特許第5932142号(P5932142)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5932142
(24)【登録日】2016年5月13日
(45)【発行日】2016年6月8日
(54)【発明の名称】ビニル系重合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 12/00 20060101AFI20160526BHJP
   C08F 20/00 20060101ALI20160526BHJP
   C08F 4/40 20060101ALI20160526BHJP
【FI】
   C08F12/00 510
   C08F20/00 510
   C08F4/40
【請求項の数】7
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-513750(P2015-513750)
(86)(22)【出願日】2014年4月21日
(86)【国際出願番号】JP2014061184
(87)【国際公開番号】WO2014175221
(87)【国際公開日】20141030
【審査請求日】2015年8月4日
(31)【優先権主張番号】特願2013-92863(P2013-92863)
(32)【優先日】2013年4月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 奏央
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 太亮
【審査官】 渡辺 陽子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−72809(JP,A)
【文献】 特開2000−198825(JP,A)
【文献】 特表2001−514697(JP,A)
【文献】 特開2007−238671(JP,A)
【文献】 特開2005−29677(JP,A)
【文献】 特表2012−508309(JP,A)
【文献】 特表2012−508313(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
遷移金属化合物およびポリアミン化合物を触媒として用いて、かつハロゲン化(メタ)アリル化合物を開始剤として用いて、ビニル系単量体を重合するビニル系重合体の製造方法であって、
反応系中の未反応の開始剤の濃度を調整しつつビニル系単量体を重合することを特徴とするビニル系重合体の製造方法。
【請求項2】
反応系中の未反応の開始剤の濃度を調整するために、反応系中の未反応の開始剤量をモニタリングして、開始剤投入のタイミング、あるいは開始剤の投入速度を調整することを特徴とする請求項1に記載のビニル系重合体の製造方法。
【請求項3】
反応系中の未反応の開始剤の濃度を0.5重量%以下に調整しつつビニル系単量体を重合することを特徴とする請求項1または2に記載のビニル系重合体の製造方法。
【請求項4】
反応系中の未反応の開始剤の濃度を調整するために、開始剤を2回以上に分けて反応系中に投入する(ただし、少なくとも1回は、ビニル系単量体のモノマー転化率が0%のとき以外に投入する)ことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のビニル系重合体の製造方法。
【請求項5】
ビニル系単量体と開始剤との仕込み比から計算される設定分子量が1000〜100000であるビニル系重合体を製造することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のビニル系重合体の製造方法。
【請求項6】
反応系中に投入されるビニル系単量体の総量100体積部に対して溶媒量が100体積部以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のビニル系重合体の製造方法。
【請求項7】
分子量が130,000以下であるビニル系重合体を製造することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のビニル系重合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ビニル系単量体のリビングラジカル重合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ビニル系重合体の製造方法としては、分子量分布が狭く、粘度が低い重合体を得ることができる上に、特定の官能基を有する単量体を重合体のほぼ任意の位置に導入することができるリビングラジカル重合方法が知られている。下記特許文献1および下記非特許文献1では、遷移金属化合物とポリアミン化合物からなる触媒、及びハロゲン化(メタ)アリル化合物を開始剤に用いて(メタ)アクリル系単量体を重合する(メタ)アクリル系重合体の製造方法が開示されている。
【0003】
また、リビングラジカル重合方法の中でも、有機ハロゲン化物などを開始剤として使用し、遷移金属錯体を触媒として使用しつつ、ビニル系単量体を重合する原子移動ラジカル重合方法が知られている。下記特許文献2および3では、連続的に実施される原子移動ラジカル重合(ATRP)によりブロックコポリマーを製造する方法において、二官能性の開始剤を2つのバッチにして重合溶液に添加し、かつ組成ABAのブロックコポリマーが総じて1.8より大きい多分散性指数を有する分子量分布を有することを特徴とする、ブロックコポリマーの製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−198825号公報
【特許文献2】特開2012−508309号公報
【特許文献3】特開2012−508313号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】J.Am.Chem.Soc.,2008,130(32),10702
