【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明によればこの課題は、カルシウム化合物および/またはマグネシウム化合物を含有する粉末状で反応性の少なくとも1種の固形物を含んでおり、水性液体との混合の際または水性液体中への投入後に硬化して固体になるペースト、懸濁液、または分散液の形の、少なくとも1種の成分から成る水硬性セメントをベースとするインプラント材料によって解決される。その際、本発明によれば、この少なくとも1種の成分は固形物および担体液を含んでおり、この担体液は実質的に無水であり、かつ化学的な意味で水と混合不能である。本発明によれば、ペースト、懸濁液、または分散液の稠度は、標準状態下では工作用粘土塊(kneadable mass)の稠度を超えない。
【0018】
カルシウム化合物および/またはマグネシウム化合物を含有する粉末状で反応性の固形物は、水性液体との混合の際または水性液体中への投入後に水硬性セメント反応において硬化して固体になり得る固形物である。
【0019】
第1の液体中にミネラルおよび/または有機および/または有機ミネラル性固形物を含む1種または複数のペースト、懸濁液、または分散液の形の本発明によるインプラント材料は、ペースト、懸濁液、または分散液が、標準状態(標準状態の定義は25℃および101.3kPa)では比較的長期間にわたって貯蔵安定性であるように、かつペースト、懸濁液、または分散液が、水性の第2の液体と合わせる際または水性の第2の液体中への投入後に、セメント様の硬化反応において反応し、硬化して固体になるように処方される。その際、第1の液体、つまりミネラル性ペースト、懸濁液、または分散液の担体液は実質的に無水であり、かつ化学的な意味で水と混合不能であるか、または水に溶けない、もしくは少ししか溶けない。
【0020】
化学的な意味で水と混合可能とは、担体液が水中に分子レベルで均質に分布することを意味しており、したがって分子は、水との混合において個々の分子として存在している。これには例えばグリセリン、低分子の一価および二価のアルコール、アセトン、液体ポリエチレングリコールなどが該当する。その反対は、化学的な意味で水と混合不能な液体および/または水に少ししか溶けない液体である。その例は典型的な油である(俗に油と呼ばれる液体は、単一クラスの物質ではないが)。本発明の意味における可溶性の境界として、担体液の水中での最大可溶性を25%とする。なぜならこの値で、可溶液体と不溶液体がうまく区別されるからである。実際には、特許請求した液体の可溶性はもっと低い。物理的に混合可能な場合は、液体が分子レベルで分布するのではなく、混合された液体が集合体として、例えば一方の液体がもう一方の液体の連続相中に小滴として存在しているので、化学的に混合可能であることと物理的に混合可能であることとは明確に区別することができる。典型的な例は、水中の油のエマルジョンおよびその逆である。
【0021】
液体の混合可能性は、周囲条件、特に温度によって大きく左右される。本発明の意味においては、本発明による製品の用途にとって重要な条件が、標準的な周囲条件であり、それは一般的に標準状態と呼ばれる25℃および101.3kPaの値である。
【0022】
本発明によれば、ペースト、懸濁液、または分散液は標準状態下では工作用粘土塊の稠度を超えない。いずれの場合でも、どの担体液を分散剤として使用したか、分散された固形物がどのような組成、粒度、粒子形状、および濃度で存在するか、またはさらなる添加物質によってどの程度まで稠度が狙い通りに調整されたかに応じて、得られるペースト、懸濁液、または分散液が、標準状態下で液状乃至ペースト状の稠度を有することが特徴である。
【0023】
その際、少なくとも1種の成分の範囲は、比較的希薄な分散型塗料の稠度から、高い構造粘性をもつペースト、工作用粘土塊(kneading mass)、およびパテの稠度にまで及ぶ。その際、例えば分散型塗料が非常に高い固形物含有率を有し得るにもかかわらず比較的低い粘度を有するという事実が示すように、分散した固形物の濃度は稠度にしか影響を及ぼすことができない。本発明による、界面活性剤が添加された希薄な油(例えばMiglyol812)中のリン酸カルシウムセメントの分散液についても同様であり、この分散液は、75%を超える固形物含有率でも、徹底的に粉砕することでシロップの稠度に調整することができる。したがって本発明の実施形態を限定することはなく、分散液の稠度は、とりわけ2成分系としての使用および2チャンバ・シリンジ内での使用が企図される場合は、シロップまたは練り歯磨きの稠度に調整することが好ましい。シリンジを用いて吐出すべき1成分系として分散液を企図する場合にも、これに匹敵する稠度を選択することが好ましい。開放的な形で適用すべき1成分系として分散液を企図する場合には、かなり高い粘度を選択することが好ましい。医療領域では、例えば骨ロウの使用、または開放的植込みの際の骨充填物質としての使用の場合がそうであり得る。この場合、必要に応じて強い構造粘性を有する高い粘度が特に好ましい。稠度を具体的に示す比較材料は、塑造材料、工作用粘土、パテなどである。
【0024】
本発明の核心は、無水で、かつ化学的な意味では水と混合不能な反応性のミネラルまたは有機ミネラル性担体液中のセメント成分の処方である。本発明によれば、担体液は水に溶けない、もしくは少ししか(25%未満)溶けない、または水が少ししか(25%未満)担体液に溶けない。(有機)ミネラル粉末は、この非水性液体中での最終的な混合において懸濁されてペーストになることが好ましく、粉末が細かく分散しており、かつ適切な担体液が選択されていれば、この形で貯蔵がきく。場合によっては、分散液の安定性を永久に保証するために、セメントに応じて特殊な製造工程および措置、特に徹底的な粉砕、界面活性剤の添加、ポリマーの添加などが有意義である。
【0025】
無水で水と混合不能な液体中に分散され、水で硬化可能な反応性固形物は、得られたペースト、懸濁液、または分散液を適切な水溶液と混合するか、または水性液体中に投入するとすぐに反応する。無水で水と混合不能な液体中に分散した固形物は、この固形物と水が相互に反応し得る前に、まず水相中に入り込まなければならないので、この事実は特に意外である。その際、硬化反応用の媒体および/または反応相手としての水溶液の組成は、2成分系の場合、従来のセメントの混合でも使用される組成に基づいている。しかし原理的には、水溶液の組成はほぼ自由に、例えば好ましい硬化速度が得られるように溶解する物質の濃度を調整することによって、所期の使用目的に合わせることができる。重要なのはむしろ、使用した水硬性セメントの成分のうち、水と(または水と相互に、もしくは水中で相互に)反応する全ての成分が、無水で水と混合不能な液体中に分散されていることである。したがってセメントの他の全ての成分は、水溶液中に含まれていてもよく、または水溶液中に含み得ることが好ましい。これに対応して、2成分型において水溶液を第2のペーストの稠度にすることができる。
【0026】
一般的に既知のミネラル反応系または有機ミネラル反応系、ならびに水硬性セメントをベースとするインプラント材料は、硬化反応用の媒体および/または反応相手として水を必要とする。多くの場合、粉末/液体系における典型的な液体は、水のほかに、さらに溶解または懸濁した有機または無機の物質を含んでおり(あるいはこの有機または無機の物質が、水と接触した場合に非常に迅速に粉末成分から溶け出し、したがってこの物質は実際には混合直後に自由な状態にある)、この物質が、硬化反応のキネティクス、硬化生成物の結晶構造、液体またはセメントペーストの粘度、浸潤挙動および混合挙動などに影響を及ぼす。本発明によれば、全ての粉末成分か、または粉末成分のうちの少なくとも水溶液と反応し得る、もしくは水溶液中で相互に反応し得る全ての成分が、水と化学的な意味では混合不能な非水性担体液中で分散されてペーストとなり、このペースト中でこれらの粉末成分は比較的長期間、特に6カ月を上回り、好ましくは2年
超の間、標準状態下で貯蔵安定性がある。原理的に、反応性の有機ミネラル性セメント成分を、水を配合する溶液中に配合するには、適切な安定剤の選択または極端なpH値によってその反応性を阻害することで、セメント成分をほぼ非反応性に保つようにするしかない。しかしそのような措置は、本発明のコンセプトにそぐわず、特に、骨のミネラル化を妨げる可能性がある安定剤も許容できず、酸領域またはアルカリ領域での極端なpH値も許容できない医療用インプラント材料としての使用にそぐわない。したがって本発明によれば、とりわけその原理的な設計において有機ミネラル反応系として様々な種類のインプラント材料に普遍的に適用可能な新式の処方を記述するために、有機ミネラルペーストの製造に関し、実質的に無水の担体液だけが考慮される。
