(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
全ての金属の合計に対する各金属の含有割合が、Zn 10〜17モル%、Fe 20〜32モル%、Co 15〜25モル%、Al 35〜45モル%、及びTi 0.5〜2.5モル%である請求項1に記載の赤外線反射黒色顔料。
【背景技術】
【0002】
近年の環境意識の高まりから、有害成分を含有する製品の使用を制限する動きが各分野で生じている。また、地球温暖化への対応から、炭酸ガス等の温室効果ガスの排出を抑えるための技術開発も活発に行われている。同時に、化石燃料の消費抑制や、ヒートアイランド現象による地表や建造物の温度上昇抑制の観点から、使用電力を抑える等の省エネ対応が急務である。
【0003】
なかでも、室内や自動車内環境を快適にするための手段である冷暖房の利用等、電力使用量の削減が大きな課題であり、例えば、熱の侵入を防ぐ遮熱性を窓ガラスに付与することや、断熱効果を壁材に付与すること等が強く求められている。赤外線を高効率に反射しうる赤外線反射顔料は、熱源となる赤外線の室内等への侵入を防ぎ、室内の温度上昇を抑えることができるとともに、室内の熱が外部へと放出されるのを防ぐことも可能である。このため、赤外線反射顔料を用いて窓ガラスに塗膜等を形成すれば、室内の温度上昇を抑え、エアコンの作動効率を上げることができる。
【0004】
熱線反射塗料に含有される顔料として、例えば、Cu−Cr系等の黒色顔料が知られている(例えば、特許文献1)。しかしながら、赤外線反射顔料として用いられている従来公知の黒色顔料等の無機顔料は、コスト面において課題を有している。また、これらの黒色顔料は、その組成中にクロム成分を含有するため、使用を制限する動きが近年加速している。このため、クロムフリー材料の開発は緊急の課題である。
【0005】
このような課題を解決しうる材料として、例えば、赤外線反射能を有するMn−Bi系、Fe−Cu−Mn系の複合酸化物顔料を含有する、クロム系成分を含有しない塗料が提案されている(特許文献2)。また、Fe及びNiを含有する黒色系セラミック焼結体が提案されている(特許文献3)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2で提案された無機複合酸化物顔料は、黒色度やコスト面について課題を有している。また、特許文献3で提案されたFe及びNiを含有する黒色系顔料は、耐酸性を有するが、色相が黒色ではなく、茶色に近い。このため、使用態様に制限を有するものである。なお、代表的な黒色顔料であるカーボンブラックや特許文献1及び2に記載された複合酸化物顔料は、いずれも赤外線を吸収して蓄熱する性質を有するものであるが、赤外線を反射する性質を有するものではない。
【0008】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、クロム等の有害性の高い成分を含有せず、鮮明で黒色度が高く、赤外線反射性能及び耐酸性に優れ、コスト面においても有利な赤外線反射黒色顔料、及びその製造方法、並びにこの赤外線反射黒色顔料を用いた塗工液を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明によれば、以下に示す赤外線反射黒色顔料が提供される。
[1]Zn、Fe、Co、Al、及びTiを含有する
がCrを含有しない主成分金属の複合酸化物である
クロムフリーの赤外線反射黒色顔料であって、
その結晶系がスピネル型構造を有し、CIE LAB(L
*a
*b
*)表色系における、明度L
*値が19以下、及び下記式で表される無彩色度C
*値が0〜5であり、アクリルラッカー30PHR分散液を用いてアート紙上に6ミルのアプリケーターで展色した場合における、JIS K5602(2008)に準拠して測定される日射反射率が15%以上である赤外線反射黒色顔料。
無彩色度C
*=(a
*2+b
*2)
