特許第5932093号(P5932093)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5932093重質留分の分解反応を利用した炭素構造体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5932093
(24)【登録日】2016年5月13日
(45)【発行日】2016年6月8日
(54)【発明の名称】重質留分の分解反応を利用した炭素構造体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 31/02 20060101AFI20160526BHJP
   C10G 11/02 20060101ALI20160526BHJP
【FI】
   C01B31/02 101Z
   C10G11/02
【請求項の数】10
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2015-74511(P2015-74511)
(22)【出願日】2015年3月31日
(65)【公開番号】特開2015-196641(P2015-196641A)
(43)【公開日】2015年11月9日
【審査請求日】2015年3月31日
(31)【優先権主張番号】10-2014-0037932
(32)【優先日】2014年3月31日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】314012308
【氏名又は名称】延世大学校 産学協力団
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITY−INDUSTRY FOUNDATION, YONSEI UNIVERSITY
(74)【代理人】
【識別番号】100080012
【弁理士】
【氏名又は名称】高石 橘馬
(72)【発明者】
【氏名】リ チャンハ
(72)【発明者】
【氏名】アントン コリアキン
(72)【発明者】
【氏名】キム ドウク
(72)【発明者】
【氏名】ウ ウンジ
【審査官】 森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−166849(JP,A)
【文献】 特開2010−222239(JP,A)
【文献】 特開2013−085988(JP,A)
【文献】 特開2006−088038(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 31/00 − 31/36
C10G 11/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重質留分の分解反応で分離した廃触媒、重質留分残余分,及び反応中に生成された炭素素材物質を含む固体成分をか焼する段階と;
前記段階でか焼された固体成分を酸処理または塩基処理する段階とを含む中空型炭素構造体の製造方法。
【請求項2】
重質留分の分解反応は、炭化水素溶媒、重質留分及び触媒を含む反応器の内部条件を超臨界または亜臨界状態に制御し、重質留分を分解反応させる段階と;
前記分解反応によって生成された液体留分及び固体成分を分離する段階とを含む、請求項1に記載の中空型炭素構造体の製造方法。
【請求項3】
重質留分は、減圧残渣油、原油、常圧残渣油、水素化反応残渣油またはサンドオイルである、請求項1又は2に記載の中空型炭素構造体の製造方法。
【請求項4】
炭化水素溶媒は、ドデカン、キシレン、テトラリンまたはこれらの混合物である、請求項2に記載の中空型炭素構造体の製造方法。
【請求項5】
触媒は、金属系または非金属系酸化物触媒である、請求項2に記載の中空型炭素構造体の製造方法。
【請求項6】
固体成分をか焼する段階前に、前記固体成分を洗浄及び乾燥する段階を行う、請求項1〜5のいずれかに記載の中空型炭素構造体の製造方法。
【請求項7】
か焼は、550〜650℃で1〜12時間行われる、請求項1〜6のいずれかに記載の中空型炭素構造体の製造方法。
【請求項8】
酸処理または塩基処理は、酸または塩基と蒸留水の体積比が1:1〜1:5の溶液を使用して6〜20時間行う、請求項1〜7のいずれかに記載の中空型炭素構造体の製造方法。
【請求項9】
酸処理または塩基処理された固体成分を2次か焼する段階を含む、請求項1〜8のいずれかに記載の中空型炭素構造体の製造方法。
【請求項10】
