特許第5932097号(P5932097)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5932097-透明導電性フィルム 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5932097
(24)【登録日】2016年5月13日
(45)【発行日】2016年6月8日
(54)【発明の名称】透明導電性フィルム
(51)【国際特許分類】
   H01B 5/14 20060101AFI20160526BHJP
   B32B 7/02 20060101ALI20160526BHJP
   B32B 9/00 20060101ALI20160526BHJP
   G06F 3/041 20060101ALI20160526BHJP
【FI】
   H01B5/14 A
   B32B7/02 104
   B32B9/00 A
   G06F3/041 495
【請求項の数】11
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2015-77605(P2015-77605)
(22)【出願日】2015年4月6日
(65)【公開番号】特開2015-213055(P2015-213055A)
(43)【公開日】2015年11月26日
【審査請求日】2015年12月7日
(31)【優先権主張番号】特願2014-85583(P2014-85583)
(32)【優先日】2014年4月17日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤野 望
(72)【発明者】
【氏名】加藤 大貴
(72)【発明者】
【氏名】梨木 智剛
【審査官】 小森 重樹
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/111681(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/063903(WO,A1)
【文献】 国際公開第2004/112057(WO,A1)
【文献】 特開2004−362842(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/054532(WO,A1)
【文献】 特開2014−164882(JP,A)
【文献】 特開2014−124914(JP,A)
【文献】 特開2014−168938(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 5/14
B32B 7/02
B32B 9/00
G06F 3/041
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明なフィルム基材と、
少なくとも3層のアンダーコート層と、
透明導電層と
をこの順で備える透明導電性フィルムであって、
前記少なくとも3層のアンダーコート層は、前記フィルム基材側から
有機樹脂を含む有機アンダーコート層である、第1アンダーコート層と、
酸素欠損を有する金属酸化物層である第2アンダーコート層と、
SiO膜である第3アンダーコート層と
を含み、
前記第1アンダーコート層の表面粗さRaは0.1nm〜1.5nmであり、
前記第3アンダーコート層の密度が2.0g/cm以上2.8g/cm以下であり、
前記透明導電層は、インジウム−スズ複合酸化物層であり、
前記透明導電層の表面粗さRaは0.1nm以上1.6nm以下であり、
前記透明導電層の結晶質の状態における比抵抗が1.1×10−4Ω・cm以上3.8×10−4Ω・cm以下である透明導電性フィルム。
【請求項2】
前記第2アンダーコート層の厚みが1nm以上10nm以下である請求項1に記載の透明導電性フィルム。
【請求項3】
前記第2アンダーコート層はSiO膜(xは1.0以上2未満)である請求項1又は2に記載の透明導電性フィルム。
【請求項4】
前記透明導電層と前記第3アンダーコート層とが接している請求項1〜3のいずれか1項に記載の透明導電性フィルム。
【請求項5】
前記第1アンダーコート層がさらに無機粒子を含む請求項に記載の透明導電性フィルム。
【請求項6】
前記第3アンダーコート層の厚みが8nm以上100nm以下である請求項1〜のいずれか1項に記載の透明導電性フィルム。
【請求項7】
前記透明導電層の屈折率が1.89以上2.20以下である請求項1〜のいずれか1項に記載の透明導電性フィルム。
【請求項8】
前記透明導電層は結晶質である請求項1〜のいずれか1項に記載の透明導電性フィルム。
【請求項9】
前記インジウム−スズ複合酸化物層における酸化スズの含有量が、酸化スズ及び酸化インジウムの合計量に対し0.5重量%〜15重量%である請求項に記載の透明導電フィルム。
【請求項10】
前記透明導電層は、複数の前記インジウム−スズ複合酸化物層が積層された構造を有し、
前記複数のインジウム−スズ複合酸化物層のうち少なくとも2層では互いにスズの存在量が異なる請求項1〜のいずれか1項に記載の透明導電フィルム。
【請求項11】
前記透明導電層は、前記フィルム基材側から、第1のインジウム−スズ複合酸化物層及び第2のインジウム−スズ複合酸化物層をこの順で有し、
前記第1のインジウム−スズ複合酸化物層における酸化スズの含有量が、酸化スズ及び酸化インジウムの合計量に対し6重量%〜15重量%であり、
前記第2のインジウム−スズ複合酸化物層における酸化スズの含有量が、酸化スズ及び酸化インジウムの合計量に対し0.5重量%〜5.5重量%である請求項10に記載の透明導電フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明導電性フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、急速に普及しているタッチパネル表示装置では、インジウム−スズ複合酸化物(ITO)等の透明導電層からなる透明電極が用いられている。タッチパネルに使用される透明電極付き導電体は基本的にガラスもしくはプラスチックフィルムを基板として用いているが、特に携帯性が求められるスマートフォンやタブレットでは、薄さ・重量の観点から、プラスチックフィルムを使用した透明導電性フィルムが好んで使用されている。
【0003】
近年、タッチパネルの高品位化を背景に、透明電極のセンサ感度や分解能の向上が要望されるようになっている。これを受けて、透明導電性層に求められる比抵抗値の水準はますます低くなる傾向にある。
【0004】