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記記載の先行技術に関し、本発明者らが鋭意検討した結果、これらの技術には以下の点でさらなる改良の余地があることが判明した。具体的には、前記特許文献1および非特許文献1に記載の技術では、ハロゲン化(メタ)アリル化合物を開始剤として用いたリビングラジカル重合方法において、分子量分布が狭い重合体の製造を目的とするものの、反応系中の開始剤の濃度や添加方法などを工夫する技術思想が無いため、後述する理由により、分子量分布が狭く、かつ設定分子量どおりの重合体が得られない場合があった。
【0007】
一方、前記特許文献2および3に記載の技術では、総じて1.8より大きい多分散性指数を有する分子量分布を有する、組成ABAのブロックコポリマーを製造することを特徴とするため、分子量分布が狭い重合体を製造するという技術思想は全く無い。
【0008】
本発明者らは、特定の触媒および開始剤を組み合わせたリビングラジカル重合方法、具体的には、遷移金属化合物およびポリアミン化合物を触媒として用いたリビングラジカル重合の開始剤として、ハロゲン化(メタ)アリル化合物を用いたリビングラジカル重合法において、従来技術では以下の問題が発生することを見出した。
(i)開始反応と(メタ)アリル基への付加反応が競争的に起こり、開始反応を起こせなくなる(開始剤効率の低下)。
(ii)あるいは多数の開始点を有する開始剤が生成されることによって、分子量が設定分子量より大きくなる、さらには分子量分布が広がる。
【0009】
本発明は前記実情に鑑みてなされたものであり、その課題は、原料として用いるビニル系単量体と開始剤との仕込み比から計算される設定分子量に近い分子量を有し、かつ分子量分布が狭いビニル系重合体を製造することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは前記課題を解決するために、ビニル系単量体の重合反応系中に存在する開始剤の濃度に着目し、鋭意検討を行った結果、以下の現象を見出した。
【0011】
開始剤として特定の開始剤、具体的にはハロゲン化(メタ)アリル化合物を用いた場合、重合反応系中に存在する開始剤の濃度を調整することなく、例えば開始剤の濃度が高い状態でビニル系単量体の重合反応を行った場合、開始剤上に発生したラジカルを介して、開始剤同士が反応し易くなり、理論上、仕込み比よりも開始剤量が減少する傾向がある(前記(i))。その結果、最終的に製造されるビニル系重合体の分子量が設定分子量よりも高くなる傾向があった。さらに開始剤同士が反応すると、例えばヘキサジエンなどのジエン化合物が生成するが、ビニル系単量体の重合反応時にジエン化合物が存在すると、ジエン化合物がカップリング剤として作用する結果、二分岐ポリマーが生成する(前記(ii))。その結果、最終的に製造されるビニル系重合体の分子量が設定分子量よりも高くなると共に、分子量分布が広がる傾向があった。
【0012】
本発明者らは前記現象を回避すべく鋭意検討した結果、ハロゲン化(メタ)アリル化合物を開始剤として用いた場合に、反応系中の未反応の開始剤の濃度を調整するという、従来技術には無かった新たな技術思想により、前記課題を解決し得ることを見出した。
【0013】
すなわち、本発明は遷移金属化合物およびポリアミン化合物を触媒として用いて、かつハロゲン化(メタ)アリル化合物を開始剤として用いて、ビニル系単量体を重合するビニル系重合体の製造方法であって、反応系中の未反応の開始剤の濃度を調整しつつビニル系単量体を重合することを特徴とするビニル系重合体の製造方法に関する。
【0014】
前記製造方法によれば、反応系中の未反応の開始剤の濃度が調整されているため、開始剤同士の反応を抑制することができる。その結果、原料として用いるビニル系単量体と開始剤との仕込み比から計算される設定分子量に近く、かつ分子量分布が狭いビニル系重合体を製造することができる。
【0015】
なお、本発明者らが知り得る限りでは、ハロゲン化(メタ)アリル化合物を開始剤として用いたリビングラジカル重合方法において、反応系中の未反応の開始剤の濃度を調整しつつビニル系単量体を重合するという技術思想を報告する例は存在しない。
【0016】
前記ビニル系重合体の製造方法において、反応系中の未反応の開始剤の濃度を調整するために、反応系中の未反応の開始剤量をモニタリングして、開始剤投入のタイミング、あるいは開始剤の投入速度を調整することが好ましい。かかる構成によれば、反応系中の未反応の開始剤の濃度を、目標とする濃度により調整し易くなる。このため、その結果、原料として用いるビニル系単量体と開始剤との仕込み比から計算される設定分子量により近く、かつ分子量分布がより狭いビニル系重合体を製造することができる。
【0017】
前記ビニル系重合体の製造方法において、反応系中の未反応の開始剤の濃度を0.5重量%以下に調整しつつビニル系単量体を重合することが好ましい。かかる構成によれば、反応系中の未反応の開始剤の濃度が十分に低く調整されているため、開始剤同士の反応をさらに抑制することができる。その結果、原料として用いるビニル系単量体と開始剤との仕込み比から計算される設定分子量により近く、かつ分子量分布がより狭いビニル系重合体を製造することができる。
【0018】
前記ビニル系重合体の製造方法において、反応系中の未反応の開始剤の濃度を調整するために、開始剤を2回以上に分けて反応系中に投入する(ただし、少なくとも1回は、ビニル系単量体のモノマー転化率が0%のとき以外に投入する)ことが好ましい。かかる構成によれば、反応系中の未反応の開始剤の濃度を、より低い濃度に調整し易くなる。その結果、原料として用いるビニル系単量体と開始剤との仕込み比から計算される設定分子量にさらに近く、かつ分子量分布がさらに狭いビニル系重合体を製造することができる。
【0019】
前記ビニル系重合体の製造方法において、ビニル系単量体と開始剤との仕込み比から計算される設定分子量が1000〜100000であるビニル系重合体を製造することが好ましい。理論的に、ビニル系単量体と開始剤との仕込み比から計算される設定分子量が小さくなると、ビニル系単量体に対する開始剤の仕込み比が増えるため、反応系中に存在する開始剤の濃度が高くなる。しかしながら、前記製造方法によれば、反応系中の未反応の開始剤の濃度が調整されているため、製造するビニル系重合体の設定分子量を1000〜100000、より好ましくは3000〜50000に設定しても、この範囲に近い分子量のビニル系重合体を製造することができる。
