(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1には、隣接する乾燥ゾーンをどのように連結するかについては記載も示唆もない。一般的な技術常識によれば、隣接する乾燥ゾーン同士の間にパッキンなどのシール材を挟んで一方の乾燥ゾーンの搬出口ともう一方の乾燥ゾーンの搬入口とを気密に連結することが考えられる。
【0005】
しかしながら、このように連結した場合、連結箇所には熱源が存在しないため、塗布面を有するシートの温度がその連結箇所を通過する際に低下してしまい、乾燥効率が低下するおそれがあった。また、一方の乾燥ゾーンの搬出口ともう一方の乾燥ゾーンの搬入口とが連通されているため、一方の乾燥ゾーンからもう一方の乾燥ゾーンに空気が流通してしまうのを阻止できないという問題もあった。
【0006】
本発明は、隣接する乾燥炉ユニットの連結部において、乾燥対象のシートの温度低下を防止すると共に一方の乾燥炉ユニットから他方の乾燥炉ユニットに空気が流通するのを阻止可能とすることを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の乾燥炉は、
少なくとも片面にスラリーが塗布されたシートを乾燥する乾燥炉ユニットを、該乾燥炉ユニットの各搬送通路が所定方向に沿って連なるように複数連結した乾燥炉であって、
隣接する乾燥炉ユニットの連結部には、前記シートに向かって上下両側からガスを噴射する一対のガス噴射器が設けられ、
前記ガス噴射器が噴射するガスは、隣接する乾燥炉ユニットの少なくとも一方の雰囲気ガスの温度が前記連結部において維持されるように温度調節されている
ものである。
【0008】
この乾燥炉では、隣接する乾燥炉ユニットの連結部に、シートに向かって上下両側からガスを噴射する一対のガス噴射器が設けられている。ガス噴射器が噴射するガスは、隣接する乾燥炉ユニットの少なくとも一方の雰囲気ガスの温度が連結部において維持されるように温度調節されている。したがって、この乾燥炉によれば、乾燥炉ユニットの連結部でシートのスラリー塗布面の温度が変化しにくいため、スラリー塗布面を効率よく乾燥することができる。また、連結部ではシートに向かって上下両側からガスが噴射されるため、隣接する乾燥炉ユニットの一方から他方に雰囲気ガスが流通するのを阻止することができる。
【0009】
なお、ガス噴射器が噴射するガスは、隣接する乾燥炉ユニットの両方の雰囲気ガスの温度が連結部において維持されるように温度調節されていることが好ましい。また、雰囲気ガスとしては、特に限定するものではないが、例えば空気や不活性ガス(窒素など)が挙げられる。更に、ガス噴射器が噴射するガスは、雰囲気ガスと同じ種類のものを用いることが好ましい。
【0010】
本発明の乾燥炉において、前記一対のガス噴射器は、前記シートを浮かせた状態で支持するようにしてもよい。こうすれば、シートを支持ローラーなどで支持する必要がなくなる。
【0011】
本発明の乾燥炉において、前記シートは、両面にスラリーが塗布されたものであり、前記隣接する乾燥炉ユニットは、各スラリー塗布面に沿って熱風を流通させることにより各スラリー塗布面を乾燥するものとしてもよい。こうすれば、両面にスラリーが塗布されたシートを両面同時に乾燥することができるため、片方ずつ乾燥する場合に比べて時間が短縮される。その結果、生産効率が上がる。また、片方ずつ乾燥する場合には、いずれかの面が2回乾燥炉を通ることになるため、両面で性能に差が生じることがあるが、両面同時に乾燥するため、両面で性能に差が生じることもない。
【0012】
本発明の乾燥炉において、前記一対のガス噴射器は、前記シートに対して接近離間可能であり、前記隣接する乾燥炉ユニットは、前記シートのスラリー塗布面に沿って互いに同じ方向に熱風を流通させるか反対方向に熱風を流通させるかを切替可能としてもよい。隣接する乾燥炉ユニットにおいて、例えばシートのスラリー塗布面に沿って互いに反対方向に熱風を流通させる場合には、一対のガス噴射器を接近させることにより、一方の乾燥炉ユニットを流通する熱風と他方の乾燥炉ユニットを流通する熱風とが互いに影響し合わないようにすることができる。これに対して、シートのスラリー塗布面に沿って互いに同じ方向に熱風を流通させる場合には、一対のガス噴射器を離間させることにより、一方の乾燥炉ユニットと他方の乾燥炉ユニットとを同じ方向の熱風が通過しやすいようにすることができる。
