【実施例】
【0031】
電気分解触媒の電気分解活性の決定
電気分解セルにおいて特定の電流密度にて確立されたセル電圧は、種々の要因に依存する(Hamann、Vielstich、2005年、「Elektrochemie」、第157頁以降、Wiley−VCH)。
【0032】
電気分解セルにおいて進行する反応のために、まず、電圧を適用する必要がある。分解電圧は、酸化還元電位における差から理論的に決定することができる。これは、Nernstの式より得られる。しかしながら、電気分解を行う場合には、Nernstの式から計算された電圧より高い電圧を適用する必要がある。
【0033】
電極、電解質溶液および膜におけるオーム抵抗は、オーム電圧降下を生じさせる。更に、電気分解セルへ適用する電圧、すなわち、電極の電位Eは、平衡電位E
0と異なる。
【0034】
【数1】
【0035】
方程式(1)は、過電圧ηを定義する。これは、例えば電極反応の動力学的限界により生じる。
【0036】
酸化還元電極の過電圧は、3つの成分:透過過電圧η
D、反応過電圧η
rおよび拡散過電圧η
dから構成される。反応過電圧および拡散過電圧は、反応物の濃度に依存する。従って、これらは濃度過電圧として組み込むことができる。反応過電圧η
rは、化学副反応が制限されるときに生じる。これは、例えば遅い吸着または脱離により起こり得る。電極表面へまたは電極表面からの物質移動は、拡散過電圧η
dを生じさせる。
【0037】
電気分解2重層は、電極および電解質の間での相境界において形成される。アノード空間における電気分解の場合には、これは、電極表面における正電荷の層および電解質溶液における(反対にカソード空間における)負の電荷の層から構成される。従って、電位差は、電極および電解質溶液の間で生じる。電荷担体は、1つの相から他の相へ電気分解2重層を通過する。ここでは、電位依存活性エネルギーを超える必要がある。電位依存活性エネルギーが高い場合には、透過反応は、著しく抑制され、透過反応率は小さい。これは、電気触媒の低活性と同じであってよい。
【0038】
この透過反応を説明するために、Butler−Volmer式としても知られている電流−電圧曲線を用いる。
【0039】
酸化還元電極の表面において、電極は、金属に取り込まれ、および放出される。これにより、アノード部分電流密度i
D+およびカソード部分電流密度i
D−が生じる。従って2重層を通過する全電流密度は、
【0040】
【数2】
により与えられる。
【0041】
Butler−Volmer式は、活性化エネルギーについての電位の依存性から誘導することができる。この式は、カソードおよびアノード透過過電圧についての全電流密度の依存性を記載する。
【0042】
【数3】
〔式中:
i
D=電流密度[A/m2]、i
0=交換電流密度[A/m2]、α=透過因子、z=イオン価、R=気体定数[J/Kmol]、η
D=透過過電圧[V]、F=ファラデー定数[C/モル]およびT=温度[K]〕。
【0043】
従って、増加(より正のおよびより負の)過電圧での電流密度において指数関数的増加が存在する。
【0044】
Butler−Volmer式は、各逆反応を無視することにより大きい過電圧(電気分解に存在するような)の限定的場合のために簡易化することができる。以下の変換は、カソード電流についてのみここで行われ、アノード電流へ類似的に適用する。
【0045】
【数4】
【0046】
対数を取り、再配置して、
【0047】
【数5】
において、ηを与える。
【0048】
この式は、半対数形態で表すこともできる。
【0049】
【数6】
【0050】
方程式(6)は、Tafel直線であり、式中、Bは、Tafel勾配である。
【0051】
相対的に高い電流密度の領域において、透過過電圧は律速因子ではないが、代わりに吸着反応が透過反応上で重なる場合に、連続的反応機構を記載するButler−Volmer式の以下の適合を用いることができる。
【0052】
【数7】
〔式中、
i
D=電流密度[A/m2]、i
0=交換電流密度[A/m2]、α=透過因子、R=気体定数[J/Kmol]、η=透過過電圧[V]、F=ファラデー定数[C/モル]およびT=温度[K]〕
【0053】
Tafel勾配、従って触媒の活性を決定するために、定電流スイッチオフ測定を行った。ここで決定したカソード電位を、Tafelプロット、すなわちカソード電位に対する電流密度のプロットにおいて、NHEに対してプロットする場合、Tafel勾配は、これによって決定することができる。
【0054】
Butler−Volmer式(式7)の上記変法を用いて、表1に示されるTafel勾配IおよびIIを、Tafelプロットにおける個々の電極の測定データへExcelのソルバー関数を用いて適合させた。ここで、Tafel勾配は、電流密度のV/decadeにより報告する。
【0055】
Tafel勾配Iは、相対的に低い電流密度の領域におけるTafelプロットの線形領域を記載し、Tafel勾配IIは、相対的に高い電流密度の領域におけるTafelプロットの線形領域を記載する。
【0056】
低電流スイッチオフ測定(測定法)
カソード電位対NHEを決定するために、水酸化ナトリウム溶液を、カソードにおける酸素の還元を行うために電気分解セルにおいて電気分解した。3つの電極配置を有し、OCEがセルをガス空間および電解質空間へ分離する電気分解セルを用いた。白金シートは、アノードとして働いた。電気分解面積は、3.14cm
2であった。2個のGaskatelからのhydroflex(登録商標)電極を参考電極として用い、Haber−Luggin毛細管より電解液空間へ接続した。実験は、80℃の温度、32重量%の水酸化ナトリウム濃度および100体積%の酸素濃度にて行った。測定は、スイッチオフから1秒後に開始した。
【0057】
電極を比較するために更なる尺度として、オーム抵抗を決定した。これは、IRスイッチオフ前後のカソード電位間の差からmVm
2/kAにおけるIRドロップの形態で決定することができる。IRドロップが高くなれば、電極のオーム抵抗は高くなる。
【0058】
触媒粉末を製造するための方法
触媒粉末を、以下の方法により製造した:
【0059】
銀粉末(FerroからのAg311)を、水中で80℃の温度にて、ドデシル硫酸ナトリウムの添加により鋸刃状円盤を有するDisparmat中で銀が完全に脱凝集化するまで撹拌した。銀の完全な凝集後、熱的に液化したガリウムを添加した。該混合物を、2時間80℃にて鋸刃状円盤を有するDisparmat中で激しく混合し、次いで室温へ撹拌しながらゆっくり冷却した。生成物を、ろ過し、激しく洗浄し、乾燥し、同時に80℃にて16時間熱処理した。次いで、混合物を、63μm鋼製ふるいよりふるい分けした。
【0060】
記載の製造方法は、レーザー光散乱により粒度分布の分析により誘導した物理データ、BET法による比表面積および走査型電子顕微鏡による粒子形状が銀粒子についての標準値に対応する粉末をもたらす(Ag311、Ferro)。
【0061】
電極の製造
上記方法により製造した触媒粉末を含有する電極のために、乾燥法および噴霧法による2つの異なったOCEの製造方法を選択した。
【0062】
乾燥法(方法の説明)
OCEを以下のように製造した:7重量%のPTFE粉末、88重量%の酸化銀(I)および5重量%の上記方法により製造した触媒粉末からなる3.5kgの粉末混合物を、IKAミル中で15000rpmの回転速度にて、粉末混合物の温度が48℃を越えないように混合した。これは、混合操作を中断し、粉末混合物を冷却することにより行った。混合は、15秒の混合時間にて合計4回行った。混合後、粉末混合物を、1.0mmのメッシュ開口を有するふるいよりふるい分けした。次いでふるい分けした粉末混合物を、導電性担体要素へ適用した。担体要素は、0.14mmのワイヤー厚みおよび0.5mmのメッシュ開口を有するニッケルガーゼであった。適用は、2mm厚テンプレートを用いて行い、粉末を、1.0mmのメッシュ開口を有するふるいを用いて適用した。テンプレートの厚みを越えて突出した過剰の粉末は、スクレーパーを用いて取り除いた。テンプレートを取り除いた後、適用した粉末混合物を有する担体を、ローラープレスにより0.57kN/cmの押圧にてプレスした。ガス拡散電極を、ローラープレスから取り出した。
