から突出した状態で主体金具7に対して絶縁保持されている。中心電極4は、熱伝導性及び機械的強度等を有する材料で形成されることが望ましく、例えば、インコネル(商標名)等のNi基合金で形成される。中心電極4の軸心部は、Cu又はAgなどの熱伝導性に優れた金属材料により形成されてもよい。
【0022】
接地電極8は、一端が主体金具7の先端面に接合され、途中で略L字に曲げられて、その先端部が中心電極4の先端部と間隙を介して対向するように形成されている。接地電極8は、中心電極4を形成する材料と同様の材料により形成される。
【0023】
中心電極4と接地電極8とが対向する面には、白金合金及びイリジウム合金等により形成される貴金属チップ29,30が設けられている。各貴金属チップ29,30の間に火花放電間隙gが形成されている。なお、中心電極4及び接地電極8の一方又は両方の貴金属チップを省略してもよい。
【0024】
端子金具5は、中心電極4と接地電極8との間で火花放電を行なうための電圧を外部から中心電極4に印加するための端子である。端子金具5の先端部20は凹凸状の表面を備え、この態様においては先端部20の外周面にローレット加工が施されている。先端部20の表面がローレット加工により形成された凹凸構造を有すると、端子金具5と電気的接続部60との密着性が良好になり、その結果、端子金具5と絶縁体3とが強固に固定される。端子金具5は、例えば、低炭素鋼等で形成され、その表面にNi金属層がメッキ等で形成されている。
【0025】
電気的接続部60は、軸孔2内で中心電極4と端子金具5との間に配置され、中心電極4と端子金具5とを電気的に接続する。電気的接続部60は、導電体63を有しており、この導電体63により電波ノイズの発生を防止する。電気的接続部60は、更に、導電体63と中心電極4との間に第1シール層61を有し、また、導電体63と端子金具5との間に第2シール層62を有する。第1シール層61と第2シール層62とは、絶縁体3と中心電極4、また絶縁体3と端子金具5とを封着固定している。
【0026】
第1シール層61及び第2シール層62は、ホウケイ酸ソーダガラス等のガラス粉末と、Cu、Fe等の金属粉末とを含むシール粉末を焼結して形成することができる。第1シール層61及び第2シール層62の抵抗値は、通常数100mΩ以下である。
【0027】
導電体63は、後に詳述するように、導電物と、1種以上のFe含有酸化物と、を含んでいる。なお、導電物で形成された相及びFe含有酸化物で形成された相を、それぞれ「導電物相」及び「Fe含有酸化物相」と呼ぶことも可能である。導電物は、センダストやパーマロイ等の合金粉末、W(タングステン)等の金属粉末、及び、カーボンブラック等の各種の粉末状導電材料から選ばれた一種以上の粉末状導電材料を焼成したものである。Fe含有酸化物は、FeO、Fe
2O
3、及び、各種のフェライトから選ばれた一種以上のFe含有酸化物粉末を焼成したものである。
【0028】
すなわち、導電体63は、導電物を形成する粉末状導電材料と、Fe含有酸化物を形成する粉末材料とを混合し、焼結することによって形成される。導電物とFe含有酸化物とを含む導電体63を設けることによって、放電時の高周波ノイズを低減することができる。導電物とFe含有酸化物を形成するための好ましい材料は、例えば以下の通りである。
【0029】
<好ましい導電物の材料>
導電体63の導電物を構成する導電物材料としては、例えば、センダスト,パーマロイ,Fe−Ni合金,ケイ素鉄,TiC(炭化チタン),WC(炭化タングステン)等の合金の粉末、W(タングステン)粉末,Fe(鉄)粉末,Ni(ニッケル)粉末,Mo粉末等の金属粉末、カーボンブラック、及び、カーボンファイバー等のカーボン材料等の各種の粉末状導電材料から選ばれた一種以上の粉末状導電材料を使用することができる。このような導電物を設けることにより、導電体63の抵抗値を過度に大きくすることなく、適切な抵抗値(例えば約100〜500Ω)に設定することが可能である。
【0030】
<好ましいFe含有酸化物の材料>
導電体63のFe含有酸化物材料としては、例えば、FeO,Fe
