【実施例】
【0013】
以下、本発明を適用したアキシャルギャップ型発電体の冷却構造の実施例について説明する。
図1は、実施例のアキシャルギャップ型発電体の冷却構造を有する発電体付き汎用エンジンの断面図である。
実施例のアキシャルギャップ型発電体の冷却構造は、例えば4ストローク単気筒のガソリンエンジンであるエンジン100に設けられるアキシャルギャップ型の発電体200を冷却するものである。
【0014】
エンジン100は、クランクケース110、メインベアリングカバー120、クランクシャフト130、フライホイール140、アダプタ150、ブロワファン160、リコイルスタータ170等を有して構成されている。
【0015】
クランクケース110は、クランクシャフト130等を収容する容器状の部分である。
クランクケース110は、例えばアルミニウム系合金の鋳物によって、シリンダと一体に形成されている。
クランクケース110における発電体200とは反対側の端部には、メインベアリングカバー120によって閉塞される開口が形成されている。
【0016】
クランクケース110には、ピストンが挿入される円筒状の部分である図示しないシリンダが一体に形成されている。
シリンダのクランクケース110側と反対側の端部には、図示しないシリンダヘッドが設けられている。
シリンダヘッドは、シリンダ及びピストンの冠面とともに燃焼室を構成する。
シリンダヘッドには、点火栓、吸気ポート、排気ポート及び各ポートを開閉するバルブとその駆動系などが設けられている。
【0017】
メインベアリングカバー120は、クランクケース110の開口を閉塞する蓋状の部材である。
【0018】
クランクシャフト130は、エンジン100の出力軸であって、ジャーナル部131、クランクピン132、クランクウェブ133、発電体側出力軸部134、ネジ部135、セット機器側出力軸部136等を有し、さらに、メインベアリング137、オイルシール138等が設けられている。
【0019】
ジャーナル部131は、クランクケース110及びメインベアリングカバー120に回転可能に支持される軸部である。
ジャーナル部131は、メインベアリング137を介して、クランクケース110及びメインベアリングカバー120にそれぞれ支持されている。
また、メインベアリング137に対してクランクケース110の外部側に隣接して、クランクケース110内からのオイルの漏出を防止するため、オイルシール138が設けられている。
【0020】
クランクピン132は、ピストンとクランクシャフト130との間で力の伝達を行うコネクティングロッドが接続される部分であって、ジャーナル部131に対して偏心した軸状に形成されている。
クランクウェブ133は、ジャーナル部131とクランクピン132とを連結するクランクアーム、及び、クランクアームに対して実質的に軸対称に配置されるクランクウェイトを一体に形成したものである。
【0021】
発電体側出力軸部134は、クランクケース110から突出して形成された軸部であって、後述するアキシャルギャップ型の発電体200のロータ210のアダプタ211が接続される部分である。
発電体側出力軸部134は、基部側(クランクケース110側)に対して先端部側(ネジ部135側が細く窄まったテーパ軸である。
ネジ部135は、発電体側出力軸部134の端部から突き出して形成され、アダプタ211を固定するナット135aが締結される部分である。
【0022】
セット機器側出力軸部136は、メインベアリングカバー120から突出して形成された軸部である。
セット機器側出力軸部136は、エンジン100を動力源として駆動される図示しないセット機器の入力部に接続され、動力伝達を行うものである。
【0023】
フライホイール140は、発電体200のロータ210のアダプタ211を介してクランクシャフト130に固定された実質的に円盤状の部材である。
フライホイール140は、エンジンのトルク変動を抑制する回転質量体である。
アダプタ150は、フライホイール140のクランクケース110側とは反対側に接続され、リコイルスタータ170のスタータプーリ171が接続される部材である。
フライホイール140及びアダプタ150の詳細な構成については、後に詳しく説明する。
【0024】
ブロワファン160は、エンジン100及び発電体200を冷却する冷却風Wを発生する遠心式送風機である。
ブロワファン160は、フライホイール140のクランクケース110側とは反対側の面部に取り付けられ、中央部側から取り込んだ空気を外径側へ吹き出す複数のベーン(羽根)を備えている。
ブロワファン160は、例えば樹脂系材料をインジェクション成型して一体に形成されている。
ブロワファン160の周囲には、ブロワファン160をカバーするとともに、発生した冷却風Wを所定の流路へ案内するブロワハウジング(ファンカバー)161が設けられている。
