特許第5932329号(P5932329)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5932329リーミング工具及びヘッド並びに切削インサート
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5932329
(24)【登録日】2016年5月13日
(45)【発行日】2016年6月8日
(54)【発明の名称】リーミング工具及びヘッド並びに切削インサート
(51)【国際特許分類】
   B23D 77/02 20060101AFI20160526BHJP
【FI】
   B23D77/02
【請求項の数】15
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2011-286181(P2011-286181)
(22)【出願日】2011年12月27日
(65)【公開番号】特開2012-139814(P2012-139814A)
(43)【公開日】2012年7月26日
【審査請求日】2014年10月27日
(31)【優先権主張番号】1051377-8
(32)【優先日】2010年12月28日
(33)【優先権主張国】SE
(73)【特許権者】
【識別番号】507226695
【氏名又は名称】サンドビック インテレクチュアル プロパティー アクティエボラーグ
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100102819
【弁理士】
【氏名又は名称】島田 哲郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100141081
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 庸良
(74)【代理人】
【識別番号】100153729
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 有一
(74)【代理人】
【識別番号】100171251
【弁理士】
【氏名又は名称】篠田 拓也
(72)【発明者】
【氏名】ペル ハンソン
【審査官】 大山 健
(56)【参考文献】
【文献】 特表2010−537830(JP,A)
【文献】 特開平04−013502(JP,A)
【文献】 特開平07−032211(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23D 77/00−77/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動ロッド(1)と、
回転対称の基本形状を有し、一つ以上の着脱可能な切削インサート(3)を有するヘッド(2)と、を備え、
ヘッドが、前面及び後面(13,14)と、中心軸(C)と同軸の外周面(15)と、外周面(15)に凹設されると共に三つの支持面を含むインサート座であって、三つの支持面の内の一つが半径方向の支持面(18)であり、他の一つが接線方向の支持面であるインサート座と、を備え、
切削インサートが、六つの境界面を含む鏡像対照の多角形状を有し、対向し互いに平行である二つの面は、中心対照平面(SP1)から等しい距離で離れ、交換可能に使用可能である同一の切れ刃(34)を介して逃げ面(32)として機能する境界面(30)に接続するすくい面(28)を形成し、切削インサートがクランプ手段(25)によってインサート座(17)に固定されて保持されるリーミング工具において、
切削インサート(3)が、対称平面(SP1)において菱形形状を有すると共に四つの逃げ面(30)を有し、
四つの逃げ面の内の各一対の面が対向する二つのコーナ(31)で鈍角で交差し、四つの逃げ面(30)が、個々のすくい面(29)に沿って、すくい面と共に、切削インサートが位置決めされることによって刃先交換可能に使用可能な二つの切れ刃(33)をし、
インサート座(17)が、半径方向及び接線方向の支持面(18,19)に加えて、半径方向の支持面(18)に対して鈍角を形成する傾斜面(22)を有し、
前記クランプ手段(25)が、雄ねじ(24)とヘッド(26)とで作られ、切削インサートの鈍角のコーナの間の貫通孔(36)に配置され、雄ねじ(24)が、半径方向の支持面(18)とインサート座(17)の傾斜面(22)との間の移行部にある孔(23)内の雌ねじに係合することを特徴とするリーミング工具。
【請求項2】