【0013】
本発明の乾燥炉において、前記乾燥炉ユニットは、前記シートの塗布面に沿って熱風を流通させると共に、前記シートの塗布面に対向するように設置された赤外線ヒーターにより前記シートの塗布面に赤外線を照射するものとしてもよい。こうすれば、熱風と赤外線ヒーターとを併用することにより短時間でスラリー塗布面を乾燥することができる。こうした赤外線ヒーターとしては、例えば、3.5μmを超える波長の赤外線を吸収するフィルタとして機能する複数の管によってフィラメントが同心円状に覆われ、これらの複数の管の間に赤外線ヒーターの表面温度の上昇を抑制する冷却流体の流路を形成したもの(特許第4790092号参照)を用いてもよい。こうした乾燥炉において、前記スラリー塗布面と前記赤外線ヒーターとの間に、該赤外線ヒーターを覆う大きさの透明平板を設けてもよい。こうすれば、スラリー塗布面からの飛散物が赤外線ヒーターに付着するのを透明平板によって防止することができる。赤外線ヒーターの付着物を除去する清掃作業に比べて、透明平板の付着物を除去する清掃作業の方が簡単なため、清掃時の作業効率が向上する。特に、赤外線ヒーターが反射板のアーチ状窪み部に配置されている場合には、清掃作業が一層煩雑になるため、透明平板を設置するメリットが大きい。なお、少なくとも片面にスラリー塗布面が形成されたシートを、該スラリー塗布面と対向する位置に設置した赤外線ヒーターにより乾燥する乾燥炉ユニット(又は乾燥炉)であれば、こうした透明平板を設置する意義がある。さらに、両面乾燥を行う際には、両面共に該スラリー塗布面と対向する位置に赤外線ヒーターが設置されるが、下面側に透明平板を設置することが有用である。こうすれば、スラリーの垂れや、溶媒揮発成分の付着だけではなく、スラリー塗布シートが搬送中に破損し、落下した場合の直接接触を防ぐことができる。こうした透明平板は、赤外線ヒーターとして、3.5μmを超える波長の赤外線を吸収するフィルタとして機能する複数の管によってフィラメントが同心円状に覆われ、これらの複数の管の間に赤外線ヒーターの表面温度の上昇を抑制する冷却流体の流路を形成したものを用いる場合には、3.5μ以下の波長を透過する平板を用いる。
【0014】
本発明の乾燥炉において、前記乾燥炉ユニットは、炉体と、前記炉体を所定方向に貫通するように設けられ、少なくとも片面にスラリーが塗布されたシートが前記所定方向に搬送される搬送通路と、前記シートのスラリー塗布面に沿って空気が流れるように前記搬送通路の両端にそれぞれ設けられた第1及び第2通気口と、前記第1通気口及び前記第2通気口に接続された送風供給手段と、前記第1通気口から前記第2通気口へ前記シートの塗布面に沿って前記送風供給手段からの送風を流すか、前記第2通気口から前記第1通気口へ前記シートの塗布面に沿って前記送風供給手段からの送風を流すかを切り替える風向切替手段と、を備えたものであってもよい。こうすれば、風向切替手段を切り替えることにより、各乾燥炉ユニット内の空気の流れを自由に変更することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明の好適な一実施形態について、図面を用いて説明する。
図1は乾燥炉70の縦断面図、
図2は赤外線ヒーター36の縦断面図、
図3は
図2のA−A断面図、
図4は一対のガス噴射器60の斜視図である。
【0017】
乾燥炉70は、
図1に示すように、複数の乾燥炉ユニット10を、各搬送通路14が所定方向に沿って連なるように複数連結したものであり、連結箇所には上下一対のガス噴射器60が設けられている。各搬送通路14には、長尺のシート54が
図1において左から右へ搬送されるようになっている。このシート54は、両面にスラリーが塗布されたものである。なお、スラリーが塗布された面をスラリー塗布面56と称する。
【0018】
