特許第5932890号(P5932890)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5932890リンゴ風味増強剤およびリンゴ風味増強方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5932890
(24)【登録日】2016年5月13日
(45)【発行日】2016年6月8日
(54)【発明の名称】リンゴ風味増強剤およびリンゴ風味増強方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 27/00 20160101AFI20160526BHJP
   A23L 2/02 20060101ALI20160526BHJP
   C11B 9/00 20060101ALI20160526BHJP
   A23L 27/29 20160101ALI20160526BHJP
【FI】
   A23L1/22 Z
   A23L2/02 C
   C11B9/00 P
   C11B9/00 A
   A23L1/235
【請求項の数】8
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-122633(P2014-122633)
(22)【出願日】2014年6月13日
(65)【公開番号】特開2016-2008(P2016-2008A)
(43)【公開日】2016年1月12日
【審査請求日】2015年6月26日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000214537
【氏名又は名称】長谷川香料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000741
【氏名又は名称】特許業務法人小田島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 晴久
(72)【発明者】
【氏名】藤田 怜
(72)【発明者】
【氏名】吉田 哲也
【審査官】 白井 美香保
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−143461(JP,A)
【文献】 特開2014−055201(JP,A)
【文献】 特開2004−018431(JP,A)
【文献】 特開2005−015686(JP,A)
【文献】 特開昭55−045649(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 27/00−27/40
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
REGISTRY(STN)
CA/MEDLINE/BIOSIS(STN)
PubMed
CiNii
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シネンサールおよび/またはヌートカトンを有効成分として含んでなる、リンゴ風味飲食品またはリンゴ風味香料のリンゴ風味を増強するための調製物。
【請求項2】
有効成分がシネンサールおよびヌートカトンの混合物である、請求項1に記載の調製物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の調製物をリンゴ風味飲食品に添加することを含んでなる、リンゴ風味が増強されたリンゴ風味飲食品の製造方法
【請求項4】
シネンサールを1ppt〜1ppbの濃度範囲および/またはヌートカトンを1ppt〜1ppbの濃度範囲で含有し、かつ、リンゴ風味が増強されたリンゴ風味飲食品。
【請求項5】
請求項1または2に記載の調製物をリンゴ風味香料に添加することを含んでなる、リンゴ風味増強されたリンゴ風味香料の製造方法
【請求項6】
シネンサールを0.1ppb〜10ppmの濃度範囲および/またはヌートカトンを0.1ppb〜10ppmの濃度範囲で含有し、かつ、リンゴ風味が増強されたリンゴ風味香料。