2次か焼は、700〜1200℃で1〜12時間行う、請求項9に記載の中空型炭素構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重質留分の分解反応を利用した炭素構造体の製造方法関する。
【背景技術】
【0002】
天然ガスは、石油及び石炭とともに世界3大エネルギー資源の1つであって、生産及び消費がいずれも2000年代に入って高い増加傾向を示している。前記天然ガスは、化石燃料より温室ガスを少なく生産するので、世界エネルギー供給において次第に重要な役目をするものと期待されている。しかし、天然ガスに含まれる硫化水素(hydrogen sulfide)、メルカプタン(mercaptans)及びテトラヒドロチオフェン(tetrahydrothiophene)のような硫黄化合物は、燃焼中にSOxに転換されて酸性雨を起こし、工程で使用される触媒を被毒させる問題が発生した。したがって、硫黄化合物を除去するためにさまざまな方案が提案されている。
【0003】
軍事的な側面で、化学・生物・放射能武器は、硫黄元素を含むハロゲン化合物で構成されており、化学・生物・放射能戦闘に備えた軍用保護衣には、活性炭粒子を入れて軍人を保護した。しかし、活性炭を軍用保護衣に使用するとき、活性炭の重さに起因して軍人の活動に差し支えを与えることができるので、性能は維持しながら、活動性を向上することができる代替物質を要求している実情である。
【0004】
また、最近、気候変化への対応技術として、多孔性の活性炭にアミン類の吸収剤を含浸して二酸化炭素を捕集する物質が多様に開発されている。このような技術の向上のために、さらに効率的な気孔素材の必要性が提起されている。
【0005】
硫黄化合物の除去、二酸化炭素の分離及び多孔性担体への使用において重要な要素は、適当な吸着剤を選択するものである。様々な吸着剤が適用されることができるが、効果的な活用のための重要な要因は、対象物質に対する高い吸着容量と容易な脱着条件である。吸着量が高いとしても、脱着が難しい場合、吸着剤を再生するのに多くの費用がかかるので、技術適用に困難性と非効率性が生ずる。また、処理混合物に水分がある場合、吸着剤が水分によって性能が急激に減少する場合も発生する。したがって、水分に対する抵抗性も選択に主要指標になる。
【0006】
天然ガスの生産・消費が増加しているが、石油資源は、世界産業を導いて来た重要なエネルギー源であって、石油資源が全世界の経済及び産業に及ぶ影響力は非常に重大である。石油資源の有限性及び偏在性に対する不安要素が提起されている。一方、国民所得が高くなるにつれて、輸送燃料、特に軽油製品に対する需要は持続的に増加するが、バンカー油などの重質製品に対する需要は減少しており、過去に比べて生産される原油は、高硫黄及び重質原油の比率が増加している。
【0007】
全世界的に原油埋蔵量が減少し、長期的に高油価が持続していて、超高硫黄超重質油、オイルサンドだけでなく、原油代替物であるビチューメン(bitumen)などのような低価重質炭化水素留分を改質する必要性が提起されており、このような時代の流れに伴い、重質油の高付加化技術が強調されている。
【0008】
転換工程の例としてガス化(gasification)、ディレイドコーキング(delayed coking),RFCC(residue fluid catalytic cracking)及び水素化分解(hydrocracking)などが知られている。前記言及された転換工程の反応条件によって軽質油の生産とともに、一部は炭素が主成分である固体副産物が一定比率で生成される。したがって、このような転換工程を利用して軽質油を生産し、同時に炭素固体副産物はさまざまな前処理過程を通じて選択度、吸着容量及び安定性に優れた炭素素材を製作することができる場合、大きい付加価置を創出することができるものと予測される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明では、触媒を使用した重質留分の分解反応で廃触媒の表面に生成される炭素に対してさまざまな前処理を通じて二酸化炭素分離、硫黄化合物除去及び多様な物質の担体として使用されることができる中空型炭素構造体を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明では、重質留分の分解反応で分離した廃触媒、重質留分残余分,及び反応中に生成された炭素素材物質を含む固体成分をか焼する段階と;