【0020】
理論的に、前記ビニル系重合体の製造方法において、溶媒の量は多いほどハロゲン化アリル化合物の副反応を抑制できるが、逆に多いほど製造物が希釈されて生産性が低下する。このため、反応系中に投入されるビニル系単量体の総量100体積部に対して溶媒量が100体積部以下であることが好ましい。
【0021】
前記ビニル系重合体の製造方法において、製造するビニル系重合体の分子量が小さいと、ビニル系単量体に対する開始剤の仕込み比が増えるため、開始剤同士の反応が起こり易くなる。しかしながら、前記製造方法によれば、反応系中の未反応の開始剤の濃度が調整されているため、分子量が130,000以下であるビニル系重合体を製造する場合であっても、原料として用いるビニル系単量体と開始剤との仕込み比から計算される設定分子量に近く、かつ分子量分布が狭いビニル系重合体を製造することができる。
【発明の効果】
【0022】
ハロゲン化(メタ)アリル化合物の開始反応以外の副反応を抑制して、開始剤とビニル系単量体の仕込みから設定される設定分子量に近く、且つ分子量分布が狭い重合体を得ることが可能となる。すなわちより精密に制御された重合体を得ることができ、さらに開始剤のロスが少なく製造コストの点でも優位である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明は遷移金属化合物とポリアミン化合物からなる触媒、及びハロゲン化(メタ)アリル化合物を開始剤として用いて、ビニル系単量体を重合するビニル系重合体の製造方法に関する。このような触媒及び開始剤を用いた系(以下本リビングラジカル重合という)は、原子移動ラジカル重合(ATRP)(J.Am.Chem.Soc.1995,117,5614)または、Single Electron Transferリビングラジカル重合(SET−LRP)(J.Am.Chem.Soc.2006,128,14156,JPSChem 2007,45,1607)のいずれかのリビングラジカル重合系として解釈されうるが、本発明では特に区別せず、遷移金属化合物、ポリアミン化合物及び有機ハロゲン化化合物を用いたリビングラジカル重合系を本発明の範疇として取り扱う。さらに、これらの系に還元剤を併用するAGET((Macromolecules.2005,38,4139)及びARGET(Macromolecules.2006,39,39)、熱あるいは光分解性ラジカル発生剤を併用するICAR(PNAS.2006,103,15309)も本発明の範疇に含まれものであり、本発明においても還元剤、および熱あるいは光分解性ラジカル発生剤を併用してもよい。
【0024】
<ハロゲン化(メタ)アリル化合物>
本リビングラジカル重合に用いるハロゲン化(メタ)アリル化合物は遷移金属化合物とポリアミン化合物とを併用したときに、ハロゲンが脱離してラジカルが発生し開始剤として作用する。以下に具体例を示すがそれらに限定されるものではない。
【0025】
例えば、3−ブロモ−1−プロペン、3−クロロ−1−プロペン、3−ヨード−1−プロペン、3−ブロモ−2−メチル−1−プロペン、3−クロロ−2−メチル−1−プロペン、3−ヨード−2−メチル−1−プロペン、3−ブロモ−1−ブテン、3−クロロ−1−ブテン、3−ヨード−1−ブテン、3−ブロモ−2−メチル−1−ブテン、3−クロロ−2−メチル−1−ブテン、3−ヨード−2−メチル−1−ブテン、3−ブロモ−3−メチル−1−ブテン、3−クロロ−3−メチル−1−ブテン、3−ヨード−3−メチル−1−ブテン、3−ブロモ−2−メチル−3−メチル−1−ブテン、3−クロロ−2−メチル−3−メチル−1−ブテン、3−ヨード−2−メチル−3−メチル−1−ブテン等が挙げられる。
【0026】
反応系中の未反応のハロゲン化(メタ)アリル化合物の濃度は、分子量分布の狭い重合体を得るために、0.5重量%以下が好ましく、0.35重量%以下がより好ましい。
【0027】
<開始剤の添加方法>
反応時の開始剤の濃度が高い場合、設定分子量よりも得られるポリマーの分子量が大きくなる、あるいは分子量分布が広がるため、開始剤濃度は低く保つことが好ましい。反応系中の未反応の開始剤の濃度を調整する、特には開始剤の濃度を低濃度に保つ具体的な手段としては、開始剤を2回以上に分けて投入する(ただし、少なくとも1回は、ビニル系単量体のモノマー転化率が0%のとき以外に投入する)、あるいは連続的に投入する、溶媒を増量する、若しくはモノマーを開始反応時から全量仕込むバッチ重合にするなどがある。しかし、溶媒の増量は生産性の低下を招き、バッチ重合は重合時の徐熱を困難にするために工業生産の点から好ましくない。
【0028】
反応系中の未反応の開始剤の濃度を調整しつつビニル系単量体を重合する際、さらには開始剤を2回以上に分けて投入、あるいは連続的に投入する際には、反応系中の残存開始剤量をモニタリングして、開始剤投入のタイミング、あるいは投入速度を調整することが好ましい。
【0029】
開始剤を2回以上に分けて投入する場合、開始剤を投入するタイミングは開始剤濃度がゼロになる前、あるいはゼロになった直後に投入することが好ましい。ポンプなどを使用して開始剤を連続的に投入する場合、開始剤の添加速度は反応系中の開始剤濃度がゼロにならない速度で添加することが好ましい。開始剤の濃度がゼロになった状態が長く続くと開始した末端から重合が進行し、逆に分子量分布が広がってしまうため好ましくない。
【0030】
<遷移金属化合物>
本リビングラジカル重合に用いる遷移金属化合物は各価数を有する銅、ルテニウム、鉄、ニッケル等の塩化物、臭素化物、ヨウ素化物、シアン化物、酸化物、水酸化物、酢酸化物、硫酸化物、硝酸化物等が好ましいが、これらに限定されるものではない。また遷移金属単体から前記遷移金属化合物を反応系中で発生させても良い。
【0031】