1/2
[2]全ての金属の合計に対する各金属の含有割合が、Zn 10〜17モル%、Fe 20〜32モル%、Co 15〜25モル%、Al 35〜45モル%、及びTi 0.5〜2.5モル%である前記[1]に記載の赤外線反射黒色顔料。
【0010】
また、本発明によれば、以下に示す赤外線反射黒色顔料の製造方法が提供される。
[3]前記[1]又は[2]に記載の赤外線反射黒色顔料の製造方法であって、主成分金属を含む金属塩の混合水溶液及びアルカリ剤を混合して共沈物である顔料前駆体を析出させる工程と、析出した前記顔料前駆体を水洗及び乾燥後、750〜1050℃で焼成する工程と、を有する赤外線反射黒色顔料の製造方法。
【0011】
さらに、本発明によれば、以下に示す塗工液が提供される。
[4]前記[1]又は[2]に記載の赤外線反射黒色顔料を含有する塗工液。
【発明の効果】
【0012】
本発明の赤外線反射黒色顔料は、クロム等の有害性の高い成分を含有せず、鮮明で黒色度が高く、赤外線反射性能及び耐酸性に優れており、コスト面においても有利なものである。このため、本発明の赤外線反射黒色顔料、及びそれを用いた塗工液(塗料)は、種々の物品に対して温度上昇抑制効果を付与するといった用途展開を可能とするものである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、好ましい実施の形態を例に挙げ、本発明の赤外線反射黒色顔料の詳細について説明する。単純酸化物と複合酸化物では、一般的に複合酸化物の方が安定性に優れている。このため、本発明者らは、その結晶系がスピネル型である複合酸化物の組成を検討し、耐酸性等の耐久性の改善を試みた。また、有彩色(着色)顔料は、一般的に日射反射率が高く、蓄熱性が低い。以上より、本発明者らは、その結晶系がスピネル型の複合酸化物であって、黒色度の高い黒色顔料の組成について検討した。さらに、コスト面を考慮し、得られる顔料の特性を考慮しながら比較的高価なコバルトの使用量を抑えることで、良好な特性を備えた顔料を得るための金属組成が見出された。
【0015】
すなわち、本発明の赤外線反射黒色顔料は、Zn、Fe、Co、Al、及びTiを含有する主成分金属の複合酸化物であり、好ましくは実質的にクロム(Cr)を含有しないクロムフリーの顔料であることを特徴の一つとする。そして、本発明の赤外線反射黒色顔料は、所定の条件下で測定される日射反射率が15%以上である。
【0016】
本発明における日射反射率とは、赤外線反射黒色顔料のアクリルラッカー30PHR分散液を用いてアート紙上に6ミル(25.4μm)のアプリケーターを用いて展色した場合における、JIS K5602(2008)に準拠して測定される値をいう。なお、「PHR」は、「Parts per hundred resin by weight」の略である。例えば、「30PHR」とは、樹脂100重量部に対して顔料を30重量部含有することを意味する。このようにして測定される本発明の赤外線反射黒色顔料の日射反射率は、15%以上、好ましくは25%以上である。すなわち、本発明の赤外線反射黒色顔料は、例えば、ノンクロム系の赤外線反射顔料として性能が高いと市場で評価されていた市販のBi−Mn系顔料と比較してもより優れた効果を示すものである。
【0017】
色相評価を行うための色調を表す方法として、国際照明委員会(CIE)が策定した、目で見える色を色空間として表現するCIE L
*a
*b
*表色系(色空間)がある。このCIE L
*a
*b
*表色系においては色を3つの座標で表現し、明度が「L
*」、赤(マゼンタ)〜緑が「a
*」(正がマゼンタ、負が緑味)、黄〜青を「b
*」(正が黄味、負が青味)にそれぞれ対応する。そして、本発明の赤外線反射黒色顔料の色調は、a
*値とb
*値がいずれも0に近いことが好ましい。
【0018】
本発明の赤外線反射黒色顔料は、明度L
*値が19以下、好ましくは17以下である。明度L