【0027】
ペースト、懸濁液、または分散液を製造するのに必要な担体液をできるだけ少なくすることで、インプラント材料を個々の用途に応じて処方するための相応に大きな自由度を得ることが開発の目的なので、有機ミネラル固形物が細かい粉末として懸濁/分散しているインプラント材料が好ましい。その際、ペースト、懸濁液、または分散液を製造するために、高エネルギーの導入を伴う混合を利用する場合が特に有利であることが分かった。このため特に、ペーストの液体中の固形物含有率が、2:1超(粉末の質量:担体液の質量)、特に好ましくは3:1超であり、その際、固形物の10%超(質量)が10μm未満の粒度を有する処方が好ましい。これに加え試験では、粒度の幅広い分布が達成される場合、特に固形物の10%超が10μm未満の粒子から成り、かつ固形物の10%超が50μm超の粒子から成る場合に、特に有利なセメント特性およびペーストの特に高い固形物含有率が達成されることが示されている。
【0028】
本発明によるインプラント材料に適した(有機)ミネラルセメントを選択した場合、結局のところ全てが同じ原理に基づき、つまり(有機)ミネラル粉末および水溶液または純水から混合されるので、実際上何の制限もない。石膏もシリカセメント粉末も、例えばリン酸カルシウムと同じように無水の担体液中に分散することができる。これは特に、担体液としての非常に様々な油に当てはまる。有機セメント系、特にポリマーセメント系の範囲内では、本発明によるインプラント材料は、硬化および固形物形成に至る反応が基本的に無機の反応相手を含んでいること、およびこの反応相手が、ケイ酸塩、リン酸塩、硫酸塩、炭酸塩、酸化物、水酸化物、および/またはそれらの混合物の群から成ることを特徴としている。市販のセメントは既に上で言及したように、表面的にしか反応に関与しない(つまり特にセメントマトリクス内に組み込まれる)が、しかし間接的にしか硬化反応に加わらない充填物質を時として大量に含んでいる。この関与は、例えば充填物質が硬化反応中にミネラル化のための結晶化核として機能し、したがって特に硬化のキネティクスには影響を及ぼすが、それ自体は別のものに変換されないことであってもよい。これは、例えばリン酸カルシウムセメントの場合、沈澱したヒドロキシアパタイトの添加に該当する。技術用セメントに関しては、しばしば経済的な理由からも安価な添加物が添加される。請求項3によれば、インプラント材料は、分散したミネラル固形物に対して30%超の、ケイ酸の塩もしくはその縮合物および/またはリン酸の塩もしくはその縮合物および/または硫酸の塩および/または炭酸の塩、またはそれらの混合物または酸化物もしくは水酸化物を含む。
【0029】
前述の酸の塩の陽イオンとしては、とりわけカルシウムイオンおよびマグネシウムイオンが考慮される。技術用途には、さらに異なる量の別の塩を加えることができる。特に医療用途には、分散した固形物の75%超がカルシウム塩および/またはマグネシウム塩あるいはその酸化物および/または水酸化物から成るインプラント材料が特に好ましい。
【0030】
特に医療用途向けのさらなる指定は、オルトリン酸のカルシウム塩およびマグネシウム塩の好ましい使用である。市販のリン酸カルシウムセメントおよび特に実験用のリン酸カルシウムセメントには、既に存在するほぼ全てのリン酸のカルシウム塩およびマグネシウム塩が用いられている(ここでは、かなりの量のマグネシウム塩を含むリン酸カルシウムセメントも含まれる)。ここでは、さらなるイオン、特にNa、K、NH
4を含むような、および/または同時にCaおよびMgを含むような、CaおよびMgの塩、酸化物、および水酸化物も含まれる。グリセロリン酸のCa塩およびMg塩、および別の一置換または二置換の有機リン酸エステルのCa塩およびMg塩も明らかに含まれる。請求項5によれば、懸濁したミネラル固形物の50%超がリン酸カルシウムおよび/またはリン酸マグネシウムから成るインプラント材料が好ましい。固形物はその他に例えばCaCO
3および/またはSrCO
3のような通常の充填物質を含むことができる。
【0031】
特に好ましいカルシウム化合物は、リン酸一カルシウム一水和物(MCPM)、リン酸一カルシウム無水物(MCPA)、リン酸二カルシウム無水物(DCPA)、リン酸二カルシウム二水和物(DCPD)、リン酸八カルシウム(OCP)、α−リン酸三カルシウム(α−TCP)、β−リン酸三カルシウム(β−TCP)、非晶質リン酸カルシウム(ACP)、ヒドロキシアパタイト(HA)、カルシウム欠損ヒドロキシアパタイト(CdHA)、置換ヒドロキシアパタイト、非化学量論的ヒドロキシアパタイト、ナノヒドロキシアパタイト、リン酸四カルシウム(TTCP)、硫酸カルシウム(CaSO
4)、硫酸カルシウム半水和物(CaSO
4×0.5H
2O)、硫酸カルシウム二水和物(CaSO
4×2H
2O)、酸化カルシウム(CaO)、水酸化カルシウム(Ca(OH)
2)、炭酸カルシウム(CaCO
3)、グリセロリン酸カルシウム、クエン酸カルシウム、乳酸カルシウム、酢酸カルシウム、酒石酸カルシウム、塩化カルシウム(CaCl
2)、ケイ酸カルシウム、および/またはそれらの相互の混合物および/または5重量%未満の割合の別の物質との混合物である。
【0032】
特に好ましいマグネシウム化合物は、水和物の形でのおよび無水物質としてのリン酸水素マグネシウム(MgHPO
4)、リン酸三マグネシウム(Mg
3(PO4)
2)、水和物の形でのおよび無水物質としてのリン酸二水素マグネシウム(Mg(H
2PO
4)
2)、水和物の形でのおよび無水物質としての塩化マグネシウム(MgCl
2)、グリセロリン酸マグネシウム、水酸化マグネシウム(Mg(OH)
2)、炭酸水酸化マグネシウム(例えば4MgCO
3×Mg(OH)2×5H
2Oとして)、酸化マグネシウム(MgO)、クエン酸マグネシウム(Mg
3(C
6H
5O
7)
2またはMg(C
6H
6O
7))、炭酸カルシウムマグネシウム(CaMg(CO
3)
2、ドロマイト)、および/またはそれらの相互の(および/または5重量%未満の割合の別の物質との)混合物である。
【0033】
文献に記載された可能な多数のリン酸カルシウムセメント(CPセメント)の中で特に、準安定性のリン酸カルシウムの使用を基礎とし、適切な周囲条件または反応条件下で、単独でまたは反応相手と共に、自然に、熱力学的により安定した形であるヒドロキシアパタイト、カルシウム欠損ヒドロキシアパタイト、置換ヒドロキシアパタイト、またはリン酸水素カルシウムへと変換されるCPセメントが好ましい。とりわけこれらのCPセメントは、骨の生物系によって有利な条件下で硬化する。結晶質のリン酸または酸化カルシウムを含み、したがって少なくとも一時的には周辺で4未満または10超の極端なpH値を生じさせるセメント系も記載されており、この場合、特に極端に低いpH値は骨に害を及ぼす。原理的に本発明による提供形態は、反応空間をより狭く制限することができ、かつ反応相手の相互の間隔をより良く定義できるので、後者の(極端な)セメント配合物に対しても、従来の形態より良く適している。主要な成分としてMCPM、MCPA、DCPA、DCPD、OCP、α−TCP、β−TCP、ACP、HA、CdHA、置換HA、非化学量論的HA、ナノHA、TTCP、CaSO
4、CaSO
4×0.5H
2O、CaSO
4×2H
2O、CaO、Ca(OH)
2、もしくはCaCO
3、またはそれらの混合物を含むCPセメントが特に好ましい。医療用途には、請求項8に基づき、懸濁したミネラル固形物の25%超がリン酸三カルシウム(TCP)のα型もしくはβ型、TTCP(リン酸四カルシウム)、DCPA(リン酸二カルシウム無水物)、またはACP(非晶質リン酸カルシウム)から成るインプラント材料がとりわけ好ましい。
【0034】