これら遷移金属化合物の量は特に限定されるものではないが、SET−LRP、ARGET及びICARを用いた場合には、少量の遷移金属で重合することが、重合後の金属除去処理が簡便化されるため好ましい。具体的には遷移金属原子の重量がビニル系単量体の重量に対して100ppm以下が好ましく、50ppm以下がより好ましく、30ppm以下がさらに好ましく、10ppm以下であれば重合体への着色、濁りがほぼ生じないために特に好ましい。
【0032】
<ポリアミン化合物>
本リビングラジカル重合に用いるポリアミン化合物は遷移金属化合物の配位子として作用し、例示するならば、2,2−ビピリジン、エチレンジアミン、N,N’−ヘキサメチルエチレンジアミン、4,4’−ジ−(5−ノニル)−2,2’−ビピリジン、N−(n−プロピル)ピリジルメタンイミン、N−(n−オクチル)ピリジルメタンイミン、ジエチレントリアミン、N,N,N’,N’’,N’’−ペンタメチルジエチレントリアミン、N−プロピル−N,N−ジ(2−ピリジルメチル)アミン、トリス(2−アミノエチル)アミン、トリス[2−(ジメチルアミノ)エチル]アミン、N,N−ビス(2−ジメチルアミノエチル)−N,N’−ジメチルエチレンジアミン、2,5,9,12−テトラメチル−2,5,9,12−テトラアザテトラデカン、2,6,9,13−テトラメチル−2,6,9,13−テトラアザテトラデカン、4,11−ジメチル−1,4,8,11−テトラアザビシクロヘキサデカン、N’,N’’−ジメチル−N’,N’’−ビス((ピリジン−2−イル)メチル)エタン−1,2−ジアミン、トリス[(2−ピリジル)メチル]アミン、2,5,8,12−テトラメチル−2,5,8,12−テトラアザテトラデカン、トリエチレンテトラミン、N,N,N’,N’’,N’’’,N’’’−ヘキサメチルトリエチレンテトラミン、N,N,N’,N’−テトラキス(2−ピリジルメチル)エチレンジアミン、ポリエチレンイミンなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0033】
ポリアミン化合物は遷移金属化合物の配位子以外に、還元剤を併用したときに生じる酸をトラップする塩基性化合物としても作用できるために、遷移金属化合物に対して等モル量以上加えておくことが好ましい。しかし、一般的にポリアミン化合物は汎用なものが少ないために、過剰に添加することは原料コスト的には好ましくないため、遷移金属化合物に対して1〜2モル当量のポリアミン化合物と過剰量の塩基性化合物を併用することが、反応的にも、原料コスト的にも好ましく、遷移金属化合物に対して1〜1.5モル当量のポリアミン化合物と過剰量の塩基性化合物を併用することがより好ましく、遷移金属化合物に対して1〜1.2モル当量のポリアミン化合物と過剰量の塩基性化合物を併用することがさらに好ましい。
【0034】
<ビニル系単量体>
本発明で用いられるビニル系単量体としては特に限定されず、各種のものを用いることができる。例示するならば、(メタ)アクリル酸;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸−n−プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸−n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸−t−ブチル、(メタ)アクリル酸−n−ペンチル、(メタ)アクリル酸−n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸−n−ヘプチル、(メタ)アクリル酸−n−オクチル、(メタ)アクリル酸−2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸トルイル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸−2−メトキシエチル、(メタ)アクリル酸−3−メトキシブチル、(メタ)アクリル酸−2−エトキシエチル、(メタ)アクリル酸−3−エトキシブチル、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸2−アミノエチル、γ−(メタクリロイルオキシプロピル)トリメトキシシラン、(メタ)アクリル酸のエチレンオキサイド付加物、(メタ)アクリル酸トリフルオロメチルメチル、(メタ)アクリル酸2−トリフルオロメチルエチル、(メタ)アクリル酸2−パーフルオロエチルエチル、(メタ)アクリル酸2−パーフルオロエチル−2−パーフルオロブチルエチル、(メタ)アクリル酸2−パーフルオロエチル、(メタ)アクリル酸パーフルオロメチル、(メタ)アクリル酸ジパーフルオロメチルメチル、(メタ)アクリル酸2−パーフルオロメチル−2−パーフルオロエチルメチル、(メタ)アクリル酸2−パーフルオロヘキシルエチル、(メタ)アクリル酸2−パーフルオロデシルエチル、(メタ)アクリル酸2−パーフルオロヘキサデシルエチル等の(メタ)アクリル酸エステル系単量体;スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、クロルスチレン、スチレンスルホン酸の塩等のスチレン系単量体(芳香族ビニル系単量体);パーフルオロエチレン、パーフルオロプロピレン、フッ化ビニリデン等のフッ素含有ビニル単量体;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等のケイ素含有ビニル系単量体;マレイン酸のモノアルキルエステル及びジアルキルエステル;フマル酸のモノアルキルエステル及びジアルキルエステル;マレイミド、メチルマレイミド、エチルマレイミド、プロピルマレイミド、ブチルマレイミド、ヘキシルマレイミド、オクチルマレイミド、ドデシルマレイミド、ステアリルマレイミド、フェニルマレイミド、シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド系単量体;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル基含有ビニル系単量体;アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド基含有ビニル系単量体;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、安息香酸ビニル、桂皮酸ビニル等のビニルエステル類;エチレン、プロピレン等のアルケン類;ブタジエン、イソプレン等の共役ジエン類;塩化ビニル、塩化ビニリデン、塩化アリル、アリルアルコール等が挙げられる。