前記段階でか焼された固体成分を酸処理または塩基処理する段階とを含む中空型炭素構造体の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明による中空型炭素構造体は、触媒を使用した重質留分の分解反応で廃触媒の表面に生成される炭素物質にさまざまな前処理過程を行って製造される。したがって、重質留分で軽質油を生産し、その副産物で炭素素材(中空型炭素構造体)を作ることができ、少ない生産費を必要とする長所がある。
【0013】
また、重質留分の分解反応によって、触媒表面には、ナノ厚さの炭素素材が施されるようになり、重質留分の分解反応条件によって炭素素材の厚さを調節することができる。
【0014】
また、炭素素材内部の触媒は、酸処理または塩基処理を通じて除去されるので、炭素素材内部の空いた空間のサイズは、使用される触媒のサイズを通じて調整することができるという利点がある。このような炭素素材は、硫黄化合物に対する選択度及び吸着能に優れていて、硫黄化合物除去のための吸着剤として有用に使用されることができ、炭素の特性によって水分に対する抵抗性も保有している。
【0015】
また、高い気孔度と比表面積を保有していて、二酸化炭素除去及び多様な担体への役目が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施例による中空型炭素構造体を製造するための工程図である。
図2】本発明の実施例1による中空型炭素構造体のSEMイメージである。
図3】本発明の実施例1による中空型炭素構造体のTEMイメージである。
図4】本発明の実施例2による中空型炭素構造体のTEMイメージである。
図5】本発明の実施例1及び実施例3によって製造された中空型炭素構造体のXRD分析グラフである。
図6】本発明の実施例3によって製造された中空型炭素構造体の硫黄の量を分析したグラフである。
図7】本発明の実施例1及び比較例の中空型炭素構造体及び活性炭の窒素吸着/脱着等温反応を通じて気孔分布を測定したグラフである。
図8】本発明の実施例1及び比較例の中空型炭素構造体及び活性炭の二酸化炭素吸着/脱着等温線を示したグラフである。
図9】本発明の実施例1及び比較例の中空型炭素構造体及び活性炭の硫黄化合物除去能力を分析したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、重質留分の分解反応で分離した廃触媒、重質留分残余分,及び反応中に生成された炭素素材物質を含む固体成分をか焼する段階と;
【0018】
前記段階でか焼された固体成分を酸処理または塩基処理する段階とを含む中空型炭素構造体の製造方法に関する。
【0019】
本発明で「中空型炭素構造体」は、前述した製造方法によって製造されるものであって、内部は、中空であり、外部の皮は、多孔性の炭素素材物質、具体的に多孔性のグラファト層で構成されることができる。前記中空型炭素構造体は、二酸化炭素分離及び硫黄化合物除去用に使用することができ、また、多様な物質の担体として使用することができる。
【0020】
以下、本発明による中空型炭素構造体を詳細に説明する。
本発明の中空型炭素構造体は、前述したように、重質留分の分解反応で分離した固体成分をか焼する段階;及び前記段階でか焼された固体成分を酸処理または塩基処理する段階を通じて製造される。
【0021】
本発明で重質留分の分解反応は、重質留分をさらに低い沸点を有する炭化水素留分に転換させる工程を意味するものであって、当業界で一般的に利用される重質留分の分解反応を利用することができる。
【0022】
一具体例で、前記重質留分の分解反応は、重質留分、炭化水素溶媒及び触媒を含む反応器の内部条件を超臨界または亜臨界状態に制御して、重質留分を分解反応させる段階と;
【0023】
前記分解反応によって生成された液体留分及び固体成分を分離する段階とを含むことができる。
【0024】
前記重質留分の分解反応で重質留分(または、重質炭化水素留分と言える)は、360℃以上の沸点を有する炭化水素留分を使用することができ、より具体的に、脱アスファルト化(例えば、溶剤アスパルテン除去(solvent deasphalthene;SDA))になって360℃以上の沸点を有する炭化水素留分を使用することができる。このような重質留分の例としては、原油、常圧残渣油、減圧残渣油、水素化反応残渣油またはサンドオイルなどを使用することができ、具体的には、減圧残渣油を使用することができる。この際、前記重質留分の沸点は、初留点(IBP)または5%蒸留点を意味することができる。
【0025】
