(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5932861
(24)【登録日】2016年5月13日
(45)【発行日】2016年6月8日
(54)【発明の名称】合金組成物、Fe基ナノ結晶合金薄帯、Fe基ナノ結晶合金粉末及び磁性部品
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20160526BHJP
C22C 45/02 20060101ALI20160526BHJP
C21D 6/00 20060101ALI20160526BHJP
B22F 1/00 20060101ALI20160526BHJP
H01F 1/153 20060101ALI20160526BHJP
H01F 1/22 20060101ALI20160526BHJP
H01F 27/24 20060101ALI20160526BHJP
H01F 27/255 20060101ALI20160526BHJP
【FI】
C22C38/00 303S
C22C45/02 A
C21D6/00 C
B22F1/00 Y
H01F1/14 C
H01F1/22
H01F27/24 C
H01F27/24 D
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-34482(P2014-34482)
(22)【出願日】2014年2月25日
(65)【公開番号】特開2015-157999(P2015-157999A)
(43)【公開日】2015年9月3日
【審査請求日】2014年12月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100117341
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 拓哉
(72)【発明者】
【氏名】牧野 彰宏
(72)【発明者】
【氏名】シャルマ パルマナンド
(72)【発明者】
【氏名】ツァン ヤン
(72)【発明者】
【氏名】西山 信行
(72)【発明者】
【氏名】竹中 佳生
【審査官】
佐藤 陽一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−012699(JP,A)
【文献】
特開2011−026706(JP,A)
【文献】
特開2008−231462(JP,A)
【文献】
中国特許出願公開第102925823(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00−38/60
C22C 45/00−45/10
C21D 6/00− 6/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成式Fe100−a−b−c−d−e−fCoaBbSicPdCueCfの合金組成物であり、3.5≦a≦4.5at%、8≦b≦11at%、0<c≦2at%、3≦d≦5at%、0.5≦e≦1.1at%、0≦f≦2at%の合金組成物からなるFe基ナノ結晶合金薄帯であって、厚さ25μm以上の連続薄帯形状と17nm以下の平均結晶粒径を有し、1.8T以上の飽和磁束密度と7A/m以下の保磁力を有するFe基ナノ結晶合金薄帯。
【請求項2】
組成式Fe100−a−b−c−d−e−fCoaBbSicPdCueCfの合金組成物であり、3.5≦a≦4.5at%、8≦b≦11at%、0<c≦2at%、3≦d≦5at%、0.5≦e≦1.1at%、0≦f≦2at%の合金組成物からなるFe基ナノ結晶合金粉末であって、粒径45μm以下の粉末形状と17nm以下の平均結晶粒径を有し、1.7T以上の飽和磁束密度と100A/m以下の保磁力を有するFe基ナノ結晶合金粉末。
【請求項3】
請求項1記載のFe基ナノ結晶合金薄帯又は請求項2記載のFe基ナノ結晶合金粉末を用いて構成された磁性部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トランスやインダクタ、モータの磁芯などの使用に好適であるFe基ナノ結晶合金に関する。
【背景技術】
【0002】
高い飽和磁束密度を有し且つ高い透磁率を有するFe基ナノ結晶合金については、例えば、特許文献1において提案されている。Fe基ナノ結晶合金は、主相としてアモルファス相を有する合金組成物を熱処理して得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−070852号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