2O
3,及び、Mn−ZnフェライトやNi−Znフェライト等の各種のフェライトから選ばれた一種以上のFe酸化物の粉末を使用することができる。特に、フェライトは強磁性でありインダクタンス成分としての効果が大きい。
【0031】
なお、Fe含有酸化物は、少なくともFeOを含むことが好ましい。FeOは高温で比較的安定なので、Fe含有酸化物中にFeOが存在すると、Fe含有酸化物の経時劣化を抑制する効果がある。特に、Fe含有酸化物中にFe
2O
3が含まれている場合には、高温状態ではFe
2O
3が還元されてFeOに変化する傾向があるが、Fe含有酸化物中にFeOが存在するとこのような還元反応を抑制することが可能である。
【0032】
Fe含有酸化物がフェライトを含む場合には、Fe含有酸化物におけるFeOの割合が、0.8重量%以上5.2重量%以下の範囲にあることが好ましい。FeOの割合を0.8重量%以上とすれば、Fe含有酸化物の経時劣化の抑制効果を高めることができ、また、5.2重量%以下とすれば、フェライトによるノイズ低減効果を十分に確保することができる。
【0033】
なお、導電体63の断面の観察により得られる導電物の面積をS1とし、Fe含有酸化物の面積をS2としたとき、0.06≦S1/(S1+S2)≦0.46の関係を満たすことが好ましい。面積比P1/(S1+S2)を0.06以上にすることによって抵抗値が過度に大きくなることを防止でき、また、0.46以下にすることによってFe含有酸化物による高周波ノイズの低減効果を十分に確保できる。
【0034】
導電体63は、更に、アルカリ金属の酸化物と、Si(シリコン),B(ホウ素),P(リン)の一種以上の元素の酸化物とを含有するアルカリ含有相を含むことが好ましい。アルカリ金属としては、例えばNa(ナトリウム),K(カリウム),Li(リチウム)などが挙げられる。このアルカリ含有相は、典型的にはホウケイ酸ソーダガラス等のガラスの形態を取り得る。より詳しく言えば、このアルカリ含有相は、ガラス化した後に再結晶したものであることが好ましい。
【0035】
本明細書において「ガラス」という用語は、このようにガラス成分が結晶化したものを含む広い意味を有する。導電体63にアルカリ金属が含まれることにより、Si(シリコン),B(ホウ素),P(リン)の一種以上の元素の酸化物からなるガラスが、低粘性化及び低融点化し、導電体63中の空孔を埋めやすくなる。すなわち、アルカリ含有相は、導電体63に形成され得る多数の空孔を埋めて緻密化させるので、ノイズの低減効果を高くすることができる。
【0036】
なお、導電体63におけるアルカリ金属の含有割合は、酸化物換算で0.5重量%以上6.5重量%以下の範囲にあることが好ましい。ガラスなどに含まれるアルカリ金属成分は、徐々にFe含有酸化物と反応を起こして、LiFe
5O
8、LiFeO
2、Na
2Fe
2O
4、KFeO
2、KFe
11O
17などの化合物に変化してゆく可能性がある。これらの化合物が形成されると、Fe含有酸化物が減少してそのノイズ低減効果を経時的に低下させる原因となる可能性がある。
【0037】
また、アルカリ金属の含有割合を、酸化物換算で6.5重量%以下とすれば、このような反応によってFe含有酸化物が劣化してしまう可能性を低減できる。また、アルカリ金属が過度に少ないと、導電体63の作成時にガラスが溶けず、導電体63に層状クラックが発生してしまう可能性がある。アルカリ金属の含有割合を、酸化物換算で0.5重量%以上とすれば、このようなクラックの発生を抑制することができる。
【0038】
また、導電体63は、2価のCuの酸化物換算でCuを0.03重量%以上5.4重量%以下含有するようにしてもよい。導電体63にCu成分を添加することにより、ノイズ低減効果及び耐久性が向上するという効果がある。但し、酸化物換算で0.03重量%未満だとCu添加の効果が十分得られない可能性があり、5.4重量%より多いと過剰添加によりノイズ低減効果が却って低下する可能性がある。
【0039】
図2は、本発明の第2実施形態としてのスパークプラグ1aの全体構成を示す説明図である。