乾燥炉ユニット10は、炉体12と、搬送通路14と、第1及び第2通気口21a,22aを有するパイプ構造体20と、熱風発生機26と、排気ブロワ28と、風向切替バルブ30と、赤外線ヒーター36とを備えている。このうち、パイプ構造体20、熱風発生機26、排気ブロワ28、風向切替バルブ30及び赤外線ヒーター36は、各スラリー塗布面56に対応して設けられている。
【0019】
炉体12は、略直方体に形成された断熱構造体であり、前端面12a及び後端面12bにそれぞれ開口14a,14bを有している。この炉体12は、前端面12aから後端面12bまでの長さが2〜6mである。
【0020】
搬送通路14は、開口14aから開口14bに至る通路であり、炉体12を水平方向に貫通している。両面にスラリーが塗布されたシート54は、この搬送通路14を通過していく。具体的には、シート54は、開口14aから搬入され、炉体12の内部を水平方向に進行し、開口14bから搬出される。
【0021】
2つのパイプ構造体20のうち、一方は、シート54の上面に形成されたスラリー塗布面56に対応して設置され、もう一方は、シート54の下面に形成されたスラリー塗布面56に対応して設置されている。各パイプ構造体20には、熱風発生機26、排気ブロワ28及び風向切替バルブ30が取り付けられている。2つのパイプ構造体20は同じ構成であるため、以下には、シート54の上面に形成されたスラリー塗布面56に対応して設置されたパイプ構造体20について説明することとする。
【0022】
パイプ構造体20は、炉体12の天井のうち前端面12aに近い箇所で上下方向に貫通する第1パイプ部21と、炉体12の天井のうち後端面12bに近い箇所で上下方向に貫通する第2パイプ部22と、第1パイプ部21の上端と第2パイプ部22の上端とを繋ぐ第3パイプ部23と、第1パイプ部21の中間位置と第2パイプ部22の中間位置とを繋ぐ第4パイプ部24とを備えている。つまり、第3パイプ部23と第4パイプ部24は、第1パイプ部21と第2パイプ部22を並列的に繋ぐ通路となっている。第1パイプ部21は、炉体12の内部で屈曲されて下端近傍が水平方向を向くように加工されている。このため、第1パイプ部21の下端開口である第1通気口21aは、後端面12bに向かって開いた状態となっている。また、第2パイプ部22は、炉体の内部で屈曲された下端近傍が水平方向を向くように加工されている。このため、第2パイプ部22の下端開口である第2通気口22aは、前端面12aに向かって開いた状態となっている。そして、第1通気口21aと第2通気口22aとは、互いに向かい合い、高さが同じになるように設けられている。このため、第1及び第2通気口21a,22aの一方から流出した空気はもう一方へ流入するが、そのときの空気の流れはシート54のスラリー塗布面56に沿った方向となる。なお、第1通気口21aの高さと第2通気口22aの高さは、必ずしも同じである必要はない。
【0023】
熱風発生機26は、第4パイプ部24に取り付けられており、熱風を第4パイプ部24の内部へ供給するものである。この熱風発生機26は、風量の調節が可能となっている。
【0024】
排気ブロワ28は、第3パイプ部23に取り付けられており、第3パイプ部23の内部の気体を外部へ排出する機能を有する。この排気ブロワ28も、風量の調節が可能となっている。
【0025】
風向切替バルブ30は、第1パイプ部21と第4パイプ部24との繋ぎ目に設けられた第1バルブ31と、第2パイプ部22と第4パイプ部24との繋ぎ目に設けられた第2バルブ32とを備えている。第1バルブ31は、第1パイプ部21と第4パイプ部24とを連通すると共に第1パイプ部21と第3パイプ部23との連通を遮断する位置(
図1の実線参照、給気位置という)と、第1パイプ部21と第4パイプ部24との連通を遮断すると共に第1パイプ部21と第3パイプ部23とを連通する位置(
図1の点線参照、排気位置)のいずれかに切り替えられるものである。第2バルブ32は、第2パイプ部22と第4パイプ部24との連通を遮断すると共に第2パイプ部22と第3パイプ部23とを連通する位置(
図1の実線参照、排気位置という)と、第2パイプ部22と第4パイプ部24とを連通すると共に第2パイプ部22と第3パイプ部23との連通を遮断する位置(