ところで、透明導電層は脆弱なため、外的因子の影響により容易に劣化が生じ、比抵抗値が上昇しやすい。したがって、透明導電性フィルムの比抵抗値を低く保つには、透明導電層の比抵抗値を数値的に下げるのみならず、その値を極力維持できるよう、透明導電性フィルムの比抵抗値の維持信頼性を高める必要がある。
【0005】
上記劣化の原因となる外的因子の1つに、透明導電層表面への衝突、摩擦等の物理的接触が挙げられる。透明導電層はこのような物理的接触により容易に表面に傷を生じ、表面抵抗値が上昇しやすい。
【0006】
特に、透明導電フィルムをタッチパネルセンサとするために必要な各種加工処理(例えば、パターンエッチング処理)において透明導電フィルムをハンドリングする際、透明導電性フィルムの透明導電層面に傷が入ることがあり、抵抗特性に悪影響を及ぼすことが問題となっている。
【0007】
これまで耐傷性の対処方法として、本出願人は、透明なフィルム基材の一方の面にSiO薄膜などの透明な誘電体薄膜を形成し、この薄膜上にインジウム・スズ複合酸化物などからなる透明な導電性薄膜を形成することにより、またこのフィルム基材の反対面に粘着剤層を介して透明基体を貼り合わせることにより、透明性、耐擦傷性、耐屈曲性などの改善された透明導電性積層体を得ることを提案している(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−326301号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記文献の構成は、粘着剤層によるクッション性を付与することで、擦傷性等に対する耐久性を向上しているものであり、粘着剤層なしでは十分な耐擦傷性は得られていない。特に、誘電体薄膜の密度については考慮されていないため、3.8×10−4Ω・cm以下という比抵抗値の水準での充分な耐擦傷性を実現できてはいない。
【0010】
低比抵抗値の領域では、高比抵抗値の領域に比して、透明導電層の劣化に伴う比抵抗値の基準値からの変動率が相対的に高くなりやすい。従って、低比抵抗の透明導電性フィルムは、実用途において劣化による支障をより生じやすいため、より高い耐擦傷性が要求される。その一方で、近年、タッチパネルにおける高い表示品位を確保する観点から、光線透過率を高めるために透明導電層はより薄く、脆弱になる傾向にある。このように、透明導電性フィルムにおいて、耐擦傷性は重視されるようになっている反面、その確保はより難しくなってきている。
【0011】
本発明は前記問題点に鑑みなされたものであり、その目的は、透明導電層が低比抵抗であり、かつ、優れた耐擦傷性を有する透明導電性フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願発明者等は、前記従来の問題点を解決すべく鋭意検討した結果、下記の構成を採用することにより前記目的を達成できることを見出して、本発明を完成させるに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、透明なフィルム基材と、
少なくとも3層のアンダーコート層と、
透明導電層と
をこの順で備える透明導電性フィルムであって、
前記少なくとも3層のアンダーコート層は、前記フィルム基材側から
湿式塗工法により形成されている第1アンダーコート層と、
酸素欠損を有する金属酸化物層である第2アンダーコート層と、
SiO膜である第3アンダーコート層と
を含み、
前記第3アンダーコート層の密度が2.0g/cm以上2.8g/cm以下であり、
前記透明導電層の結晶質の状態における比抵抗が1.1×10−4Ω・cm以上3.8×10−4Ω・cm以下である透明導電性フィルムに関する。
【0014】
本発明の透明導電性フィルムでは、第3アンダーコート層の密度を所定範囲として膜強度を高めている。透明導電層の背面側(フィルム基材側)には、膜強度の高い第3アンダーコート層を下地層として備えているので、これが補強層となって透明導電性フィルムの耐擦傷性を向上させることができる。
【0015】
第3アンダーコート層はSiO膜である。SiO膜は、概して透明性、緻密性及び耐久性が良好であり、しかも透明導電層との密着性も高いことから、アンダーコート層として好適である。
【0016】
しかしながら、SiO膜は化学量論組成の金属酸化物であり、化学的に安定した格子構造を有しているので、第1アンダーコート層上に直接形成するとフィルム基材との間には物理的な投錨力しか作用せず、密着性が低くなってしまう。この状態では十分な耐擦傷性を得ることは困難である。
【0017】
当該透明導電性フィルムでは、第1アンダーコート層と第3アンダーコート層との間に、酸素欠陥を有する金属酸化物層である第2アンダーコート層を形成しているので、この第2アンダーコート層が接着層として作用し、その結果、第3アンダーコート層の剥離を防止することができる。第2アンダーコート層が接着作用を奏する理由は定かではないが、酸素欠損を有することで金属酸化物中には結合が完全ではない金属原子が存在することになり、この金属原子が第1アンダーコート層の最表面における原子との間で共有結合を形成することで、第3アンダーコート層の下地層への密着性を高めることができると考えられる。
【0018】
このように、第2アンダーコート層による密着性向上作用と、第3アンダーコート層による補強作用により、当該透明導電性フィルムの耐擦傷性を向上させることができる。
【0019】
当該透明導電性フィルムでは、透明導電層の下地層として湿式塗工法により形成されている第1アンダーコート層を備えている。フィルム基材の厚みは他の要素と比較して一般的に厚くなっていることから、フィルム基材が上層の表面粗さRaに与える影響も大きくなる。第1アンダーコート層を湿式塗工法にて形成することにより、フィルム基材の表面凹凸を埋めることができ、これにより上層に形成されることになる透明導電層の表面粗さRaも小さくすることができる。その結果、透明導電層の結晶質の状態における比抵抗を1.1×10−4Ω・cm以上3.8×10−4Ω・cm以下という極めて低い範囲にまで低減することができる。
【0020】
本発明に係る透明導電層は、結晶質の状態にある限りにおいて、上記比抵抗値範囲を満たすものであればよく、非晶質の状態にあっては、何らその比抵抗値範囲は限定されない。なお、非晶質の状態の透明導電層が、結晶質の状態において上記比抵抗値範囲を満たすか否かは、実際に当該透明導電層を結晶転化し、結晶質の状態とした上で比抵抗値を測定して判断すればよい。上記結晶転化の手段は特に限定されるものではないが、後述する結晶転化処理を採用してよい。
【0021】