*値は、黒色度の傾向を示す一指標である。また、本発明の赤外線反射黒色顔料は、a
*値が−3〜1であるとともに、b
*値が−1〜3であることが好ましい。さらに、本発明の赤外線反射黒色顔料は、明度L
*値と同様に黒色度の指標となる無彩色度C
*値が0〜5、好ましくは0〜3である。なお、無彩色度C
*は、下記式より算出される。明度L
*値が19超である、及び/又は無彩色度C
*が5超であると、黒色度が不十分となる。
無彩色度C
*=(a
*2+b
*2)
1/2
【0019】
本発明の赤外線反射黒色顔料の赤外線反射性能は、例えば、以下に示す方法により評価することができる。先ず、赤外線反射黒色顔料を含有する塗工液を用いて所定の評価用試料(試験片)を作製する。作製した試験片について、分光光度計(商品名「U−4100」、日立製作所社製)を使用して、300〜2500nmの波長領域の分光反射率を測定することによって、赤外線反射黒色顔料の赤外線反射性能を評価することができる。本発明の赤外線反射黒色顔料は、通常、約700〜2500nmの近赤外波長領域における反射率が特に高いものである。
【0020】
例えば、Tiを含有しない複合酸化物系の顔料は、黒色度が不十分であるとともに、十分な日射反射率を得にくいという課題がある。このため、本発明者らは、複合酸化物系の顔料のなかでも、Zn、Fe、Co、Al、及びTiを含有する主成分金属の複合酸化物で構成された、その結晶系が安定なスピネル型構造を有する顔料が、黒色度に特に優れているとともに、日射反射率がより高いといった特徴を有することを見出した。特に、本発明の赤外線反射黒色顔料においては、全ての金属の合計に対する各金属の含有割合が、Zn 10〜17モル%、Fe 20〜32モル%、Co 15〜25モル%、Al 35〜45モル%、及びTi 0.5〜2.5モル%であることが好ましい。各金属の含有割合が上記の範囲にあると、黒色度及び赤外線反射性能に加えて、耐酸性が顕著に向上し、耐久性により優れた顔料とすることができる。なお、各金属の含有割合を上記の範囲とした本発明の赤外線反射黒色顔料の耐酸性は、例えば、耐酸性の評価が高いことが知られているBi−Mn系の顔料と比較しても何ら遜色がない。
【0021】
本発明の赤外線反射黒色顔料は、クロム等の有害な金属を含有せずとも、単独使用によって黒色度の高い色調を発現することができるとともに、高い赤外線反射性能を有するものである。さらに、各金属の組成を適切に調整することによって、耐酸性等の耐久性が顕著に向上するので、高品質であるとともに安定性に優れ、かつ、コスト面においても有利である。
【0022】
次に、本発明の赤外線反射黒色顔料の製造方法について説明する。本発明の赤外線反射黒色顔料の製造方法は、主成分金属を含む金属塩の混合水溶液及びアルカリ剤を混合して共沈物である顔料前駆体を析出させる工程(1)と、析出した顔料前駆体を水洗及び乾燥後、750〜1050℃で焼成する工程(2)とを有する。
【0023】
工程(1)では、主成分金属を含む金属塩を用いて混合水溶液を調製する。金属塩としては、例えば、各金属の硫酸塩、硝酸塩、塩化物、又は酢酸塩等、従来の複合酸化物顔料の製造に用いられる塩類を挙げることができる。より具体的な金属塩の例としては、塩化アルミニウム6水塩、四塩化チタン水溶液、硫酸亜鉛7水塩、塩化コバルト6水塩、及び硫酸第1鉄7水塩等を挙げることができる。また、上記以外の金属塩を用いることもできる。また、工程(1)ではアルカリ剤を用いる。アルカリ剤としては、例えば、ソーダ灰(無水炭酸ナトリウム)や苛性ソーダ(水酸化ナトリウム)等を用いることができる。また、ソーダ灰以外のアルカリ剤を用いることもできる。なお、アルカリ剤は、その所定量を水に溶解させて得られるアルカリ水溶液の状態で用いることができる。予め用意した所定の沈殿槽中に混合水溶液とアルカリ水溶液を同時滴下して、金属塩の炭酸塩又は水酸化物を共沈物である顔料前駆体として析出(沈殿)させればよい。
【0024】