【0035】
なお前記表現形式で、例えば(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸および/またはメタクリル酸を表す。
【0036】
これらは、単独で用いても良いし、複数を共重合させても構わない。なかでも生成物の物性等から、(メタ)アクリル酸エステル系単量体および/またはスチレン系単量体(芳香族ビニル系単量体)が好ましく、(メタ)アクリル酸エステル系単量体がより好ましい。本発明においては、これらの好ましい単量体を他の単量体と共重合、更にはブロック共重合させても構わない。本発明のビニル系重合体の製造方法は、これらの好ましい単量体を「主として」重合して製造する方法であることが好ましい。具体的には、これらの好ましい単量体が重量比で60%以上含まれていることが好ましい。
【0037】
ビニル系単量体は開始反応時に全量仕込まれている(バッチ重合)方が、ハロゲン化アリル化合物が希釈されて副反応を抑制できるために好ましい。しかしビニル系単量体を重合する際の開始反応では大きな発熱が起こり、重合体の制御(狭い分子量分布、重合体の生長末端量の維持)、安全性を考慮した製造の点で、後からビニル系単量体を追加していくセミバッチ重合が適している(特開2000−072809号)。そのため、ビニル系単量体は開始反応時に全ビニル系単量体の60%以下が仕込まれているセミバッチ重合が好ましく、40%以下が仕込まれているセミバッチ重合がより好ましく、20%以下が仕込まれているセミバッチ重合がさらに好ましい。
【0038】
<溶媒>
本リビングラジカル重合には必要に応じて溶媒を使用しても良い。溶媒としては、このリビングラジカル重合法を用いる場合特に限定されないが、例示するならば、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N−メチルピロリドン等の高極性非プロトン性溶媒;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート系溶媒;メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、n−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール等のアルコール系溶媒;アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒;塩化メチレン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒;ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、オクタン、デカン、ベンゼン、トルエン等の炭化水素系溶媒;イオン性液体、水等が挙げられる。前記溶媒は単独又は2種以上を混合して用いることができる。また超臨界流体を用いてもよい。
【0039】
溶媒の量は多いほどハロゲン化アリル化合物の副反応を抑制できるために好ましいが、逆に多いほど製造物が希釈されて生産性が低下するために好ましくない。そのため、反応系中に投入されるビニル系単量体100体積部に対して、溶媒量が100体積部以下であることが製造の生産性を考慮すると好ましく、50体積部以下がより好ましく、30体積部以下がさらに好ましく、10体積部以下が特に好ましい。
【0040】
<還元剤>
本リビングラジカル重合としてAGETまたはARGETを用いる場合には、還元剤を使用してもよい。以下に還元剤を例示するが、これらの還元剤に限定されるものではない。
【0041】
金属。具体例としては、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属類;ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、バリウム等のアルカリ土類金属類;アルミニウム;亜鉛等の典型金属;銅、ニッケル、ルテニウム、鉄等の遷移金属等が挙げられる。またこれらの金属は水銀との合金(アマルガム)の状態であってもよい。
【0042】
金属化合物。典型金属又は遷移金属の塩や典型元素との塩、さらに一酸化炭素、オレフィン、含窒素化合物、含酸素化合物、含リン化合物、含硫黄化合物等が配位した錯体等が挙げられる。具体的には、金属とアンモニア/アミンとの化合物、三塩化チタン、チタンアルコキシド、塩化クロム、硫酸クロム、酢酸クロム、塩化鉄、塩化銅、臭化銅、塩化スズ、酢酸亜鉛、水酸化亜鉛、Ni(CO)、CoCO等のカルボニル錯体、[Ni(cod)]、[RuCl(cod)]、[PtCl(cod)]等のオレフィン錯体(ただしcodはシクロオクタジエンを表す)、[RhCl(P(C]、[RuCl(P(C]、[PtCl(P(C]等のホスフィン錯体等が挙げられる。
【0043】
金属水素化物。具体例としては、水素化ナトリウム;水素化ゲルマニウム;水素化タングステン;水素化ジイソブチルアルミニウム、水素化アルミニウムリチウム、水素アルミニウムナトリウム、水素化トリエトキシアルミニウムナトリウム、水素化ビス(2−メトキシエトキシ)アルミニウムナトリウム等のアルミニウム水素化物;水素化トリフェニルスズ、水素化トリ−n−ブチルスズ、水素化ジフェニルスズ、水素化ジ−n−ブチルスズ、水素化トリエチルスズ、水素化トリメチルスズ等の有機スズ水素化物等が挙げられる。
【0044】
有機スズ化合物。具体例としては、オクチル酸スズ、2−エチルヘキシル酸スズ、ジブチルスズジアセテート、ジブチルスズジラウレート、ジブチルスズメルカプチド、ジブチルスズチオカルボキシレート、ジブチルスズジマレエート、ジオクチルスズチオカルボキシレート等が挙げられる。
【0045】
ケイ素水素化物。具体例としては、トリクロロシラン、トリメチルシラン、トリエチルシラン、ジフェニルシラン、フェニルシラン、ポリメチルヒドロシロキサン等が挙げられる。
【0046】
