(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
燃料集合体は、その健全性確認のためにシッピング検査(非特許文献1)、外観検査(非特許文献1)、酸化膜厚さ測定(特許文献1)などの検査が行われている。
【0003】
シッピング検査とは、燃料ペレットと呼ばれる核燃料物質を収納した燃料被覆管の破損や、被覆管内部の放射性物質が外部に漏えいしていないかどうかを判定する検査である。この検査は、燃料プール又は燃料検査ピットと呼ばれる専用設備に備え付けられた検査容器に燃料集合体を1体ずつ入れ、その容器内に窒素ガスを送り込みガス中と水中とでの放射能の測定を行うものである。
【0004】
この検査によって放射性物質の漏洩状態から燃料被覆管の貫通破損の有無を特定することができる。この燃料被覆管の貫通破損前の異常を検知することが、外観検査や酸化膜厚さの測定などとなる。外観検査では、水中カメラを用いて燃料被覆管などに外観上の異常がないことを判定し、酸化膜厚さの測定では渦電流が発生するプローブ用いて異常な酸化膜形成の有無を判定するものである。
【0005】
沸騰水型軽水炉(以下、BWRと称す)用燃料集合体で燃料被覆管の外観検査や酸化膜厚さの測定を行う場合は、燃料集合体にチャンネルボックスと呼ばれる冷却材の流路を形成する四角い筒状の覆いが取付けられている。そのため、燃料プールに設置されたチャンネル着脱機を用いてチャンネルボックスを取外し、検査が行われる。
【0006】
この様に、燃料集合体の健全性は燃料プール又は燃料検査ピットに設置された専用設備を用いた検査により確認されている。
【発明を実施するための形態】
【0018】
ところで、上述したように燃料集合体は、その健全性を確認するための検査が必要であるが、従来は検査のたびに燃料集合体を抜き出して検査を行っていたため、時間とコストの面で問題があった。そのため、現場では燃料集合体を保管する燃料貯蔵ラック(キャスクともいう)等に保管したまま検査を行いたいとの要求が強い。ところが燃料貯蔵ラック内に収納のまま検査を行うには燃料集合体と検査装置との位置関係が正確であることが極めて重要である。
【0019】
そこで、本発明の発明者らは燃料集合体を構成する上部タイプレートが正確な垂直部と水平部を備えていることから、この垂直部と水平部を利用して正確な位置決めを行うことができる治具を考えたものである。
【0020】
なお、上部タイプレートは燃料集合体の移動時にグラップルで掴むハンドルと燃料棒を支持するプレートで構成されている。プレートには燃料棒を支える支持孔と冷却水の流路となる通水孔が施され、プレートの鉛直方向にハンドルが取付けられている。まだ、一部の燃料棒上部にはねじ付きの端栓が接合されており、燃料棒とハンドルがナットで固定されている。そのため、上部タイプレートの基準となりうるハンドル、通水孔などで治具の位置決めを行うことで、燃料棒、端栓、ナットなどの検査対象となりうる燃料集合体構成部品の位置を、治具を基準とした3次元座標で定義付けできる。
【0021】
以下、本発明の一実施例を図にしたがって説明する。
【実施例1】
【0022】
図1は本発明に係る燃料集合体の側面図である。
【0023】
図1において、BWR用の燃料集合体1は、上部タイプレート2を備えている。燃料棒3は上部タイプレート2に複数設けられた支持孔2d(
図2に示す)に先端が挿入されて支持されている。ウォーターロット4は燃料集合体1の中心部に位置しているものである。スペーサ5は複数の燃料棒3の中心部を拘束するものである。燃料棒3の下部は下部タイプレート6で支持されている。燃料集合体1の中心部にはチャンネルボックス7と呼ばれる冷却材の流路を形成する四角い筒状の覆いが取付けられている。
【0024】
燃料棒3の上部となる燃料棒端栓3aは上部タイプレート2の支持孔2dに挿入され、ナット3bによって強固に固定されている。
【0025】
図2Aは本発明に係る燃料集合体の上部タイプレートの構成図である。
【0026】
図2Bは
図2AをA方向から見た構成図である。
【0027】
図2A、
図2Bにおいて、上部タイプレート2は上部にハンドル2aを備えている。このハンドル2aと一体にプレート2bが設けられている。このプレート2bにはチャンネルボックス7の内側に冷却水を流すための通水孔2cと燃料棒3を支持するための支持孔2dが多数施工されている。
