(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5932408
(24)【登録日】2016年5月13日
(45)【発行日】2016年6月8日
(54)【発明の名称】旋削工具ホルダ
(51)【国際特許分類】
B23B 29/24 20060101AFI20160526BHJP
【FI】
B23B29/24 B
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-53157(P2012-53157)
(22)【出願日】2012年3月9日
(65)【公開番号】特開2013-184275(P2013-184275A)
(43)【公開日】2013年9月19日
【審査請求日】2015年2月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000212566
【氏名又は名称】中村留精密工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078673
【弁理士】
【氏名又は名称】西 孝雄
(72)【発明者】
【氏名】小泉 明
【審査官】
村上 哲
(56)【参考文献】
【文献】
実開昭54−017990(JP,U)
【文献】
米国特許第06128812(US,A)
【文献】
米国特許第03955257(US,A)
【文献】
特開平10−217009(JP,A)
【文献】
特開昭52−145891(JP,A)
【文献】
特開2008−284641(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 29/24
B23B 29/32
B23B 3/16
B23B 21/00
B23B 29/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面に割出軸線と直交する放射方向に工具を装着する放射装着部の複数個を備えたタレットケースの端面外周部に固定される、前記放射装着部への工具の装着を妨げない本体と、この本体に旋削工具を傾斜方向にして固定する工具固定部とを備え、前記傾斜方向は、前記端面のタレットケースないしその割出軸側に頂点を有する円錐の母線の方向である、旋削工具ホルダ。
【請求項2】
前記本体が、前記タレットヘッドの多角形の外周の隣接する2面に個別に当接する位置決め対を備えている、請求項1記載の旋削工具ホルダ。
【請求項3】
前記工具固定部が、これに固定した旋削工具の刃先が、割出軸線回りの角度位置において、前記放射装着部の中間に位置するようにして、設けられている、請求項1又は2記載の旋削工具ホルダ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、旋盤のタレットヘッド
に旋削工具を装着するため
の工具ホルダに関するもので、Y軸回り(B軸方向)に旋回位置決め可能なタレットヘッドに対して特に有効な上記
装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
タレット刃物台に工具駆動軸を内蔵して、ドリルやフライスなどの回転工具を装着可能にし、更にタレットヘッドをY軸方向に移動位置決め可能かつY軸回り(B軸方向)に旋回位置決め可能に設けることにより、旋削加工は勿論、ワークの種々の位置及び方向への孔開け加工、溝加工、平面加工などを可能にした複合旋盤が提供されている。旋盤におけるY軸は、Z軸及びX軸と直交する方向であり、Z軸は主軸方向、X軸は主軸軸線に向かう工具の切り込み方向である。
【0003】
図12は、そのような複合旋盤の主軸及び刃物台の配置の例を示した図で、対向2主軸とその主軸軸線aの上下にタレット刃物台13、14を配置した複合旋盤の例である。図の例では、左側の主軸台11は、ベッドに固定して定位置に設けられており、右側の主軸台12は、左主軸と主軸軸線aを同一にしてZ軸方向に移動位置決め可能に設けられている。主軸軸線aの上方に配置した刃物台13は、Z軸、X軸及びY軸方向に移動位置決め可能で、かつB軸方向に旋回位置決め可能なタレットヘッド3を備えており、下方の刃物台14のタレットヘッド16は、Z軸及びX軸方向にのみ移動位置決め可能である。
【0004】
上下の刃物台13、14は、Z軸方向に長い移動ストロークを備えており、左右の主軸のチャック17、18に把持されたワークW(W1、W2)をいずれも加工可能である。すなわち、必要に応じて上下の刃物台13、14を左右に移動することにより、左右いずれのワークに対しても、孔加工、溝加工、平面加工などの複合加工が可能であると共に、左右のワークW1、W2の同時並行加工が可能である。