ホウ素水素化物。具体的には、ボラン、ジボラン、水素化ホウ素ナトリウム、水素化トリメトキシホウ酸ナトリウム、硫化水素化ホウ素ナトリウム、シアン化水素化ホウ素ナトリウム、シアン化水素化ホウ素リチウム、水素化ホウ素リチウム、水素化トリエチルホウ素リチウム、水素化トリ−s−ブチルホウ素リチウム、水素化トリ−t−ブチルホウ素リチウム、水素化ホウ素カルシウム、水素化ホウ素カリウム、水素化ホウ素亜鉛、水素化ホウ素テトラ−n−ブチルアンモニウム等が挙げられる。
【0047】
窒素化合物。具体的には、ヒドラジン、ジイミド等が挙げられる。
【0048】
リン又はリン化合物。具体的には、リン、ホスフィン、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリメチルホスファイト、トリエチルホスファイト、トリフェニルホスファイト、ヘキサメチルホスフォラストリアミド、ヘキサエチルホスフォラストリアミド等が挙げられる。
【0049】
硫黄又は硫黄化合物。具体的には、硫黄、ロンガリット類、ハイドロサルファイト類、二酸化チオ尿素等が挙げられる。ロンガリットとは、スルホキシル酸塩のホルムアルデヒド誘導体であり、MSO・CHO(MはNa又はZnを示す)で表される。具体的には、ソジウムホルムアルデヒドスルホキシレート、亜鉛ホルムアルデヒドスルホキシレート等が挙げられる。ハイドロサルファイトとは、次亜硫酸ナトリウム及び次亜硫酸ナトリウムのホルムアルデヒド誘導体の総称である。
【0050】
水素。
【0051】
還元作用を示す有機化合物。具体的には、アルコール、アルデヒド、フェノール類及び有機酸化合物等が挙げられる。アルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール等が挙げられる。アルデヒドとしては、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ベンズアルデヒド、ギ酸等が挙げられる。フェノール類としては、フェノール、ハイドロキノン、ジブチルヒドロキシトルエン、トコフェロール等が挙げられる。有機酸化合物としては、クエン酸、アスコルビン酸、及びこれらの塩、エステル等が挙げられる。
【0052】
これら還元剤は単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもかまわない。
【0053】
還元剤の添加量は遷移金属化合物に対して0.01〜100モル当量が重合速度および構造制御の点から好ましく、0.1〜40モル当量がより好ましく、0.5〜10モル当量がさらに好ましい。
【0054】
<塩基性化合物>
本リビングラジカル重合としてAGETまたはARGETを用いる場合には、塩基性化合物を使用してもよい。以下に塩基性化合物を例示するが、これらの還元剤に限定されるものではなく、ブレンステッドの塩基の定義に当てはまる、プロトンを受け入れる性質を持つ化合物、あるいはルイスの塩基の定義に当てはまる、非共有電子対を持っていてそれを授与することができ配位結合をつくる性質を有する化合物であれば良い。
【0055】
例示するならばアンモニア、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、アニリン等のアミン誘導体。エチレンジアミン、プロピレンジアミン、テトラメチルエチレンジアミン、ジエチレントリアミン、ペンタメチルジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ヘキサメチルトリエチレンテトラミン、ヘキサメチレンテトラミンなどのポリアミン誘導体。ピリジン、ビピリジン、ピペリジン、ピロール、イミダゾール等の含窒素複素環化合物。ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、ナトリウムプロポキシド、ナトリウムブトキシド、ナトリウムペントキシド、ナトリウムヘキソキシド、カリウムメトキシド、カリウムエトキシド、カリウムプロポキシド、カリウムブトキシド、カリウムペントキシド、カリウムヘキソキシド、メチルリチウム、エチルリチウム、プロピルリチウム、ブチルリチウム、ペンチルリチウム、ヘキシルリチウム等の有機金属化合物。水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化アンモニウム等の水酸化物。炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸アルミニウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素カルシウム、炭酸水素マグネシウム、炭酸水素アルミニウム、炭酸水素アンモニウム、リン酸ナトリウム、リン酸水素ナトリウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム等の弱酸塩などが挙げられる。
【0056】
これらは、単独で用いても良いし、複数を併用しても構わない。
【0057】
また、塩基性化合物は、直接反応系に添加してもよいし、反応系中で発生させてもよい。
【0058】
塩基性化合物の添加量は遷移金属化合物に対して0.01〜400モル当量が重合速度および構造制御の点から好ましく、0.1〜150モル当量がより好ましく、0.5〜40モル当量がさらに好ましい。
【0059】
<熱あるいは光分解性ラジカル発生剤>
本リビングラジカル重合としてICARを用いる場合には、熱あるいは光分解性ラジカル発生剤を使用してもよい。以下に熱あるいは光分解性ラジカル発生剤を例示するが、これらに限定されるものではない。
【0060】
ジアルキルジアゼン化合物。具体的にはアゾビス(イソブチロニトリル)(AIBN)、ジメチル 2,2‘−アゾビスイソブチレート(MAIB)、1,1’−アゾビス(1−シクロヘキサンニトリル)、2,2‘−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)、アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル、アゾ構造(−N=N−)を含むポリマー及びオリゴマー。
