(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
鉄系合金、コバルト系合金及びチタン系合金などの、生体適合性の、固体溶液で強化した合金、並びに耐熱金属及び耐熱金属系合金は任意の数の移植式医療機器の製造に使用することができる。本発明に基づく移植式医療機器用の生体適合性合金には、今日用いられている医療グレードの合金と比較して多くの利点がある。こうした利点として、今日用いられている材料及び製造方法の制約を伴わずに設計者の意図通りの充分な動作を行うように、基礎となる微小構造を設計できる点がある。
【0017】
参考として、移植式の生体適合性機器の材料として広く使用されている316L(すなわち、UNS S31603)のような従来のステンレス鋼合金には、約16〜18重量%のクロム(Cr)、約10〜14重量%のニッケル(Ni)、約2〜3重量%のモリブデン(Mo)、2重量%以下のマンガン(Mn)、1重量%以下のケイ素(Si)、及び組成の残部(約65重量%)を構成する鉄(Fe)からなるものがある。
【0018】
更に、やはり移植式の生体適合性機器の材料として広く使用されているL605(すなわち、UNS R30605)のような従来のコバルト系合金には、約19〜21重量%のクロム(Cr)、約14〜16重量%のタングステン(W)、約9〜11重量%のニッケル(Ni)、3重量%以下の鉄(Fe)、2重量%以下のマンガン(Mn)、1重量%以下のケイ素(Si)、及び組成の残部(約49重量%)を構成するコバルト(Co)からなるものがある。
【0019】
また、やはり移植式の生体適合性機器の材料として広く使用されているHaynes188(すなわち、UNS R30188)のような別の従来のコバルト系合金には、約20〜24重量%のニッケル(Ni)、約21〜23重量%のクロム(Cr)、約13〜14重量%のタングステン(W)、3重量%以下の鉄(Fe)、1.25重量%以下のマンガン(Mn)、約0.2〜0.5重量%のケイ素(Si)、約0.02〜0.12重量%のランタン(La)、0.015重量%のホウ素(B)、及び組成の残部(約38重量%)を構成するコバルト(Co)からなるものがある。
【0020】
一般に、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)、タングステン(W)、マンガン(Mn)、ケイ素(Si)及びモリブデン(Mo)といった元素添加物が、臨床的に関連した使用条件の範囲内で強度、加工性及び耐腐食性などの所望の性能属性を向上又は実現する目的で必要に応じて鉄及び/又はコバルト系合金に添加されていた。
【0021】
図1を参照すると、本発明に基づく例示的ステント100が部分平面図にて示されている。例示的ステント100は、複数の可撓性連結要素104によって相互に連結された複数の環帯要素102を有する。環帯要素102は、ほぼ周方向を向いた径方向の支柱部材106及び交互に配された径方向の円弧部材108の連続した列として形成されている。環帯要素102は平面図で示されているが、基本的には可撓性連結要素104によって互いに連結されてほぼ管状のステント構造を形成する環状部材である。径方向支柱部材106と交互の径方向円弧部材108との組み合わせがほぼ正弦波状をなすパターンを形成している。環帯要素102は任意の数の設計的特徴を有して設計されてもよく、任意の数の形態を取りうるが、例示した実施形態では径方向支柱部材106は中央領域110において幅が広くなっている。この設計的特徴は、薬剤送達のために表面積を増大させるなど多くの目的に利用することができる。
【0022】
可撓性連結要素104は、ほぼ長手方向を向いた可撓性の支柱部材112及び交互に配された可撓性の円弧部材114の連続した列から形成されている。上記に述べたように可撓性連結要素104は隣り合う環帯要素102同士を互いに連結する。この例示的実施形態では、可撓性連結要素104は、一端が1つの環帯要素102の径方向円弧部材に連結され、他端が隣の環帯要素の径方向円弧部材に連結されたほぼN字形状を有している。環帯要素102と同様、可撓性連結要素104は任意の数の設計的特徴と任意の数の形態を有し得る。例示的実施形態では、可撓性連結要素104の両端は、ステントの圧縮時の収納を容易にするために隣り合う環帯要素の径方向円弧部材の異なる部分に連結されている。この例示的構成では、隣り合う環帯要素の径方向円弧部材はわずかに位相がずれているのに対して、1つおきの環帯要素の径方向円弧部材はほぼ位相が揃っている点に留意されたい。更に、各環帯要素のすべての径方向円弧部材が隣の環帯要素のすべての径方向円弧部材に連結される必要はない点に留意することが重要である。