【請求項7】
シネンサールおよび/またはヌートカトンを添加することによる、リンゴ風味飲食品のリンゴ風味増強方法。
【請求項8】
請求項1または2に記載の調製物をリンゴ風味香料に添加することにより得られるリンゴ風味が増強されたリンゴ風味香料を飲食品に添加することによる、飲食品のリンゴ風味付与方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リンゴの香気、香味を付与ないし増強できるリンゴ風味増強剤、リンゴ風味の増強された飲食品およびリンゴ風味香料、ならびに、リンゴ風味香料およびリンゴ風味飲食品のリンゴ風味増強方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リンゴはバラ科リンゴ属の中・高木性落葉果樹で世界各地の北部温帯域で広く栽培されている。日本でも明治初期に導入され、青森、長野を中心に栽培され、現在でも嗜好性の高い果物のひとつである。リンゴは生食以外にも果汁、果肉スライス、果肉プレザーブ等の様々な形態で、アップルジュース、リンゴジャム、アップルパイ等の各種リンゴ風味飲食品に幅広く利用されている。これらリンゴ風味飲食品の製造においては、加工の工程で飛散による香気の減少や熱劣化による香気の変化が生じる場合や、天然物であるリンゴの収穫年度、時期などの違いにより香気の質や強度にブレが生じる場合がある。また、食品によっては天然のリンゴ原料をあまり多く用いずともリンゴの風味を付与する場合もある。以上のようにさまざまな理由により、リンゴ風味飲食品の製造の工程において、香気を補うためリンゴフレーバー(リンゴの香気を再現した調合香料)を添加することが行われている。リンゴフレーバーの製造方法としては、例えば、リンゴから検出・同定された香気成分であるヘキサノール、ヘキサナール、トランス―2―ヘキセナール及び、それらのエステル類を中心に構成し、これに各種天然精油またはリンゴ濃縮果汁製造時に得られる回収フレーバーを組合わせる方法(特許文献1及び非特許文献1)、香気成分であるエステル類とアルデヒド類を特定の割合で添加する方法(特許文献2)。(Z)−3−ヘキセン−1−オール、リナロール等を特定の割合で添加する方法(特許文献3及び4)、(Z)−9−テトラデセン−5−オリドを添加する方法(特許文献5参照)、果汁含有率が10重量%未満であって香料によりリンゴ風味を付与するリンゴ風味食品組成物に対して、リンゴ酸及びクエン酸を配合することにより、当該食品組成物のリンゴ風味の酸味及び後味の調整を行う方法(特許文献6)などが提案されている。これらのリンゴフレーバーは、アルコール類、アルデヒド類、エステル類で構成されていることから、トップからミドルノートにかけて、リンゴの華やかフルーツ香を有し、優れた果実感の香味を有し、それなりの効果はある。しかしながら、現代の食文化は多様化しており、多種多様な消費者の嗜好を満足させるためには、さらに天然感にあふれ、かつ、独自性の高い、高品質のリンゴ風味増強剤およびリンゴ風味を増強する方法の開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−15686号公報
【特許文献2】特許第5249455号公報
【特許文献3】特開2012―29638号公報
【特許文献4】特開2012―29632号公報
【特許文献5】特開2007―91663号公報
【特許文献6】特開2011―152095号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】周知慣用技術集(香料)第II部 食品香料 p148からp155