図1の点線参照、給気位置という)のいずれかに切り替えられるものである。各バルブ31,32は、手動で切り替えるようにしてもよいし、電磁ソレノイドなどを利用して電気的に切り替えるようにしてもよい。
【0026】
赤外線ヒーター36は、炉体12の天井近くに複数取り付けられている。各赤外線ヒーター36の長手方向は、搬送方向と直交するように取り付けられている。赤外線ヒーター36は、
図2及び
図3に示すように、フィラメント38を内管40が囲むように形成されたヒーター本体42と、このヒーター本体42を囲むように形成された外管44と、外管44の両端に気密に嵌め込まれた有底筒状のキャップ46と、ヒーター本体42と外管44との間に形成され冷却流体が流通可能な流路48とを備えている。フィラメント38は、700〜1200℃に通電加熱され、波長が3μm付近にピークを持つ赤外線を放射する。このフィラメント38に接続された電気配線38aは、キャップ46に設けられた配線引出部46aを介して気密に外部へ引き出されている。内管40は、石英ガラスやホウ珪酸クラウンガラスなどで作製されており、3.5μm以下の波長の赤外線を通過し、3.5μmを超える波長の赤外線を吸収するフィルタとして機能する。ヒーター本体42は、両端がキャップ46の内部に配置されたホルダー50に支持されている。外管44は、内管40と同様、石英ガラスやホウ珪酸クラウンガラスなどで作製されており、3.5μm以下の波長の赤外線を通過し、3.5μmを超える波長の赤外線を吸収するフィルタとして機能する。各キャップ46は、流体出入口46bを有している。流路48は、一方の流体出入口46bから他方の流体出入口46bへ冷却流体が流れるようになっている。流路48を流れる冷却流体は、例えば空気や不活性ガスなどであり、内管40と外管44に接触して熱を奪うことにより各管40,44を冷却する。こうした赤外線ヒーター36は、フィラメント38から波長が3μm付近にピークを持つ赤外線が放射されると、そのうち3.5μm以下の波長の赤外線は内管40や外管44を通過して搬送通路14を通過するシート54のスラリー塗布面56に照射される。この波長の赤外線は、シート54のスラリー塗布面56に含まれる有機溶剤の水素結合を切断する能力に優れるといわれており、効率的に有機溶剤を蒸発させることができる。一方、内管40や外管44は、3.5μmを超える波長の赤外線を吸収するが、流路48を流れる冷却流体によって冷却されるため、スラリー塗布面56から蒸発する有機溶剤の着火点未満の温度に維持することが可能である。
【0027】
こうした赤外線ヒーター36は、炉体12の天井近くの反射板に設けられたアーチ状窪み部52の内部空間に配置されている。アーチ状窪み部52は、赤外線ヒーター36と同様、搬送方向と直交する方向に延びるように形成され、断面形状がパラボラ、楕円の弧、円弧等の曲線形状となっており、その焦点もしくは中心位置に赤外線ヒーター36が配置されている。その結果、赤外線ヒーター36から発せられた3.5μm以下の波長の赤外線は、アーチ状窪み部52で反射され、効率的にスラリー塗布面56へ照射される。
【0028】
上下一対のガス噴射器60は、隣接する乾燥炉ユニット10の連結部16に設けられている。連結部16では、一方の乾燥炉ユニット10の後端面12bともう一方の乾燥炉ユニット10の前端面12aとがパッキン18を介して図示しないボルトにより連結されている。このため、一方の乾燥炉ユニット10の後端面12bの開口14bともう一方の乾燥炉ユニット10の前端面12aの開口14aとは、気密が保持されている。なお、パッキン18の材質は、有機溶剤に耐えられるものであればよく、例えばポリテトラフルオロエチレンなどが挙げられる。パッキン18のシール性がよければ、ボルト連結を省略してもよい。上下一対のガス噴射器60は、一方の乾燥炉ユニット10の開口14bともう一方の乾燥炉ユニット10の開口14aとにまたがって配置されている。各ガス噴射器60は、