【0005】
なお、複合型の刃物台13は、左ワークW1を加工するときはタレットヘッド3を左に向け、右ワークW2を加工するときはタレットヘッド3を右に向ける。複合型のタレットヘッド3に装着した旋削工具は、このB軸方向の向きの変更に伴い、切刃の方向が逆になるので、右主軸を逆転して旋削加工を行う。
【0006】
左右のワークW1、W2の加工に使用できる工具の最大数は、上下のタレットヘッド3、16の工具装着部の数によって制限される。複雑な形状のワークを加工する場合や工具の段取替え(挿脱)をしないで複数種のワークを加工するときは、多数の工具が必要である。より多くの工具を装着可能にするためには、タレットヘッドの数を増やすか、タレットヘッドの工具装着部の数を増やさなければならず、後者の場合には、タレットの径を大きくしなければならない。しかし、タレットを大径にすると、刃物台が大型になり、特に複合型タレットヘッドでは、旋回のためのより広いスペースを必要とし、機械が大型になり高価にもなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−225801号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
この発明は、タレットヘッドの数を増やしたり大径にすることなく、すなわち機械の複雑化や大型化を招くことなく、より複雑なワークの加工が可能な、また、工具の段取替えをしないでより多種類のワークの加工が可能な複合旋盤を得ることを課題として為されたものである。
【0009】
上記課題を解決するため、この発明は、タレットヘッドを大径にしてその外周に設けられる工具装着部の数を増やすという手段を採用することなく、複合型のタレットヘッドへの工具の装着数を増やす技術手段を得ることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明は、タレットヘッド3の外周に工具、特に回転工具1又は旋削工具2を放射方向にして装着する放射装着部31の複数個を備えたタレットヘッド3に斜め放射方向にして旋削工具2を装着
する工具固定部(傾斜装着部)41(41a、41b)を備えた工具ホルダ4(4a〜4d)を提供することにより、上記課題を解決したものである。ここで斜め放射方向とは、タレットヘッド3の内側ないし当該タレットヘッドを支持している割出軸側に頂点を有し、タレットケース32の端面33側へと広がる円錐の母線(頂点を通る円錐面上の直線)の方向である。
【0011】
放射装着部31と傾斜装着部41とは、割出軸線b回りの角度位置が重ならないようにずらして設けるのが好ましい。これは放射又は傾斜装着部の一方に装着した工具でワークを加工するときに、他方の工具装着部に装着した工具とワークが干渉するのを避けるためである。しかし、前記円錐の頂角を例えば90度以下にして設けた傾斜装着部については、放射装着部に装着した工具と、傾斜装着部に装着した工具とで、加工時におけるタレットヘッドのB軸回りの角度差が大きくなるため、割出軸線回りの角度を同一にして、放射装着部と傾斜装着部(
図11の符号41b参照)を設けることが可能である。
【0012】
傾斜装着部41には、旋削工具2を装着する。放射装着部31には、回転工具1又は旋削工具2を装着する。傾斜装着部41は、割出軸線b回りの角度位置(位相)を隣接する放射装着部31、31の中間の位置にして配置するのが好ましい。この場合、傾斜装着部41は、同一頂角の円錐の母線上に配置することができる。傾斜装着部の数をより多くしたいときは、頂角の異なる円錐の母線上に傾斜装着部41a、41bを配置する。
【0013】
上記のように、放射方向と傾斜方向にそれぞれ複数の工具を装着するタレットヘッド3は、割出軸線bに直交する放射方向に工具1を装着する放射装着部31の複数箇所と、割出軸線bに対して斜めに旋削工具2を装着する傾斜装着部41の複数箇所とを備えている。
【0015】
工具ホルダ4には、タレットケース32に固定したときに当該工具ホルダの位置を規定する位置決め手段を設ける。この位置決め手段としては、これを固定するタレットケース32の多角形の外周の稜線35を挟む2面34、34に個別に当接する位置決め対43、43を設ける構造が簡便かつ実用的であるが、外筒と内筒のはめ合やノックピンなどを用いる構造も勿論可能である。
【発明の効果】
【0016】