これに加えて、より新しい文献では、医療用途向けに、ストルバイトの結晶構造中で硬化する、または反応を終えたセメントのうちの特定の割合でストルバイトを含むセメントも記載されている(EP1296909B1(特許文献7)リン酸マグネシウムアンモニウムセメント、その製造および使用)。このリン酸マグネシウムアンモニウムセメントは、典型的にはかなりの割合でリン酸カルシウムを含んでおり、本発明によるインプラント材料の特別な一実施形態である。このストルバイトセメントに関しては、非常に優れた凝集性を有しており、かつ混合後に比較的速く、急激に強度が上昇すると記載されている(Schwardtら、Kyphos FS(商標)Calcium Phosphate for Balloon Kyphoplasty:Verification of Compressive Strength and Instructions for Use、European Cells and Materials Vol. 11. Suppl. 1. 2006(28ページ)(非特許文献3))。請求項9によれば、リン酸マグネシウムアンモニウムをベースとするインプラント材料と、疎水性で水と混合不能な液体とのペーストとしての組合せは、本発明のさらなる好ましい一実施形態である。これに関し固形物はアンモニウム塩も含んでおり、このアンモニウム塩は、マグネシウム化合物のうちの1種と共に固化してリン酸マグネシウムアンモニウム固体物質になることができる。その際、アンモニウム塩は、リン酸水素二アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、および生体適合性のある陰イオンを含む水溶性アンモニウム塩から選択される。
【0035】
技術用ミネラル反応系も医療用ミネラル反応系も、しばしば充填物質を含んでいる。医療用途に関しては特に、直接的にセメント反応に加わるのではなく、セメント反応を主に生理的条件下で進行させるのに寄与する充填物質が重要である。特に、これはCaおよびMgのリン酸水素塩に該当し、水和物にも無水の物質にも該当する。このリン酸水素塩は、リン酸三カルシウムとしてのその比較的高い可溶性、およびはっきり現れた中性領域での緩衝作用により、場合によっては硬化反応の際に生じる極端なpH値またはイオン濃度を抑制する強い作用を示す。請求項10に基づくさらなる一変形形態によれば、インプラント材料は、ミネラル固形物として5%超のリン酸水素カルシウムまたはリン酸水素マグネシウム(CaHPO
4またはMgHPO
4)を水和物または無水の物質として含んでいる。この点で、MgおよびCaのリン酸水素塩は特別な役割を果たす。というのもMgおよびCaのリン酸水素塩は同様に比較的長期間にわたって変換されるからである。それどころかアンモニウム塩と組み合わせたストルバイトセメントの場合、リン酸水素マグネシウムが反応を決定する相手である。さらなる重要な充填物質は、やはり長期間変換される炭酸カルシウムである。
【0036】
同様に医療用途向けに何年も前から硫酸カルシウム、つまり石膏から成るインプラント有効物質が用いられている。数年前からは、硫酸カルシウムだけでなくリン酸カルシウムをも含む形態も加わっている(PCT/SE99/02475(特許文献8))。その際、硫酸カルシウムは一般的にリン酸カルシウムのための結合剤として働き、この場合リン酸カルシウムは一般的に非反応性であり、つまりそれ自体は硬化反応を示さない。ただし反応性のリン酸カルシウムおよび硫酸カルシウムからセメントを製造したという文献報告も存在する。本発明による処方はどちらの場合にも制限なく適用可能である。請求項11に基づき、懸濁したミネラル固形物が10%超の硫酸カルシウムを、特に10%超の硫酸カルシウム半水和物を含むインプラント材料を特許請求する。
【0037】
医療用途のための様々なCPセメントの中で特に、反応生成物として骨ミネラル性組成に類似の組成を生じさせるCPセメントが興味深く、かつ好ましい。このため請求項12によれば、水溶液または純水とのセメント様の硬化反応の最終生成物は、50%超のヒドロキシアパタイト、カルシウム欠損ヒドロキシアパタイト、置換ヒドロキシアパタイト、および/またはナノ結晶ヒドロキシアパタイト、またはそれらの混合物を生じさせ、その際、最終生成物のカルシウム/リン酸塩のモル比(C/P比率)が1.35を上回るインプラント材料が好ましい。化学量論的ヒドロキシアパタイト(HA)のC/P比は1.67であり、カルシウム欠損HAのC/P比は1.5である。選択された1.35という境界値は、1.5未満のC/P比でもまだHAとして結晶化され、かつ比較的高い置換度が生じ得るという事実を顧慮している。このため請求項12に基づき、カルシウム化合物およびリン酸塩化合物の全体のC/P比が1.35を上回るインプラント材料を特許請求する。
【0038】
HAまたはカルシウム欠損HAまたは置換HAまたはナノHAまたは弱結晶性HAとして硬化する様々な種類のリン酸カルシウムセメントの例は、1986年頃以降の文献(Brown PW編、Cements research progress;Westerville、OH:American Ceramic Society;1986、352〜79ページのBrown WE、Chow LC:A new calcium phosphate water setting cement(非特許文献4))にいくつも記載されている。以下は、特に重要なリン酸カルシウムセメントに関する幾つかの例証である。
1.Chow(上記参照)
2.US000005336264A(特許文献9)(Constanz、Norian Corporation)
3.US6,117,456(特許文献10)(Leeら、ETEX corporation)
4.US5,262,166(特許文献11)(Sung−Tsuen Liu)
5.EP1302453A1(特許文献12)(Hirano、Mitsubishi)
6.Bohner M、Merkle HP、van Landuyt P、Trophardy G、Lemaitre J:Effect of several additives and their admixtures on the phisico−chemical properties of a calcium phosphate cement:J Mater Sci Mater Med、2000、11:111〜116ページ(非特許文献5)
7.Driessens FCM、Boltong MG、Bermudez O、Planell JA:Effective formulations for the preparation of calcium phosphate bone cements:J Mater Sci Mater Med、1994、5:164〜170ページ(非特許文献6)
【0039】
ヒドロキシアパタイト(HA)は生理的条件下で安定しており、したがって骨ミネラルと同様に細胞によってしか分解されない。リン酸水素カルシウム二水和物(DCPD)はかなり溶解しやすいことが知られている。硬化生成物としてのDCPDを含むCPセメントが、同様に文献に記載されており、とりわけ材料の比較的速い溶解をめざす用途向けに好ましい。DCPDセメント用の一般的な原材料は、β−TCPおよびリン酸一カルシウムである。純粋な原材料を使用する場合、反応生成物のC/P比は1である。水溶液または純水とのセメント様の硬化反応の最終生成物は50%超がリン酸水素カルシウムであり、その際、有利で、かつ特に特許請求された請求項13に基づく本発明の一変形形態は、最終生成物のカルシウム/リン酸塩のモル比が0.9〜1.35のインプラント材料である。したがってこのインプラント材料のカルシウム化合物およびリン酸塩化合物の全体のC/P比は0.9〜1.35である。
【0040】
本発明の主要な点は、固形物としての反応性有機ミネラル物質の組成に関わらず、これらの物質を非水性担体液中に導入することであり、その際この担体液は、水と化学的な意味では混合不能であり、かつ事実上水に溶けず、かつ水中でも同様に実際には溶けない有機液体であることが好ましい。その際、相互の可溶性に関する境界値は(体積に対して)25%と見なす。一般的におよび好ましくは、この境界値はもっと低く、つまり例えば10%未満、特に好ましくは5%未満である。これが該当する液体は一般の人にも当業者にも十分に知られている。ここで医療用途に関しては、上述の指定が該当する特に医薬、化粧品、および食料技術用の液状補助物質が考慮される。
【0041】
この液体は水に溶けない、または少ししか溶けないものの、請求項15に基づき、水に良く溶ける、または少なくとも強く膨潤可能である、または化学的な意味で水と混合可能である固体または液体の分散物質を含むことが好ましい。この分散物質は、セメントの反応性物質であってよく、または反応自体にはさほど関与せずにセメントの反応性に影響を及ぼす物質であってよい。さらに、有機液体中でのセメントの分散を助成する補助物質、または水性液体とペーストの混合性を有効物質よりも改善する補助物質、または最終的なセメントにおいて細孔系を生成するのに役立つ補助物質でもよい。後者には特に、超吸収剤として知られており、例えば易架橋性のポリアクリル酸またはカルボキシメチルデンプンから成るような、易架橋性高分子電解質が該当する。特にこれらの物質には、非常に速く水に溶ける機能、および両方の相の巨視的に均質な物理的混合が形成され得るように水相の粘度に影響を及ぼす機能が備わっているべきである。