ブロワハウジング161は、例えば樹脂系材料をインジェクション成型して形成され、クランクケース110側の端部は発電体200の発電体ケース(第2ハウジング250)に接続されている。
【0025】
リコイルスタータ170は、ブロワハウジング161と隣接して設けられ、ユーザがエンジンの始動操作を行うものである。
リコイルスタータ170は、図示しないリコイルノブをユーザが牽引することによって、フリクションプレートが繰り出され、アダプタ150に取り付けられたスタータプーリ171を回転駆動する。
【0026】
発電体200は、エンジン100によって駆動され発電を行うものであり、実質的に円盤状に形成されたロータ210及びステータ220,230が軸方向に対向して配置されたアキシャルギャップ型のものである。
発電体200は、ロータ210、第1ステータ220、第2ステータ230、第1ハウジング240、第2ハウジング250等を備えて構成されている。
【0027】
ロータ210は、クランクシャフト130の発電体側出力軸部134に固定され、クランクシャフト130とともに回転する部材である。
ロータ210は、中央部に円形開口を有する平板状の円盤であって、磁性体によって形成され、所定のパターンでNSの着磁が施されている。
ロータ210の内周縁部は、アダプタ211を介して発電体側出力軸部134に締結されている。
アダプタ211は、発電体側出力軸部134とテーパ嵌合するテーパ穴が形成された円筒状の部材であって、外周面部にはロータ210の本体部が取り付けられるフランジ部が形成されている。
また、ロータ210のアダプタ211と隣接する内周縁部近傍の領域には、第1ロータ220側と第2ロータ230側とを連通させる開口212が形成されている。
開口212は、ロータ210の周方向に分散して、複数形成されている。
【0028】
第1ステータ220は、ロータ210のクランクケース110側の面部と対向して設けられ、ロータ210の表面と微小な間隔を隔てて対向する複数のコイルを備えている。
第1ステータ220は、第1ハウジング240を介して、エンジン100のクランクケース110に固定されている。
【0029】
第2ステータ230は、ロータ210のエンジン100側とは反対側の面部と対向して設けられ、ロータ210の表面と微小な間隔を隔てて対向する複数のコイルを備えている。
第2ステータ220は、第1ハウジング240と結合されて発電体200の筐体を構成する第2ハウジング250を介して、エンジン100のクランクケース110に固定されている。
【0030】
第1ハウジング240及び第2ハウジング250は、それぞれ第1ステータ220、第2ステータ230を保持する保持部材であるとともに、協働して発電体200の筐体(発電体ケース)を構成する部材である。
第1ハウジング240、第2ハウジング250は、それぞれ耐熱性を有するナイロン樹脂等の樹脂系材料を用いて、インジェクション成型によって一体に形成されている。
【0031】
第1ハウジング240は、円筒部241、端面部242等を有して構成されている。
円筒部241は、第1ステータ220の外径側を囲って配置され、発電体ケースの外周面部を構成する。
端面部242は、第1ステータ220のクランクケース110側に設けられた円盤状の部分である。
端面部242の外周縁部は、円筒部241におけるクランクケース110側の端部と接続されている。
端面部242は、第1ステータ220が取り付けられる基部となる。
対面部242の中央部には、クランクシャフト110等が挿入される円形の開口が形成されている。
【0032】
第2ハウジング250は、円筒部251、端面部252等を有して構成されている。
円筒部251は、第2ステータ230の外径側を囲って配置され、発電体ケースの外周面部を構成する。
端面部252は、第2ステータ230のフライホイール140側に設けられた円盤状の部分である。
端面部252の外周縁部は、円筒部251におけるフライホイール140側の端部と接続されている。
端面部252は、第2ステータ230が取り付けられる基部となる。
対面部252の中央部には、フライホイール140の円筒部141等が挿入される円形の開口が形成されている。
【0033】
第1ハウジング240、第2ハウジング250の外周面部には、ブロワファン160が発生する冷却風Wが導入されるダクト部243、253がそれぞれ一体に形成されている。
ダクト部243、253は、発電体200の回転軸方向に沿って連続する空洞部として形成されている。
ダクト部253のブロワファン160側の端部は開口しており、冷却風Wの一部はここに流入する。
ダクト部243のクランクケース110側の端部は閉塞されている。
また、ダクト部243、253内における第1ハウジング240と第2ハウジング250との合わせ部には、ダクト部243,253の内部と、ロータ210、第1ステータ220、第2ステータ230等が配置される領域とを連通させる開口Oが形成されている。