【0023】
可撓性連結要素又は管腔内足場若しくはステントに任意の数の設計を利用できる点に留意することが重要である。例えば、上記に述べた設計では、連結要素は、ほぼ長手方向を向いた支柱部材と可撓性円弧部材の2つの要素からなっている。しかしながら別の設計では、連結要素がほぼ長手方向を向いた支柱部材のみからなり、可撓性円弧部材を含まないか、あるいは可撓性円弧連結要素のみからなり、ほぼ長手方向を向いた支柱部材を含まない場合もある。
【0024】
ステント100のほぼ管状の構造は、動脈などのほぼ管状の臓器の開通性を維持するための足場を与えるものである。ステント100は管腔面と反管腔面とを有する。これら2つの表面の間の距離は上記に詳しく述べたように壁厚を規定するものである。ステント100は導入のための拡張されていない直径と、ステントが導入される臓器の通常の直径に概ね一致した拡張した直径とを有する。動脈などの管状臓器は直径が異なり得るため、非拡張径と拡張径の異なる組み合わせを有する、サイズの異なるステントを本発明の趣旨から逸脱することなく設計することができる。本明細書で述べるように、ステント100はコバルト系合金、鉄系合金、チタン系合金、耐熱金属系合金及び耐熱金属などの任意の数の金属材料から形成することができる。更に、ステント100は下記に大まかに述べるようにマグネシウム系合金から形成してもよい。
【0025】
図1に示されるステント100の支持体構造はマグネシウムの比率が90%よりも高いマグネシウム合金からなっている。更にこのマグネシウム合金は、4%〜5%の比率のイットリウムと、希土類元素としてのネオジムを1.5%〜4%の比率で含有する。合金の残りの構成成分は1%未満であり、その大部分はリチウム又はジルコニウムからなる。
【0026】
この組成は、ここで特定したマグネシウム合金から全体又は一部が形成されたエンドプロテーゼは上記に大まかに述べた多くの異なる所望の性質に関し、関連する必要条件の多くを極めて詳細かつ積極的に満たすものであるという認識に基づいている。機械的必要条件以外にも、ここで特定したマグネシウム合金からしばしば全体又は一部が形成された材料は、軽微な炎症作用及び例えば再狭窄などの組織増殖の持続的な防止といった更なる生理的性質をも満たすものである。事実、試験によって、ここで特定したマグネシウム合金の分解物はマイナスの生理的作用をほとんどあるいはまったく有さないことが示されている。したがってここで特定したマグネシウム合金は、考えられる多くの材料の中でもとりわけ分解性移植式医療機器における使用の可能性を代表するものである。
【0027】
マグネシウム合金中のイットリウムの比率は4%〜5%であることが好ましい。マグネシウム合金中の希土類の比率は好ましくは1.5%〜4%であり、好ましい希土類元素としてはネオジムがある。1%未満のマグネシウム合金の残部は大部分がジルコニウム及び更に場合によりリチウムからなることが好ましい。
【0028】
ここで特定したマグネシウム合金の非常にプラスの性質のため、エンドプロテーゼの支持体構造は全体がマグネシウム合金からなることが好ましい。
【0029】
支持体構造の材料は押出し成型されることが好ましい。材料の加工処理方法が材料の生理的作用に影響することが分かっている。このため、好ましい支持体構造とは、公知の細胞試験において以下の生理的性質を有するものである。MTS生死試験において、平滑筋細胞(冠状動脈内皮細胞)を100%として490nmにおける吸光度が70%以上、すなわち、支持体構造の材料の溶出液と細胞を培養した際の細胞生存率が非処理細胞と比較して70%よりも高い。BrdU(ブロモデオキシウリジン)による細胞増殖試験において、増殖阻害効果が非処理の平滑筋細胞に対して20%よりも低い。すなわち、支持体構造のマグネシウム合金の影響下において、BrdUの吸収によって蛍光を発する細胞数が非処理の筋細胞による比較試験における結果を100%として20%である。例えばマグネシウム合金からなる押出し成型した支持体構造がこれらの生理的性質を有するのに対して、鋳造した支持体構造はこれらの性質を有さないことが示されている。したがってこれらの生理的性質は製造プロセスによって少なくとも部分的に決定されるものであり、必ずしもマグネシウム合金の内在的性質ではない。影響する要因の1つとして、完成した支持体構造を与えるための加工処理の際のマグネシウム合金の熱処理もある。
【0030】
他のマグネシウム合金製のステントは、上記に大まかに述べたように少量のアルミニウム、マンガン、亜鉛、リチウム、及び希土類金属を含んでいる。マグネシウムは水中では下式に従って通常、極めて緩慢に腐食する。