特に、本発明で重質留分は、約360℃以下の留分が一部含有されるか、または後述する炭化水素溶媒に対して一部不溶性の物質が含有されている留分も、重質留分として使用することができるものと理解されることができる。
【0026】
一般的に、重質留分の分解反応は、高温及び高圧状態で進行され、前記特定溶媒の臨界温度及び臨界圧力以上の条件である超臨界または亜臨界状態で進行されることができる。
【0027】
前記超臨界または亜臨界状態で溶媒は、ガスと類似な液相に挙動し、この際、粘度が顕著に減少し、移送特性が改善される。超臨界または亜臨界状態では、触媒のポア(pore)入口内の拡散速度が増加するので、物質伝達限界及びコーク形成を最小化することができる。また、超臨界または亜臨界状態の溶媒は、優れた水素−伝達能(hydrogen-shuttling ability)を示すと共に、タール形成前駆体である重質留分の中間物(intermediate)に対する優れた溶解能を有する。
【0028】
本発明では、溶媒として炭化水素溶媒を使用することができ、具体的に、芳香族炭化水素(aromatic hydrocarbon)または鎖形態の炭化水素(n-hydrocarbon)溶媒を使用することができ、より具体的に、キシレン、ドデカン、テトラリンまたはこれらの混合物を含有する溶媒を使用することができる。特に、テトラリンは、強力な水素供給源として役目を行うことができると共に、低沸点留分への転換率が高くて、溶媒または添加剤として容易に使用することができる。
【0029】
本発明で、前記重質留分に対する炭化水素溶媒の含量は、特に制限されず、例えば、重質留分100重量部に対して50〜1500重量部、具体的に100〜1000重量部、より具体的に150〜800重量部であることができる。
【0030】
本発明の重質留分の分解反応では、重質留分及び炭化水素溶媒以外に触媒を使用して反応を行うことができる。前記触媒は、重質留分の分解反応(改質反応)を効率的に行うために使用することができ、粉末形態よりなる触媒を使用することができる。
【0031】
このような触媒としては、金属系または非金属系酸化物触媒を使用することができる。
前記金属系酸化物触媒において金属成分の種類は、特に制限されず、例えばMo,W,V,Cr,Co,Fe,Ni,Mg,Alまたはその組合であることができ、具体的に、酸化鉄触媒であることができる。前記酸化鉄触媒としては、Fe3O4を使用することができる。また、非金属系酸化物触媒は、二酸化ケイ素(SiO2)であることができる。
【0032】
一方、前記触媒は、支持体に担持された形態であることができる。この際、使用可能な支持体の一例としては、無機酸化物(例えばアルミナ、シリカ、シリカ−アルミナ、ジルコニア、チタニア、酸化マグネシウム、その組み合わせなど)を使用することができる。
【0033】
本発明による重質留分の分解反応は、前述した重質留分、炭化水素溶媒及び触媒を含む反応器の内部条件を超臨界または亜臨界状態に制御する段階を含む。
【0034】
一具体例で、前記分解反応は、重質留分、炭化水素溶媒及び触媒を反応器に供給し、この際、重質留分の反応が容易となるように、選択的に重質留分と炭化水素溶媒間の接触を増加させる混合段階を行うことができる。このために、混合物を超音波処理(sonication)することができる。
【0035】
一具体例で、前記触媒は、粒子状(充填または流動方式)、または炭化水素溶媒に分散したコロイド状の形態で反応器内に導入されることができる。
【0036】
本発明では、反応器内部の条件を超臨界または亜臨界状態に制御することによって、重質留分の改質反応を容易に行うことができる。この際、反応器内部の条件を超臨界または亜臨界状態に制御するための温度及び圧力条件は、炭化水素溶媒の臨界点以上の温度及び圧力であることができる。前記臨界点以上の温度及び圧力下で炭化水素溶媒は、超臨界状態に挙動するようになり、重質留分の改質が容易に行われることができる。また、臨界条件近くでも類似の効果を出すことができるので、これを考慮して反応器内部の圧力及び温度を調節することができる。
【0037】
一具体例で、分解反応は、少ない量の水素を使用して低い圧力範囲内で反応が行われることができ、反応器の温度及び圧力を常温で30 bar以下、具体的に20 bar以下の水素圧力(気体部分圧)条件で反応温度で加熱して反応が行われることができる。ここで、常温は、例えば、15〜25℃、具体的に18〜24℃を意味する。前記反応条件で炭化水素溶媒、特にテトラリンは、ナフタレンに変わりながら、水素供与体の役目をするので、他の溶媒(キシレン、ドデカン)に比べて気体を注入しないので、工程運転費用を減少させることができる長所を有する。前記分解反応は、水素の使用に限るものではなく、窒素または空気を使用して反応が行われることができ、また、気体の供給なしに反応が行われることができる。