この発明により、タレットヘッドの径を大きくすることなく、当該タレットヘッドに装着可能な工具の数を大幅に増やすことができる。特にタレットヘッドの外周部に回転工具を装着することを可能にした複合型タレットヘッドにおいては、限られた回転工具の取付部に旋削工具を装着することによって必要な数の回転工具を装着することができなくなるという事態を避けることができ、機械の大型化や機械価格の大幅な上昇を生ずることなく、より複雑な形状のワークを加工することができる複合旋盤や、工具の段取替えを行うことなく、より多種類のワークを連続加工することができる複合旋盤を提供することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】工具を装着して示す第1実施例の
工具ホルダを備えたタレットヘッドの側面図
【
図7】斜めに装着した工具による加工状態を示す側面図
【
図8】割出軸線回りの工具の位相を同一位相にして
タレットケースの一部と共に示す第2実施例
の側面図
【
図9】
タレットケースに装着した状態で示す第2実施例
の正面図
【
図10】割出軸線回りの工具の位相を同一位相にして
タレットケースの一部と共に示す第3実施例
の側面図
【
図11】
タレットケースに装着した状態で示す第3実施例
の正面図
【発明を実施するための形態】
【0018】
第1実施例
図1ないし7は、この発明の第1実施例を示した図で、
図1は、回転工具1・・・及び旋削工具2・・・を装着した状態で示すタレットヘッドの側面図、
図2は、同正面図である。図のタレットヘッドは、正面視で正十二角形のものであり、12箇所の放射装着部31には回転工具1が装着され、6箇所の傾斜装着部41には旋削工具2が装着されている。タレットヘッド3には、放射方向(割出軸線bと直行する方向)に工具駆動軸が内蔵されており、タレットヘッド3の正十二角形の外周面に設けた放射装着部31に装着された回転工具1は、ワークに向けて割り出されたとき、当該工具駆動軸に連結されて回転駆動可能となる。
【0019】
旋削工具2・・・は、タレットケース32の端面33の外周部に4本のボルト51で固定されたそれぞれの工具ホルダ4a・・・の工具固定溝(傾斜装着部)41に装着されている。
【0020】
図3ないし6は、工具ホルダ4aを示した図である。工具ホルダ4aは、タレットケース32の端面33に面接触する底面42を備え、当該底面の外周側(タレットヘッドの外周側)には、タレットケース外周の隣接する平坦面34、34の端面33側の縁に面接触する段面43、43が形成されている。段面43、43を正多角形のタレットヘッド外周の隣接する平坦面34、34に当接した状態で、その底面42をタレットケースの端面33にボルト51で定着して固定することにより、工具ホルダ4aの中央に設けた工具固定溝(傾斜装着部)41をタレットヘッド外周の稜線部、すなわち隣接する放射装着部のちょうど中間の位置にした状態で工具ホルダ4aが位置決めして固定される。
【0021】
工具ホルダ4aの正面中央には、旋削工具2の柄杆21とそれを固定するための楔金具44を挿入する工具固定溝41が設けられている。旋削工具2は、
図6に示すように、工具固定溝41の片側に挿入され、合せ面が斜めになった2枚のブロック44a、44bからなる楔金具44をボルト52で工具ホルダ4aに締結することにより、旋削工具の柄杆21が工具固定溝41の壁面45と楔金具44とで挟持されて固定される。工具固定溝41の底面46は、工具ホルダの底面42に対して側面視で45度の角度で設けられており、従って工具固定溝41に固定された旋削工具2は、その軸方向を頂角90度の円錐の母線方向にして、タレットヘッド3に装着される。
【0022】
タレットケースの端面33には、それぞれの工具ホルダ4a・・・が装着される部分に切削油供給孔(図には表れていない。)が開口している。工具ホルダ4aの底面42には、この切削液供給孔に対向する位置に流入口47が設けられ、この流入口が工具ホルダ4a内の通孔48を通って工具ホルダの正面に設けた2個のノズル受け49に連通している。ノズル受け49には、噴出口の方向を3次元方向に自由に設定できる球形のノズルピース(図示せず)が、このノズル受け49に隣接して設けたねじ孔53にねじで固定される押さえ金具により固定することができるようになっている。
【0023】
タレットケースの端面33に開口する前記切削液供給孔は、タレットヘッド3をその軸線方向に貫通しており、一の旋削工具2がワークに向けて割り出されたときに、当該旋削工具を保持している工具ホルダ4aの流入口47に連通する切削液供給孔がタレットケース32の背面側(端面と反対の側)に設けた切削液供給カプラに連結されるようになっている。工具ホルダの工具固定溝41に旋削工具2を固定し、ノズルピースのノズルの方向を当該旋削工具の刃先に向けて固定しておけば、ワークに向けて割り出された旋削工具の刃先に向けて切削液が噴射される。
【0024】