【0031】
Mg(s)+2H
2O(g)→Mg(OH)
2(aq)+H
2(g)
他の元素、特にアルミニウムは、大幅に大きな速度で分解してステントの近傍にアルカリ性環境を形成する溶性の電解質を滲出させ、これにより主な金属イオンの分解を速め、ステントの機械的強度が早期に失われる可能性がある。
【0032】
マグネシウム合金製のステントは多くの利点を有するものの、潜在的な問題点も多く存在し得る。例えば、マグネシウム合金は生体内では速く分解しすぎるために合金の金属組成を調整することによって分解速度を変化させることは困難である。更に、ステントの近傍におけるpHが上昇することによって腐食速度が更に加速し、周辺組織に対する負荷となる。これらの潜在的問題点は特殊なコーティング又はコーティング基質をステントに加えることによって解決することができる。この対抗策は、特殊なコーティング又はコーティング基質の分解による酸の発生であってよい。
【0033】
生体内におけるマグネシウム合金に伴う分解物には、水素ガス、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、及び他の組み合わせ生成物が含まれる。多くのこうした分解物はアルカリ性であり、局所的なpHをアルカリ領域へと増大させる。局所的pHのこうした上昇によって足場構造体又はステント本体の分解速度が速まる。吸収性マグネシウム合金ステントの現行の世代は移植後約1〜2カ月の時間でその構造の約半分が消失し、約2〜6カ月以内にほぼ完全に生体に吸収される。吸収プロセスの開始は機器の移植とほぼ同時であり、ステントはその機械的強度を急速に失い得る。上述したように、吸収性マグネシウム合金ステントの製造における冶金学的プロセスの制約のため、再狭窄や不安定プラークを治療するためのプラットフォームとしてのステントにおいて好ましい、2カ月よりも大幅に長い吸収時間を有する均一なマグネシウム合金を製造するためにマグネシウム合金の組成を変更することは容易ではない。
【0034】
潜在的な機械的強度の早期の損失以外に、材料の分解の結果としての局所pHの増大も、薬剤溶出ステントで用いられる薬剤/ポリマー基質に用いられる特定の薬剤の使用にとって不利となる。例えば、シロリムス(ラパマイシン)は高いpHすなわちアルカリ性条件において酸性又は中性のpH条件におけるよりも比較的速い速度で分解する。したがってたとえ微々たる上昇であっても局所pHの上昇を遅らせる必要がある。
【0035】
本発明に基づけば、高分子量の酸発生ポリマーを、水/水分の拡散が吸収性マグネシウム合金ステントと接触することを防止するためのバリアとしてステント又は他の移植式の医療機器のコーティングに用いることが可能であり、それによりステントに付着させられたあらゆる薬剤に更なる安定性を与えつつ移植後のステント分解の開始を遅らせることができる。こうした酸発生ポリマーバリアの分子量及び厚さを変化させることによって、機器の分解の開始を大幅に遅らせて、経皮的冠動脈形成術などの介入的処置後の再狭窄を最適に治療するためのより長い滞留時間を得ることができる。ステントの分解の開始が遅延されることによって更に、機器に付着させられた薬剤の相当な量、例えば30%以上をステント移植の決定的な初期の時間に活性型として放出させることができる。
【0036】
更に、やがて酸発生ポリマーコーティングも分解し、ポリマー鎖の酸末端基を発生する。ポリマーの分解によるこうした酸の発生によって、ステント自体の分解による局所pHの増大効果を中和することができる。この更なる自己中和プロセスは、ステントの分解を遅らせると同時にステントに付着させられた未放出の薬剤にとって好ましいpH環境を維持する機構を更に与えるものである。
【0037】
ポリマー混合物(ブレンド)は、2つ以上のポリマー又はコポリマーが混合されて異なる物性を有する新たな材料を形成する新たな種類の材料である。基本的にポリマー又はコポリマーの混合は、混合物を構成する構成成分の有用な性質を組み合わせた新たな材料を製造する手段を与えるものである。
【0038】