前記第2アンダーコート層の厚みが1nm以上10nm以下であることが好ましい。該下限以上とすることで連続膜としての形成が容易となる。一方、該上限以下とすることで第2アンダーコート層自体の透過率が低下するのを防止しやすくなる。
【0022】
前記第2アンダーコート層は、透明性、耐久性及び密着性の観点から、SiO膜(xは1.0以上2未満)であることが好ましい。
【0023】
前記透明導電層と前記第3アンダーコート層とは接していることが好ましい。これにより透明導電層の下地層への密着性が向上し、良好な耐擦傷性を発揮することができる。
【0024】
一実施形態において、前記第1アンダーコート層は有機樹脂を含んでいてもよい。有機樹脂を含むことで、第1アンダーコート層を容易に平滑化でき、比抵抗を低くすることができる。また、湿式塗工法に適した塗工液を調製しやすくなるとともに、光学特性の調整も容易となる。さらに、透明導電性フィルムにおける硬度と柔軟性とを両立させやすい。
【0025】
一実施形態において、前記第1アンダーコート層は、有機樹脂とともに、さらに無機粒子を含んでいてもよい。無機粒子を含むことにより、膜の硬度を補強できるとともに、光学特性も調整しやすい。
【0026】
前記第3アンダーコート層の厚みは8nm以上100nm以下であることが好ましい。これにより十分な耐擦傷性を発揮することができる。該下限未満であると耐擦傷性が不十分となる。また、該上限を超えると耐屈曲性及び生産性が低下する。
【0027】
前記透明導電層の屈折率は1.89以上2.20以下であることが好ましい。当該範囲の屈折率を採用することにより、透明導電層の膜密度が高くなり、低比抵抗かつ耐擦傷性も有する透明導電フィルムとなる。
【0028】
当該透明導電性フィルムでは、透明導電層を結晶質とすることで、抵抗を低い水準とすることができる。
【0029】
前記透明導電層は、インジウム−スズ複合酸化物層であることが好ましい。透明導電層がインジウム−スズ複合酸化物(以下、「ITO」ともいう。)層であることにより、より低抵抗で、透明性が高く、結晶化が容易であり、耐湿熱性の良好な透明導電層を形成することができる。
【0030】
前記インジウム−スズ複合酸化物層における酸化スズの含有量が、酸化スズ及び酸化インジウムの合計量に対し0.5重量%〜15重量%であることが好ましい。これによりキャリア密度を高めることができ、より低比抵抗化を進めることができる。前記酸化スズの含有量は、透明導電層の比抵抗に応じて上記範囲で適宜選択できる。
【0031】
前記透明導電層は、複数のインジウム−スズ複合酸化物層が積層された構造を有し、
前記複数のインジウム−スズ複合酸化物層のうち少なくとも2層では互いにスズの存在量が異なることが好ましい。透明導電層をこのような特定の層構造とすることにより、結晶化時間の短縮化や透明導電層のさらなる低抵抗化を促進することができる。
【0032】
本発明の一実施形態において、前記透明導電層は、前記フィルム基材側から、第1のインジウム−スズ複合酸化物層及び第2のインジウム−スズ複合酸化物層をこの順で有し、前記第1のインジウム−スズ複合酸化物層における酸化スズの含有量が、酸化スズ及び酸化インジウムの合計量に対し6重量%〜15重量%であり、前記第2のインジウム−スズ複合酸化物層における酸化スズの含有量が、酸化スズ及び酸化インジウムの合計量に対し0.5重量%〜5.5重量%であることが好ましい。前記2層構造にすることで透明導電層の結晶化時間を短縮することができ、比抵抗値も抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】本発明の一実施形態に係る透明導電性フィルムを示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明の実施の形態について、図を参照しながら以下に説明する。ただし、説明に不要な部分は省略し、また説明を容易にする為に拡大又は縮小等して図示した部分がある。上下等の位置関係を示す用語は、特段の言及がない限り、単に説明を容易にするために用いられており、本発明の構成を限定する意図は一切ない。
【0035】
図1は、本発明の一実施形態に係る透明導電性フィルムを示す断面模式図である。すなわち、透明導電性フィルム10は、透明なフィルム基材1と、少なくとも3層のアンダーコート層と、透明導電層3とをこの順で備える。少なくとも3層のアンダーコート層は、フィルム基材1側から、湿式塗工法により形成されている第1アンダーコート層21と、酸素欠損を有する金属酸化物層である第2アンダーコート層22と、SiO膜である第3アンダーコート層23とを含んでいる。
【0036】
<フィルム基材>
フィルム基材1は、取り扱い性に必要な強度を有し、かつ可視光領域において透明性を有する。フィルム基材としては、透明性、耐熱性、表面平滑性に優れたフィルムが好ましく用いられ、例えば、その材料として、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル、ポリオレフィン、ポリシクロオレフィン、ポリカーボネート、ポリエーテルスルフォン、ポリアリレート、ポリイミド、ポリアミド、ポリスチレン、ノルボルネンなどの単一成分の高分子または他の成分との共重合高分子等が挙げられる。中でも、ポリエステル系樹脂は、透明性、耐熱性、及び機械特性に優れることから好適に用いられる。ポリエステル系樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリエチレンナフタレート(PEN)等が特に好適である。また、フィルム基材は強度の観点から延伸処理が行われていることが好ましく、二軸延伸処理されていることがより好ましい。延伸処理としては特に限定されず、公知の延伸処理を採用することができる。本実施形態の構成によれば、例えば、ノルボルネンなどの比較的強度の低い基材を採用した場合であっても、高い耐擦傷性を有する透明導電性フィルムとすることが可能である。
【0037】
フィルム基材の厚みとしては特に限定されないものの、20μm以上200μm以下の範囲内であることが好ましく、40μm以上150μm以下の範囲内であることがさらに好ましい。フィルムの厚みが20μm未満であると、真空成膜時にかかる熱量によりフィルム外観が悪化する場合がある。一方、フィルムの厚みが200μmを超えると、透明導電層2の耐擦傷性の向上が図れない場合がある。さらに、フィルム基材の厚みが40μm以上であれば、耐擦傷性やロール・トゥ・ロールでの搬送容易性を向上させることができる。
【0038】
