(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5932610
(24)【登録日】2016年5月13日
(45)【発行日】2016年6月8日
(54)【発明の名称】コンシールドドアクローザ
(51)【国際特許分類】
E05F 3/04 20060101AFI20160526BHJP
E05F 3/00 20060101ALI20160526BHJP
E05F 3/12 20060101ALI20160526BHJP
E06B 5/16 20060101ALI20160526BHJP
【FI】
E05F3/04
E05F3/00 A
E05F3/12
E06B5/16
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-246920(P2012-246920)
(22)【出願日】2012年11月9日
(65)【公開番号】特開2014-95215(P2014-95215A)
(43)【公開日】2014年5月22日
【審査請求日】2015年8月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006943
【氏名又は名称】リョービ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】石田 耕二
(72)【発明者】
【氏名】高橋 省次
【審査官】
佐藤 美紗子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−274583(JP,A)
【文献】
特開2009−180036(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E05F 3/00
E05F 3/12
E05F 3/04
E06B 5/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
取付板を介して扉の内部に設置され作動油が充填される密閉空間を備えるハウジングと、該ハウジングを上下に貫挿する回転軸と、該扉の開閉に伴って該回転軸を回転させるアームと、を有するコンシールドドアクローザにおいて、
該ハウジングが高温となった際に該密閉空間から作動油を排出する為の作動油排出路と、該作動油排出路から該ハウジングの外部に排出された作動油を貯留する収容タンクとを有し、該作動油排出路が樹脂製部材によって閉鎖されていることを特徴とするコンシールドドアクローザ。
【請求項2】
該作動油排出通路は該回転軸の内部に形成されていることを特徴とする請求項1に記載のコンシールドドアクローザ。
【請求項3】
該収容タンクの上部には、該収容タンク内の内部空間と外部とを連通する連通孔が形成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のコンシールドドアクローザ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、コンシールドドアクローザの改良に関し、特に発火抑制対策に関するものである。
【背景技術】
【0002】
手動で開かれた防火戸を自動閉扉するために防火戸の内部に設置されるコンシールドドアクローザは特許文献1に所載されるように公知である。一般に、コンシールドドアクローザは、作動油が充填された密閉空間を有するハウジングを備え、該ハウジングの密閉空間には、コイルスプリングにより付勢されたピストンが往復動可能に配置されている。また、上記ピストンにはラック・ピニオン機構が組み付けられ、該ラック・ピニオン機構のピニオンには、回転軸が上記ハウジングを上下に貫挿するように回転一体に連結されている。さらに、この回転軸の上端にはアームの一端が連結され、該アームの他端には戸口の上縁に固定されたレール上をスライドするスライダーが枢結されている。
【0003】
そして、防火戸を手動で開くと、その回転動作が上記アームを介して回転軸に伝達され、さらに上記ラック・ピニオン機構を介してピストンの直線運動に変換される。これにより、上記ピストンがハウジングの密閉空間を移動することでコイルスプリングを圧縮し、防火戸から手を離すと、この圧縮されたコイルスプリングの反発力により防火戸がゆっくりと自動的に閉まるようになっている。この防火戸の閉速度は、ピストンの移動に連動して流動する作動油の流量を速度調整弁で制御することで調整される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開平6−48704号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、こうした従来のコンシールドドアクローザにおいては、何らかの要因により防火戸の温度が高温になると、コンシールドドアクローザのハウジング内部の作動油の内圧が上がり、作動油が部品接合箇所や回転軸周り等から外部に溢れ出すおそれがある。そして、溢れ出した作動油が高温となった防火戸に付着すると、場合によっては発火するおそれがある。また、作動油の流量を制御するための速度調整弁は樹脂とされることもあり、樹脂製の速度調整弁が熱で溶解してしまい、当該箇所から吹き出した作動油が同様に高温となった防火戸に付着して発火するおそれもある。