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、消費者の嗜好性の多様化にさらに応えるためのリンゴ風味の付与、増強に関するものであり、従来技術では付与できなかった、リンゴの呈味感、味の広がり、甘く蜜様の果肉感、硬くシャリシャリとした果肉感、ウッディな風味を付与ないし増強し、かつ、香気および香味の持続性を増すことができるリンゴ風味増強剤、リンゴ風味飲食品、リンゴ風味香料およびリンゴ風味増強方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、リンゴ風味の付与、増強の検討を行うに際し、従来の報告および提案を詳細に調べた。その結果、従来の報告あるいは提案にある香料化合物及びその組み合わせでは、リンゴ香気のトップからミドルにかけてのフルーティ香、果実感は再現することが可能だが、リンゴの果肉感、リンゴを丸ごとかじった時に口中に広がるジューシーな果肉感に欠けることが明らかとなった。本発明者は上記問題を解すべく、再度詳細に検討した。その結果、驚くべきことに、従来リンゴの風味の付与、増強の目的での使用が先行技術文献には全く未記載の香料化合物であるシネンサールまたはヌートカトンを、従来技術で調製したリンゴ風味香料組成物に微量配合したところ、リンゴの甘く蜜様の果肉感、硬くシャリシャリとした果肉感を伴った広がり、ウッディな風味が付与、増強され、かつ、香気、香味の持続性が増し、香気全体としてジューシーなリンゴの果肉感のある香気となることを見出し、本発明を完成するに至った。かくして、本発明は、以下のものを提供する。
【0007】
(1)シネンサールおよび/またはヌートカトンを有効成分とする、リンゴ風味飲食品またはリンゴ風味香料のリンゴ風味増強剤。
(2)(1)のリンゴ風味増強剤を添加したリンゴ風味飲食品。
(3)シネンサールを1ppt〜1ppbの濃度範囲および/またはヌートカトンを1ppt〜1ppbの濃度範囲で添加したリンゴ風味飲食品。
(4)(1)のリンゴ風味増強剤を添加したリンゴ風味香料。
(5)シネンサールを0.1ppb〜10ppmの濃度範囲および/またはヌートカトンを0.1ppb〜10ppmの濃度範囲で添加したリンゴ風味香料。
(6)シネンサールおよび/またはヌートカトンを添加することによる、リンゴ風味飲食品のリンゴ風味増強方法。
(7)(4)または(5)のリンゴ風味香料を添加することによる、飲食品のリンゴ風味付与方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、リンゴ風味果実飲料、リンゴ風味菓子、リンゴ風味ゼリーなどのリンゴ風味飲食品、または、リンゴ風味香料に、リンゴの呈味感、味の広がり、甘く蜜様の果肉感、硬くシャリシャリとした果肉感、ウッディな風味を付与ないし増強することができ、かつ、香気および香味の持続性を増すことができ、香気全体としてジューシーなリンゴの果肉感のある香気を付与することができるため、嗜好性を高め、商品価値を格段に向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
【0010】
本発明で用いられるシネンサール、ヌートカトンは天然物に存在する香気成分としてすでに公知であり、シネンサールはオレンジ、ユズ等の柑橘類から検出同定されている。また、ヌートカトンはグレープフルーツの特徴香として知られ、レモン、オレンジからも検出同定されている。しかし、シネンサール、ヌートカトンがリンゴの香気成分としては報告されていない。また、シネンサール、ヌートカトンともフルーツ香料に使用することは公知であるが、リンゴ香料およびリンゴ風味飲食品の風味増強作用について有用であることを具体的に記載や示唆をしている先行技術は見いだされない。
【0011】
本発明で用いられるシネンサール、ヌートカトンは公知の合成法により調製することも出来るが、香料としてすでに使用されている、容易に入手できる市販品、又は精油から分離したものを使用しても良い。
【0012】
シネンサールはα―シネンサール、β―シネンサールの幾何異性体が存在することが知られているが、どちらか一方を単独で、あるいは、これら幾何異性体を任意の割合で混合したものを用いることが出来る。また、ヌートカトンは光学異性体を有するが、ラセミ体でも特定の光学異性体でもよい。
【0013】