混合水溶液中の金属塩の濃度は、約5〜50質量%とすることが適当である。混合水溶液は、例えば、沈殿剤として用いられるアルカリ水溶液とともに、予め用意した沈殿槽中に滴下すればよい。金属塩換算の反応濃度は、沈殿物(共沈物)に対して特に悪い影響を及ぼす程度ではなければよい。作業性及びその後の工程を考慮すると、金属塩換算の反応濃度は0.05〜0.2モル/Lとすることが好ましい。金属塩換算の反応濃度が0.05モル/L未満であると、得られる乾燥物が非常に硬くなるとともに、収量も少なくなる傾向にある。一方、金属塩換算の反応濃度が0.2モル/L超であると、合成物が不均一になる場合がある。
【0025】
安定性の高いスピネル組成を得ることを考慮して、2価金属イオンと3価金属イオンをモル比で1:2(モル%比で2価:3価=33.3:66.7)となるように配合組成を制御することが好ましい。また、コバルト塩は比較的高価であるため、コスト面を考慮して配合量を設定することが好ましい。具体的には、スピネル組成のモル比で、2価金属のうちの1/2〜2/3モルのコバルト塩を用いることが好ましい。すなわち、コバルト塩を、全金属中、コバルト換算で15〜25モル%用いることが好ましい。
【0026】
共沈物である顔料前駆体を析出させる際の溶液(反応液)のpHは4〜8であることが好ましい。反応液のpHを上記の範囲とすることで、各成分がより均一に混合した顔料前駆体が形成される。反応液のpHが上記の範囲外であると、得られる顔料前駆体の均一性が低下する場合があり、安定したスピネル組成の化合物を得ることが困難になる傾向にある。また、焼成時の熱処理温度が高くなる等の障害が発生しやすくなり、不揃いの粒子が生成する場合がある。
【0027】
共沈物である顔料前駆体を析出させる際の反応液の温度(合成温度)は、40〜80℃とすることが好ましい。合成温度が低すぎると、生成粒子が小さくなり、焼き上がりが硬くなる場合がある。一方、合成温度が高すぎると、生成粒子は大きくなる傾向にあるが、エネルギー効率が低下する傾向にある。
【0028】
工程(2)では、析出した顔料前駆体を水洗及び乾燥する。水洗することで、合成中に副生した水溶性のアルカリ金属塩を除去することができる。水洗は、ろ液の電気伝導率が、500μs/cm以下となるまで行うことが好ましく、300μs/cm以下となるまで行うことがさらに好ましい。ろ液の電気伝導率が上記の範囲以下となるまで水洗すると、後の焼成工程に悪影響が出にくくなる。一方、水洗が不足すると焼成がしやすくなり、粗大粒子が生成してしまう場合がある。
【0029】
工程(2)では、水洗及び乾燥した顔料前駆体を750〜1050℃で焼成する。焼成することで顔料前駆体を結晶化させることができる。焼成温度が上記の温度範囲よりも低いと、発色しにくくなる。一方、焼成温度が上記の温度範囲よりも高いと、焼結してしまう。焼成後は、焼成により副生したアルカリ金属塩を除去するために水洗することが好ましい。水洗は、ろ液の電気伝導率が300μs/cm以下となるまで行うことが好ましい。その後、約120℃で約12時間程度乾燥することが好ましく、これにより本発明の赤外線反射黒色顔料を得ることができる。このようにして得られる本発明の赤外線反射黒色顔料を、例えば粉末X線回折により分析すれば、スピネル構造を有する異相のない単一化合物であることを確認することができる。
【0030】
本発明の赤外線反射黒色顔料は、機能性が付与された塗工液を構成する材料として用いることができる。すなわち、本発明の塗工液は、上述の赤外線反射黒色顔料を含有し、塗料として用いることができるものである。本発明の塗工液には、赤外線反射黒色顔料とともに、例えば、被膜又は成形物形成用の樹脂や有機溶剤等をビヒクル内に混合及び分散させて調製することができる。このようにして調製される塗工液を用いて形成した塗工被膜や塗工成形物は、鮮明で黒色度が高いとともに、所望とする赤外線反射性能及び耐酸性を有する。
【0031】