【0042】
インプラント材料のセメント様の硬化反応を引き起こすには、有機液体中に分散した固形物を、前記/或る水溶液または純水と密接に接触させなければならず、これによりこれらの固形物は、少なくとも部分的に水に溶解し、そして再結晶化し得るか、または水相中で再び沈澱し得る。このためには、ペーストと水溶液の密接な混合が、物理的混合の意味で行われなければならず(つまり特にエマルジョンおよび/または分散液の形成)、その際、相界面としてできるだけ大きな面を形成し、この相界面を介して水と固形物は互いに接触することができ、それによってペーストの水溶性成分の溶解が可能になる。その際、水と化学的な意味で混合不能な様々な有機液体が、様々な形で、水との物理的混合に適していることは当業者には既知である。そのような物理的混合物の形成および安定性は、液体の種類のほかにも、加えられる相手方を混合する際に投入されるエネルギーにかなり依存する。本発明に基づくペーストと水溶液の混合では、高いエネルギー量をもたらすための複雑な機構の装置を通常は自由に使えないので、有機液体の選択が大きな意味をもつ。液体の混合に必要なエネルギーは、界面活性物質によって大幅に下げることができ、特別な場合には、そうでなければ混合不能な液体間でエマルジョン、特にマイクロエマルジョンが自然に形成される範囲内にまで下げることができる。この点は、ここでは詳しく述べないが、手での混合が実際に不可能であり、かつ硬化反応または固形物形成に至らなかった混合しにくい液体(ペーストおよび水溶液)を用いた試験が示したように、本発明に関して決定的な意味を持っている。したがって本発明に基づく本質的な点は、ペーストのための担体媒体として使われる有機液体が水および/または水溶液と物理的な意味で混合可能であり、かつ/またはその際にこの有機液体が、水または水溶液との物理的混合物の形成(エマルジョンの形成)を助成し、かつそのような混合物を安定化させ得る物質を含んでいるインプラント材料である。そのような物質は、界面活性剤または高分散性固体物質であってよい。モノグラフ「Die Tenside」、Kosswig/Stache、Carl Hanser Verlag Muenchen Wien、1993、ISBN 3−446−16201−1(非特許文献7)を参照のこと。エマルジョンというテーマに関しては、論文H.−D. Doerfler著、Grenzflaechen und kolloid−disperse Systeme、Springer、Berlin、2002、第13章「Makro− und Mikroemulsionen」(非特許文献8)を参照のこと。
【0043】
請求項17に基づく本発明の特定の一実施形態では、ペーストと水溶液の間でマイクロエマルジョンを自然に形成させることをめざしている。形成のために通常はエネルギーの導入が必要であるが、熱力学的に安定していないマクロエマルジョンとは異なり、このマイクロエマルジョンは周囲条件下でも自然に形成され、かつ熱力学的に安定している。このマイクロエマルジョンは、水相および有機(油)相のほかに少なくとも1種の界面活性剤、および一般的には、通常は共界面活性剤または溶解仲介剤と呼ばれる低分子有機液体を含んでおり、この有機液体は、例えば短鎖乃至中鎖アルコールでよいが、有機液体として別の多くの有機液体も考慮される。界面活性剤または乳化剤と同様に、共界面活性剤または溶解仲介剤も、ペースト中または水溶液中に存在することができる。この選択は一般的に、とりわけそれぞれの相における添加物のより良い可溶性に依存する。したがって本発明によれば、この特定の実施形態では、有機液体が標準状態では液状である少なくとも2種の物質から成り、かつそれぞれの物質が第1の液体中に少なくとも0.1%含まれているインプラント材料を特許請求する。この実施形態では、有機液体の低い水溶性という指定は、共に有機液体を形成する2種の物質の一方にだけ当てはまる。
【0044】
上で既に述べたように、非常に多くの有機液体が、本発明による有機ミネラルペースト用の担体液として適している。原理的に適切でないのは、非常に低い沸点を有し、場合によっては爆発の危険性がある液体、毒物学上の理由から制限を受ける液体、粘度が非常に高いため粉末状の固形物を混入させるのが困難な液体、通常の温度付近で既に固体になる液体、または有機ミネラル固形物の1種または複数と適合しないか、もしくは望ましくない反応をする可能性のある液体である。それ自体が貯蔵安定性でない有機液体、または貯蔵安定性を達成するために手間のかかる措置を必要とする有機液体も不適切である。ここでは例示的に、原理的に非常に良く適している油(トリグリセリド)を挙げることとし、その際このグループ内で、手間のかかる措置なしでは傷みがちであるような代表物は不適切と見なすことができる。植込み可能な医療製品または薬としての本発明によるインプラント材料の好ましい使用に関してはFiedler著「Lexikon der Hilfsstoffe」(01/2002版)(非特許文献9)を参照のこと。ペーストの特殊な特性を達成させ得る2種以上の有機液体を混合することが好ましい。この意味で、請求項18に基づき、とりわけ有機液体の50%超が、分子量が2500未満の脂肪族炭化水素、エステル、エーテル、ほぼ水に溶けない有機酸、またはほぼ水に溶けない一価または多価アルコール、またはそれらの混合物から成るインプラント材料が請求される。
【0045】
医療または医療技術用途に関しては、ほぼ水に溶けず、かつ無毒であり、体内で分解または排出されやすい有機液体が特に好ましい。さらに好ましいのは、(有機)ミネラル粉末を混入させやすくするために、標準状態下で低粘度の有機液体である。とりわけ好ましいのは、以下に挙げる有機液体、それらの同族体、それらの相互の混合物、およびそれらの同族体との混合物であり、すなわち三酢酸グリセリン、トリ酪酸グリセリン、トリオレイン酸グリセリン、ジオレイン酸グリセリン、モノオレイン酸グリセリン、カプリン酸カプリル、オレイン酸デシル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、オレイン酸、オレイルアルコール、オレイン酸オレイル、短鎖トリグリセリド、中鎖トリグリセリド(例えばMyritol(登録商標)318PH、Miglyol810、Miglyol(登録商標)812、Miglyol(登録商標)829)、プロピレングリコールの短鎖および中鎖の脂肪酸エステル(例えばMiglyol(登録商標)840)、ベンゾイル酢酸エチル、酪酸エチル、ブチリル酢酸エチル、オレイン酸エチル、カプロン酸エチル、カプリル酸エチル、カプリン酸エチル、ラウリン酸エチル、レブリン酸エチル、ミリスチン酸エチル、パルミチン酸エチル、リノール酸エチル、ステアリン酸エチル、リシノール酸、リノール酸、リノレン酸、アラキン酸、オレイン酸、アラキジン酸エチル、α−トコフェロール、β−トコフェロール、γ−トコフェロール、δ−トコフェロール、ベンジルアルコール、安息香酸ベンジル、ブチルマロン酸ジエチル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、エチルマロン酸ジエチル、フェニルマロン酸ジエチル、フタル酸ジエチル、セバシン酸ジエチル、スベリン酸ジエチル、コハク酸ジエチル、マレイン酸ジブチル、フタル酸ジブチル、レシチン、パラフィン油、ペトロラタム、液体パラフィン、セバシン酸のエステル、特にセバシン酸ジブチルエステル、セバシン酸ジエチルエステル、セバシン酸ジイソプロピルエステル、セバシン酸ジオクチルエステルである。さらに、上述の疎水性有機液体の中でとりわけ好ましいのは、単独での、および相互に組み合わせた、および別の物質と組み合わせた、希薄な短鎖および中鎖トリグリセリドおよびプロピレングリコールの中鎖脂肪酸エステルである。特に医療用途には、上述の物質およびその誘導体および同族体のうち、CFR21(米国連邦規則集)に対応しており、かつ「GRAS」(一般に安全と認められる)に分類されているものがとりわけ好ましい。
【0046】