上記構造で放射装着部31に装着した工具1でワークWを加工している状態は、
図1に示されている。
図7は、上記構造で傾斜装着部41に装着した工具2でワークWを加工している状態を示した図である。
【0025】
放射装着部31に装着した回転工具1でワークWに主軸軸線aと直交する孔や主軸軸線aと平行な平面を加工するとき、及び、放射装着部31に装着した旋削工具(図には示されていない。)でワークWを加工するときは、タレットヘッド3の割出軸線bを主軸軸線aと平行な方向に固定して加工を行う。
【0026】
また、ワークWに主軸軸線aと平行な方向の孔や主軸軸線aと直交する平面を加工するときは、割出軸線bを主軸軸線aと直交するX軸方向にして回転工具1で加工を行う。更に、主軸軸線aに対して傾斜した孔や平面の加工をするときは、タレットヘッドの割出軸線bを対応する角度に傾斜して加工を行う。これらの加工は、従来の複合型タレットヘッドに装着した工具で加工を行うときと同じである。
【0027】
一方、傾斜装着部41に装着した旋削工具2で加工を行うときは、旋削工具2の軸方向が主軸軸線aと直交するX軸方向となるようにタレットヘッド3のB軸角度を設定して旋削加工を行う。図の例では、旋削工具2がタレットヘッド3の割出軸線bに対して45度傾斜した方向で装着されているので、タレットヘッド3をB軸回りに45度傾斜させた状態に固定して、刃物台13のZ、X方向移動と主軸回転により、ワークの旋削加工を行う。
【0028】
第2実施例
図8及び9は、この発明の第2実施例を示した図で、角数の少ないタレットヘッドについて、旋削工具の装着個数を多くしたいときに有効な構造である。第1実施例と同様に、旋削工具2(2a、2b)は、タレットケース32の端面外周部に第1実施例と同様な構造で位置決めして固定された工具ホルダ4bを介して装着される。
【0029】
第1実施例では、それぞれの工具ホルダ4aが1個の工具固定溝を備えているが、第2実施例の工具ホルダ4bは、それぞれが2個の工具固定溝41(41a、41b)を備えている。2個の工具固定溝41は、回転工具を装着する放射装着部31の割出軸線b回りのピッチ角θを3等分する方向にして設けられ、かつ一方の工具固定溝41aの底面は、工具ホルダの底面42に対して30度(工具軸方向を母線とする円錐の頂角120度)にして設けられ、他方の工具固定溝41bは、60度(上記円錐の頂角60度)にして設けられている。
【0030】
第3実施例
図10及び11は、第3実施例を示す図で、タレットケース32の端面外周部に第1と第2の2個のリング状の工具ホルダ4c、4dをタレットヘッド3と同軸にして固定した構造を備えている。各工具ホルダ4c、4dには、放射方向に複数の工具固定溝41(41、41b)が斜め放射方向にして設けられている。第1のリング状工具ホルダ4cの工具固定溝41aは、割出軸線b回りの角度位置が隣接する放射装着部31、31の中間の位置で、かつ溝底面46を工具ホルダの底面42に対して30度の方向にして設けられている。第2のリング状工具ホルダ4dの工具固定溝41bは、割出軸線b回りの角度位置が放射装着部31と同一位置で、かつ溝底面46を工具ホルダの底面42に対して60度の方向にして設けられている。
【0031】
上記第2及び第3実施例の傾斜装着部41a、41bに固定した旋削工具2a、2bでワークWを加工するときは、それぞれの旋削工具2a、2bの傾斜角に対応する角度にタレットヘッド3のB軸回りの角度を固定して加工を行う。すなわち、溝底面46がホルダ底面42に対して30度傾斜している工具固定溝41aに固定した旋削工具2aで旋削加工を行うときは、タレットヘッド3の軸線bをX軸に対してB軸方向に30度傾斜して加工を行う。また、溝底面46がホルダ底面42に対して60度傾斜している工具固定溝41bに固定した旋削工具2bで旋削加工を行うときは、タレットヘッド3の軸線bをX軸に対してB軸方向に60度傾斜して加工を行う。
【0032】
このように、傾斜装着部41の斜め放射方向の円錐の頂角を複数にすることにより、放射装着部の全てに装着した回転工具の数以上の旋削工具をタレットヘッド3に装着することも可能になり、より適切な旋削工具を使用して加工を行うことにより、加工面精度の向上や加工能率の向上を図ることができる。
【符号の説明】
【0033】
1 回転工具
2(2a、2b) 旋削工具
3 タレットヘッド
4(4a〜4d) 工具ホルダ
31 放射装着部
32 タレットケース
33 タレットケースの端面
34 タレットケースの外周面
35 タレットケースの外周の稜線
41(41a、41b) 傾斜装着部(工具固定部)
43 位置決め対(段面)
a 主軸軸線
b 割出軸線
W ワーク