【0006】
この発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、ハウジング内部の作動油が高温となった扉に付着することを防ぐことができるコンシールドドアクローザを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記課題を解決すべくなされたものであって、取付板2を介して扉3の内部に設置され作動油が充填される密閉空間を備えるハウジング5と、該ハウジング5を上下に貫挿する回転軸6と、該扉3の開閉に伴って該回転軸6を回転させるアーム7と、を有するコンシールドドアクローザ1において、該ハウジング5が高温となった際に該密閉空間から作動油を排出する為の作動油排出路6A、6B、6Cと、該作動油排出路6A、6B、6Cから該ハウジング5の外部に排出された作動油を貯留する収容タンク25とを有し、該作動油排出路6A、6B、6Cが樹脂製部材26によって閉鎖されていることを特徴とする。
【0008】
ここで、該作動油排出通路6A、6B、6Cは該回転軸6の内部に形成されていることが好ましい。
【0009】
また、該収容タンク25の上部には、該収容タンク25内の内部空間Sと外部とを連通する連通孔25Cが形成されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明のコンシールドドアクローザによれば、何らかの要因により扉の温度が高温となると作動油排出路を閉鎖している樹脂製部材が溶解して作動油がハウジング内部から収容タンク内に排出されるので、ハウジング内部の作動油が高温となった扉に付着することを原因とする発火を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本実施形態に係るコンシールドドアクローザの外観図である。
【
図2】本実施形態に係るコンシールドドアクローザの内部構造図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について図面に基づいて説明する。
図1は本実施形態に係るコンシールドドアクローザの外観図、
図2は本実施形態に係るコンシールドドアクローザの内部構造図、
図3は
図2の要部拡大図である。
【0013】
図1に示すように、コンシールドドアクローザ1は、取付板2を介して扉3の内部に取り付けられるドアクローザ本体4を備えている。ドアクローザ本体4は、ハウジング5と、ハウジング5に軸支されて上下方向の軸線まわりに回転する回転軸6とを備えている。該回転軸6の上端6a(
図2参照)にはアーム7の基端部が軸27により相対回転不能に取付けられている。扉枠8の上縁には水平方向に延びるレール9が取付けられ、該レール9内にはアーム7の先端部に枢結された図示せぬ樹脂製のスライダーが配設されている。扉3が回動すると、その開閉動作に応じてアーム7と回転軸とが一体となって回転し、スライダーがレール9に案内されつつ水平方向にスライドする。
【0014】
図2に示すように、ハウジング5の両端部はプラグ10、11によって閉塞されており、ハウジング5の内部は密閉空間となっている。ハウジング5の内部には作動油(図示せず)が充填されている。ハウジング5の内部には、ピストン12がピストン付勢手段としての大小二つのコイルスプリング13、14のバネ力により
図2中左方向に付勢された状態で往復動可能に配置されている。大径のコイルスプリング13と小径のコイルスプリング14は互いに同軸上に配置されている。即ち、大径のコイルスプリング13の内側に小径のコイルスプリング14が挿入されている。ピストン12は、ハウジング5の内部を第1室5aと第2室5bとに区分けするとともに、コイルスプリング13、14の一方の端部を支持するようになっている。なお、第1室5aとは、ハウジング5の内部におけるピストン12とプラグ11との間のスペースであり、第2室5bとは、ピストン12とプラグ10との間のスペースである。
【0015】