前記傾斜面(22)に沿って形成された段(21)は、前記ヘッド(2)の軸方向を向く面として形成された軸方向の支持面(20)を有し前記切削インサート(3)の四つの逃げ面(30)のそれぞれにおいてキャビティが凹設され、キャビティが軸方向の前記支持面(20)に当接する軸方向の接触面(39)を有することを特徴とする請求項1に記載のリーミング工具。
【請求項3】
インサート座の軸方向の接触面(20)が半径方向の支持面(18)に対して70゜〜110゜の角度を形成し、軸方向の接触面(39)が、切削インサートの第1の逃げ面(30)内に凹設されたキャビティにおいて、段の軸方向の支持面(20)に当接する第2の逃げ面の近傍で前記角度と同じ角度を形成することを特徴とする請求項2に記載のリーミング工具。
【請求項4】
切削インサート(3)を貫通する貫通孔(36)は、該貫通孔(36)の対向する二つの端部のそれぞれにリング形状の皿部分(37)を有し、じの頭部(26)を受け入れることを特徴とする請求項に記載のリーミング工具。
【請求項5】
鈍角のコーナで交差する切削インサート(3)の二つの逃げ面(30)の間の角度(β)と、インサート座の半径方向の支持面(18)と傾斜面(22)との間の鈍角が、少なくとも110゜、大きくても160゜であることを特徴とする請求項1〜の何れか1項に記載のリーミング工具。
【請求項6】
切削インサート(3)の個々の逃げ面(30)が個々のすくい面(29)に対して直角であり、インサート座の半径方向及び接線方向の支持面(18,19)が互いに直角であることを特徴とする請求項1〜の何れか1項に記載のリーミング工具。
【請求項7】
六つの境界面を含む鏡像対照の多角形状を有し、対向し互いに平行である二つの面は、中心対照平面(SP1)から等しい距離で離れ、交換可能に使用可能である同一の切れ刃(34)を介して逃げ面(32)として機能する境界面(30)に接続するすくい面(28)として機能する請求項1〜の何れか1項に記載のリーミング工具用のリーミングインサートにおいて、
切削インサート(3)が、対称平面(SP1)において菱形形状を有すると共に四つの逃げ面(30)を有し、
四つの逃げ面の内の各一対の面が対向する二つのコーナ(31)で鈍角で交差し、四つの逃げ面(30)が、個々のすくい面(29)に沿って、すくい面と共に、切削インサートが位置決めされることによって刃先交換可能に使用可能な二つの切れ刃(33)を有し、
鈍角の前記コーナ(31)間で延びる貫通孔(36)を有することを特徴とするリーミングインサート。
【請求項8】
個々の逃げ面(30)において、軸方向の接触面(39)を有するキャビティ(38)が凹設されていることを特徴とする請求項に記載のリーミングインサート。
【請求項9】
個々の軸方向の接触面(39)が、第1の逃げ面(30)に凹設されたキャビティ(38)において、第1の逃げ面(30)と同じ鈍角のコーナ(31)に接続する第2の逃げ面の近傍で直角をなすことを特徴とする請求項に記載のリーミングインサート。
【請求項10】
鈍角(β)が少なくとも110゜大きくても160゜になることを特徴とする請求項の何れか1項に記載のリーミングインサート。
【請求項11】
一つの貫通孔(36)が対称平面(SP1)内に配置されていることを特徴とする請求項10に記載のリーミングインサート。
【請求項12】
孔(36)の対向する端部のそれぞれにねじの頭部を受け入れる皿部分(37)が形成されていることを特徴とする請求項7〜11の何れか1項に記載のリーミングインサート。
【請求項13】
前面及び後面(13,14)と、中心軸(C)と同軸の外周面(15)と、外周面(15)に凹設されると共に三つの支持面を含み、切削インサートが受け入れるインサート座であって、三つの支持面の内の一つが半径方向の支持面(18)であり、他の一つが接線方向の支持面であるインサート座と、を備えた請求項1〜の何れか1項に記載のリーミング工具用の回転対称の工具ヘッドにおいて、
インサート座が、半径方向及び接線方向の支持面(18,19)に加えて、半径方向の支持面(18)に対して鈍角を形成する傾斜面を有し、
半径方向の支持面(18)とインサート座(17)の傾斜面(22)との間の移行部で開口する孔(23)が雌ねじを有することを特徴とする工具ヘッド。
【請求項14】
軸方向の支持面(20)の形態である第3の支持面が、傾斜面(22)に沿って形成された段(21)に含まれることを特徴とする請求項13に記載の工具ヘッド。
【請求項15】