基材の表面には、予めスパッタリング、コロナ放電、ボンバード、紫外線照射、電子線照射、化成、酸化などのエッチング処理や下塗り処理を施して、基材上に形成される第1アンダーコート層21との密着性を向上させるようにしてもよい。また、第1アンダーコート層21を形成する前に、必要に応じて溶剤洗浄や超音波洗浄などにより、基材表面を除塵、清浄化してもよい。
【0039】
フィルム基材1としての高分子フィルムは、長尺フィルムをロール状に巻回したものとして供され、その上に透明導電層3がロール・トゥ・ロール法によって連続的に成膜されて、長尺透明導電性フィルムを得ることができる。
【0040】
<第1アンダーコート層>
第1アンダーコート層21は、湿式塗工法にて形成されている。湿式塗工法では、例えば有機樹脂やその他添加物を溶剤にて希釈し、混合した材料溶液をフィルム基材に塗布し、硬化処理(例えば、熱硬化処理やUV硬化処理)を施すことで有機アンダーコート層を好適に形成することができる。
【0041】
上記湿式塗工法としては、上記材料溶液及び所望のアンダーコート層特性に応じて適時選択することができ、例えば、ディップコート法、エアーナイフコート法、カーテンコート法、ローラーコート法、ワイヤーバーコート法、グラビアコート法やエクストルージョンコート法などを採用することができる。
【0042】
湿式塗工法によるアンダーコート層は、通常、溶剤や樹脂等に由来する残渣成分が存在する。このため、該残渣成分を分析し、検出することで、湿式塗工法により作成した膜か否か特定することが可能である。分析方法は特に限定されないが、例えばX線光電子分光法(ESCA:Electron Spectroscopy for Chemical Analysis)や二次イオン質量分析法(SIMS:Secondary Ion Mass Spectrometry)等にて分析可能であり、分析試料を所定の元素イオンでエッチングしながら分析することで、前記残渣成分を検出することができる。上記分析対象となる残渣成分として、一般的には、カーボン(C)、水素(H)、窒素(N)などを採用することができる。
【0043】
なお、アンダーコート層の形成材料として有機樹脂を用いる場合、通常、乾式塗工法を採用することはできない。従って、アンダーコート層の主成分が有機樹脂である場合、湿式塗工法にて作成された膜とみなすことができる。
【0044】
本発明者らの検討によれば、フィルム基材によっては、表面粗さが大きく、安定的に低比抵抗の透明導電性フィルムを作成できない場合がある。しかし、湿式塗工法で前記第1アンダーコート層を形成することにより、表面粗さが十分に小さくないフィルム基材であっても、フィルム基材の表面凹凸を埋めることができ、透明導電層の表面粗さを安定的に小さくすることができる。
【0045】
第1アンダーコート層21の形成材料としては、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、アルキド樹脂、シロキサン系ポリマー、有機シラン縮合物などの屈折率が1.4〜1.6程度の有機樹脂が好ましい。
【0046】
第1アンダーコート層21は、さらに無機粒子を含むことが好ましい。これにより耐擦傷性の向上と、屈折率の調整を容易に行うことができる。無機粒子としては、例えば、酸化ケイ素(シリカ)、中空ナノシリカ、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化錫、酸化ジルコニウム等の微粒子があげられる。これらの中でも、酸化ケイ素(シリカ)、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化錫、酸化ジルコニウムの微粒子が好ましい。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。粒子の平均粒径は第1アンダーコート層の表面粗さを小さくする観点から、70nm以下が好ましく、30nm以下がより好ましい。
【0047】
第1アンダーコート層21の形成材料に有機樹脂と無機粒子との混合物を用いることにより、容易に屈折率を調整することができ、安定した耐擦傷性の向上が期待できる。第1アンダーコート層21の光屈折率は1.55〜1.80が好ましく、1.60〜1.75がより好ましく、1.63〜1.73がさらに好ましい。前記範囲とすることにより、透過率の向上や透明導電層をパターニングした際のアンダーコート層面と透明導電層面の反射率差を小さくすることができる。
【0048】
第1アンダーコート層21の厚みは、本発明の効果を妨げない範囲で適宜設定してよい。例えば、上記無機粒子を含まない場合であれば、0.01μm〜2.5μmであることが好ましく、0.02μm〜1.5μmであることがより好ましく、0.03μm〜1.0μmであることがさらに好ましい。一方、上記無機粒子を含む場合は、含有粒子に起因するアンダーコート層中の凹凸を低減する観点から、0.05μm〜2.5μmであることが好ましく、0.07〜1.5μmがより好ましく、0.3μm〜1.0μmがさらに好ましい。無機粒子の存否を問わず、第1アンダーコート層の厚みが薄すぎると、十分な耐擦傷性が得られない場合がある。また、厚すぎると、第1アンダーコート層の耐屈曲性が低下し、クラックが生じやすくなる傾向がある。
【0049】
第1アンダーコート層21の表面粗さRaは0.1nm〜1.5nmが好ましく、0.1nm〜1.0nmがより好ましく、0.1nm〜0.8nmがさらに好ましく、0.1〜0.7nmが特に好ましい。第1アンダーコート層21の表面粗さRaを0.1nm未満にすると、第2アンダーコート層との密着性が悪化する懸念があり、1.5nmを超えると、比抵抗を低く抑制することができない。なお、本明細書における表面粗さRaとは、AFM(Atomic Force Microscope:原子間力顕微鏡)により測定される、算術平均粗さRaを意味する。
【0050】
<第2アンダーコート層>
第1アンダーコート層21上に形成される第2アンダーコート層22は、酸素欠損を有する金属酸化物層である。本明細書において、酸素欠損を有するとは非化学量論組成であることを意味する。酸素欠損を有する金属酸化物としては、SiO(xは1.0以上2未満)、Al(xは1.5以上3未満)、TiO(xは1.0以上2未満)、Ta(xは2.5以上5未満)、ZrO(xは1.0以上2未満)、ZnO(xは0を超えて1未満)、Nb(xは2.5以上5.0未満)等が挙げられ、中でもSiO(xは1.0以上2未満)が好ましい。
【0051】
ここで、金属酸化物が酸素欠損を有すること、ひいては非化学量論組成であることの確認は、X線光電子分光法(X−ray Photoelectron Spectroscopy)により、金属酸化物の酸化状態を分析することで行うことができる。