【0038】
前記反応器の内部が超臨界または亜臨界状態に制御されれば、重質留分は、改質反応によって高付加価値の留分に転換され、このような改質反応は、分解反応によって行われることができる。
【0039】
また、本発明による改質方法の反応器は、固定層(fixed bed)反応器、エビュレーティング(ebullating)反応器またはスラリー(slurry)反応器を使用することができる。
【0040】
本発明による重質留分の分解反応の例示的な工程は、「重質炭化水素留分の処理方法」(韓国特許出願第10-2013-0109792号公報)に記述されており、前記工程を参照して重質留分の分解反応を行うことができる。
【0041】
本発明は、重質留分の分解反応によって生成された液体留分及び固体成分を分離する段階を含むことができる。
【0042】
前述した分解反応によって得られた生成物は、液体留分及び固体成分に区分することができる。前記液体留分は、中間留分(middle distillate)、ナフサ(naphtha),VGO(Vacuum Gas Oil)などの低沸点留分であることができる。前記液体留分は、追加段階を経て中間留分がディーゼルオイル及びジェットオイルなどの製造に使用されることができ、ナフサが、ガソリン製造、ひいては触媒改質反応過程を経ることができる。ガスオイルの場合、接触分解または水素化分解反応の供給原料として活用することができる。
【0043】
また、固体成分は、廃触媒、重質留分残余分,及び反応中に生成された炭素素材物質を含むことができ、前記廃触媒、重質留分残余分,及び反応中に生成された炭素素材物質は、混合した状態で存在することができる。特に、廃触媒は、その表面に重質留分残余物及び炭素素材物質の炭素成分が存在することができる。
【0044】
本発明では、このような固体成分を利用して中空型炭素構造体を製造することができる。
本発明による中空型炭素構造体の製造方法は、前述したように、前記固体成分をか焼する段階と;前記段階でか焼された固体成分を酸処理または塩基処理する段階とを含む。
【0045】
本発明による中空型炭素構造体の製造方法は、前記固体成分をか焼する段階を行う前に洗浄及び乾燥する段階を行うことができる。前記洗浄は、固体成分中の重質留分残余物を除去するためのものであって、トルエン、アセトンまたはこれらの混合物を使用して洗浄することができ、1回以上洗浄することができる。前記洗浄後には、50〜120℃、具体的に80〜100℃で乾燥することができる。
【0046】
本発明による中空型炭素構造体の製造方法で固体成分をか焼する段階は、重質留分残余物を炭素素材物質に転換させるための段階であって、具体的に、前記洗浄で除去されない重質留分残余物がか焼によって炭素素材物質に転換されることができる。
【0047】
このようなか焼は、550〜650℃、具体的に575〜625℃で1〜12時間、具体的に4〜6時間行うことができる。前記温度及び時間で残余物が炭素素材物質に容易に転換されることができる。か焼温度が高い場合、触媒中の金属酸化物(例えば、酸化鉄)が炭素と反応して鉄と一酸化炭素を形成するので、炭素素材物質への転換率が低下する問題がある。前記か焼は、気相で窒素を流しながら行うことができる。
【0048】
本発明による中空型炭素構造体の製造方法は、前記段階によってか焼された固体成分を酸処理または塩基処理する段階を含む。前記酸処理または塩基処理を通じて触媒成分を除去して内部が中空である構造体を製造することができる。
【0049】
前記酸処理または塩基処理で酸または塩基の種類は、特に制限されず、酸としては、塩酸、硫酸、硝酸またはフッ酸などを使用することができ、塩基としては、水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムなどを使用することができる。具体的に、使用される触媒の種類によって酸または塩基を選択して使用することができるのに、例えば、触媒として酸化鉄(Fe3O4)を使用する場合、塩酸、硫酸または硝酸を使用することができる。硫酸または硝酸を使用した場合、前記硫酸または硝酸が炭素構造体の表面作用基を変化させることができる。また、触媒として、二酸化ケイ素(SiO2)を使用する場合、フッ酸、水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムを使用することができる。