【0028】
BWRの燃料集合体については、チャンネルボックス7を取り外し、外観検査、酸化膜厚さ測定などの検査が行われている。しかし、海水浸水、大規模地震、瓦礫落下など、特殊環境に曝された燃料集合体では、通常使用時では生じない損傷が起こる可能性があるため、想定される損傷を踏まえた検査方法を選定して検査を行うことになる。
【0029】
例えば、瓦礫などの重量物落下を経験した燃料集合体1では、上部タイプレート2のハンドル部2aの変形や燃料棒端栓3aの破損などの可能性がある。そのため、ハンドル部2aの外観検査や燃料棒端栓3aの超音波探傷試験などが検査の候補となる。また、海水浸水を経験した燃料集合体では、ナット3bなどのステンレス鋼製隙間構造部材に孔食が発生している可能性があり、ナット3bの超音波探傷試験が検査の候補となる。
【0030】
ハンドル部2aの外観検査では、上部タイプレート2のプレート2bから見えたハンドル部2aの見え方からハンドル部2aの変形状態を確認できる。そのため、基準となる通水孔2cなどで治具(
図3〜
図10で説明する)の位置決めを行うことを前提に、ハンドル部2aの変形状態の確認に適した向きに水中カメラを治具に取付けるとよい。
【0031】
また、燃料棒端栓3aやナット3bに超音波探傷試験を行う場合は、超音波を送受信するセンサ(以下、探触子と称す)を燃料棒端栓3aやナット3bの所定の位置に設置する必要がある。そのため、基準となる通水孔2cなどで後述する治具の位置決めを行うことを前提に、治具が燃料集合体に取付けられた状態で燃料棒端栓2bやナット2cの所定の位置に探触子が設置するように探触子を治具に取付けるとよい。
【0032】
本発明による通水孔2cを利用して位置決めを行う治具について実施例1〜実施例3を図に従って順に説明する。
【0033】
図3は本発明の実施例1に係る治具の位置決めを行っている燃料集合体の一部斜視図である。
【0034】
図3において、本実施例は位置決めの基準となる2個の通水孔2cを利用して位置決めを行う治具で構成したものである。
【0035】
すなわち、治具10を構成する支持棒10aの先端にはピン10bが取り付けられている。このピン10bと支持棒10aとの間にはパッド10cが取り付けられている。
【0036】
つまり、治具10を下降させるとピン10bが通水孔2cに差し込まれることで治具10のx座標、y座標が決定される。さらに治具10を下降させるとパッド10cがプレート2bの上面に当接することで治具10のz座標が決定される。
【0037】
このように本実施例によれば燃料集合体1自身が持つ上部タイプレート2の垂直部と水平部を利用して治具10の位置決めを行うことができるため、検査に必要な高い位置決め精度を得ることができる。
【実施例2】
【0038】
図4は本発明の実施例2に係る治具の位置決めを行っている燃料集合体の一部斜視図である。
【0039】
図4において、本実施例は実施例1のパッド10bの接触面積を大きくしたものである。
【0040】
すなわち、治具10を構成する支持棒10aの先端にはピン10bが取り付けられている。このピン10bと支持棒10aとの間にはパッド10dが取り付けられている。本実施例のパッド10dは実施例1のパッド10cよりも接触面積を大きくしている。その面積は通水孔3個以上を目安にするとよい。
【0041】
つまり、治具10を下降させるとピン10bが通水孔2cに差し込まれることで治具10のx座標、y座標が決定される。さらに治具10を下降させるとパッド10dがプレート2bの上面に当接することで治具10のz座標が決定される。
【0042】
このように本実施例によれば、上部タイプレート2のプレート2bの上面に対するパッド10cの接触面積が大きくなるため、2個の通水孔2cを支点として治具10そのものが回転(揺れ)することを抑えることができる。したがって、治具の安定性が高くなり、高い位置決め精度が要求される検査等の治具に適用できる。
【実施例3】
【0043】
図5は本発明の実施例3に係る治具の位置決めを行っている燃料集合体の一部斜視図である。
【0044】
図5において、本実施例は4個の通水孔2cを利用して位置決めを行う治具である。
【0045】
すなわち、本実施例は実施例1と同様に、4個のピン10bを4個の通水孔2cに差し込むことで治具のx座標、y座標が決定され、パッド10eがプレート2bの上面に設置することで治具のz座標が決定される。