【0052】
SiOを例にとると、X線光電子分光法によりSi2p軌道の結合エネルギーを算出すればよい。この時、その算出値が、化学量論組成であるSiOの結合エネルギーよりも低いものであれば、非化学量論組成であると判断できる。通常、上記算出値が、104eV未満であれば、SiOが少なくとも非化学量論組成であると判断できる。
【0053】
第2アンダーコート層22は、ドライプロセスで形成することが好ましい。上記組成式中のx値は、たとえばスパッタリング法を採用する場合は、スパッタ装置のチャンバー内の酸素導入量を調整することで制御できる。SiOを例にとると、金属ターゲットに純金属Siを用いた場合、スパッタガス100%に対して酸素導入量は0%〜20%の範囲で調整すればよく、金属ターゲットに亜酸化物(SiO)を用いた場合、前記範囲より低い水準で調整すればよい。スパッタリングされた金属原子は、高い運動エネルギーを保持して第1アンダーコート層21面に衝突し、これが連続的に繰り返されることで金属原子が積層され第2アンダーコート層が形成される。その際、チャンバー内の酸素が膜内に取り込まれることで、一定量の酸素を有する第2アンダーコート層が形成される。
【0054】
一般に、第1アンダーコート層のような平滑性が高い層は、その上層との接触面積の総量が小さくなり、2層の間で物理的な投錨力が充分に得られず、密着性が確保し難い。しかしながら、第1アンダーコート層の上層として第2アンダーコート層を設けることにより、第2アンダーコート層における結合が完全ではない金属原子と第1アンダーコート層21の最表面に存在する原子との間で化学結合を形成できるため、第2アンダーコート層22を表面粗さが小さい第1アンダーコート層21上に形成する場合であっても化学結合による強固な密着性が得られると考えられる。
【0055】
第2アンダーコート層22の厚みは1nm〜10nmが好ましく、1nm〜8nmがより好ましい。1nmよりも薄いと連続膜が形成できず、密着性を保持できず、10nmよりも厚いと第2アンダーコート層22が吸収を発現してしまい、透過率が低下する傾向がある。
【0056】
第2アンダーコート層22は、厚み方向で均一な組成である必要はない。例えば、第1アンダーコート層21との界面を含む近傍領域のみx値を低い値とし、他領域ではx値を高くしてもよい。上記近傍領域におけるx値が充分に低いものであれば、第1アンダーコート層との高い密着性を確保することができる。近傍領域の範囲は、第2アンダーコート層の厚みの10〜30%としてよい。
【0057】
第2アンダーコート層の屈折率は、1.5〜1.90が好ましく、1.50〜1.85がより好ましい。前記範囲であれば、光学特性の良好な透明導電性フィルムが得られる。
【0058】
第2アンダーコート層22は第1アンダーコート層21と接していることが好ましいが、本発明の目的を損なわない限り、その間に更に別途の層が介在していてもよい。
このような層としては、例えば、酸化されていない金属からなる金属層が挙げられる。このような金属層が介在することで、第2アンダーコート層22と第1アンダーコート層21との密着性をさらに向上できる可能性がある。
【0059】
<第3アンダーコート層>
第2アンダーコート層22上に形成される第3アンダーコート層23は、実質的に化学量論組成の金属酸化物膜である、SiO膜である。SiO膜は、概して透明性、緻密性及び耐久性が良好であり、しかも透明導電層との密着性も高い。また、SiO膜は金属酸化物としては比較的低い屈折率を有するので、SiO膜と透明導電層との界面での光の反射を抑えやすい。
【0060】
ここで、化学量論組成であることの確認は、X線光電子分光法(X−ray Photoelectron Spectroscopy)により、金属酸化物の酸化状態を分析することで行うことができる。ただし、X線光電子分光法では、理論的に完全酸化し得る状態を経て得たものであっても、測定の条件によっては化学量論組成と判断されない場合がある。その場合、第3アンダーコート層については、金属酸化物の屈折率を測定することで化学量論組成であるか否かを判断する。SiOを例にとると、1.43以上1.49以下の屈折率であれば化学量論組成であると判断され、1.50以上1.90以下であれば酸素欠損を有すると判断される。
【0061】
第3アンダーコート層の密度は、2.0g/cm〜2.8g/cmが好ましく、2.05g/cm〜2.5g/cmがより好ましく、2.1g/cm〜2.4g/cmがさらに好ましい。膜密度が前記範囲であれば、十分な耐擦傷性を発現することができる。なお、第3アンダーコート層の密度の測定には、透明導電性フィルムから透明導電層を除去して行えばよい。除去方法としては、所定のエッチャント及び条件を用いたウェットエッチングが好まし。透明導電層がITO膜である場合は、塩酸を用いたウェットエッチングが好ましい。なお、ウェットエッチングの条件は、ITO膜が確実に除去されるように適宜設定すればよい。通常、50℃の塩酸(濃度:10重量%)に2分間浸漬することで、ITO膜が非晶質、結晶質のいずれであっても確実に除去することができる。ITO膜が非晶質である場合は、温度条件が室温(例えば、20℃)であってもよい。
【0062】
第3アンダーコート層の厚みは、8nm以上100nm以下であり、好ましくは10nm以上80nm以下であり、より好ましくは12nm以上50nm以下であり、更に好ましくは17nm以上50nm以下である。これにより膜強度を高めて耐擦傷性を向上させることができるとともに、生産性も良好なものとすることができる。
【0063】
第3アンダーコート層23は、スパッタリング法で形成されることが好ましい。スパッタリング法で形成した膜は、ドライプロセスの手法の中でも、特に緻密な膜を安定して得ることができる。スパッタリング法は、たとえば真空蒸着法と比べて形成される膜の密度が高いため耐擦傷性に優れたものとできる。
【0064】
第3アンダーコート層23を形成する際は、第2アンダーコート層22により、フィルム基材1から放出される反応性ガスが抑制されていることから、第3アンダーコート層23を安定的に化学量論組成とするために、酸素ガスを導入しながら反応性スパッタリングすることで形成することができる。本実施形態の第3アンダーコート層はSiO膜であることから、金属ターゲットに純金属Siを用いた場合、スパッタガス100%に対して酸素導入量を21%以上導入すればよく、好ましくは21〜60%の範囲とするのがよい。金属ターゲットに亜酸化物(SiO)を用いる場合、前記範囲より低い水準で調整すればよい。適量の酸素ガスを導入しながら成膜することで、膜密度が高く、透明性の高い第3アンダーコート層を形成できる。