【0061】
過酸化物。具体的にはアクリル及びジアクリル過酸化物類、水酸化過酸化物類、過酸エステル、無機系過酸化物類、過酸化ベンゾイル(BPO)、過酸(過酢酸、過安息香酸)。
【0062】
スチレン類、アクリル酸エステル類。
【0063】
熱あるいは光分解性ラジカル発生剤の添加量は遷移金属化合物に対して0.01〜100モル当量が重合速度および構造制御の点から好ましく、0.1〜40モル当量がより好ましく、0.5〜10モル当量がさらに好ましい。
【0064】
<分子量・分子量分布>
本リビングラジカル重合では停止、移動反応が起こる頻度が極めて低いために、開始剤とモノマーの組成比より生成重合体の分子量を予め設定でき、分子量分布が狭い重合体が得られる。
【0065】
生成重合体の分子量が大きいほど、モノマーに対する開始剤の比率が減り、ハロゲン化(メタ)アリル化合物の濃度が低くなる。例えば、分子量200,000の重合体を合成する場合、ビニル系単量体に対するハロゲン化(メタ)アリル化合物の濃度は十分に低くなるため、ハロゲン化(メタ)アリル化合物を2回以上の分割や連続的に添加せる必要がなくなる。そのため本発明は得られるビニル系重合体の数平均分子量が130,000以下であるとき有効であり、80,000以下であるときにより有効であり、60,000以下であるときさらに有効であり、45,000以下であるとき特に有効である。
【0066】
得られるビニル系重合体の分子量分布は1.8以下が好ましく、1.5以下がより好ましく、1.3以下がさらに好ましい。
【実施例】
【0067】
以下に、本発明の具体的な実施例を示すが、本発明は、下記実施例に限定されるものではない。試薬については、液体は窒素バブリングを1時間、固体は真空・窒素戻しを3回行い、脱酸素してから使用した。臭化アリル及びアクリル酸n−ブチルの残存量および消費量はガスクロマトグラフィ(GC)の結果から算出した。このときのGCカラムとしてキャピラリーGCカラム(SPLCOWAX−10)をキャリアガスとしてヘリウム用いた。「数平均分子量(Mn)」および「分子量分布PDI(重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比)」は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いた標準ポリスチレン換算法により算出した。このときのGPCカラムとしてポリスチレン架橋ゲルを充填したもの(shodex GPC K−804;昭和電工(株)製)を、GPC溶媒としてクロロホルムを用いた。
【0068】
(実施例1)
エタノール1.41g(BA全量を100体積部として1.6体積部)に臭化第二銅0.0070g、トリス[2−(ジメチルアミノ)エチル]アミン0.0073g、トリエチルアミン0.0016gを添加して錯体溶液を作成した。作成した錯体溶液に、アクリル酸n−ブチル(BA)40.0g(BA全量の40%)、エタノール44.1g(BA全量を100体積部として50.0体積部)及び臭化アリル0.295g(0.34重量%)を加え、窒素気流下60℃で撹拌した。そこに、アスコルビン酸0.072gにエタノール4.83g、トリエチルアミン0.083gを加えて溶解させたアスコルビン酸溶液を1.8ml/Hrの速度で添加していった。この際、反応系中の未反応の開始剤の濃度を調整するために、数分間隔でサンプリングして臭化アリルの残存量を確認した。アスコルビン酸溶液添加開始から90分経過し、臭化アリルがほぼ完全に消費されたところで臭化アリル0.295g(0.34重量%)を追加した。一方、このときのBA消費量は3.9gであった。アスコルビン酸溶液添加開始から160分経過し、臭化アリルは完全に消費されたところで、アスコルビン酸溶液の添加速度を0.3ml/Hrに変更し、BA60.0gを0.67g/minで追加し始めた。このときのBA消費量は11.1gであった。アスコルビン酸溶液添加開始から350分経過したところで、加熱を止め、反応溶液を空気にさらして反応を終了した。このときのBA消費量は89.2gであり、得られたポリマーの数平均分子量(Mn)は23700、分子量分布(Mw/Mn)は1.33であった。
【0069】
(実施例2)
重合前に加えた臭化アリルを0.147g(0.17重量%)に変更し、さらにアスコルビン酸溶液添加開始から40分、70分、100分経過した時点で、それぞれ臭化アリル0.147g(0.17重量%)を追加するように変更した以外は、実施例1と同様の操作を行った。反応を終了したときのBA消費量は89.5gであり、得られたポリマーの数平均分子量(Mn)は26500、分子量分布(Mw/Mn)は1.44であった。
【0070】
(比較例1)
エタノール1.41g(BA全量を100体積部として1.6体積部)に臭化第二銅0.0070g、トリス[2−(ジメチルアミノ)エチル]アミン0.0073g、トリエチルアミン0.0016gを添加して錯体溶液を作成した。作成した錯体溶液に、アクリル酸n−ブチル(BA)40.0g(BA全量の40%)、エタノール44.1g(BA全量を100体積部として50.0体積部)及び臭化アリル0.590g(0.69重量%)を加え、窒素気流下60℃で撹拌した。そこに、アスコルビン酸0.068gにエタノール4.51g、トリエチルアミン0.078gを加えて溶解させたアスコルビン酸溶液を1.8ml/Hrの速度で添加していった。この際、残りのBAの投入タイミングを決定するために、数分間隔でサンプリングして臭化アリルの残存量を確認した。アスコルビン酸溶液添加開始から130分経過し、臭化アリルは完全に消費されたところで、アスコルビン酸溶液の添加速度を0.3ml/Hrに変更し、BA60.0gを0.67g/minで追加し始めた。このときのBA消費量は9.3gであった。アスコルビン酸溶液添加開始から430分経過したところで、加熱を止め、反応溶液を空気にさらして反応を終了した。このときのBA消費量は84.6gであり、得られたポリマーの数平均分子量(Mn)は32000、分子量分布(Mw/Mn)は1.33であった。
【0071】
(比較例2)