厚い薄帯を安定的に得るためには、合金組成物のアモルファス形成能を高めることが要求される。また、合金生成物のアモルファス形成能が高いと、粒径が大きくても特性の良い粉末を形成することが可能となる。従って、その合金組成物から粉末を製造すると、特性の良い粉末の形成の歩留まりを向上させることができる。
【0005】
そこで、本発明は、高いアモルファス形成能を有する合金組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、第1の合金組成物として、
主相としてアモルファス相を有する組成式Fe
100−a−b−c−d−e−fCo
aB
bSi
cP
dCu
eC
fの合金組成物であって、3.5≦a≦4.5at%、8≦b≦11at%、0<c≦2at%、3≦d≦5at%、0.5≦e≦1.1at%、0≦f≦2at%である合金組成物を提供する。
【0007】
また、本発明は、第2の合金組成物として、第1の合金組成物であって、厚さ25μm以上の連続薄帯形状を有する合金組成物を提供する。
【0008】
また、本発明は、Fe基ナノ結晶合金薄帯として、第2の合金組成物を熱処理して得られるFe基ナノ結晶合金薄帯であって、
17nm以下の平均結晶粒径を有し、1.8T以上の飽和磁束密度と7A/m以下の保持力を有するFe基ナノ結晶合金薄帯を提供する。
【0009】
また、本発明は、第3の合金組成物として、第1の合金組成物であって、粒径45μm以下の粉末形状を有する合金組成物を提供する。
【0010】
また、本発明は、Fe基ナノ結晶合金粉末として、第3の合金組成物を熱処理して得られるFe基ナノ結晶合金粉末であって、
17nm以下の平均結晶粒径を有し、1.7T以上の飽和磁束密度と100A/m以下の保持力を有するFe基ナノ結晶合金粉末を提供する。
【0011】
更に、本発明は、上述したFe基ナノ結晶合金薄帯又はFe基ナノ結晶合金粉末を用いて構成された磁性部品を提供する。
【発明の効果】
【0012】
Coを3.5at%以上且つ4.5at%以下含むFeCoBSiPCu合金又はFeCoBSiPCuC合金は高いアモルファス形成能を有しており、且つ他の元素の組成比も適切に調整したことから優れた磁気特性をも有している。そのため、良好な磁気特性を有し且つ厚い薄帯形状を有する合金組成物を形成することもできる。また、当該合金組成物で粉末を形成した場合には、粒径の大きな粉末であっても良好な磁気特性を有することになるので歩留まりが向上する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施の形態による合金組成物は、Fe基ナノ結晶合金の出発原料として好適なものであり、組成式Fe
100−a−b−c−d−e−fCo
aB
bSi
cP
dCu
eC
fのものである。ここで、3.5≦a≦4.5at%、8≦b≦11at%、0<c≦2at%、3≦d≦5at%、0.5≦e≦1.1at%、0≦f≦2at%。即ち、Cを含まない場合には、組成式はFe
100−a−b−c−d−eCo
aB
bSi
cP
dCu
eであり、Cを0<f≦2at%含む場合には、組成式はFe
100−a−b−c−d−e−fCo
aB
bSi
cP
dCu
eC
fである。
【0014】
本実施の形態において、Co元素はアモルファス相形成を担う必須元素である。FeBSiPCu合金又はFeBSiPCuC合金に対してCo元素を一定量加えると、FeBSiPCu合金又はFeBSiPCuC合金のアモルファス相形成能が向上することから、例えば、厚みのある連続薄帯を安定して作製することができる。但し、Coの割合が3.5at%より少ないと、液体急冷条件下におけるアモルファス相の形成能が低下してしまい、熱処理後の結晶粒径が大きくなり保磁力の上昇を招いてしまう。Coの割合が4.5at%より多いと、飽和磁束密度が低下する。また、Coの割合が4.5at%より多いと、熱処理後の結晶粒径が大きくなってしまい保磁力の上昇を招いてしまう。従って、Coの割合は、3.5at%以上、4.5at%以下であることが望ましい。アモルファス相形成能を高めるためにCoの割合を3.5at%以上と多くした場合であっても、他の元素B,Si,P,Cuの値を下記のように調整することにより、良好な磁気特性を得ることができる。
【0015】