図1に示した第1実施形態のスパークプラグ1との違いは、第2実施形態のスパークプラグ1aの電気的接続部60aが、第1シール層61と第2シール層62と導電体63の他に、抵抗体64を有している点だけであり、他の構成は第1実施形態と同じである。
【0040】
抵抗体64は、例えば、ホウケイ酸ソーダガラス等のガラス粉末、ZrO2等のセラミック粉末、カーボンブラック等の非金属導電性粉末、及び/又は、Zn、Sb、Sn、Ag、Ni等の金属粉末等を含有する抵抗体組成物を焼結して形成された抵抗材により形成することができる。導電体63に加えて抵抗体64も設けるようにすれば、抵抗体64によるノイズ低減効果も得られるため、ノイズ低減効果を更に向上させることができる。
【0041】
なお、
図1及び
図2において、電気的接続部60の第1シール層61と第2シール層62の一方又は両方を省略してもよい。但し、これらのシール層61,62は、導電体63(及び抵抗体64)とその両端にある端子金具5及び中心電極4との間の熱膨張係数差を緩和できるので、より強固な接続状態を得ることができる。なお、端子金具5と中心電極4との間の抵抗値は、ノイズ低減効果の観点から、例えば3.0kΩ以上20.0kΩ以下の範囲とすることが好ましい。この抵抗値は、端子金具5と中心電極4との間に、例えば12Vの電圧を印加した時の測定値である。
【0042】
B.電気的接続部の形成方法
図3は、スパークプラグ1の電気的接続部60の形成方法を示すフローチャートである。工程T110では、平均粒径が0.5〜8.0μmの粉末状導電材料と、平均粒径が0.5〜15μmのFe含有酸化物粉末とを粉砕混合する。この際、ホウケイ酸ソーダガラス等のガラス粉末やガラス原料(珪砂、ソーダ、石灰石、ホウ砂等)などのSi,B,P及びアルカリ金属を含む粉末材料を混合してもよい。この粉砕混合は、例えばZrO
2製の玉石が投入された樹脂ポットに、溶媒としてのアセトンと有機バインダーを、粉末状導電材料及びFe含有酸化物粉末と共に投入した状態で実施する。
【0043】
工程T120では、このようにして準備された粉末混合物を金型に投入し、30〜120MPaの圧力で円柱状に成形する。工程T130では、この成形体を、850〜1350℃の範囲で焼成することによって、導電体63を形成する。
【0044】
工程T140では、絶縁体3の軸孔2内に中心電極4を挿入する。工程T150では、第1シール層61を形成するシール粉末材料と、導電体63と、第2シール層62を形成するシール粉末材料と、をこの順に絶縁体3の軸孔2の後端側から充填し、プレスピンを軸孔2内に挿入して圧縮する。なお、
図2のように、電気的接続部60aが抵抗体64を含む場合には、抵抗体64を形成するための粉末材料を工程T150において充填する。
【0045】
工程T160では、絶縁体3の軸孔2内に端子金具5を挿入し、端子金具5によって軸孔2内に充填された材料を先端側に向かって押圧しながら、絶縁体3全体を加熱炉内に配置して700〜950℃の所定温度に加熱し、焼成する。この結果、第1シール層61と第2シール層62が焼結し、これらの間に導電体63(及び抵抗体64)が封着固定される。
【0046】
工程T150の後は、中心電極4及び端子金具5等が固定された絶縁体3が、接地電極8が接合された主体金具7に組み付けられる。そして、最後に、接地電極8の先端部を中心電極4側に折り曲げることによって、スパークプラグ1の製造が完了する。
【実施例】
【0047】
図4Aは、本発明の実施例としてのスパークプラグのサンプルP01〜P23の構成を示す図であり、
図4Bは、比較例としてのスパークプラグのサンプルP31〜P35の構成を示す図である。これらの図の左側の欄には、各サンプルで使用したFe含有酸化物を形成するFe含有酸化物の種類及びその占有面積率S2と、導電物を形成する導電物の種類及びその占有面積率S1と、面積比S1/(S1+S2)とが示されている。
【0048】
占有面積率S1,S2は以下のようにして求めた。まず、