シネンサール、ヌートカトンはそれ自体では単独ではリンゴをイメージさせる香気を有するものではないが、飲食品、特に、リンゴ風味飲食品またはリンゴ風味香料に微量添加することにより、リンゴ風味を増強することができる。すなわち、ネンサールおよび/またはヌートカトンは、これらの化合物を有効成分として、リンゴ風味飲食品またはリンゴ風味香料のリンゴ風味増強剤として使用することができる。
【0014】
本発明でリンゴ風味飲食品とは、リンゴの風味を有する飲食品やリンゴを原材料の一部として用いた飲食品であり、例えば、飲料類、冷菓類、デザート類、菓子類、調味料類等を挙げることができる。これらのリンゴ風味飲食品はリンゴそのものあるいはその加工品が含まれていなくてもよいが、好ましくはリンゴ果汁、リンゴプレザーブ、リンゴパウダー等のリンゴ加工品が含まれているほうが、より天然らしさが得られる。代表的なものとしては例えば、チョコレート、キャンディー、キャラメル、錠菓、チューインガム、クッキー、ビスケット、クラッカー、プレッツェル、パン、ドーナッツ、スナック、煎餅、ポテトチップスなどの菓子スナック類;緑茶、紅茶、烏龍茶、穀物茶、コーヒー飲料、豆乳、乳酸菌飲料、乳飲料、果汁飲料、野菜飲料、炭酸飲料、コーラ飲料、スポーツ飲料、栄養ドリンク、酒、チューハイ、発泡酒、カクテル、ビール、ノンアルコール飲料、ノンアルコール穀物抽出物含有飲料、ノンアルコールチュウハイ、ノンアルコールカクテルなどの飲料類;アイスクリーム、アイスキャンデー、シャーベット、かき氷などの冷菓類、ケーキ、クリーム、ゼリー、ムース、プリンなどの洋菓子、饅頭、大福等の和菓子、蒸菓子などの製菓類;果実フレーバーソースやチョコレートソースなどのソース類、バタークリームや生クリームなどのクリーム類;ジャムやマーマレードなどのジャム類;菓子パンなどのパン類;味噌、醤油、ドレッシング、マヨネーズなどの調味料類;焼き肉、焼き鳥、鰻蒲焼きなどに用いられるタレやトマトケチャップなどのソース類;お吸い物、出汁類(牛、豚、魚介類)、コンソメスープ、卵スープ、ワカメスープ、フカヒレスープ、ポタージュ、などのスープ類;麺・パスタ類(そば、うどん、ラーメン、パスタなど)のつゆ類;おかゆ、雑炊、お茶漬けなどの米調理食品類;ハム、ソーセージ、チーズなどの畜産加工品類;レトルト食品、総菜類および冷凍食品類;漬物などの野菜加工品類;以上の他、煮物、揚げ物、焼き物、カレーなどのあらゆる加工食品などを挙げることができる。
【0015】
また、リンゴ風味飲食品には、リンゴを原材料の一部に用いていなくても、後に述べるリンゴ風味香料が添加されることによりリンゴ風味が付与された前記飲食品類が含まれる。
【0016】
リンゴ風味飲食品へ、リンゴ風味増強剤としてのシネンサールおよび/またはヌートカトンを添加する場合の添加量は、リンゴ風味の増強効果が得られる範囲であれば特に問わず、また、リンゴ風味飲食品にもよるが、リンゴ風味飲食品の質量を基準として、シネンサールでは通常1ppt〜1ppb、好ましくは2ppt〜500ppt、より好ましくは5ppt〜300pptの範囲、また、ヌートカトンでは通常1ppt〜1ppb、好ましくは2ppt〜500ppt、より好ましくは5ppt〜300pptの範囲を例示することができる。この範囲内においてそれぞれの香料化合物を添加することにより、リンゴ風味飲食品に、シネンサールでは、特に、リンゴの呈味感、甘く蜜様の果肉感、味の広がりや風味の持続性が付与または増強でき、ヌートカトンではリンゴの呈味感、硬くシャリシャリとした果肉感、ウッディ感、味の広がりや風味の持続性が付与または増強できる。
【0017】
前記濃度範囲を超えてシネンサールまたはヌートカトンを添加した場合は、特に前記濃度を下回る場合は、前記の効果が不十分である可能性があり、また、前記濃度を上回る場合はシネンサールの柑橘感やヌートカトンのウッディ感が強く出すぎて、自然なリンゴの風味からはやや異なるものとなってしまう可能性がある。
【0018】