塗工液に含有させることのできる樹脂の種類は特に限定されず、用途に応じて選択することができる。樹脂の具体例としては、ポリオレフィン系、ポリエステル系、ポリスチレン系、アクリル系、フッ素系、ポリアミド系、セルロース系、ポリカーボネート系、ポリ乳酸系の熱可塑性樹脂;ウレタン系、フェノール系の熱硬化性樹脂等を挙げることができる。
【0032】
塗工液に含有させることのできる有機溶剤の種類は特に限定されず、従来公知の有機溶剤を用いることができる。有機溶剤の具体例としては、メタノール、エタノール、ブタノール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエン、キシレン、ブチルアセテート、シクロヘキサン等を挙げることができる。
【0033】
塗工液には、用途に応じて、本発明の目的を損なわない範囲で「その他の成分」を適宜選択して含有させることができる。「その他の成分」の具体例としては、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、分散剤、帯電防止剤、滑剤、殺菌剤等を挙げることができる。
【0034】
塗工液を塗工する方法としては、従来公知の方法を採用することができる。具体的には、スプレー塗装、ハケ塗り、静電塗装、カーテン塗装、ロールコータを用いる方法、浸漬による方法等を挙げることができる。また、塗工した塗工液を被膜とするための乾燥方法としても、従来公知の方法を採用することができる。具体的には、自然乾燥、焼き付け等の方法を、塗工液の性状等に応じて適宜選択して採用すればよい。
【0035】
本発明の塗工液を用いれば、基材上に塗工して得られる塗工被膜や塗工成形物を作製することができる。基材としては、金属、ガラス、天然樹脂、合成樹脂、セラミックス、木材、紙、繊維、不織布、織布、及び皮革等を用途に応じて選択することができる。なお、このようにして機能性が付与した塗工被膜は、家庭用以外にも、工業、農業、鉱業、漁業等の各産業に利用することができる。また、塗工形状にも制限はなく、シート状、フィルム状、板状等、用途に応じて選択することができる。
【0036】
本発明の塗工液を用いて得られる塗工被膜や塗工成形物は、例えば、日射又は熱を避けたい対象物や、節電効果を目的とする対象物に適用することが好ましい。このような対象物としては、例えば、家、工場、道路、冷蔵庫、貯蔵タンク、電車、飛行機、車、船、屋根、天井、外壁、内壁、水槽、クーリングタワー、エアコンの室外機等を挙げることができる。さらには、太陽電池のバックシート材等に適用することも好ましい。また、本発明の赤外線反射黒色顔料をインキ(インク)とともに混合して得た塗工液を、印刷方法によって所望とする部分に塗工することも好ましい使用態様である。本発明の赤外線反射黒色顔料は、赤外線の遮熱性を付与したい部分に塗布する塗工液に配合される材料として、高い有効性を有するものである。
【実施例】
【0037】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに具体的に説明する。なお、以下の文中、「部」及び「%」は特に断らない限り質量基準である。
【0038】
[実施例1]
塩化アルミニウム6水塩100.6部、四塩化チタン水溶液(チタン分として16.5%)3.1部、硫酸亜鉛7水塩49.7部、塩化コバルト6水塩48.5部、硫酸第1鉄7水塩96.1部、及び水600部を混合して金属塩の混合水溶液を調製した。一方、ソーダ灰150部を水400部に溶解させてアルカリ水溶液を調製した。調製した混合水溶液及びアルカリ水溶液を沈殿用水1200部中に約30分かけて同時に滴下し、沈殿物(金属の水酸化物)を生成させた。なお、沈殿物生成時の反応液のpHは7とし、水温は70℃とした。デカンテーションにより、ろ液の電気伝導度が300μs/cm以下になるまで沈殿物を水洗した後、120℃で約12時間乾燥させて顔料前駆体を得た。