段(21)の軸方向の接触面(20)が、半径方向の支持面(18)に対して直角をなし、傾斜面(22)に対して鋭角をなすことを特徴とする請求項14に記載の工具ヘッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
第1の態様において、本発明は、駆動ロッドと、回転対称の基本形状を有し、一つ以上の着脱可能な切削インサートを有するヘッドとを備えたリーミング工具であって、ヘッドは、前端面及び後端面と、中心軸に対して同心の外周面と、半径方向の支持面と接線方向の支持面とを含む三つの支持面を有する外周面に凹設されたインサート座とを有し、切削インサートは、六つの面を有する鏡像対照の多角形の形状を有し、その内の二つの対向する互いに平行な面が等しい距離で中央の対照面から分離すると共に、交換可能に使用できる同一の切れ刃を介して逃げ面として機能する境界面に接続するすくい面を形成し、切削インサートがクランプ部材がインサート座に固定されて保持されるリーミング工具に関する。
他の態様において、本発明は、工具ヘッド及び切削インサートに関する。
【背景技術】
【0002】
上記工具は、切り屑除去又は切削加工によって金属の被削材の孔を仕上げる(拡げる)のに使用され、所定の直径を有する筒状の滑らかな面の孔を形成する。工具を用いて加工される生産物はチューブ素材であることが好ましく、その内面は種々の理由により寸法的に正確に仕上げなければならず、高い表面平滑性を要する。実際に、チューブ素材の加工を実施する通常の方法は、いわゆる後退ボーリング(pull boring)加工である。工具は、チューブ素材の内径よりも小さい外径を有するドローバーの一端に接続する。第1ステップで、チューブ素材に挿入される。工具は、ねじジョイントを介してその自由端に装着される。リーミングは、工具とチューブ素材間の直線運動及び回転運動によって行われる。後退ボーリング加工において、工具は、回転せずに、直線的に送り移動し、チューブ素材の内側を通り後退し、チューブ素材は直線的に送り移動することなく回転する。これらの相対的な運動によって、工具ヘッドに着脱可能に装着された切削インサートは、切削加工特有の方法で、孔壁から切り屑を排出し、高い寸法精度で高い表面平滑性を有する筒面を形成する。
【0003】
周知のリーミング工具で使用されている多彩な切削インサートは、二つの対向するすくい面、すなわち、上面及び長い下面と、二つの対向する端面と、上面から端面に向かって延びると共に端面の方に向かって傾斜する二つの逃げ面とを有する。従って、個々のすくい面に沿って、個々の逃げ面の方に向かう移行部において使用可能な一つの切れ刃がある。これは、切削インサートが合計で二つの交換可能で使用可能な切れ刃があることを意味する。切削インサートの体積のため、高価な材料(超硬合金)の量は、使用可能な切れ刃数に比例せず、切削インサート当たりの加工経済性は劣ったものとなる。従って、周知の切削インサートは、反転可能であるだけでなく、切削インサートの多くの切れ刃を使用可能とするために、切れ刃交換可能である。周知の切削インサートの他の不利益は、切削インサートが付属のインサート座に配置され、切削力とは反対方向に作用する逆向きの力を受けて切削インサートが緩むということがある。現在のリーミングは、信頼性があり、良く機能しているが、加工トラブルがある毎に、加工を中断し、工具をチューブ素材の内側から引き出す必要がある。一例として、加工トラブルには、一つ以上のインサートが損傷したり、工具ヘッドにおいて締結状態がゆるくなったり、駆動機械が停止したりすることがある。これに関しては、工具ヘッドの損傷していない切削インサートは、チューブ素材の中で損傷することがあり、切削インサートは、工具ヘッドのインサート座において予め定められた位置から切削インサートをずらそうとする力を受ける。加工中の切削力によってインサート座の支持面に当接して保持される代わりに、切削インサートは、軸方向の支持面と接線方向の支持面から外れるような力を受ける。クランプ部材としてねじ使用される場合、切削力の方向とは反対の逆向きの力を避ける機会はほとんど無い。ねじの特徴は強い張力を有することであるが、曲げには弱い。したがって、工具が適度な直径を有し、切削インサートとねじが相対的に小さいならば、ねじが切削インサートに作用する予想しない逆向きの力に降伏することがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