シネンサール、ヌートカトンこれら2つの化合物は1種のみをリンゴ風味増強剤として用いることもできるし、両方を任意の割合で混合して用いてもよい。混合割合は、リンゴ風味飲食品にどのような特徴を際だたせるかにより異なるので、それぞれの香気特性を生かし、決定することができる。例えば、リンゴの甘く蜜様の香気を強くする場合には、シネンサールの混合割合を増やし、硬くシャリシャリとした果肉感を強くする場合には、ヌートカトンの混合割合を増やせばよい。両者を併用することにより、特に、香気全体としてジューシーなリンゴの果肉感のある香気を増強することができる。ヌートカトンとシネンサールを併用する場合の両者の比率は、例えば、質量比で0.1:99.9〜99.9〜0.1、1:99〜99:1、1:9〜9:1、2:8〜8:2、3:7〜7:3の範囲内などの任意の比率を例示することができる。
【0019】
本発明のリンゴ風味増強剤のリンゴ風味飲食品への配合量は極めて微量であるため、前記の添加濃度を工業的に効率よく配合するためには、シネンサールおよび/またはヌートカトンを溶解するのに適当な溶剤、例えば、エチルアルコール(エタノール)、グリセリン、プロピレングリコール、トリアセチン、中鎖脂肪酸グリセリンエステル、食用植物油などの食用油脂、あるいは動物性油脂などに溶解・希釈して使用することができる。
【0020】
本発明でリンゴ風味香料とは、リンゴフレーバー、アップルフレーバーともいうが、飲食品にリンゴの香りを想起させる香りまたは味を付与ないし増強する目的で使用される食品添加物である。リンゴ風味香料を飲食品に添加することにより、リンゴ風味を付与ないし増強することができる。
【0021】
本発明ではリンゴ風味香料にシネンサールおよび/またはヌートカトンを含有させることにより、リンゴ風味香料にリンゴの甘く蜜様の果肉感、または、硬くシャリシャリとした果肉感を伴った広がりを付与または増強することができ、かつ、香気および香味の持続性を増すことができる。したがって、本発明のリンゴ風味香料を飲食品(ここでいう飲食品はリンゴ風味飲食品以外の飲食品が含まれる)に添加することにより、リンゴ風味飲食品に対する前記の効果と同様に、飲食品に対しリンゴの風味を付与するとともに、リンゴの甘く蜜様の果肉感、または、硬くシャリシャリとした果肉感を伴った広がりを付与または増強することができ、かつ、香気および香味の持続性を増すことができる。
【0022】
リンゴ風味飲香料へ、リンゴ風味増強剤としてのシネンサールおよび/またはヌートカトンを添加する場合の添加量は、リンゴ風味の増強効果が得られる範囲であれば特に問わず、また、リンゴ風味香料にもよるが、リンゴ風味香料の質量を基準として、シネンサールでは通常0.1ppb〜10ppm、好ましくは0.5ppb〜2ppm、より好ましくは2ppb〜500ppbの範囲、また、ヌートカトンでは通常0.1ppb〜10ppm、好ましくは0.5ppb〜2ppm、より好ましくは2ppb〜500ppbの範囲を例示することができる。
【0023】
シネンサール、ヌートカトンこれら2つの化合物は1種のみをリンゴ風味増強剤として用いることもできるし、両方を任意の割合で混合して用いてもよい。混合割合は、リンゴ風味香料にどのような特徴を際だたせるかにより異なるので、それぞれの香気特性を生かし、決定することができる。例えば、リンゴの甘く蜜様の香気を強くする場合には、シネンサールの混合割合を増やし、硬くシャリシャリとした果肉感を強くする場合には、ヌートカトンの混合割合を増やせばよい。両者を併用することにより、特に、香気全体としてジューシーなリンゴの果肉感のある香気を増強することができる。ヌートカトンとシネンサールを併用する場合の両者の比率は、例えば、質量比で0.1:99.9〜99.9〜0.1、1:99〜99:1、1:9〜9:1、2:8〜8:2、3:7〜7:3の範囲内などの任意の比率を例示することができる。
【0024】