得られた顔料前駆体を900℃で1時間熱処理(焼成)した後、デカンテーションにより、ろ液の電気伝導度300μs/cm以下になるまで水洗した。次いで、120℃で10時間乾燥して水分を蒸発させ、(やや緑味のある)黒色の顔料約75gを得た。得られた顔料の各金属の組成(含有割合)を表1に示す。また、得られた顔料と樹脂を配合し、ペイントコンディショナーを使用して1時間分散させることにより、アクリルラッカー30PHR(樹脂100重量部に対し顔料30重量部を含有する)分散液である塗料(塗工液)を調製した。また、6ミルアプリケーターを使用して調製した塗料を黒帯つきアート紙に展色して評価用試料(乾燥膜厚:20μm)を作製した。
【0039】
[実施例2]
(i)塩化アルミニウム6水塩106.9部、四塩化チタン水溶液(チタン分として16.5%)7.7部、硫酸亜鉛7水塩38.2部、塩化コバルト6水塩58.5部、硫酸第1鉄7水塩73.9部、及び水600部を混合して調製した金属塩の混合水溶液を用いたこと、並びに(ii)ソーダ灰160部を水400部に溶解させて調製したアルカリ水溶液を用いたこと以外は、前述の実施例1と同様にして黒色の顔料約76gを得た。得られた顔料の各金属の組成(含有割合)を表1に示す。また、このようにして得られた顔料を用いたこと以外は、前述の実施例1と同様にして評価用試料を作製した。
【0040】
[実施例3]
塩化アルミニウム6水塩117.7部、四塩化チタン水溶液(チタン分として16.5%)6.2部、硫酸亜鉛7水塩34.4部、塩化コバルト6水塩60.7部、硫酸第1鉄7水塩66.5部、及び水600部を混合して調製した金属塩の混合水溶液を用いたこと以外は、前述の実施例1と同様にして黒色の顔料約74gを得た。得られた顔料の各金属の組成(含有割合)を表1に示す。また、このようにして得られた顔料を用いたこと以外は、前述の実施例1と同様にして評価用試料を作製した。
【0041】
[実施例4]
塩化アルミニウム6水塩58.0部、四塩化チタン水溶液(チタン分として16.5%)10.4部、硫酸亜鉛7水塩11.4部、塩化コバルト6水塩85.6部、硫酸第1鉄7水塩133.4部、及び水600部を混合して調製した金属塩の混合水溶液を用いたこと以外は、前述の実施例1と同様にして黒色の顔料約83gを得た。得られた顔料の各金属の組成(含有割合)を表1に示す。また、このようにして得られた顔料を用いたこと以外は、前述の実施例1と同様にして評価用試料を作製した。
【0042】
[比較例1]
(i)塩化アルミニウム6水塩91.3部、四塩化チタン水溶液(チタン分として16.5%)10.4部、硫酸亜鉛7水塩69.0部、塩化コバルト6水塩85.6部、硫酸第1鉄7水塩52.4部、及び水600部を混合して調製した金属塩の混合水溶液を用いたこと、並びに(ii)ソーダ灰160部を水400部に溶解させて調製したアルカリ水溶液を用いたこと以外は、前述の実施例1と同様にして暗緑色の顔料約83gを得た。得られた顔料の各金属の組成(含有割合)を表1に示す。また、このようにして得られた顔料を用いたこと以外は、前述の実施例1と同様にして評価用試料を作製した。
【0043】
[比較例2]
塩化アルミニウム6水塩138.8部、四塩化チタン水溶液(チタン分として16.5%)10.4部、硫酸亜鉛7水塩17.3部、塩化コバルト6水塩42.8部、硫酸第1鉄7水塩113.4部、及び水600部を混合して調製した金属塩の混合水溶液を用いたこと、並びに(ii)ソーダ灰175部を水400部に溶解させて調製したアルカリ水溶液を用いたこと以外は、前述の実施例1と同様にして黒味の茶色の顔料約82gを得た。得られた顔料の各金属の組成(含有割合)を表1に示す。また、このようにして得られた顔料を用いたこと以外は、前述の実施例1と同様にして評価用試料を作製した。
【0044】
[比較例3]