【0050】
一具体例で酸及び塩酸のpHは、前記酸及び塩基によって触媒が完全に除去されることができたら、特に制限されない。
【0051】
また、酸または塩基は、酸または塩基と蒸留水の混合溶液であることができ、この際、酸または塩基と蒸留水の体積比は、1:1〜1:5であることができ、具体的に1:2〜1:4であることができる。
【0052】
前記酸処理または塩基処理段階は、酸または塩基にか焼された固体成分、すなわち、炭素素材物質を浸し、前記炭素素材物質の磁性が完全に消えるまで酸を撹拌しながら6〜20時間行うことができる。
【0053】
一具体例で、前記酸処理または塩基処理は、1回以上行われることができ、一般的に2回酸処理または塩基処理を行う場合、炭素素材物質の磁性が消え、前記炭素素材物質の磁性が消えない場合には、酸または塩基及び炭素素材物質の混合物を加熱することができる。この際、加熱は、50℃以上、具体的に80℃以上で行うことができる。
【0054】
本発明では、酸処理または塩基処理後、酸と固体成分を分離した後、固体成分を洗浄及び乾燥する段階を行うことができる。この際、洗浄は、蒸留水を使用して1回以上行うことができ、乾燥は、50℃以上、具体的に80〜100℃で行うことができる。
【0055】
前記酸処理または塩基処理を通じて触媒が除去され、内部が中空である炭素構造体が形成される。前記炭素構造体の外部皮は、炭素素材物質で構成されることができる。前記酸処理または塩基処理を通じて製造された炭素構造体は、硫黄成分を含有する。したがって、炭素構造体は、バッテリー素材を製造するのに使用されることができ、硫黄成分を除去するために後述する2次か焼段階を行うことができる。
【0056】
本発明による中空型炭素構造体の製造方法は、酸処理または塩基処理された固体成分を2次か焼する段階を含むことができる。本発明では、2次か焼を通じて非結晶質の炭素素材物質をグラファイト(graphite)結晶形態に変化させることができ、前記炭素素材物質に残っている硫黄成分を除去することができる。
【0057】
前記2次か焼は、700〜1200℃、具体的に750〜850℃で1〜12時間、具体的に3〜5時間行うことができる。前記温度及び時間で炭素構造体を容易に製造することができる。前記2次か焼は、気相で窒素を流しながら行うことができる。
【0058】
また、本発明は、前述した製造方法によって製造された中空型炭素構造体に関する。本発明の製造方法によって製造された中空型炭素構造体は、例えば泡のような形状を有するので、「炭素バブル」と言える。
【0059】
本発明の製造方法によって製造された中空型炭素構造体は、例えば泡のような形状を有するので、「炭素バブル」と言える。
【0060】
前記マイクロ気孔及びメソ気孔のサイズは、重質留分の種類、か焼工程条件、触媒の種類及び触媒のサイズなどによって変わることができる。例えば、マイクロ気孔は、2.0 nm以下、1.5 nm以下または1.0 nm以下の気孔サイズを有することができ、メソ気孔は、2〜80 nm,5〜70 nmまたは10〜60 nmの気孔サイズを有することができる。
【0061】
また、中空型炭素構造体の外部(皮)は、多孔性の炭素素材物質で構成される。特に、2次か焼過程を経て製造された炭素構造体の外部は、グラファイトで構成されることができる。
【0062】
前記中空型炭素構造体の皮の厚さは、1〜10 nmまたは2〜8nmであることができる。
【0063】
本発明によって製造された中空型炭素構造体は、前述したように、内部が中空であり、比表面積が高くて担体として活用されることができ、低圧で脱着能力に優れていて、吸着工程で二酸化炭素分離用吸着剤として使用され、再生工程費用を減少させることができ、硫黄化合物に対する選択度及び吸着容量に非常に優れていて、脱黄装置で使用されることができる。
【0064】
実施例
以下、本発明による実施例及び本発明によらない比較例を通じて本発明を詳しく説明するが、本発明の範囲が下記提示された実施例によって制限されるものではない。
【0065】
実施例1
1.材料
(1)試料
試料として常用工程から提供された減圧残渣油を使用し、使用された前記減圧残渣油の物理的特性を下記表1に示した。分析結果によれば、減圧残渣油は、沸点が525℃以上の成分を94.2 wt%含有しており、750℃で回収可能な含量が約62.6%である。
【0066】
【表1】
【0067】
(2)溶媒