図4に示すように、内部が空洞の直方体からなる噴射器本体62に熱風を送り込むためのパイプ64が取り付けられたものであり、スラリー塗布面56に対向する面は多孔質ノズル66となっている。パイプ64には、図示しないドライヤーが接続されている。このドライヤーから加熱ガス(ここでは加熱エアー)が供給されると、ガス噴射器60は多孔質ノズル66からスラリー塗布面56に向かって加熱ガスを噴射する。なお、ドライヤーは加熱ガスの温度を調節する機能を有している。また、上下一対のガス噴射器60は、図示しないエアーシリンダーが取り付けられており、エアーシリンダーへのエアー圧を調節することにより互いに接近したり離間したりするようになっている。具体的には、
図1の実線で示す近接位置と1点鎖線で示す離間位置との間で移動可能となっている。なお、上下一対のガス噴射器60を互いに接近・離間させるのは、エアーシリンダーでなくてもよく、例えば手動で高さを調節してもよい。
【0029】
次に、乾燥炉70の風向切替について説明する。
図5及び
図6は乾燥炉70の風向切替の説明図である。なお、白抜き矢印は、熱風の風向を示す。
【0030】
熱風を第1通気口21aから第2通気口22aへ流す場合、
図5の左側に示す乾燥炉ユニット10のように、第1バルブ31を給気位置、第2バルブ32を排気位置にセットする。具体的には、第1バルブ31を、第1パイプ部21と第4パイプ部24とを連通すると共に第1パイプ部21と第3パイプ部23との連通を遮断する位置にセットする。また、第2バルブ32を、第2パイプ部22と第4パイプ部24との連通を遮断すると共に第2パイプ部22と第3パイプ部23とを連通する位置にセットする。すると、熱風発生機26から第4パイプ部24へ供給された熱風は、第1パイプ部21を通って第1通気口21aから吹き出される。一方、排気ブロワ28は、第2通気口22a、第2パイプ部22を介して第3パイプ部23から気体を排気する。その結果、炉体12の内部には、熱風が第1通気口21aから第2通気口22aへ、つまりシート54の搬送方向と同じ方向へ流れる。
【0031】
熱風を第2通気口22aから第1通気口21aへ流す場合、
図5の右側に示す乾燥炉ユニット10のように、第2バルブ32を給気位置、第1バルブ31を排気位置にセットする。具体的には、第2バルブ32を、第2パイプ部22と第4パイプ部24とを連通すると共に第2パイプ部22と第3パイプ部23との連通を遮断する位置にセットする。また、第1バルブ31を、第1パイプ部21と第4パイプ部24との連通を遮断すると共に第1パイプ部21と第3パイプ部23とを連通する位置にセットする。すると、熱風発生機26から第4パイプ部24へ供給された熱風は、第2パイプ部22を通って第2通気口22aから吹き出される。一方、排気ブロワ28は、第1通気口21a、第1パイプ部21を介して第3パイプ部23から気体を排気する。その結果、炉体12の内部には、熱風が第2通気口22aから第1通気口21aへ、つまりシート54の搬送方向と反対方向へ流れる。
【0032】
図5では、隣接する乾燥炉ユニット10の熱風の向きが反対になるように各乾燥炉ユニット10の風向切替バルブ30が設定されている。
図6では、隣接する乾燥炉ユニット10の熱風の向きが同じになるように各乾燥炉ユニット10の風向切替バルブ30(第1及び第2バルブ31,32)が設定されている。
図5及び
図6のいずれにおいても、上下一対のガス噴射器60は、近接位置にセットされる。近接位置にセットされた両ガス噴射器60の間隔は、低速(例えば風速1m/sec)で加熱ガスを上下から噴射したときにシート54を浮上させて支持すること(エアーニップ)が可能となるように狭くなっている。このとき、上下一対のガス噴射器60から噴射される加熱ガスがカーテンの役割を果たすため、一方の乾燥炉ユニット10を流れる熱風ともう一方の乾燥炉ユニット10を流れる熱風とは互いに影響し合うことなく独立している。また、両ガス噴射器60から噴射される加熱ガスの温度は、熱風発生機26から供給される熱風の温度と同じに設定されている。このため、連結部16を通過するシート54の温度が低下することはない。更に、第1及び第2パイプ部21,22の裏側のスペースSは、空気の淀みやすい場所であるが、上下一対のガス噴射器60から噴射される加熱ガスがこのスペースSへの有機溶剤の蒸気の進入を阻止しているため、スペースSに有機溶剤の蒸気が溜まりにくい。