インプラント材料および有効物質担体として使用するためには、有機液体に関して特に比較的低粘度の中性油が興味深い。これは典型的には比較的短鎖の脂肪酸とのグリセリンまたはプロピレングリコールのエステルである。このグループ中で、モノグリセリド、ジグリセリドならびにトリグリセリドが注目される。トリグリセリドは実質的に水と混合不能であり、一方、モノグリセリドおよびジグリセリドは、組成に応じて容易に水とエマルジョンまたはミセル溶液を形成することができる。分子レベルでの溶解という印象を与え得るこの集合体も、相界面の形成を伴う物理的な意味での混合なので、担体液は化学的な意味では水と混合不能であり、したがって主請求項の制限と矛盾しない。グリセリンの脂肪酸エステルのほかに、ここでは別の一価および多価アルコールの脂肪酸エステルも考慮され、特にエチレングリコールおよびプロピレングリコール(プロパンジオール)の脂肪酸エステル、およびさらに特に好ましくはエチレングリコールおよびプロピレングリコールから成る液体のオリゴマーおよび/またはコオリゴマーの脂肪酸エステルが考慮される。さらなる好ましい多価アルコールのエステルは、糖および糖アルコールのエステルであり、特にソルビトール、ソルビタン、およびキシリトールのエステルである。このようなエステルが好ましい理由は、容易な生物分解性または酵素分解性であり、かつそれに続く分解生成物の排出または代謝可能性である。さらなる理由は、これらの物質が簡単に合成しやすいことであり、これにより液体に関する大きな可変性が提供され、または提供させることが可能であり、かつこうしてそれぞれの要件に適合させることができる。このため、有機液体が主として、つまり50%超で、脂肪酸との一価および/または多価アルコールのエステルから成るインプラント材料が全般的に特許請求される。
【0047】
本発明によるペーストの特定の形態は、再吸収可能なポリマーの合成にも使用されるヒドロキシ酸の液体オリゴマーを担体液として含んでいる。最も広く普及しているのは、乳酸、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、カプロラクトンのポリマー、およびそれらのコポリマーである。低重合度でのこれらのヒドロキシ酸の化合物は、標準状態では粘性の液体である。このグループ中の特に適した担体液は、前述のヒドロキシ酸の、一価または多価アルコールとのオリゴエステルと見なされる。この化合物は、非常に簡単に合成することができ、かつヒドロキシ酸に対するアルコールの比およびヒドロキシ酸の相互の混合比によって、化合物の特性を広い範囲で調整することができる。これの例はエチレングリコール・オリゴラクチドまたはグリセリン・オリゴラクチドであり、これはアルコールの乳酸に対するモル比が0.1超の場合、流動可能な粘性液体であり、この液体は、水と隔離されている場合は貯蔵安定性があり、かつ水と混合不能である。これらの担体液の場合、生物分解の容易性および骨との優れた適合性が有利であり、この適合性に基づきこれらのオリゴマーは、例えば再吸収可能な骨ロウを使用するために利用された(DE19858891(特許文献13)、DE19981219(特許文献14))。ここではさらに詳述しない試験により、この粘性液体中に問題なく大量の(上述のような)ミネラル固形物を混入させ得ることが明らかになった。したがって本発明によれば、有機液体の50%超が、ヒドロキシ酸、特に乳酸、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、カプロラクトンとの一価または多価アルコールのエステルまたはオリゴエステル、それらの混合物およびまたはコオリゴマーおよびまたは立体異性体から成るインプラント材料を特許請求する。
【0048】
さらに、インプラント材料にはエチレングリコール(EO)およびプロピレングリコール(PO)の液体のオリゴマー誘導体およびポリマー誘導体が特に適している。なぜならこの物質群の代表物も、生物学的に特に適合性のあることが知られており、かつ非常に多方面で補助物質として、薬、医療製品、および化粧品において用いられているからである(PluronicおよびTetronic)。このグループに属するものとして、EO単位および/またはPO単位のほかに、さらにこれらの構成単位を50%(質量)未満含んでいる全ての化合物も考慮される。したがってこの群は、PEG(ポリエチレングリコール)およびPPG(ポリプロピレングリコール)のほかにも、これらの構成単位のコポリマー/コオリゴマーを含んでいることが特に好ましく、このコポリマー/コオリゴマーは、単位の順番がランダムでもよく、ブロックコポリマー/コオリゴマーとして存在してもよい。同様に特に好ましいのは、以下の化合物、すなわちアルコール、脂肪酸、糖、糖アルコール、アミンからなるさらなる単位を含む(コ)ポリマー/(コ)オリゴマーである。このグループの典型的な代表物は、PEGおよびPPGと共に、そのコポリマー、アルコールエトキシレート、脂肪酸エトキシレート、脂肪アミンエトキシレート、糖エトキシレート、多価アルコールおよび糖の脂肪酸エステルのエトキシレート、特にソルビトール/ソルビタンの脂肪酸エステルのエトキシレートであり、ここでは特にTween型およびSpan型の製品の代表物(Brij、Triton)である。これに関連して、有機液体の0.1%超がエチレングリコールおよび/またはプロピレングリコールのオリゴマーもしくはポリマーおよび/またはこれら相互のおよびこれらと別の構成単位とのコオリゴマーもしくはコポリマーから成り、その際エチレングリコール単位とプロピレングリコール単位を合わせると、対応する化合物の50%(質量)超になり、この化合物が標準状態では液状であるインプラント材料を全般的に特許請求する。上述の物質および物質群は、少なくとも一部が水溶性である。この場合その物質および物質群は、好ましくは水に溶けない物質と一緒に、担体液の成分として特許請求される。水に溶けない物質の代表物は、担体液の主要成分として単独で使用してもよく、またはさらなる物質と組み合わせて使用してもよい。
【0049】
本発明によるインプラント材料の使用可能性は非常に多種多様であり、かつ医療用途の場合、小さな機械的負荷にしか曝されない植込み可能な有効物質担体としての使用から、インプラントの固定、機械的に大きな負荷のかかる骨の増強、および多くの場合に高い負荷に曝され得る骨格構造の復元のための骨セメントにまで及ぶ。本発明によるインプラント材料の大きな利点は、それぞれの使用分野に特性を適合させ得ることである。その際、重要な調節要素は、ペースト中に分散する有機ミネラル固形物の量である。本発明によれば、この量は、固形分散物を水溶液と混合した場合に、この固形分散物の粒子間の硬化反応が保証され得る程度に高くなければならない。(反応性)固形物粒子のクリティカルな濃度は、一連の要因に強く依存している。反応性固形物の種類と共に、ここではとりわけ粒度および粒子形状が決定的な役割を果たす。請求項22に基づく本発明の選択された一実施形態では、インプラント材料が、有機液体および固形物から成るペースト中に、25%〜75%(重量パーセント)の分散したミネラル固形物を含んでいる。この実施形態では、固形物粒子は少なくとも部分的には比較的高分散性の形で存在しており、この比較的高分散性の形は、例えばナノサイズのリン酸カルシウム、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、硫酸カルシウム、クエン酸カルシウム、酸化マグネシウム、炭酸水酸化マグネシウム、様々な陽イオンのケイ酸塩、および(グラスイオノマーセメントに使用されるような)ゾル/ゲル法によって製造された反応性ガラスに対して付与することができる。この場合の適用分野は特に、非常に高い生物活性を備えた有効物質担体および骨充填物質である。
【0050】
以下に、小さな機械的負荷を伴う有効物質担体または骨充填材料としての用途向けの組成(重量パーセント)を例示的に挙げる。
【0051】
【表1】
【0052】
上記の組成は2成分系にも適しており、この表に挙げた組成は無水成分にあたる。
【0053】
さらなる一実施形態では、強度の高いセメントを得るという目的をもった本発明によるペーストの、特に高い固形物含有率に着目する。これは、実質的に全ての技術用途に該当し、医療分野では特に高負荷用の骨セメントおよび骨充填物質としての使用に該当する。この実施形態の主題は、分散した有機ミネラル固形物が、有機液体および固形物から成るペースト中に75%(重量パーセント)超で含まれるインプラント材料である。この実施形態の例は実施例において示される。固形物の特に高い含有率は、例で示すように、粉末としての反応性固形物を担体液と組み合わせ、続いて高エネルギー導入下で混合し、さらに小さく砕く場合に達成することができる。このようにして、主にリン酸カルシウムから成る固形混合物により、80%を上回る充填度を達成することができる。さらに高い固形物含有率は、典型的には比較的粗いさらなる固形物を、予め混合したペースト中に混入させることで達成することができ、したがって既に70%の固形物含有率を有する油およびリン酸カルシウムから成るペーストの混合物の場合、β−TCPから成る焼結したほぼ隙間のない粒子を比1:1で混入することによって、固形物含有率が85%超のペーストを得ることができる。この措置は、別の物質系にも転用可能であり、かつ本発明の特に好ましい一実施形態である。したがって分散した有機ミネラル固形物が、有機液体および固形物から成るペースト中に70%(重量パーセント)超で含まれるインプラント材料を特許請求する。