図3の工程T110〜T130に従って作成された導電体63を鏡面研磨し、軸線Oを含む位置の断面にて電子プローブ・マイクロアナライザー(EPMA)により500μm×500μmの反射電子像を10視野で撮影した。また、EPMA分析においてFe(鉄)及びO(酸素)が検出される部分をFe含有酸化物とみなし、O(酸素)が未検出の部分(空孔を除く)を導電物とみなして、画像解析を行い、それぞれの占有面積率S1,S2を算出した。
【0049】
図4A,
図4Bには、導電体63に含まれるアルカリ金属含有量(重量%)と、Cu含有量(重量%)と、FeO含有量(重量%)と、プラグ抵抗値(kΩ)も示されている。アルカリ金属含有量は、酸化物換算値である。また、Cu含有量は、2価のCuの酸化物換算値である。アルカリ金属含有量とCu含有量の値は、導電体63を粉砕した試料を用いたICP発光分光分析を10回行って得られた含有量の平均値を用いた。
【0050】
なお、FeOであることの識別は、X線回折及びEPMAによる組成分析により行った。フェライトとFeOとを含むサンプルに関して、両者の識別は導電体63の研磨面のXPS分析(X線光電子分光分析)により行った。XPS分析は、電圧15kV、出力25W、測定領域φ15μmの条件にて行った。FeO含有量の値は、導電体63の研磨面の20箇所についてXPS分析を行って得られた含有量の平均値を用いた。プラグ抵抗値(kΩ)は、スパークプラグ1の端子金具5と中心電極4との間の抵抗値である。
【0051】
なお、
図4A,4Bの右端には、電気的接続部60が、導電体63と抵抗体64を含むか否かが示されている。導電体63及び抵抗体64の欄の「○」は、その部材を含んでいることを示しており、「×」はその部材を含んでいないことを示している。
【0052】
図5A,5Bは、
図4A,4Bに示したサンプルP01〜P23,P31〜P35について、放電耐久試験前後のノイズ試験の結果を示している。放電耐久試験は、スパークプラグ1を放電電圧10kVで100時間放電させることによって実施した。ノイズ試験は、JASO D−002−2(日本自動車技術会伝送規格D−002−2)の「自動車−電波雑音特性−第2部 防止器の測定方法 電流法」に従って行った。
【0053】
また、高周波ノイズの測定対象としては、30MHz,100MHz,200MHzの3種類の周波数のノイズを対象とした。なお、
図5A,5Bでは、図示の便宜上、
図4A,4Bに示した占有面積率R1,R2の値と、電気的接続部60の構成の記載を省略している。
【0054】
図4A,4B,5A,5Bに示す試験結果から、以下のことが理解できる。
(1)実施例のサンプルP01〜P23は、いずれも導電物とFe含有酸化物を含む導電体63を用いており、また、Fe含有酸化物はFeOを含んでいる。これらのサンプルP01〜P23では、放電耐久性試験前のノイズが高々55dBであって過度に大きくなく、十分なノイズ低減効果が得られている。また、放電耐久試験後においても、ノイズはそれほど増加しておらず、十分なノイズ低減効果を維持することができる。
【0055】
なお、サンプルP01〜P23において、Fe含有酸化物の面積比S1/(S1+S2)が、0.06以上0.46以下の範囲にある。この範囲にあれば、抵抗値が過度に大きくなることを防止でき、また、Fe含有酸化物による高周波ノイズの低減効果を十分に確保できる。なお、面積比S1/(S1+S2)の範囲は、0.07以上0.24以下とすることが更に好ましく、0.08以上0.11以下とすることが最も好ましい。
【0056】
(2)比較例のサンプルP31〜P35のうちで、電気的接続部60に導電体63を含まないサンプルP31,P34では、放電耐久試験前のノイズが80dB以上と大きく、ノイズ低減効果が不十分である。サンプルP32,P33は、電気的接続部60に導電体63を含んでいるが、放電耐久試験後にノイズが大きく増加している点で好ましくない。
【0057】
この理由は、サンプルP32,P33では、Fe含有酸化物にFeOが含まれていないので、Fe含有酸化物が経時劣化してしまったものと推定される。すなわち、放電耐久試験において電気的接続部60が高温になると、Fe含有酸化物中のFe