本発明のリンゴ風味香料にはシネンサールおよび/またはヌートカトン以外の特定の成分として、特に、ヘキサノール、ヘキサナール、トランス―2―ヘキセナール、エチルヘキサノエートまたはエチルブチレートを配合することにより、よりリンゴらしい天然感あふれる風味となる。これらのヘキサノール、ヘキサナール、トランス―2―ヘキセナール、エチルヘキサノエートまたはエチルブチレートは単独で使用してもよいし、1種または2種以上を併用してもよい。
【0025】
本発明のリンゴ風味香料に配合できる他の香料素材としては、通常のリンゴ風味香料に配合することができる一般的な香料化合物や香料素材が挙げられ、例えば、オシメン、リモネン、α−フェランドレン、テルピネン、3−カレン、ビサボレン、バレンセンなどの炭化水素類;3−ヘプタノール、1−ウンデカノール、2−ウンデカノール、1−ドデカノール、プレノール、10−ウンデセン−1−オール、リナロール、ネロール、ゲラニオール、シトロネロール、ジヒドロリナロール、テトラヒドロムゴール、ミルセノール、ジヒドロミルセノール、テトラヒドロミルセノール、オシメノール、テルピネオール、3−ツヤノール、ベンジルアルコール、β−フェニルエチルアルコール、α−フェニルエチルアルコールなどのアルコール類;アセトアルデヒド、n−ヘキサナール、n−ヘプタナール、n−オクタナール、n−ノナナール、2−メチルオクタナール、3,5,5−トリメチルヘキサナール、デカナール、ウンデカナール、2−メチルデカナール、ドデカナール、トリデカナール、テトラデカナール、トランス−2−ヘキセナール、トランス−4−デセナール、シス−4−デセナール、トランス−2−デセナール、10−ウンデセナール、トランス−2−ウンデセナール、トランス−2−ドデセナール、3−ドデセナール、トランス−2−トリデセナール、2,4−ヘキサジエナール、2,4−デカジエナール、2,4−ドデカジエナール、5,9−ジメチル−4,8−デカジエナール、シトラール、ジメチルオクタナール、α−メチレンシトロネラール、シトロネリルオキシアセトアルデヒド、ミルテナール、ネラール、マイラックアルデヒド、フェニルアセトアルデヒド、オクタナールジメチルアセタール、ノナナールジメチルアセタール、デカナールジメチルアセタール、デカナールジエチルアセタール、2−メチルウンデカナールジメチルアセタール、シトラールジメチルアセタール、シトラールジエチルアセタール、シトラールプロピレングリコールアセタールなどのアルデヒド類;3−ヘプタノン、3−オクタノン、2−ノナノン、2−ウンデカノン、2−トリデカノン、メチルヘプテノン、ジメチルオクテノン、ゲラニルアセトン、2,3,5−トリメチル−4−シクロヘキセニル−1−メチルケトン、ネロン、ジヒドロヌートカトン、アセトフェノン、4,7−ジヒドロ−2−イソペンチル−2−メチル−1,3−ジオキセピンなどのケトン類;ギ酸プロピル、ギ酸オクチル、ギ酸リナリル、ギ酸シトロネリル、ギ酸ゲラニル、ギ酸ネリル、ギ酸テルピニル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸アミル、酢酸シス−3−ヘキセニル、酢酸トランス−2−ヘキセニル、酢酸オクチル、酢酸ノニル、酢酸デシル、酢酸ドデシル、酢酸ジメチルウンデカジエニル、酢酸オシメニル、酢酸ミルセニル、酢酸ジヒドロミルセニル、酢酸リナリル、酢酸シトロネリル、酢酸ゲラニル、酢酸ネリル、酢酸テトラヒドロムゴール、酢酸ラバンジュリル、酢酸ネロリドール、酢酸ジヒドロクミニル、酢酸テルピニル、酢酸シトリル、酢酸ノピル、酢酸ジヒドロテルピニル、酢酸2,4−ジメチル−3−シクロヘキセニルメチル、酢酸ミラルディル、酢酸ベチコール、プロピオン酸デセニル、プロピオン酸リナリル、プロピオン酸ゲラニル、プロピオン酸ネリル、プロピオン酸テルピニル、プロピオン酸トリシクロデセニル、プロピオン酸スチラリル、酪酸アミル、酪酸オクチル、酪酸ネリル、酪酸シンナミル、吉草酸アミル、イソ酪酸イソプロピル、イソ酪酸オクチル、イソ酪酸リナリル、イソ酪酸ネリル、イソ吉草酸リナリル、イソ吉草酸テルピニル、イソ吉草酸フェニルエチル、2−メチル吉草酸2−メチルペンチル、3−ヒドロキシヘキサン酸メチル、3−ヒドロキシヘキサン酸エチル、へプタン酸エチル、オクタン酸メチル、オクタン酸オクチル、オクタン酸リナリル、ノナン酸メチル、ウンデシレン酸メチル、安息香酸リナリル、ケイヒ酸メチル、アンゲリカ酸イソプレニル、ゲラン酸メチル、クエン酸トリエチルなどのエステル類;チモール、カルバクロール、β−ナフトールイソブチルエーテルなどのフェノール類;γ−ウンデカラクトン、δ−ドデカラクトンなどのラクトン類;酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、ヘキサン酸、オクタン酸、デカン酸、ドデカン酸、2−デセン酸、ゲラン酸などの酸類;アントラニル酸メチル、アントラニル酸エチル、N−メチルアントラニル酸メチル、N−2′−メチルペンチリデンアントラニル酸メチル、リガントラール、ドデカンニトリル、2−トリデセンニトリル、ゲラニルニトリル、シトロネリルニトリル、3,7−ジメチル−2,6−ノナジエノニトリル、インドール、5−メチル−3−ヘプタノンオキシム、チオゲラニオール、リモネンチオール、P−メンチル−8−チオールなどの含窒素・含硫化合物類など公知の合成香料化合物及びリンゴの圧搾、溶剤抽出、水蒸気蒸留などにより得られる天然由来のリンゴ抽出物及び回収香などを挙げることができ、これらを1種又は2種以上を任意の割合で組み合わせて混合したリンゴ香料を挙げることができる。また、他の果物の圧搾、溶剤抽出、水蒸気蒸留などにより得られる天然由来の抽出物及び回収香を任意の割合で混合することもできる。例えばオレンジ、スイートオレンジ、ビターオレンジ、ネロリ、マンダリン、プチグレン、ベルガモット、タンゼリン、レモン、グレープフルーツ、スウィーティー、ライム、ベルガモットなどのほか、ユズ、シークワーサー、スダチ、イヨカン、ダイダイ、ハッサク、カボス、温州ミカン、ブドウ、ストロベリー、グレープ、パイナップル、バナナ、ピーチ、メロン、アンズ、ウメ、サクランボ、ラズベリー、ブルーベリー、グァバ、パッションフルーツ、パパイヤ、マンゴー、アサイーなどをあげることができる。
【0026】
また、本発明のリンゴ風味香料には、前記の成分を溶解するのに適当な溶剤、例えば、エチルアルコール、グリセリン、プロピレングリコール、トリアセチン、中鎖脂肪酸グリセリンエステル、食用植物油などの食用油脂、あるいは動物性油脂などを配合することができる。
【0027】
本発明のリンゴ風味香料を飲食品、またはリンゴ風味飲食品へ添加する場合の添加量(濃度)は、リンゴ風味の付与または増強効果が得られる範囲であれば任意でよく、リンゴ風味飲食品にもよるが、リンゴ風味香料を飲食品に対し、質量を基準として、通常0.002〜1%、好ましくは0.01〜0.5%、より好ましくは0.02〜0.2%程度を例示することができる。
【0028】
以下に実施例、比較例および参考例を挙げて本発明を詳しく説明する。なお、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0029】
実施例1:アップルジュースへのシネンサールの添加
市販アップルジュース(香料無添加)に表1の濃度のシネンサール溶液(エタノール希釈液)を表1の濃度で添加し、5名のよく訓練されたパネラーにより評価した。その平均的な評価結果を表1に示す。
【0030】
【表1】
【0031】
表1に示した通り、アップルジュースに適当量のシネンサールを添加することにより、無添加のアップルジュースと比べ、リンゴの呈味感、甘く蜜様の果肉感、味の広がりやフレーバーの持続性が付与または増強できた。
【0032】
実施例2:アップルジュースへのヌートカトンの添加
市販アップルジュース(香料無添加)に表2の濃度のヌートカトンル溶液(エタノール希釈液)を表2の濃度で添加し、5名のよく訓練されたパネラーにより評価した。その平均的な評価結果を表2に示す。
【0033】
【表2】
【0034】
表2に示した通り、アップルジュースに適当量のヌートカトンを添加することにより、無添加のアップルジュースと比べ、リンゴの呈味感、硬くシャリシャリとした果肉感、味の広がりやフレーバーの持続性が付与または増強できた。