本実施の形態において、B元素はアモルファス相形成を担う必須元素である。Bの割合が8at%より少ないと、液体急冷条件下におけるアモルファス相の形成能が低下してしまい、熱処理後の結晶粒径が大きくなり保磁力の上昇を招いてしまう。Bの割合が11at%より多いと、液体急冷条件下におけるアモルファス相の形成能が低下してしまい、熱処理後の結晶粒径が大きくなり保磁力の上昇を招いてしまう。従って、Bの割合は、8at%以上、11at%以下であることが望ましい。
【0016】
本実施の形態において、Si元素はアモルファス形成を担う必須元素である。Siを含まないと、飽和磁束密度が低下してしまう。Siの割合が2at%を超えてしまうと、液体急冷条件下におけるアモルファス相の形成能が低下してしまい、熱処理後の結晶粒径が大きくなり保磁力の上昇を招いてしまう。従って、Siの割合は、2at%以下(0を含まない)であることが望ましい。
【0017】
本実施の形態において、P元素はアモルファス形成を担う必須元素である。Pの割合が3at%より少ないと、液体急冷条件下におけるアモルファス相の形成能が低下してしまい、熱処理後の結晶粒径が大きくなり保磁力の上昇を招いてしまう。Pの割合が5at%より多いと、液体急冷条件下におけるアモルファス相の形成能が低下してしまい、熱処理後の結晶粒径が大きくなり保磁力の上昇を招いてしまう。従って、Pの割合は、3at%以上、5at%以下であることが望ましい。
【0018】
本実施の形態において、Cu元素はアモルファス形成を担う必須元素である。Cuの割合が0.5at%より少ないと、液体急冷条件下におけるアモルファス相の形成能が低下してしまい、熱処理後の結晶粒径が大きくなり保磁力の上昇を招いてしまう。Cuの割合が1.1at%より多いと、液体急冷条件下におけるアモルファス相の形成能が低下してしまい、熱処理後の結晶粒径が大きくなり保磁力の上昇を招いてしまう。従って、Cuの割合は、0.5at%以上、1.1at%以下であることが望ましい。
【0019】
本実施の形態において、Fe元素は主元素であり、上記組成式において残部を占め且つ磁性を担う必須元素である。飽和磁束密度の向上及び原料価格の低減のため、Feの割合が多いことが基本的には好ましい。
【0020】
上述した組成式Fe
100−a−b−c−d−eCo
aB
bSi
cP
dCu
eを有する合金組成物に対してC元素を一定量加えて合金組成物の総材料コストを下げることとしてもよい。C元素を加えた場合、薄帯が厚くなっても飽和磁束密度や保磁力などの磁気特性が劣化し難い。但し、Cの割合が2at%を超えると、液体急冷条件下におけるアモルファス相の形成能が低下してしまい、熱処理後の結晶粒径が大きくなり保磁力の上昇を招いてしまう。従って、C元素を加えて合金組成物の組成式をFe
100−a−b−c−d−e−fCo
aB
bSi
cP
dCu
eC
fとする場合であっても、Cの割合は、2at%以下(0を含まない)であることが望ましい。
【0021】
本実施の形態における合金組成物は、様々な形状を有することができる。例えば、合金組成物は、連続薄帯形状を有していてもよいし、粉末形状を有していてよい。連続薄帯形状の合金組成物は、Fe基アモルファス薄帯などの製造に使用されている単ロール製造装置や双ロール製造装置のような従来の装置を使用して形成することができる。粉末形状の合金組成物は水アトマイズ法やガスアトマイズ法によって作製してもよいし、薄帯の合金組成物を粉砕することで作製してもよい。
【0022】
本実施の形態による合金組成物を成形して、巻磁芯、積層磁芯、圧粉磁芯などの磁気コアを形成することができる。また、その磁気コアを用いて、トランス、インダクタ、モータや発電機などの部品を提供することができる。
【0023】
本実施の形態による合金組成物は主相としてアモルファス相を有している。従って、本実施の形態による合金組成物をArガス雰囲気のような不活性雰囲気中で熱処理すると、2回以上結晶化される。最初に結晶化が開始した温度を第1結晶化開始温度(T
x1)とし、2回目の結晶化が開始した温度を第2結晶化開始温度(T
x2)とする。また、第1結晶化開始温度(T
x1)と第2結晶化開始温度(T
x2)の間の温度差をΔT=T
x2−T
x1とする。これら結晶化温度は、例えば、示差走査熱量分析(DSC)装置を用い、40℃/分程度の昇温速度で熱分析を行うことで評価可能である。
【0024】
本実施の形態による合金組成物を毎分100℃以上の昇温速度で且つ第1結晶化開始温度以上で熱処理をすると、本実施の形態によるFe基ナノ結晶合金を得ることができる。Fe基ナノ結晶合金形成の際に均質なナノ結晶組織を得るためには、合金組成物の第1結晶化開始温度(T