【0033】
熱風の向きが反対になる場合としては、
図5のように熱風同士が衝突し合う場合のほか、熱風同士が互いに離れていく場合(
図5において左側の乾燥炉ユニット10では第2通気口22aから第1通気口21aへ、右側の乾燥炉ユニット10では第1通気口21aから第2通気口22aへ流れる場合)もあるが、その場合も上下一対のガス噴射器60は近接位置にセットされる。また、熱風の向きが同じになる場合としては、
図6のように両乾燥炉ユニット10とも第1通気口21aから第2通気口22aへ流れる場合のほか、両乾燥炉ユニット10において第2通気口22aから第1通気口21aへ流れる場合もあるが、その場合も上下一対のガス噴射器60は近接位置にセットされる。
【0034】
次に、乾燥炉70において、両面がスラリー塗布面56であるシート54を乾燥する場合について説明する。シート54は、両面にスラリーが塗布されていない状態で、乾燥炉70の左側に配置された図示しないロールから巻き外され、乾燥炉70に搬入される直前に図示しないコーターによって上下両面にスラリーが塗布される。そして、乾燥炉70を構成する各乾燥炉ユニット10の搬送通路14を通過していく。その際、上下のスラリー塗布面56から有機溶剤が蒸発し、その蒸発した有機溶剤が各排気ブロワ28によって外部へ排出され、最終的に乾燥炉70から搬出される。その後、乾燥炉70の右側に設置された図示しないロールに巻き取られる。スラリー塗布面56から有機溶剤が蒸発するのは、赤外線ヒーター36から照射される赤外線と熱風発生機26から供給される熱風の作用による。
【0035】
なお、シート54としては、特に限定するものではないが、例えば、リチウムイオン二次電池用の電極を塗布したシートを用いてもよい。こうしたシートとしては、正極活物質(又は負極活物質)をバインダーと導電材と有機溶剤と共に混練した電極材スラリーを、アルミニウムや銅等の金属製のシート上に塗布したものなどが挙げられる。あるいは、未焼成セラミックの成形体を塗布した焼成セラミック製のシートを用いてもよい。こうしたシートとしては、セラミック粒子をバインダーと水(又は有機溶剤)に混練したスラリーを、焼成セラミックス製のシート上に塗布したものなどが挙げられる。
【0036】
以上説明した本実施形態の乾燥炉70によれば、隣接する乾燥炉ユニット10の連結部16でシート54のスラリー塗布面56の温度が変化するのを防止するため、スラリー塗布面56を効率よく乾燥することができる。
【0037】
また、近接位置に配置された上下一対のガス噴射器60は連結部16においてシート54に向かって加熱ガスを噴射するため、隣接する乾燥炉ユニット10の一方から他方へ空気が流通するのを阻止することができる。加えて、シート54を浮かせた状態で支持するため、シート54を支持ローラーなどで支持する必要がなくなる。
【0038】
更に、乾燥炉ユニット10は、シート54の両方のスラリー塗布面56を同時に乾燥することができるため、片方ずつ乾燥する場合に比べて時間が短縮される。その結果、生産効率が上がる。また、片方ずつ乾燥する場合には、いずれかの面が2回乾燥炉を通ることになるため、両面で性能に差が生じることがあるが、両面同時に乾燥するため、両面で性能に差が生じることもない。
【0039】
更にまた、赤外線ヒーター36を備えているため、熱風だけでスラリー塗布面56を乾燥するのが困難な場合には、赤外線ヒーター36を併用することにより短時間でスラリー塗布面56を乾燥することができる。特に、赤外線ヒーター36は、3.5μm以下の波長の赤外線を照射すると共にヒーター表面温度を有機溶剤の着火点未満に低く維持するため、効率よく有機溶剤を蒸発することができるし、有機溶剤が着火するおそれもない。
【0040】
そしてまた、熱風発生機26や排気ブロワ28は風量の調節が可能なため、熱風の風向だけでなく風量も自由に変更することができる。
【0041】
そして更に、乾燥炉70は、複数の乾燥炉ユニット10を、各搬送通路14がシート54の搬送方向に沿って連なるように複数連結したものであるため、各乾燥炉ユニット10の風向切替バルブ30を切り替えることにより、各乾燥炉ユニット10ごとに空気の流れを自由に変更することができる。