【0063】
こうして製造されたOCEを、測定セル中で測定する前に電気化学的に還元した。
【0064】
噴霧法(方法の説明)
上記方法により製造されたFerroからのガリウムドープト触媒または純粋銀触媒(AG311)、PTFE懸濁液(TF5035R、58重量%、Dyneon(商標))、非イオン性界面活性剤(Triton−X 100、Fluka Chemie AG)および増粘剤としてのヒドロキシエチルメチルセルロース(Walocel MKX 70000 PP 01、Wolff Cellulosics GmbH & Co. KG)からなる水性懸濁液を、種々の含有量の銀およびPTFEで製造した。97重量%の触媒含有量を有する懸濁液を、以下の通り、いずれの場合にも製造した。90gの銀粉末、53.7gの水および1.5gの界面活性剤を、150gの増粘性溶液(水中に1重量%のメチルセルロース)へ添加した。懸濁液を、回転子−固定子系(分散装置S25N−25Fを有するUltra−Turrax T25、IKA)において、13500分
−1にて5分間(溶液の過剰な温度上昇を避けるために各1分の分散の間に2分間停止した)分散した後、4.8gのPTFE懸濁液を、凝集を避けるために撹拌しながら徐々に添加した。
【0065】
次いでこうして製造された懸濁液を、ニッケルガーゼ(製造者:Haver&Boecker、106×118μmガーゼ、63μmワイヤー厚)上へ何回も噴霧した。充填は、触媒充填の50%を、中間に適用し、触媒充填の25%をいずれの場合にも電極側および電極の気体側へ適用した。噴霧する間、ニッケルガーゼを、100℃の温度にて維持した。触媒の170g/cm
2の所望の全充填が得られた後、電極を2個の金属プレート間で固定し、130℃の温度および0.14t/cm
2の圧力にて加熱プレスした。次いで電極を空気中で3K/分にて加熱し、340℃にて15分間焼結した。
【0066】
実施例1:銀を基準に5重量%のGaを含有し、および噴霧法により製造したOCE
上記噴霧法により銀およびガリウムの全重量を基準に5重量%のガリウムを用いて製造したOCEを、測定セル中で測定した。これは、57.7mV/decadeにおいて、標準銀触媒AG311を含有する電極より低いTafel勾配Iを示し(表1参照)、および−123.8mV/decadeにおいて、僅かに高いTafel勾配IIのみを示す。さらに、電極の触媒物質は、標準銀触媒より低いオーム抵抗を示す(表1参照)。
【0067】
【表1】
【0068】
実施例2:銀を基準に5重量%のGaを含有し、および噴霧法により製造されたOCE
上記乾燥法により銀およびガリウムの全重量を基準に5重量%のガリウムを用いて製造したOCEを、測定セル中で測定した。これは、56.3mV/decadeにおいて、標準銀触媒AG311を含有する電極より低いTafel勾配Iを示し(表1参照)、および−97.7mV/decadeにおいて、僅かに高いTafel勾配IIのみを示す。さらに、電極の触媒物質は同様に、標準銀触媒より低いオーム抵抗を示す(表1参照)。
【0069】
実施例3:(比較例):純粋銀含有OCE
上記噴霧法により標準銀触媒AG311を用いて製造したOCEを、測定セル中で測定した。これは、ガリウムドープト銀触媒より著しく高いTafel勾配I、噴霧法により製造したガリウムドープト銀触媒より著しく高いTafel勾配IIおよび本発明による電極の触媒物質の場合より高いオーム抵抗での表1に示す挙動を示す。