実施例1及び3では、シグマアルドリッチ社から購買したm-キシレン(chromasolv-HPLC-grade)溶媒を使用し、実施例2では、テトラリン(tetralin)(anhydrous grade)を溶媒として使用した。
【0068】
(3)気体ガス
改質反応に注入される気体としては、水素を使用し、0〜15 MPaの分配圧力範囲を有する分圧調節機H-YR-5062を使用して加圧された。
【0069】
(4)触媒
実施例1及び3では、シグマアルドリッチ社から購買したFe3O4(50 nm,spherical)を触媒として使用し、実施例2では、研究室で直接合成したFe3O4(30〜50 nm)を触媒として使用した。
【0070】
研究室で酸化鉄を合成した方法は、次の通りである。6.00gのFeSO4・7H2O(Yakuri Co.),8.63 gのFe2(SO4)3・nH2O(Cica Co.)と0.75 gの(NH4)2C2O4(Yakuri Co.)を脱酸素蒸留水(deoxygenated distilled water)で78℃に維持しながら混合した。NaOHによってpHを9に作った溶液を300 rmpで1時間撹拌させた後、生成物を磁石を利用して分離し、蒸留水とエタノールで数回洗浄した。
【0071】
(5)装置及びテスト方法
(a)重質留分の分解反応
重質留分の分解実験(改質反応)は、実験室−スケールの回分式反応器で実施され、反応器は、最大873 K及び40 MPaに耐えることができるように設計された。反応器の容量は、200 mlであり、材質は、腐食を防止するためにニッケル系合金であるInconel 625を使用した。2個の熱電対をそれぞれ反応器の中央及び加熱炉に設置し、温度調節機を使用して5K内で調節した。溶媒と減圧残渣油の比は、約4:1であり、触媒は、シグマアルドリッチ社から購買したFe3O4を使用した。
【0072】
減圧残渣油、溶媒及び触媒を約20分間超音波処理して混合させて反応器内に注入し、反応機内でも400 rpmで撹拌した。その後、窒素ガスを注入して反応器内の気体を除去した。反応器を約30 K/min速度で加熱して380℃に到逹すれば、水素気体を注入し、さらに加熱して反応温度(400℃)に到逹すれば、30分にわたって改質反応を行った。反応時間が経過した後、反応器でヒーターを除去し、水を利用して常温まで急速に冷却させた。10 mlの同一溶媒を使用して液相/固相生成物を反応器から完全に回収した。磁石と定性濾紙(Qualitative filter paper)(Whatman,Grade 2)を使用して生成物内に液体留分と固体成分を分離させた。固体成分は、減圧残渣油成分、触媒として使用したFe3O4成分及び反応中に生成された炭素素材成分が混合している形態を有する。減圧残渣油成分を除去するために、トルエンとアセトンで数回洗浄し、その後、90℃で完全に乾燥させた。
【0073】
(b)中空型炭素構造体製造
次に、気相に窒素を流しながら600℃で5時間か焼(calcination)させた。鉄(Fe)成分を除去するために固体成分を塩酸と蒸留水の体積が約1:3の酸性溶液に浸し、固体成分の磁性が消えるまで酸溶液を交換しながら6〜9時間酸処理を進行した。酸溶液と固体物質を分離した後、蒸留水できれいに洗浄し、さらに90℃で完全に乾燥させた。その後、気相に窒素を流しながら800℃で4時間2次か焼(calcination)を実施した。
【0074】
前記重質留分の分解反応から得られた固体成分を利用して中空型炭素構造体(carbon bubble)を作る過程を図1に簡略に整理した。
【0075】
実施例2
(a)重質留分の分解反応で溶媒としてテトラリン(tetralin)を、触媒として研究室で直接合成したFe3O4を使用したことを除いて、実施例1と同一の方法を使用した。
【0076】
実施例3
(b)中空型炭素構造体の製造で2次か焼を実施しないことを除いて、実施例1と同一の方法を使用した。
【0077】
比較例
大部分の構成物質が炭素室よりなり、吸着性が強くて、価格が安くて、商業的に多く使用される活性炭を使用した。前記活性炭は、KURARAY CHEMICAL社の2GA-H2J製品を使用し、物理的物性値を下記表2に示した。
【0078】
【表2】
【0079】
実験例
(1)中空型炭素構造体の構造分析
SEM及びTEMを利用して、実施例1及び2で製造された中空型炭素構造体の構造を分析した。
【0080】