また、分子量の異なる酸発生ポリマー又はコポリマーの混合物をコーティングとして用いることによって、機器の移植後の初期の時間に酸末端基を発生するコーティングの最適な性質を与えることができる。生体吸収性ポリマーの分解速度はその分子量に反比例する。すなわち、分子量の大きなポリマーほど分解に長い時間を要する。逆に分子量の小さなポリマーほど分解に要する時間は短い。したがって、ポリマー又はコポリマーは移植後、より速やかに分解して酸末端基を与える。また、重量が同じである場合、分子量の小さいポリマー又はコポリマーほどより多くのポリマー鎖を有し、したがってポリマー分解後により多くの酸末端基を発生する。分子量の異なる酸発生ポリマー又はコポリマーを混合することによって、速い又は遅い分解の利点を利用することができる。更に、この構成によりより多くの酸末端基が最初から与えられる。この混合物によるアプローチは、局所環境において安定かつより大きな酸末端基の供給源を与えることによって下層の分解性金属合金の分解によるpHのいかなる上昇も中和するのを助けるものである。高分子量及び低分子量のポリマーシステムの優れた混合物として、PLA又はPDLAホモポリマーシステムがある。高分子量及び低分子量のPLGAの混合物もこの目的に適している。
【0039】
更に、酸末端基を有する特殊なPLA及びPLGAコポリマーをこの目的で使用することもできる。酸末端基含有PLA及びPLGAは、ラクチド及びラクチドとグリコリドとの混合物の開環重合反応の開始剤として水又はカルボン酸を用いることによって合成することができる。
【0040】
また、酸側鎖を有するポリマー又はコポリマーをコーティングとして使用して酸性環境を与えることによって移植後に分解性金属合金が分解する際に局所pHを低下させるのを助けることもできる。星形又は樹枝状の分解性ポリマー及びコポリマーをコーティングとして使用することによっても分解時に酸末端基を与えることができる。例えば、ペンタエリスリトールで開始されたPLA及びPLGAは最終的なポリマーにおいてPLA及びPLGAの4本の腕を有する。そのためこれらのポリマーは分解反応の際に酸末端基を発生する能力が4倍高い。
【0041】
例示的な一実施形態によれば、ポリマー及び/又はコポリマーの混合物は高分子量、例えば少なくとも100キロダルトン(1.661×10
−19g)のポリラクチドと、低分子量、例えば10キロダルトン(1.661×10
−20g)未満のポリラクチドとからなる。この例示的実施形態では、低分子量のポリラクチドに対する高分子量のポリラクチドの重量比は約5:1〜約1:5の範囲であってよい。
【0042】
別の例示的な実施形態によれば、ポリマー及び/又はコポリマーの混合物は高分子量、例えば少なくとも100キロダルトン(1.661×10
−19g)のポリラクチド−コ−グリコリドと、低分子量、例えば10キロダルトン(1.661×10
−20g)未満のポリラクチド−コ−グリコリドとからなる。この例示的実施形態では、低分子量のポリラクチド−コ−グリコリドに対する高分子量のポリラクチド−コ−グリコリドの重量比は約5:1〜約1:5の範囲であってよい。
【0043】
別の例示的な実施形態によれば、ポリマー及び/又はコポリマーの混合物は高分子量、例えば少なくとも100キロダルトン(1.661×10
−19g)のポリカプロラクトンと、低分子量、例えば10キロダルトン(1.661×10
−20g)未満のポリラクチド−コ−グリコリドとからなる。この例示的実施形態では、低分子量のポリラクチド−コ−グリコリドに対する高分子量のポリカプロラクトンの重量比は約5:1〜約1:5の範囲であってよい。
【0044】
別の例示的な実施形態によれば、ポリマー及び/又はコポリマーの混合物は高分子量、例えば少なくとも100キロダルトン(1.661×10
−19g)のポリラクチドと、低分子量、例えば10キロダルトン(1.661×10
−20g)未満でかつカルボキシル末端基を有するポリラクチドとからなる。この例示的実施形態では、カルボキシル末端基を有する低分子量のポリラクチドに対する高分子量のポリラクチドの重量比は約5:1〜約1:5の範囲であってよい。
【0045】
別の例示的な実施形態によれば、ポリマー及び/又はコポリマーの混合物は高分子量、例えば少なくとも100キロダルトン(1.661×10
−19g)のポリラクチド−コ−グリコリドと、低分子量、例えば10キロダルトン(1.661×10
−20g)未満でかつカルボキシル末端基を有するポリラクチド−コ−グリコリドとからなる。この例示的実施形態では、カルボキシル末端基を有する低分子量のポリラクチド−コ−グリコリドに対する高分子量のポリラクチド−コ−グリコリドの重量比は約5:1〜約1:5の範囲であってよい。
【0046】
別の例示的な実施形態によれば、ポリマー及び/又はコポリマーの混合物は高分子量、例えば少なくとも100キロダルトン(1.661×10
−19g)のポリカプロラクトンと、低分子量、例えば10キロダルトン(1.661×10
−20g)未満でかつカルボキシル末端基を有するポリラクチド−コ−グリコリドとからなる。この例示的実施形態では、カルボキシル末端基を有する低分子量のポリラクチド−コ−グリコリドに対する高分子量のポリカプロラクトンの重量比は約5:1〜約1:5の範囲であってよい。