【0034】
エンジン100の運転時に、ブロワファン160が回転すると、ブロワファン160はベーンの内径側の空気を加圧して外径側へ吐出し、エンジン100及び発電体200を冷却する冷却風Wを形成する。
エンジン100を冷却する冷却風Wの主な部分は、第1ハウジング240、第2ハウジング250からなる発電体ケースの外径側を通って、エンジン100のシリンダ、シリンダヘッド等へ導かれる。
【0035】
また、冷却風Wの一部は、第2ハウジング250のダクト部253及び第1ハウジング240のダクト部243に導入され、さらに開口Oを介して円筒部241,251の内径側に入り、発電体200の内部を冷却する。
開口Oを通過した冷却風Wは、ロータ210と第1ステータ220との間、及び、ロータ210と第2ステータ230との間にそれぞれ導入され、これらの間を外径側から内径側へ流れてロータ210、第1ステータ220、第2ステータ230を冷却する。
ダクト部243,253、開口Oは、本発明にいう冷却風導入流路を構成する。
【0036】
ロータ210と第1ステータ220との間を流れて内径側へ到達した冷却風Wの大部分は、第1ハウジング240の端面部242の中央に設けられた開口から、クランクケース110側へ排出される。
ロータ210と第2ステータ230との間を流れて内径側へ到達した冷却風Wの実質的に全部は、フライホイール140及びアダプタ150の内径側に形成された流路を通ってブロワファン160の内径側へ還流される。
フライホイール140及びアダプタ150の内部に設けられる流路の構造について、以下詳しく説明する。
【0037】
図2は、実施例のアキシャルギャップ型発電体の冷却構造におけるフライホイールを示す部品図である。
図2(a)は、軸方向におけるブロワファン160側から見た外観図である。
図2(b)は、
図2(a)のb−b部矢視断面図である。
図2(c)は、
図2(b)のc−c部矢視図である。
図2(d)は、
図2(d)のd−d部矢視部分断面図である。
【0038】
フライホイール140は、例えば鋳鉄等の金属材料によって、円筒部141、円盤部142、アダプタ締結部143を一体に形成したものである。
円筒部141は、ロータ210のアダプタ211を介して、クランクシャフト130からの動力を、ブロワファン160や円盤部142等へ伝達する動力伝達部材である。
円筒部141は、クランクシャフト130と同心に配置され、中空に形成されている。
円筒部141のクランクケース110側の端部は、ブロワファン160側から挿入されるボルトによって、発電体200のロータ210のアダプタ211のフランジ部に締結される。
締結箇所は、周方向に分散して例えば3箇所が等間隔に配置されている。
円筒部141の内周面部におけるクランクケース110側の端部近傍には、部分的に内径を拡大して形成された拡径部141aが形成されている。
拡径部141aは、アダプタ211の外周面部と実質的に同径に形成され、アダプタ211とフライホイール140とが実質的に同心となるように案内する部分である。
【0039】
円盤部142は、円筒部141のクランクケース110側とは反対側(ブロワファン160側)の端部から、外径側につば状に張り出した部分である。
円盤部142は、クランクケース110側の面部における径方向中間部分を凹ませることによって、外径側に質量が多く分布するようにしている。
【0040】
アダプタ締結部143は、スタータプーリ171が取り付けられるアダプタ150が締結される基部である。
アダプタ締結部143は、円盤部142のブロワファン160側の面部から段状に突き出して形成された円環状の部分である。
アダプタ締結部143は、円筒部141に対して大径に形成され、円筒部141をアダプタ211に締結するボルトは、アダプタ締結部143の内径側から挿入されるようになっている。
アダプタ締結部143には、アダプタ150が締結されるネジ孔が、例えば3箇所周方向に等間隔に分散して配置されている。
アダプタ締結部143の外周面部は、ブロワファン160の中央部に形成された開口に挿入され、ブロワファン160の内径側を保持している。
【0041】
円筒部141には、クランクケース110側の端部から円盤部142側に凹ませて形成されたスリット部144が形成されている。
スリット部144は、アダプタ211との締結箇所を避けて、例えば3箇所が周方向に分散して配置されている。
スリット部144は、円筒部141の外径側の空気を、円筒部141の内径側へ導入する開口部を構成する。
【0042】
図3(c)に示すように、スリット部144の回転軸方向に沿った開口縁は、円筒部141がエンジン100の運転時に、
図3(c)における反時計回りに回転した際に、円筒部141の外径側の空気を内径側へ吸引するよう、円筒部141の径方向に対して傾斜して配置されている。