【0065】
第3アンダーコート層23をスパッタリングにより形成する際の気圧は0.09Pa〜0.5Paが好ましく、0.09Pa〜0.3Paがより好ましい。気圧上記範囲とすることで、より高密度な金属酸化膜を形成できる。
【0066】
第2アンダーコート層と第3アンダーコート層とは、互いに同種の金属元素を含むことが好ましい。前記構成とすることで、層間の密着力向上を図ることができる。
【0067】
第2アンダーコート層と第3アンダーコート層とは、層境界を有さない連続層としてもよい。前記構成とすることで、第2アンダーコート層と第3アンダーコート層との層間密着性をより高めることができる。このような連続層は、たとえば層形成の方法にスパッタリング法を採用した場合、第2アンダーコート層を形成後、第2アンダーコート層の表面を大気に開放することなく、第3アンダーコート層を連続的に形成することで形成可能である。
【0068】
なお、第2アンダーコート層と第3アンダーコート層とが互いに層境界を有さない連続層を形成している場合、第3アンダーコート層の密度は、連続層全体のうち、化学量論組成の領域の密度と見なしてよい。X線反射率法によれば、このような連続層であっても、精度よく上記化学量論組成の領域の密度を測定することができる。
【0069】
第3アンダーコート層と透明導電層の間には、さらに酸素欠損を有する金属酸化物層を第4アンダーコート層として有してもよい。第4アンダーコート層としては、上記第2アンダーコート層と同一のものを採用できる。前記構成にすることで、第3アンダーコート層と透明導電層との密着性を向上でき、耐擦傷性をより向上できる。
【0070】
<透明導電層>
透明導電層3の構成材料は特に限定されず、In、Sn、Zn、Ga、Sb、Ti、Si、Zr、Mg、Al、Au、Ag、Cu、Pd、Wからなる群より選択される少なくとも1種の金属の金属酸化物が好適に用いられる。当該金属酸化物には、必要に応じて、さらに上記群に示された金属原子を含んでいてもよい。例えばインジウム−スズ複合酸化物
(ITO)、アンチモン−スズ複合酸化物(ATO)などが好ましく用いられ、ITOが特に好ましく用いられる。
【0071】
透明導電層3の表面粗さRaは0.1nm以上1.6nm以下が好ましい。表面粗さRaの上限は1.5nm以下が好ましく、1.3nm以下がより好ましく、1.2nm以下がさらに好ましい。表面粗さRaの下限は、0.3以上nmが好ましい。表面粗さRaが小さすぎると、摩擦係数が高まって耐擦傷性が低下するおそれがあり、また、透明導電性フィルムをパターニング加工する際に形成するレジストと透明導電層との密着性が悪くなり、加工不良を起こす可能性がある。また、表面粗さRaが大きすぎると、比抵抗が悪化する傾向にある。
【0072】
透明導電層3は、結晶質であることが好ましい。結晶質とすることで、薄膜であったとしても比抵抗が低い透明導電層とすることができる。
【0073】
透明導電層3が結晶質膜であることは、透明導電層3を、20℃の希塩酸(濃度5重量%)に15分間浸漬した後、水洗・乾燥し、15mm程度の間の端子間抵抗を測定することで判断できる。本明細書においては、塩酸への浸漬・水洗・乾燥後に、15mm間の端子間抵抗が10kΩを超えない場合(すなわち、10kΩ以下の場合)、ITO膜の結晶化が完了したものとする。
【0074】
透明導電層が非晶質である場合、結晶転化処理により結晶質に転化してよい。結晶転化処理の手段は、特に限定されるものではないが、加熱処理を採用してよい。加熱処理の加熱温度及び加熱時間は、確実に透明導電層を結晶化できる条件であればよい。生産性の観点からは、通常、150℃、45分以下が好ましく、150℃、30分以下がより好ましい。
【0075】
結晶質の状態にある透明導電層3は、比抵抗値として1.1×10−4Ω・cm以上3.8×10−4Ω・cm以下の低い値を有していればよい。比抵抗値は、1.1×10−4Ω・cm以上3.5×10−4Ω・cm以下であるのが好ましく、1.1×10−4Ω・cm以上3.4×10−4Ω・cm以下であるのがより好ましく、1.1×10−4Ω・cm以上3.2×10−4Ω・cm以下であるのがさらに好ましい。なお、透明導電層3は、結晶質の状態で上記比抵抗値の範囲を満たすものであればよく、非晶質の状態であれば、比抵抗値の範囲は何ら限定されない。
【0076】
透明導電層を結晶転化することにより、表面抵抗値をより低下させることができる。結晶質の透明導電層の表面抵抗値は、40Ω/□〜200Ω/□が好ましく、40Ω/□〜150Ω/□がより好ましく、40Ω/□〜140Ω/□であることがさらに好ましい。
【0077】
透明導電層3の屈折率は1.89〜2.2であることが好ましく、1.90〜2.2であることがより好ましい。光屈折率を前記範囲にすることで、膜の硬度を向上させることができる。なお、本明細書における屈折率とは、波長550nmの屈折率を意味する。屈折率は、高速分光エリプソメーター(J.A.Woollam社製、M−2000DI)を用いて、測定波長195nm〜1680nmnm、入射角65°、70°、75°の条件で測定することで求めた値である。
【0078】
透明導電層3の構成材料としてITO(インジウム−スズ複合酸化物)が用いられる場合、該金属酸化物中の酸化スズ(SnO)含有量が、酸化スズ及び酸化インジウム(In)の合計量に対して、0.5重量%〜15重量%であることが好ましく、3〜15重量%であることが好ましく、5〜12重量%であることがより好ましく、6〜12重量%であることがさらに好ましい。酸化スズの量が少なすぎると、ITO膜の耐久性に劣る場合がある。また、酸化スズの量が多すぎると、ITO膜が結晶化され難くなり、透明性や抵抗値の安定性が十分でない場合がある。
【0079】
本明細書中における“ITO”とは、少なくともインジウム(In)とスズ(Sn)とを含む複合酸化物であればよく、これら以外の追加成分を含んでもよい。追加成分としては、例えば、In、Sn以外の金属元素が挙げられ、具体的には、Zn、Ga、Sb、Ti、Si、Zr、Mg、Al、Au、Ag、Cu、Pd、W、Fe、Pb、Ni、Nb、Cr、Ga、及び、これらの組み合わせが挙げられる。追加成分の含有量は特に制限されないが、3重量%以下としてよい。
【0080】
透明導電層3は、互いにスズの存在量が異なる複数のインジウム−スズ複合酸化物層が積層された構造を有していてもよい。この場合、ITO層は2層でも3層以上であってもよい。
【0081】