【0047】
上記に述べた例示的実施形態のそれぞれにおいて、混合物の各成分の重量比を操作することによって混合物の所望の機械的及び化学的性質を実現することができる。具体的には、より低分子量の成分及びカルボキシル末端基を有する成分が分解時に利用可能な酸の量を調節するのに対して、より高分子量の成分は混合物の機械的性質を調節する。
【0048】
こうした更なる高分子量の酸発生ポリマーを
図2に示すようにステントと薬剤含有ポリマー基質との間の分離バリアとして使用することが可能であり、あるいはこうした高分子量の酸発生ポリマーを
図3に示されるように薬剤含有コーティング基質自体として機能させることも可能である。一般的な酸発生ポリマーとしては、ポリラクチド(PLA)、ポリグリコリド(PGA)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリ(トリメチルカーボネート)及びそれらの多数のコポリマーなどのポリ(ω−,α−,又はβ−ヒドロキシ脂肪酸)が含まれる。これらのポリマーはそれぞれ特定の用途及び特定の薬剤に合わせて調整することによって最適なコーティング機構を与えることができる。
【0049】
図2は、3層の構成を示したものである。ステント100を、本明細書中で述べる高分子量の酸発生ポリマー200のいずれか又は他の任意の適当な酸発生ポリマーによってまずコーティングし、次いでポリマー/薬剤複合層でコーティングする。これらのポリマーにはPLA、PLGA、PCL、ポリ(エステルアミド)が含まれる。
図3は、ステント100が単一の層300によってコーティングされている2層の構成を示したものである。この単一層300は薬剤、又は薬剤と上述した高分子量の酸発生ポリマーとの組み合わせからなる。あるいはポリマーの組み合わせを用いて単一層を形成してもよい。
【0050】
治療薬/治療薬の組み合わせの局所への送達を利用することによって、任意の数の医療機器を用いて多岐にわたる状態を治療したり、機器の機能及び/又は寿命を向上させることが可能である。例えば、白内障の手術後に視力を回復するために留置される眼内レンズはしばしば後発白内障の形成によって機能が損なわれる。後発白内障はしばしばレンズ表面における細胞の異常増殖の結果起こり、薬剤を機器と組み合わせることによって最小限にされる可能性がある。組織の内部成長や機器の内部、表面、及び周囲へのタンパク性物質の蓄積によってその機能がしばしば損なわれる、水頭症用のシャント、透析グラフト、人工肛門形成術用バッグ取り付け装置、耳のドレナージ管、ペースメーカーのリード、及び移植型除細動器といった他の医療機器もこうした機器/薬剤の複合的アプローチによって利するものである。組織又は臓器の構造及び機能を改善する機能を有する機器も、適当な薬剤と組み合わせた場合にやはり効果を示す。例えば、移植される機器の安定性を高める整形外科用機器の骨結合(osteointegration)は、機器を骨形成タンパク質などの薬剤と組み合わせることによって達成する可能性がある。同様に他の手術器具、縫合糸、ステープル、吻合装置、椎間板(vertebral disk)、骨ピン、縫合糸アンカー、止血バリア、クランプ、スクリュー、プレート、クリップ、血管インプラント、組織接着剤及びシーラント、組織スキャフォールド、各種ドレッシング、骨代用材、管腔内装置、及び血管支持具もこうした機器/薬剤の複合的アプローチを用いることで患者にとって利するところが大きい。血管周囲ラップは単独又は他の医療機器と組み合わせても特に効果的である。血管周囲ラップは治療部位に更なる薬剤を供給することが可能である。基本的に他のあらゆる種類の医療機器を薬剤又は薬剤の組み合わせによって何らかの方法でコーティングすることが可能であり、これにより機器又は薬剤の単独の使用と比較して優れた治療効果が得られる。
【0051】
各種の医療機器以外に、これらの機器へのコーティングを利用して以下のような治療薬及び医薬製剤を送達することが可能である。すなわち、ビンカアルカロイド類(すなわち、ビンブラスチン、ビンクリスチン、及びビンオレルビン)、パクリタキセル、エピディポドフィロトキシン類(すなわち、エトポシド、テニポシド)、抗生物質(ダクチノマイシン(アクチノマイシンD)、ダウノルビシン、ドキソルビシン、及びイダルビシン)、アントラサイクリン類、ミトキサントロン、ブレオマイシン類、プリカマイシン(ミトラマイシン)及びマイトマイシンなどの天然物を含む抗増殖/有糸分裂阻害剤;各種酵素(全身性にL−アスパラギンを代謝し、自身のアスパラギンを合成する能力のない細胞を枯渇させるL−アスパラギナーゼ);G(GP)ll