【0046】
本実施例では4個のピン10aを使って4個の通水孔2cで位置決めを行うため、通水孔2cを支点とする回転を抑制でき治具10を自立させることができる。そのため、高い位置決め精度が要求される検査等の治具に適用できる。
【0047】
なお、実施例1、実施例2及び実施例3は治具10の位置決めにハンドル2aを利用しないため、ハンドル2aが変形している場合や変形の恐れがある場合に通水孔2cを適用するとよい。
【実施例4】
【0048】
図6は本発明の実施例4に係る治具の位置決めを行っている燃料集合体の一部斜視図である。
【0049】
図6において、本実施例は実施例1〜3と異なり、治具10はピンを用いていない。
【0050】
つまり、治具10の先端に位置決め基準ホルダ20を取り付けたものである。この位置決め基準ホルダ20にはハンドル2aの投影面と同等の開口20aが設けられている。この開口20aにはハンドル2aの垂直部2eと対面する垂直面20bと、ハンドル2aの水平部2fと対面する水平面20cを有する。
【0051】
すなわち、治具10を下降させると位置決め基準ホルダ10の開口20a内にハンドル2aが入り込む。このとき、位置決め基準ホルダ20の垂直面20bとハンドル2aの垂直部2eの面とが接触することで治具10のx座標、y座標が決定される。また、位置決め基準ホルダ20の水平面20cとハンドル2aの水平部2fとが接触することで治具のz座標が決定される。
【実施例5】
【0052】
本発明によるハンドル部2aとプレート2bを利用して位置決めを行う治具の実施例5を
図7を使って説明する。
【0053】
図7は本発明の実施例5に係る治具の位置決めを行っている燃料集合体の一部斜視図である。
【0054】
図7において、本実施例は実施例1と実施例4を組み合わせた構成となっている。つまり、治具10の先端にパッド30bを取り付けたパッド支持棒30aが2本取り付けられている。このパッド30bから所定の距離の支持棒30aの途中にハンドル2aの貫通スリット30cを設けた位置決め基準ホルダ30が取り付けられている。
【0055】
すなわち、治具10が下降すると、貫通スリット30cの内面にプレート2bと鉛直なハンドル2aの垂直部2eと接触することで治具のx座標、y座標が決定される。このように、本実施例による治具10は、貫通スリット30cとパッド30bを利用して位置決めを行うものである。一方、パッド30bがプレート2bの上面に接触することで治具のz座標が決定される。
【実施例6】
【0056】
図8は本発明の実施例6に係る治具の位置決めを行っている燃料集合体の一部斜視図である。
【0057】
図8において、本実施例は実施例5を改良したものであり、垂直面40bと水平面40cを有する構成となっている。つまり、金属板をL字状に折り曲げて垂直面40bと水平面40cを形成した位置決め基準ホルダ40を治具10の先端に取り付けている。また、この位置決め基準ホルダ40には先端にピン40aを取り付けたピン支持棒40dが取り付けられている。
【0058】
すなわち、本実施例による治具10は、ピン40a、垂直面40b及び水平面40cを利用し位置決めを行うものである。つまり、ピン40aを通水孔40dに挿入し、垂直面40bがプレート1bと鉛直なハンドル2aの垂直部2eと接触することで治具のx座標、y座標が決定される。また、水平面40cがプレート1bと鉛直なハンドル2aの水平部2fと接触することで治具のz座標が決定される。
【0059】
なお、上記の実施例では、上部タイプレート2だけで治具10の位置決めを行った例を紹介したが、燃料集合体1にチャンネルボックス6が取付けられている場合はプレート2bの上面やそれに平行なハンドル2aの水平部2fの代わりにチャンネルボックス6の上端面を利用することで、治具10のz座標を決定することもできる。更に、通水孔2cの代わりに燃料棒支持孔2dを利用し、x座標、y座標を決定することもできる。
【実施例7】
【0060】
本発明による実施例3の治具を使った検査への実施例7について
図9を使って説明する。
【0061】
図9は本発明の実施例7に係る治具の位置決めを行っている燃料集合体の一部斜視図である。
【0062】
図9において、本実施例は