上記ピストン12の内部には空洞部12aが形成されている。該空洞部12aはピストン12の一端に形成された第1通路15を介して第1室5aに連通しているとともに、ピストン12の他端に形成された第2通路16を介して第2室5bに連通している。第2通路16には逆止弁16Aが組み込まれている。該逆止弁16Aは、作動油が第1室5aから第2室5bに流入することを許容する一方で、作動油が第2室5bから第1室5aに流入することを阻止するようになっている。また、第1室5aと第2室5bとはハウジング5に形成された流量制御通路17を介して連絡しており、この流量制御通路17には作動油の流れる速度を調整する金属製の速度調整弁18が設けられている。そして、扉3が開く時(ピストン12が右側に移動する時)には、作動油が第1室5aから第2室5bへ第1通路15、空洞部12a及び第2通路16を通って移動し、扉3が閉まる時(ピストン12が左側に移動する時)には、作動油が第2室5bから第1室5aへ流量制御通路17を通って移動するようになっている。
【0016】
図3に示すように、上記ピストン12の空洞部12aには、ラック・ピニオン機構19が組み込まれている。該ラック・ピニオン機構19は、空洞部12aの内壁に形成されたラック20と、該ラック20に噛合するピニオン21とで構成されている。該ピニオン21には、回転軸6が上記ハウジング5を上下に貫挿するように回転一体に連結されている。詳細には、ピニオン21は回転軸6の中央部分に一体に形成されている。22は上記回転軸6の上端6a側及び下端6b側の外周に配置されたベアリング、23は回転軸6の軸芯方向でベアリング22の外側に配置されたOリング、24はこれらベアリング22及びOリング23を内包し、回転軸6の下端6bに貫挿されるブッシュ、25は作動油を貯留する為の収容タンクである。
【0017】
回転軸6はその軸線方向に延びる貫通孔を備えている。詳細には、回転軸6は、その上端6a側と下端6b側とに夫々形成されたネジ孔6A、6Aと、この2つのネジ孔6A、6Aを連通する連通孔6Bとにより構成される貫通孔を備えている。上端6a側のネジ孔6Aには軸27のネジ部が螺合され、回転軸6の上端6aにアーム7の基端部が連結される。回転軸6の中央部分の上記ピニオン21が形成されている箇所には、ネジ孔6Cが回転軸6の軸線と直交して延びるように形成されおり、ピストン12の空洞部12aと回転軸6の連通孔6Bとを連通している。該ネジ孔6Cには接着剤を塗布したりすることでシール性を持たせた状態の樹脂製ネジ26がねじ込まれており、ハウジング5内の作動油がネジ孔6Cを介して流出しないようにネジ孔6Cを閉鎖している。樹脂製ネジ26は、何らかの要因によりハウジング5の温度が120〜200℃になった場合には溶解して作動油の圧力により連通孔6B内に押し出されるようになっている。樹脂製ネジ26がネジ孔6Cから押し出されると、ハウジング5内の作動油はネジ孔6C、連通孔6B及び下側のネジ孔6Aを介して回転軸6の下端6bから排出されるようになっている。樹脂製ネジ26は本発明の樹脂製部材に相当し、ネジ孔6C、連通孔6B及び下側のネジ孔6Aは本発明の作動油排出路に相当する。
【0018】
作動油を貯留する金属製の収容タンク25は、ハウジング5と同様に扉3の内部に配置されている。収容タンク25は、上下方向に長い円筒形状の本体部25Aと、本体部25Aの下側開口を閉塞するプラグ25Bとにより構成されている。本体部25Aの上側開口の内周に形成されたネジ部がブッシュ24の外周に形成されたネジ部に螺合されることにより、収容タンク25はドアクローザ本体4に固定されている。収容タンク25は、回転軸6の下端6bを収容しており、回転軸6の下側のネジ孔6Aから作動油が排出された場合、収容タンク25はその内部空間Sに作動油を貯留するようになっている。収容タンク25の上部には内部空間Sと外部(大気)とを連通する連通孔25Cが形成されている。
【0019】
図1に示すように、ドアクローザ本体4を扉3の内部に取り付ける取付板2の上面と、扉3の上縁の切欠部3aにおける取付板2より扉先側の部分には熱膨張耐火シート28が貼り付けられている。熱膨張耐火シート28は常時は1.8mm程度の厚さの柔軟で薄いシートであるが、所定の温度以上になると膨張して瞬時に断熱層を形成する。取付板2の上面に熱膨張耐火シート28を貼り付けておくことにより、扉3の内部において作動油を起因とする発火が仮に生じたとしても火が扉3の外部に広がることを断熱層により防ぐことができる。また、上記レール9に案内されてスライドするスライダーは樹脂製であるので発火する恐れがあるが、扉3の上縁の切欠部3aにおける取付板2より扉先側の部分に熱膨張耐火シート28を貼り付けておけば、断熱層でスライダーを包み込んでスライダーが発火することを防止することができる。
【0020】