【0054】
以下に、高い機械的負荷を伴う骨充填物質、有効物質担体、または骨セメントとしての用途のための組成(重量パーセント)を例示的に挙げる。
【0055】
【表2】
【0056】
上記の組成は2成分系にも適しており、この表に挙げた組成は無水成分にあたる。
【0057】
液体と粉末の混合、および液体の相互のまたはペーストとの混合の際に助成的に作用する物質の使用は、本発明において特別な意味を持っている。適切な界面活性剤または別の作用と共に界面活性剤としても作用し得る物質の一部は液体の形で存在しており、かつ上述のように、担体液の一部としても、または担体液自体としても使用することができる。しかしここでは例2でも示すように標準状態では固形物として存在する界面活性剤も、本発明によるインプラント材料において有利に使用可能であることを明示的に述べておく(Amphisol AおよびSDSも、室温では固形物として存在する)。独自の試験により、界面活性剤の添加が、担体液中への固形物の混入に強く有利に働き、かつ特に得られたペーストと水溶液の混合に相応に影響を及ぼし得ることが示された。ここで適切な界面活性剤を包括的に列挙することは断念する。なぜならそのようなことを完璧に行うことは全く不可能であり、かつ本発明による生成物の多種多様な組成および多数の潜在的な適用分野を鑑みれば、実際には客観的な理由から除外すべきであろう界面活性剤は存在しないからである。背景および外観に関し、もう一度モノグラフ「Die Tenside」(非特許文献7)を参照するよう指摘しておく。したがってペーストが、懸濁/分散した有機ミネラル固形物および有機液体のほかに、1種または複数の界面活性剤を含む全てのインプラント材料を特許請求する。以下に、界面活性剤の幾つかの好ましい群、特に医療技術/医薬用途向けに考慮される群を特に強調しておく。
【0058】
●陰イオン性界面活性剤
〇脂肪酸およびその塩(Na、K、NH4、Ca、Mg、Zn、Fe)
・例えばオレイン酸ナトリウム、パルミチン酸ナトリウム
〇脂肪酸のエステルおよびその塩
・例えばジラウレス−7クエン酸ナトリウム、ステアロイル酒石酸二ナトリウム
〇カルボン酸エーテル
・例えば脂肪アルコールポリグリコールエーテルカルボン酸(および塩)
〇アルキル硫酸塩/アルキルエーテル硫酸塩(およびその塩)
・例えばアルキル硫酸ナトリウム(特にラウリル硫酸ナトリウム)
〇アルキルスルホン酸塩
・例えばラウリルスルホン酸ナトリウム
〇スルホコハク酸塩
・例えばジアルキルスルホコハク酸ナトリウム
〇リン酸エステル(アルキルリン酸塩およびアルキルエーテルリン酸塩)およびその塩
・モノアルキルリン酸エステルおよびジアルキルリン酸エステル
〇アシルアミノ酸およびその塩
・アシルグルタミン酸塩、アシルペプチド、アシルサルコシド
●陽イオン性界面活性剤
〇アルキルアミン塩
〇アルキルイミダゾリン
〇テトラアルキル(アリール)アンモニウム塩
〇複素環式アンモニウム塩
・例えばアルキルエチルモルホリンエトサルフェート
〇エトキシ化アミン
・例えばポリエチレングリコール−6−ラウリルアミン
●両性界面活性剤
〇アシルエチルジアミンおよび誘導体
〇N−アルキルアミノ酸および/またはイミノジカルボン酸
〇ベタイン
・例えばアルキルアミドプロピルベタイン
〇レシチン
●非イオン性界面活性剤
〇脂肪アルコール
・例えばデシルアルコール、ドデシルアルコール(特に好ましくは共界面活性剤として)
〇エトキシ化脂肪アルコール
・CH3(CH2)x−O−(CH2CH2O)y−H この場合x=8〜18およびy=約2〜約300
〇エチレンオキシド/プロピレンオキシドブロックコポリマー
〇アルキルフェノールエトキシレート
〇アルキルポリグルコシド
〇エトキシ化した脂肪および油
〇アルカノールアミド
〇エトキシ化アルカノールアミド
〇ポリエチレングリコール脂肪酸エステル
〇グリコールエステルおよびグリコールエステル
・エチレングリコール脂肪酸エステル
・プロピレングリコール脂肪酸エステル
・グリセリン脂肪酸エステル(モノエステルおよびジエステル)
〇ソルビタンエステル(モノエステルおよびトリエステル)
〇糖エステル
〇エステル/エーテル界面活性剤
・エトキシ化したグリコールエステルおよびグリセリンエステル
・エトキシ化ソルビタンエステル
・脂肪酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸のエトキシ化ソルビタンエステル(例えばTween型)
・ポリグリセリンモノエステル
・アミノキシド
●アルコキシ化ポリシロキサン(シリコーン界面活性剤)
●フッ素界面活性剤
【0059】
最後に挙げた2つのグループは、本発明によるインプラント材料との組合せにおいて、とりわけ技術用途で潜在的可能性を有している。
【0060】
それゆえ以下には、本発明によるインプラント材料における使用が好ましい幾つかの選ばれた界面活性剤だけを挙げる(ただしこれによって別の界面活性剤、挙げられる界面活性剤の誘導体または同族体を除外する意図は全くない)。すなわち、ラウリル硫酸ナトリウム、モノオレイン酸グリセリン、ポリソルベート20、21、40、60、61、65、80、81、85、120、ジイソステアリン酸ソルビタン、ジオレイン酸ソルビタン、モノイソステアリン酸ソルビタン、モノラウリン酸ソルビタン、モノオレイン酸ソルビタン、モノパルミチン酸ソルビタン、モノステアリン酸ソルビタン、トリオレイン酸ソルビタン、トリラウリン酸ソルビタン、トリカプリル酸ソルビタン/トリカプリン酸ソルビタン、ミリスチン酸イソプロピル、レシチン、リゾレシチン、オレイン酸、オレイン酸、ポリエチレングリコールモノセチルエーテル、ポリエチレングリコールモノステアリルエーテル、ポリエチレングリコールモノラウリルエーテル、ポリエチレングリコールモノオレイルエーテル、ポリエトキシ化ヒマシ油、ステアリン酸ポリオキシル40、ステアリン酸ポリオキシル50、パルミチン酸アスコルビル、リン酸セチル((Amphisol(登録商標))およびその塩)、PEGセチルステアリルエーテル(Ceteareth−6(−11、−25)セチルアルコール/ステアリルアルコール(Cremophor A(登録商標)型)である。
【0061】
本発明の医療技術および医薬用途向けにとりわけ好ましい界面活性剤は、既に医薬の調製において用いられている。ここで特に優れているのは、Tween20、Tween80、Pluronic F68、およびCremophorという名称で提供されている製品およびレシチンである。さらに脂肪酸およびその塩および中鎖脂肪アルコールがとりわけ好ましい。
【0062】
界面活性剤のほかに、非常に細かく分かれた固形物も、固形物と液体および液体相互の間の物理的混合物の形成および安定性を助成することができる(論文H.−D. Doerfler著、Grenzflaechen und kolloid−disperse Systeme、Springer、Berlin、2002、第13章「Makro− und Mikroemulsionen」(非特許文献8)を参照)。したがって特にペーストが、セメントのような硬化反応に加わる懸濁/分散した有機ミネラル固形物、有機液体、および必要に応じてさらなる補助物質および有効物質のほかに、物理的混合物(エマルジョン)の形成および安定性を助成する高分散性固形物として酸化鉄類、粘土鉱物、二酸化ケイ素類、硫酸バリウム、またはステアリン酸グリセリンを含む本発明によるインプラント材料の全ての実施形態も特許請求する。上記の列挙は全てを網羅しているわけではなく、したがって同様に作用する別の物質も含むべきである。
【0063】
本発明による製品の最良の変形形態のためのさらに有意義なおよび/または必要な補助物質の中では、ポリマーが特別な意味を有している。ポリマーにより、特にペーストの粘度、およびペーストの貯蔵安定性に影響を及ぼすことができる。さらにポリマーは、ペーストの凝集性に影響を及ぼし、これは特に1成分系としての実施形態において大変重要であり得る。医療用途では、ポリマーは生物活性を上昇させることができ、または再吸収性に影響を及ぼすことができる。ポリマーとしては、特にバイオポリマー、コラーゲンおよびその誘導体(とりわけゼラチンも)、デンプンおよびその誘導体(特にヒドロキシエチルデンプンおよびカルボキシメチルデンプン)、セルロース誘導体、キチン/キトサン誘導体、および合成ポリマー、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、その他のポリアクリル誘導体(例えばEudragitという商標で知られるDegussa社のポリアクリル酸誘導体)、高分子PEGおよびPPG誘導体(特に高分子のPluronicおよびTetronicおよび同族のポリエーテルも)が考慮される。上述の列挙は全てを網羅しているわけではなく、したがって同様に作用する別の物質も含むべきである。ペーストが、懸濁/分散した有機ミネラル固形物および有機液体および1種または複数の界面活性剤および/または高分散性固形物のほかに、溶解または懸濁した分子量が2500を上回るポリマーを含むインプラント材料を全般的に特許請求する。