2O
3が還元されてFeOに変化してしまい、これに伴ってノイズ低減効果が低下したものと推定される。
【0058】
また、サンプルP32,P33は、プラグ抵抗値が20kΩを超えている点でも好ましくない。比較例のサンプルP35は、プラグ抵抗値が無限大となって好ましくない。この理由は、Fe含有酸化物の面積比S1/(S1+S2)が0.05と過度に小さいので、プラグ抵抗値が過度に大きくなってしまったものと推定される。この意味では、面積比S1/(S1+S2)を0.06以上とすることが好ましい。
【0059】
(3)実施例のサンプルP06〜P23は、導電体63がアルカリ金属を含有している点で、アルカリ金属を含有していないサンプルP01〜P05よりも好ましい。なお、サンプルP06〜P23の導電体63には、Si(シリコン),B(ホウ素)及びP(リン)も含んでいることが確認された。
【0060】
サンプルP06〜P23は、放電耐久試験前のノイズがサンプルP01〜P05よりも低く、この違いは、アルカリ金属とSi,B,P等の元素の有無に依るものと推定される。これらの元素は、主に、導電体63の空孔を埋めるガラス成分に含まれているものと考えられる。導電体63に形成され得る空孔がガラスによって充填されることにより、導電体63が緻密化されるので、ノイズ低減効果を向上させるものと推定される。
【0061】
(4)サンプルP09〜P23は、アルカリ金属含有量(酸化物換算値)が0.5重量%以上で6.5重量%以下であり、アルカリ金属含有量が0.2重量%以下又は6.6重量%以上であるサンプルP06〜P08よりもノイズが小さい点で好ましい。アルカリ金属含有量の範囲は、1.6重量%以上6.4重量%以下とすることが更に好ましく、1.6重量%以上5.2重量%以下とすることが最も好ましい。
【0062】
(5)サンプルP12〜P23は、Fe含有酸化物がフェライトを含んでおり、フェライトを含まないサンプルP01〜P11よりもノイズが小さい点で好ましい。また、サンプルP12〜P23は、導電体63におけるFeO含有量(酸化物換算値)が0.8重量%以上で5.2重量%の範囲にある点でも好ましい。
【0063】
FeO含有量を0.8重量%以上とすれば、Fe含有酸化物の経時劣化の抑制効果を高めることができる。また、FeO含有量を5.2重量%以下とすれば、フェライトによるノイズ低減効果を十分に確保することができる。FeO含有量の範囲は、1.1重量%以上3.7重量%以下とすることが更に好ましく、1.3重量%以上2.2重量%以下とすることが最も好ましい。
【0064】
(6)サンプルP16〜P23は、導電体63におけるCu含有量(2価のCuの酸化物換算値)が0.03重量%以上5.4重量%以下の範囲にあり、Cu含有量がこれらの範囲外にあるサンプルP01〜P15よりもノイズが更に小さい点で好ましい。Cu含有量の範囲は、1.8重量%以上4.9重量%以下とすることが更に好ましい。
【0065】
(7)サンプルP20〜P23は、実施例の全サンプルP01〜P23の中で、特にノイズが小さく、また、放電耐久試験後もノイズがほとんど増大しない点で最も好ましい。サンプルP20〜P23の結果を考慮すれば、各種のパラメータの最も好ましい範囲の組合せは以下の通りである。
[1] Fe含有酸化物の面積比S1/(S1+S2):0.08以上0.11以下
[2] 導電体63中のアルカリ金属含有量(酸化物換算値):1.6重量%以上5.2重量%以下
[3] 導電体63中のCu含有量(2価のCuの酸化物換算値):1.8重量%以上4.9重量%以下
[4] 導電体63中のFeO含有量:1.3重量%以上2.2重量%以下
[5] プラグ抵抗値:3.0kΩ以上20kΩ以下
【0066】
C.変形例
なお、この発明は上記の実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能である。
【0067】
・変形例1:
スパークプラグとしては、
図1,
図2に示したもの以外の種々の構成を有するスパークプラグを本発明に適用することが可能である。