b/lll
a阻害剤及びビトロネクチン受容体アンタゴニストなどの抗血小板剤;ナイトロジェンマスタード(メクロレタミン、シクロホスファミド及び類似体、メルファラン、クロラムブシル)、エチレンイミン類及びメチルメラミン類(ヘキサメチルメラミン及びチオテパ)、アルキルスルホン酸−ブスルファン、ニトロソ尿素(カルムスチン(BCNU)及び類似体、ストレプトゾシン)、トラゼン−ダカルバジニン(DTIC)などの抗増殖剤/有糸分裂阻害アルキル化剤;葉酸類似体(メトトレキサート)、ピリミジン類似体(フルオロウラシル、フロクスウリジン及びシタラビン)、プリン類似体及び関連阻害剤(メルカプトプリン、チオグアニン、ペントスタチン及び2−クロロデオキシアデノシン{クラドリビン})などの抗増殖/有糸分裂阻害代謝拮抗剤;白金配位錯体(シスプラチン、カルボプラチン)、プロカルバジン、ヒドロキシ尿素、ミトタン、アミノグルテチミド;各種ホルモン(すなわち、エストロゲン);抗凝固剤(ヘパリン、合成ヘパリン塩類及び他のトロンビン阻害剤);繊維素溶解剤(組織プラスミノーゲン活性化因子、ストレプトキナーゼ及びウロキナーゼなど)、アスピリン、ジピリダモール、チクロピジン、クロピドグレル、アブシキシマブ;抗遊走剤;分泌抑制剤(ブレベルジン);抗炎症剤、例えば、副腎皮質ステロイド(コルチゾール、コルチゾン、フルドロコルチゾン、プレドニゾン、プレドニゾロン、6α−メチルプレドニゾロン、トリアムシノロン、ベタメタゾン、及びデキサメタゾン)、非ステロイド剤(サリチル酸誘導体、すなわちアスピリン;p−アミノフェノール誘導体、すなわちアセトアミノフェン;インドール及びインデン酢酸(インドメタシン、スリンダク及びエトダラック)、ヘテロアリール酢酸(トルメチン、ジクロフェナク及びケトロラック)、アリールプロピオン酸(イブプロフェン及び誘導体)、アントラニル酸(メフェナム酸及びメクロフェナム酸)、エノール酸(ピロキシカム、テノキシカム、フェニルブタゾン及びオキシフェンタトラゾン)、ナブメトン、金化合物(オーラノフィン、オーロチオグルコース、金チオリンゴ酸ナトリウム);免疫抑制剤:(シクロスポリン、タクロリムス(FK−506)、シロリムス(ラパマイシン)、アザチオプリン、ミコフェノール酸モフェチル);血管形成剤:血管内皮細胞増殖因子(VEGF)、繊維芽細胞増殖因子(FGF);アンジオテンシン受容体阻害薬;酸化窒素供与体;アンチセンスオリゴヌクレオチド及びその組み合わせ;細胞周期阻害剤、mTOR阻害剤、及び増殖因子受容体シグナル伝達キナーゼ阻害剤;レテノイド;サイクリン/CDK阻害剤;HMG補酵素リダクターゼ阻害剤(スタチン);及びプロテアーゼ阻害剤が挙げられる。
【0052】
別の例示的実施形態によれば、本明細書で述べるステントは、金属で形成されるかポリマーで形成されるかによらず、治療薬又は薬剤送達装置として利用することができる。こうした金属製ステントは、治療薬を取り込ませた状態で生体安定性又は生体吸収性ポリマー又はそれらの組み合わせによってコーティングすることができる。コーティングの一般的な材料特性として、可撓性、延性、粘着性、耐久性、接着性及び凝集性が挙げられる。これらの望ましい性質を示す生体安定性及び生体吸収性ポリマーとしては、メタクリレート、ポリウレタン、シリコーン、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、エチレンビニルアルコール、フッ化ポリビニリデン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、ポリトリメチレンカーボネート、ポリジオキサノン、ポリオルトエステル、ポリ無水物、ポリリン酸エステル、ポリアミノ酸、並びにそれらのコポリマー及び混合物が挙げられる。
【0053】
治療薬を取り込ませる以外に、コーティングは更に、放射線不透過性成分、コーティング及び/又は治療薬の双方の化学的安定剤、放射性剤、トリチウム(すなわち、重水)などの放射性同位体及び強磁性粒子などのトレーサー、並びに下記に詳述するようなセラミックマイクロスフェアのような機械的改質剤などの他の添加剤を含んでもよい。また、機器の表面とコーティングとの間、及び/又はコーティングの内部に閉じ込められた空隙が形成されてもよい。こうした空隙の例としては、空気並びに他の気体及び物質の不在(すなわち真空環境)が挙げられる。こうした閉じ込められた空隙は、マイクロカプセル化されたガス状物質を注入するなど、任意の数の公知の方法を用いて形成することができる。
【0054】
上述したように、シロリムス、ヘパリン、エベロリムス、ピメクロリムス、タクロリムス、パクリタキセル、クラドリビン、及びスタチン類などの薬剤のクラスを含む、異なる薬剤を治療薬として用いることができる。これらの薬剤及び/又は物質は親水性、疎水性、親油性及び/又は疎油性であってよい。薬剤の種類はポリマーの種類を決定する上で一定の役割を果たす。コーティング中の薬剤の量は、コーティングの貯蔵能力、薬剤、薬剤の濃度、薬剤の溶出速度及び多くの更なる因子を含む、多くの因子に応じて変化させることができる。薬剤の量はほぼ0%〜ほぼ100%で変化させることができる。一般的な範囲は約1%未満〜約40%以上である。コーティング中の薬剤の分布を変化させることができる。1つ以上のこうした薬剤を単一層、複数の層、拡散バリアを有する単一層、又はこれらの任意の組み合わせ中に分布させることができる。
【0055】
異なる溶媒を使用して薬剤/ポリマー混合物を溶解してコーティング製剤を調製することができる。一部の溶媒は、所望の薬剤溶出プロファイル、薬剤の形態、及び薬剤の安定性に基づいて良溶媒又は貧溶媒となるものがある。
【0056】
ステントをコーティングするための複数の方法が従来技術で開示されている。一般的に用いられる方法としては、スプレーコーティング、ディップコーティング、静電コーティング、流動床コーティング、及び超臨界流体コーティングがある。
【0057】
本明細書で述べられる、使用可能なプロセス及びその改変の一部のものによれば、ポリマーによってステント上に薬剤を保持する必要がなくなる。薬剤の含量及び組織と機器との相互作用を増大させるため、ステント表面を改質することによって表面積を増大させることができる。ナノテクノロジーを応用して、組織特異的な薬剤含有ナノ粒子を含むことが可能な自己組織化ナノ材料を生成することができる。こうしたナノ粒子を取り込ませることが可能なマイクロエッチングによって表面に微小構造を形成することができる。こうした微小構造は、レーザーマイクロマシニング、リソグラフィー、化学蒸着、及び化学エッチングなどの方法によって形成することができる。微小構造はまた、微小電気機械システム(MEMS)及びマイクロ流体工学の発展を推進することによってポリマー及び金属上に形成されてきた。ナノ材料の例としては、カーボンナノチューブ及びゾルゲル技術によって形成されるナノ粒子がある。治療薬をこれらの表面に化学的又は物理的に直接付着又は被覆することができる。これらの表面改質法を組み合わせることによって所望の速度で薬剤を放出させることが可能である。ポリマーのトップコートを適用することによってポリマーコーティングがない場合に薬物が直ちに露出することによる初期の大量放出を制御することができる。
【0058】
上記に述べたように、ポリマー製のステントはコーティング(例、表面改質)として薬剤を含有することができる。また、ステント構造中に薬剤を取り込ませることも可能である(例、コーティングを必要としない本体の改変)。生体安定性及び/又は生体吸収性ポリマーから調製されるステントでは、コーティングが用いられる場合、コーティングを生体安定性又は生体吸収性とすることができる。しかしながら、上記に述べたように、機器自体が送達用貯蔵体から製造されることからコーティングは必要ではない。こうした実施形態は多くの利点を有する。例えば、薬剤の濃度を高くすることができる。更に、高濃度の薬剤によって、より長時間にわたって局所への送達が実現される。
【0059】
更なる別の代替的実施形態では、ベース材料の物性を改変するためにベース材料にセラミック及び/又はガラスを意図的に取り込ませる。通常、セラミック及び/又はガラスの意図的な取り込みは医療用途で使用されるポリマー性材料中に行われる。生体安定性及び/又は生体吸収性のセラミック及び/又はガラスの例としては、ヒドロキシアパタイト、リン酸三カルシウム、マグネシア、アルミナ、ジルコニア、イットリウム正方多結晶ジルコニア、非晶質シリコン、非晶質カルシウム、及び非晶質酸化リンを挙げることができる。多くの技術を用いることができるが、工業用に適したゾルゲル法を用いることによって生体安定性のガラスを生成することができる。ゾルゲル技術は、セラミックとガラスのハイブリッドを形成するための溶液法である。通常は、ゾルゲル法では、大部分がコロイド状の液体(ゾル)からゲルに系を変換することを含む。
【0060】
ここで図示及び説明した実施形態は、最も実用的で好適な実施形態と考えられるが、当業者であれば、ここに図示及び開示した特定の設計及び方法からの変更はそれ自体当業者にとって自明であり、本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく使用できることは明らかであろう。本発明は、説明及び図示した特定の構成に限定されるものではなく、添付の特許請求の範囲に含まれうるすべての改変とすると解釈されるべきである。