次に、本実施形態のコンシールドドアクローザ1の動作について説明する。扉3を開操作すると、その回転動作がアーム7を介して回転軸6に伝達されて該回転軸6が回転する。これにより、ピニオン21が回転し、ピストン12がラック・ピニオン機構19を介してコイルスプリング13、14のバネ力に抗してコイルスプリング13、14を圧縮しながらハウジング5の密閉空間4で右方向に直線移動する。これにより、第1室5aの作動油が第1通路15、空洞部12a及び第2通路16を経て逆止弁16Aを動かして第2室5bに流入する。そして、扉3が閉方向に移動する力を蓄積しながら開かれる。
【0021】
扉3から手を離すと、上記圧縮されたコイルスプリング13、14がその反発力により伸長し、ピストン12がハウジング5の密閉空間で左方向に直線移動する。この際、逆止弁16Aにより第2室5bの作動油は第1室5aに流入せず、流量制御通路17及び速度調整弁18を経て第1室5aに流入する。これにより、ピニオン21が回転し、この回転力がアーム7に伝達されて扉3がゆっくりと自動的に閉まる。
【0022】
本実施形態のコンシールドドアクローザ1においては、ハウジング5の密閉空間と収容タンク25の内部空間Sを連通する作動油排出路を回転軸6の内部に形成し、作動油排出路を構成するネジ孔6Cを速度調整弁18よりも融点が低い樹脂製ネジ26により閉鎖している。したがって、何らかの理由により扉3の温度が高温となったとしても、作動油がプラグ10、11や回転軸6の周りから漏れ出たり、速度調整弁18の箇所から作動油が吹き出したりする前のハウジング5が120〜200℃になったタイミングにおいて、ハウジング5の密閉空間の作動油をネジ孔6C、6B及び下側のネジ孔6Aを介して収容タンク25の内部空間Sに排出することができる。
【0023】
また、本実施形態のコンシールドドアクローザ1においては、プラグ10、11等と比べて作動油の内圧の影響を受けにくい回転軸6の内部に作動油排出路を閉鎖する為の樹脂製ネジ26が配置されているので、通常の使用時に作動油の内圧が急増して作動油が樹脂製ネジ26の箇所から漏れることがない。
【0024】
また、本実施形態のコンシールドドアクローザ1においては、収容タンク25の上部には内部空間Sと外部(大気)とを連通する連通孔25Cが形成されているので、収容タンク25の内部空間Sへの作動油の排出により一旦降下したハウジング5の密閉空間の内圧が再び上昇することを防止することができる。
【0025】
本発明のコンシールドドアクローザ1は、上述した実施形態に限定されず、特許請求の範囲に記載した範囲で種々の変形や改良が可能である。例えば、上述した実施形態において速度調整弁18は金属製とされていたが、樹脂製部材としての樹脂製ネジ26よりも融点が十分に高いことを条件に速度調整弁18は樹脂製であってもよい。
【0026】
また、上述した実施形態においては、回転軸6に形成されたネジ孔6Cに樹脂製ネジ26がねじ込まれていたが、ネジ孔6Cをネジが形成されない孔とし、樹脂製ボールや樹脂製ピンを圧入することにより作動油排出路を閉鎖するようにしてもよい。
【0027】
また、上述した実施形態においては、回転軸6に形成されたネジ孔6Cに樹脂製ネジ26がねじ込まれていたが、ネジ孔6Cをネジが形成されない孔とし、ネジ孔6Aに樹脂製ネジをねじ込むことにより作動油排出路を閉鎖するようにしてもよい。
【0028】
また、上述した実施形態においては、作動油排出通路が回転軸6の内部に形成されていたが、ハウジング5又はプラグ10、11に作動油排出路を形成し、樹脂製部材が溶解した場合にその作動油排出路からドアクローザ本体4に取り付けた収容タンクの内部空間に作動油が排出されるようにしてもよい。
【0029】
また、上述した実施形態においては、収容タンク25の内部空間Sには何も充填されていなかったが、内部空間Sの一部を砂又は消火剤で充填しておいてもよい。砂又は消化剤を充填しておけば、収容タンク内に排出された作動油が収容タンク内で発火することを防止することができる。
【符号の説明】
【0030】
1 コンシールドドアクローザ
2 取付板
3 扉
4 ドアクローザ本体
5 ハウジング
5a 第1室
5b 第2室
6 回転軸
6A ネジ孔(作動油排出路)
6B 連通孔(作動油排出路)
6C ネジ孔(作動油排出路)
6a 上端
6b 下端
7 アーム
8 扉枠
9 レール
10 プラグ
11 プラグ
12 ピストン
12a 空洞部
13 コイルスプリング
14 コイルスプリング
15 第1通路
16 第2通路
16A 逆止弁
17 流量制御通路
18 速度調整弁
19 ラック・ピニオン機構
20 ラック
21 ピニオン
22 ベアリング
23 Oリング
24 ブッシュ
25 収容タンク
25A 本体部
25B プラグ
25C 連通孔
26 樹脂製ネジ(樹脂製部材)
27 軸
28 熱膨張耐火シート