【0035】
実施例3:リンゴ風味香料への添加検討
リンゴ風味香料として、下記表3に示した成分からなる調合香料(参考品1)を調製した。
【0036】
【表3】
【0037】
表3のリンゴ風味香料(参考品1)に、表4に示した量のエタノール、シネンサール溶液(95%エタノールに2ppm希釈した溶液)、ヌートカトン溶液(95%エタノールに2ppm希釈した溶液)を添加し、比較品および本発明品のリンゴ風味香料を調製した。
【0038】
【表4】
【0039】
表4の、本発明品および比較品のリンゴ風味香料を使用し、表5の配合割合にてリンゴ風味飲料(リンゴ果汁30%)を調製した。これらの飲料について、10名の専門パネラーにより以下の評価基準で官能評価を行った。評価基準:もっとも良いを10点、もっとも悪いを0点、普通を5点とした11段階評価を1点刻みで採点し、官能的な特徴を記載させた。専門パネラーの10名の評価点の平均と平均的な官能評価を表6に示す。
【0040】
【表5】
【0041】
【表6】
【0042】
表6に示した通り、香料無添加のリンゴ風味飲料は、リンゴの香気どころか果実の香気がほとんど感じられず、評価も低かったが、比較品1のリンゴ風味香料を添加した飲料は、トップに果実様の香気が強く感じられ無添加と比べはるかに評価が良好であった。しかしながら、リンゴらしさがやや乏しく、いかなる種類の果実であるかをやや特定しにくいような果実香気であり、また、持続性に欠けるという評価であった。それに対し本発明品のリンゴ風味香料を添加したリンゴ風味飲料は、いずれも、トップにリンゴらしい果実香気が感じられ、持続性があるという、良好な評価であった。また、シネンサールを添加した本発明品1は甘く蜜様の果肉感が感じられ、ヌートカトンを添加した本発明品5はリンゴをかじった時のような硬くシャリシャリとした果肉感があり、この2つの香料化合物を適当な割合添加した本発明品2〜4は、その配合割合に応じ、甘く蜜様の果肉感、リンゴをかじった時のような硬くシャリシャリとした果肉感が適度なバランスで良好に感じられた。また、本発明品3では、特に、ジューシーなリンゴの果肉感のある香気が感じられ、全体的に香気が底上げされたイメージが良好に感じられた。
【0043】
実施例4:ハードキャンディ(リンゴ風味)
ハードキャンディ用原料の配合処方を表7に示す。これらの原材料のうち、香料以外の原材料を混合し、120℃で煮詰め、飴地を冷やして100℃以下になった時点で、リンゴ風味香料(本発明品3または比較品1)を添加、混合し、ハードキャンディ(リンゴ風味)を調製した。
【0044】
【表7】
【0045】
得られたハードキャンディは、10名の専門パネラーにより官能評価を行った。
【0046】
その結果、専門パネラー10名全員が、比較品1を添加したハードキャンディと比較して本発明品3を添加したハードキャンディはリンゴ風味が増強されており、トップにリンゴらしい果実香気が感じられ、甘く蜜様の果肉感およびリンゴをかじった時のような硬くシャリシャリとした感じがあり、かつ、持続性があるという、良好な評価をした。
【0047】
実施例5:各種製品への添加
リンゴ風味香料(本発明品3または比較品1)を使用して、リンゴ果実入りヨーグルト(リンゴ風味香料0.1%添加)、ヨーグルト飲料(リンゴ風味香料0.1%添加)、ゼリー(リンゴ風味香料0.1%添加)およびデザートタイプのヨーグルト(リンゴ風味香料0.1%添加)を調製した。
【0048】
得られたリンゴ果実入りヨーグルト、ヨーグルト飲料、ゼリーおよびデザートタイプのヨーグルトについて10名の専門パネラーによる官能評価を行った。その結果、専門パネラー10名全員が、比較品1を添加した製品と比較して本発明品3を添加した各種製品はリンゴ風味が増強されており、トップにリンゴらしい果実香気が感じられ、甘く蜜様の果肉感およびリンゴをかじった時のような硬くシャリシャリとした果肉感があり、かつ、持続性があるという、良好な評価をした。