第1の態様において、本発明は、(市販によって)周知のリーミング工具の上記不利益を解決し、改良された工具を提供することを目的とする。従って、本発明の主な目的は、リーミング工具の着脱可能な切削インサートが二つ以上の切れ刃と共に製造される工具を提供することである。また、リーミング工具の着脱可能な切削インサートが最小の体積を有し、切れ刃数当たりの材料コストを小さく、加工経済性を最適にすることができるリーミング工具を提供することである。また、加工された孔から工具を出す際、より詳細には、機械の異常の際に工具が孔から出ることを容易にし、時間の浪費を減少し、損傷を受けない切削インサートが、工具ヘッドに形成されたインサート座の取り付け位置に存することの信頼性が高いリーミング工具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明によれば、少なくとも第1の目的は、請求項1の特徴部分て規定された特徴によって達成される。本発明のリーミング工具の好ましい実施形態は、従属請求項2〜7で規定される。
【0006】
他の態様において、本発明は、組み立て式工具の良好な機能を保証する改良された性質によって、工具とリーミングインサートを提供する。工具と個々の切削インサートのユニークな特徴は独立請求項8及び15でそれぞれ示されている。
【0007】
以下には、インサート座に装着される多角形状を有する切削インサートの種々の面と種々の稜線とについて説明されている。言葉の概念を明確に目的で、これらの面と稜線とを区別するとき、したがって、複数の面と稜線が切削本体(切削インサート)及びインサート座の形状や切り屑を除去することに関して使用されるときに、使用される符号が変更される。従って、「境界面」は切削インサートの形状に関して使用され、「すくい面及び逃げ面」は面の果たす機能を明確にするとき使用される。同様に、「稜線」はインサートの形状に関して使用されるが、稜線が切り屑を除去する部分として、又は面を仕上げる部分としても使用されるとき、「切れ刃」及び「第2の切れ刃」又は「ワイパー切れ刃」が使用される。稜線が二つの境界面を定める目的で使用され、加工の説明のために使用されないときは、「境界稜線又は境界線」を示す。更に、工具の個々のインサート座の作用面は「支持面」として示され、一方、支持面に当接する切削インサート上の面は「接触面」として示される。更に、「反転可能」又は「刃先交換可能」が使用される。本発明の切削インサートが「反転可能」であるということは、一方のすくい面が内側を向いて支持面に対向するときに、他方の鏡像対照のすくい面が外側を向いて露出することを意味する。切削インサートが「刃先交換可能」であるということは、切削インサートを外した後に、中心軸の周りで180゜回転して、インサート座に再度取り付けることを意味する。切削を反転し刃先交換することは、作用切れ刃が摩耗したときに、普通の方法で使用していない切れ刃に代えることである。個々の切れ刃は工具ヘッドの同じ空間的位置に位置決めされる。
【0008】
形式的に、切削インサートは、超硬合金、他の硬い耐摩耗性材料から製造され、工具ヘッドは柔らかい材料、特に、鋼から作られる。加工される被削材は、主として金属であり、他に複合材料などである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】組み立て状態にある本発明のリーミング工具の斜視図である。
図2】リーミング工具の分解斜視図である。
図3】長手方向に示されているチューブ素材の形態である被削材の孔をリーミング中の工具の側面図である。
図4】切削インサートを有する工具のヘッドの正面図である。
図5】工具のヘッドの側面図である。
図6】インサート座に装着される切削インサートと共に示す工具ヘッドの斜視図である。
図7】工具ヘッドに含まれるインサート座と、工具ヘッドから分離されたクランプ部材及び切削インサートとを示す拡大分解斜視図である。
図8】本発明の切削インサートを上から見た図である。
図9】切削インサートを下から見た図である。
図10】切削インサートの側面図である。
図11】切削インサートを上から(下から)見た平面図である。
図12】切削インサートの端面図である。
図13図11のVIII−VIII線に沿って切断した拡大断面図である。
図14】長手方向の断面において、互いに分離した切削インサート及び部品を示す拡大分解図である。