透明導電層3が、フィルム基材1側から、第1のインジウム−スズ複合酸化物層及び第2のインジウム−スズ複合酸化物層がこの順で積層された2層構造を有する場合、第1のインジウム−スズ複合酸化物層における酸化スズ含有量は、酸化スズ及び酸化インジウムの合計量に対し6重量%〜15重量%であることが好ましく、6〜12重量%であることがより好ましく、6.5〜10.5重量%であることがさらに好ましい。また、第2のインジウム−スズ複合酸化物層における酸化スズ含有量は、酸化スズ及び酸化インジウムの合計量に対し0.5重量%〜5.5重量%であることが好ましく、1〜5.5重量%であることがより好ましく、1〜5重量%であることがさらに好ましい。各ITO層のスズの量を上記範囲内とすることにより、比抵抗が小さく、しかも、結晶転化が容易な透明導電膜を作成することができる。
【0082】
透明導電層3が、フィルム基材1側から、第1のインジウム−スズ複合酸化物層、第2のインジウム−スズ複合酸化物層及び第3のインジウム−スズ複合酸化物層がこの順で積層された3層構造を有する場合、第1のインジウム−スズ複合酸化物層における酸化スズ含有量は、酸化スズ及び酸化インジウムの合計量に対し0.5重量%〜5.5重量%であることが好ましく、1〜4重量%であることがより好ましく、2〜4重量%であることがさらに好ましい。また、第2のインジウム−スズ複合酸化物層における酸化スズ含有量は、酸化スズ及び酸化インジウムの合計量に対し6重量%〜15重量%であることが好ましく、7〜12重量%であることがより好ましく、8〜12重量%であることがさらに好ましい。また、第3のインジウム−スズ複合酸化物層における酸化スズ含有量は、酸化スズ及び酸化インジウムの合計量に対し0.5重量%〜5.5重量%であることが好ましく、1〜4重量%であることがより好ましく、2〜4重量%であることがさらに好ましい。各ITO層のスズの量を上記範囲内とすることにより、比抵抗の小さい透明導電膜を作成することができる。
【0083】
透明導電層3の厚み(積層構造の場合は総厚)は、15nm以上40nm以下が好ましく、15nm以上35nm以下がより好ましく、15nm以上30nm未満が更に好ましい。前記範囲にすることにより、タッチパネル用途に好適に適用することができる。
【0084】
透明導電層3は、第3アンダーコート層23上に直接形成されていることが好ましい。前記構成によれば、層間密着性が高まるとともに、SiO膜の強度が直接的に反映されるため、透明導電層の耐擦傷性を向上させることができる。
【0085】
なお、本発明者らの検討により、透明導電性フィルム中の透明導電層の耐擦傷性は、アンダーコート層の密度が高いほど向上する傾向があることがわかった。この理由は定かではないが、以下のように推測される。透明導電性フィルムに対して物理的接触が生じると、透明導電層に変形を生じることがある。変形が生じると、透明導電層中に変形応力を生じ、透明導電層における傷やクラックの発生につながると考えられる。従って、耐擦傷性の向上には、透明導電層にこのような変形を生じにくくすることが重要となる。ここで、透明導電層の下にアンダーコート層が介在した場合、該アンダーコート層の強度に基づく補強効果により、透明導電層の変形が抑えられると考えられる。従って、一般にアンダーコート層の強度は密度に相関するため、高密度のアンダーコート層ほどより高い補強効果を得ることができ、耐擦傷性を向上できるものと考えられる。
【0086】
透明導電層3の形成方法は特に限定されず、透明導電層3を形成する材料や必要とする膜厚に応じて適宜の方法を採用し得る。膜厚の均一性や成膜効率の観点からは、化学気相成長法(CVD)や物理気相成長法(PVD)等の真空成膜法が好適に採用される。中でも、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、電子ビーム蒸着法等の物理気相成長法が好ましく、スパッタリング法が特に好ましい。
【0087】
長尺状の積層体を得る観点から、透明導電層3の成膜は、例えばロール・トゥ・ロール法等によりフィルム基材を搬送させながら行われることが好ましい。
【0088】
スパッタターゲットとしては、上記ITO組成を有するターゲットを好適に用いることができる。スパッタ成膜にあたり、まず、スパッタ装置内の真空度(到達真空度)を好ましくは1×10−3Pa以下、より好ましくは1×10−4Pa以下となるまで排気して、スパッタ装置内の水分や基材から発生する有機ガスなどの不純物を取り除いた雰囲気とすることが好ましい。水分や有機ガスの存在は、スパッタ成膜中に発生するダングリングボンドを終結させ、ITO等の導電性酸化物の結晶成長を妨げるからである。
【0089】
このように排気したスパッタ装置内に、Ar等の不活性ガスとともに、必要に応じて反応性ガスである酸素ガス等を導入して、基材を搬送させながら、1Pa以下の減圧下でスパッタ成膜を行う。成膜時の圧力は0.05Pa〜1Paであることが好ましく、0.1Pa〜0.7Paであることがより好ましい。成膜圧力が高すぎると成膜速度が低下する傾向があり、逆に圧力が低すぎると放電が不安定となる傾向がある。
【0090】
ITO膜をスパッタ成膜する際の基材温度は−10℃〜190℃であることが好ましく、−10℃〜150℃であることがより好ましい。
【0091】
フィルム基材1の透明導電層3形成面と反対側の面には、必要に応じてハードコート層や易接着層、ブロッキング防止層等が設けられていてもよい。
【実施例】
【0092】
以下、本発明に関し実施例を用いて詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。また、各例中、部は特記がない限りいずれも重量基準である。
【0093】
(実施例1)
(第1アンダーコート層の形成)
アクリル樹脂と酸化ジルコニウム粒子(平均粒径20nm)とが混合されてなるUV硬化型樹脂組成物を、固形分濃度が5重量%となるようにメチルイソブチルケトン(MIBK)で希釈した。得られた希釈組成物を、厚み100μmのPETフィルム(三菱樹脂製、商品名「ダイアホイル」)からなる高分子フィルム基材の一方主面に塗布乾燥し、UVを照射して硬化させ、膜厚0.5μm(500nm)の有機アンダーコート層を形成した。
【0094】
(第2アンダーコート層及び第3アンダーコート層の形成)
上記有機アンダーコート層上に、AC/MF電源を用いたスパッタリング法により第2アンダーコート層及び第3アンダーコート層を順次形成した。第2アンダーコート層は、Arを導入した気圧0.3Paの真空雰囲気に、インピーダンス制御によりOを導入しながら(Ar:O=100:1)、Siターゲット(三井金属鉱業社製)をスパッタリングすることにより、第1アンダーコート層上に形成した。得られた第2アンダーコート層は、厚み2nmのSiO(x=1.5)層であった。第3アンダーコート層は、Arを導入して0.2Paとした真空雰囲気に、インピーダンス制御によりOを導入しながら(Ar:O=100:40)、Siターゲット(三井金属鉱業社製)をスパッタリングすることにより、前記第2アンダーコート層上に形成した。得られた第3アンダーコート層は、厚み23nmのSiO膜であった。