エタノール1.41g(BA全量を100体積部として1.6体積部)に臭化第二銅0.0070g、トリス[2−(ジメチルアミノ)エチル]アミン0.0073g、トリエチルアミン0.0016gを添加して錯体溶液を作成した。作成した錯体溶液に、アクリル酸n−ブチル(BA)40.0g(BA全量の40%)、エタノール8.8g(BA全量を100体積部として10.0体積部)及び臭化アリル0.590g(1.16重量%)を加え、窒素気流下60℃で撹拌した。そこに、アスコルビン酸0.057gにエタノール3.77g、トリエチルアミン0.065gを加えて溶解させたアスコルビン酸溶液を1.8ml/Hrの速度で添加していった。この際、残りのBAの投入タイミングを決定するために、数分間隔でサンプリングして臭化アリルの残存量を確認した。アスコルビン酸溶液添加開始から117分経過し、臭化アリルは完全に消費されたところで、アスコルビン酸溶液の添加速度を0.3ml/Hrに変更し、BA60.0gを0.67g/minで追加し始めた。このときのBA消費量は11.4gであった。アスコルビン酸溶液添加開始から376分経過したところで、加熱を止め、反応溶液を空気にさらして反応を終了した。このときのBA消費量は90.5gであり、得られたポリマーの数平均分子量(Mn)は30300、分子量分布(Mw/Mn)は2.37であった。
【0072】
(比較例3)
エタノール1.41g(BA全量を100体積部として1.6体積部)に臭化第二銅0.0070g、トリス[2−(ジメチルアミノ)エチル]アミン0.0073g、トリエチルアミン0.0016gを添加して錯体溶液を作成した。作成した錯体溶液に、アクリル酸n−ブチル(BA)20.0g(BA全量の20%)、エタノール8.8g(BA全量を100体積部として10.0体積部)及び臭化アリル0.590g(1.91重量%)を加え、窒素気流下60℃で撹拌した。そこに、アスコルビン酸0.074gにエタノール4.92g、トリエチルアミン0.085gを加えて溶解させたアスコルビン酸溶液を1.8ml/Hrの速度で添加していった。この際、残りのBAの投入タイミングを決定するために、数分間隔でサンプリングして臭化アリルの残存量を確認した。アスコルビン酸溶液添加開始から135分経過し、臭化アリルは完全に消費されたところで、アスコルビン酸溶液の添加速度を0.3ml/Hrに変更し、BA80.0gを0.89g/minで追加し始めた。このときのBA消費量は10.6gであった。アスコルビン酸溶液添加開始から454分経過したところで、アスコルビン酸溶液の添加速度を0.6ml/Hrに変更した。アスコルビン酸溶液添加開始から454分経過したところで、加熱を止め、反応溶液を空気にさらして反応を終了した。このときのBA消費量は74.0gであり、得られたポリマーの数平均分子量(Mn)は37400、分子量分布(Mw/Mn)は5.10であった。
【0073】
(参考例1)
エタノール2.90kg(BA全量を100体積部として0.4体積部)に臭化第二銅0.084kg、トリス[2−(ジメチルアミノ)エチル]アミン0.087kg、トリエチルアミン1.29kgを添加して錯体溶液を作成した。作成した錯体溶液に、アクリル酸n−ブチル(BA)160.0kg(BA全量の20%)、エタノール64.7kg(BA全量を100体積部として10.0体積部)及び酢酸エチル17.9kgに溶解させた2,5−ジブロモヘキサンジオン酸ジエチルエステル(DBAE)14.0kg(5.36重量%)を加え、窒素気流下70℃で撹拌した。そこに、アスコルビン酸0.093kgにエタノール20.2kg、トリエチルアミン0.107kgを加えて溶解させたアスコルビン酸溶液を8.4l/Hrの速度で添加していった。この際、残りのBAの投入タイミングを決定するために、数分間隔でサンプリングして臭化アリルの残存量を確認した。アスコルビン酸溶液添加開始から67分経過したところで、アスコルビン酸溶液の添加速度を4.2l/Hrに変更し、BA640.0kgを7.1kg/minで追加し始めた。アスコルビン酸溶液添加開始から454分経過したところで、アスコルビン酸溶液の添加速度を0.6ml/Hrに変更した。アスコルビン酸溶液添加開始から300分経過したところで、加熱を止め、反応溶液を空気にさらして反応を終了した。このときのBA消費量は740.8kgであり、得られたポリマーの数平均分子量(Mn)は19700、分子量分布(Mw/Mn)は1.20であった。
【0074】
【表1】
【0075】
比較例3は分子量分布が広く、分子量も設定分子量よりも大きくなっている。このことより、ハロゲン化アリル化合物が副反応を起こして、開始反応を起こせない、あるいは多数の開始点を有する副生成物が生成していることが示唆される。比較例1、2では初期モノマーの量、溶媒の量を増やすことで系中の臭化アリル濃度を下げている。その結果分子量分布は臭化アリル濃度が低いほど狭分散傾向にあるが、その分子量は設定分子量より遥かに大きくなり、一部のハロゲン化アリル化合物が開始剤として機能していないことが示唆される。一方で、臭化アリルを二分割して添加し、反応系中の未反応の臭化アリルの濃度を0.34重量%以下に調整した実施例1では設定分子量に近い分子量になっており、分子量分布も狭分散であった。さらに、臭化アリルを四分割して添加し、反応系中の未反応の臭化アリルの濃度を0.17重量%以下に調整した実施例2でも設定分子量に近い分子量になっており、分子量分布も狭分散であった。
【0076】
このことから臭化アリルを開始剤として用いるリビングラジカル重合系では臭化アリルを分割して添加することにより、高開始剤効率で設定分子量通りの分子量分布の狭いポリマーを得ることができると言える。
【0077】
なお、開始剤としてハロゲン化(メタ)アリル化合物を用いない参考例1では、開始剤濃度が高い場合であっても、設定分子量に近く、かつ分子量分布の狭い重合体が得られることがわかる。つまり、参考例1および比較例1〜3の結果から、開始剤としてハロゲン化(メタ)アリル化合物を用いる場合に限り、重合段階でハロゲン化(メタ)アリル化合物の開始反応以外の副反応が発生することが原因となって、製造される重合体の分子量が設定分子量よりも大きくなる、あるいは分子量分布が広がるという、特有の課題が存在することが理解できる。