図15】装着状態において、切削インサートの鋭角コーナの拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1〜3に示されるリーミング工具Tは、三つの構成要素、すなわち、駆動ロッド1、ヘッド2,ヘッドに着脱可能に装着される複数の切削インサート3を示す。工具の示された実施形態において、ナット4の形態であるロック部材と,アダプタ5と,駆動ロッドとアダプタ5との間で作用するブッシュ6とを更に有する。加工では、リーミング工具が回転すると被削材が長手方向に送り移動し、又はリーミング工具が長手方向に移動すると被削材が回転し、リーミング工具と被削材との間で必要な相対動作を行う。図示例において、後述した態様が好ましい。すなわち、リーミング工具が矢印Fの方向で長手方向に移動し、チューブ素材の形態の被削材7が矢印Rの方向に回転する。「前」と「後」は以下の説明で使用されるとき、これらは長手方向の送り方向Fを示す。したがって、図1及び2において、工具は後方から見たときが示されている。図5に示すように、工具を前方から見たときは、チューブ素材7は中心軸Cの周りを反時計方向に回転する。駆動ロッド1及び構成要素2,4,5,6は同軸にある。
【0011】
当業者によって「後退ボーリング加工」と称されるこの加工方法の目的は、被削材又はチューブ素材7の孔8を仕上げ、良好な寸法精度及び高い表面平滑性を有する円筒面9を提供することにある。最初に、チューブ素材7は、加工される円筒面9の所望された最後の内径ID2よりも小さい内径ID1を有する。第1のステップにおいて、内径ID1より小さい直径を有するチューブの形態であるドローバー11が孔8に入り、工具Tの駆動ロッド1がねじジョイントを介して後側に突出する。次に、ドローバーと工具は孔8を通って引っ張られ、チューブ素材7が回転する。このようにして、切削インサート3は、より詳細には、ヘッド2の外周面の排出溝12を介してチューブ素材から後方に排出される切り屑を除去する。切り屑の排出を容易にし、同時に切り屑が円筒面9を損傷させないことを保証するために、水などの液体がチューブ素材を後方に噴射することが好ましい。
【0012】
工具を組み立てるとき、先ず、アダプタ5及びブッシュ6を駆動ロッド1に取り付け、それからヘッド2を取り付ける。ヘッド2を固定するために、ヘッドは駆動ロッドの対応する多角形状のドライバに係合する多角形状(四角形)の開口を有する。最後に、ヘッド2はロックナット4によって固定される。アダプタ5は複数の弾性指を有し、弾性指は、後続するヘッドを中心に芯出しして案内し、回転中にチューブ素材に従い、チューブ素材7の内面に弾性的に当接する。アダプタ5は、軸受けとしてのブッシュ6により駆動ロッドに対して自由に回転できる。
【0013】
図4〜7には、ヘッド又は基体が、前端面13及び後端面14と、外周面15とを有し、外周面は中心軸Cに対して同軸であり、円錐面16を介して前側の平坦面13に移行する。外周面15において、複数の(例では五つの)インサート座17が形成されている。この場合、インサート座17は外周面15に部分的に開口する。個々のインサート座において、三つの支持面は、切削インサートに作用する半径方向、接線方向及び軸方向の切削力を伝える。三つの支持面において、半径方向の支持面は符号18、接線方向の支持面は符号19で示す。この場合において、軸方向の支持面20の形態である第3の支持面は、半径方向の支持面18に対して鈍角で延び、接線方向の支持面19に垂直である傾斜面22の段22に形成されている。支持面はほぼ平坦であり、一つの面の形態で示されているが、所定の面、例えば、接線方向の支持面19は、浅い溝を介して複数の部分面に分割されて、切削インサートが位置ずれを生じないようにし、切削インサートをインサート座に正確に位置決めする。更に、切削インサートの稜線部分の凹んでいる逃げ面は、面19と22との間の移行部に形成されている。従来の方法において、インサート座は装着される切削インサートに必要な空間を提供するために、ヘッドの先端で空間的位置を占める。
【0014】
半径方向の支持面18と傾斜面22との間の移行部において、孔23は、ねじの形態であるクランプ部材の雄ねじ24に係合する雌ねじ(符号なし)を有する開口であり、インサート座17に切削インサート3を固定する。円錐ヘッド26を有するねじ25は、切削インサートを面18及び22に対してだけでなく、面19に対して当接させる。接線方向の支持面19から一定の距離で、支持面19に平行に配置された境界線27において、半径方向の支持面18が溝12に移行する。
【0015】
示された好ましい実施形態において、半径方向の支持面18に沿って配置された停止ラグ28が含まれ、その機能は後述する。
【0016】