【0064】
ここで特に強調すべきは、確かにペースト中に存在してはいるが、水溶液との混合中および混合後に、とりわけ水溶液の特性の影響によってその機能を果たすポリマー、高分散性固形物、および界面活性剤である。これは特に、粘度および表面張力の影響を介した、有機液体および水溶液から成るエマルジョンの形成に関する。
【0065】
本発明によるインプラント材料は、まさに骨および歯の領域で、特に局所的に有効な有効物質のための有効物質担体として使用することを予定している。このような有効物質を、有機質ベースのペースト中または水溶液中に存在させ得るという可能性は、このインプラント材料を実質的に、重要な有効物質の全てのクラスに適した担体材料にする。これに加え、硬化した固形物の多孔度を広い範囲で調整することができ、これにより遊離キネティクスも要件に適合させることができる。そのうえ特に上述の高分散性固形物、界面活性剤、およびポリマーのような適切な補助物質を使用することで、有効物質遊離のさらなる微調整が可能になる。適切な有効物質としては、骨の疾患の局所的処置のために重要な全ての物質が考慮され、特に、(例えば抗生物質、防腐薬、抗菌性ぺプチドのような)抗菌作用、(例えば細胞増殖抑制剤、抗体、ホルモンのような)抗癌作用、(例えばビスホスホネート、コルチコイド、フッ素、プロトンポンプ阻害薬のような)再吸収阻害作用、抗炎症性作用、(成長因子、ビタミン、ホルモン、モルフォゲンのような)骨成長刺激作用などを備えた物質が考慮される。ここでも、上述の列挙は全てを網羅しているわけではなく、したがって骨および隣接組織において局所的に有効であることができ、かつインプラント材料の機能を望ましく助成し得る別の物質も含むべきである。つまりペーストが、分散した有機ミネラル固形物および有機液体のほかに、溶解または懸濁した1種または複数の薬理学的有効物質を含む全てのインプラント材料を全体的に特許請求する。
【0066】
請求項29に基づき、本発明によるインプラント材料は、ペースト/懸濁液または分散液のほかに、さらなる成分として水溶液または純水を含む。この実施形態では、本発明によるインプラント材料は、有機液体および分散した固形物から成り上述の指定の1つに基づき製造されたペーストが、定義された水溶液または必要に応じて純水(定義された溶液の特別な形態)と混合され、そしてこの混合物が続いて固形物へと硬化するように設計される。
【0067】
この実施形態は、さらに下で挙げる第2の実施形態と比べて、硬化にも最終生成物のさらなる特性にも、狙い通りに影響が及び得るように水溶液を調整し得るという利点を有する。このために、それ自体が硬化反応にも関与するか、または硬化キネティクスに影響を及ぼす物質を、水溶液に添加することができる。さらに水溶液には、特に水溶液とペーストの混合に望ましく影響を及ぼす物質を添加することができる。原理的には、ミネラルセメントの全ての非反応性成分、特に水溶液中にも処方し得る充填物質および有効物質がこれに属する。これらの物質は、そこで溶解して存在していてもよく、分散または懸濁して存在していてもよい。これに応じて水溶液も同様に、かなりの固形物割合を有するペーストの性質を持つことができる。2成分系での無水ペーストと水溶液の均質な混合は、両方の成分の粘度および稠度ができるだけ類似している場合に最もうまく成功するので、懸濁した充填物質、高分散性固形物、および/または溶解もしくは膨潤したポリマーを含む水溶液の処方は、本発明の好ましい一変形形態である。適切な充填物質の例は、CaCO3、細かく分かれたリン酸カルシウム(特にナノ結晶のヒドロキシアパタイト)、細かく分かれたリン酸マグネシウムもしくは炭酸マグネシウム、高分散性のケイ酸もしくはその塩、およびコロイド状に溶解したポリマーである。
【0068】
特に言及すべきことは、水溶液への、水溶液の粘度に影響を及ぼし得る添加であり、つまり特にポリマー、高分散性固形物、および界面活性剤の添加であり、そのうちの幾つか(特に高エトキシ化ソルビタンエステルおよびPluronic[PEG−PPGブロックコポリマー]のような)は水溶液と共に特定の濃度で、本発明による製品のために有意義な粘性ゲルを形成する。
【0069】
請求項31に基づく実施形態によれば、ミネラルセメント固形物の非反応性成分は、部分的または全体的に水溶液中に含まれている。
【0070】
水溶液への添加物として、それ自体はミネラル固形物の硬化反応に関与しないが、例えば固形物の結晶構造に影響を及ぼすことができ、そうして形成される最終生成物の特性を決定的に改変し得る物質も特に言及すべきである。これは、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸塩、またはポリアクリレートのようなポリマー物質であることができ、クエン酸、酒石酸、アミノ酸、糖、およびそれらの誘導体、およびそれらのそれぞれの塩のような低分子有機物質、または無機物質であることができ、その際、後者は一般的に結晶構造内に少なくとも部分的に組み込まれる。
【0071】
重要な有効物質は、有効物質が水溶液中に溶解または懸濁した形で十分に安定している場合に限り、その形で存在することもできる。その際、化学的安定性および遊離キネティクスによって、有効物質が油相で存在するのが好ましいかそれとも水相で存在するのが好ましいかがほぼ決まる。
【0072】
原理的に、2種以上の成分から成る本発明によるインプラント材料は、硬化反応を引き起こすため、および固形物の形成を達成するために、様々なやり方で相互に組み合わせることができ、混合することができる。ただしその際、それぞれの成分は、ペーストまたは(粘性)液体の形で容器内に供されており、かつインプラント材料の成分は、適用前または適用中に相互におよび混合装置と組み合わされ、それによりこの混合装置を介して巨視的に均質に混合され得ることが特に好ましい。これに関し最も簡単な場合には、一方が油相を形成し、第2のものが水相を形成する2種のペーストが、それぞれ別のカートリッジに充填される。適用直前にカートリッジがその一方の端部の開口部で、T字形の部品を介して相互におよびスタティックミキサと接続される。両方のカートリッジは、この両方のカートリッジの均等な吐出を保証する装置によって吐出される。その際、両方のペーストはスタティックミキサ内に押し込まれ、そしてその中を流れながら、巨視的に均質に相互に混合される。このような装置は原理的には知られており、例えば自己由来のフィブリン接着剤を使用する際にフィブリノゲンとトロンビンを混合するために利用されている。本発明において初めて、この装置が本発明によるインプラント材料の混合に関連して記載される。
【0073】
骨充填物質または骨セメントとしての用途のための2成分系の例示的な組成(それぞれの成分の全体量に対する重量パーセントで提示)
【0074】
【表3】
【0075】
両方の成分は、広い範囲で相互に混合することができる。混合比は10:1〜1:1(ペースト1:ペースト2)の範囲であることが好ましく、硬化促進剤は、水溶液中に溶解または懸濁しており、ミネラルセメントの硬化キネティクスに影響を及ぼす物質(例えばリン酸塩または有機酸もしくはその塩)であることが好ましい。
【0076】
混合装置を備えた多成分適用システムの特に好ましい一実施形態では、両方のペーストを、市販のダブルチャンバ・シリンジのそれぞれのチャンバ内に充填し、密閉する。侵襲性の医療用途の場合、ペーストはこの形で滅菌される。使用する際は、ダブルチャンバ・シリンジをスタティックミキサに接続し、手で、または連動する手軽な道具(ピストル)によって、または外部駆動される装置を介して、吐出および混合する。両方の成分をこのように混合すると硬化反応が引き起こされる。これに対応するダブルチャンバ・シリンジおよびスタティックミキサも原理的には(例えばMixpac社の製品として)知られているが、ここで初めて本発明による製品の適用に関連して記載される。
【0077】