【0061】
〔実施態様〕
(1) 生体分解性の金属材料から形成された足場構造体と、
前記足場構造体に付着させられた少なくとも1つのコーティングと、を含み、前記少なくとも1つのコーティングが、少なくとも100キロダルトン(1.661×10
−19g)の分子量を有するポリラクチドと10キロダルトン(1.661×10
−20g)未満の分子量を有するポリラクチドとの混合物を含み、低分子量のポリラクチドに対する高分子量のポリラクチドの重量比が約5:1〜約1:5の範囲である、管腔内医療機器。
(2) 生体分解性の金属材料から形成された足場構造体と、
前記足場構造体に付着させられた少なくとも1つのコーティングと、を含み、前記少なくとも1つのコーティングが、少なくとも100キロダルトン(1.661×10
−19g)の分子量を有するポリラクチド−コ−グリコリドと10キロダルトン(1.661×10
−20g)未満の分子量を有するポリラクチド−コ−グリコリドとの混合物を含み、前記低分子量のポリラクチド−コ−グリコリドに対する前記高分子量のポリラクチド−コ−グリコリドの重量比が約5:1〜約1:5の範囲である、管腔内医療機器。
(3) 生体分解性の金属材料から形成された足場構造体と、
前記足場構造体に付着させられた少なくとも1つのコーティングと、を含み、前記少なくとも1つのコーティングが、少なくとも100キロダルトン(1.661×10
−19g)の分子量を有するポリカプロラクトンと10キロダルトン(1.661×10
−20g)未満の分子量を有するポリラクチド−コ−グリコリドとの混合物を含み、ポリラクチド−コ−グリコリドに対するポリカプロラクトンの重量比が約5:1〜約1:5の範囲である、管腔内医療機器。
(4) 生体分解性の金属材料から形成された足場構造体と、
前記足場構造体に付着させられた少なくとも1つのコーティングと、を含み、前記少なくとも1つのコーティングが、少なくとも100キロダルトン(1.661×10
−19g)の分子量を有するポリラクチドと10キロダルトン(1.661×10
−20g)未満の分子量を有しかつカルボキシル末端基を有するポリラクチドとの混合物を含み、カルボキシル末端基を有する低分子量のポリラクチドに対する高分子量のポリラクチドの重量比が約5:1〜約1:5の範囲である、管腔内医療機器。
(5) 生体分解性の金属材料から形成された足場構造体と、
前記足場構造体に付着させられた少なくとも1つのコーティングと、を含み、前記少なくとも1つのコーティングが、少なくとも100キロダルトン(1.661×10
−19g)の分子量を有するポリラクチド−コ−グリコリドと10キロダルトン(1.661×10
−20g)未満の分子量を有しかつカルボキシル末端基を有するポリラクチド−コ−グリコリドとの混合物を含み、カルボキシル末端基を有する低分子量のポリラクチド−コ−グリコリドに対する高分子量のポリラクチド−コ−グリコリドの重量比が約5:1〜約1:5の範囲である、管腔内医療機器。
(6) 生体分解性の金属材料から形成された足場構造体と、
前記足場構造体に付着させられた少なくとも1つのコーティングと、を含み、前記少なくとも1つのコーティングは、少なくとも100キロダルトン(1.661×10
−19g)の分子量を有するポリカプロラクトンと10キロダルトン(1.661×10
−20g)未満の分子量を有しかつカルボキシル末端基を有するポリラクチド−コ−グリコリドとの混合物を含み、カルボキシル末端基を有するポリラクチド−コ−グリコリドに対するポリカプロラクトンの重量比が約5:1〜約1:5の範囲である、管腔内医療機器。
(7) 病理学的状態を治療するために治療上の有効量で局所的に放出される治療薬を更に含む、実施態様1に記載の管腔内機器。
(8) 病理学的状態を治療するために治療上の有効量で局所的に放出される治療薬を更に含む、実施態様2に記載の管腔内機器。
(9) 病理学的状態を治療するために治療上の有効量で局所的に放出される治療薬を更に含む、実施態様3に記載の管腔内機器。
(10) 病理学的状態を治療するために治療上の有効量で局所的に放出される治療薬を更に含む、実施態様4に記載の管腔内機器。
(11) 病理学的状態を治療するために治療上の有効量で局所的に放出される治療薬を更に含む、実施態様5に記載の管腔内機器。
(12) 病理学的状態を治療するために治療上の有効量で局所的に放出される治療薬を更に含む、実施態様6に記載の管腔内機器。