図8〜13は、本発明によるリーミングインサートのデザインを詳細に示す。
【0017】
切削インサートは、六つの平坦面又は境界面、すなわち、対向し互いに平行で、「すくい面」として示されている二つの面29と、二つのすくい面29の間を延び、逃げ面として機能する四つの面30とを有する多角形体である。図8及び9において、これらの逃げ面30は同一であるが、互いを区別するために、符号「a」、「b」、「c」、「d」が付されている。同様に、二つの同じすくい面29には符号「a」、「b」が付されている。他の図においては、符号は省略されている。図8において、SP1は、すくい面29a,29bに平行で、すくい面29a,29bの間に配置されている対称平面を示す。第2の対称平面SP2は、対称平面SP1に対して垂直に延びており、これらの対称平面は、第1の中心軸C1がある位置で互いに直角に交差する。
【0018】
本発明において、任意断面が菱形形状であるすくい面29a,29bに平行である限り、リーミングインサートは菱形形状を有する。
【0019】
図面において、すくい面と逃げ面は、平坦面の形態で示されているが、外側の境界線の内側にある面の形状が完全な平面からそれることを排除しない。特に、すくい面29は、除去される切り屑を案内し拘束する目的で、平坦でない部分面を形成することができる。
【0020】
一対の逃げ面30は、対向する二つのコーナ31x,31yで互いに鈍角βで交差する(図10及び13参照)。従って、逃げ面30a,30bはコーナ31xで交差し、一方、逃げ面30c,30dはコーナ31yで交差する。単純な幾何学的理由に関して、面30a,30dと面30b,30cは、それぞれ鋭角なコーナ32x,32yで交差する。更に、菱形形状の二つのすくい面29a,29bの中心で交差する第2の中心軸は、C2(図8及び9)で示されている。個々のすくい面と逃げ面との間で、二つの切れ刃、すなわち、すくい面29aと逃げ面30a,30bとの間の切れ刃33−1,33−2と、すくい面29bと逃げ面30c,30dとの間の切れ刃33−3,33−4とがそれぞれ形成され使用可能である。短い第2の切れ刃又はワイパー切れ刃34を介して、個々の作用切れ刃、例えば、切れ刃33が、後方にある切れ刃に移行し、加工中に生成面を通過する。ワイパー切れ刃34は、すくい面29aと逃げ面30bとの間に形成された面取り面35によって形成されている(図8及び9で不要な負荷とならないようにするため、他の三つの面取り面及びワイパー切れ刃には符号が付されていない)。
【0021】
例において、βは135゜で、γは45゜である。これらの角度は、大きくしてよく、また、小さくしてもよい。しかし、βは少なくとも110゜、大きくても160゜にすべきであり、120゜〜150゜とすることが好ましい。
【0022】
示された例において、クランプ部材がねじ25であるとき、貫通孔36は、切削インサートを貫通し、より詳細には、鈍角のコーナ31xとコーナ31yとの間で貫通する。反対側の端部において、この孔36はリング形状で、円錐状の皿部分37を有し、ねじの頭部26を受ける。切削インサートの刃先交換位置は、ねじの頭部26とは無関係であり、中心軸C2に関係している(刃先交換は、中心軸C2の回りで切削インサートを180゜回転することによって実施される)。
【0023】
全ての逃げ面30は、対称平面SP1に対して垂直に延び、また、すくい面29に対して垂直であることが重要である。
【0024】
四つの逃げ面30のそれぞれにおいて、四つの境界面を有するキャビティが凹設されており、その内の一つ、すなわち面39は、インサート座17にある段21の軸方向の支持面20に対して当接する軸方向の接触面を形成する。キャビティ内の他の境界面は、二つの側面40と、好ましくは(必ずしも必要ではないが)軸方向の接触面39に対して90゜の角度σを形成する逃げ面41から成る。図13において、任意の逃げ面(例えば、30c)内にあるキャビティ内の軸方向の接触面39は、一つのコーナ(31y)の近くで隣接する逃げ面(30d)に対して直角εを形成する。逃げ面(30d)は、インサート座17の半径方向の支持面18に当接して保持され、軸方向の接触面39はインサート座の軸方向の支持面20に対して面接触を得る。締結部材25は、半径方向だけでなく、工具ヘッドに対する軸方向で、切削インサートに対して締結力成分を与える。
【0025】