本発明で図2は、実施例1による中空型炭素構造体のSEMイメージを示し、図3は、実施例1による中空型炭素構造体のTEMイメージを示し、図4は、実施例2による中空型炭素構造体のTEMイメージを示す。
【0081】
図2図4に示されたように、本発明の実施例によって製造された中空型炭素構造体は、約20〜120 nmの平均粒径を有し、内部が空いており、2〜4nmナノ厚さの炭素皮を有することを観察することができる。
【0082】
(2)中空型炭素構造体の結晶性分析
1次か焼過程を経た中空型炭素構造体(実施例3)と2次か焼過程まで実施された中空型炭素構造体(実施例1)の結晶性をXRDで分析し、図5に示した。
【0083】
図5を見れば、2次か焼する過程まで実施された中空型炭素構造体(実施例1)は、1次か焼過程だけを実施した中空型炭素構造体(実施例3)よりグラファイト(graphite)ピークが優れていることを確認することができる。したがって、2次か焼過程を通じて中空型炭素構造体がさらに規則的な決定性を有するようにすることができる。
【0084】
(3)中空型炭素構造体の硫黄含量分析
TGAを利用して実施例3によって製造された中空型炭素構造体の硫黄含量を分析し、図6に示した。
【0085】
図6を見れば、中空型炭素構造体内の硫黄含量は、48%程度を占め、このような硫黄含量は、バッテリー素材を製作するのに利点を有することができる。そして、200℃近くで硫黄成分が除去されるので、2次か焼過程を実施すれば、中空型炭素構造体内の硫黄含量が減少するものと予測することができる。
【0086】
(4)中空型炭素構造体の比表面積測定
Quantachrome instruments社のAutosorb-iQ MPを利用した窒素吸着/脱着等温反応を通じて、中空型炭素構造体(実施例1)と活性炭(Activated carbon、比較例)の比表面積を測定し、下記表3及び図7に示した。図7で、(a)は、実施例1の中空型炭素構造体の窒素吸着/脱着等温反応を通じて気孔分布を測定したグラフであり、(b)は、比較例の活性炭の窒素吸着/脱着等温反応を通じて気孔分布を測定したグラフである。
【0087】
下記表3及び図7に示されたように、比較例の活性炭は、マイクロ気孔が主として発達されており、実施例1によって製造される中空型炭素構造体は、マイクロ気孔よりメソ気孔がよく発達している。また、中空型炭素構造体は、活性炭(比較例)水準の比表面積を有していることを確認することができる。
【0088】
【表3】
【0089】
(5)中空型炭素構造体の二酸化炭素吸着/脱着等温反応
2つの温度条件(293.15 K,323.15 K)で実施例1による中空型炭素構造体(Bubbleで表現される)と比較例の活性炭(Activated carbon,AC)の二酸化炭素吸着(Adsorp)/脱着(Desorp)等温反応を比較し、図8に示した。
【0090】
図8に示されたように、293.15 Kの温度条件(a)で3000 kPa以下の圧力で比較例の活性炭の吸着量が多かったが、3000 kPaの圧力では、同一の吸着量を示した。一方、二酸化炭素脱着は、中空型炭素構造体でさらによく起きることを観察することができる。
【0091】
323.15 K温度(b)でも類似な様相を示す。連続的な吸着工程の吸着剤として使用されるには再生費用を考慮しなければならないし、本発明による実施例によって製造される中空型炭素構造体の脱着反応が容易に起きて、連続式吸着工程で使用が有利であることができる。
【0092】
(6)中空型炭素構造体の硫黄化合物除去能力測定
硫黄化合物であるメルカプタン(mercaptan)とメタンの混合ガスを利用して、炭素構造体(carbon bubble、実施例1)と活性炭(Activated carbon、比較例)の硫黄化合物除去能力を測定し、図9及び表5に示し、実験条件は、下記表4に表記した。
【0093】
一定質量の吸着剤に硫黄化合物混合ガスを流してくれた場合、中空型炭素構造体は、204分後に排出ガスでメルカプタンが測定され、活性炭(Activated carbon)の場合、24分後に測定された。すなわち、飽和時間(Saturation time)及び吸着容量(Adsorption capacity)において本発明の中空型炭素構造体が活性炭(Activated carbon)より高いことを確認することができる。したがって、中空型炭素構造体は、活性炭(Activated carbon)より硫黄化合物吸着剤としてさらに優れている。
【0094】
【表4】
【0095】
【表5】
図1
図5
図6
図7
図2
図3
図4
図8
図9