【0095】
(透明導電層の形成)
さらに、上記第3アンダーコート層上に、10重量%の酸化スズと90重量%の酸化インジウムとの焼結体をターゲットとして用いて、Ar:O=99:1の気圧0.3Paの真空雰囲気下で、水平磁場を30mTとするDCマグネトロンスパッタリング法により、厚み23nmのインジウム−スズ複合酸化物層からなる第1透明導電層を形成した。続けて、前記第1透明導電膜上に、3重量%の酸化スズと97重量%の酸化インジウムとの焼結体をターゲットとして用いて、Ar:O=99:1の気圧0.3Paの真空雰囲気下で、水平磁場を30mTとするDCマグネトロンスパッタリング法により、厚み2nmのインジウム−スズ複合酸化物層からなる第2透明導電層を形成した。このようにして、2層構成で非晶質の透明導電層を含む透明導電性フィルムを作製した。作製した透明導電性フィルムは、150℃の温風オーブンにて45分加熱し、透明導電層の結晶転化処理を行い、結晶質の透明導電層を含む透明導電性フィルムを作製した。
【0096】
(実施例2)
10重量%の酸化スズと90重量%の酸化インジウムとの焼結体をターゲットとして用いて厚み25nmの単層の透明導電層を形成したこと以外は、実施例1と同様にして透明導電層及び透明導電体を作製した。
【0097】
(実施例3)
第1透明導電層及び第2透明導電層の形成の際の水平磁場をいずれも100mTとしたこと以外は、実施例1と同様にして透明導電性フィルムを作製した。
【0098】
(実施例4)
Arを導入して0.3Paとした真空雰囲気に、インピーダンス制御によりOを導入しながら(Ar:O=100:40)第3アンダーコート層を形成したこと以外は、実施例2と同様にして透明導電性フィルムを作製した。
【0099】
(比較例1)
SiO層を形成しなかったこと以外は、実施例2と同様にして透明導電性フィルムを作製した。
【0100】
(比較例2)
SiO層及びSiO層を形成しなかったこと以外は、実施例2と同様にして透明導電性フィルムを作製した。
【0101】
(比較例3)
第1アンダーコート層を形成しなかったこと以外は、実施例1と同様にして透明導電性フィルムを作製した。
【0102】
(比較例4)
第3アンダーコート層を形成しなかったこと以外は、実施例2と同様にして透明導電性フィルムを作製した。
【0103】
(比較例5)
Arを導入して1.3Paとした真空雰囲気に、インピーダンス制御によりOを導入しながら(Ar:O=100:40)第3アンダーコート層を形成したこと以外は、実施例2と同様にして透明導電性フィルムを作製した。
【0104】
(比較例6)
第2アンダーコートを形成せず、第3アンダーコートとして、シリカコート法により、シリカゾル〔コルコート(株)製の「コルコートP」を固形分濃度が2重量%となるようにエタノールで希釈したもの〕を塗布し、150℃で2分加熱乾燥して、硬化させ、厚さが23nmのSiO層を形成したこと以外は、実施例2と同様にして透明導電性フィルムを作製した。
【0105】
<評価>
実施例及び比較例において作製した透明導電性フィルムに対する測定ないし評価方法は以下のとおりである。各評価結果を表1に示す。
【0106】
(1)膜厚の測定
有機アンダーコート層、SiO膜、SiO膜、ITO膜の厚みは、透過型電子顕微鏡(日立社製、HF−2000)により、断面観察を行って測定した。
【0107】
(2)密度の測定
透明導電層が非晶質の透明導電性フィルムを、20℃の塩酸(濃度:10重量%)に2分浸漬してエッチングし、SiO層が最表層となるアンダーコート層積層フィルムを得た。その後、アンダーコート層積層フィルムを150℃、45分の条件で加熱処理し、シリコン基板に貼り付けてフラットな検体とした後、X線反射率法(通称XRR、X−ray Reflectometer)を測定原理として、第3アンダーコート層の密度を求めた。具体的には、X線回折装置(パナリティカル社製、X’Pert PRO MRD)を用いて取得したX線プロファイルを、フィッティング解析することで求めた。フィッティングは、透明導電層と最近接する第1層と、フィルム基材と最近接する第3層と、第1層と第3層との間に位置する第2層とに分けてフィッティングする、3層モデルを採用して行い、第2層の密度をSiO層の密度とした。
【0108】
(3)結晶質ITO膜の比抵抗の測定
得られた結晶質の透明導電層の表面抵抗(Ω/□)をJIS K7194(1994年)に準じて四端子法により測定した。上記(1)膜厚の測定にて求めた透明導電層の厚みと前記表面抵抗から比抵抗を算出した。
【0109】
(4)結晶化の評価
透明導電性フィルムを、150℃の熱風オーブンで加熱して結晶化処理を行い、20℃、濃度5重量%の塩酸に15分間浸漬した後、水洗・乾燥し、15mm間の端子間抵抗をテスタにて測定した。塩酸への浸漬・水洗・乾燥後に、15mm間の端子間抵抗が10kΩを超えない場合、ITO膜の結晶化が完了したものとした。ITO膜の結晶化が完了したものを「○」、ITO膜の結晶化が完了しなかったものを「×」として評価した。
【0110】
(5)耐擦傷性の評価
新東科学社製のヘイドン表面性測定機TYPE−HEIDON14を用いて、下記条件で、透明導電層表面を擦ったのちにフィルム表面抵抗(R20)を測定し、初期のフィルム表面抵抗値(R0)に対する抵抗変化率(R20/R0)を求めて、耐擦傷性を評価した。抵抗変化率が1.6以下であった場合を「○」、1.6を超えた場合を「×」として評価した。
擦傷子:アンティコンゴールド(コンテック社製)
荷重:650g/cm
擦傷速度:30cm/分
擦傷回数:20回(往復10回)
【0111】
【表1】
【0112】
実施例の透明導電性フィルムでは、比抵抗及び耐擦傷性のいずれも良好な結果であった。なお、実施例1では、結晶転化処理前の非晶質の透明導電層を備える透明導電性フィルムに対して耐擦傷性の評価を行っても、R20/R0は1.6以下であり、結果は良好であった。一方、比較例では、比抵抗及び耐擦傷性のいずれか又は両方が劣る結果となった。
【符号の説明】
【0113】
1 フィルム基材
21 第1アンダーコート層
22 第2アンダーコート層
23 第3アンダーコート層
3 透明導電層
10 透明導電性フィルム
図1