【0042】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0043】
例えば、上述した実施形態では、両面にスラリーを塗布したシート54を乾燥する乾燥炉70を例示したが、上面のみにスラリーを塗布したシートを乾燥する乾燥炉としてもよい。この場合、シートの下面はスラリー塗布面ではないため、
図1においてシートの下面に対向して設けられたパイプ構造体20(風向切替バルブ30、熱風発生機26及び排気ブロワ28を含む)や赤外線ヒーター36などを省略すればよい。
【0044】
上述した実施形態において、
図7に示すように、シート54のスラリー塗布面56と赤外線ヒーター36との間に、赤外線ヒーター36を覆う大きさの透明平板37を設けてもよい。こうすれば、スラリー塗布面56からの飛散物が赤外線ヒーター36やアーチ状窪み部52に付着するのを透明平板37によって防止することができる。赤外線ヒーター36やアーチ状窪み部52の付着物を除去する清掃作業に比べて、透明平板37の付着物を除去する清掃作業の方が簡単なため、清掃時の作業効率が向上する。上述した実施形態では、赤外線ヒーター36として3.5μm以下の波長を透過するタイプのものを用いているため、透明平板37も3.5μ以下の波長を透過する平板を用いる。
【0045】
上述した実施形態では、隣接する乾燥炉ユニット10の熱風の向きが同じ場合、上下一対のガス噴射器60を近接位置にセットしたが、この場合には
図8に示すように、上下一対のガス噴射器60を離間位置にセットしてもよい。離間位置にセットされた両ガス噴射器60の間隔は、上述したエアーニップができない程度に広がっている。その結果、一方の乾燥炉ユニット10を流れる熱風が、両ガス噴射器60から噴射される加熱ガスの影響をほとんど受けることなくもう一方の乾燥炉ユニット10にそのまま入り込むことが可能となっている。その結果、熱風が一方の乾燥炉ユニット10から他方の乾燥炉ユニット10へ流れていくため、大きな流れを作ることができる。連結部16を通過するシート54やスラリー塗布面56の温度が低下しない点や、スペースSに有機溶剤の蒸気が溜まりにくい点は、上下一対のガス噴射器60が近接位置にセットされている場合と同様である。なお、
図8では、両乾燥炉ユニット10において第1通気口21aから第2通気口22aへ熱風が流れる場合を例示したが、第2通気口22aから第1通気口21aへ熱風が流れる場合も、上下一対のガス噴射器60を離間位置にセットしてもよい。
【0046】
上述した実施形態では、炉体12に赤外線ヒーター36を設けたが、シート54のスラリー塗布面56の厚みが薄く、熱風だけで十分乾燥が可能な場合には、赤外線ヒーター36を省略してもよい。
【0047】
上述した実施形態では、赤外線ヒーター36として、フィラメント38の外周が3.5μmを超える波長の赤外線を吸収するフィルタとして機能する複数の管40,44によって同心円状に覆われ、これらの複数の管40,44の間に赤外線ヒーター36の表面温度の上昇を抑制する冷却流体の流路48を形成したものを用いたが、その他の赤外線ヒーターを用いても構わない。
【0048】
上述した実施形態では、各乾燥炉ユニット10の雰囲気ガスとして空気を用いたが、空気の代わりに窒素などの不活性ガスを用いてもよい。また、ガス噴射器60から噴射される加熱ガスは、乾燥炉ユニット10の雰囲気ガスと同じ種類のものを用いるのが好ましい。
【0049】
上述した実施形態では、各乾燥炉ユニット10の雰囲気ガスの温度を同じ温度とし、加熱ガスもこれと同じ温度になるようにしたが、各乾燥炉ユニット10の雰囲気ガスの温度が異なる場合には、加熱ガスの温度はいずれか一方の雰囲気ガスの温度と同じになるようにすればよい。
【0050】
上述した実施形態では、ガス噴射器60から噴射されるガスを加熱ガスとしたが、各乾燥炉ユニット10の雰囲気ガスの温度が低温(例えば常温とか40〜50℃)の場合には、噴射されるガスを低温ガスとし、連結部での温度上昇を抑制するようにしてもよい。