図5を用いて説明した実施例3の治具に小型カメラを挿入することができるガイド50を取り付け、このガイド50を介して通水孔2c内の撮影ができるようにしたものである。
【0063】
すなわち、本実施例は実施例3と同様に、ピン10bを通水孔2cに差し込むことで治具のx座標、y座標が決定され、パッド10eがプレート2bの上面に接触することで治具のz座標が決定される。
【0064】
本実施例では4個のピン10aを使って4個の通水孔2cで位置決めを行うため、通水孔2cを支点とする回転を抑制でき治具10を自立させることができる。そのため、高い位置決め精度が要求される検査等の治具に適用できる。
【0065】
一方、ガイド50を通水孔50aに差込むとともに、治具10の下降によってピン10bが通水孔2cに挿入されることによってガイド50を上部タイプレート2に取付けることができる。
【0066】
このように本実施例によれば、治具10のピン10bを通水孔2cに挿入した状態でガイド50の中にファイバースコープなどの小型カメラを挿入することできるので、通水孔50aから内部を容易に撮影することが可能となる。
【実施例8】
【0067】
本発明による実施例3の治具を使った検査への実施例8について
図10を使って説明する。
【0068】
図10は本発明の実施例8に係る治具の位置決めを行っている燃料集合体の一部斜視図である。
【0069】
図10において、本実施例は
図5を用いて説明した実施例3の治具に超音波センサ60を取り付けて燃料棒端栓の超音波探傷試験ができるようにしたものである。
【0070】
すなわち、本実施例は実施例3と同様に、ピン10bを通水孔2cに差し込むことで治具のx座標、y座標が決定され、パッド10eがプレート2bの上面に接触することで治具10のz座標が決定される。
【0071】
本実施例では4個のピン10aを使って4個の通水孔2cで位置決めを行うため、通水孔2cを支点とする回転を抑制でき治具10を自立させることができる。そのため、高い位置決め精度が要求される検査等の治具に適用できる。
【0072】
一方、超音波センサ60は治具10に吊り下げられた状態で固定されている。この状態で治具10を下降させると、ピン10bが通水孔2cに挿入されるので治具10を上部タイプレート2に取付けることができる。治具10を上部タイプレート2に取付けた状態で所定の燃料棒端栓60aの上面に接触するように超音波センサ60が取り付けられているので、燃料棒端栓60aの超音波探傷試験を行うことが可能となる。
【0073】
次に、燃料集合体用検査治具及びその位置決め方法を纏めると以下の通りとなる。
1.位置決め治具を燃料集合体の上部にセットする。
2.位置決め治具を下降させてピンを所定の通水孔に挿入する。
3.通水孔に挿入されたピンによってx座標、y座標を決定する。
4.位置決め治具をさらに下降させてz座標を決定する。
5.x座標、y座標、z座標が確定したら位置決め治具に備えた超音波センサ等による燃料集合体の健全性確認開始。
【0074】
以上のごとく本発明によれば、検査の目的、対象、方法などに応じて、燃料集合体の位置の基準となる適切な位置に治具を取付け、治具を取付けた状態でセンサ等が検査対象の所定位置に設置できるようにしておくことで様々な検査に対応可能となる。
【0075】
また、燃料棒、端栓、ナットなどの燃料集合体構成部品の位置を3次元座標で定義付けできるため、治具に小型カメラを通水孔から挿入するためのガイドを搭載することでガイドからファイバースコープなどの小型カメラを燃料棒に沿って挿入できるため燃料棒の外観検査が可能となる。さらに、治具に燃料棒端栓上面に設置するような超音波センサを搭載することで燃料棒端栓の超音波検査が可能となるなど、燃料集合体の検査方法の選択視が広がる。
【0076】
その結果、特殊環境に曝された燃料集合体の健全性を検査で保証でき、原発事故で原子力発電所の安全性に不安をもつ公衆に安心感を与えるとともに、原子力発電所の信頼性回復に貢献できる。
【0077】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されたものではない。またある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、またある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。