x1)と第2結晶化開始温度(T
x2)の差ΔTが100℃以上200℃以下であることが好ましい。
【0025】
上述したようにして熱処理して得られた本実施の形態によるFe基ナノ結晶合金薄帯は、17nm以下の平均結晶粒径を有すると共に1.8T以上の高い飽和磁束密度と7A/m以下の低い保磁力を有する。また、上述したようにして固化成形熱処理して得られた本実施の形態によるFe基ナノ結晶合金粉末は、17nm以下の平均結晶粒径を有すると共に1.7T以上の高い飽和磁束密度と100A/m以下の低い保磁力を有する。
【0026】
本実施の形態によるFe基ナノ結晶合金薄帯やFe基ナノ結晶合金粉末を用いて磁気コアを形成することができる。また、その磁気コアを用いて、トランス、インダクタ、モータや発電機などの部品を構成することができる。
【0027】
以下、本発明の実施の形態について、複数の実施例及び複数の比較例を参照しながら更に詳細に説明する。
【0028】
(実施例1〜11及び比較例1〜8)
まず、Cを含まないFeCoBSiPCu合金について検証した。詳しくは、原料を下記の表1に掲げられた本発明の実施例1〜11及び比較例1〜8の合金組成となるように秤量し、アーク溶解した。その後、溶解した合金組成物を大気中において単ロール液体急冷法にて処理し、種々の厚さを持つ幅約3mm、長さ約5〜15mの連続薄帯を作製した。これらの連続薄帯の合金組成物の相の同定はX線回折法にて行った。更に、表2記載の熱処理条件の下で、実施例1〜11及び比較例1〜8の合金組成物を熱処理した。熱処理された合金組成物の夫々の飽和磁束密度Bsは振動試料型磁力計(VMS)を用いて800kA/mの磁場にて測定した。各合金組成物の保磁力Hcは直流BHトレーサーを用い2kA/mの磁場にて測定した。測定結果を表2に示す。
【0031】
表2から理解されるように、実施例の合金薄帯はすべて急冷後の状態においてアモルファスを主相とするものであり、しかもすべて25μm以上の厚みを有していた。
【0032】
また、実施例の合金薄帯を熱処理したものはナノ結晶化したが、熱処理後の結晶粒径がすべて17nm以下と小さく、7A/m以下の小さい保磁力を有していると共に、1.8T以上の高い飽和磁束密度を有していた。
【0033】
(実施例12〜14及び比較例9,10)
更にCを含めたFeCoBSiPCuC合金について検証した。詳しくは、原料を下記の表3に掲げられた本発明の実施例12〜14及び比較例9,10の合金組成となるように秤量し、アーク溶解した。その後、溶解した合金組成物を大気中において単ロール液体急冷法にて処理し、種々の厚さを持つ幅約3mm、長さ約5〜15mの連続薄帯を作製した。これらの連続薄帯の合金組成物の相の同定はX線回折法にて行った。更に、表4記載の熱処理条件の下で、実施例12〜14及び比較例9,10の合金組成物を熱処理した。熱処理された合金組成物の夫々の飽和磁束密度Bsは振動試料型磁力計(VMS)を用いて800kA/mの磁場にて測定した。各合金組成物の保磁力Hcは直流BHトレーサーを用い2kA/mの磁場にて測定した。測定結果を表4に示す。
【0036】
表4から理解されるように、実施例の合金薄帯はすべて急冷後の状態においてアモルファスを主相とするものであり、しかもすべて25μm以上の厚みを有していた。
【0037】
また、実施例の合金薄帯を熱処理したものはナノ結晶化したが、熱処理後の結晶粒径がすべて14nm以下と小さく、7A/m以下の小さい保磁力を有していると共に、1.8T以上の高い飽和磁束密度を有していた。
【0038】
(実施例15,16及び比較例11,12)
次いで、粉末についても検証した。詳しくは、原料を下記表5に掲げられた本発明の実施例15,16及び比較例11,12の合金組成となるように秤量し、高周波誘導溶解処理により溶解して母合金を作製した。この母合金をガスアトマイズ法にて処理し、粉末を得た。合金溶湯の吐出量は平均15g/秒以下とし、ガス圧は10MPa以上とした。このようにして得た粉末をふるいにかけて、粉末粒径が45μm以下のものと45μmを超えるものとに分け、実施例15,16及び比較例11,12の粉末を得た。その後、それらの粉末を用いて成形体を作成し、Ar雰囲気中で420℃×7分の条件にて固化して成形体を作成した。
【0041】
表6から理解されるように、実施例15,16の合金粉末の固化成形後の結晶粒径が16nm以下と小さく、100A/m以下の小さい保磁力を有していると共に、1.7T以上の高い飽和磁束密度を有していた。