すなわち、これらの開口縁は、外径側の端部が内径側の端部に対して、回転時における進行方向前方側となるようにずらして配置されている。
このような構成によって、円筒部141におけるスリット部144以外の領域は、回転時に羽根形状を有する吸入ファンとして機能する。
【0043】
図3は、実施例のアキシャルギャップ型発電体の冷却構造におけるアダプタを示す部品図である。
図3(a)は、アダプタ150をリコイルスタータ170側から見た外観図である。
図3(b)は、
図3(a)のb−b部矢視断面図である。
図3(c)は、
図3(a)のc−c部矢視図である。
【0044】
アダプタ150は、例えば鋳鉄等の金属材料によって円筒部151、フランジ部152、開口部153等を一体に形成したものである。
円筒部151は、クランクシャフト130と同心に配置され、フライホイール140のアダプタ締結部143とリコイルスタータ170のスタータプーリ171とを接続するものである。
【0045】
フランジ部152は、アダプタ150をフライホイール140のアダプタ締結部143に締結する部分である。
フランジ部152は、フライホイール140の円盤部142との間で、ブロワファン160の内周縁部近傍の領域を挟持し、ブロワファン160を保持する機能を有する。
フランジ部152は、円筒部151のフライホイール140側の端部から外径側につば状に張り出して形成されている。
フランジ部152には、アダプタ締結部143への締結用ボルトが挿入されるボルト穴が形成されている。
【0046】
開口部153は、円筒部151の周壁に形成され、内径側と外径側とを連通させる貫通穴である。
開口部153は、円筒部151の周方向に分散して例えば4か所形成されている。
【0047】
図1に示すように、ロータ210と第2ステータ230との間を流れた冷却風Wは、フライホイール140のスリット部144から円筒部141の内径側に吸引され流入する。
その後、アダプタ150の円筒部151の内径側に流れ、ブロワファン160がその内径側に形成する負圧によって開口部153から吸い出され、ブロワファン160の内径側へ還流する。
フライホイール140の円筒部141及びアダプタ150の円筒部151の内径側は、本発明にいう冷却風排出流路を構成する。
【0048】
また、ロータ210と第1ステータ220との間を流れて内径側へ到達した冷却風Wの一部も、ロータ210に形成された開口212を介して第2ステータ230側へ流入し、第2ステータ230側の冷却風Wと合流してフライホイール140、アダプタ150の内部を通ってブロワファン160の内径側へ還流する。
【0049】
以上説明した実施例によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)ロータ210と第2ステータ230との間を流れた冷却風Wを、フライホイール140の円筒部141及びアダプタ150の円筒部151の内径側を経由してブロワファン160の内径側に還流させることによって、冷却風Wの風量を増加させ、第2ステータ230側を効果的に冷却することが可能となる。
このため、発電体200全体としての冷却風Wの風量を増加させて冷却能力を高めることができ、さらに、従来は第1ステータ220に対して高温となりやすかった第2ステータ230を効果的に冷却して、温度ばらつきを抑制し、発電体200の出力を向上することができる。
また、フライホイール140及びアダプタ150を、スリット部144及び開口部153を有する中空のものとするだけで既存のアキシャルギャップ型発電体付きエンジンにも適用が容易である。
(2)スリット部144の端面に、回転時に周囲の空気を吸入する羽根形状を形成したことによって、簡単な構成によって冷却風Wの風量を増加させ、冷却性能をより向上することができる。
(3)羽根形状を、スリット部144の端縁を径方向に対して傾斜させて形成することによって、簡単な構成によって上述した効果を得ることができる。
(4)ロータ210に開口212を形成したことによって、クランクケース側の第1ステータ220の冷却風Wの風量も増加させて冷却性能を向上することができる。
また、第1ステータ220側と第2ステータ230側を流れる冷却風Wの風量のバランスを改善して各ステータの温度ばらつきをより抑制し、発電体の出力低下をさらに抑制することができる。
【0050】
(変形例)
本発明は、以上説明した実施例に限定されることなく、種々の変形や変更が可能であって、それらも本発明の技術的範囲内である。
エンジン及びアキシャルギャップ型発電体を構成する各部品の形状、構造、材質、製法、配置等は、上述した実施例に限定されず、適宜変更することが可能である。
また、冷却風を動力伝達部材に導入する開口、排出する開口の形状、個数、配置や、吸入側の開口における端縁部の処理なども特に限定されない。