1成分適用システムとしてのさらなる同様に特に好ましい本発明の一実施形態では、インプラント材料は1種類の成分だけから成り、この成分は、硬化反応を引き起こすのに必要な、水以外の全ての物質を含んでおり(必要に応じてさらなる補助物質および有効物質を含んでおり)、この成分中では、水性媒体中への投入および/または水を含有する表面との接触の際に自然に硬化反応が引き起こされる。典型的には、この実施形態でのインプラント材料はペースト中に、(有機)ミネラル粉末、(1種または複数の)界面活性剤、および必要に応じてさらなる補助物質および有効物質を組み合わせて含んでいる。本発明によればこのペーストは、上述の説明のように水と混合することができる。ただしこの実施形態の特殊性は、1種類の成分から成るペーストを、さらなる混合なしで水性環境へと投入することができ、その環境から水を吸収することで、または有機液体(油)を水と交換することで、固形物へと硬化することにある。
【0078】
この実施形態での本発明によるインプラント材料は、単純なカートリッジとして、例えばシリンジとして形成し得ることが有利であり、それにより非常に単純で、かつ使用しやすい実施形態として機能することができる。この実施形態は、水性表面または液体に対して全面的に接触している比較的薄い層内で、またはその中で有効物質が完全に硬化するのに比較的長い時間を有する比較的薄い層内で、本発明によるインプラント材料を適用するのに特に適している。この処方は、湿潤な有効物質表面用の有機ミネラル接着剤としての用途に、および特に骨構造を貼り付けるために特に有利である。
【0079】
本発明によるインプラント材料は、多くの技術、医療(技術)、および/または医薬用途に有益に用いることができる。示した本発明の点は、インプラント材料を、医療製品および薬の製造に、ここでは特に骨セメント、骨代替材料、骨接着剤、歯の充填材料、および/または植込み可能な有効物質担体の製造に特に適したものにする。このなかでとりわけ、完全に生体適合性のある材料から成り、滅菌した形で提供され、体内で硬化する1成分系または2成分系としての本発明の実施形態を特許請求する。
【0080】
これらの利点から、本発明によるインプラント材料の使用は、骨代替材料、骨セメント、骨接着剤、および植込み可能な有効物質担体の製造用に特に好ましい。したがって骨セメントは、本発明によるインプラント材料を基礎とし、個々の用途に適合される。骨代替材料は、例えば骨欠損を補充するために、本発明によるインプラント材料を基に調合されたものである。この場合、本発明によるインプラント材料から成る骨代替材料が、体内に植え込まれる前に、硬化した中身の詰まった半加工品の形に成形され、続いて骨欠損内に導入される/植え込まれることが有利であり得る。
【0081】
骨接着剤は、例えば骨折後の骨片を結合および固定するために、または例えば金属もしくはセラミックもしくはポリマーのインプラント材料を骨の表面または中に固定するために、本発明によるインプラント材料を基に調合されたものである。この機能において骨接着剤は、本発明によるインプラント材料のほかに、例えば歯科領域で付着プロモータとして知られている、付着を助成する物質および/またはポリアクリレートのような物質および/または陰イオン性モノマーから製造されたポリマーおよび/またはコポリマーを含んでいる。これらの物質は、歯科領域において、とりわけ歯質の表面での充填材料の付着を改善するために使用される(歯質は骨質と大いに類似している)。本発明によるインプラント材料に対して、これらの物質は特に有利であり、かつ多面的に組み合わせることができる。なぜならこれらの物質は、ペーストとも、水溶液とも幅広い濃度範囲で組み合わせ得るからである。この点で、本発明によるインプラント材料は従来の調合物と区別される。なぜなら特にこの点で特に有効な帯電したまたは極性の強い付着プロモータは、従来のミネラルセメントとは容易に組み合わせられないからである。付着プロモータの添加は、骨組織の表面でのインプラント材料のより強い付着をもたらす。
【0082】
有効物質担体は、本発明によるインプラント材料を基に調合されたものであり、この有効物質担体は、薬理学的有効物質を人または動物の生体内で治療機能を引き起こし得る濃度で含んでいる。この有効物質は、植込み後にインプラント材料から遊離される。したがって、直接的で局所的な作用を展開する有効物質、つまりインプラント材料の周辺にある組織に直接に作用する有効物質との組合せが好ましい。骨代謝を刺激し、局所的な炎症に作用する有効物質との組合せが好ましい。本発明によるインプラント材料をベースとし、抗生物質のような抗菌性有効物質を含むか、または骨形成タンパク質(BMP)もしくはパラトルモンに由来するペプチドのような骨同化タンパク質および/もしくはペプチドを含むか、またはビスホスホネートもしくはプロトンポンプ阻害薬のような骨再吸収抑制物質を含む有効物質担体が特に好ましい。
【0083】
本発明によるポリマー系の特に好ましい用途は、骨欠損の補充および骨粗しょう症の骨の増強にある。大多数の場合は、この適用は侵襲性が最小の手術技術において行われる。
【0084】
この典型的な例は、椎体形成術の様々な方法であり、この椎体形成術は、近年にますます普及しており、その臨床的な有効性はますますより良く記載されている。したがって、この処置技術がさらに練り上げられ、処置事例が大幅に増加することを基礎に置くべきである。椎体形成術(いわゆる脊柱後弯形成術を含む)の方法がさらに発展するかどうかは、全く本質的に、より良い増強材料が自由に使えるかどうかに依存する。これまでの骨セメントは、条件付きでしか適しておらず、幾つかの製品が椎体形成術向けに特別に提供されてはいるが、これらの製品は相変わらず、僅かに改変された粘性、硬化キネティクス、およびX線造影材料の含有率上昇を備えた従来の骨セメントにすぎない。本発明によるインプラント材料は特にその処理が明らかにより簡単であるので、本発明によるインプラント材料は原理的にこれらの用途において優っている。この用途の臨床的な成果を高めるためには、本発明によるインプラント材料を、骨内にインプラント材料を導入するための適切な適用システムと組み合わせなければならない。それには、最も簡単な場合、今日でも既に椎体形成術で用いられているように、単純なシリンジ・システムを使用することができる。ただし、ダブルチャンバ・シリンジおよびスタティックミキサ内でのインプラント材料の混合、および注入針または植込み部位まで届く適切な管との組合せが有用である。ここでは特に、インプラント材料を押出の際に初めて混合することが有利であり、つまり簡単なやり方で、1種のセメント・カートリッジによって複数の注入を行うことができ、ポリマー系が使用準備ができてすぐにシリンジから出てくるので、時間的に同調した準備作業を必要としない。それどころか1成分系としてのインプラント材料は、全く事前の混合なしで骨内に適用することができる。これは、冒頭で示した従来技術に対してかなりの使用技術上の利点であり、かつインプラント材料の準備に関する手術スタッフの各訓練が不要である。
【0085】
特に好ましい適用例は、脊柱後弯形成術として知られた方法であり、この方法では、まず椎体の骨粗しょう症の骨をバルーンによって広げ、かつ周辺では圧縮し、続いてできた空洞内に骨セメントを投入する。まさにこの用途の場合、適用器具一式を本発明によるインプラント材料と組み合わせることが特に有利である。なぜならこの場合、有利な適用システムを有利な充填材料と組み合わせ得るからである。したがって本発明によるインプラント材料を骨欠損、骨折間隙、骨粗しょう症の骨、骨腫瘍、または別の形で粗になった骨構造内に最小の侵襲性で投入するのに適した適用システムと、本発明によるインプラント材料との全ての組合せを特許請求する。同様に、前述のダブルチャンバ・シリンジ型の混合システムに取り付けることができる全ての付属品、またはそれを用いて本発明によるインプラント材料を目標部位へ適用する目的でそのようなシステムと結合される全ての付属品を特許請求する。
【0086】
本発明によるインプラント材料は、特に好ましいやり方で手術中に処理することができ、つまり体内に投与するために調製することができる。これは原理的に、本発明によるインプラント材料を、粉末および液体から混合される従来の骨セメントと区別する。同時に材料特性が、カニューレを介した簡単かつ信頼できる最小侵襲性の適用を可能にする。非常に幅広い混合比(例えば1:1、1:2、1:4、1:10)でインプラント材料の第1および第2の成分を自由に組み合わせることができるので、インプラント材料を、植込み部位で初めて添加され得るまたはされるべき非常に様々な生物因子と組み合わせることも可能になる。これは特に、血小板が豊富な血漿のような血清成分、手術中に採取される細胞懸濁液、および事前の培養で得られた懸濁液に当てはまる。