二つの側面40の間の寸法である個々のキャビティ38の幅は、段21の幅(二つの側面間の寸法)よりも大きくなる。図示例において、逃げ面によって周囲が囲まれているキャビティ38の幅は、逃げ面30の間の幅(二つのすくい面29の間の寸法として)より小さい。これに関し、キャビティは、逃げ面の全幅に沿って延び、対向するすくい面に開口する溝の性質を有することも可能である。
【0026】
図14及び15には、切削インサートが装着された状態において、キャビティ38内の軸方向接触面39が段21の軸方向の接触面と接触していることが示されている。しかしながら、段21の上面21は、キャビティ38内の逃げ面41とは接触しない。切削インサートの逃げ面30はインサート座の傾斜面22と接触しない。実際に、遊び間隔Gは1/100〜1/10mmになる。例えば、遊び感覚Gは0.02〜0.25mmの範囲内であり、好ましくは0.05〜0.10mmである。
【0027】
更に、停止ラグ28の断面形状は、例外なく対応するキャビティ38にある断面形状より小さいということが重要である。このようにして、停止ラグ28上の二つの境界面43,44は、キャビティ内の二つの面39,41に対して離れる。一対の面間の遊び間隔Gは大きくて0.25mmになる。
【0028】
加工中に、切削インサートが切削力によってインサート座に当接して保持されるとき(半径方向の支持面18に対しては逃げ面30、接線方向の支持面19に対して作用しないすくい面29、及び軸方向の支持面20に対しては軸方向の接触面39がそれぞれ当接)、停止ラグ上の肩面43と協働するキャビティ内の軸方向接触面39は潜在的な固定機能を有し、インサート座に切削インサートが普通に装着されることを妨げない。しかしながら、トラブルが生じて、工具ヘッドが加工された孔から引き出され、切削インサートを軸方向のすくい面20と接線方向の支持面19から離そうとする逆向きの力が切削インサートに作用すると、固定機能は素早く機能して、初期の固定位置の近くで切削インサートを保持する。これは、キャビティ内の軸方向接触面39が停止ラグ28上の肩面43に当接することによって行われる。実際に、これは、切削インサートに作用する逆向きの軸方向力が、締結ねじ25ではなく停止ラグによって吸収されることを意味する(ねじが切削インサートを半径方向の支持面18に当接させ続けるという条件で)。固定機能が素早く機能し、ねじの破損を回避することを保証するために、遊び間隔Gは大きくても0.25mmに設定され、0.15mmにすることが好ましく、0.05〜0.10mmにすることが最も好ましい。
【0029】
本発明によるリーミングインサートによれば、切削インサートの体積が従来のリーミングインサートと比較して小さくなっても、菱形形状が、四つの切れ刃の使用を許容することができる。言い換えると、切削インサートは経済的なものとなる。更に、加工された孔からの工具の引き出しが容易となり、トラブルを生じないようにするのに必要な時間が減少する。切削インサートの体積が減少することによって、本発明によるリーミング工具は非常に小さい孔直径を有する被削材にも適用可能である。
【0030】
本発明は、上述され、図示された実施形態に限定されない。したがって、切削インサートは、ねじ以外の他のクランプ部材、例えばクランプ、楔又は締結部材でインサート座に固定可能である。潜在的な固定機能はなくてもよく、協働する軸方向の接触面及び軸方向の支持面が、それぞれ、切削インサートのキャビティ内及び傾斜面に沿う段に形成されなくてもよい。従って、特に、傾斜面と半径方向の支持面との間の鈍角が制限されるならば、軸方向の支持面としての適当な傾斜面を使用することが容易であり、図示例において、傾斜面は半径方向の支持面に対してより急傾斜となる。すくい面と個々の逃げ面との角度は直角である必要はない。本発明の範囲内において、菱形の鈍角(及び鋭角)はかなり広い範囲で変更することが可能である。しかしながら、軸方向接触面が傾斜面に沿う段に配置されているとき、鈍角は大きくて160゜、少なくとも110゜になる。更に、切削インサートとインサート座は、半径方向の切削力が、逃げ面(図15における停止ラグ28の左に対する部分)の位置及び二つの面41,42間の接触によって伝わるように、形成されることができ、更に、工具は、リーミングによって仕上げられる孔を通して引き出される代わりに押されるように形成されることもできる。また、工具及とドローバー又は連結ロッドとの間の機械的なカップリングは、示された形態以外の他の方法でもよい。例えば、コロマント・キャプトー(登録商標)が使用可能である。
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図15