塩化アルミニウム6水塩144.9部、四塩化チタン水溶液(チタン分として16.5%)10.4部、硫酸亜鉛7水塩80.4部、塩化コバルト6水塩28.6部、硫酸第1鉄7水塩43.4部、及び水600部を混合して調製した金属塩の混合水溶液を用いたこと以外は、前述の実施例1と同様にして薄い黄緑色の顔料約77gを得た。得られた顔料の各金属の組成(含有割合)を表1に示す。また、このようにして得られた顔料を用いたこと以外は、前述の実施例1と同様にして評価用試料を作製した。
【0045】
[比較例4]
(i)塩化アルミニウム6水塩96.4部、硫酸亜鉛7水塩38.2部、塩化コバルト6水塩42.2部、硫酸第1鉄7水塩110.9部、及び水600部を混合して調製した金属塩の混合水溶液を用いたこと、並びに(ii)ソーダ灰160部を水400部に溶解させて調製したアルカリ水溶液を用いたこと以外は、前述の実施例1と同様にして、やや透明で茶色味が強い顔料約73gを得た。得られた顔料の各金属の組成(含有割合)を表1に示す。また、このようにして得られた顔料を用いたこと以外は、前述の実施例1と同様にして評価用試料を作製した。
【0046】
【0047】
[評価]
(色相)
カラコム測色機(大日精化工業社製)を使用し、作製した評価用試料の色相を評価した。また、CIE LAB(L
*a
*b
*)表色系におけるL
*値、a
*値、及びb
*値を測定するとともに、下記式に従って無彩色度C
*を算出した。結果を表2に示す。
無彩色度C
*=(a
*2+b
*2)
1/2
【0048】
(日射反射率)
JIS K5602(2008)に準拠し、分光光度計(日立製作所社製)を使用して作製した評価用試料の日射反射率(TSR)を測定した。結果を表3に示す。なお、日射反射率は、黒色度が良好な顔料(実施例1〜4)を用いて作製した評価用試料についての測定結果を示す。
【0049】
(耐酸性)
5%硫酸水溶液20mL中に顔料1gを投入し、室温で2日間放置して上澄み液が着色するか否か観察し、以下に示す基準に従って顔料の耐酸性を評価した。結果を表3に示す。なお、一般的には耐酸性が良好であるとされている複合酸化物の評価であるため、比較例で調製した顔料であっても耐酸性が顕著に劣るものはない。このため、目的とする効果である「黒色度」が良好な実施例1〜4で調製した顔料についての耐酸性の評価結果を以下に示す。なお、以下に示す耐酸性の評価基準のうち、「B」は、「A」よりも僅かに着色した場合である。
AA:上澄み液が着色しない。
A:上澄み液がほんの僅かに着色した。
B:上澄み液が僅かに着色した。
【0050】
【0051】
【0052】
なお、比較例1及び4で調製した顔料は、耐酸性の評価が「B」であることを確認した。
【0053】
表2及び3に示すように、実施例1〜4で調製した顔料は、比較例1〜4で調製した顔料に比べて黒色度が高いことが明らかである。また、実施例1〜4で調製した顔料は耐酸性が良好であるともに、これらの顔料を用いて作製した評価用試料の日射反射率が高いことが明らかである。また、実施例1〜3で調製した顔料は、実施例4で調製した顔料に比べて、より耐酸性に優れている。これは、顔料を構成する各金属を所定の組成(含有割合)となるように調整したためであると推測される。なお、実施例1〜3で得た顔料(評価用試料)の分光反射率の測定結果を表すグラフを
図1に示す。
【0054】
[応用例:アクリルメラミン系ワニスを用いた塗工液]
実施例1で調製した黒色の顔料5部、市販のメラミン樹脂(固形分:60%)4部、及びシンナー1.5部を混合し、ペイントシェイカーを使用して100分間分散させて分散スラリーを得た。得られた分散スラリーに、樹脂固形分100部に対して顔料分が35部になるようにアクリルポリオール樹脂(固形分:55%)を添加して塗工液を調製した。6ミルアプリケーターを使用し、調製した塗工液をアート紙、ポリエチレンシート、及びガラス板にそれぞれに塗工して評価用試料を作製した。作製した各評価用試料について、色相及び赤外線(日射)反射性能を評価した。その結果、いずれの評価用試料についても、無彩色度C
*が3以下であるとともに、十分な日射反射性能を有することを確認した。